侍黒メインSS

引っ越しをすることになった。

「ここら辺も片付けなさいよ」

わかってる。頼むからベットの辺りには近付かないで貰いたい。そこには男のプライドが詰まっているんだ。

虚ろな眼差しを送ると母は悟ったように引いてくれた。そして……

「なんだ?やけに古い鉛筆だな」

「あら?これ私のお婆ちゃんが使ってたのよ」

なんと!つまりひいお婆ちゃんが使っていた代物らしい!

「ふぅーん」

俺はそれを何気無く放ったつもりだった。

3ヶ月後

『そっちはどう?ちゃんと食べてる?』

「食ってる食ってる。大学も何とかやれてるしだしバイトも順調」

『そう、なら心配ないわね。じゃあ、元気でね。』

引っ越しといってもいなくなるのは俺だけ。大学に行くためだ。

部屋は月5万のアパート。広くもなく狭くもなく。一人でいるには非常に落ち着く空間だ。

ころ……

「あれ?この鉛筆……」

ひいお婆ちゃんの鉛筆だ。引っ越す前はあまり関心がなかったがこれは色鉛筆のようだ。実際書いてみると線が濃く、消ゴムでも消えにくい。

「年期もんだ。大事にとっておくか」

そう呟くと俺はテレビの上に色褪せた黒の色鉛筆を置いた。

「寝るか」

午後11時、明日は早い。

朝6時になると同時に目指し時計が目を覚ます。朝飯をつくらないと。

「おはようございます、我が主」

夢か。

「何故寝るのです主!朝食を作ったんですよ!起きてください!」

ユサユサユサユサ

揺れてる。地震か?……。

「なら逃げなきゃ!」

「何を言っておっしゃる!地震なんて起こってません!」

「なんだ……なら……良くない?」

冷静に考えてみろ。見知らぬ女が部屋にいるのだ。しかし、着物に日本刀の大小を携え髪はポニーテール。

まるで侍

「ヲい!」

「早く朝食を食べてくだされ!冷めてしまいますよ!」

いきなりで状況が読めない。

「早くしてくだされ!時間がなくなります!」

時間がないのはわかっている。俺はありがたくご飯を頂くことにした。

だがわからない!なんで女がいる!なんで侍がいる!なんで飯を作ってるんだ!

状況がうまく飲み込めないまま大学へ向かうはめになった。

「どうした?なんか挙動不審だぞ?」

友人に言われて初めて気付いた。どうやら俺はキャンパスの車道を歩いていたらしい。

命に関わる重大なことに俺は気付かないでいたのだ。

「どうした?いつも狐みたいに狡猾なお前がよそ見す」

酷い言われようだが実際そんな人間だからしょうがない。

「朝起きたら目の前に女侍がいたらどうする?」

すると友達は近くの電話ボックスに入り電話帳を見せ付けてきた。

『ゆんゆん病院 精神科~』

とりあえず一発殴る。

意を決して玄関を開ける。焦るな、きっと疲れてたんだ。

大丈夫、しっかりとカウンセリングも受けてきた。治療費の2600円はキツイが心理的には完全なはずだ。

ガチャ

「ただいまー」

「おかえりなさいませ」

おかしい。おかしいぞ?今の俺はパーフェクトなはずだ。特に精神面は。

「ささ、あった食材を使い夕食を作りました。冷めぬ内に食べてください」

受け入れよう。

素性がわからない以上どう接すればいいかわからない。別に物を盗ろうとしているわけでもなさそうだし

この雰囲気なら聞けるはずだ。

「誰なの?」

「誰とは……某の事にございますか?」

「それ以外に誰がいる」

呆れた奴だ。しかし料理の腕は立つようだ。味噌汁も旨いし米もツヤがよく見える。

「とりあえず名前だ。名前をどうにかしてくれ。名前がわからなければ呼びようがない」

「はて、某の名をしらないとはおかしな事を?某の名は黒ではありませんか?」

『黒』 彼女はそう名乗った。

「聞いた覚えはないんですけど?あとごちそうさま」

「お粗末様です。あと風呂も沸いております。早々にお入りくださりませ」

彼女はそういうと俺の食器を片付け始めた。

この時俺はまだテレビの上に置いた色鉛筆がなくなったことに気付かなかった。

謎の女に言われるがまま風呂に入っていた俺に更に試練が待っていた。

「主様、お背中を流しましょう」

「うおおい!」

こう見えて俺はまだ女の前に全裸を晒したことは一度もない。某こんな形で体験するとは。

「いいっていいって!自分でできるから!」

「そうはいきません。主の背中を流すのは家臣としては当然の役目。某の仕事でございます」

家臣だの主だの時代に沿わないことを言う奴だ。仕方なく背中を流させる。しかし人に流してもらうのは

初めてだがこんなに気持ちいいものだと思わなかった。

「とりあえずありがとう」

「それが某の役目でありますから」

こいつをすっかり信用しきった俺は安心して眠ることにした。

だが深夜に尿意をもようしたのでトイレに行こうとした時見てしまった。

黒が俺の部屋の扉の横に立って宙を仰いでるのだ。しかし、一目見て理由はわかった。

「たっ、立ちながら寝てる!」

俺の声に反応したのかはわからないが黒は目を覚ました。

「ハッ!い、今のところ怪しいものはおりません!」

自分が一番怪しい者だということがわかってないようだがそこは言わないでおく。

「厠ですか?なら某もお供します」

2m先の扉にお供はいらないんだが。

「てか今まで部屋の前で何してたの?」

「怪しい者がうろつかぬよう警護をしておりました」

「成程。でもうちに入ってくる奴なんていないだろ。金なんてないし」

「そうはいきません!もし暴漢が侵入してきたらどうするのです。主様に死なれては某も死んでも死にきれませぬ!」

熱烈なアピールだがそこまで石橋を叩いて渡る必要はないじゃないか。

「自分の身は自分で守るからいいって!」

「そうはいきませぬ。主様の命は私の命そのもの。死なすわけには」

この押し問答が30分近く続いた。

結論として同じ部屋でなることになった。俺はベットで黒は床で。

夏物の毛布しかないが今は耐えてもらうしかない。

明日は休みなので少しぐらい寝坊できるかと思ったが黒は厳しかった。

「主様、起きてください。朝食の準備が出来ましたよ」

朝6時、いつも大学に行く時間とかわらない。

そして気付いた。部屋が掃除してある。これはこれで感謝しないとならないな。

テレビをつけてまた更に気付いた。ひいお婆ちゃんの色鉛筆がない。

「黒、ここにあった色鉛筆はどこにやった?」

「何をいいますか?某ではありませんか」

何をいいますかはこっちの台詞だ。しかしそれより俺は次の台詞の驚きに今の台詞を忘れてしまった。

「しかしすごいですなぁ。箱の中で人が動いておるなんて」

「もしや……」

そう、テレビの事だった。今じゃ小学生でわかることすら黒はわかっていなかった。

こいつは本当に何者なんだ。

「さぁ早く食べてください」

今日は買い物に行かなければならなければならないが少し、いや、かなり違ってた。

「むぅ……」

「そんな常に構えてなくていいから」

「いえ、主様に何かあってからでは遅いのです!未然に防ぐことが大事なんです!」

学校でもそんな台詞を聞いた気がする。

ショッピングセンターに着きかごを持った瞬間かごが俺の手から消えた。

「主様に労働をさせるわけにはいきませぬ!某がお持ちします!」

そこまでは良かった。

「ぐぐぐ……」

「重いなら俺が持つよ?」

「だ、大丈夫……」

どう見ても重そうだ。周りの視線もあるが女に辛い思いをさせるのは好きではない。

どうにかしてかごを奪わないと。……そうだ!

「やっぱかごは俺が持つ」

「それは某の」

「いいか、家臣を守るのは主の役目だ。そして俺を守るのは黒の役目だ。腕が塞がってちゃ刀が握れないだろ?」

「そうですか……」

ようやく理解したようだ。単純な脳味噌で良かった。

買った食材を袋に詰め終わり帰ろうとした時だった。

「黒、帰るぞ。……黒?」

辺りを見回すと黒が掲示板の所に立っている。何を見ているのかわからなかったが凄く甘い表情をしていた。

「黒、何を見ているんだ?」

「ひぃっ!申し訳ありませぬ!ちょっと目がこちらに行ってしまって……!」

その掲示板には仔猫や子犬の飼い主を募集をしている張り紙があり黒はそれを見ていたらしい。

そうか、これを見ていたのか。こいつには3回だけど飯作ってもらったし部屋の掃除もしてもらった。

まぁ、少しぐらいの礼はいいだろう。

「おい、ちょっと着いてこい」

「ニャー」「キャンキャン!」

「はぅ!」

眺めることしかできないが俺は黒をペットショップに連れてきた。予想通り黒は犬猫を見て悶えていた。

ガラス越しに指をちょんちょん動かし犬をからかっている。

見ているこっちも何故か和んできた。

「ほれ、ほれ」

犬は黒の指の動きに合わせて飛び付く。

「よし、帰るぞ」

「えっ……!」

「また今度一緒に来ような。約束だ」

「……はいっ!」

アパートに帰る途中だった。

土手に咲いてる花を見つけた黒は駆け寄り摘み始める。

「某ごときが口出しするわけでもありませぬがあの部屋には色が足りません。なのでその……」

意外だ。女の子らしい部分もあるじゃないか。

「そうだな。花瓶も買って行くか」

「はいっ!」

その日の夕食は相当手の込んだ料理になった。

その日の夜。

「うわあっ!あぅう!」

寝ていた俺は黒の悲鳴で目を覚ました。トイレからだ!

「どうした黒ッ!」

暗いトイレの中で蹲ったいた黒が俺に抱きついて泣いている。

黒は泣きじゃくる一方で一体何があったのかわからない。

一先ず黒に毛布をかけ泣き止むまで肩を抱いていた。数分後落ち着いたらしく口を開いてくれた。

「申し訳ありませぬ。厠で用をたし終えた瞬間明かりが急に消えて動揺してしまいました」

「電球切れたんだな。でも動揺って感じじゃなかった気はするんだが」

「某は、ここにくるまで暗くて狭い所におりました。多分その影響だと」

一体こいつは今までどこに幽閉されていたんだ。だけど今はそれどころじゃない。

俺の中で黒はいつの間にか大きな存在になっていた。

「落ち着いたなら布団に戻ろ?」

よたよたと歩く黒に肩を貸し布団に寝かし付ける。

ベットに戻った俺は黒が寝息を立てるまで見つめていた。

「おはようございます」

「おはよう」

あの日から丁度一週間がたち黒との生活も慣れてきた。今日俺は黒をデートに誘おうと思っている。

「黒、今日は暇か?」

「暇も何も某はいつも主様の警護」

「そうだろうけどさ」

「だから某はいつも」

「今日お前の事をデートに誘いたいんだけど」

「……でーと?」

どんだけだし。

俺はうまく黒の趣味が掴めないため黒の嫌いな場所の反対をいくことにした。

つまり明るくて広い場所。そこに行くには電車に乗らなければならない。

「これは……!」

「まさか電車に乗ったこともないの?」

そのまさかだった。

「大丈夫なんですよね!?」

「大丈夫だって事故ったりしないと思うから多分」

最初は不安そうにしていた彼女も慣れてくれば安全な物だとわかってくれた。

「凄い……速いですな」

「次の駅で降りるから準備しとけよ」

「綺麗ですね」

そこには満開の桜が咲いていた。風が吹くと風に乗り花びらが舞う。

それと同時に風になびく黒の髪の毛が綺麗だった。

「黒、どうだ?」

「某のためにこのような所へ……感激の極みにございます」

「そんなに固くなるな。もう、お前と俺の仲じゃないか?」

何を想像したかみるみる黒の顔が紅くなっていく。

「そ、某と主様は家臣と君主の関係であってそのような」

「なぁ」

思った事を話そう。

「俺は黒がどこからきたかわからないし聞く気もない。だけど俺にここまで尽してくれて凄い感謝している」

「某は某のやるべき」

「最後まで聞いてくれ。だから俺にも黒の事を守らせて欲しい。主としてじゃない。男としてだ」

「……ありがとうございます!」

彼女の笑顔は美しかったがどことなく泣いている様な気もした。

満開に咲いた花もいつしか枯れる。彼女はそれを知っていた。

数日たった頃。

「ゴホッ、主様今から夕しょゴホッホッ!」

「おいおい大丈夫か?今日の飯は俺が作るから休め」

黒が咳をするなんて珍しい。しかし毎日早起きして遅く寝ていたら体調も崩すだろう。

顔が紅くなってる黒をしりめに料理を作りはじめる。

ドサッ

「どうした?」

振り向くと倒れている黒がいた。息が荒く、汗がたくさんでている。

「黒!黒ッ!」

「う……んっ……」

「目が覚めたか」

黒の着物を脱がし俺のシャツを着せ汗を拭いたが黒が目覚めたのはその2時間後だった。

「申し訳……ございませぬ……」

「お粥作ったから食べてくれ」

スプーンでお粥をすくい黒の口に運ぶと黒は力無くそれを食べてくれた。

「おいしいでケホッ」

「無理するな」

「ありがとうございます」

トロンとした目で俺を見つめる黒。

「泣いているのか?」

「えっ……あっこれはあくびであります!」

「眠いなら早く寝たほうがいい」

そういうと俺は黒の額の汗を拭き部屋を後にした。

「……ぇて……大変……わせで……ござぃました」

黒が何かを言ったようだが聞き取ることができなかった。

「黒ぉ!どこにいるんだ!」

朝、ベットから降りて布団を見てみると黒がいなくなり、布団には俺のシャツだけが残っていた。

あいつあんな体でどこに行ったんだ!

「黒……」

どこにいるかわからないがめぼしい所に行くしかない……。

ペットショップか?花を摘んだ土手か?電車か?桜を見た公園か?

「全部当たるしかないかも……!」

俺は走ってペットショップに向かった。

「ちくしょう……はぁ……どこにいんだ……はぁ……」

後は桜を見た公園だけだ。行くしかない。

しかし現実は甘くなかった。力尽きて倒れ込む。

「なんでいないんだよ!どこいんだよ!黒おぉー!!」

コロン……

「これって……」

急で昨夜黒が着ていたシャツを着たせいか、胸ポケットに何か入っていたなんて気付かなかった。

「ひいお婆ちゃんの色鉛筆……」

パッと見ではわかるわけがない。色鉛筆はほんの3cmほどの長さになっていたのだから。

その時、黒が部屋を掃除してくれた時の黒の台詞が頭をよぎった。

『何をいいますか?某ではありませんか。』

まさか、これが黒なのか。

「黒!黒なのか!返事をしろ!」

ただの色鉛筆が答えるわけがない。

「主の俺が言ってるんだ!少しは返事しろ!」

虚しく俺の声だけがこだまする。

いきなり吹いた風が俺が黒に告白したときとダブり、俺はただ泣くしかなかった。

あれから何日たったかわからない。朝起きたら黒がいるんじゃないか?大学から帰ったら黒がいるんじゃないか?

そう思いながら日々をただ淡々と過していた。

朝6時、適当に食パンを焼き適当にバターを塗り適当に食って適当に大学へ向かい適当に帰ってくる。

やることなすこと全てに『ハリ』がなくなった。コンビニの飯をテーブルに置いた瞬間黒が摘んできた花が視界に入る。

「黒……」

何を思ったか俺は小さくなった黒の色鉛筆と紙を取り出す。

「何やってんだか俺は」

紙に向かい黒への手紙を書き始めるから我ながらわからない。

小さくなった色鉛筆はバトエンのキャップを使って持ちやすくする。

「元気にしてますか、と」

書いてゆくなかでいろんなことが頭をよぎる。

黒がいきなり俺の部屋にいたこと、犬を見たこと、黒の作ったご飯を食べたこと、一緒に夜寝たこと、桜の下で黒に約束したこと

書いていくうち色鉛筆が短くなっていく。俺はクーピーについている小さい鉛筆削りで削った。

「まだまだ、書ける書ける」

鉛筆が小さくなりキャップを使っても書けない様な状態になったから指でつまんでまた書き始める。

いつのまにか涙やら鼻水やら垂れ流して手紙を書いていた。なんでこんなことになったんだ?

黒がいないから?黒と別れたから?黒に出会ったから?もしはじめから黒に出会わなければ、黒にさえ会わな

『会えて大変幸せでございました。』

そうだ、あの時黒はそう言ったんだ。あいつは自分がいなくなることを知りつつ俺の前に出てきた。

そして黒は身を削りながら俺に尽してくれた。それなのに俺はそれを否定しようとしている。駄目だ。それだけはやっちゃ駄目だ。

気が付くと鉛筆はもう1cmもなかった。カッターで削り中の芯だけにする。

「頼む、もう少しだけ……」

黒に言いたかったことを書き綴る。黒の飯がうまかったことや黒の笑顔が可愛いこと、黒の手が柔らかいこととか

黒が立って寝てるのが面白かったこと。そして、俺は黒の事が大好きなことを。

芯はもう2mmぐらいしかない。

「お願いだ……消えないで……消えないでくれ……」

黒、あなたは俺に会えて幸せでしたか?いつも世話ばっかりかけて最低な主だったと思います。

しかし、あなたと暮らせた日々は自分にとって輝かしい日々でした。俺は黒と出会えて本当に——






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Last-modified: 2012-10-21 (日) 11:24:42