侍黒メインSS

侍「……お主信じるか?」

男「顔色悪いがどうした?」

侍「……幽霊。湯浴み場の向かいの川に架かった橋に出るってあれだ」

男「迷信じゃないの」

侍「……黄金色殿の用心棒の帰りにな」

男「……『見た』、とか言わんよな?」

侍「帰りその……橋の前を通ったら……いた」

男「……興味本意で聞くがどんなのだ?」

侍「女だ。顔面は蒼白、死装束を着ていた」

男「流石のお前でも幽霊には敵わなかったか」

侍「無理……あれは流石に」

男「実害は?」

侍「ただ見ただけだからなぁ。今のところ祟りなぞそういうのは……」

男「なら良かった」

侍「後味の悪さが異常なのだが」

男「ほら、飯の最中だ。冷めちまうぞ?」

翌日

男「おはよう。……どうした?」

侍「うぅん。どうも寝心地が今一つでな」

男「寝違えたか?」

侍「なんだろうな」

侍「なんか肩が重いなぁ」

犬「グルルル……!ワォンワォン!」

侍「ひゃあ!ってどこの犬だ!」

無「この犬は朱色さんの紅丸だな。引きが強くて散歩も一苦労だ」

侍「色無ぃ、久し振りではないか。傷の調子はどうだ?」

無「お陰様で。そっちも元気かい?」

侍「なんか朝から肩が怠くてな。いい按摩知らないか?」

無「それより侍黒、さっきから紅丸が鳴きやまねぇんだが。何かうまいもん持ってんじゃねぇのか?」

侍「あったら食ってる」

無「だよな。旦那はどうよ?」

侍「元気過ぎて迷惑なぐらいだ」

無「とか言って夜は(ペチン)あイター!」

朱「ったくいつまで油売ってると思ったら。帰るよ」

侍「待て、目まいが……。(フラッ~パタン)」

朱「侍?ありゃ熱にやられたか?」

無「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!早く医者に見せないと!」

朱「だって白は去年……」

無「白……。向うで立派な医者になってりゃいいなぁ」

朱「あれから一年ぐらい経つかな……」

無「こんど、御墓に行きましょう。白の好きだったおはぎ持って」

朱「そうだねぃ」

無「 そ れ で !早く侍黒運びましょう!」

黄緑「命に別状はないみたいだけど。原因がわからないから」

朱「うつったりはしないよな?」

黄緑「侍ちゃんの様子を見る限りただ眠ってるだけだから多分……」

男「ありがとう黄緑さん、旦那」

朱「私はどうしたよ?」

桃「(ガラッ)朱色さーん、お客さん帰ったよー」

朱「わかった。片付けるから待ってろ。じゃ、侍黒が起きるまではいていいから」

男「悪いね朱色さん」

無「しかし原因はなんなんだ?」

侍「う、うーん……」

男「お、姫が目覚めたか。どうだ調子は?」

侍「……。(ボソ)この体の旦那か」

男「はい?」

侍「色無さん?色無さんはいないかしら?」

無「どうした?」

侍「(ギュ)んー。久しぶりー。大きくなったね」

無「うぉ、おい!」

男(フラッ~パタン)

侍「私よ。忘れたとは言わせないわよ?」

無「お前は侍黒!そこの倒れてる男の妻だぞ!」

侍「これでも?(ギュゥウウウウ)」

無「いてててててて!参った!降参!降参!」

侍「わかった?」

無「……まさか紺色さん?」

侍「あったりぃ」

無「でも紺色さんは……」

男「じゃあ聞くぞ?この畳の剥した下にあったこの箱に見覚えは?」

侍「ないわよそんなの」

男「中には小判が10両ほどあるんだが」

侍「ふーん」

男「俺のへそくりを見ても何も言わないとは……」

侍「だから私は紺色。15年前破傷風で死んだの。ねー色無さん」

無「そんな明るく言われても」

男「つまり幽霊?」

侍「そうね」

無「何で侍黒に憑いたの?」

侍「体が一番適してたからかな。あと精神力弱かったから」

男「その基準はおかしい」

侍「(キリキリキリ)こういうところがよかったかな」

無「痛い痛い痛い痛い!」

男「なら黄緑さんでも良かったじゃない?」

侍「黄緑ちゃんだと逆に支配されそうだから」

無「それでどうする今晩?」

男「何が?」

侍「私今日色無さんの長屋に泊まるから」

男「駄目駄目駄目駄目!そんなことしたら腹斬る!斬ってやる!」

侍「でも侍黒ちゃんはいいって言ってるよ?」

男「……喋れるの?」

侍「そうだね。頭の中で軽く」

男「あいつがいいって言ったんだな?」

無「男からは許しを得たけど、なんだかなぁ」

侍「人は見た目にあらず。ね、色無さん」

無「あのさ、本当に悪いんだけどもう一度聞いていい?」

侍「どうぞ?」

無「本当に、紺色さん……なの?」

侍「……色無さん。足の傷のこと言えば、思い出す、かな?」

無「ッ!」

侍「色無さんが6才の頃だね。毬をついて遊んでいたらふとした弾みで転っちゃって、それを取りに行こうとしたら

  うっかり溝に足を滑らせて溝の縁でスネをもろに打った。でしょ?」

無「本当に、紺色さんなんだ……!」

侍「信じてくれた?」

無「ああ!」

侍「もう、すっかり大きくなっちゃって。(ナデナデ)」

無「あ……!紺色さん……俺……!」

侍「何泣きそうな顔してるんだ。そんな顔したらいい男が台無しだぞ?」

無「ぐずっ、ごめん……!」

侍「ほら、早く色無さんの長屋行こう」

男「もう一杯」

黄緑「薄黄ちゃーん。お酒持って来てー。あと男さん、飲み過ぎじゃないですか?」

男「呑まなきゃいけねぇ時もある……!」

黄緑「色無さんのこと、信頼してませんね?」

男「いや、してる。だからこそ怖いんだ」

侍「色無さん、前はあんなに小さかったのに私の背追い越しちゃた」

無「まぁ体が侍黒のだからな」

侍「そういえば、みんな元気?」

無「……」

侍「何かあったみたいね」

侍「そんなことがあったの!」

無「だから俺、みんなにどんな顔していいかわからなくて……」

侍「(ギュ)色無は、いや、みんな悪くないよ」

無「紺色さん……。……うっ、っあ……」

侍「うんうん。辛かったね。頑張ったね」

紺(これぐらいはいいよね?)

侍(まぁ……これぐらいなら。)

無「んっ……。……」

侍「色無さん?……寝ちゃった。もう子供ね」

トントントントン クツクツ

無「……ふぁ。……紺色さん」

侍「あら、おはようございます。今御飯作っているから。ちょっと待ってて」

無「ありがとう」

侍「ねぇ、色無さん?今日暇してる?」

無「大体いつも暇だよ」

侍「今日、みんなに会いたいな」

黒「私のことからかってんじゃないよね?返答しだいじゃ貴方でも許さないわよ色無」

侍「やっぱり信じてくれないか……。なら。(コソコソ)」

黒「……嘘!……確かに紺色さんね。信じられない」

侍「ね?」

侍「やっぱり誰も信じてくれないかぁ」

無「紺色さんの体の持ち主は普段素行が悪いからしょうがないよ」

侍「あ、右手が!(シャキ)」

無「うわ!危な!」

侍「中で『無礼な!』って言っているよ」

赤「あ!色無だ!」

無「赤!信濃から帰ってきたのか!」

赤「疲れたよー」

侍「赤ちゃんも大変ね〜。どう久し振りに腕相撲しない?」

赤「侍ちゃん?」

無「あぁ赤これはな(カクカクシカジカ)でな」

赤「へぇ。そうなんだ」

侍「信じてくれるの?」

赤「まぁね」

侍「よーし!みんな来たから黄緑さんの飯処で食べよー!」

男「……」

黄緑「みんなーおかわりあるからねー」

無「何も検証せずにへそくりなんてばらしたお前が悪いよ」

男「その鰤俺にもよこせ!」

侍「『某に黙ってた罰だ』だってさ」

青「みんな揃うなんて久し振りだもんね」

黄「白と水以外ね……」

全員「……(空気嫁よ。)」

男「と、とりあえず今日は俺がおごるからさ、みんな食ってよ。ははは」

赤「向こう行ってもそんなにここと変わらないよ」

青「そうなの?有名なな川だから寺子屋の子達にも見せてあげたかったわ」

赤「あの川はこの前の大雨ではん濫してグチャグチャだったよ。だから帰る日も少し遅くなったんだ」

無「大変だな。こっちはそんなんでもなかったけど」

侍「……」

侍(急に黙ってどうしたのだ?)

紺(……なんでもない。)

無「紺色さん?どうしたの?」

侍「あ?いや、ちょっと用事思い出しちゃった」

無「用事?俺も行こうか?」

侍「大それたものじゃないよ。体の持ち主の仕事」

男「そういえば今日玉虫色さんの警護じゃん!そろそろ夕刻だぞ!しかも中身が……!」

侍「中身は大丈夫だから心配しないで」

玉虫「いつもすまないね。こうも物騒だと夜歩くのも辛いよ」

侍「いえいえ、それが私の生業ですから」

何か人相の良くない人「そこの翁……。手にしてる物を置いていって貰おうか?」

玉虫「さ、侍黒殿!」

侍「こういう仕事か。どれ玉虫色さん、刀、ちょっと預かってもらいますよ」

玉虫「侍黒殿!刀がないと……!」

侍「楽勝ですよこんなの」

緑「君の話は役にたつな。もう少し聞かせてもらえるかな?」

赤「それでね、その帰りに山のふもと歩いたんだよ。そしたら村が流されかけてみんな一生懸命治してたよ」

緑「ふむ」

赤「でもね、近くにある墓地は流されちゃったんだ。確か湯浴み場の前の川に繋っていたと思う」

緑「え?」

赤「どうしたの?僕、なんかまずいこと言ったかなぁ……?」

男「そこってもしかして……」

無「可能性大だよな。赤、それはいつ見たんだ?」

赤「うーん、十日ぐらい前かな」

男「橋に幽霊が出るって噂がたったのは一週間前。紺色さんが侍に憑いたのは一昨日」

無「紺色さんが橋に出てきた原因って……」

侍「ざっとこんなもんかしら?」

玉虫「素手でこんな……!鬼じゃ……!」

侍「まぁ、それに近いかな?」

無「あのさ、紺色さん」

侍「(トントントントン)なぁに?色無さん」

無「もしかしたらの話なんだけどさ」

侍「言ってみてよ」

無「紺色さんの御墓ってさ、10日前に流された村にあったんでしょ」

侍「……」

無「明日、立て直しに行こ」

侍「やめて!……お願いだから」

無「なんで!紺色さんの御墓だよ!」

侍「……お願い!」

侍(ははぁん?わかったぞ紺色殿?墓を立て直したら某の体、いや、この世から居なくなってしまうというあれだな?)

侍「うるさい!(ビタン)」

侍(痛ったー!!)

侍「今の私達の感覚は繋っているんだからね!」

侍(あうあう。ひどいのですぅ)

無「紺色さん?中の侍黒に話してるのはわかるけどできれば表で自分殴らないでね?キ○ガイに思われるから」

侍「ご、ごめんね。……御墓は、もういいの」

無「紺色さんがそこまでいうなら」

侍(こらぁ!それでは某がいつまでもこのままであろう!)

紺(……大丈夫よ)

侍(何故言い切れる?)

紺(みんな気付いている。明日にでもみんな治しにいくわ。……ねぇ)

侍(なんだ?)

紺(本当に貴女に憑いた理由、知りたい?)

侍(……教えてもらおう)

紺(頼みを聞いてくれるならね)

侍「ごめんね色無さん。毎回無茶言って」

無「昔からそうだよ。柿取らせに無理矢理木に登らせたり褌一丁で鮎取らせに行かせたり」

侍「ははは、そんなのもあったね」

無「蜂に刺されるは風邪ひくわで大変だったんだよ」

侍「……ねぇ。腕組んでも……いいかな?」

無「……ん〜〜〜〜まぁいいか。はい。(キュ)」

侍「優しいな。やっぱり」

無「ついたよ」

侍「ここが白の御墓かぁ。綺麗じゃない」

無「時々水が来て掃除してくれるんだ。わざわざ十里も離れたところからね」

侍「みんなそのことは……」

無「知ってるよ。それに尼寺から戻ってきてほしいと思ってる」

侍「でもそれは水ちゃんが決めることだから」

無「みんなは水のことを咎めてなんかいないのに……」

侍「……よし。白ちゃんに水ちゃんが戻ってくるようにお祈りしようか」

無「そうですね」

侍「って言っても私も幽霊なんだよね。ハッハッハッ」

侍「……暗くなってきたね」

無「足下、気をつけて」

侍「虫の声、綺麗……」

無「静かですね」

侍「色無さん……」

無「はい」

侍「天国とか地獄って……あるのかな?」

無「地獄はない」

侍「うわキッパリ」

無「死ねばみんな平等だよ」

侍「悪い事した人でも?」

無「うん」

侍「沢山人殺したり酷い事したとしても?」

無「そうじゃなきゃ死ぬ意味がない」

侍「……ありがとう。(ギュ)」

無「どどど、どうしたの!」

侍「……ちょっとこっちきて」

無「この川って……」

侍「あのみんなが住んでいる城下に続いている川」

無「なんで……?」

侍「今日黄緑ちゃん達が私の御墓、治したみたい」

無「紺色さん、まさか……!」

侍「もう、時間みたい。体も返してあげなきゃ」

無「い、いいじゃないですか体は?侍黒と共有していれば……!」

侍「だーめ。この娘は旦那さんだっているんだから」

無「行っちゃだめだ!紺色さんは早く死にすぎた!その分こっちにも長くいる権利があるはずだよ!」

侍「……たったの数日間だったけど楽しかったなぁ。ね?」

無「ここにいればそれがまだ続けることが」侍「甘えないで!」

無「(ビクッ)」

侍「……男の子でしょ?私を送る時ぐらい笑ってよ?」

無「(ゴシゴシ)……あぁそうだ。ははっ、これぐらいでいいですか?」

侍「上等よ。……ありがとう」

無「(トクトクトク)……ふぅ」

黄「色無呑みす」

黄緑「黄色ちゃん。放っておきましょ」

黄「うん……」

無「……」

侍『それでね色無さん、最後の、ほんっっっとうに最後のお願いがあるの?聞いてくれる』

無『俺にできることであればなんでも聞くよ』

侍『……あのね、色無さんはもう気付いているよね?みんな、色無さんのこと……』

無『……んん、まぁ』

侍『早く選んで欲しいな。みんな待ってるよ。きっと』

無『そうかなぁ』

侍『時間だっていつまでもあるわけじゃないのよ?後から決めて、残った人達はどうなるの?』

無『……』

無「ごめん、紺色さん。俺には……選べない(ボソ)」

黄「あ!黄緑さん!雨降ってきたよ!」

黄緑「変ねぇ。空は晴れているのに?」

黄「早く暖簾下げるの手伝って!」

黄緑「色無さん、雨降ってきたわよ?」

無「……本当にごめん」

黄緑「?」

侍「ただいまー」

男「おかえりー」

侍「……気持ち悪!」

男「い、いきなり何だよ!帰ってきて早々それかい!」

侍「普段のお主なら『寂しかったー!』とか『契ろうー!』とか助平なことばかり言うではないか」

男「そ、そんなんだったか?」

侍「……何か隠しておろう?」

男「……何かな?かな?」

侍「……はよう出せい」

男「……。(ゴソゴソ)はい」

侍「こんな阿呆な本買いおって。しかもこの印、緑の書いたものではないか!」

男「安くしてくれるっていったからつい……」

侍「お主という輩は……。そんなのではいつまでたってもこ……」

男「こ?」

侍「こ、こここここ、ここ、ここここ……!」

男「塩持ってくるからまってろ。まだ紺色さん憑いてるみたいだ」

侍「やめんか!ったく」

男「じゃあ何言おうとしてたのさ?」

侍「それは……言えるか馬鹿者!」

紺『体、貸してくれてありがとう。後ね、侍ちゃん』

侍『はっ』

紺『いい旦那さんもできたんだからあんな危ない仕事辞めて。子供の一人二人作りなさい。わかった?お姉さんとの約束よ?』

侍『えーそれは……!』

紺『 約 束 よ?』

侍『いやー、えー……はぁい』

侍「紺色殿が某に憑いた理由を色無な話せと言われてな」

男「ほうほうそれで?」

侍「紺色殿曰く色無を想う者に憑いたらその者の手助けになってしまう、らしい」

男「傍迷惑なこっちゃ。紺色さんらしいけどな」

侍「……抱き締めてくれんか?」

男「……はい。(ギュ)」

侍「ふぅ……。やはり、こっちの方が落ち着く」

男「お疲れ様。……あ」

侍「どうし……貴様……!」

男「だっ、だってほら、侍ちゃん4日もいなかったわけだし僕も男の子なわけで(グキ)あ!首!首が!」

侍「(チュ)これで許せ」

男「許せるかぁ!(ギュゥ)」

侍「な!のわぁぁぁぁぁぁ!」

紺「大分歩いたわね……。この道、どこまで続くのかしら」

 「どうしました?道に迷われましたか?」

紺「いや、まず目的地がわからなくて……」

 「ならどうです?私と一緒にここで見ていません?楽しいですよ」

紺「見るって何を?」

 「宝物、ですよ」

紺「宝物……私には……」

 「あるじゃないですか?私達二人だけの……」

紺「二人だけ?」

 「見てください。わかるはずですよ」

紺「あ……」

 「わかりました?」

紺「







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 11:25:15