メリークリスマス!

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『白×黒』

「一人で大丈夫だって言ってるでしょ! 私のことはほっといて!」

 自分でもびっくりするくらい大きな声を出して、私は玄関のサッシを勢いよく閉めた。最後に見えた黒ちゃんの顔は、ナイフで斬りつけられたみたいに歪んでた。

「……黒ちゃんが悪いんだからね!」

 胸がちくりと痛んだけど、寮に戻りたいという誘惑を全力で振り切って、私は大股で歩きだした。

「黒ちゃんが悪いんだもん。大丈夫だって言ってるのに、しつこくついてこようとするから……」

 駅前のデパートを目指しながら、私は早足でずんずんと進んだ——すぐに息が上がっちゃって、普通の速さに戻っちゃったけど。

「いつもだって、黒ちゃんは過保護すぎるんだよ。何をしてても二言目には『白、そろそろ終わりにしましょう』なんだから……私だって、やりたいこといっぱいあるのに」

 それは、私の身体のことを気遣ってくれてのことだと分かってはいるけど……小さな子供のころとは違うんだから、もう少し好きにさせて欲しい。

 それに今日は、今日だけはどうしても一人で行かなきゃいけなかった。だって今日は、黒ちゃんへのクリスマスプレゼントを買うつもりだから。

「黒ちゃんに一番似合うの選んで、びっくりさせてあげるんだから!」

 目の前に見えてきたデパートに向かって、私は大きく息を吸い込んで駆けだした。

 自動ドアが開くと、暖房の熱気と人いきれがむわっと押し寄せてきて、思わず一歩後ろに下がっちゃった。年末だからか、すごい人だかり。

 人並みを一生懸命漕いで辿り着いた目当ての宝石売り場も、周りほどではないけれどけっこう繁盛していた。

「んと……予算の範囲内で一番可愛いのはどれだろ……?」

 前に来たときと同じく、店員さんは私の方をちらっと見ただけで、もっと年上のお客さんの相手に戻っていった。ちょっと感じ悪いけど、その方がゆっくり選べてありがたいからいいかな。

 胸元から黒ちゃんにもらったネックレスをそっと取り出して、店頭の商品と見比べる。ここぞというときにしか身につけないその宝物に負けないのを選ばなきゃ!

 時間を忘れてショーケースの端から順に眺めていた私の足が止まった。吸い込まれるように顔をガラスに近づける。

「……これ、いいかも……」

 ブラックオニキスのペンダントトップ。これに銀のチェーンをつけて首に掛けたら、きっと大人っぽい黒ちゃんにぴったり。

「すみません……あの、すみません、これ下さい」

 なかなか気づいてくれない店員さんを何度も呼んで、ようやく買うことができた。

(黒ちゃん、喜んでくれるかな?)

 私は、黒ちゃんが自分のことで楽しそうにしているところをほとんど見たことがない。黒ちゃんが笑うのは、私が元気になったときだけだから。

 だから、今度のクリスマスだけは私の面倒見るのを忘れて、心から楽しんで欲しかった。このプレゼントがその役に立てばいいんだけど。

(……実は今日、このプレゼント買いに行ってたんだよって言ったら、黒ちゃんも許してくれるよね)

 出がけに見た黒ちゃんの顔を思い出して、また少し気持ちが重くなった。だけど今日だけは、黒ちゃんに頼らずに一人で全部やりたかったから。

 そう、私はいつも黒ちゃんに頼りきりだった。

 だから自分でも分からなくなってたみたい。こんな寒い日に自分がどれくらい動き回れるのかも……ほんとに体調が悪いときにどんな感じになるのかも。

 クリスマス用に包んでもらったプレゼントを受け取って、お会計を済ませる。少し、店員さんの声が遠くに聞こえた。

 振り返り、帰ろうとした私は他のお客さんとぶつかって尻餅をつき——そのまま、すーっと目の前が暗くなって倒れ込んだ。

 店員さんとお客さんが身体を揺するのをぼんやりと感じながら、私はおつりが出なくてよかったな、とか、床が冷たくて気持ちいいな、とか考えてた。

 目が覚めると、まずは馴染みのない天井が目に入った。嗅ぎ慣れた消毒液の匂いもする。病室にしては机や薬品棚があるし、たぶんデパートの医務室かな。

 無意識に右に身体をひねると、そこにはやっぱり黒ちゃんが座ってた。

「目が覚めた? 寒さでちょっと熱が出たみたいね。起きられるようならタクシー呼ぶけど、どう?」

「……もう少し横になっていたいかな」

「そう。それじゃゆっくりしていきましょう」

 黒ちゃんは私に毛布をかけ直すと、椅子に戻って私の顔をじっと見つめた。きっと、私が目を覚ますまでもずっとそうしてたんだろうな。

「……なんにも言わないんだね。怒ってないの?」

「怒っているわよ。でも今はゆっくり休んでもらわないと。私が偶然居あわせなかったら、きっと大騒ぎになってたわ」

 ふふ、偶然だって。それは嘘だよね、黒ちゃん。男の人だったらストーカーだよ?

「……何笑ってるのよ」

「何でもない。……ごめんね、黒ちゃん。ほんとはね、今日は私——」

「いいから休みなさい。あなたが謝ることなんて何もないし、あなたが今日何をしに来てたのかにも興味ないわ」

 それも嘘だよね、黒ちゃん。でも、黒ちゃんの嘘は温かくて優しいから、好き。

「うん、分かった……ごめんね、黒ちゃん……クリスマスもお正月も一緒にいてね。ずっと一緒にいてね……」

「……ええ。クリスマスもお正月も、これからもずっと一緒にいるわ」

 黒ちゃんに優しく髪を撫でてもらいながら、私は重くなってきたまぶたをゆっくり閉じた。

 やっぱり私は黒ちゃんが一緒じゃないとだめみたい。ふふふ……クリスマス、楽しみだね、黒ちゃん。







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 15:21:27