スクールデイズ

『クリスマス 黒×白』

こんにちは、白です。

今日はクリスマス。聖夜、ってやつです。私にとっては初めての……大切な人がいるクリスマスなのです。

午後くらいにも、私の恋人、……なんか恥ずかしいですね。それはともかく、黒くんと一緒に今日の買い出しとかはしてきました。飲み物とかですけど。

ですが、6時ぐらいに私の家に来る、ということで一旦別れていました。

多分黒くんのお父さんやお母さんも来るでしょう。うちと黒くんの家は家族みんなで仲がいいのです。

現在、4時50分。あと約一時間です。……さっき別れたばかりなのに、今すぐにでも会いたい。一時間という時間を、とても長く感じます。……最近はこんな気持ちになるのがしょっちゅうなので困ります。

……早く来ないかなあ。さっきから時計やケータイとにらめっこしていますが、なかなか変わってはくれません。

ふと、おいてある黒くんへのクリスマスプレゼントに目が行きました。喜んでくれるかな?喜んでくれるといいな。期待と、ちょっとの不安が交じります。

きっと黒くんは、絶対表面上では喜んでくれるでしょう。黒くんは優しいから。でも、できれば心の底から喜んでほしいな。なんたって、2人で過ごす初めてのクリスマスなんだもん。

「こんばんわ。お邪魔します」

ホントに長い約一時間を経て、ようやく待ちわびた人が来てくれたようです。あんまり嬉しくて、走って玄関まで行ってしまいました。

「く、黒くん!」

玄関ではお母さんと黒くんが軽くおしゃべりをしていました。

「おう白」

……さっきまでも会っていたはずなのに、随分と久しぶりな気がします。黒くんの顔を見ると余計に嬉しくなってきました。

「お邪魔します。今晩はよろしくね〜」

後ろから黒くんのお母さんとお父さんが来ました。おばさんは、料理を差し入れてくれるみたいです。むしろ最初から半分ずつ作る予定だったのかもしれませんが。とにかく、クリスマスパーティーです。

それじゃあ部屋に行ってるね、と大人たちに声をかけて、私は黒くんと一緒に2階の部屋に行きました。

……お父さん、「おうあとは若いもんでやれや」は投げやりというか、ありきたりというか、って感じだよ……。

「けっこう久しぶりだな、おじさんたちと話すの」

黒くんがしみじみと話します。そういえば私も黒くんの親と話すのは久しぶりです。

「あはは、あんまり家に遊びに行かなくなったからね」

「まあ、俺たちも高校生だからな」

うん、私たちも高校生なんだ。……小さい頃は、高校生って大人に見えたのに、私は全然だなあ。

「サンタさんも来なくなっちゃったしね」

そういえばいつからなくなったっけ?確か中学生くらいだったかな。

「だな。……白、改めまして、メリークリスマス」

妙に改まった顔して、そんなことを言った黒くんが少しおかしかった。ちょっと笑いながら、私も返します。

「メリークリスマス、黒くん」

とは言っても、やることは飲み物を飲みながらおしゃべりをするわけなんですが。でも、楽しいからいいじゃないですか。

「白、俺一応、クリスマスプレゼント持ってきたんだけど」

突然、黒くんがそう言うと持っていた包みを差し出しました。……けっこう黒くん、唐突なところがあるんですよね。

「ホント!?嬉しい!」

でも、唐突だからこそ嬉しい。私はそれこそサンタさんが来てくれた朝のような気分でした。

「まあ……開けてみてくれ。気に入らなかったら悪い」

少し黒くんは緊張してるみたいでした。私は子供みたいに包みを開けます。

「可愛い……」

プレゼントは可愛らしい猫のぬいぐるみでした。クリスマス仕様らしく、サンタ帽子を被っていました。

私の好みのど真ん中でした。

「可愛いよ!黒くん、ありがとう!!」

黒くんはほっとしたようで、そして照れ臭そうな顔をしました。

……次は私の番ですよね。

「私もプレゼントあるんだ」

しまっていたものを黒くんに渡します。

「あんまり期待しないでね?」

だんだん、不安のほうが強くなってきました。

「何言ってるんだよ。開けていいかな?」

「う、うん」

ドキドキしながら、黒くんの顔と手を交互に見ています。

「マフラーだ。いいな、欲しかったんだ。ありがとう」

黒くんは笑いながらそう言いました。喜んでくれた、その嬉しさの反面、私は少し複雑でした。

「……どうしたんだ白?」

しまった。気付かれてしまいました。黒くんはホントに鋭くて、たまに困ってしまいます。

「な、なんでもないよっ!」

必死にカバーしたつもりでしたが、無駄でした。

「隠すなよ。なんかあったのか?」

……黒くんは真剣に私のことを心配してくれています。……ずるいですよね。もう、言わないわけにはいかないじゃないですか。~「……えへへ、ホントはね、マフラー、手作りの予定だったの。でも、どうしても上手くできなくて……買っちゃったの。だから、ちょっと……悔しくて」

私、頑張ってみたんです。でも慣れない編み物はどうにも形になってくれませんでした。できたものは、とてもあげられるようなものではありませんでした。

それって女の子としてダメだよなあ……って落ち込みかけたその時、私は急に暖かいものに包まれました。

「……悪い。ありがとな、白。……大好きだ」

黒くんが、私を抱き締めているんです!つまり私はッ!!?

「え、あ!?」

わけがわからず、変な声が出てしまいました。でも顔が赤くなっているのはよくわかりました。

「ホントありがとう。苦労かけたんだな。サンキューな」

あ、褒めてくれてたんだ。……私、失敗したのにな。黒くん、優しすぎるよ。

黒くんの腕の中は、とてもあったかかった。胸に頭を寄せると、黒くんの心臓がドキドキしているのがわかりました。……私とおんなじだ。

「黒くん……ありがと。……私も、大好き」

きゅっ、と黒くんの服を掴みました。

少しすると、ちょっとずつそれが離れ、私と黒くんは対面しました。

そしてまた、少しずつ少しずつ、距離が縮まっていきます。

「白……」

「黒くん……」

お互いの想いが声として漏れてくるようでした。

彼の吐息を感じました。マフラーよりもあったかい彼の想いが全部伝わってくるみたいでした。

君と私と。

プレゼントと想いと。

あったかさと、……この幸せな感触と。

聖夜の奇跡は、私たちにも祝福を与えてくれました。


『クリスマス 赤×青』

クリスマス。恋人たちにとって大切なイベントとなるこの日、つい最近青という彼女ができた赤はもちろん、ムードたっぷりでデートの準備を……していなかった。

クリスマスといっても部活は普通に行われる。そして部活に行ってしまえば、赤の考えることは走ることだけだし、さらにはいつものように、遅くまで自主練をこなすのであった。

「ふぃ〜疲れた〜」

しっかり練習メニューを終え、もはや今日が何の日なのかも覚えていない赤は、きわめて普通に帰路につこうとしていた。

「……バッカじゃないの?」

今日はクリスマスなのだ。……ああ、確かに弓道部だって今日も練習があった。それにしたってわざわざ今日もあの自主練をすることはないじゃないか。自分はデート気分で一緒に帰ろうと思い、待っているのに。

そんなことを考えながら、青は溜め息をついた。……寒いなぁ。

でも、彼女は決して陸上場には向かわなかった。

「ホント……バカ」

そう、こんな、今日がいつなのかも、自分が待っていることも知らないで、必死に陸上に向き合っている彼のことが、彼女は好きなのだ。

二度目のバカ、は自分に向かう。……なんで、待つことを全然嫌だと感じないんだろう?

「あ、青!?」

待ち人、来たる。

「待ってたのか?」

まさにいつも通りの反応を見せる赤。青は溜め息を大きく吐いてから呆れたように言う。

「アンタね……今日、何月何日だと思ってんのよ」

「ん?えっとだな……あ……」

冷静なれば思い出す。途端に赤の顔が申し訳なさそうなものに変わる。

「わりぃ、今日クリスマスなんだよな。気ぃきかなくてごめん」

その顔を見て、青の表情はだんだんと柔らかいものになっていく。

「わかればいいのよ。……アンタだって、一生懸命練習をしてただけなんだから、怒りはしないわ」

まだ少し拗ねたような言い方なのは彼女の性格だろう。赤もそれをよく知っている。

「わり。……ありがとな」

だからこそ、感謝をする。自分がしてることを理解してもらっているんだ。

「な、何お礼なんて言ってるのよ!早く行こ!?」

あんまり真っすぐに礼を言う赤に照れてしまう。わかりきった照れ隠しで歩を進めようとする青。赤は素直についていく。

ようやく、2人のクリスマスが始まる。

「おー、なんかそれっぽいな」

「でしょ?」

ただ帰るんじゃなくて、街のクリスマスイルミネーションがあるところを通ろうと青が言いだした。

遠回りにはなるが、なるほど鮮やかに彩られた街並みは、幻想的に人々を包んでいた。

「クリスマスなんだなー」

「今更何言ってんのよ」

「いや、なんか、すげー今それを実感してる」

イルミネーションに見入っている赤を楽しそうに見つめながら、青は呟いた。

「制服なのがちょっとアレだけどね」

そう、彼らは学校帰りなので今は制服なのだ。

「なんでよ?」

「せっかくのクリスマスだし、可愛い服とか着て、そっその、デート……とか、したかったな、って……」

青は自分で言って照れているが、赤はキョトン顔。

「服とか関係ねーだろ。青は何着たって可愛いし」

「えっ!?あっ、ええ!?」

赤の不意打ちに青は顔を真っ赤に染めている。赤も自分が何を言ったか反芻し、少し頬を染めた。

彼らだけではなく、街はクリスマスだ。周りの恋人たちが手を繋ぎ、楽しそうに歩いているのが2人の目にも写る。

「……」~「……」

少しの沈黙。しかし、赤が意を決したように青の手をとった。

「っ!?」

「……っへへ」

青は顔を上げ、赤は彼女に照れながら笑いかける。

手を繋ぐと、世界が変わった。

手袋越しのはずなのに、互いの暖かさを感じているようだった。隣に愛しい人がいるんだと掌が、指の先が主張していた。

手を繋いでからは、2人は照れっぱなしだった。言葉少なな会話をしては、どちらかが照れ笑いを返した。そして、短いクリスマスデートは終わりに近づいていた。

「そろそろ家だろ?」

「……うん」

もう少しで終わってしまう。寂しさは、隠せなかった。

「あ、あのさ、私、プレゼントあるんだ」

「えっ、マジ?」

青が突然そう言って、鞄の中からあるものを取り出した。

「あの、変じゃ、ないかな?」

マフラーだった。灰色を基調にしたそれは、暖かそうに編み込まれていた。

「もしかして……手作り?」

「う、うん……。大丈夫?おかしいところとかない?」

「ねえよ。……すげえな。ありがと、青。一生大事にする」

赤の目は真剣だ。

「お、大袈裟よ。大したことないもの」

「どこがだよ。頑張ってくれたんだろ?大切にするよ」

大好きな、真っすぐな瞳。青は嬉しそうにはにかんだ。

「ありがとう」

すると次は赤が鞄の中身を探り出した。

「次は俺だよな、っと。……どこやったっけなー?」

その台詞に青が驚く。

「赤、プレゼントあるの!?」

今日をクリスマスだと忘れている男がプレゼントだって?まったく期待していなかった分、驚きは一層である。

「おう、もちろん。……お、あった」

赤が鞄から少しだけ皺ができた、ラッピングされた小さな袋を取り出した。

「金あんまりなくてさ、すごいものとか、買えなかったんだけどさ」

「……ううん。すごく嬉しい。開けていい?」

ああ、と言われ、青はきれいにその袋を開けた。

「ストラップだ」

クリスマス仕様のそのストラップは雪だるまが優しく微笑んでいた。

「……へへ。あのさ、コレ」

赤はおずおずと自分のケータイを青に差し出した。その先には、今贈ったものと同じく雪だるまが笑っていた。

「……バーカ」

今日3度目のバカは、嬉しさからのもの。笑みを抑えきれない。

「バカとはなんだバカとは」

赤も笑いながら応える。

「ありがとう。……大切にするね」

雪だるまと同じ微笑みを、青が浮かべた。

「うん。頼む」

それは赤も同じ。

辺りはもう、だいぶ冷え込んできた。——そろそろ、別れなきゃいけない。

寂しいけど、寂しくなかった。今はもう、同じ気持ちで繋がってる。

「そろそろだな」

「うん」

2人が浮かべるのは笑顔。きっと、今日は最高のクリスマスだったから。

「なぁ青」

「何?」

「メリークリスマス」

笑顔で言う。今日はさよならなんて言わない。

青も笑った。そして、少し背伸びをして

「メリークリスマス」

そう呟くと、赤の頬に口付けた。

落ちてきた雪のように一瞬、しかしその感触は暖かい。

青は顔を真っ赤にしながら微笑んだ。

「うん、メリークリスマス」

もう一度そう言うと、走っていった。

「……」

残された赤は、頬を押さえ、ただ立ち尽くしていた。

「バーカ」

4度目のバカを、幸せを噛み締めながら、聖夜の空に向かって彼女は呟いた。


『クリスマス 橙×黄』

「クリスマス、っつってもねえ……」

ぶつくさとぼやく、少年が一人。

ったく、と毒づくのももう何度目か。

(……あいつらは、楽しく過ごしてんのかね。……バカか、俺は)

自分で勝手に想像して、勝手に落ち込んでいるのだから救えない。

コンコンっ

窓を叩く音が聞こえる。橙は、誰だ、とめんどくさそうに立ち上がるが、こんなことをするのは一人しかいない。

「お前な……」

「暇だから来ました。何か問題でも?」

平然と、屋根をつたってこの部屋にやってくる幼なじみが一人。

「とりあえず寒いからお邪魔しまーす、っと」

格好も部屋着のまま、これが自分の部屋だというような慣れっぷりを発揮する黄色。

橙も特に咎めず、しかし軽く溜め息をついた。

「……クリスマスに暇、って寂しいヤツ」

「橙もじゃん」

「俺はクラスのやつらからカラオケ誘われたけど断っただけだ」

「残念、私もですよ」

「何で」

「……そんな気分じゃなかった。橙は?」

「同じく」

会話が一息つくと、黄色はごそごそと何かを漁り始めた。

「何してんの?」

「ゲームしようと思って」

「プレ2出てんだろ」

「うんにゃ、スーファミっすよ」

「何やんだよ?」

「カービィ。スパデラ」

「一人でやる気かよっ!!」

「むー」

「むー、じゃねえ。お前人んち来て何するつもりだったんだよ」

「カービィ」

「わかったっつーの」

「仕方ないなぁ。じゃあ、アレだ、反射神経のやつやろ?」

「スパデラからは離れないのな。……俺はアレ強いぞ?」

「ふふん、黄色サマの一秒間に16回ボタンを押すテクニックの前に跪くがいい!」

「関係ないだろソレ」

「見たかコラ、2連勝」

「……今から本気出すんだし。見てなさいよー」

……シャキーン☆

「れ、02……」

「しゃっ!やればできる子なんですよ、私は」

「……正直、勘だろ」

「ご名答」

「だろうね」

「飽きた」

「だいぶわがままだな」

「次はボンバーマン行こうか!」

「はいはい」

「ぎゃーッ!ハメ技は卑怯だー!」

「うっせえ。勝手に挟まれただけじゃねえか」

「そうとも言う」

「お前弱すぎ」

「失礼な……事実だけどさ。手加減とかしてよ」

「やだ」

「鬼ー」

「……もうやだ。ぷよぷよやろ」

「いい加減にしろ」

「むー。……あー、もうクリスマス終わるね」

「ああ、もうこんな時間か。……何してんだ俺たち」

聖夜にしたのはスーファミでゲーム。ロマンチックの欠片もない。

「まあ、楽しかったからいいじゃん」

目の前の少女は楽しそうに笑う。

「だな」

たぶんクラスメートと行くカラオケよりは楽しめただろう。橙もやはり楽しそうな顔を浮かべる。

「それとも、ロマンチックなことしてみる?」

「……誰と」

「ん」

「……。……パス」

「……。……ですよね」

地味な間。黄色の表情には若干『やっちまった』という感じが出ている。

一応、この二人も高校生の男女なのである。

「……あはは、じゃあ、どうせだしクリスマスっぽくしようよ」

「何すんだよ?」

すると黄色はすっと手を出した。

「メリークリスマス」

橙は少し、差し出された手を見て

「なぜクリスマスで握手?」

「ハグはちょっとアレだから」

「……そうかい」

橙も手を出し、黄色の手を握った。

「メリークリスマス」

「ちょ、橙、痛っ、強く握りすぎっ!」

「あ、悪い。わざと」

「おいっ!」

最後までロマンチックとは無縁の2人。クリスマスが終わる頃、黄色も自分の部屋に戻っていった。

「何考えてんだ俺……。……アイツと……バカか、俺は」

「やっちゃった……わざわざ橙の部屋であんなこと言わなくても……あーもうバカ……。……ハグしとけばよかったかな」


『それぞれの初詣』

青「ねえ赤、何お祈りしたの?」

赤「ん? インハイ出場&日本一」

青「さすがね……頑張って。応援してる」

赤「おう、さんきゅ。で、青は?」

青「進路達成」

赤「まっじめー」

青「しかたないでしょ。由々しき問題よ」

赤「……俺はスポーツ推薦取れればいいな」

青「取れなかったら大変よね、特にアンタは」

赤「その通りです……青」

青「何?」

赤「俺、欲張りだからよ、もう一つお願いしたんだ」

青「え?」

赤「『ずっと青と一緒にいられますように』って」

青「え、ええ!?」

赤「切実だからよ」

青「……バカ」

赤「否定はしません」

青「……私も」

赤「え?」

青「私も、同じことお祈りした」

赤「……青」

青「何?」

赤「大好き」

青「……私もだよ」

 

黒「白、迎えに来たぞ」

白「おはよう! 黒くん」

黒「おはよう。白、振袖着たんだな」

白「お母さんが張り切っちゃって……変じゃないかな?」

黒「そんなことない。似合うし、可愛い」

白「そ、そうかな……? ありがと」

黒「どういたしまして。じゃあ、行こうか」

白「うん」

白「ごめんね。初詣って夜に行ったほうが楽しいんでしょ?」

黒「謝るなよ。お前がいない初詣なんて楽しくもなんともない。白がいるから楽しいんだ」

白「……ありがとう」

黒「こちらこそ。……今年もよろしくな」

白「うん。……黒くん」

黒「ん?」

白「手、繋ご?」

黒「ああ」

 

橙「……結局初詣までお前と一緒に来ちまったな」

黄「こんな可愛い女の子と初詣なんてめったにできるもんじゃありませんよ! よっ、この幸せもの!」

橙「テンション高っ」

黄「どーせだから楽しく行きましょうよ、楽しく」

橙「楽しくないわけじゃねえけど……黄、お前は振袖とか着ねえの?」

黄「着るのめんどくさいんだもん……もしかして見たかった?」

橙「別に。でもけっこう似合うだろ、お前」

黄「ホント? 嬉しい〜。明日からずっと振袖着ようかなあ」

橙「馬鹿」

黄「ひっどー」

橙「おみくじ、どうだった?」

黄「……小吉」

橙「微妙……リアクション取りづら……」

黄「うるさいなー。橙は?」

橙「中吉」

黄「微妙じゃん」

橙「お前よりいいじゃん」

黄「ちょっとでしょー」

橙「はいはい。甘酒でも飲んでくか?」

黄「私大判焼き食べたい」

橙「おごんねえぞ?」

黄「えー」

黄「『恋愛 今いる人を放すな』って……」
橙「『恋愛 灯台元暗し』って……いや、ないない……」


『赤』

冬休み最終日、なぜか部活が休みだった。顧問兼監督の都合らしいけど、そんなんはどうでもいい。

休み=時間がある=青とデートができる!

この式が頭に浮かんだ瞬間、俺はすでにケータイを手にしていた。最高の冬休み最終日が俺を待ってい

『ごめん。明日は部活入ってるの』

……なかった。そりゃそうか。弓道部は普通に練習があるんだなウワーン。

ふてくされつつ、ヤケになって、ある人物に電話をした。まあ、普通に黒にだが。どうせだから、久しぶりに3人で会おうかと思ったわけだ。……もし黒たちもダメなら明日は一日そこらを走り回るしかないだろうなあ。

『ああ、いいぞ。でも、明日は白いないぞ?』

「は?」

『定期通院だ。特に悪いところはないんだがな』

「男2人かよ。……ま、いいか。んじゃ明日な」

『ああ』

たまには男2人で遊ぶのも悪くないだろう。何にしても、明日は楽しみだ。

男2人も捨てたもんじゃなく、かなり楽しかった。うろうろと遊んだあと、どっかで休憩でもするかとファミレスに寄ろうとしていた時、顔見知りを不意に見つけた。

「おっす、橙」

お洒落でイマドキっぽいけど実は熱い男、橙だ。

「おー赤、と黒か」

やっぱりヤツは俺が持っていないような服を来ていて、なるほど格好よかった。

「男2人?」

「おうよ!」

「すげーな」

「男祭りだぜ。暇ならお前も来るか?」

なんとなくノリで橙も誘ってみた。人数は多いほうが楽しいだろうし。

「暇、って言えば暇だけどよ……やっぱり気ぃ引けんな」

「なんでよ?」

暇なら来れば良いのに。

「てか、俺、お前ら2人の中には入っていけねーし。正直、俺と黒とかほぼ他人じゃねーか」

ああ、そうか。黒もいることを一瞬忘れてた。

「俺は構わないぞ。橙とは話をしてみたいと思っていたんだ」

いきなり黒はそう淡々と述べた。橙は少し驚いたあと、少し悩んでいた。そして結論は

「んじゃ行くか」

ということらしい。うん、本格的に男祭りだ。

「お前ら休み中の課題終わった?」

橙がコーラをすすりながら聞いてきた。ふっ、この質問、去年の俺が聞いたなら逃げ出したくなっただろう。だが、今年は違う!

「もちろん」

「嘘だ!」「ッ!?」

……地味に黒にも信じられない、みたいな目で見られた。

「今の俺には女神サマがついてっから」

ええ、写しただけですけど何か問題でも?

「……なんだよ」「……青さん、甘いな」

うわ、なんか白い目で見られてる。

「黒は?」

「俺も終わった。……俺は自力でやったが」

「俺はもうちょいあるんだよなー。今日やれば終わっけど。ちなみに自力」

……なんか、2人とも最後のほうだけトゲがある言い方なんですけど。

「いいじゃんかよぅ、やんないよりは」

「お前は最初から人に頼るじゃないか」

うっ、おのれ黒、去年の話を持って来やがって。

「こいつ去年、夏休み最終日に真っ白のワークやプリント持って俺の家に来て、『全部写させて』とか言ったんだぞ」

「うわサイテー」

……ちくしょう、こんなところで仲良くなってんじゃねえよ。

「白には写させてやってたじゃん」

せめてもの反撃だ。

「あいつはやれるところはやっていた。授業出てない部分だけ見せてやってたんだ」

「ただの馬鹿のお前とは違うとさ」

……反撃不能。

「そうだ、黒。クリスマスときはサンキューな」

不意に思い出した。

「ああ、気にするな。お互い様だ」

黒は何でもないかのように自分のコーヒーに口を付けた。黒の、ああいうことをさらっとやれるところはすごいと思う。

「どうしたんだ?」

話についてけない橙が突っこんでくる。

「俺さ、女の子にクリスマスプレゼントとか何やっていいかわかんなくて、黒に一緒に選んでもらったんだ」

俺がでっかいサンタの貯金箱を買おうとしたら全力で止められた。よくわからん。

「なんだよ、お前が選んだんじゃねえのかよ」

「赤のセンスじゃ大惨事になる」

黒が真剣に言いやがった。……俺、そんなにセンスねえかな。

「喜んでもらえたか?」

黒の言葉で、あのクリスマスがフラッシュバックする。

「ああ」

どんどん鮮明になってきて、にやけてきてしまうのがわかった。

「青がめっちゃ可愛く笑ってくれてよ……うん、可愛かったなー」

「わかるな。自分があげたもので喜んでくれるとすごい嬉しいよな」

「だろ?なんかこう、抱き締めたくなる感じ?うわ、何言ってんだ俺」

「……俺は抱き締めたけどな」

「んだとぉ!?あーちくしょお、俺も抱き締めとけばよかったかな」

なんとなく盛り上がってしまった。青の話になると熱くなってしまうのはやっぱ惚れてるからなんだろうな。

「……ノロケ大会かよ……」

ぼそっと橙がコーラをすすりながら不満そうに呟くのが聞こえた。

「橙はそーゆーのないのか?お前めっちゃもてんじゃんか」

俺はそういう情報にあんまり詳しくないが、それでも2・3人ぐらいの娘が橙のことを好きだ、という話ぐらいは知っている。俺が知らないだけで彼女がいたっておかしくない。

しかし橙は複雑そうな顔になった。

「……何人に好かれようが、たった一人に好かれなきゃなんの意味もねえ……」

俯きながら発した言葉は聞き取ることができなかったが、聞きなおすことは躊躇われた。

……やっちまったか?そんな気も少ししたが、俺はこの感じを前にも体験してる気がした。……そうだ。

「てか橙って黄色とはなんも関係ねーの?」

こんな噂を女子がしてたっけな。しかも、あの文化祭だ。あのとき黄色が言ってた『大切な人』って、たぶん……。

「それは俺も聞いたことがあるな」

黒も軽く入ってきた。けっこう有名な話なんだろうか?

「クラスでも隣の席だしな。で、どーなのよ?」

その質問には、橙はさっきとはまた違う複雑な顔をしていた。

「あいつは……幼馴染みだよ。ただの」

言葉を選んだ末、橙はそう答えた。

「幼馴染みぃ?」

同じようなことをほざいてたくせにしっかり彼女にしてるヤツがここにもいる気がするんですが。

「ほら黒君、幼馴染みカップルの先輩としてこの少年にアドバイスをやんな」

「なんなんだそのノリは。……まあ、俺のなんかじゃアドバイスに値しないさ」

真面目に受け取りやがった。ノリが悪いな。

「つーかあいつは白みたいな可愛げがない」

橙はそっけなく言うが、俺は普段の黄色を思い出して、

「そうか?けっこう可愛らしいじゃん」

と思ったことを口に出してみる。いつもニコニコしてるクラスのムードメーカーだ。

「よく知ってるわけじゃないが、俺もそう思う」

黒も賛同してくれた。まあ、ただ……

「「(青・白)のほうが可愛いけどな」」

うお被った!

「ノロケ全開じゃねえか……」

さすがに橙がうんざりしだした。ごめんなさい。

「おっし、じゃあ俺の今年の野望は橙と黄色をくっつけることだ!」

飲んでいた烏龍茶を飲み干し、宣言する。

「人のこと心配する前に、お前が青にふられない方法を考えてろ」

うーん、橙はこんな態度を取っているが、まんざらでもないように思えるんだよね。

「任せときな。両立してやるぜい。——じゃあ、そろそろ『第一回ファミレス会議』をお開きにしますか」

「なんで第二回もあるような言い方なんだよ」

橙に冷静に突っこまれた。……あってもいいよね?

「ってことで次はカラオケ!」

「「はああっ!?」」

男祭りはまだまだ続く。

新学期が始まって間もなく、俺は橙が隣のクラスの女子と付き合いだしたという話を聞いた。


『とある午後の話』

とある午後。少女が焦ったようにまわりをキョロキョロしながら教室にやってきた。教室に入っても何かを探しているようだ。

「黄色、何してんの?」

ベランダ掃除をしていた赤が窓越しにその少女に話し掛ける。

「赤君、クソバカ橙のサボリ魔知らない?」

いきりたった様子の黄色に赤は少したじろいだ。

「橙がどーかした?」

「あのバカ、黄緑先生の担当の掃除場所なのにサボってるの。このままじゃ全員アイアンクローに……」

怒ると熊をも殺すという伝家の宝刀を持つ黄緑先生の命令らしい。黄色は青ざめた。

「大変だな」

赤には一度くらった友達がいるが、そいつは今でもトラウマを抱えている。

「ホントよ。赤君、見つけたら教えて」

きびすを返そうとした黄色を赤は呼び止めた。

「なあ黄色」

「何?」

嫌そうな素振りも見せず、黄色は応えた。

「あのさ、橙が、隣のクラスのヤツと付き合ってるの知ってるだろ?」

赤はやや上ずった声で尋ねた。

「……うん。知ってるけど?」

肯定。こんなスポーツ馬鹿の男子が知っていて、女の子が知らないわけはないだろう。

「いいのか?」

彼女の文化祭のときの想いの相手は恐らく……

「……うん」

もう一度、肯定。

「もうあんなヤツどうでもいいよ、なんだかんだ言って、結局ただの女たらしじゃんね」

黄色は笑顔でそう言うが、全然楽しそうじゃない。むしろ……。しかし彼女は続ける。

「私が惹かれたのは、一生懸命なあいつだから。正直、文化祭のあとのあいつなんか目もあてらんない」

赤は、自分を最低だと思った。なんで自分は、目の前の少女にこんな辛そうな表情をさせているんだ?

「そっか」

赤も笑った。せめて笑い話にしてやりたい。

「……ごめん、やっぱ嘘だ」

ふぅ、と黄色は息をついた。

「やっぱりね、私にとってあいつは特別だし、大切だよ。でも……ううん、だから、あいつが幸せならいいの。君にはあのときああ言われたけど、やっぱり私は、あいつが幸せならいいって思えちゃうんだ」

彼女は、笑っていた。綺麗で……切なく。

「じゃあ、あの馬鹿見つけたら黄緑先生のところに大至急って伝えて」

今度は『いつも』の笑顔を浮かべて、彼女は走っていった。

「……だとよ、サボリ魔」

「……」

オレンジ色の髪をした少年が複雑そうな顔をしながらも、寝そべりながら空を見上げていた。


『黄』

「で、どうなのよ、彼女サンとは」

橙の部屋に辞書を借りに行った。当然、屋根経由。そのときに、自然とこんな質問が口から出た。ま、こいつとの関係なら妥当な質問だ。

「うっせーよ、早く帰れ」

これぐらいは想定内の応答。……だけど、最近の橙のこういう言葉には刺がある気がする。なんか、冗談じゃなく言ってる、みたいな……。

「そこんとこどーなの?やることはやっちゃったの?」

めげずにもう一回。

「関係ねーだろ。お前、マジで早く帰れ」

しかし返答は冷たい。……なんだか、悲しくなってきた。

「はいはい、帰ればいーんでしょー?」

でも表情には出さない。最後まで笑顔で、テンションも高めのまま橙の部屋をあとにした。

……馬鹿みたい。部屋で一人になると、そんな言葉が頭をよぎった。一人で必死に笑顔を作って、勝手に寂しくなってる。自分が、ピエロみたいに思えた。あ、そっくりかも。

——遠く、なっちゃったな。前までは橙が何考えてるかとか、次に何を言ってくるかとが大体わかった。でも、今は全然わかんない。なんでなんだろう、女の子と付き合いだしたからかな?

……ダメだや。また、目が潤んできちゃった。諦めたんだよ?それでもいいって思ったんだよ?……情けないよ。

悲しい想いがグルグルと頭の中を巡っていた。それを誤魔化そうと、私は借りてきた辞書も放り出したまま目を閉じた。

夢を、見ました。

うずくまって泣いてる、小さい頃の私。……ちっちゃい頃、泣き虫だったんだよなぁ。

ずっとずっと、一人で泣いている。寂しくて、悲しくて。

そんな私に、キミは笑いかけてくれる。太陽みたいな、明るい笑顔。

キミが『わらって』って手を伸ばすから、私は無理矢理笑ったの。その顔を見て、『すごいかお』ってキミはまた笑いだす。

幼い私は怒りだすけど、結局、なんだか楽しくなって、私も自然に笑ってた。

そんな私に、キミは言うの。

「わらってるきいろのほうが、かわいい」

目が、覚めた。

……もう朝だし。あのまま、寝ちゃったんだ。

なんか、昔の夢見てたのかなあ。今までそんなことなかったのに。

でも昔、橙は私にあんな言葉を言ってくれたっけ。

あれから、私は橙みたいな笑顔でいつでもいよう、って決めたんだ。

……こんなこと、忘れてたなあ。案外忘れてるもんだ。

でも、綺麗な思い出が今は傷をチクチクと刺してくる。

——笑いたいなあ、アイツの隣で。

しかし思い出されたのは昨日の態度。よくわからなくなった、アイツの想い。

私の願いが、また少しづつ遠くなってる気がして、もう一回布団を被りたくなった。


〜橙の部屋と黄色の部屋は屋根で行き来できるんです〜

橙「黄色ー、昨夜貸した辞書返せー」 ガラッ

黄「きゃっ!!?」

橙「……」

黄「……」

橙「……シツレイシマシタ」 ガラッ

橙「……上下黄色」

(登校時)

橙「……あの」

黄「……ノックぐらいしてよ」

橙「……申し訳ない」

黄「見た?ってレベルじゃなかったもん」

橙「……意外とあんのな、お前」

黄「……スケベ」

橙「男なんで」

黄「バカ橙」


『橙』

冬の晴れた空は、いやに澄んでいた。

俺はひたすらにそれを眺め、そしてそれに向かって片手を伸ばしていた。

「ふわぁ……」

まったく、午後の授業は怠くて仕方ない。当然寝てしまう。それもがっつりと。ま、俺だけじゃないし。

ケータイに目をやると、新着メールが数通。とりあえずそれらをチェックする。……授業中は使うな?しらんがな

『今日暇?暇なら遊ぼーぜ』

俺がやってるバンドのメンバーからだった。着信時刻を見るかぎり、コイツだって授業中にケータイいじってたんだろう。頭の中で今日の予定を考えて、その結果遊びにいける確率は低いだろうと理解する。

他のメールを開いて、それは決定した。

『今日はどこ寄る?』

カノジョからだった。

……2人でカラオケなんかして、何が楽しいんだろう?俺は適当に歌ってそれを褒められ、かわりに相手が歌ったあとに褒めていたりした。正直、歌はフツーだった。

そのあとにプリクラ。互いに寄り添ってポーズ。俺はまた適当におちゃらけてた。……てかこの前も撮ったじゃん。

んで適当に手を繋いだりして帰ってきた。……なんか疲れた。気付けばもう早くない時間だった。でもなんとなくコンビニに寄ったりしてみた。

カノジョとはそこで別れた。とりあえず、一緒にいる間は笑顔で対応したぜ?

その後も、そのコンビニで立ち読みとかをした。時刻はそこそこ遅くなっていた。

その時、ポケットに入れたケータイが鳴り始めた。電話だ。相手は赤だった。

「何?」

あんまりやる気のない声で電話に出たが、あっちはそうでもなかった。

『今からこの前のファミレス来れるか?』

赤は唐突に、そう言った。

……結局来ちまった。めんどくさいとも思ったが、足はふらふらと指定の場所に向かっていたのだ。

ゆっくり歩いてきた俺より先に、呼び出した相手は着いていた。

「よ、わりいな」

「おう」

部活帰りだろうが疲れていようが、相手に自分がそうなのだと感じさせないような明るさで赤は声を掛けてきた。とりあえず、中に入ろう。

「で、どーよ最近」

「何が?」

「……カノジョさんとか、よ」

「……別に。ぼちぼち」

「……なんかさ、お前、最近楽しい?」

「は?」

「なんか毎日怠そうだな、と思ってよ」

「何が言いてえんだっつの」

フツーのような、少し何が違うような会話を俺たちはしていた。赤は、よくわからないようなことを聞いてくるし。

「つまり、あれだ……」

そう言いながらも少し赤は口籠もっていた。

「何だよ」

……何だか最近、不機嫌ってカンジの声になってしまうことが多い。今なんかはそうじゃねえのに。

赤は俺に急かされて、言葉を発することを決意したようだった。

「お前さ、カノジョさんのこと、ホントに好きか?」

「は?」

思考が、一瞬止まった。

「何言ってんだ?」

「お前、なんであの娘と付き合ってんの?」

「いいだろ別に。……あっちが付き合ってほしいって言うし、まあ結構可愛かったし」

「ふーん」

しばしの沈黙。ファミレス内が暖かいせいだろうか、背中が汗をかいているのを感じた。

赤は烏龍茶をすすった。……こいつ、烏龍茶ばっかだな。体のことを気にしてるのかもしれない。さすが陸上部。

「……なんかさ、無理してるように見えんのよ」

赤がぽつりとこぼした。

「別にお前がその娘と付き合ってることにいちゃもん付ける気はねーけど、お前がさ、楽しくないんじゃないか、って思ったんだ」

……随分な観察眼だこと。

でもその言葉は、やはりチクリとした。自分のことは自分が一番知っている。

「……ソレを言うために呼んだのかよ」

なのに俺の言い方はどうしても反発的なものになってしまう。

「ああ」

「アッツイね、お前」

……俺ってひねくれ者。

「やっぱ、友達には楽しくしててほしいからな」

そんな俺に、赤は容赦なくまっすぐで、強い瞳を向けてそう言った。

……ホント、凄いよ。

「……そうかよ」

あんまりそれが眩しくて、俺は目を逸らした。

「ま、俺は恋愛とかよくわかんねえんだけどな」

そうやって、この大物は軽く笑った。

「あとさ、確認までに聞いとくけどよ……」

赤の口調は軽かったが、俺はその口から発せられる言葉に嫌な予感を感じた。

「お前、黄色は」

「関係ねえッ!」

……つい大声で遮ってしまった。なんでだよ、みっともねえだろ。

「……そっか」

赤は呟くと、自分の烏龍茶をまたすすりだした。

今度の沈黙は長かった。互いに頼んだものを飲みきったあとも、出方を伺っている感じだ。

「悪かったな、わざわざ」

最初に赤が口を開いた。もう、解散にするつもりのようだ。

「いや……」

そう言いながらも、俺は立ち上がった。俺に合わせ、赤も席を立った。

金はそれぞれで出し、店を出た。冬の夜の風は冷たかった。

「橙」

赤が俺を呼んだ。特に声も出さずそちらを向く。

「なんかあったら、……話ぐらい聞くからよ」

含みがあるような言葉だった。こういうのを赤が使うのは意外だったが、別にそれはそれでよかった。

俺ははぐらかすように、でも少し応えるように、ああ、と言っておいた。

冬の夜の風は本当に冷たかった。

そんな中、いくつもの謝罪の言葉を準備して、メールの作成を開始した。気は重かった。


(黒・白幼少時)

白「くろくん、くろくんのゆめってなに?」

黒「ゆめ?」

白「うん。きょうようちえんのせんせいにきかれたの」

黒「うんとね……うちゅうひこうし!」

白「うちゅうひこうし……かっこいい!」

黒「でしょ!しろちゃんは?」

白「しろはね、きれいなどれすきてね、おっきなけーききってね」

黒「およめさん?」

白「ううん」

黒「ちがうの?」

白「うん。しろのゆめはね、くろくんのおよめさん!」

黒「ぼくの?」

白「うん。だめ?」

黒「ううん。ぼくもしろちゃんとけっこんする!」

白「やったー。じゃあ、ゆびきりしよ?」

黒「うん。やくそくだよ」

(現在)

白「すー……」

黒「……可愛い寝顔してるな。そんな格好で寝ていると風邪ひくぞ、っと」

白「ん……えへへ……」

黒「……何の夢を見てるんだろ?……幸せそうだな。……少しぐらい、見ててもいいだろ」

かつての夢でも、現在の現実でも、カレもカノジョもお互い幸せな、穏やかな昼下がり。


橙と黄色は部屋の片付けをしているようです



「教科書とかプリントとか、使わないのに溜まるんだよね〜」

「うちの物置もとんだカオスだ……ここいらへんに置いとけばいいかな〜」

「ん、お?なんか懐かしげなものはっけーん!なんだろ?」

『おたんじょうびカード  5さいになりました (ピースしてる黄色の写真)

 プロフィール (ry

 しょうらいのゆめ  だいだいのおよめさん』

「……こんな時期が私にもありました」



「片付けの途中のアルバム発見は死亡フラグだよな、っと」 ぺらぺら

「ん?誕生日カード?幼稚園のやつか?」

『おたんじょうびカード 5さいになりました(なんかすましてる橙の写真)

 プロフィール (ry

 しょうらいのゆめ しゃちょうになってかねもちになって、きいろとけっこんしてこどもでさっかーちーむをつくる』

橙「……何してんだ昔の俺……しかも11人て……」


 〜鯛焼き〜

黄「えへへー鯛焼きー」

橙「鯛焼き一つで幸せになれるやつもめずらしいよ」

黄「いいじゃん、おいしいんだし」

橙「そうだけどな」

黄「橙はクリーム?」

橙「ああ。お前はあんこだろ?」

黄「……ギリギリまで悩んだ」

橙「だと思った」

黄「……」

橙「……やらんよ?」

黄「……半分」

橙「やだ」

黄「……交換。半分半分にしよ」

橙「……」

黄「……」

橙「……わかったよ。ほら」

黄「ありがとう!さすが橙!わかってるう!」

橙「はいはい。ほら、行こうぜ」

黄「むぐ、つ、詰まった!」

橙「バカ」


青「はい、お弁当」

赤「わりーな。いただきまーす!」

青「ちょっと、そんながっつかないでよ」

赤「だってうまいんだもん」

青「ほ、褒めても何もでないわよ!」

赤「ホントのこと言っただけだしなー。これがあるから部活ももっと頑張れるってもんだぜ」

青「……私のお弁当で赤が頑張れるなら、私ももっと頑張って作る」

赤「へへ、んなことされたら日本新出すぜ俺」

青「バーカ。……でも楽しみにしてる」

赤「任せろ。だから、これからもお弁当プリーズな」

青「はいはい。……頑張ってね」

赤「ああ」

橙(なんだあの桃色空間を通り越した夫婦空間……)


『呼び方』

黄「たいちゃん、たいちゃん」

橙「……たいちゃんって呼ぶな」

黄「えーなんでー?」

橙「俺の名前は『だいだい』だ!」

黄「いーじゃん」

橙「うるさい!俺は男だぞ!ちゃん、なんてつけるな!はずかしいし、みんなにもバカにされるし!」

黄「えーでもー」

橙「でもじゃない!今度『たいちゃん』って呼んだらぜっこーだからな!」

黄「……」

橙「黄、どうしたの?」

黄「……ッ……ッ」

橙「な、泣いてる!?な、なんで!?」

黄「……ッ、……たいちゃんは、たいちゃんだもん……」

橙「な、泣くなよ、そんなことで……」

黄「だって……」

橙「……わかったよ。俺とお前しかいないときはたいちゃんでもいいから」

黄「ホント?」

橙「うん。だから、泣くな。な?」

黄「うん。……ありがと、たいちゃん」

橙「……できるだけ呼ぶなよ?」

黄「わかった、たいちゃん」

橙「だからあ……」


『橙』

「おはよ!」

聞き慣れた、明るい透きとおった声。声の主なんか顔を見なくてもわかる。

「……うっす」

一方の俺は、朝はそんなにテンションが高くないせいもあるが、軽く返事だけで済ませた。

コイツと俺は、幼馴染みだ。

だからこうやってよく一緒に登校するし、それをおかしいとも思っていなかった。

「相変わらず朝はテンション低いねえ」

黄色はけらけらと笑いながら俺にそう言う。

「……お前の方が異常だ」

なんで朝っぱらからそんなに元気なんだ。

そういうと幼馴染みは、なにぃ、とむくれ、元気なのはいいことでしょ、と声を大にして主張した。

「今日も一日、学校という戦場で戦ってくるんだから、元気じゃないとやっていけないっすよ」

「何をしに行くんだお前は」

俺のいつもながらのツッコミに、コイツは笑顔で応えてくれる。オーバーで、バカっぽくて、……でも楽しいコイツとの通学路。

「……」

「? どしたの、橙?」

「……いや、なんでもない」

その事実が、ほんの少し俺の心をチクリと刺した。

「なー、なんでお前別れたのよ?」

友達との会話の中で、そんな話題になった。……やめてほしいなぁ。

「別にいいだろ」

めんどくさい質問に、投げやりな態度で応答する。

「めっちゃ可愛かったじゃん」

「もったいねーよなー」

……だんだんイラついてきた。俺の勝手だろーが。

「はっ!まさか、ヤr

「ぶち殺すぞ」

バカ話も度を越すと不快なものになる。さすがに俺だってそんなことはしない。

「橙にようやくカノジョができたと思ったのになー」

「つかお前、どんな娘が好きなんだよ?」

「理想がたけーんじゃね?」

こいつらはホンット人のことばっか気にしやがるなあ……。

そう思いつつも、ふと冷静に考えてみる。

「そうだな……キレイなほうが好みだな。髪は長めのほうが好きだし、できればしっかりしたヤツのほうがいいな」

……どう考えても青です。本当に(ry

周りからはやっぱ理想たけーよみたいな声が聞こえてくる。適当に笑って対応しているが、俺の頭の片隅では、今口にした理想像とは全く違う、一人の少女が浮かんでいた。

……違うだろ、俺の好みはキレイ系で、髪は長めで、しっかりした女の子だ。できれば料理とかだって上手い方がいいんだ。違う、絶対オマエは違うんだ———。くだらない話をしながら、俺は、頭の片隅が呼び出した、よく見知った少女のイメージを必死に振り払っていた。

「あ、橙!」

朝と同じような元気な声。後ろからやってきた幼馴染みは俺の背中をばしばしと叩いた。

「おう」

帰りの時間が同じになったらしい。俺に声をかけると黄色は自然と俺の隣にポジションをとる。

「あのさー聞いてよー」

コイツはさもそれが当然であるかのように、世間話を開始した。いつも通りだ。

俺だって自然にコイツとバカ話をする。男子連中と同じことをするにしてもこっちのほうが楽なのは、まあ、長年の付き合いってヤツだからだろう。

その時、すーっと、今日の休み時間のことが浮かんできた。……なんで、コイツが出てきたんだろう。

「あはははっ」

俺との会話で屈託なくコイツは笑う。……あれ、もしかして俺今見惚れた? 
休み時間のこと、そして今のこと。もしかして———俺の頭の中を一つの予感が通り抜けた。

「? どうかした?」

一人でコイツに言えるわけがないことを考えている俺はよほど変な顔をしていたのだろう。黄色が不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。

「ッ?!」

その距離が、今の俺にはとても近く感じて、いつもの黄色の仕草に反応してしまった。

「何びっくりしてるの?」

黄色としてはいつも通りの行動をしているだけなのだから、俺が何故焦っているのか全くわかっていない様子だった。

「へーんなのー」

そう言ってまた彼女はけらけらと笑う。

……無理に抑えようとしたものは、意識することによって余計に膨らんでいく。さっきから、俺は黄色のことばかり見ていた。

———ダメだ。

「……ホントにちょっと変だよ?実は熱があったり?」

黄色は、あくまでもなんの気もなく自然に俺の額を触れようとした。熱を測るつもりだったんだろう。でも、今の俺は、どうしてもその行為に過剰反応してしまそうだった。

———ダメなんだ。

「ッ!」

その判断により、俺は咄嗟に黄色の手を払いのけていた。

黄色の、とても驚いた顔が見える。

「……そ、そんなに拒否んなくてもいいじゃーん」

一瞬戸惑った素振りを見せたが、黄色はすぐに笑顔を作った。

———やめてくれ。頼むから自然に俺に近づかないでくれ、手を振り払った後の切なそうな顔をしないでくれ、そのあとに必死に笑顔でいようとしないでくれ、なによりも、ふざけあったやりとりのなかで俺を心配するような素振りをみせないでくれ———。

「……橙、どうかしたの?」

自分が作り出してしまった空気は、とてつもなく重いものになってしまっていた。

「……うるせえ」

……何を言ってるんだ? 
「……うるさい、ってのはないんじゃない?あたしは……」

さすがに俺の言い方に黄色もむっとしたようだ。少しトゲのある言い方で呟く。「チッ、うぜえ……」

「はあ?」

「だいたいうっとうしいんだよ。高校生にもなっていっつも近づいてきやがって、ガキかっつーの」

……バカか。理性は今すぐにでも言葉を止めろと命令してるのに、なぜか俺の口は止まらなかった。

「……橙、本気で……言ってるの?」

俺の言葉を聞いた黄色は、悲しそうだった。滅多に見せない顔をしている。……たぶん、とても傷ついてるんだ。

それがわかるのに、俺はまだ黄色を傷つけ続けた。

「ああ。正直、めんどいんだよね、毎日お前に付きあわされてると。……あんま、つっかかってこないでほしんだけど」

自分でもびっくりするぐらい、冷たい言い方だった。

「……そっか。……ごめんね」

黄色は俯いていた。それをさせたのは俺なのに、そんな黄色を見るのはとても辛かった。

「じゃあ、俺、用事あっから」

そう誰に言うでもなく呟くと、俺は傷ついた黄色を置き去りに、逆方向に歩き出した。

……俺は実に、最低なヤツだった。

逃げるためにわざわざ黄色と離れたのに、さっきまで彼女のことを傷つけてたくせに、先ほどから考えてるのは彼女のことばかりだった。

彼女の笑顔、仕草、聞き慣れた声、驚いた顔、悲しそうな表情……それらが消えずに俺の中に居残り続けていた。

俺は必死に歩いていた。黄色から離れるために。さっき、心にひっかかったある感情を打ち消すために。

頼む。頼むから———気付かせないでくれ……


『橙』
……なんで、あんなことを言っちまったんだろう。

あのまま、ろくに着替えもせずにベッドに倒れこみ、目を開ければもう朝がやってきていた。

起きて、真っ先に浮かんだのが昨日のことだった。……何考えてんだ、俺。あんなこと、言うつもりじゃなかったのに。

今日俺は、いつもより早く家を出た。理由は一つだ。

学校でも、黄色とは全く話をしなかった。昨日まではあんなに近く感じたのに、今日は机と机の間に壁があるみたいだ。……そうしてんのは俺なんだけど。

帰り道。隣には誰もいない。まぁこんな日もあるさと、気にしないように歩いた。

……どうやら、俺は『黄色を避けようとしている』らしい。やろうとすれば、声なんか簡単に掛けられる。ケンカ(今の状態がケンカなのかはよくわからないが)だって初めてじゃないんだから、仲直りぐらい簡単なはずだった。

……よく、わからなかった。自分が何をしたいのか。何を考えてるのか。

そのまま、数日が過ぎてしまった。いつのまにか、冬と呼ばれる季節の最後の月に突入していた。

俺は、やっぱりおかしかった。相変わらず黄色に声を掛けようとは思わないのに、何故か、自分の隣が寂しい気がしてきたんだ。

本当に、俺は自分自身がよくわかっていなかった。……また数日経ってようやく気付いたのは、俺が『まいっている』ということだった。

そして、おかしくなった俺は、ふらっとある行動に出た。

完全に日も落ちたグラウンド。アレがいるであろうその場所に、俺はやってきていた。

「はあっ、はあっ、はあっ……」

いつもように、赤はグラウンドに倒れこんでいた。自主練は終わったらしい。

「おい赤、橙が来たぞ」

「うへ?」

……なんで黒がいるんだ?とりあえず、赤の様子を見ていた黒が俺に気付き、赤に声を掛けたようだ。

「おー、来たか」

赤は俺を確認するとむくっと起き上がった。

「……わりぃな」

「いーや」

そう俺は、赤にメールを送ったのだ。『少し、話できるか?』と。

「……ちなみに、なんで黒?」

いるのは赤だけのつもりだった俺に、ヤツはあっさりと~

「なんとなく」

と言い切った。

「なんなら俺は帰るが」

黒も少し気を遣っているらしかったが、このさい、2人でも構わなかった。

「いや、いいよ」

俺はグラウンドに座り込んだ。

「で、どーしたのよ?」

赤が汗を拭いながら聞いてくる。

「……」

「ん?」

俺は何も言えなかった。何をしにここに来たのかさえ、自分自身わかっていなかったから。

「……黄色絡みか?」

赤の言葉が、少しずつ真剣味を帯びてくる。

「……たぶんな」

そうなんだろうって、わかってはいた。でも、口に出すとそれがより意識させられた。

「なんか最近お前ら変だもんな。どうしたんだ?」

「……俺がアイツにひでーコト言った」

「は?」

「俺が、アイツに、あんまつっかかってくんな、って言った」

「……なんでよ」

「……」

言葉に詰まった。

「お前、本気かよ」

「……」

赤の口調がだんだん強くなっていく。

「お前、黄色がどんなだけお前のこと……」

「知ってるよ」

赤なんかに言われるまでもなく。俺とアイツは幼なじみなんだ。

「じゃあ、なんで……ッ」

意味がわからない、とでも言いたそうに赤がつっかかってくる。

「———好きに、なりそうになった」

急に黒が口を開いた。

「違うか?」

赤と似ているようで違う、突き刺すような真剣な目が俺を捉えた。

「……」

俺はそれに耐えられず、否定もしないで俯いた。

「? なんで好きなのに黄色にひどいことを言うんだ?意味わかんねえ」

不服そうな顔をした赤がそうこぼす。

「好きなら付き合っちまえばいいじゃん。両思いなんだし」

簡単な問題を解くように、気楽に言う。

「……ダメだ」

俺はその言葉を打ち消した。

「は?」

「アイツには、俺じゃダメなんだ……」

唸るように、俺はその言葉を吐き出した。

「……アイツが俺のことを大事に思ってくれてることはわかってる。でも……ダメなんだよ……」

「だから、なんでよ?」

赤は本気で不可解そうな顔をしている。

「……俺は、努力なんかしたことなかったんだ」

小さな心の詰まり。どうせだから、吐いてしまおうと思った。

「本気なることすらなかった」

ガキの頃からの僅かな驕り。それがカッコイイって思ってたのかもしれない。

「でもさ、この前、気付いちまったんだ。……俺は、単に本気になれねえんだ、って」

あの文化祭の日。俺は、『青の為に想いを譲った』気でいた。青の為なんだって、自分を気取らせていた。……だけど、本当は違うんだ。

——俺はただ、青の口からきっぱりと断られるのが怖くて逃げ出した『臆病者』だった。結局あの時すら、俺は最後まで本気でいることができなかった。

「きっと俺は、また逃げ出す。また本気を出せずに中途半端になっちまう……。……その相手を、アイツにしちゃ、ダメなんだ……」

俺がアイツを傷つける、そんな光景だけが想像されるんだ。

「……なんで、離れてってくれねえんだよ……俺、最低な奴じゃん、他の女に手ぇ出したじゃん。……なのに、なんで変わらないで隣にいるんだよ……」

嫌われよう、って思ったんだ。アイツが俺の隣を離れるように。誰かもっといい奴のところに行くように。

「君は、黄色が大切なんだろう?」

そう俺に問い掛けたのは黒。

「黄色が大切だからこそ、そこまでして、彼女を傷つけたくない、って思うんじゃないのか?」

「……」

俺は何も答えることができなかった。——まるで、その通りだった。

「そして考えてみるといい。本当に君は、『大切な人』が誰かの隣で幸せそうに笑っているのを納得できるのか、と」

いいことじゃねえか、と思えた。それを俺は望んでたんだから。

でもその想像は、考えれば考えるほどに自分が考えていたものより遥かにつらいものだと、思い知らされていく。キリキリと、体のどこかが痛むんだ。そう、いつかのように。

「つーかよ、誰かのため、とか言って自分が引き下がんなよ」

軽い口調の赤にいらっとし睨もうとしたが、赤の目は至って真面目だった。

「お前は、『黄色の為に』全力で黄色に応えるべきなんじゃねえの?」

よく見れば、赤は恥ずかしそうにしていた。

「——なんて、俺に言えることじゃねえんだけどさ」

そう笑って、赤は頭を掻いた。

「俺もコイツも、同じようなもんさ」

黒が空を軽く見上げ、何かを思い出すようにしながら呟く。

「——ただ、一度転んだ後、『誰かの為』なんて自己満足じゃ終われない大切なものの為に、もう一度みっともなく走りだしただけの格好悪い奴さ」

その台詞に赤が続く。

「大事なのは根性だぜ。何度転んだって立ち上がるだけのな」

……くっせぇ。どこの青春ドラマだよ。いくらなんでもやりすぎだよお前ら。

なんでそんなクセェことできんの?なんでそんな大げさなんだよ。なんでそんな——真っすぐな目、してんだよ……。

「なぁ」

馬鹿みたいにクッサイ奴らに問い掛ける。俺も重傷だ。

「俺、本気になれっかなぁ?」

なんだか、泣きたくなった。意味わかんねえ。

「知るか」

そっけなく赤はそう答え、笑う。

「おっし、じゃあ占ってやるか」

いきなりこの熱血馬鹿が立ち上がった。何する気だ。

「男子100メートル、決勝」

そう言い放つと、赤はおもむろに100メートル走のスタートラインに向かった。

「「はぁ?」」

……馬鹿か、コイツは。

「うっせぇ!来い!ビリは罰ゲームな!」

訂正。コイツは馬鹿だ。

「いくらなんでもお前に勝てるわけないだろう」

黒が冷静に突っ込む。……ん、なんでスタートラインに向かってんの?

「こっちは練習で足つってんだよ!それがハンデだ!」

「……わかった」

え、やるの?

「橙!テメーも早く来い!」

……どうやら決定らしい。

「お前ら、マジかよ……」

「とーぜん。負けたら奢りな」

なんか、2人とも真面目だ。いつもならかったるく感じるはずのこんなくだらない勝負なのに、こいつらとだと本気で負けたくなくなるから不思議だ。

……本気で走るのなんて、いつ以来だろう。中学の運動会では手抜いてたし。

「位置について」

号令は赤。そのハンデで、5メートルくらい後ろにいる。

「用意」

夜の風が気持ちいい。……俺、いつまにか本気になってるし。

「ドン!」

俺たちは一斉に、意味もないはずの100メートルへ全力で駆け出した。

——久々の全力は、何故か心地よかった。


『黄』

「明日、かあ……」

カレンダーを見ても、ケータイを見ても今日の日付が2月13日であることをきっちりと示している。

あたしの机の端っこ、『ゼッタイ成功☆バレンタイン』とか書いてある本がひっそりと姿を見せている。

……アイツ、見返してやろうと思ったのにな。

あの幼なじみに、あたしのお菓子作りの腕はずいぶん侮られている。ホントは、冒険さえしなければそこそこなんだぞ。

だから今年は、本まで買って、本気で作ってやろうと思っていた……のになぁ。なんでこんな状態なんだろ。この数日間、一度もアイツと喋ってないや。

ってことでワタクシ、現在チョコも作らず漫画を読んでいたりします。うーん、アイツに渡さないにしろ、女の子同士で交換するから作んなきゃなんないのに。やる気がでない。

無造作にページをめくる手を動かす。漫画の中では美男美女揃いの面々が、青春しながら恋の鞘当てを繰り広げていた。

「……」

友達から借りた長編漫画。主人公には幼なじみがいた。話の中ではどう見ても両思いだったけど、すれ違いから2人はそれぞれ違う人と付き合ったりしてた。

「……」

それぞれが成長していくなか、2人は次第に疎遠になっていく。ある時、主人公が彼氏と買い物をしていると、向こうから幼なじみとその彼女がやってくる。2人は一度目を合わせると、慌ててそらし、もうそちらを見ることはなかった。

「……」

続きが気になって、残りの話を流し読みしてみたけど、もうその幼なじみはそんなに出てこなくなっていた。

『高校生にもなって———』

この前、橙に言われたことがフラッシュバックしてくる。……やっぱり、いつまでも一緒にいたりするの、うっとおしく感じるのかな?

この漫画みたいに、幼なじみなんて疎遠になってくものなのかな?……やだなぁ、そんなの。

ほら、ドラマとかでたまにあるじゃん、幼なじみの男女が大人になってからもお互いに飲みあったりしてさ。ああいうカンジでいいからさ、橙とは仲良くしていきたいのにな。

どうすればいいのかな?そんなドラマとこの漫画の違いについて考えてみたり。うーん。

……ぽん。そうか、アレか?もしかして———恋愛感情の有無?長く付き合うためには恋愛感情なんか持つな、ってことなのかな。なるほど、それなら同性の友達と同じようなもんだもんね。うん、それならあたしは———。

夜。夕飯も終わり、キッチンが空いたのを見計らって、れっつくっきんぐ☆といきますか。

まずは交換用のチョコ。溶かしてトッピングするだけなんだからちゃっちゃっとやりたい。……が、量が量だった。交換しよ、と声をかけた子の数、多いよ……あたしの無計画。

やば、思ったよりてこずった。これからが本番なのに。

じゃあ、いきますか。あたしがいつまでも橙の隣にいれるように、『仲のいい友達でいるための』想いを込めたチョコ作りを。なんてね。

見てろ、橙。びっくりさせてやるんだから。

あ、そういえばケンカしてるんだった、と気付いたのは作り終わってから。どうしようかな、橙の部屋にポンと置いておいてもいい気がするけど。

……メッセージカードでも、書いてみようかな。それでついでに謝っちゃえばいいしね。よし、決定。

ということで、カードとペンを用意してみました。

ふっふっふ、何書いてやろっかなー、まぁ最初は可愛らしく『ごめんね』とかにするか。でもやっぱらチョコ食べたらアイツ驚くだろうから、『思い知ったか!』とかも書きたいな。

ふふふ、書きたいことがいっぱいあるよ。カード一枚で足りるかな?

夕暮れ。みんなが帰った教室に、あたしは一人たたずんでいた。

西日が眩しくて、あたしは机に突っ伏した。机には『今を生きろ!』とかいう文字が彫ってある。別にあたしがやったわけじゃない。

あたしはしばらく、その文字を見る様にして、顔を俯けていた。

「……黄色?」

聞き覚えのある声に、あたしはハッと顔を上げた。

「……青ちゃん?」

そこには、成績優秀かつ弓道部部長ならびに赤くんの彼女で———橙の片思いの相手だった青ちゃんが立っていた。

「どうしたの?」

青ちゃんが心配そうな声をかけてくる。

「べっつにー、忘れ物を取りに戻ったらつい黄昏ちゃったんですよー。いやーやっぱあたしも青春真っ盛りだし?青ちゃんこそどうしたの?」

やや早口で言ってみたり。

「私も忘れ物を取りに来たんだけど……。黄色、あんたホントに大丈夫?」

青ちゃんは少し怪訝そうにしてる。

「えー大丈夫っすよー?どうして?」

それに対してあたしはかなり明るい声を出してみた。

「大丈夫ならいいんだけど。……今、泣いてるように見えたから」

———。

「だ、大丈夫だって。元気もりもり黄色チャンがそんなこと……」

「……黄色、なんで、そんなに……辛そうなの?」

「そ、そんなこと……」

ないよ、って否定しようとした。なのに……

「黄色、泣いてるの?」

え?

あの、メッセージカード。最初は、冗談みたいに書いてたんだ。楽しく、軽く、ふざけながら。

それで調子に乗って書いてるうちに色んなことを思い出してきた。ムカシのオモイデとかね。

だから、それも楽しく書いてやろうと思ったんだ。このカードは『決意表明』でもあったから。

でも、その作業は楽しかった。書きたいことがどんどん浮かんできて、ペンがどんどん進んだ。嬉しかったこととか面白かったこと。あたしのドジや橙のミス。どんどんどんどん、どんどんどんどんどん……。

———思い出が、止まらなかった。書きたいことなんて幾らでもあった。あたしの中のアイツがだんだん大きくなっていく。

大切だよ。仲良く話がしたいよ。ずっと隣にいたいよ。笑いあってたいよ。———大好きだよ。

伝えたいことが心の中で溢れてる。でも、どれも一度だって伝えたこと、ないんだ。

気持ちが、抑えられなかった。どうしてもどうしてもどうしても、この気持ちだけは消えてくれなかった。

あたしは……どうしたらいいの?

「かっこわるいなぁ……諦めも引き際も悪い。……どうしようもないね、あたし」

青ちゃんに、いや誰にだって言う気なんてなかったのに、なんでこんなことを話してるんだろ?

「そんなことない」

きっと、青ちゃんが優しい目をしてたから。青ちゃんの素直な優しさがあたしに触れてくれたからだ。

「……すごいなぁ」

完璧だよね、青ちゃん。

「え?」

「青ちゃんは完璧だよ。可愛いし、頭もいいし、なんでもできるし、優しいし。……あたしも青ちゃんみたいだったらなぁ」

……そしたら、橙はあたしにどんな態度で接しただろう。やっぱり、好きになったのかな?

「私みたいに?あはは、止めといたほうがいいわ」

その完璧超人は笑う。

「なんでよ。青ちゃんは……」

「……こんな、素直になれないやつなんかになるもんじゃないわ」

そう言うと、青ちゃんは可愛らしい包みを取り出した。

「見てよ。こんなの、はい、ってあげてしまえばいいのに、変に照れちゃってまだ渡せてないの」

あの包みは赤くんへのチョコなんだろう。ため息をはく青ちゃん。

「でも大切な人に、ホントの気持ちを伝えずにいるなんてこと絶対にできないから、頑張って渡すんだけどね」

少し照れながらそう言った青ちゃんは、あたしが今まで見た青ちゃんの中で一番可愛かった。

「アイツの隣にずっといたいから、素直になるって決めたの」

あたしとは全く反対の答え。しかし彼女は、あたしと違って、真っすぐだった。

「隣にいるために素直に……」

なんとなく復唱。これが青ちゃんの答え。

「うん。……偉そうになるけど、人を羨む前に、黄色は黄色がやれることをやらなきゃダメなんだと思うよ」

「……うん」

正直、まだ迷ってる。ホントに青ちゃんの答えが正しいの?

「黄色、笑って」

アドバイザーはそう言って笑った。その言葉で無理矢理笑顔を作ってみる。

「黄色には、ソレが一番似合うよ。橙の前でくらい、自然と笑ってきなさいね?」

それは青ちゃんにもお見通しだったようだ。

「でも……あたし……」

まだ戸惑ってるあたしに、彼女は最後の一押しをする。

「頑張れ!」

笑顔で言ったその言葉はなぜか、驚くほど自然とあたしの中に入っていく。

「———うん!」

そうだよ。あたしは笑わなきゃ。誰よりも元気で明るい、それが黄色チャンだ。

だから、あたしは笑おう。笑顔でアイツの前に立ってやろう。そして———。


『バレンタイン 赤×青』

赤「おーい、青ー」

青「え、赤?早いじゃない」

赤「今日はバレンタインだしな。自主練は休みだ」

青「そんな、わざわざ……」

赤「いーの!俺が青といたかったから休んだんだ」

青「……ありがと。赤」

赤「ん?」

青「はい。チョコレート」

赤「さんきゅww」

青「どういたしまして」

赤「お前のことだから、めっちゃ旨いんだろーな」

青「そ、そんなことッ」

赤「ありますー。あー、俺ってば幸せモノ」

青「大袈裟よ」

赤「んなことねーって」

青「……私のほうが……幸せモノだし……」

赤「……青」

青「」

赤「自分で言って照れんなよwwそんなとこも可愛いけどww」

青「ぅー……」

青(……まだまだ人のことは言えないなぁ)


『バレンタイン 黒×白』

白「はい、黒くん、バレンタインチョコ」

黒「ありがとな」

白「いえいえ。黒くんはビターが好きだったよね?」

黒「ああ」

白「よくあんなに苦いの食べれるね」

黒「そんなに苦くないだろ」

白「苦いよー」

黒「そうか?……白、俺は甘いのも嫌いじゃないぞ?」

白「え、ホント?」

サッ チュ

黒「うん、甘い」

白「ふぁああ!!?」

黒「ご馳走様。ま、バレンタインなんでね」

白「……黒くんのばかぁ」


『橙』

……結局、今日も黄色に話し掛けられなかった。俺のヘタレ。

『あの』男子100メートル決勝のあと、俺はとりあえず黄色と会話をしようと試みた。……が、何故か今まで自然に発してきた言葉が全く出てこなかった。黄色になんて声を掛ければいいのかが、わからなかった。

意識すればするほど、それだけのことがどんどん難しくなっていった。

「……アホか」

ただ声を掛けるだけだろうが。なんでこんなにびくついてるんだ、かっこわりぃ。……明日だ、明日。『おはよう』でもなんでもいいから絶対黄色に話し掛けてやる。

……あのヤロウ、登校時間ずらしやがった。いつもの時間に、意気込んで家を出たのに拍子抜けだ。待ってんのも気恥ずかしくて、俺は一人で学校に向かった。

「……来てないか」

学校の下駄箱で確認すると、黄色はまだ登校していないようだった。……やっぱ家の前で待ってりゃよかったかな。

結局、黄色は朝は遅刻ギリギリに登校し、話し掛ける暇もなくホームルームが始まった。でもまあ、休み時間とか昼休みもあるしな。そんなに焦る必要もないだろ。

……だがッ!俺は、重要なことを忘れていたのだった!

ホームルーム後、早速俺は黄色に声を掛けようとした。ナチュラルに、ナチュラルに……

「おい、黄色——」

「橙く〜ん、あたしぃチョコ作ってきたんだけどぉ、食べてみてくれない?」

……は?

「え、なんで?」

俺は突如出現した女子Aに困惑しつつ、いきなり渡されたチョコレート(だと思われるもの)に目を丸くした。

「だってほら、今日ってバレンタインじゃん?キャ☆」

……あー、なるほど。そういうことすか。てかキャ☆ってなんだ、キャ☆って。

「どーも」

悪いけど、今日の俺はそんなお菓子会社の策略に引っ掛かってる場合じゃないんですよ。ヘタレという汚名を返上しなきゃならないんだから。……なのに。

「あ、A子ズルーイ!あたしも橙くんにチョコ作ってきたのにぃ〜」

え?

「私も〜」

おいおい……

「あ、何抜け駆けしてんのよ〜」

……マジかよ。なんでこんなにこのタイミングで来るんだよ!

あ、黄色行っちまったし。……なんか、ヤな予感がするんだけど。

予感、的中。放課後まで、俺が黄色に話し掛けようとするたび女子がチョコ持って絡んでくる。

男子の奴らにはすごい目で見られてるが、できれば代わってほしい。

そりゃあ俺だって途中からは振り切ろうとしたよ。けど……

「あ、あの!橙センパイ!」

あんまり知らないカオ。1年だろう。ぱっと見で、おとなしそうな印象を受ける。

「あ、わりぃけど俺……」

しかし俺はスルーしようとした。が……

「こ、こ、これ!う、うう、受け取ってもらえませんかっ?」

……必死だな、この子。わざわざ2年の教室まで来て。……勇気出して頑張ったんだろーな。

「……。さんきゅ、ありがとな」

「あ、あ、はいぃ!あ、あありがとうごさいます!」

……断れるわけないじゃん。気付けばまた囲まれてるし。だあー……

「情けねぇ……」

ええ、現在俺はおとなしく帰路についています。何か問題でも?

鞄の中身が無駄に重い。チョコのせいもあるだろうが、気分が重いのが主な理由だと思う。

「はぁ……」

自宅到着。今日もまた今までどおりになっちまったなぁ。

「ふぁあ……」

あくびをしながら、なんとなく居間でテレビを点けてみる。たいして面白くもない。……やっぱ部屋で寝るか。

力なく階段を登り、自分の部屋のドアを開ける。……ん?

「……なんだこれ?」

俺の(そんなに使わない)机の上に、可愛らしい包みが置いてあった。

もしかして黄色か?いや、でもアイツなら別にこんなこと……。

そんなことを思いながら、その包みを開ける。

——お菓子だ。見た感じ、チョコ風味なんだろう。……アイツが去年作ったチョコ、ひどかったんだよな。カレー混ぜただかして。そんな記憶からすこし恐る恐るではあるが、そのお菓子に手を伸ばす。

……。旨い。なんだ?すごい普通においしいんだけど。これ、ホントに黄色が作ったのかよ。

その幸せなおいしさをゆっくり味わっていると、俺は包みの中に、2つ折りにされた紙が入っていることに気が付いた。何か書いてあるんだろう。……ずいぶんアイツ、可愛いことするじゃん。

そう、そんなことを思いながら、俺は軽い気持ちでその紙を開いたんだ——。

『Dear my best friend

 ごめんね。だいすき』


『幼なじみ』

黄色は、公園へと向かっていた。そう、橙から逃げてしまった日や、惨めな文化祭の日にお世話になったあの場所だ。ここは——彼女と橙が小さいときよく遊んだ公園だ。

ケジメをつけよう。どんな形であれ。そう決めた彼女は、自分の気持ちを落ち着かせるためこの場所に来たのだ。

(……なつかしーなー)

昔、順番でケンカしたブランコ、自分だけ逆上がりができなかった鉄棒、手を真っ黒にした砂場。それぞれの遊具にそれぞれの思い出がある。

そうそう、よくベンチに座ってグダグダしたっけ……。

——そこに、人影があった。

「ッ?!」

そしてそれは、彼女がよく知る少年だった。

「……よぉ」

ベンチに寝そべりながら、空に向けていた手を下ろし、しかし態勢はそのままでその少年は軽く声をかけた。

「な、なんでここに……?」

心を落ち着けるために来たはずなのにその本人に会ってしまい、黄色としてはびっくりもいいところだ。

対する橙は、ようやくベンチから起き上がる。しかしその目は俯いたままだ。

「……ここに来るような気がした」

ぼそぼそと橙は呟いた。

「なんとなく、お前がここに寄るんじゃないかって思って……」

わかったことが気恥ずかしいとでもいうように、橙の声は微かだった。

理屈じゃなくてもわかるんだ。だって——

そんな呟きに、少しばかり不思議そうに黄色は尋ねた。

「……なんで、あたしが来そうだからって、ここに来たの?」

彼女にも、ほんの僅かに期待があったのかもしれない。

「……」

だが橙は答えられない。目を伏せ、また俯いた。彼の初めてのスタートラインは、遠く見えた。

「……まぁ、いいや。——あたしね、話があるんだ」

足踏みをしている橙とは対照的に、彼女は笑った。明るく、綺麗に、そして強く。

あたしは、決めたんだ。

「——ッ」

何かが始まろうとしていた。馬鹿でもわかる。そのことが、橙をより焦らせた。

「あたしね——」

「待て!!」

黄色の言葉を遮って、橙が必死に叫んだ。

いつまで甘えてんだ。いつまで流されてんだ。いい加減にしろ。また俺は、大切なものを自ら零す気か?

「俺にも……話がある」

恥ずかしかった。何を言っていいかなんてわからなかった。それでも、ここだけは譲れないだろう?

黄色に全てを任せるなんて、それこそ救えないバカ野郎だ。

変われよ!動け!!

「……情けなくて、ごめんな」

それでも、始めから伝えたいことは出てこない。あまりの醜態に、橙は溜め息をつきながらそう言った。

「ううん」

黄色は彼の指を見つめた。……親指で中指の腹を撫でてる。これは、橙の癖だった。そう、——素直に謝ったりするときの照れ隠し。

大切なこと、言おうとしてくれてるんでしょ?

わかるよ、キミのこと。だって——

「情けなくて、ふらふらしてて、覚悟もなくて」

橙は意を決したように話しだす。器用に、全てを軽くこなしてきた少年が、たった一つの言葉を導くためにこんなにも苦しんでいる。それでも彼は続ける。

「それなのに調子に乗ってるガキだけどさ」

だんだん橙が必死になっていくのがわかる。黄色はそれをじっと見つめる。

「やっぱ、俺、お前にいてほしいんだよ……」

もう橙の顔は真っ赤だ。

「……ぅん」

黄色は目を色んなところに散らしながら、どうにか橙の『本気』を受けとめようとしていた。

「俺、努力するから。お前が俺の隣にいても『幸せだ』って思えるような奴になるから」

そう言い終わると、橙は一層顔を赤くし、頭を掻いた。

「なんか、言いたいことズレてきたし……。あー……黄色、俺、一回しか言わねぇからな?」

一度息を吐くと、橙は黄色に近づいていく。黄色の傍に立つと、少し屈んで、黄色の耳の近くで呟くように、しかしはっきりと言った。

「好き」

その一言は、橙そのものだった。華やかなくせに繊細で、小さな情熱を秘めていた。

その言葉があまり橙らしすぎて、黄色は一瞬笑いそうになった。しかし、みるみるうちに黄色の表情は最初に浮かべようとしたものとは違うものに変わっていく。黄色は堪え切れなくなって、その場にへたりこんだ。

「お、おい!」

橙は驚き、黄色の顔を覗き込もうとする。

「えへへ……笑おうと思ってたのに、なんで涙なんか出てくるんだろうね?」

黄色は笑っていた。目に涙を浮かべながらも、その笑顔はとても自然で、とても幸せそうだった。

笑顔の先にはもちろん、いつものアイツがいる。

「大好き、たいちゃん!」

お互いに笑いあう風景は、いつもと同じ。それでも今は、互いにその大切さを感じている。そうしてまた2人は笑いあう。願うは、それが遥か永く続くようにと。

——2人は、幼なじみだ。


なんで、『付き合ってる』ってだけで今までフツーにしてきたことができなくなってしまうんだろう?

『初デート』

〜ORANGE~SIDE〜

「あ、明日さ、遊びに行かね?」

俺たちが付き合い初めて、1ヵ月ぐらいになろうとしていた。しかし、意外とお互いに用事などが重なり、休みの日にデートをしたりすることはなかった。そりゃ、一緒に帰ったりはしてるけども。

ってことで、今回俺が誘ってみたわけだ。考えてみりゃ、今までだって一緒に遊ぶことはあったわけだし、それと今回のがそんなに差があるのかと聞かれれば特にないと答えざるを得ない。

……のはずなんだけど、なんで俺は、たったこの一言を言うだけのことに、手のひらに汗をかいてるんだ?

「……うん、いいよ」

今まで断られたこともないのに、承諾の返事に心底安心してたりするんだ。なんだよ、コレ。

どこにいこうか、何を着ようか、飯は何にしようか、どんなふうにアイツに接しようか。

今まで考えたこともないようなことが俺を悩ませる。今までは気分で服を選んで、テキトーにぶらつきながら遊んで、ラーメンだろうがファーストフードだろうが関係なくアイツを付き合わせていた。態度なんて、それこそ何も考えずに接してたし。

……変に意識するからダメなんだ。自然体、自然体。今までだって十分楽しかったじゃないか。

そう自分に言い聞かせ、服やアクセで散らかった部屋もそのままに、俺は無理矢理寝てしまうことにした。

ふと、屋根を挟んですぐそこにいる、幼なじみがやけに気になった。アイツも、こんな気持ちになってんのかな?

そんなことを考えた自分が恥ずかしく思えて、俺は布団を思いっきり被った。

——全然、寝れねえし。

〜YELLOW~SIDE〜

あーもう、あたし、なんでこんなに緊張してるんだろ。

昨日、橙からデート(でいいよね?)に誘われたとき、ヘンに意識しちゃって返事が少し遅くなっちゃった。バカだなぁ、たぶん橙は今までと同じ感じで誘ったと思うのに。

でもさ、初デートだよ?一緒に帰ったりするだけじゃない、あたしたちの『恋人』としての初デートなんだ。……うわ、なんだか自分一人で恥ずかしくなっちゃった。

とにかく、ここはオンナノコとして、気合いをいれて臨まないと。

ということで、必死に鏡の前で格闘し、お気に入りの服やアクセをあーでもないこーでもないと選りすぐった。……うん、頑張った。出来る限りの努力はした。あたしの中でMAX可愛い。完璧!……だと思う。

約束の時間まであと少し。いつものように、橙があたしを迎えに来ることになっている。それっぽく待ち合わせをしてみたい気もするけど、家が隣なんだし、こっちのほうが楽だよね。

あたしは最後に、実はあんまり慣れてないヒールを履く。ほら、あたしって本来活動的な子だし?誰に言うわけでもない言い訳を頭に浮かべながら、あたしは足を入れる。ピッタリだ。

うん、準備万端。さぁ来るなら来いってんだ!

……とか思いつつ、ホントは胸がまだドキドキしてる。橙、あたしのこと可愛いって思ってくれるかな?褒めてくれるかな?笑ったりしないよね?ホントに——あたしをカノジョとして見てくれるかな?

そんな不安は消えない。そわそわしながら、アイツが開ける玄関のドアを見つめる。

——ピンポーン

……来た。うん、不安もあるけど、アイツがすぐそこにいるんだ。あたしはいつものように、ううん、いつも以上の思いっきりの笑顔でアイツを迎えてやろう。まずは、そこから。

〜ORANGE~SIDE〜

準備は万端。しっかりと、今日一日を黄色をリードしてやる心構えもあった。やっぱ、俺は男なわけだし。だから俺は、多少緊張はあれど、それなりには上手くやれる気はあったんだ。

……が。

「おはよ!橙!」

迎えに来、玄関のドアを開けた瞬間、その元気な声とともに満面の笑みで俺は逆に迎えられた。

「お、おう。おはよう」

俺のたじろいだあいさつなんか気にもしないで、黄色は笑顔のまま続ける。

「いー天気だねー」

空は快晴。出かけるのであれば最高だ。

彼女は、ふと何かを思いついたような顔をした。そして……

「……似合うかな?」

少し俺を見上げるようにして、はにかみながら聞いてきた。

バカ言うな。俺はさっきから——ずっと見惚れてたんだ。

なんだ?なんなんだ?なんで今日のコイツはこんなに可愛く見えるんだ!?いやそんなことない……

「?」

……可愛い。不思議そうにこちらをうかがう様子にすらそう思ってしまった。なんでだよ?ガキの頃からずっと見てきたはずなのに!

「あ、ああ、似合うよ。可愛い」

テンパりすぎて、とっさに思ったことをそのまま言ってしまった。いや、悪いことじゃないけど、黄色が相手じゃ気恥ずかしすぎる。

「えっ……」

ほら黄色だって照れちまった。俺だって恥ずかしくて、黄色を直視できない。

……予定と違う。もっと余裕を持って、楽しくデートをしようと思ってたのに、なんだよこのザマは。

「ほ、ほら、黄色、いつまでもここにいても仕方ねえんだし、どっか行こうぜ!」

その場がどうにもやりきれなくて、俺は無理矢理話を進めることにした。

「あ、うん!」

それは黄色も同じなようで、少しホッとしたように歩きだした。……俺、かっこわりぃ。

「……」

「……」

「……」

「……」

無言。沈黙。静寂。

普段からはまったく考えられないほど、俺たちは黙りこくったまま歩き続けていた。

……何を話せばいいんだろう?一度も考えたことのない問題に、どんな答えを出していいのか俺はわからなかった。

でもなんか、デート、ってカンジは確かにする。なんかお互い手探りでやってるカンジ。なんか、ホントに付き合ってんだなぁ、俺ら。

……手とか、繋いでみようかな。実は、一緒に帰ったりするときも、そーゆーコトはまったくしていなかったんだ。初めてのデートだし、なんとなくお互い出方を伺ってる状態だし、もしかしたらチャンスなのかもしれない。

そう思い、ちらっと黄色のほうを見てみる。……コイツも、緊張してるんだろうな。

ぎこちない表情の黄色に頬が緩みそうになった。可愛いヤツ。

そんな黄色の手へ、俺は恐る恐る手を近付けさせていく。うわ、俺冷や汗かきそう。いや、実際、背中に冷たいものが走る感覚があった。……くそぅ、なんでこんなに手間取ってんだよ。この前の女の時は簡単にできたじゃねえか!

気合いをいれ、少しずつ黄色の手へと近づいていった俺の指先が、黄色のそれとかするように触れた。

——ぴくん。

互いに、確かにそれを感じた。しかしその瞬間、すぐにその2つは距離を離した。

(うぁあああぁあ〜〜)

正直、背中はもうだいぶ湿っぽくなってきている。でもあと、一歩なんだ。もう一回だ。

だんだんとまた2人の指先の距離が近づいていく。もう一度、相手のそれを確かめるように、触れた。

——ぴくん。

また、離れてしまったが、今度は少し違う。そう、それは——互いが意志を確認したかのような、『合図』のようで。

そして、覚悟を決め、もう一度指を伸ばす。

——ぴくん。

三度触れた指先はもう、離れなかった。指先から指が触れていき、少しずつそれが重なり、遠慮がちに絡まっていく。

「……っ」

「……ぷっ」

言葉は、まだ出てこなかった。しかし今、俺たちは笑いあった。言葉なんて、要らないんじゃないかとさえ思えた。

俺たちは、バカみたいに赤面していた。

〜YELLOW~SIDE〜

こんなに幸せでいいのかと思う。

今日のあたしを、橙が「可愛い」って言ってくれた。それだけでも十分すぎるくらいなのに、あたしは今——。

少し大きな橙の手。重なる手のひら。撫でるように絡まる指。ちょっと熱く感じるあたしの手。そのどれもが、信じられないほどに幸せだった。

一緒に手を繋いで歩いてく道。いつまでも続いてほしいって、本気で思ってた。

それなのに。あたしの幸せの邪魔は、自らの体からやってきやがった。

……痛い。手の幸せな感触に浸っているうちに、足には真逆の感覚があることに気が付いた。

よりにもよって、靴擦れ、しやがったのだ。

慣れない靴なんて履くんじゃなかった。そんな後悔を今頃しても、完全に後の祭りだ。

き、気にするな。痛くない、いや痛いけども。だからそういうことじゃなくて。我慢だ我慢。せっかくここまで最高の初デートを、台無しにするわけにはいかないもん。

「……黄色、大丈夫か?」

き、気付かれた?

「えっ何が?」

あたしの異変を橙に気付かれたくなくて、あたしは平然を装う。

「なんか、足痛そうにしてねーか?」

ばれてたし……。

「別に!へーきだよ!」

せっかくのデート中なのに、変に気を遣われるのが嫌だから、あたしは必死に隠した。

「ほら!全然大丈夫!」

そうアピールしようと思って、あたしは思いっきりジャンプした。何でもないよって示すために。

——今日、ヒールを履いていることをすっかり忘れていた。

「……」

「……ごめんね」

あたしは今、橙に背負われていた。見事に足を挫き、さらには靴擦れと相まって歩くことが困難になり、デートは中止となった。そしてあたしは醜態を晒しながら、橙に家へと送られていた。

……初めてのデートだったのになぁ。最悪だよ。いくらなんでもひどすぎる。

あまりにも居心地が悪すぎて、あたしは橙に何て言っていいかわからなかった。そんななか、橙が何かを喋ろうとしているのに気付いた。

「黄ぃ?」

「何?」

「……仕切り直し、させてくれ」

「え?」

橙が何を言っているのか、よくわからなかった。

「今日はお互い、失敗しすぎたろ?……次は俺、ちゃんとするから」

?~あたしはともかく、橙が何か失敗しただろうか。ちゃんとしなきゃいけないのはあたしのほうだ。……ん?次?

「また、デートしような。できれば近いうちに」

それが次のデートの約束だと、気付くのが少し遅れた。

「——うん」

しかしそれに気付いた瞬間、あたしのテンションはぐんぐん上がっていく。

橙の背中におぶられている身ながら、急に騒ぎだしたくなった。

……そういえばあたし、今橙におんぶされてるんだなぁ。自分の惨めさのことばかり考えていたせいで、あんまり実感なかった。

——意外と大きいんだなぁ、コイツの背中。それになんだかあったかいし。……急に、くすぐったい思いがこみあげてきた。

ねぇ、一つ、わがまま言っていいかな?

「橙、家の近くまで行ったら降ろして」

「ん?恥ずかしいのか?」

「ううん」

「じゃあなんでよ?」

「……もう一回、手、繋ぎたい」

橙の背中がびっくりしたように少し揺れた。

照れ屋だけど、優しいコイツはきっとあたしのわがままを聞いてくれるんだろうな。

ホントはね、けっこう満足してたりするんだよ?あたしたちの、『初デート』


黄「うわっ……(つまずく)」

がしっ

橙「大丈夫かよ」

黄「う、うん。ありがと……」

橙「へいへい。……ほら、手、貸せ」

黄「え?」

橙「お前、意外と危なっかしいからな。ほら」

黄「う、うん」

黄「お腹すいたなぁ」

橙「なんか食うか?おごるぜ?」

黄「えっホント?」

黄「なんかさー」

橙「ん?」

黄「橙、あたしのカレシっぽい」

橙「はぁあ?!……っぽい、じゃなくて『お前のカレシ』だろ、俺?!」

黄「あ、いや、そーゆー意味じゃなくて」

橙「……じゃ、どーゆー意味だよ?」

黄「ほら、あたしに歩くペース合わせてくれたり、おごってくれたり、転んだとき支えてくれたりしてくれたじゃん」

橙「……前からしてねえか?」

黄「してませんー」

橙「嘘」

黄「ホントです。付き合う前は、一人でスタスタ行っちゃうからあたしが早足だったし、食べ物一口もらうのも渋るし、転んだって『バーカ』とか言われたもん」

橙「……マジ?」

黄「マジ」

橙「……俺、頑張ります……」

黄「お願いしまーす♪」

橙(映画なんて、よせばよかった)

黄「あははは」

橙(せっかくデートしてんのに、あんまり黄色と絡めねえ……)

黄(ジー)

橙(……こいつは楽しんでるかもしんねえけど。……もうちょい、こっち気にしてもいいんじゃねえ?)

黄(ジー)

橙(赤とかに言ったら爆笑されっかもしんないけど、俺にも独占欲ってヤツがあったみたいだ……おーいこっち向けー、って向くわけねえか……ん?)

 肘掛けに、黄色の手

橙(ニヤ)

 ぎゅ

黄「!」

橙「……へへ」

黄「ばか(口パク)」

橙(……手、握んなきゃよかった……意識しすぎて映画の中身なんかまったく覚えてねえ……)

黄(う〜、手汗かいちゃったじゃんかよぅ……。橙、気持ち悪いとか思ってないかなあ……)

橙・黄(つーか、顔めっちゃあっついんだけど!!)

黄「いやー、それにしても今日も気持ちいいぐらいに晴れてよかったねー」

橙「お前、晴れ女だもんな」

黄「橙が晴れ男なんじゃない?」

橙「そうか?」

黄「ま、どっちでもいいじゃん。ね、見て、あの雲」

橙「『綿あめ』みたい、ってか?」

黄「む」

橙「大体わかるっつーの」

黄「……食い意地張ってる、とかちょっと思ったでしょ」

橙「よくわかったな」

黄「あたしだってわかりますー」

橙「でもホントじゃねーの?」

黄「違いますー」

橙「どーだか」

黄「なんだとぅ」

橙「……。……ぷ」

黄「あははははっ」

結局俺らって、『幼馴染み』なんだなあってしみじみ感じたんだ。


『ちょっと未来の赤×青』

青「もー、ネクタイぐらい自分で締められるようになって!」

赤「わりぃ……」

青「まったく……」

赤(青の髪、いい匂いだな……)

髪に   ちゅっ

青「ッ?!!」

 ぎゅううう!

赤「う……あぁあ……し、死ぬ……」

青「ごっごめん!」

赤「いや……ホントに……死ぬって……」

青「で、でも、今のはアンタが悪いんでしょ!」

赤「なんでよ?」

青「いきなりあんなことするからでしょ!!」

赤「だって青が可愛いんだもん」

青「なっ!あ、アンタね!!」

赤「あー怒った顔も可愛い」

青「もぅ……バカ」


『晴れの日』

白「いい天気だね」

黒「そうだな」

白「見て、タンポポ」

黒「本当だ」

白「オオイヌノフグリも咲いてる。もうすっかり春だねぇ」

黒「気温も暖かいしな。いい季節だ」

白「うん。私、春、好きだな」

黒「この前は『冬が好き』って言ってなかったか?」

白「うん。冬も好きだよ?」

黒「春が特別ってわけじゃないんだな」

白「だって、一日一日、同じ日はひとつもないでしょ?だから私は毎日が好きだよ」

黒「すごいな。そんな風に思えるなんて」

白「えへへ。それにね……」

黒「それに?」

白「……黒くんが一緒にいてくれるから。だから、毎日が幸せだよ?」

黒「白……」

白「ね、黒くん。もうちょっと遠回りしない?」

黒「……いいぜ。一日中でも付き合うよ」


『雨の日』

赤「だー……雨止まねぇかなー……」

青「なにダラッとしてんのよ」

赤「んー?だって雨だしさー」

青「あんたって雨の日、いっつもそんな感じよね」

赤「雨だと外で走れねぇんだもん……」

青「……私は、そんなにキライじゃないかな」

赤「ウソ。なんでよ?」

青「なんでも!」

赤「なんだよそれ」

青(こういう子供みたいなコイツを可愛いって思ってるなんて言えないわよね)

赤「あーあっと。じゃあ、濡れながら帰りますか」

青「え!あんた傘持ってきてないの?今日降水確率80だったよ?」

赤「知るか、んなもん」

青「あんたねぇ……。……じゃあ、入る?」

赤「ん?」

青「傘に入れてあげる、って言ってんのよ!何度も言わせないでよバカ!」

赤「んな真っ赤になって叫ばなくても……。ま、んじゃご好意に甘えて」

青「わっ!ちょっと、あんまり寄りすぎないでよ」

赤「あ、わりぃ。……なぁ、青」

青「何?」

赤「俺も雨の日、そんなにキライじゃないな」

青「……バカ」


『雪の日』

黄「うーん、やっぱこんな寒い日はこたつでみかんだねぇ」

橙「お前、めっちゃくつろいでっけど、ここ俺んちだからね」

黄「知ってるよぅ」

橙「……別にいいけどよ」

黄「う〜ぬくぬく〜♪」

黄「ほら。グチグチうるさい橙クンのために黄色チャンがココアをいれてあげましたよ!」

橙「確かに嬉しいけど、そのココアも俺んちのだからな?」

黄「……てへ」

橙「てへ、じゃねぇ」

黄「あ、マリカーやりたい。出して」

橙「全面無視かコラ」

黄「あたしヨッシー」

橙「……ま、いいか」


『背中合わせ』

白「あったかいねー」

黒「……そうだな」

白「……なんか、こうゆうの、ドキドキするね」

黒「……そうだな」

白「……でも、黒くんの背中、気持ちいい」

黒「……そうだな」

白「……黒くん、聞いてる?」

黒「ああ」

白「……もぅ。……あー、でもホントに気持ちいーなぁ」

黒「……そう、だな」

白「……」

黒「……」

白「……すー、すー……」

黒「……ったく。風邪ひくぞ……」

白「……すー、すー……」

黒「ふぅ……テンパってんの、俺だけかよ……。……まぁ、たまには、いいか」


『不意打ち』

黄「橙ー、辞書あざーす。……ってまだ寝てるのか」

橙「すーすー」

黄「……ホント、黙ってりゃ2枚目よねー。いや、喋っててもかっこいいけど……って何言ってんだあたし!?」

橙「すーすー」

黄(……ホント、コイツのこと好きなんだなあ、あたし)

黄(……寝てる、よね?)

     ちゅ

橙「うぅん……」

黄「ッ!!?……せ、セーフ?」

橙「すーすー」

黄「ふぅ。……失礼しましたー……」

橙「すーすー……アウトだっつーの、あのバカ……」


『初キス狂想曲』

〜RAD SIDE〜

「「殴られた?」」

黒と橙が声を揃えた。ここはファミレス。定例男会議の真っ最中だ(いつ定例になったんだ by橙)。

「いきなりグーでがつーん、とだ」

俺はこの前のデート中、青に殴られたことを相談していた。どうして青があんなに怒っていたがさっぱりなんだ。

「お前が襲い掛かった、とかじゃねーの?」

俺にとっちゃご法度のコーラをすすりながら、めんどくさそうに橙がそんなことをほざいた。

「んなわけねーだろ!」

当然のように否定。

「待ち合わせに大遅刻した、とかじゃないのか?」

今度は黒だ。橙もそれに「あ、やりそう」とか加わる。こいつら……

「それもしねえって」

「……前はしたぞ」

こっちはコーヒーを飲みながら、俺が黒と白と一緒に遊びに行くときに遅刻した話を持ってきた。

「白は『何かあったのかな』なんて言いながら心配してたのに、実際はただの寝坊で遅れたんだよな?」

「うわサイテー」

……ぐぅの音も出ない。それにしてもこいつら、俺をいじめるときだけすごく息があう気がするんだけど。

「と、とにかく。今回は俺は何もやらかしてないはずだ!」

どうして青が怒ったのかがわからない以上、どう謝ればいいのかもわからない。ということでこいつらに相談してるのに、こんな風にすぐに話が逸れちゃ時間の無駄だ。俺は2人に真面目に考えてくれるように促した。

「うーん……」

「状況がわからないと何とも言えないな。どんなことをした後に殴られたんだ?」

黒が冷静に質問してきた。

「……そんなこと言われてもなぁ。俺はただ、青の髪についてたゴミを取っただけなのに」

「「はぁ?」」

またしても2人はシンクロした。はぁ?は俺が言いたい。

「いや、なんか、他にあんだろ」

橙が聞いてきたが、俺としては

「ねぇ」

と否定するしかない。あの時のデートはけっこううまくやっていたんだ。

むしろ今までのデートのなかで一番イイ感じだったと思う。

「……その、髪についていたゴミを取るときは、どんな感じだったんだ?」

神妙な顔をして黒が尋ねてくる。

「どんな感じ、っつーと?」

「場所や周りの状況、青さんの表情とかだ」

よくわからなかった俺に、淡々と追加説明をした。

黒の言葉で、俺はあの時の状況を深く思い出してみた。

「えっとだな……ちょうど、俺が青を家の近くまで送ってったときだ。もう夕方だったかな?ちょうど西日が射してたんだ」

ふんふん、と2人は相づちを打ちながら聞いている。

「そこでなんとなく黙りあっちゃったんだよな。何を言っていいかわかんねえ、っつーか。

で、青が俺の方を見て、俺の名前を呼んだわけよ。んで、青が目を瞑ったんだよな。そのときに青の前髪にゴミみたいなのがついてたから、それを取ってほしいんだと思って取ったら、グーパンチがきたんだ」

2人は黙りこくっている。

「どう思う?俺、なんか悪いことしたか?そんときのデートだって、うまくやってたんだぜ?」

俺の率直な疑問を2人にぶつけると、2人はため息をついた。そして無言のまま立ち上がった。

「……じゃあ、俺は失礼させてもらう」

「……色々とゴチソウサマ。とーぜんお前のオゴリだよな?」

そのまま帰ろうとする黒と橙を俺は引き止める。

「お、おい!ちょっと待てよ!俺がなんか悪かったのか?わかったなら教えてくれよ!」

俺としては真剣なのに、そんな俺を2人は何故か可哀相な人を見る目で俺を見る。

「……あえて言うなら、赤、空気を読め」

黒はまたため息をつきながら呟いた。

「今日び、漫画の鈍感キャラでもそれはねーぜ……」

橙は橙で呆れ返っている。な、何なんだよ!

「理由がわかってんなら教えてくれよ!」

俺の心からの嘆願に、仕方なさそうにしながら2人は席に戻った。

〜BLUE SIDE〜

「はぁ……」

何度目になるだろう、私はため息をつきながら、自らの行動を猛烈に反省していた。

私はバカか。勝手に期待して、勝手に恥ずかしがって、挙げ句勝手にへそ曲げて赤を殴ってくるなんて。

……赤になんて謝ればいいんだろう?『キスを待ってた』なんて口が裂けても言えないし。

———でも、やっぱり、期待しちゃったんだ。夕陽降る帰り道、高鳴る鼓動、向き合う2人。……あのタイミングなんだろうなぁ、って思ったのに……。

肩透かしを食らっちゃったんだもん。恥ずかしくもなる。それを赤の所為にするのはお門違いってわかってはいるんだけど。

「はぁ……」

ため息が止まらない。

「お姉ちゃーん、……何顔赤くしながらため息ついてるの?」

「なっ何でもないわよっ!」

妹が近くに来ていることにも気付かなかった。不覚……。

「ふーん……」

妹はニヤニヤしながらこちらを見てくる。絶対面白がってる。

「ほ、ほら!何か用があったんじゃないの!?」

私はそれをかわすため、必死に話を逸らしてみる。

「べっつにー、もういいやー」

空はやはりニヤニヤしながら私をジロジロと見る。

「用がないなら部屋に戻りなさい!」

私としては全く面白くないので空を追い返す。

「わかりましたー。……お姉ちゃん」

「……何?」

妹の声が少し真剣味を帯びたので、真面目に聞いてやろうとすると……

「素直になったほうがいいと思うな☆」

……まったく。

 

暗くなった、いつもの帰り道。今日もアイツは俺を待っててくれていた。

あんなことをしたのに、私は今日もアイツを待っていた。

それでもどこか気まずくて、俺らは黙って歩いていた。

そうそれは、まるでこの前の私たちようで。

———もしかして。

———今度こそ。

「……」

青は目を伏せている。……本当に、アイツらが言ったことを信じていいんだろうか。

「……なあ、青」

赤が急に声をかけてくる。私は驚いて顔を上げる。

「……何?」

かすかな声で青が応えた。

「……あのさ。……目、つぶってくんね?」

赤らしくない小さな声で、頼むように彼は言った。

「……いいよ」

少し黙ったあと、青は俺が言ったとおりにしてくれた。その表情はこの前と同じ。だけど俺が意識してるせいか、とても色っぽく見える。

「……」

沈黙。これはこの前と同じ。高鳴る鼓動もそのままだ。だけど、今日は、本当に———?

青の顔が今までにないぐらい近い距離にある。たった数センチを動かすだけの行動が、スローモーションに感じる。

赤の吐息を、間近に感じた。きっと、すぐそこに彼の顔があるんだ。

—————時が止まる、そう感じた————

「……あはははは」

照れたように、赤は笑った。

「……もぅ」

顔を真っ赤にしながら、青は照れ隠しで拗ねていた。

「あの……この前は、何か……ごめんな」

「ううん。もう、いい」

「そっか」

「うん。……赤?」

「なんだ?」

「……もう一回、いいかな?」

「……ああ、もちろん」


『お姫さま抱っこ』

橙「……前も思ったけど、意外と軽いのな」

黄「……それは、喜んでいいこと?」

橙「気にすんな。……つか、顔、近いよな……」

黄「……」

橙「……」

黄「……あっ、でもさ、こーゆーのってなんか結婚式ってカンジじゃない?」

橙「……結婚式、ねぇ」

黄「……」

橙「……」

黄「……する?」

橙「……今答えんの?」

黄「……」

橙「……」

まだまだ俺らは『幼なじみ』から抜け出せそうにはありません……


『お花見』

赤「おー、桜が満開だなー!」

青「綺麗ね」

赤「桜が咲いてるとなんか嬉しくなるよな」

青「わかるなぁ。ずっと見ていたくなるわよね」

赤「ああ。……あーなんか走りたくなってきたっ!」

青「え、ええ?!」

橙「桜、綺麗だなー」

黄「そうだね (モグモグ)」

橙「……ナニソレ?」

黄「お団子。みたらし」

橙「いや、わかるけど」

黄「美味しいよ?」

橙「花より団子を地でいくのな……」

黄「F4?」

橙「おい」

黄「やだなあ、わかってますって。冗談に決まってるでしょー」

橙「……」

黄「なにその疑った目」

橙「べっつにー」

黄「ホントにわかってるんだからね!」

橙「はいはい」

黄「ちょ、ちょっと!」

白「わー満開だー」

黒「すごいな」

白「私、桜大好き!」

黒「俺もだ」

白「人も多いねー」

黒「……大丈夫か、白?」

白「うん。今日は絶好調だよ!」

黒「そうか、よかった」

赤「ん?———おーい!!」

青「どうしたの?」

赤「黒と白がいるんだ。おーい!黒ー!白ー!」

白「あ!赤くんだ!」

黒「おう、赤。青さんも一緒か」

赤「そっちと同じでデート中でね」

黒「そうか」

青「赤、この子は黒君の彼女さん?」

赤「ああ。黒の彼女で、俺の友達だ」

白「こんにちは、青さん。白っていいます」

青「あ、こんにちは」

白「赤くんからお話は聞いてます。綺麗で、優しくて、可愛くて……」

青「えええ?!あ、赤、アンタ、他の人に何言ってるのよ!?」

赤「ホントのことだしいいじゃん」

青「そういうことじゃなくて!」

白「あはは。とっても仲もいいんですよね」

青「ま、まあ、付き合ってるし……」

赤「そりゃあもうラブラブだぜ!」

青「だから!アンタねえ!!」

橙「おーい、ずいぶん賑やかだなー」

黄「ダブルデートってやつ?」

赤「お、また賑やかなのがきたな」

橙「お前に言われたかねーよ」

白「わーw人がいっぱいww」

黒「嬉しいのか?」

白「うん。だってもしかしたらここの皆と友達になれるかもしれないでしょ?」

黒「そうか」

赤「よっしゃ、どうせだし、皆でお花見しようぜ!!」

全「賛成!」

 

『花見だしとりあえず酔わせてみた』

青「赤ぁ〜……きもちわるいよおぉ〜」

赤「お、おい!だ、大丈夫か?!」

青「大丈夫じゃない……」

赤「せ、背中さすってやろうか?」

青「うぅ〜……も、もうダメ……」

赤「え、おい!青?ちょ、ちょい待て、うわぁああ(ry」

白「えへへへぇ〜黒く〜ん(ギュー」

黒「し、白?!酒臭いぞ?おい赤!テメェ!」

白「どこいくのぉ〜?いっちゃやだぁ〜(ギュー」

黒「……だー……白、大丈夫か?」

白「だいじょーぶだよぉ〜。……黒く〜ん、大好きぃ〜」

黒「(……こりゃダメだな) おい白、立てるか?変えるぞ。それとももうちょっと休んでからにするか?」

白「むぅ〜本気にしてないなぁ〜。ならこれでどうだぁ〜」

ちゅー

黒「!!」

白「えっへへぇ」

黒「……帰るぞ。おぶる。白、乗れ」

白「むぅ〜」

黒「(まったく……色んな意味で危な過ぎるんだよ!)」

黄「きゃははははは!」

橙「お前は笑い上戸かい……ベタすぎんだろ……」

黄「きゃはははははははwww……すーすー」

橙「……寝るし。ったく、背負うか」

黄「……むにゃ……たいちゃん……えへへぇ……」

橙(寝言で人の名前を呼ぶんじゃねえ!気になる!どんな夢見てんだっつーの!だーくそ、背中が気持ちいいしよ!)


黄「橙って昔はほっぺ柔らかかったよね?」

橙「なんだよいきなり」

黄「いやなんとなく。今も柔らかいのかな?」

橙「は?おいちょっと待t」

黄「ぷにぷに〜柔らかーい♪」

橙「触んなって!くすぐったい!」

黄「ん〜でもほっぺ柔らかい人ってエロいって聞くしな〜」 ぷにぷに

橙「おい!」

黄「でも柔らかいなーさすがたいちゃん」 ぷにぷに

橙「意味わかんねえし。あとたいちゃん言うな。んでやめろ」

黄「えーでもー」 ぷにぷに

橙「……ちょっと、マジでやめてくれ……」

黄「え?」 ぷに

橙「……皆さんの視線が……」

 (ジロジロ)

黄「……。……ごめん」

橙「……絶対バカップルだと思われたぞ」

黄「……ホントごめん」

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『Q 恋人3組の中でどの組が一番バカップルですか?』

赤「とーぜん!俺と青—!!」

青「ちょ!!何言ってんのよバカ!!」

橙「その通りじゃね?」

黒「俺もそう思うが」

1.赤×青

赤「青ー、弁当ー」

青「まったく……はい」

赤「いつもいつも悪いな」

青「いいわよ。どうせ自分の分も作るんだし。一人分作るのも二人分作るのも同じよ」

赤「へへ、サンキューな。いただきまーす」

青「どうぞめしあがれ」

赤「うん、今日も旨い!」

青「そ、そう?」

赤「ああ。……青」

青「何?」

赤「あーんして」

青「バ、バカじゃないの?!!」

赤「ちぇー」

赤「どうだ!」

橙「どうだじゃねえよ」

青「もう……」

黒「バカップルというより、赤がバカなんだろうな」

橙「あ、それに俺も一票」

赤「何だとゴラぁ!」

橙「はいはい」

白「赤くんたちは仲いいねー」

赤「だろお?あー白は素直で可愛いなー、誰かさんたちと違って」

黒「黙れ」

赤「ひでえ……お前らはどうなんだよ?」

白「私と黒くん?」

黒「まあ……普通だよな?」

白「うん。私たちも仲いいよ♪」

2.黒×白

白「今日は暖かいね」

黒「そうだな、いい天気だ」

白「お散歩するのが気持ちいいよ♪」

黒「公園にでも寄ろうか?」

白「うん」

黒「決まりだな」

白「……えへへ」

黒「どうした?」

白「この前のお花見、楽しかったなーって」

黒「赤とかもいたもんな」

白「うん。それにね、青ちゃんとも橙くんとも黄色ちゃんとも友達になれたし!」

黒「よかったな」

白「うん! ……でもね」

黒「ん?」

白「……やっぱり、黒くんと一緒にいる時が一番!」

黒「……そうか」

橙「ほのぼのしてんなー」

赤「お前ら前からこんな感じだよな」

青「ホント仲いいわね」

白「えへへ」

黒「小さい頃からだからな」

黄「それならウチらも負けません!」

橙「いたのかお前……」

黄「む、失礼な。最初からいました」

赤「そういやお前らも幼なじみだもんな」

橙「俺らはそんなにいちゃついてねえけどな」

青「そうなの?」

黄「いやー……なんだか恥ずかしくてねえ」

赤「ん?でもお前ら前……」

3.橙×黄

赤「お前ら二人そろってメロンパン食ってんのかよ」

橙「いいだろ別に」

黄「好きなんだもん」

赤「ってか橙、よくそんなモソモソしたもんを飲み物なしで食えんな」

橙「缶コーヒーがそこにあんだろ」

赤「ん? じゃあ黄色が飲み物なしで食ってんのか?」

黄「え? だからそこに缶コーヒーあるでしょ?」

赤「一本しかねえけど?」

橙・黄「? 一本で足りるじゃん」

赤「あ、そう……」

赤「——だったじゃん」

橙「だから?」

赤「は?」

黄「なんかヘンかな?」

赤・黒・青「……」

白「わー、橙くんと黄色ちゃんも仲いいんだね」

橙「ま、まあな」

黄「それなりにはね」

赤「……おい黒、どう思う」

黒「自覚がない分こっちのほうが上だな」

青「ゴチソウサマ、ってやつよね」







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 12:13:06