メイン複数SS

「会長。生徒会通信のコメントは出来上がりましたか?」

「まだ」

腑抜けた会長の頭に、生徒会日誌が勢いよく叩きつけられる。あぁ、貴重な脳細胞がたくさんお亡くなりになったでしょう。南無。

「ア〜ン〜タ〜は〜ぁ……どうしていつもいつもそうなのよッ!?」

「うごぉぉぉ……いやだって、まだ〆切2日前だぞ?〆切に間に合えばいいだろ?」

確かに至極最もな意見です。でもその口上って、守らない人がよく使うんですよね。

「そう言って間に合わなかったものがいくつあるか、アンタ数えたことある!?」

「いや、ないけど」

間髪入れず再び一閃。せんぱ……会長の身が心配です。主に脳の。

「ただでさえ来年度へ向けての企画で忙しいってのに、こんなことで手を煩わせないでよねッ!あぁもう、なんでアンタが会長なのよ!」

「俺だってやりたくなかったってば。文句なら推薦人と投票者に言ってくれ」

会長の恨みがましい視線を感じます。

けれど文句は私じゃなく、目の前で説教してる人にしてください……とは言えないので、舌をぺろっと出して謝るマネをしておきます。

「つーか絶対にポストおかしいってば。こんな役、俺じゃなくて青がやるべきだろ」

表面上ではノーリアクション、でも心の中ではそれなりに反対。見回すと、他のみんなもおんなじみたい。

「決まっちゃったものはしょうがないの。ったく、アンタがもうちょっとしっかりしてくれたら私もラクなのに……」

「副会長、貴女が一人で背負い込むことなんてない。会長の補佐なら私に任せておけばいいわ」

ぴきっ——そんな擬音が聞こえたのは、幻聴じゃない。たぶん。

それからの流れはいつもどおり。1%の役割意識と99%の乙女心から成る、役員同士のぶつかり合い。

仕事を放り投げて意地を張り合う副会長たちを横目に、私は黙々とエクセルでプリントを作成する。

『会長:色無 副会長:青色 書記:空色、緑色 会計:黒色、白色 庶務:水色 顧問:群青先生』

大丈夫そうに見えて大丈夫じゃないこの面々。

さてさて、これからどうなることでしょう。うまくやっていけるのかが心配です。

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 生徒会発足から一週間。

 この一週間で私は、議題そっちのけで紛糾する会議があることを思い知らされました。

 しかもその会議は長がいないときだけ激しく加熱します。ていうかこれ、もはや会議じゃないですよね。

「だから私は副会長として——!(だから私が色無の面倒見るの!ほっといてよね!)」

「会長を補佐するのは役員全ての責務であり——(そんな得な役回り、アンタだけにさせるもんですか)」

 私には裏の台詞が聞こえています。ちなみに私も副会長はズルいと思うので、こっそり黒さんを応援中です。

「そそ、空ちゃん、こんな感じでどうかな……?」

「ん?」

 いがみあってる人たちとは正反対の優しい声。振り向くと、水色ちゃんが何かの写真を渡してきました。

「どれどれ……うわぁ! すごいすごい、これ綺麗に撮れてる! これ水色ちゃんが撮ったの!?」

「撮ったのは俺だよ」

 水色ちゃんの後ろにはいつの間にやら、デジカメを手にした会長がいました。どうやら一緒に行っていたみたいです。

「どうだ、綺麗に撮れてるだろ?」

「んー。花がこれだけ綺麗なら、どんなヘタっぴでも綺麗に撮れるんじゃないですかー?」

 ねぇ水色ちゃん、と話を振ったら、真っ赤になっちゃいました。褒められるのは苦手のようです。

「まぁ確かにそうだよなぁ。さすが水色、すごいすごい」

 しかもそこに会長が頭なでなでという追い討ちをかけるから大変。トマト並みに真っ赤になっちゃいました。むぅ。

「こっちはこっちで頑張ってたんですよ、会長。ほら、あとはそこにこの写真をはめれば完成です」

「おぉ! すごいな空、これなら全校生徒に配っても大丈夫だろ! うん、えらいえらい」

 はふー……これがあるから仕事を頑張れます。ゆくゆくはもっといいことしてくれたら、と考えなくもないのは内緒です。

「ところでさぁ、アイツらまたケンカ? あーもう、どうすりゃいいんだか……どうすればいいと思う? 空」

「そうですねー。とりあえず、ふたりの頭をなでてあげればいいんじゃないですか?」

「は?」

その後。おとなしくなったお姉ちゃんの赤い顔と、されるがままの黒さんの笑顔が印象的でした。


「アンタはどうしていっつもそうなの!?」

名前とは対照的な色をした顔で、おね……副会長が会長に詰め寄っています。

しかし詰め寄られている会長も負けてはいません。キッと、強い目を向けています。

「だから、俺にはこんなカンペなんて必要ないってば。思ったことをそのまましゃべりたいんだから」

会長はブレザーのポケットから、一枚の紙切れを取り出しました。

そこには一切の余白もないほどに——でも、決して読みにくさを感じさせない文字が敷き詰められていました。

これを話にすれば、おそらく10分は越えるでしょう。週に一度の全校朝礼、校長の後にある生徒会長からのお話。

そこに10分……想像すると、ちょっとげんなりします。それに副会長のお話となると、主にお説教ばかりで。

なんて考えている間にも言い争いは続行中、しかもヒートアップしてきています。そろそろ止めないと——。

「だいたいね、アンタの話じゃ会長らしい威厳が保てないの!なに!?あのいかにもめんどくさそうで、やる気のない話は!?」~「——ぁ」

止めに入るタイミングが、一歩、遅かった。

それは——それは言いすぎだよお姉ちゃん! そう嗜めるよりも早く、会長の手が激しく机を叩きました。

「「ッ!」」

「……ッ」

今まで見たどれよりも怖い顔で、喉まで出かかった何かを堪えて、会長はその場から無言で立ち去りました。

生徒会室に残されたのは、副会長と書記の二人、ではなく。

一方的に相手を傷つけた姉と、仲裁に入る機を逸した妹という、役員失格の姉妹でした。


「生徒会長を辞任したい?」

確認の意味を込めて聞こえた言葉を反芻すると、若き会長ははっきりと頷いて見せた。

目を見る限り、そこに冗談らしい色は少しも浮かんでいない。そもそも、こんな性質の悪い冗談を言う子ではないのだけど。

「それじゃあ聞くけど、なにがあったの?」

「……仲間の信頼を得られない俺に、トップなんてできません。それだけです」

苦虫を噛み潰すような顔で、色無くんは吐き捨てた。その瞳に浮かんでいるのは、苦悩の色。

「誰かとケンカしたのね。副会長かしら?」

「はい」

潔い返事に一呼吸置いて、彼は事情とその心の内を明かしてくれた。

「——我が従妹ながら、なんて不器用なんだか」

才色兼備と謳われながら、それを活かせていない哀れな従妹に頭を抱える。

「群青先生?」

「あぁ、ごめんね。えっと——色無くん」

不思議そうな彼の方へと向き直り、教師らしく諭すような口調で語る。

「あの子は貴方を信じてないんじゃなくて、貴方の役に立とうと必死なの。動機の全てがソレなのよ」

「アイツが?アイツが、俺の役に?」

「ええ。それを踏まえた上で、今までのことを全部思い返してみて。それでも、貴方の答えが変わらないというのなら」

そこであえて言葉を切る。これ以上は言う必要がないし、それに——。

「……俺、考えてみます」

「わかった。しっかりね、我らが会長さん」

——この子なら、その先を辿ることはないはずだから。


本気で殴ってやろうと思った。

自分のことばっかりで、先輩のことなんか何も考えちゃいないこのバカを、本気で殴ってやろうと思った。

でも、その想いも鑑みてあげると、それはちょっとやりすぎかなぁと思ったので。

ばちーん!! と、呆然としていたおねぇのほっぺを、8割くらいの力で引っ叩いてやった。

「おねぇちゃんは、先輩をどうしたかったの?」

「わ……私は、ただ、ただ」

「ただ?」

「……アイツのために、私は、ただ……」

「でもさっきのおねえちゃんは、会長らしさのために先輩を傷つけました」

「……」

「あのね、頑張ってる先輩をを支えるのがおねぇちゃんなんだよ?先輩を頑張らせるのは、他ならぬ先輩だけ。私たちじゃないよ」

「空……」

「だいたい私たちが頑張らせなきゃいけないような人だったら、会長なんてポストを任せないよ。そうでしょ?」

「ぁ……ぅ、うん」

「だからね、おねぇちゃんも覚えよう?あれこれと手を出さずに、信じて応援するってことを」

「うん……」

「よっし、それならまずは謝りに行く!そうしない限り、ここどころかおうちにだって入れてあげないからね!」

「空……ふふっ。怖い妹だわ。それは困るし、早いところ済ませちゃうわね。 ——ありがとう」

「よく出来た姉には、よく出来た妹が必要だからね。 ——行ってらっしゃい、おねぇちゃん」

「……お説教なんてガラじゃないのに。勢いでやっちゃったけど、説教じゃなくて先輩を慰めればよかったかも」

「不器用な姉の恋を応援する健気な妹……その実態は、ちょっと賢い泥棒ネコかしらね?」

「うわひゃぁ!?みみ、緑さんいいいたんですかぁ!?  ……でも、その泥棒って飾りは余計ですにゃー」

「あぁ、そうね。貴女も色無が好きでどうしようもないんだったわね。 まったく、姉妹揃って不器用なんだから」

「ぅ……ほ、ほっといてくださいっ」


ケンカという名の雨が降れど、遅かれ早かれ地は固まるものでして。

わざわざその顛末を書いてあげるほど、私はお人よしじゃないんです。

男「そそ、空ぁーッ!空はどこだぁーッ!!」

青「空!それに緑ッ!どこなの!?出てこないとひどいわよッ!?」

空「ふーんだ。妹の幸せを横取りしておいて、ただで済むと思わないでよねー」

緑「幸せを取られたのは貴女だけじゃない。ここにいるみんながそうだもの。 まぁ、これは私たち流のお祝いってことにしておきましょう」

白「みんな賑やかで楽しそうだねー。ここからよく見えるよー」

黒「それにしても、書記の優秀さには参ったわ。特にこの写真なんて……」

水「あ、あの、実はそれ、私が……」

白「えーっ!?それ、水色ちゃんが撮ったの!?」

水「う、うん……色無くんにコツを教えてもらってから、花を撮るのが趣味になって……それで、えっと」

黒「なるほど。それでこの光景を見て思わずシャッター切ったと。良識を弁えればいいカメラマンになれるかもね、水色」

水「くく、黒さん……あぅ」

群「それにしてもホントがんばったわねー、この号外。どこぞの新聞並みに立派じゃない」

空「そうですか?えへへー、ありがとうございます先生」

群「容認していいものかどうかは別だけど、ね。 でもこれくらいやってあげれば、あの子たちも吹っ切れるでしょ」

緑「惜しむらくはこれがキスシーンじゃないってことかしら。まぁ、校内配信ならこの程度がちょうどいいか……」

空「あのふたりにしてはこれでもがんばった方ですって。これで十分信じられないですもん、私」

白「でもいいなぁ、こういうの。憧れるよねー」

黒「……そうね」

既存の新聞を真似て作った縦書きA3の生徒会通信・号外。

そこには手を繋いで肩を寄せ合う一枚の写真が大きく飾られていました。

まだまだ私たちの活動は続いていくのですけれど、最初に抱いていた不安はもう、少しだってありません。

ますます盛り上がっていくであろう我らが生徒会、それに会長たちの応援も、どうぞよろしくお願いします。  生徒会一同 文責:空







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 12:22:14