友情・愛情

 お見舞い

黒「調子はどう?」

白「黒色さん、来てくれたんですか…調子は大分良くなりました」

黒「そうか、急に倒れたときには驚いたから」

白「ご迷惑をかけて申し訳ありません。その上、私なんかのために来ていただいて…」

黒「…君に一つ言いたいことがある」

白「はい、なんでしょう?」

黒「犬が吠えるのは誰のせいだ?砂漠に雨が降らないのは誰の責任だ?」

白「えっと、言わんとしてることがわからないのですが」

黒「何故私に気を使う?君の体が悪いのは誰のせいでもない」

白「…黒色さん」

黒「悪くないなら謝らないでくれ。私はゴメンよりアリガトウが欲しいんだ」

泣き出す白色

白「はい…グス、ありがとう、ございます」

黒「うん、どういたしまして」

白「でも」

黒「ん?」

白「私は泣いてるのは貴方のせいですよ」

黒「そのようだな」

白「だから、明日も来てくれますか?」

黒「もちろんだ」


黒「水色、はっきり意見をいいなさい。皆あなたをリレーの選手として推薦してるわ。出るの?出ないの?」

水色「うー……」

緑「……」

黒「あなたがはっきり言わないから皆が残っているんじゃないの!」

水色「ごめんなさい……」

黒「ごめんなさいじゃわからないわ」

緑「水色さん」

水色「緑さん?」

緑「私たちの中で一番足が早いのはあなた。皆あなたに期待している」

水色「うぅ」

緑「でもね、気負いする必要はないわ。勝っても負けてもそれは皆で決めたこと」

水色「うん……」

黒「そうね、その点は私が保証するわ」

緑「出て、くれる?」

水色「……うん!」


青「ったく、何で休日にあんたと買い物なんかしなくちゃならないの?」

オ「青ちゃんが服選びにいきたいっていったからだよ。覚えてないの?」

青「覚えてるわよ! でもそれはあんたじゃなくて水色にゆったんだけど」

オ「でー水ちゃんが急に来れなくなって、私に代わりを頼んだのー」

青「はあー今度叱っとかなきゃ・・・・あれ?」

オ「ん? どしたの?」

二人が視線を向ける先には一人で制服姿で街を歩いてる緑の姿があった。

オ「何してるんだろ、一人で。声かけよっか」

青「やーよ。私が新学期のときあいつに話しかけて無視されたの知らなかったの?」

オ「ははは。あんな面白いこと知らないわけないじゃん」

青「ははは。いっぺん死んでみる?」

オ「ごめんなさい。調子にのりました。許してください」

青「とにかく、私は嫌よ。あいつと買い物にいくのは」

オ「まあまあ。とりあえず話だけ、ね」

青「あーーーもう! ひっぱるな!」



オ「ねえ、緑ちゃん。こんな所で何してんの?」

緑「・・・・・」

オ「買い物とかかな」

緑「・・・・」

青「ちょっと何かいったらどうなの」

オ「あーけんかはだめだよー」

オレンジはいつものが始まりそうなのを必死に止めた。(青が一方的に絡んでるともいうがw)

青「そもそもあんた、どうして休みなのに制服なの?」

緑「生徒手帳に・・書いてた・・・」

二人は何が言いたいのかわからなかったが、かまわず緑は続けた。

緑「外出時はなるべく制服着用」

オ「そういえば書いてあったような」

青「あんた、そんなの守ってんの」

緑「それに・・・この服以外はぱじゃましか持ってない・・・」

青「はあ?」

オ「今どきそんな子いるんだ・・・」

緑「だから・・・今日は買いにきたの。あなた達が着てるような服」

オ「キタ━(゚∀゚)━ッ!! 」

青「あんた、何でそんな話をよりによってこいつに!」

緑「この人どうしたの? 頭壊れた?」

青「こいつはね、自分がおしゃれなのに飽き足らず女の子をみると着飾りたくなるの」

(だからこいつとの買い物は苦手なんだけど・・・)

オ「私が服選んであげるからね、ハァハァ」

青が目をやると、緑がオレンジに引っ張られているのが見えた。

青「じゃあ、私は帰るから。二人で一緒に買い物でもしてきなさい」

そういってくるりと背を向けようとした青の服を、緑がギュっと握った。~

ちなみにもう一方の手はオレンジに引っ張られたままだ。
緑「あなたも来て」

青「何でよ。私は帰るのよ」

緑「お願い」

青「はいはい、わかったわよ。だからにらまないでよね」

そういって、まだ錯乱状態のオレンジに蹴りをくれてから、一同は店に向かった。

オ「で、あんたはどういう服がほしいの?」

緑「わからない・・・」

オ「ま、まあ適当に私が何着か見繕うから。はは・・・」 

その重苦しい雰囲気をかき消すかのように、三人が乗っていたエレベーターがチーンと目的の階についたことを告げる。

オ「ほ、ほら着いたよ。いこう」 そういって三人は婦人服売り場へと赴く。~
オ「じゃあまずは何から買おっか?」

緑「・・・」

青「ムカムカ」

オ「け、けんかは駄目だよ。ね」

仕方なく青は険悪そうな顔を和ませ、気持ちを切り替える。

青「じゃまずは、ちょっと出かける時の服でも買いましょ」

オ「う、うん。緑ちゃんもそれでいい?」

緑「任せる」

そういって、店の奥の方へと三人は入っていった。

オ「これなんか・・・」

青「何よ、そのでっかいくまの絵は・・緑は小○生じゃないのに。それにその服Lサイズって。あの子はどうみてもMじゃない。ちょっと緑! そんなとこにいないでこっち来なさいよ」

青に手招きされて、とことこと緑がそばまで来る。

そして、大きいTシャツを緑の背中にあててみた。

青「ほら? おしりまで隠れちゃうじゃない・・」

オ「でもこれはこれでかなり似合うって!」

青「・・・・・くくく! そ、そうね。・・なんか・・・似合うわ」

でっかいくまの絵がついた、あきらかにオーバーサイズなTシャツを身につけて、ぼんやり立っている緑を想像して 青はおかしくなって笑い出した。

オ「じゃあ、次は・・・この辺かな?」

そういって、緑の顔の前に二つのポロシャツをつきつけて、

オ「どっちがいいかな?」

緑「・・・え?・・・」

青「・・・え?っじゃないわよ! 服を買うってのは女にとって戦争なんだからね。そのためには努力を惜しんじゃだめなのよ!」

オレンジに比べると、とんとおしゃれに無頓着な青だが、そこはやはり女の子。

くる前までの険悪なムードは消え、いつしか仲良し三人組のような空気だ。

オ(よかった。やっぱり買い物は多い方がいいな)

そのまま、結局4着ほど普段着を買いこんだ。

オ「じゃあ、次はここね」

青「下着売り場か。確かにこの子ほとんどもってなさそうね」

オ「ぱんつはいいとして・・・緑ちゃん。ブラのサイズは?」

緑「・・・?・・・」

青「サイズよ、サイズ!」

緑「・・・・さいず?・・」

青「あー、もー! そんなことも知らないの、あんたは!」

慌ててオレンジは店員を呼ぶと、緑の胸のサイズを測ってもらった。



店「・・・・センチですね」

緑は隠れてガッツポーズをしている青と、自分の胸をみながら泣きそうになっているオレンジを不思議そうに見た。

緑「・・・・どうしたの?・・」

青「あ、い、いや、何でもないわよ! ねえ、オレンジ!」

オ「う、うん。じゃ、じゃあこれと、これでいいよね!」







そんなこんなで時間もずいぶんと過ぎ、買い物はラストにさしかかっていた。

オ「あとは、ちゃんとした時に着る服だね」

そうオレンジが言った時、青の電話が鳴り始めた。

青「はい、もしもし。あー、水! あんたねえ」

そういって電話にまくし始める青。

オ「長くなりそうだから、あのベンチで休憩しよっか?」

緑「・・・うん・・」

オ「ねえ、緑ちゃん。少しきいてもいい?」

緑「・・・・うん」

オ「今日の買い物、迷惑じゃなかった?」

それはオレンジがずっと気になっていたことだ。

緑「迷惑なんかじゃない・・・すごく・・・楽しかった・・」

だから緑が少し照れながらいってくれた時、本当にうれしかった。

オ「そうなんだ。私、みんなで遊ぶのが好きだから、ついつい無理に誘っちゃうんだよね。でも楽しかったなら、無理に誘ってよかったな」

緑「・・・うん。ありがとう」

オレンジはもうひとつ、前々から気になってる事を聞いてみた。

オ「ねえ緑ちゃん。もしかして青のこと本当は好き?」

緑「(///)ボン!」

オ「わっ」

緑「ど、ど、ど」

オ「大丈夫だから。緑ちゃん、落ち着いて」

緑「・・・・ど、どうして・・・わかったの(///)・・・」

何とか平静を保つことに成功した緑は、やっとのことでそれを聞いた。

オ「うーん。最初無視した時があったよね。青を」

緑「・・・・うん・・・」

オ「あの時は単純に嫌いなのかと思ってたけど、それにしては青の方をよく見るし。でも気付いたのは今日」

緑「・・・今日?・・・」

オ「うん。だって緑ちゃん青の方ばっかり見てるから」

緑「・・・・・・新学期のこと・・謝ろうと思ったの・・」

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オ「そうなんだ」

緑「・・・不安でしょうがない時に・・声かけてくれたのが青さんだったから」

オ「うん」

緑「・・・で、でも緊張して・・・・何にもしゃべれなくて・・・・それからも謝ろうと思って・・何度も声をかけようとしたんだけど・・」

オ「うまくしゃべれなかった?」

緑「・・・うん・・青さんの前にいくと・・・緊張しちゃって・・・」

オ「まあ、青は誤解してるみたいだから、はやく謝ったほうがいいよ。緑ちゃんが青のこと嫌いだって」

緑「! そ、そんなことない! 青さんのこと本当は好きなのに!」

オ「じゃあ、それを本人にいわなきゃ。ね?」

緑「・・で、でも・・・・・」

オ「まあ、言わなくてもいっか」

緑「・・・ど、どうして?・・・・・・」

オ「うしろで真っ赤な顔して聞いてるもん」

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緑「・・・・・・・?」

オレンジの言葉の意味がわからずうしろを振りかえってみると、そこには耳まで赤に染まった青が立っていた。

緑「(////)!!!!」



その後ぼーっとしていた二人だが、何とか立ち直り、

青「そ、そうならそうと、は、はやく言いなさいよ」

オ「青ったら照れてる。かーいい」

青「うっさい、だまれ!」

緑「・・・あ、青さん・・」

青「な、なによ」

緑「い、今まで・・・ごめんなさい・・・」

青「・・・別に、もう気にしてないわよ・・」

緑「ほ、ほんとに?」

青「あー、もう! あんたは今日からわたしの友達! いい!?」

緑「!」

青「どうなのよ?」

緑「・・・・・う・・・うん・・」

オ「あ、わたしも! よろしくね、緑ちゃん」

緑「・・・・・うん・・・・・うん・・・」

オ「じゃあ、買い物の続きしよっか?」~

青「じゃ、じゃあ私はあっちの方みてくるわ」
緑「・・・う、うん・・」

オ(な、何だろ、この疎外感・・・)

それもそのはず。さっきまでこの二人は今までのけんかがうそのように、楽しそうな雰囲気で手をつなぎながらここまできたのだ。

まるで付き合い始めたカップルのように。周りの人の目も気にせず。

緑は緑でせっかく仲良くなれた青が行ってしまって、ぼーっとしている。

結局、二人がずーっとその場で立ちつくしてると、青が何か持って二人のところにやってきた。

青「こ、これ緑に似合うんじゃない?」

緑「・・・うん・・・買う・・」

オ「な、なんで見もしないのに即答するの!」

緑「・・・でも・・・」

オ「でも・・じゃないの! 青はどんなの持ってきたの?」

青「これよ」

緑「・・・あ・・・」

青が持ってきたのは、ノースリーブのワンピースにひまわりの絵がかいてあるものだった。

オ「いいじゃない! 青が緑のために一生懸命選んだって感じね」

青「べ、別にそんなに真剣にえらんでなんかないわよ!」

緑「・・・・・・」

青「ほ、ほら緑もぼーっとしてないで試着してきなさい」

緑「・・え?・・・・うん・・」

緑はその服を受け取ると・・

シュル・・・シュル・・・・・ゴゾ・・ゴソゴソ・・

青「み・・・緑・・・あんた・・」

緑「・・・なに?・・」

オ「なに・・・してんの?・・」

緑「・・・?・・・・着替え・・・」

青「こ・・・こ・・・・こんなとこで いきなり 服なんて脱ぐんじゃないわよ!」

胸のリボンを取って、制服を脱ごうとした緑をかかえて、青は試着室にかけこんだ。

青「ほら!ここを こーすんの、そう、 あー違う、違う!・・」

緑「・・・ゆるいわ・・」

青「じゃあこれで・・・そう、ベルトできつくなるまで しめるのよ!」

緑「・・・・・苦しい・・」

青「バカ!しめすぎよ!」

試着室から聞こえてくる二人の会話を聞きながら、オレンジは仲良くなってくれて本当によかったと思った。

まもなく、試着室のカーテンが開かれた。

オ「わあ・・・・」

緑「・・・ど・・どうかな?・・」

オ「とっても可愛いよ! ねえ青」

青「ま、まあ私が選んだ服だしね」

緑「・・・ありがとう・・・」

入学式の時からずっと青に抱いていた感謝の気持ちを、初めて言うことができた緑の顔は服の柄のように見るものを元気づける笑顔だった。


緑「・・・ね・・・これ・・似合ってるかな?・・」

この前仲直りした時に、青が選んだ服を着ながら緑は尋ねた。

青「こ、この前いったじゃないのよ・・」

緑「・・・で・・でも・・もういっかい・・・だめ?・・」

青「に、似合ってるんじゃない?」

緑「・・・あ・・ありがと・・・」

二人して、勝手に頬が赤くなって何もいえなくなる。

緑「・・じゃ・・・じゃあ・・オレンジさんに選んでもらったの着てくる・・・」

緑の家で行なわれるファッションショーは始まったばかりだ。

青(・・というか、何で私は照れてんのよ!)

オ「何ていうか怪しさ絶好調って感じだねえ」

青「わっ!」

オ「何がわっ!よ。私もいること忘れてた?」

青「そ・・そんなこと・・」

オ「ま、あれだけ桃色吐息フィールド展開されたら、私なんかそこらの雑草にしか見えないですかー」

青「な、なにが桃色よ!」

オ「ん? あーそうか、百合色だったね」

青「違うわよ!(///)」

オ「じゃあさ、今からゆうセリフ次緑が来たらゆってみてよ?」

青「ど、どんなのよ?」

ゴニョ・・ゴニョ・・

青「そ、そんなのいえるわけないじゃない!」

オ「そう? 『普通』の友達ならよくいうよー?

あ、そっかー。二人は違ったんだっけー」

青「な、な、な」
オ「それならそうゆうの恥ずかしいかあー」

青「い、言ってやるわよ! 私たちが普通だってとこみせてやろうじゃない!」

オ「じゃ、次緑がきたらよろしくー」

青「あ・・ああ・・・」



緑「・・・あ・あの・こっちはどう?・・」

青(・・・落ち着け・・・って緊張するほうがおかしいのよ・・・

なるべく緑の方はみず、平静を装って・・・)

青「本当によく似合ってる・・ 緑・・とってもかわいいな」

もっと大変かと思ったのだが、すんなりと恥ずかしいセリフが口から出た。

緑「え・・」

しかし緑のほうは、突然青の口から出た言葉を理解できずにただ目をぱちくりする。

青は恥ずかしいのを顔に出さないよう注意しながら、彼女を見つめつづける。

やがて・・やっと今の青のセリフが緑の脳味噌に到達した。

緑「あ・・・・え・・・か・・かわ・・い・・・い?」

青(あ・・・緑が動揺してる・・)

赤面した彼女の顔になぜか気をよくした青は間髪入れずに、さらに言葉を続ける。

青「うん。緑はいつも可愛いけど、そういう服を着るともっとかわいいね」

青はそう言うと、オレンジに言われたように真っ赤な顔の緑をのぞきこんで、にっこりと笑った。

ぴーーーーーーーーーーっ!

緑の顔から、蒸気がふきだした。

緑(青さんが可愛いって・・わたしのこと可愛いって・・

かわ・・かわ・・あわあわ・・・・)

脳の中が血液と言葉でいっぱいになってしまった緑は、

緑「ぁ・・・う?・・うや?・・・」

と真っ赤な顔でもごもごと言葉にならない言葉を発すると、

ついに耐え切れなくなったのか部屋の外へと逃げてい・・

ガタンッ! ドタッ!

自分の部屋にあった本につまづいて、転んだ。

緑「ぁ・・・・・ぅ・・・・」

かけていたメガネもその拍子に外れてしまったが、

むくっと立ち上がりそのまま改めて逃げてしまった。

部屋に残ったのは、自分が言った言葉に今更テレまくっている青と、

今にも窒息しそうなぐらいお腹を抱えて笑っているオレンジだった。



緑(か・・・か・・・か・・かわいいよ・・・って!

は・・・はじめて・・青さんが・・・・)

足をバタバタさせながら緑の顔は今まで使ったことがないであろう、

顔の筋肉をはてしなく緩ませる。

緑(・・・し・・・しんぞう・・・そ・・・そんな・・

かわいいとか・・・ゆっちゃ・・・・だ・・だめ・・・)

ボスボスボスッ!

緑(・・・も・・・もしかしたら・・・

青さんも・・・わたしのこと・・・もしそうなら・・・)

緑は枕への暴行をやめ、今度はギューっと抱きしめる。

緑(・・・・・う・・うれしい・・・・・・)

枕を抱きながら右へ左へ、ごろんごろん

オ「な、何してるの?」

ドキッ!

ふいにかけられた声に、いもむしのようになっていた緑の心臓が跳ねあがった。

オレンジはというと、まだ部屋でプシューといっている青を置いてきて、

緑にトイレの場所を聞くために探していた。

オ「な・・・何かのたいそう?・・」

今にもふきだしそうなのをこらえて、やっとの思いで聞いた。

緑「(///)!!!!!」

ボン!!っと音を立てたかと思うと、そのまま緑はその場に崩れ落ちた。



結局そのあと、青に看病を任せオレンジは一足先に帰ることにした。

さすがにこれ以上は二人のほうがいいでしょ。

オ「やれやれ。仲直りしてもう一ヶ月たとうというのにあの子達はー。

まだまだくっつけるのに手がかかりそうだなあ・・・」

言葉とは裏腹に、その顔は新しいおもちゃを買ってもらった子供のようだった。


黒「ねえ緑」

緑「なに?」

黒「本ばかり読んでないでたまには外で遊ばない?」

緑「結構です」

黒「最近太り気味なのに?」

緑「…!結構です」

黒「私としては緑にはいつまでも綺麗なままでいて欲しいのに?」

緑「…自分勝手ですね」

黒「まあね。でも私のそういうところ嫌いじゃないでしょ?」

緑「そ、そんなこと」

黒「あるでしょ」

緑「…」

黒「…」

緑「…否定はしません」

黒「うん♪じゃあ行こうか」


IN図書室



黒「隣、いいかな?」

緑「ん」

黒「…」

緑「…」

黒「…」

緑「本、読まないんですか?」

黒「緑の顔を眺めにきただけだから」

緑「!?」

黒「ほら、そうやって驚く顔が可愛い」

緑「…」

黒「恥ずかしそうな表情もいいね」

緑「…」

黒「あ、拗ねちゃった」

緑「ここは図書室です。本を読まない人は帰ってください」

黒「そうだね、帰るよ。じゃあ」

緑「…」



緑「…本当に帰らなくてもいいのに」

黒「そうやって素直になればいいのに」

緑「!?…帰ったんじゃないんですか?」

黒「いいから、一緒に帰ろ」

緑「…はい」


ゴロゴロ〜 ピカ!ドーン!!

紫「きゃっ!」

黄緑「・・?・・紫どうしたの?・・あ・・・ひょっとして・・」

紫「ばっ・・ち・・違うわよ! あたしがカミナリなんかで怖がるわけないじゃない!」

黄緑「ほんとに?」

紫「そ、そうよ! ちょっとビックリしただけ・・」

ゴロゴロ・・・ドガシャーン!

紫「きゃー!! 黄緑!黄緑!」

黄緑「わ!・・く・・苦しい、紫・・」

ドカーン!バリバリ ドッシャーン!!

紫「わ!わ!黄緑!」

「ちょっと・・紫ちゃん・・落ちついて・・」



・・・1時間後・・・・

黄緑「・・・・ねえ?」

紫「な・・なによ・・」

黄緑「もうカミナリ、鳴ってないわよ」

紫「・・ま・・まだ怖いの! ・・・もうちょっとだけ・・・」

黄緑「ふふ・・・・」

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黄緑「あらあらどうしたの?」



紫「赤にセクハラされたの」

赤「えぇ〜私はただバスケしようって…」

紫「うるさい馬鹿〜!!」

黄緑「まぁまぁ、ところで紫ちゃんは何が嫌なの?」

紫「紫はちっちゃいとか餓鬼臭いとかみんなよってたかってあたしのこと馬鹿にしてさ…あたしだって桃とか黄緑みたいになりたかったもん」

黄緑「でも私は今の紫ちゃんすっごく可愛いと思うよ」

紫「だからそれがムカつくんだよ!上から見下ろした言い方して。みんな大っk…」



むぎゅ



紫「!!」



黄緑は力いっぱい紫を抱きしめる。

黄緑「紫ちゃん、それだけは言っちゃダメよ。その言葉で傷付く人は紫ちゃんが思ってるよりも沢山いるんだから」

紫「だって…だって…」

黄緑「わかってる、ごめんね。私達は紫ちゃんを傷付けちゃったのに…不公平だよね」

紫「黄緑は悪くないよ…」

黄緑「でも私は傷付いてる紫ちゃんに気付いてあげれなかった…」

紫「別にいいよ…」

黄緑「今度紫ちゃんを傷付けてくるやつがいたら私が守ってあげるから」

紫「いいってば!」

黄緑「それじゃあ仲直りにバスケでもやりましょうか!」

紫「え!?」

黄緑「それにね、紫ちゃん」

ヒソヒソ…

紫「赤、バスケやろう!!」

赤「うん!」

橙「いいもの見せてもらったし、あたしらもやるかぁ!!!」

一同「お〜!!」


『息抜きミントアイス』



「黙れミニサイズ」

「何だと、そっちこそ胸があたしよりミニサイズのくせに」

 目の前では、いつものように黒ちゃんと紫ちゃんが口喧嘩をしている。騒がしいのは嫌いではないけれど、少し苦手な私は誰にも聞こえないように溜息を吐いた。

「おいお前ら、喧嘩なら外でやってくれよ」

 隣に居る色無くんが露骨に吐息をして、二人を見た。

「と言うか、人ン家に来たんだから少しは遠慮しろ」

 そう、ここは色無くんの家。何故わたしがここに居るかといえば、先日一人暮らしをしていると分かった色無くんの家を見学に来ているからだ。正確には、見学に行こうとしていた二人組に強制的に引っ張られて連れて来られた状態になる。

「いい加減にしろよ、追い出すぞ?」

 苦笑を浮かべながら、それでも追い出そうとしていないのはテーブルに置いたドリンクで分かる。それぞれの好みにあわせたものを用意してくれている。そんな優しさが分かっているから二人とも安心して喧嘩をしているんだろう。

「二人とも、喧嘩をやめて」

 だからといって、いつまでも喧嘩をして良いという理屈にはならない。いくら色無くんが優しいといっても、そこまでして良いというのは間違いだから。

「いい加減にしないと追い出すわよ、わたしが」

 少し怒った調子で言うと、二人はばつが悪そうに黙った。

「ほら、仲良くゲームの続きでもしてろ」

 色無くんの言葉に二人はプレステを再開する。すぐに笑いあって遊び始めるのを見ると、よく喧嘩をするけれどやっぱり友達同士なんだろうなと思う。

「悪いな」

 小さく呟いた色無くんに、わたしは笑顔で返す。

 そのまま一時間が過ぎて、遊び疲れたのか二人は寝息をたてていた。

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「散々騒いだあと、遊び疲れて寝るとか。本当に俺と同級生かよこの二人」

 そう愚痴をこぼしながらも、不快な表情は浮かべていない。そんなところを見ていると、改めて色無くんは優しいんだなと思う。人によっては甘いとか言われるかもしれないけれど、わたしはそれが色無くんの良いところだと思った。

 不意に色無くんは立ち上がると、冷蔵庫から何かカップを持ってきた。

「お姉さん役、お疲れ様」

 言葉と一緒に差し出されたのは、好物のミントアイス。それをわたしに渡しながら、色無くんは隣に腰を下ろした。

「偉そうな言い方だけと、御褒美。たまには息抜きをしたり楽しなきゃ、息が詰まるぞ?」

「ありがとう」

 そう言うと、わたしはカップアイスの蓋を開けながら色無くんにもたれかかった。一瞬戸惑うような顔をしたけど、すぐに笑顔を浮かべる。

「何のつもりだよ」

「たまには、楽をしないと駄目なんでしょう?」

 わたしも笑みを浮かべながら、ミントアイスを食べ始める。

 これを食べ終ったら、肩でも借りて一眠りすることにしよう。


◆茶自室にて



茶『はぁ…、黒ちゃん。なんで私、こう失敗ばかりなのかな…』

ベッドの上に腰掛けた茶は隣に座っている黒に問いかける。



黒『そんな事、私に聞いたって解る訳ないだろう?』

茶『…ん、そうだよね。あはは………』

黒『…まぁ、強いて言うならば、だ。隙が大きいんだろうな。

だから何事に対しても、失敗しやすいし付け込まれ易いんだろう』

茶『隙?』

黒『そうだ。例えば———』



そう言うと黒は突然、茶をベットの上に組み伏せ馬乗りになる。



茶『あぅッ!!苦し…痛いよ、黒ちゃん…』

黒『ほら見た事か。この程度の事で容易に組伏せられてしまう。

こうなったらもう相手のしたい放題だ』

身動きの取れない茶の顎を押さえ、妖艶に笑うと黒は自らの唇を茶の唇に重ねる。



茶『…ん……っ!?』

驚きに目を見開く茶の様子を愉しむ様に幾度も口づけを重ねる黒。

黒『んふぅ……っふ』

茶『…ん……っは…』

唇の隙間から滑り込み、絡まってくる舌の感触や

二人の口から漏れる水音に茶の脳内は支配されていく。

やがて、くたりと茶の四肢から力が抜けたのを確認すると

黒は名残惜しそうに唇を離した。


茶『っはぁ…、はぁ、はぁ…黒ちゃん……』

茶は潤み、焦点の合わない瞳で黒を見上げる。

黒『そう焦らずとも、これ位では終わらないさ。そう、こんなのは前菜に過ぎない…』

潤んだ表情に嗜虐心を刺激され、茶の制服をはだけさせると首筋に舌を這わせる。

(※睡魔に襲われたので妄想が強制シャットダウンされました)


体育祭当日、黒が種目の合間に歩いていると、たくさんの荷物を持って辛そうにしている水がいた。

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黒「ん? 何をしている、水」

水「・・・ぁ・・黒さん・・・・」

水は、黒に声をかけてもらう嬉しさと同時に、また迷惑をかけてしまうであろう事にひどく心を痛めた。

黒「その山ほどに持っているドリンクを、どこかに持っていくのか?」

水「・・・・ぅ・・・うん・・みんなに配るの・・・」

黒「やれやれ、また担任のバカにおしつけられたんだろ。

言いたい事は言わないと駄目だぞ、と何回もいってるのにな」

水「ご・・・ごめんなさ・・」

黒「ほれ、貸してみろ」

水「あっ・・・・」

黒「先にいっているからな」

また迷惑をかけてしまった。

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水(何で私ってこうなんだろ・・・)

気が弱いせいで委員を押し付けられてしまったが、今みたいに黒に助けられてばっかりだ。

次こそは黒に感謝の言葉を、と思えば思うほど言葉にできない。

黒みたいに言いたい事がいえない自分に、腹が立つ。

水(・・・だけど今日こそは・・・ちゃんといわなきゃ・・・)

自分がいつも助けてもらっている感謝の気持ちを。

自分とは正反対で、強い彼女への憧憬の念を。

そう固く決意を決めた。

『借り物競争に出場する生徒は直ぐに集合して下さい』

水「・・・・あ・・いかなきゃ・・・」

自分がその種目にでることを思い出し、水はあわてて走り出した。



『では次の選手どうぞ』

どうやって黒に話しかけようか、と考えている水にとって、
競技の順番はすぐに回ってきた。

遅れてコースに入る水。

『位置について・・・・よーーい・・・』

パンッ!

銃声が聞こえたと同時に、生徒たちがスタートする。

水はこう見えて中々足がはやく、借り物のお題が書いてある紙がある場所まで一番についた。

水「えーと・・・お題は何かな?・・・」

水が何とはなしに紙をめくると、

水「!」

そこには『好きな人』と、ただそう書いてあった。

たった4文字の言葉に、だが水の心は途方もなくなる。

水(あ・・・ああ・・・・・)

緊張で足が震える。

その間に他の生徒たちも水に追いつき、次々と紙を見ている。

けれど水はその場で動かないままだ。

水(・・・好・・好きな人は・・・でも・・・私なんか・・・)

種目をやる前にあんなに心に誓ったはずなのに、水はまたもや何もできずに立ち尽くしている。

気付けば水以外の生徒はゴールしており、
いつまで経っても紙を手に動かない彼女をいぶかしげに見ている。

水(ぉ・・・お願い・・・見ないで!・・・)

そういって今にも気を失いそうな水の耳に、

黒「水ーーーーーーーー!!!」

生徒の観戦席から黒の大声が聞こえた。

水「!」

黒「自分から逃げるな! おまえならできる!」

その声を聞いた途端に、さっきまでの不安がうそみたいに吹き飛んだ。

黒「私が一緒に走ってやるからここまでこい!」

水(・・・・ここでいかなきゃ・・・・・!
私のためにあんなにしてくれてる黒さんに会わせる顔がない!)

水は今にも崩れそうになるのを耐え、黒の元へと急いだ。



黒「まあビリなのは仕方ないな・・・でなんで泣いてるんだ?」

そう問いかけたのは、目をやった水がとめどなく涙を流しているからだ。

私の所に走ってきた時から今まで、ずっと泣きっぱなしだ。

仕方なく黒は水の手を引っ張って、人のいない体育館裏まで連れてきた。

水「・・・も・・・・ぃぃ・・・す・・」

黒「どうした?」

気を抜くと、すぐに涙でぼやけてしまう黒を、勇気をふりしぼって水は見る。

水「う・・んぐ・・」

逃げ出したい。怖くて仕方が無い。

しかし 言わなくてはならない、聞かなくてはいけない事がある。

彼女とのこれからのために。

水「す・・・・す・・・好きに・・・なっても・・いいですか?」

涙につかえながら、水の口から小さな言葉がこぼれる。

水「黒・・さんのこと・・ひっく・・見て・・いたいと・・思っていいですか?」

一度こぼれたらもう、止まらない。

溢れた涙と一緒に心の奥にある今まで言えなかった言葉が次々とあふれ出た。

水「ずっと・・・・・・うぐ・・・・ずっと・・一緒にいたいと・・
思って・・も・・いいですか?」

素直な・・なんの飾り気も無い言葉。

彼女の心の中の言葉がそのまま声となって黒の胸に響く。

水「・・私が一緒にいたら・・黒さんに・・迷惑かけるの・・」

そう言って 彼女はうつむく。

下を向いた拍子に、涙がポタポタと地面に落ちた。

水「ごめんなさい・・あ・・やま・・ります・・

ごめ・・んなさい・・・・う・・ぐしゅっ・・」

自分がいると、黒に迷惑をかけることになる。

黒「水・・」

それが水にはたまらなく辛い。

もし黒が嫌がったら・・そう思っただけで、
足が震えて、立っていられなくなる。

水「ごめんなさい・・ごめっ・・う・」

何度も手で涙をぬぐい、しゃくりあげながら・・水は必死に言葉を探した。

そして勇気を出して、もう一度顔を上げる。

水「・・でも・・でも・・好きです・・一緒に・・いたいです・・
・・ご・・・・ご・・ごめんな・・さ・・」

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 もう、それ以上言わせなかった。

水「・・・んっ!むぐ・・」

黒は耐え切れずに腕を伸ばして、力の限り思いっきり彼女を抱きしめた。

涙と鼻水でぐしゃぐしゃの彼女があまりにも可愛くて、

黒「・・・」

黒は目を細めながらそっと手を伸ばし、頬にながれる彼女の涙を手のひらでぬぐう。

水「ん・・・ぐ・・」

温かくて、優しい手が自分の顔をなでてくれる。

嬉しいのと、恥ずかしいのと、それよりもっと大きな暖かい気持ちが溢れて、
水の瞳からまた新しく涙がこぼれる。

水「ひっ・・ひっく・・黒さん・・・・」

黒はそれでもゆっくりと、何度も彼女の涙をぬぐう。

黒「私は・・・・おまえといて、迷惑だなんて一度も思った事がないぞ」

黒の口から優しい言葉が聞こえる。

水「・・ぐすっ・・・・・ほんとう?」

顔をなでられながら、水は鼻声で聞く。

黒「本当だ」

黒はそんな彼女に優しく笑いかけた。

水「めいわ・・く・・しない?」

心配なのだろう。

ひっくひっく言いながらも、彼女は黒の顔を見る。

黒「しない」

簡潔で、何の飾り気もない黒の暖かい答えが、彼女の心をやさしく包む。

水「・・ほん・・とう?」

黒「本当だ」

うたぐり深い水がおかしくて、少し笑いながら彼女は頷く。

水「じゃあ・・・・・じゃあ・・」

必死に次の質問を探す水のあたまを、黒は再びそっと自分の胸の中に抱いた。

水「・・・ふこうに・・ならない?・・・」

まだ 胸の中で 何か言ってる。

黒「ならないよ。・・・むしろおまえがいて幸せなくらいだ」

黒は右手で彼女の淡い水色の髪を撫でながら、穏やかな声で答える。

水「・・・ほんとう?」

黒「本当だ」

水(・・・・・)

目を閉じて暖かい暗闇の中で、彼女の鼓動に耳を傾ける。

なんという心地よさ・・・そしてなんというしあわせなのだろう。

ずっと・・・これからもこの中にいたい。

今日までずっといおうと思っていたこの願いを、
水は彼女の胸の中から小さく・・・口に出してみる。 

水「・・・・友達に・・なって・・くれませんか?・・」

すると、水の背中に回った黒の腕にさらに力が入り、

黒「ああ・・・・・いいよ」

水の体がさらに黒の胸の中にうずまった。

水「ほん・・」

黒「本当だ」

もう何も言う事は無い。水の頭の中はもう、幸せが一杯になりすぎて、
他に何も考える事ができなくなった。

水「・・・・・ありがとう」

ただそう小さくそうつぶやくと、彼女はまた、ゆっくりと目を閉じた。

 

水「・・・・・・・・・・ほぉ」

水(かっこいいなぁ・・・・黒さん・・はぅ・・・)

そう思いながら、体育祭の帰り道を横に並んで歩いている黒を見る。

黒「私の顔をじーっと見て、どうかしたのか?」

水「ぅ、ううん! 何でもないの」

黒「そうか。ところで借り物競争の紙には結局何と書いていたのだ?」

水「・・・・・・え?」

黒「いや、あの状況だから仕方なかったが、

もし私が違うお題だったらすまないことをした、と思っているのでな」

水(借り物競争のお・・・だ・・い・・・(/////)!!!!)

黒「確かあの競技は公平を期すため、

後日一位なったクラスはお題を発表されるのではないのか?」

そうなのだ。

水こそビリだったものの、他の生徒による活躍のおかげで彼女たちのクラスは学校で一位だったのだ。

ちなみに、黒のいった制度があるため借り物競争にでたがる人はほぼいない。

だからこそ水がみんなに頼まれてでたわけだが。

水「ぁ・・・・あの紙には・・・・・その・・・」

黒「どうした。いいにくいことなのか?」

水「そんなことは・・・・」

黒「ならいってくれないか」

水「す・・・・好きな人・・・って・・」

黒「ほう」

水はもちろんのことだが、平静を装っている黒も先ほどのことを思い出したのか、

心なしか顔が赤い。

水「わ・・・わたしは・・・・黒さんのこと好きだから・・・」

黒「そうか。私も水のことは好きだぞ」

水「す、す、す・・・・・(///)」

口をパクパクさせながら、今にも倒れそうなくらい水は心拍数があがっている。

黒「ああ。私は水が大好きだぞ」

水(わ・わ・・・あわあわわ・・・・・・・・・)

先ほどは自分の気持ちを言うのに精一杯で、あまり気にならなかったが、

冷静になった今の水では黒の言葉はあまりに効く。

何しろずっとあこがれていたのだ。動揺しないわけがない。

黒「どうした水。具合でも悪いのか?」

水「あ・・ぁぁ・・だ・・だいじょうぶ・・です・・」

黒「顔もものすごく赤いし・・かぜか?」

コツン。

そういって黒が水の額に頭を合わせた。

水「ひゃあああああああああああ!!(/////)」

ぷしゅーーーーーーーーーー。

そう湯気をたてて、水がたおれた。

黒「大丈夫か!?」

あわてて水をだきかかえるが、どうやら気を失っているだけらしい。

黒「仕方ない。おぶってやるか」

そういって水の家へと向かう黒の顔はどこか幸せそうだった。


『−旅色ー』



何も考えずに日本を出発して半年…

少しの着替えと蓄えていた定期を解約して旅に出た。



米の国の田舎町っていうのはどこも似ていて、でもその町の色ってのがあったりする。この間までいた町では少年と少女の恋物語にお節介を焼いた。ハッピーエンドの2人と笑顔で別れたけど、少しうらやましいとも思った。



だけど今日辿り着いた町で俺は…

「今日はこの町だな。」

【よしゃー!久しぶりにまともな飯が喰えるおw】

「ったく、おまいは1回位食事作れ!!町に着かないと毎日さn」

【お、食堂ハケーン!ブーーーーン】

「ちょwww待ておめー!wwww」

そこは食堂というより酒場に近かった。いわゆる西部劇に出てきそうなふいんき(何故かryの店だ。[いらっしゃい!]

と、女性の声が聞こえる。俺達は適当に席を探して腰を降ろすと、

[何にするんだい?]

体格の良い〜先程の声の主〜朱色髪の女性が聞いてくる。

「何が旨いんですか?」

[ウチは何でも旨いよ?今日のオススメはコレかコレだね。]

【んじゃ俺はコレとコレとコレとコレとコーラの2L】

「おまwwwまたそんなに喰うのかよ?」

【これでも足りない方だお!本来ならこの数で大盛が基本だお?】

「マ ジ で?どうやったらその体けi…」

[兄さんはどうするんだい?]

俺達の会話に少し笑いを堪えながら尋ねてきた。

「ああ、ごめんなさい。俺はコレとホットカフェオレ。量は普通でwww」

[ハハハ、ハイよ!]

と、女性は笑いながら伝票をエプロンのポケットにしまい厨房へ向かう。



「しかし結構遠くまで来たな」

【そうかお?僕なら半日で帰れるお?】



今、一緒に旅しているコイツはブン。本名は…長いから覚えてない。この国で出会った友人だ。コイツのおかげで楽しい旅になっている。



「は?意味ワカラナス」

【こうやって手をひろg】

[お待たせ!]

ブンの意味不明な話の途中で女性が食事を持ってきた。

【うはwww特盛りktkr】

[さっきの話、聞いたからね?]

【いただきマンモスwwww】

「おまwwお礼位言えよwwwすいません、ありがとうございます。」

[いいから、若い内は沢山たべなくっちゃね?]

笑いながら戻って行く。なんだか町のお母さんって感じだな…

「いただきます。」俺も早速頂く事にしよう。

手を合わせ、料理を口に運ぶ。

「ーーーー!」

流石に言うだけあって旨い。この一週間、缶詰めしか食べてなかった事を差し引いても、旨い。

[コレも食べな?]

と、女性がフライドポテトを持ってきてくれた。

「えっ!?イイんですか?」

[アンタ達、旅してるんだろ?コレは旅の話を聞かせてもらう為さ!この店は旅人にはサービスしてるのさ]

と、ウインクして戻っていった。この町は少し居心地が良いかもしれない…

【ふいー旨かったおwww】

「確かにwww」

全部(ポテトも8割ブンが喰った)平らげて人心地ついていると

[ホントに食べたんだ…]

さっきの女性がトレイにドーナツと飲み物を乗せてやってきた。どうやら休憩らしい。

「ご馳走様でした。すごく旨かったです。」

【本当だお!み な ぎ っ て き た お !!】

[ハハハ、そりゃ良かった!でもお礼ならアソコの親父にイイな?]

指差した方向に髭も白髪の男性が新聞を読んでいた。どうやら店の主人らしい。

[ところでアンタはこっちの人みたいだけど?]

【色無は日本人だお。半年前に来て、僕の家の前で倒れてたんだおwww】

[ハハハ、観光…じゃないんだろ?]

「はいwwwなんとなく来てみましたwww」

[そうかいwwwそういうのも若い内www]

などと、いきさつや今まで旅してきた町での出来事を話していると〜



ーーーーーバタン!!



『ハァハァ…ごめんなさい!ハァハァち…遅刻…しました!』

息を切らせて一人の少女が駆け込んできた。



この出会いが俺の運命を変える事はまだ先の話…


黒「あら緑色、眼鏡かけたの?」

緑「うん」

黒「また、かけるようになったのね。やっぱり緑には眼鏡が似合っているわ」

緑「うん……」

黒「もしかして、アイツのおかげかしら?」

緑「!!」

黒「やっぱりね。ふふ、眼鏡をかけているあなたが睨んでもちっとも恐くないわ」

緑「もう……」

黒「眼鏡をかけていたあなたは男子からイジメられていたわね、ガリ勉眼鏡女って。それであなたは眼鏡を外したわ。眼鏡を外したあなたの厳しい視線で、誰もあなたにとやかく言わなくなった。けれど、それはあなたの持つ良い所を全て隠してしまっていたわ」

緑「……」

黒「でも、アイツは隠れていた緑色の良い所をちゃんと見つけてくれたのね。これで私も安心、後はアイツに全部任せるわ。そうね、まだアイツの知らない緑色の良い所、全部教えてこなくちゃ」

緑「ダ、ダメーーーーー!!」

黒「ば、ばかっ!髪を引っ張らないで!」


街のスーパーで黄緑が買い物をしていると、見慣れた制服が目に入った。

黄緑「あ・・・紫ちゃん」

紫「!」

呼ばれて紫は、小さな牛乳パックを持って振り返った。

紫「き、黄緑」

そういった紫の顔は、真っ赤に染まっていた。

いつも強気な彼女からは想像できない落ち着きのない様子でもある。

黄緑「紫ちゃんも買い物?」

紫「・・・・ああ・・・」

黄緑「私は晩御飯の買い物なんだ」

紫「・・・・そうか・・・」

黄緑「確か一人ぐらしだったから、紫ちゃんも晩御飯の買い物かな?」

紫「・・・・・・・」

紫はそう問われて黙りこんで、下を向いた。

紫「・・・ちがう・・」

黄緑「?」

紫「・・・ネコ・・・」

黄緑「ネコ?」

紫「・・・・・・・」

その時黄緑は紫の持っている物に気が付いた。

大きめのタオルに底の浅い皿、そして牛乳。

ここまできてわからないわけはない。

黄緑「ひょっとして・・・拾ったの?」

ビクッ。

核心をつかれ、紫の肩が震えた。

黄緑「そうなんだ・・・」

納得がいった黄緑は優しい目をして紫を見た。

紫「わ、わるいかよ」

黄緑「ううん、そんなことないよ。紫ちゃん、そのネコは子猫?」

紫「あ、ああ」

黄緑「じゃあ少し温めてから、ミルクをあげてね」

紫「わ、わかってるよ」

その言葉とは裏腹に紫の顔は動揺しきっている。

その顔をみた黄緑は心配になって、

黄緑「あの・・・お世話手伝おうか?」

紫「・・・・!?・・・」

黄緑「別に迷惑ならいいんだけど・・・」

紫「き、黄緑が手伝いたいなら、別にいいよ」

黄緑「ふふ。じゃあお手伝いさせてもらいます」

紫「わ、わかった」



二人がスーパーから出て紫の部屋に入るまで、十分とかからなかった。

今黄緑は、紫の家の台所を借りてミルクを温めている。

紫(どうしよう・・・・)

スーパーで黄緑に出会ってから、紫は緊張しっぱなしだ。

何となくでここまで来たが、紫は友達を家に入れたことがない。

だからこの初めてのこの状況で、紫の心臓はバクバクいっている。

黄緑「紫ちゃん、お皿は?」

紫「・・・ああ。これだよ」

黄緑はもらった皿にミルクを移すと、ネコの前にさしだした。

黄緑「さ、どうぞ。ミルクだよ」

ネ「にゃ?」

そう鳴いて、皿のミルクをひとなめしてみて、

その後は猛然とした勢いでミルクをなめ始めた。

黄緑「ほっ・・・なめてくれて助かったね」

紫「・・・あ・・ありがとな・・」

黄緑「どういたしまして」



ミルクがなくなった皿を黄緑が片付けようとすると、紫のお腹辺りから

くー、と可愛らしい音が鳴った。

黄緑が顔を上げ、彼女の方を見ると、紫は真っ赤な顔で視線をそらした。

どうやらお腹が空いてるのはネコだけではないらしい。

黄緑はそんな彼女を見て、 やさしい声で言った。

黄緑「おなかすいたね。私たちも晩御飯にしようよ」

紫「別にすいてないもん」

だが意地っ張りな彼女は思いを素直にいえない。

紫「それに迷惑だろ?」

黄緑「そんなことないけど・・・」

紫「わたしはいいよ」

だがそういう彼女の顔は、残念そうだった。

黄緑「私お腹すいたんだ。だから自分のためにご飯作るよ。気にしないで」

紫「・・・・・・」

黄緑「ちょっと多めに作るから、紫ちゃんのもできちゃうかもね」

紫「の、残すのもったいないから食べてやるよ」

黄緑「ふふ。じゃあお願いね」

黄緑はトコトコと台所に向かっていった。

紫「バカ・・・・・ありがとう・・」



夕食会が終わり、時間は九時になろうかとしていた。

黄緑「じゃあ、私そろそろ帰るね」

紫「!」

その言葉に驚いた紫は、黄緑の顔をみつめる。

黄緑「どうしたの、紫ちゃん?」

紫「・・・何でもないよ・・」

けれど彼女の様子はどこか寂しそうだった。

黄緑「また・・・ネコ見に来てもいいかな?」

紫「え!?」

黄緑「迷惑じゃなかったらだけど・・」

紫「別に・・・来たいならきてもいいぞ・・」

黄緑「じゃあ、またくるね」

嬉しそうな顔をすると、紫に別れを告げた。



そんなこんなで、紫がネコを拾ってからおよそ1週間がたったある日のこと。

台風が日本列島に近づいてきている影響で、今日は朝から凄い雨だ。

しかし、警報がでない限り休みにならない学校には、とーてい関係の無い話であった。

黄緑「そういえば、ネコの名前決まった?」

そう切り出したのは、昼休みのこと。

紫「あ・・ああ・・いちおうな・・」

黄緑「あ、決まったんだ。なんていう名前?」

紫「・・・ひみつだ・・」

黄緑「ひみつなの? 気になるなあ」

紫「ぜったい教えないからな!(////)」

何故か顔を赤くして、そうまくしたてる紫。

黄緑「だ、だいじょうぶ。無理にとはいわないから」

紫「そ、そうか」

黄緑「それよりもまた、ネコに会いにいってもいいかな?」

紫「別に私は・・・いいよ」

黄緑「ありがとうね」



その日の夜、委員の居残りで紫の帰宅はおそくなっていた。

台風の影響で、人影もあまりない。

ザーーーーーーーーーーーーーーッ

台風が一段と近づいてきたのか、物凄い雨だ。

体重の軽い紫は風に飛ばされないよう気を付けながら、よろよろと嵐の中、家路を急いだ。

家に帰ってから電気をつけようとして、ようやく彼女はあることに気が付いた。

紫(おかしい・・・・・・)

いつもなら紫がドアを開けるやいなやじゃれてくる、ネコの姿がないのだ。

紫は急いで電気を付け、ベットの方を見たがネコの姿はない。

紫「・・・・・・・」

なぜか紫の鼓動は少しずつ早くなっていく。

台所の方や、風呂場の方へもいってみる。

紫の鼓動はどんどん早くなっていく。

しまいに紫は床にはいつくばって見回した。

いない。

紫「・・・・うそ・・」

どうしていいのかまったくわからない。

呆然としている彼女の体に冷たい風が吹きつけた。

紫「あっ・・・・」

慌てて視線をやると、そこにはちょうど子猫が通れるぐらいに開いている窓があった。

その瞬間かさも取らず、紫は外へと飛びだした。



暴風警報に変わった街にはほとんど人影がない。

そんな中を紫はずっと歩いていた。

雨は家をでた時よりも更にひどくなり、雨粒がいたいくらいだ。

たまらず紫は閉まっている店の軒先に避難した。

あまりの寒さに紫は自分の両肩を自分で抱きかかえて、身を縮めた。

紫「・・はぁ・・・はぁー・・はぁー・・・う・・・うう・・・・・」

急にさみしさと、不安と、苛立ちが一気にこみ上げてきて、紫は泣きそうな顔になった。

紫「・・う・・う・・・」

嗚咽を必死にかみ殺して絶えていると、

脳裏に同じように雨に濡れて震えているネコの姿が浮かんだ。

紫(・・・こうしてても・・だめだ・・・)



黄緑母「きみどりー、電話よー」

黄緑「誰から?」

黄緑母「紫ちゃんって子からよ。はい、受話器」

黄緑「こんな時間にどうしたんだろ?もしもし?」

黄緑の耳に入ってきたのはまず、ものすごい雨の音だ。

すると、それらの音にかき消されそうな小さな声がした。

紫(・・・黄緑・・・・・・・・・うっ・・・)

黄緑「紫ちゃん、どうしたの?外にいるの?どこ?」

紫(・・・・・・・・こうえん・・・・・・)

黄緑「公園?・・・・・あの高台の公園?」

紫(・・・・・・うん・・・・)

黄緑「どうしてこんな日にそんなところに・・」

紫(いないの・・・・ネコ・・・・ )

黄緑「・・・・まさか・・・いなくなったの!?ネコが!!」

紫(・・・・うん・・・・いないの・・)

黄緑の脳裏に、どしゃ降りの雨の公園で、

一人電話ボックスで不安と寒さに震えている紫の姿が浮かんだ。

胸の奥が鋭く痛んで、黄緑はわけもわからず、涙が出てきそうになった。

黄緑「紫ちゃん、すぐに行くからそこにいて。必ずだよ」

紫(・・・え?・・・)

黄緑はダッシュで玄関へと移動すると、傘をつかみ外にとびだした。



紫(・・きみどりに・・・でんわ・・)

その考えがうかんでも、生来が意地っ張りな彼女はすぐに電話できなかった。

でも寒さで目がかすんできて、それどころではなかった。

なによりももう、この不安な気持ちに耐えることは出来なかった。

電話ボックスの中で、震える手で番号を押し、黄緑の声が聞こえたら、

なぜだか安心して勝手に涙が出てきてしまった。

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紫「・・・ぐす・・・・黄緑・・・・」

鼻をすすり、涙を濡れた制服でぬぐうと、紫は電話ボックスの中から黄緑の姿を待った。



黄緑「はぁ・・はぁ・・はあ・・・つ・・・ついた・・・」

やっと坂を登り終え、肩で息をしながらも、黄緑は顔をあげ、あたりを見まわした。

黄緑「はぁ・・・はぁ・・・いない?・・あ!・・・紫ちゃん・・・」

見ると、公園のすみの電話ボックスのあたりから、ゆっくりと人影が近づいてきた。

全身がぬれねずみのようになった紫だ。

あまりの状態に黄緑はどうしていいのかわからなかった。

紫「・・・ひっく・・・ひっく・・・ひっ・・ひっく・・」

だが彼女がしゃくりあげながら、泣いている事に気がついた瞬間、

きつく彼女を抱きしめていた。

紫「ひっく・・ひっ・・うっく・・・・黄緑・・ずず・・・」

黄緑の胸の中で、紫がなにか言っている。

彼女の心の我慢の限界は、黄緑の姿が見えたときにとっくに消えうせていた。

涙がとまらず、あとからあとから熱い涙が流れ出た。

黄緑「ごめん・・・ごめんね、紫ちゃん・・ごめん・・」

そんな紫に、黄緑はあやまりつづけていた。



しばし黄緑は、紫の涙が止まるまでそのカタチでいた。

しばらくして、落ち着いたのか紫の嗚咽が静かになった。

黄緑「紫ちゃん・・・もう大丈夫?」

紫「ふん・・・ずず・・大丈夫にきまってるじゃない・・」

黄緑はそんな紫の様子に安心し、彼女を両手から開放した。

そして紫は黄緑に視線を合わせた瞬間に、

ボッ! と真っ赤になってしまった。

紫「・・ぐず・・黄緑・・わ・・わたし・・」

黄緑「今はとりあえず家に帰ってお風呂に入って。

じゃないとかぜひいちゃうよ?」

紫「・・う・・うん・・(///)」



そうして、二人で一緒に紫の家まで帰った後、紫は黄緑にいわれるまま、お風呂に入った。

紫「・・・黄緑?・・・」

だがお風呂からでてきた紫の部屋には黄緑の姿がない。

ネコがいなかったときのようなあの嫌な気持ちが、また膨らんできた。

黄緑まで自分のそばからいなくなってしまったかのようで、紫は泣きたくなった。

しかし・・玄関に小さな紙切れが落ちていた。

そこには、見つけたらもどるので家で待ってて、との黄緑の書置き。

自分のためにいってくれた黄緑の気持ちに、また紫の目から涙がこぼれた。



時計は12時を過ぎ、雨の音はいまだ激しいままだ。

紫「・・黄緑・・・」

1時をまわり、紫はどんどん不安になってきた。

2時を過ぎたところまでは覚えている。

しかし、やがて彼女は待ちつかれて眠ってしまった。

ペロペロ・・・・

紫「・・・・・ん・・・・・・・・・!?」

紫がうっすらと目を開けると、視界いっぱいに真っ白なものが飛び込んできた。

紫「・・・・え?・・・・・・」

ネ「にゃー!!」

紫「あ・・・あ!」

思わず紫は声をあげ、自分の顔にじゃれ付いていたネコを抱き上げた。

まぎれもない・・・・紫のネコだ。

ネ「うにゃー!」

彼女の手の中であばれているネコを、紫は力いっぱい抱きしめた。

紫「・・・もう・・もうどこにもいったらだめだよ?・・」

ネ「にゃにゃーーー!」

紫はそこで気が付いた。

ネコがいるということは・・・

紫「黄緑・・・・」

黄緑は紫のとなりに座って、じっと彼女を見つめていた。

黄緑のその優しい視線に見つめられて、また紫の目から涙がこぼれる。

そんな紫を黄緑が優しくなでていると、急に紫が抱きついてきた。

黄緑「わっ!どうしたの紫ちゃん!?」

紫「・・黄緑・・ひっく・黄緑・・ごめんなさい・・う・・うう・・・・」

安堵で涙まじりになった声で、紫は何度も何度も黄緑の名前を呼んだ。

びっくりしていた黄緑も、彼女の気持ちを感じ体から力を抜くと、

そのままの姿勢で、彼女のあたまをくしゃくしゃとやさしくなでてあげた。

紫「ありがとう・・黄緑・・」

ネ「にゃー!」

黄緑「うん・・・」

紫「・・・・・・・・・・・」

黄緑「それじゃ・・私は帰るね」

紫「・・・・ああ・・・」

黄緑「じゃ・・」

紫「あ・・・」

黄緑「え・・・なに?・・紫ちゃん・・」

紫「また・・・こいよな(///)・・」

黄緑「・・・うん・・またお邪魔するよ」

ネ「にゃにゃー!」

紫「うん」

黄緑「じゃあ」



紫「ほんとに・・・ありがとな、黄緑・・」

ネ「にゃおー!」

胸に抱えたネコが、おなかすいた!っと声をあげる。

紫は元気ににっこり笑い、少し照れたようにネコに言った。

紫「そうだな、ごはんにしよう・・な、黄緑」

ネ「にゃー!」

ネコ、改め黄緑は賛成の声をあげた。


黄緑「ねえ、何で不機嫌なんですか紫ちゃん?」

そうたずねたのは、あの日から数度目になる紫の家へのネコ訪問の時だ。

ちなみに今は、ごはんをあげてネコは黄緑のひざの上で眠っている。

紫「別に、不機嫌なんかじゃないよ」

だがその顔はぷくーっとむくれている。

紫(別にネコがうらやましいとか・・・ネコばっかかまってさみしいとか・・

そんなこと思ってないもん・・・)

ここに来るとネコばっかりで、黄緑が自分にかまってくれないのが寂しいようだ。

黄緑「そうですか・・・」

そう少し悲しそうにいいながら、手元のネコを優しくなでる黄緑。

その姿に嫉妬にかられた紫は、

紫「ちょっとでかけてくる!」

といって、黄緑の返事もまたずにでていってしまった。

黄緑「ふう。どうしたんでしょうね・・・」



そして一時間たった後、紫が自宅へと帰ってきた。

黄緑は、紫が家をでた時のまま、ソファに座っている。

紫「まだここにいるの?」

そうたずねて黄緑を見ると、彼女はすうすうと寝息をたてている。

紫「ねちゃったのか・・・・・・むっ」

優しい笑顔をうかべた紫だが、まだ眠っているネコをみてその顔が険しくなる。

紫「黄緑を一人占めなんてさせないんだから・・・(///)」

そうつぶやくと、赤い顔をかくすようにそっと頭を黄緑のひざに横たえた。

紫(ほんの少しだけ・・・いいよね・・・)

呼吸に合わせて動いている黄緑をみながら、紫はそっと目を閉じた。

紫(・・安心する・・)

何もしていなくても・・胸の奥が温かくなってゆく。

何物にもかえがたい幸福感に包まれたまま、紫は深い眠りに落ちていった。



首の辺りと、おでこが温かくて、紫は目を覚ました。

紫「・・・・・・」

目を閉じていてもわかる。

誰かがずっと、自分の顔をなでている。

紫「・・・・・(///)」

しばらくその温かさにうっとりといていた紫だが、

しだいに意識がしっかりして来るにつれ、自分がどういう状態になっているのかを理解し始めた。

顔の前に感じるのは黄緑の体で、さっきから触っている手も彼女の手だ。

紫「・・・・」

起きた・・などと恥ずかしくてとても言えずに、紫は黙って寝たふりを通した。

自分から彼女の膝の上で眠ってしまったのだ。

くすぐったさと気持ち良さに、思わず声が出そうになるのを必死にこらえていたが、

頬っぺたから黄緑の指が降りてきて、唇をそっと撫でられたあたりで、

紫「あの・・・黄緑・・・(///)」

紫はついに観念して、はずかしそうに黄緑を見上げた。

黄緑「・・・・・」

だが黄緑はそんな声は聞こえないかのように、ただ紫をなで続ける。

紫(ずっと・・こうしていてあげるって・・意味なのかな・・)

そんな事を考えてしまうと、頭の中が沸騰したように熱くなってきておかしくなってしまいそうだ。

でも、確かに紫としてもずっとこうしていてほしいと思っている。

紫「・・・・・(///)」

だがいつまでもこうしていられないため、なんとか気合を入れなおした。

紫「・・あの・・お・・起きたんだけど・・その・・ごにょごにょ・・」

最後の方はごにょごにょになってしまったが、今度ははっきりと聞こえるような声で言った。

黄緑「・・・・」

すると、黄緑は手でポンと紫の頭をさわると、

黄緑「・・・ネコならにゃんってなきますよ?」

いたずらっぽい視線を紫に落とした。

ボッ!

その言葉に少女は顔から火をだした。

紫「(////)」

完熟トマトより赤い自分の顔を隠すように、

慌てて頭の向きを変え、紫は黄緑のお腹の中に隠れようとした。

しかし視線の先に、自分と同じようにもう片方の手でなでなでされている、

眠ったままのネコの姿を見つけて彼女は動きを止めた。

そしてしばしの沈黙の後・・黄緑の予想とは裏腹に、

紫「・・・にゃん」

と、小さくつぶやいた。

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後日、学校の放課後。

緑「・・・ネコ欲しい・・・」

さきほどまでクラスメイトとネコを飼いたいと話をしていた緑に、

赤「あら、駄目よ緑」

赤はあっさり却下するとニヤリと笑い、

赤「だってもう猫なら一匹いるじゃない、・・このクラスに」

紫「!!(/////)」

赤の言葉に、自分の家のネコを思っていた紫が、真っ赤な顔で慌てて振り向いた。

緑「それもそうね・・・」

頷いてニッコリと紫に笑いかけた。

紫「!!!(///////)」

黄緑「わがままなのが、玉にキズですけどね」

紫「き、黄緑!」

さらっとみんなに秘密を言われて、紫はとりあえず黄緑に食って掛かった。

赤「昼休みになるたんび、屋上であれだけ黄緑に甘えてたの・・・

もしかしてバレてないと思ったの?」

あきれた赤の言葉に、緑もうんうんと相槌を打った。

紫「もう、知らない!(///)」

紫は叫ぶと、教室の外に逃げてしまった。



緑「黄緑さん・・・・」

黄緑「どうしたの?」

緑「明日からの三時間目の休み時間・・・わたしの番だから・・・(///)」

黄緑「えっ?」


オ「うわー、このネコ本当にかわいいねー」

紫「なぜお前が私の部屋にいるんだ?」

黄緑「すいません、私が誘ったばっかりに・・・」

それは台風が過ぎた日曜日。

黄緑が紫の家に向かっている時に、ばったりとオレンジに会ったことに原因がある。

オ「いいじゃん、別にへるもんでもなし」

紫「お前がいうな!」

黄緑「まあまあ、みんな一緒の方が楽しいじゃないですか」

紫「まあ・・・黄緑がそういうなら・・・」

ネ「にゃー!」

紫がそういうと何故かw黄に抱きかかえられていたネコが嬉しそうに鳴いた。

黄緑「あら、どうしたんでしょう?」

オ「どうしたんだろうね、ネコ・・・」

紫「だ、だ、大丈夫だ! 何も問題はない!」

そう真っ赤な顔で否定する紫。

何か重大なことに気付いたらしい。

オ「そうなんだ・・・ってこのネコ何てよんでるの?」

黄緑「そういえば私もまだ教えてもらってませんね」

紫「ネ、ネコだよ! 何か文句あるか!(///)」

オ「黄緑も聞いてないんだ、このネコのなま・・・」

そんな紫の否定を気にもとめず、黄緑に聞こうとすると・・

ネ「にゃにゃ!」

またもや理由はわからないが、ネコが鳴いた。

紫「わーわーわー!(///)」

そんなネコの鳴き声をさえぎろうと紫が叫ぶ。

黄緑「???」

オ「ふーん、なるほどねー」

黄緑はそんな紫を不思議そうに見ていたが、オレンジは気付いた様子。

紫「ネコ、ほらこっちにこい!」

そうオレンジのそばにいるネコに呼びかけるが、当然ながら反応はない。

オ「本当にネコってよんでるの?」

そうニヤニヤしながら紫にたずねる。

紫「あ、ああ。そうだとも」

しどろもどろに答える紫。

オ「ねえー、黄緑ー」

今度はあからさまにネコの方を向いて、そうよびかけるオレンジ。

ネ「にゃあー!」

紫「な、な、な」

オ「ねえー、このネコの名前ってひょっとして・・・」

ぷしゅーーーー。

そう蒸気をたてて紫が倒れた。

黄緑「む、紫ちゃん。大丈夫ですか!?」

オ「あらあら、ちょっとヤリすぎちゃったか」


「色無。ちょっとつきあいなさい」

「……は? 今試合中なんだけばふっ!」

 体育の授業中、バレーコートで身構えていた色無は突然現れた黒に気を取られ、顔面でレシーブした。

「男子はそんな危険な技も練習しなければならないの? けっこう大変ね」

「いってえ……こんなレシーブあるか! お前がいきなり声かけるから……」

「まあそんな些細なことはどうでもいいわ。もうすぐ白を運ぶことになるから来て」

「何? また白の具合が悪くなったのか?」

 色無は走り高跳びをしている女子の方を慌てて見た。だが白は順番待ちの列で体育座りをして、隣の子と元気そうに何か話している。

「何だよ、おどかすな。全然元気そうじゃん。今日は朝からはしゃいでたし、大丈夫なんじゃないの?」

「だから言ったでしょう。運ぶ“ことになる”って。先生、ちょっと色無をお借りします」

「あ! おいなんだよ! 痛ててて、ひきずってるひきずってる!」

 体育教師の制止の声も無視し、黒は色無を問答無用でグラウンド中央へと引っ張っていった。



「おい、離せって! 別に逃げたりしねーから」

 さすがに少々むっとして、色無は黒の手を力いっぱい振りほどいた。二人に気づいた白が微笑んで手を振り、バーを目指して駆けていった。ブルマ集団の不審そうな視線が少し痛い。

「ほらみろ、やっぱなんともないじゃ……白!」

 緩やかな弧を描いて走っていった白は、自身では力強く踏み切ったつもりだったのだろう。しかしその足は力無く崩れ落ち、バーの下に倒れた白は起きあがってこなかった。

「行くよ。先生、白が倒れたので保健室に連れて行きます」

 騒然とする女生徒たちの間を縫い、黒と色無は白に駆け寄った。

「気を失ってるだけみたいだな。ちょっと熱っぽい感じもするかな?」

 ぐったりした白を背負い、色無は足早に保健室を目指した。横から黒が白の顔色をうかがう。

「……うん、微熱が出てるようね。保健室に白の鞄を置いておいたから、中に入ってる薬を飲ませてあげて。私は念のためかかりつけのお医者様に連絡するわ」

「手際がいいな。つーか、“運ぶことになる”って、お前白が倒れるって分かってたのか?」

「朝は元気だったけど、2時間目から時々つらそうにしてたし、顔色も随分悪かったから」

 白が苦しそうにうめくと、黒はいったん言葉を切ってその髪を撫でてやった。呼吸が落ち着き、手をそっと離したあとも、黒は白から目を離さない。

「もちろんいつダウンするかなんて分からなかったけど、身体を酷使してる時が一番可能性あるでしょう? ホントは見学させたかったけど、どうしてもやるってきかなくて」

「そっか。しかし、白の具合が悪いのよく分かったな。俺も随分注意して見てたつもりだけど、全然気づかなかったぞ?」

 あきれたような、感心したような声を上げる色無。黒は唇の端にわずかな笑みを浮かべて応えた。

「私と白は幼なじみなの。あなたの何倍も長い間、ずっと一緒にいたのよ。白のことなら誰よりもよく分かる自信があるわ」

 黒が白を見つめる瞳は、どこまでも優しかった。

「……なるほど。無二の親友なんだな。でも、だったらお前が運んでやればいいのに。俺の手を借りなくたって、お前なら白くらい軽く運べるだろ?」

「もちろん、先月まではそうしてきたし、今後も急を要する時には躊躇なくそうするわ」

「? 今月からはなんか変わったのか?」

「今年3月まで、白との会話で一番多く使われたのは『私』、2番目が『黒ちゃん』だったの」

「……は? 数えてたのか?」

 目を丸くする色無を無視し、黒は悔しそうに続ける。

「それが4月に入ってから『色無君』という単語が登場して、ついに先月、『黒ちゃん』を抜いて2位になったのよ」

「はあ……」

「私は白の望むことは何でも叶えてあげたいの。だから色無、今後もよろしくね。ちなみに昨日、白が黄や橙と話していたのをこっそり聞いてたんだけど……」

「わ、わー!! 黒ちゃん、それ以上言っちゃダメ!」

「うお、白!? 起きてたのか?」

 いきなり耳元で叫び声を上げられ、色無は飛び上がって驚いた。振り向くと、白がばつの悪そうな顔をして俯き、真っ赤になっていた。

「あ……その、ごめんね色無君。もう自分で歩けるから降りるね」

「いや、保健室まではちゃんと背負っていくよ。それはいいんだけど……」

 いったいいつから起きて……という色無の声なき疑問に黒が答えをよこした。

「うめき声を上げた時には起きてたわよ。もちろん私は気づいてたけど。いいじゃないの、これはチャンスよ。想いを伝えるには絶好のシチュエーション……」

「わーわー!! も〜、そういうのは心の準備がいるんだから、黒ちゃんが言ったらダメなの! 内緒にしてくれなきゃ絶交だから!」

「絶交って、白、小学生じゃないんだからそんな脅しで黒が言うこと聞くわけ……」

「ごめん、許して! もう二度とこのことは口にしないから!」

「効果てきめん!?」

 かつてこれほどあわてふためく黒を、色無は見たことがなかった。

「もういいよ、分かってくれれば。……それに、黒ちゃんが私のこと分かってくれるように、私も黒ちゃんが隠してる気持ちなんてお見通しなんだよ?」

 その瞬間、ほんの少しだけ黒の動きが鈍った気がした。

「……なんのこと? 私は思ったことはすぐ口に出す方だから、別に隠してることなんてないわ」

「授業中の視線の先に誰がいるか……。黒ちゃんを見てればすぐ分かるよ。ねえ、私に遠慮したり、私を応援するって自分に言い訳するのはやめてね?」

 しばらく無言で見つめあう二人。やがて黒と白は同時に笑みを浮かべた。

「ふふふ。かなわないなあ、白には。じゃあこの件に関しては、二人はライバルってことね?」

「あはは、そうだね。黒ちゃんと張り合うなんて何年ぶりだろうね。でも、負けないからね」

「それはこっちのセリフよ。やるからには白が相手でも全力を尽くすわ」

 ゆっくりとグラウンドを横切りながら、二人の笑い声が空に響いた。


黄緑「じゃあ、今日は文化祭の出し物をどちらか決めたいと思います」

そうHRで切り出したのはこのクラスの何でも委員黄緑だ。

ちなみに何でも委員とは、このクラスの女の子は委員向けでない子が多いため、

仕方なく黄緑が代わってやっている内に、大体の委員をやることになってしまったことから付けられた。

黄緑(・・・まあ、これはこれで楽しいからいいんですけどね・・・)

とほほ、とばかりに一人心でつぶやく。

黄緑「出店かお化け屋敷の多数決で決めます」

先週のホームルームでは、このどちらかが最後まで、決まらなかった。

その理由は紫が風邪で欠席したため、出店とお化け屋敷の意見が、同数になってしまったのだ。

話し合いでこのクラスがまとまるはずもなく、黄緑は仕方なく

次のHRでの紫の意見で決めようとみんなに言った。それが今日。

黄緑「っていうわけなんだけど、紫ちゃんはどっちがいい?」

紫「・・わ・・・・わたしは・・・出店の方がいい・・」

いつもの紫とは違い、歯切れの悪い口調に少々不思議に思いつつも、

黄緑「じゃあ・・・文化祭はで・・・」

黄「ちょっと待ったー!」

黄緑が決定ということえお言い終わらない内に、黄が大きな声でそれをさえぎった。

紫「なんだ、バカ」

黄「バカかどうかはさておき、紫ーお化け屋敷って言い直してよー」

紫「わ、わたしは・・・出店の方がいいんだよ・・」

黄「どうしてー?」

紫「そ、それは・・」

黄「もしかしてーお化け屋敷が恐いのー?」

紫「そ、そんなことあるもんか!」

黄「じゃあ、お化け屋敷でもいいよね」

紫「あーいいよ!」

黄「そんなにやる気なら、実行委員でいいんじゃない?」

紫「あーいいとも! 実行委員でも何でも私がやってやるさ!」

黄「黄緑ー、そういう事らしいわよー」

紫「・・・・・・・え?・・・」

自分が実行委員になると予想していた黄緑は、さも意外そうに、

黄緑「いいの、紫ちゃん?」

黄「恐いんだったら、代わるよー」

紫「だ、だ、だれが恐いもんか! いいよ、やってやるよ!」



紫「・・・・・はあ・・・・」

学校からの帰り道、紫は盛大にため息をついた。

理由はもちろん、今日のHRでのこと。

(何で恐がりなくせに、あんなのOKしたんだろう・・・)

そう自分に問いかけるが、答えなどでている。

挑発されたら、つい乗ってしまう子供っぽい性格。

本当の気持ちなんて、意地っ張りな部分が邪魔して、他人に言ったことない。

(悩んでも仕方ない。ここはホラービデオでも借りて、お化け屋敷の参考にしつつ、

恐怖心を克服するしかない!)



水「・・・あれ・・どうしたの? 紫ちゃん・・・・」

紫「え!?」

ビデオ屋の帰り、そう水に声をかけられた。

紫が持っている袋を見て、

水「・・・ビデオ屋さんにいってたんだ・・・何を借りたの?・・・・」

紫「ほ、ホラービデオだよ! 文化祭のために借りたんだ!」

水「ご、ごめんなさい・・・・」

紫「べ、別に謝らなくてもいいよ」

水「そ、そうだよね・・・なんて題名のなの?・・」

紫「えーと、何だったかな」

恐くてカバーすら見ずに借りた紫に、題名などわかるわけがない。

袋からケースを取り出して水に見せると、

水「ああ、それなんだ・・・でも・・それDVDだよ?・・・」

紫「え!」

そういえば、ケースがとても薄い。

紫「どうしよう。私、DVDプレーヤー持ってないのに」

水「・・・あ・・あの・・・」

紫「ん?」

水「・・よ・・よかったら・・・・私の家で見ない?・・・・」



水「・・・・紫ちゃん・・・DVDとって・・・」

紫「あ、ああ」

気が付くと、紫は水の部屋に通されていた。

それが今頃になってわかるほど、紫は緊張していた。

それもそのはずで、紫は生まれて今まで他人の部屋になど入ったことがなかった。

紫(友達なんて・・・今まで一人も出来たことないからな・・・)

クラスの子も、からかいこそすれ紫にはあまり話しかけてこなかった。

紫(・・話すといえば・・・今日のHRみたいなことばかりだからな・・)

紫が物思いにふけっていると、水が、

水「あ・・・・紫ちゃん・・・始まったよ・・・」

紫「・・・え?」

思考を中断し、ふと画面を目にやったときに映っていたのは、

バーーーーーーン!!!っと画面いっぱいなゾンビだった。

水「わあ・・・・最初からすごいね・・・・って! 大丈夫、紫ちゃん!」



紫「・・・・んん?・・・」

水「・・・あ・・・起きた?・・・」

そういった紫は、今の状況を確認した。

紫(・・・わ・・私は確か・・・ホラーを見ようと・・・)

そこで、最初のシーンで無様にも気を失ったことに気付いた。

水「えーと・・・・ホラーとか駄目だった?・・・」

そう言われてなんとか言い訳を考えようとした紫だが、この状況はどうしようもなく、

紫「あ、あーそうだよ! 私はクラスであんなこと言ってても

恐いのが駄目だよ! おかしいだろ!」

そう、水にまくし立てた。

水「・・・・お・・おかしくなんかないよ・・・」

紫「な・・なんでだよ。笑ってもいいんだぞ?」

水「・・誰にだって・・・恐いものや苦手なことはあるよ・・・

私だって・・・人見知りはマシになったけど・・気の弱いのが中々治らないし・・

だから・・・おかしくなんかないよ・・・」

そうたどたどしく語る水の優しい言葉に、紫は思わず涙がでそうになった。

寂しがりやのくせに性格が災いして誰も周りにいない、そんな紫が、初めてかけられた言葉。

紫「ふ、ふん! それは笑われないで助かったよ(///)」

だが口からでたのは、気持ちとは正反対の言葉。

水「・・・ふふふ・・そうだ、紫ちゃん」

紫「な、なんだよ?」

水「・・・恐いのが駄目なら・・・わたしが文化祭の準備てつだおっか?」

紫「・・お・・お前が手伝いたいんなら・・・勝手にしろよ」

水「じゃ・・・じゃあ・・・勝手にお手伝いさせてもらおうかな・・・」

紫はこんな時ですら素直になれない自分に腹がたったが、心の中で彼女に感謝した。



準備は滞りなく進み、いよいよ文化祭当日。

水「・・・いよいよだね・・・」

紫「私が実行委員なんだから、上手くいくに決まってる!」

二人が話すのは、教室の前の廊下。

中はホラーハウスになっており、紫が入れないため水がここで話そうといったのだ。

水「ふふ・・・紫ちゃんがいうと上手くいきそうな気がするな・・」

紫「・・・あ・・・あの・・水・・・」

水「・・・・どうしたの?・・何か心配事?・・」

水がそう思うのも無理はない。

ここ数日ずっと、紫は何かを伝えたそうにしている。

だが、中々それを言おうとしないのだ。

紫(今日言わなきゃ! そうじゃないともうこんな風に話せなくなるのに!

水とこんな風に話せるのも、文化祭があったからだもん。

これが終わっても、また今みたいに話せるようにちゃんと言わなきゃ!)

そう決意を込めた彼女の背中に、ぽんと誰かが手を置いた。

紫「何だよ?」

そう勢いよく振り向いた紫に見えたのは、幽霊だった。

紫「・・・・・・・・・・」

じーっと幽霊の方へと視線をやる。

幽?「うーらーめーしーやー」

紫「きゃあぁあぁあぁあぁああぁ?!?!」

そういって腰を抜かし、あとずさりつつも、

紫「おっ・・おば・・おばおばおば・・・・おばけっ!!

いやぁぁぁっ!!!」

何しろ目の前にいるのだ。ビデオの比じゃないぐらい恐がってる。

幽?「あ・・・・あの・・」

紫「ひゃ・・・ひゃやわややぁぁわぁ・・わーっ!!」

幽?「・・・えーと・・幽霊です・・・?・・」

紫「・・・・・・・はうぅ」 ドサッ

水「た、大変! 保健室に!」



紫「・・・・ん・・んん・・・」

黒「おお。目が覚めたみたいだな」

紫「・・・・ここは?」

黒「君が倒れたあと、保健室まで運んだのだ」

紫「そう・・・・ってあの幽霊は!?」

黒「ああ、それならそこにいる」

部屋の端には、正座しながら眠っている黄色の姿があった。

黒「黄緑にこっぴどくしかられてな。

本人も充分反省したみたいだから許してやれ」

紫「・・・・あのバカ」

どうやら、お化け屋敷に使う格好でちょっとおどかすだけのつもりだったらしい。

黒「それにしても、あそこまで驚くとはおもわなんだ」

紫「うっ」

黒「まあ・・・恐いものは誰にもある故、気にするな」

紫「あっ・・・・・」

紫(こいつも水とおんなじことゆってる・・・)

黒「弱さをさらけだすことは決して悪いことじゃない。

まあ、全部水からの受け売りだがな・・・」

紫「・・・・・水・・の?・・・」

黒「ああ。お前が起きたらそういってやってくれとのことだ」

紫「そ、そうだ! 水は今どこにいるの!?」

黒「さっきまでここにいたんだが・・・赤に誘われてお化け屋敷に・・」

紫「ありがと!」

そう言って、すぐさま走り去っていった。

黒「やれやれ。恐いのは苦手なんじゃなかったのか」



?「いやあぁあぁあぁぁああぁ!!」

赤「うわ、またすごい子が入ってきたわね」

水「・・・・・今の声・・・・・」

赤「大丈夫かな。あの女の子?」

?「も・・もう・・・やだ・・水ーーーーー!!」

水「!」

それを聞いた途端、水が駆けていった。



黒「青春だな」

赤「あら、あなた来たの? じゃあフラレもん同士一緒に回りましょうか?」

黒「うむ」

水「はあ・・・はあ・・・紫ちゃん?・・・」

ビクッ!

部屋の端でちぢこまっていた紫がゆっくりと振り返る。

紫「み・・・水?・・・」

水「・・・だ・・大丈夫?・・まだ休んでなくても平気?」

紫(平気じゃなかったよ。あんたの顔を見るまでは・・・)

水「・・・と・・とりあえず・・でよっか?」

紫(涙で顔もぐちゃぐちゃで・・・意地のはりようもない・・

等身大の弱いわたし・・・そんなわたしでもいいか?)

紫「水・・・水・・・・わたし・・あんたの友達になりたい!」

水「・・・・・・わ・・わたしも・・・」

紫「えっ・・・・・・?」

水「・・文化祭が終わってからいおうと思ってたんだけど・・

紫ちゃんの友達になりたい・・」

紫「バカ。それはこっちのセリフだ」



初めていえたホントの気持ち。

初めてみせたホントのわたし。

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 縁側に腰掛け、ひなたぼっこをしながら白が絵本を広げていると、薄汚れた大きなゴムボールが垣根を越えて飛び込んできた。

「あ……」

 自分の方に転がってくるボールを目で追う。足下で止まったそれを、庭に降りた白が拾い上げると同時に、垣根の下の方から一人の少女がずぼっと首を突き出した。視線が交差する。

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「……ええと。このボール、あなたの?」

 警戒しているような少女に、白は笑いかけた。

「……そう。ついて遊んでたら手元が狂った」

 少女は無表情のまま言葉少なに応え、近づいてきて片手をさしだす。白はその手にボールを載せてやると、和服に身を包んだ少女を眺め回した。

「はい。その服、可愛いね。お人形さんみたい」

「お前だって、真っ白でひらひらで可愛い。お前の方こそ人形みたいだ」

「ほんと? ふふふ、ありがとう。ねえ、私は白。あなたのお名前は?」

「……黒」

 気づくのはずっと先のことになるが、その日こそ、二人が共に歩み始める始まりの日だった。



 その日はそれで別れたが、以来黒は毎日のように白の家に入り浸るようになった。病弱で閉じこもりがちな白、取っつきにくい性格の黒。二人の中の孤独が引き合ったのかもしれない。

「——で、田中さんちのポチは私が通るたびに吠えるんだが、ほんとは臆病なんだ。山田さんちのタマが庭に入ると、小屋にこもって出てこないんだ」

「あはははは、ちょっと可愛そうだね」

 黒がその日見聞きしてきたことを大人びた口調で白に話す。滅多に家を出ない白にとって、それはいつまで聞いていても飽きない冒険物語だった。

「——そうして、おじいさんとおばあさんは幸せに暮らしました。おしまい。……どうだった?」

「面白かった」

「も〜、黒ちゃんそればっかりなんだから!」

 一人で本を読んだり、祖父母に面倒を見てもらったりすることの多かった白は、知識豊富でいろいろな遊びも知っていた。それは黒の好奇心を大いに満足させた。

 だが二人にとって何より大切だったのは、“二人の時を共有する”ことだった。二人一緒にいられさえすれば、何をしていても楽しかったから。

 その日、黒が現れたのはいつもよりほんの少しだけ遅い時間だった。

「あ。いらっしゃい黒ちゃん。今日はちょっと遅かったね」

 二人の秘密の入り口となった垣根の隙間を抜けて現れた黒を、白は嬉しそうに迎えた。

「今日はちょっと遠くに行ってきた。あそこ」

 二人で縁側に座り、黒が指さす方に視線を向ける。少し離れた高台の上に、大きな木が桃色の花を咲かせていた。

「あれは桜だ。ここらへんじゃ一番大きいそうだ。今日は風が強いから、花びらがたくさん散って雪みたいだった」

「桜……いいな、私も見てみたい……ね、黒ちゃん。私を連れて行ってくれない?」

「え……? でも、白はあんまり外で遊べないんだろう? それに少し遠い。ボール遊びですぐ疲れちゃう白には無理だ」

「今日はきっと大丈夫。朝からすごく元気なんだ。ね、ちょっと見たらすぐ帰るから」

 黒は白の顔をじっと見つめた。確かにいつもより血色がいい気もする。

「……分かった。でも疲れたらすぐに言って」

「うん! ありがとう黒ちゃん!」

 一抹の不安を抱えながら、黒は白の手を取って秘密の入り口をくぐった。



「はあ、はあ……えへへ、けっこう坂道が急なんだね……」

「白、やっぱり戻ろう。顔が真っ青になってきた」

「ううん、大丈夫だから。それに、ほら、もうあとちょっとじゃない。ね?」

「……」

 住宅街を歩き、はしゃいでいる間はよかったが、丘を登る坂道にさしかかった途端に白の体調が悪化した。だが白はかたくなに戻ることを拒否した。

「はあはあ……あ、ついたよ黒ちゃん! うわあ……すっごいおっきいねえ……」

 丘の頂上にたどり着き、桜が視界に入ると、白は黒の手を振りほどいて桜の木の下へ駆けていった。

「綺麗だろう? 明日は雨だって母様が言ってたから、きっと見られるのは今日までだ」

「そうなんだ……私桜見るの初めて。黒ちゃん、つれてきてくれてありがとうね」

 返事をしようとしたそのとき、強い風が吹き抜けた。桜がざあっと散り、黒の目の前を桃色に染めた。

「わっ! ……すごかったな。ほら、まるで雪みたいだろう……白?」

 黒が微笑みながら、白の髪にかかった花びらを払ってやろうと手を伸ばすと、まるでそれを避けるように、白は膝から崩れ落ちた。

「白! しっかりしろ、白!」

 いくら揺すっても返事をしない白を、黒は背負って坂道を駆け下りた。白の身体は燃えるように熱く、羽根のように軽かった。

 ポーン、ポーン。黒が一人ボールをつく音が小さく響く。不意にズキリと頭が痛み、黒は顔をしかめた。父親の鉄拳制裁を喰らったところがこぶになっていた。

「……つまらない」

 庭で一人遊びをするのに飽き、黒はボールを放り出した。丘から近かった自分の家に白を運び込んでから数日。様子を見に行きたかったが、あいにく外出禁止を言い渡されていた。

「でも……もう、会えないかな……」

 垣根にぶつかり、動きを止めたボールをじっと見つめる。初めて話した時もボールがきっかけだった。もし叶うなら、もう一度白と会わせて欲しい……。

 ガサゴソ、ズボッ。

 黒が藁にもすがる思いでボールに願いを駆けていると、垣根が大きく揺れて一人の少女が首を出した。

「ふう。あれ、黒ちゃんまたボールで遊んでたの? ホントに好きなんだね」

「……し、白……?」

 あまりのタイミングの良さに目を疑う。しかし夢でも幻でもない白は、ボールを持って駆けてくると、はい、と差しだした。

「もう、大丈夫なのか?」

「うん。お医者様も退院していいって。あ、今日はちゃんとお母さんと一緒に来たから安心してね」

「そうか……よかった。元気になってよかった……」

 黒はそれだけ言うと、ぎゅっとボールを抱きしめた。

「黒ちゃん……迷惑かけてごめんね。それと、ありがとう。『自分が無理に白を連れだした』って言ってくれたんだよね。おかげで私、全然怒られなかったよ」

「そんなの、当然だ。白がつらいの分かってあげられなかったんだから。本当に私が悪かったんだから」

 しばらく、無言の時が流れた。応接間の方で親同士が話す声がわずかに聞こえる。先に口を開いたのは白の方だった。

「……黒ちゃん。私、こんな身体だし、これからも迷惑かけちゃうと思うけど……黒ちゃんが来てくれないとつまんないの。また、遊びに来てくれないかな?」

「!! ……それは、私の台詞だ……白が、白だけが私の友達なんだ……ずっと白のそばにいたい……」

「黒ちゃん……」

「白……」

 どんなに苦しい時も、決して笑顔を絶やさず、周りに心配をかけまいとしてきた白。

 厳格な両親に強くあれと育てられ、その通りに生きてきた黒。

 そんな二人が、その日初めて他人の前で声を上げて泣いた。

「そんなことがあったのか……」

「ええ。誰にも言っちゃ駄目よ。これは白と私だけの秘密だったんだから」

 保健室のベッドに白を寝かしつけたあと、色無は授業に戻ることもなく、同じく残った黒の思い出話に耳を傾けていた。

「そのとき誓ったのよ。何があっても私が白を守るって」

「そうか。なんか羨ましいな。そんな大事な友達なんて、誰でも持てるってわけじゃないぜ」

「そうね、私たちは運がよかったわ。……でも、大事な恋人なら、あなただって持てるわよ?」

「……へ?」

 心温まる雰囲気に包まれていた保健室の空気が一変した。白の額に当てていた手を、黒はそっと色無の腕に添えた。

「ここに来るまでの話を聞いて、何も分からなかったとは言わせないわよ。私と白、どっちをとる? 改めて言うけど、私も白も色無のことが……」

「あ! いっけね、俺次の授業の資料を準備しないと行けないんだった! じゃーな黒、白の世話は任せたぞ!」

 色無は慌てて立ち上がり、ヘタないいわけを残して疾風のごとく立ち去った。

「あ、ちょっと待ちなさい! ……やれやれ、優しいのは結構だけど、男はそればっかりじゃ駄目よね。白、私もあなたも考え直すべきじゃないかしら?」

 ため息をつき、黒は再び枕元の椅子に座って白に話しかけた。返事代わりの寝息が聞こえる。今度は狸寝入りではなく、ちゃんと眠っているようだ。

「でも、色無がどちらを、あるいは誰を選んでも……たとえあなたに嫌われることになったとしても、私はあなたのそばにいるからね……」

 黒はそういうと、いつまでも白の髪をなで続けた。


「白井真雪さんは今日限りで学校をやめます」

 一ヵ月近く休んでいた幼なじみは久々に学校に来たかと思うとこんな紹介をされた。

 ざわざわと騒めくクラスメートに真雪は微笑を浮かべたままである。

「夜深(やみ)、知ってた?」

 耳打ちしてきた友達の青山海月(みつき)に知らないとだけ答えた。

「冷たいねぇ」

 冷たいも何も本当に知らなかったのだから仕方がない。

 その日の夜、私は彼女に呼ばれた。

 私、黒田夜深と白井真雪は家も近所で幼なじみだった。

 昔から仲良しで私より一回り小さくていつもくっついてきた。

 一度だけ私の目の前で泣いた。

 ——夜深ちゃんはいいね

 と。

 あの時は何を言ってるか分からなかったが今なら分かる気がする。

 大雑把な私に比べて手先が器用で字や絵がうまくて美術の成績はとても良かった。

 対照的に私の美術の成績はてんて駄目で、健康だけが取柄とも言われた。

 生れ付き病気がちでいきなり長期間休むこともざらじゃなかった。

 最近、休んでいたのもその一端だと思っていた矢先にこうだ。

 そんなことを思いながら真雪の家のチャイムを鳴らす。

 いつ来ても豪華な家だ。

「はい?」

 と、出てきたのは真雪の母親。

 おっとりした人で、私の母親と幼なじみだったようだ。

「ども」

「あら、夜深ちゃん。久しぶりね。大きくなって…ちょっと待っててね。真雪ぃ?夜深ちゃん来たわよぉ」

「わかってる」

 呼ばれてすぐ顔を出したトコを見ると、既に玄関近くまで来ていたらしい。

「夜深ちゃん。部屋行こう?」

「お邪魔します」

 真雪に向かって一つうなずいて、私は玄関に靴を揃え上がり込んだ。

「適当に座って」

 相変わらず白を基調とし、部屋はきれいに片付いていて真雪の儚さをあらわしてるようで、何となく入りにくい。

 真雪は部屋のベランダに出て月が浮かんだ空を眺めている。

 私もそれに着いていくようにベランダへと足を伸ばす。

「ごめんね」

 唐突に言ったその言葉。

何に謝っているのか解せずにいると真雪が続けた。

「学校やめること、言わなくて」

 こっちを振り返るか振り返らないかの微妙な顔の位置で彼女はそう言った。

「あぁ…別に驚いたけど」

 けど。

 けど、何だろう。

「気になる?」

 今度は完全にこちらを向いた体がそう言う。

「そりゃ、気になるわよ」

 小さい頃から仲良しだった。

 それは今でも変わらずにいたつもりだ。

「病気…なの」

「何の?」

「…分からない」

「分からない、って」

「でも、もう短いんだって」

 何が、とは聞かなかった。

 聞けなかった。

 何も言わず固まっている私を真雪は抱き締めた。

「私ね、夜深ちゃんが好きだよ」

 月明かりの下で輝く彼女はとても煽情的で。

 一度、手を離して彼女は続ける。

「小さい頃から、ずっと」

 綺麗な唇が紡ぐ言葉は麻薬みたいに私の脳の奥まで響いて。

「ねぇ、夜深ちゃん」

 ふわ、と香る甘い匂いに意識まで朦朧としてくる。

「キス、して」

 もうすぐまで近づいていた瞳がゆっくりと目を閉じ、私もつられるように目を閉じた。

 幼く無邪気だったあの頃にはもう戻れない。


「はぁ。水色ちゃん…今日も一人ね…」

私は黄緑。今、私には気に掛けている娘がいる。

名は水色。

彼女は内気で、人見知りが激しいらしく一人でいることが多い。

「でも、みんなのこと羨ましそうに見てるのよね」

そう。だから気になる。 自称『誰にも優しいお姉さん』の私は当然放っておくことはできない。

私は意を決して話し掛けた

「み〜ずい〜ろちゃん?」

「? あ、黄緑お姉ちゃん。こんにちは」

「はい♪こんにちは」

「どうかしたんですか?」

「いやぁ、水色ちゃんいつも一人だからさぁ…」

その言葉に俯いてしまう水色。私は焦って話題を変えた

「ちょっと、お姉さんとお話しよっか」

「お話…ですか?」

「そ、お話」

こうして私たちは暫しの間雑談に花を咲かす。まあ、一方的に私が話しているんだけどね。

だけど、ある話題になった途端、会話が途切れてしまった

それは『恋愛』。私が振った「誰か好きな人いないの?」が原因だった。

長い沈黙。

耐えかねた私が口を開こうとした。だが、それは一瞬早く水色の声に阻まれる。

「わ、わたし好きな人がいるんです…でも、あの…」

実に焦れったい。私は頭を掻き毟りたくなる衝動を必死に堪え、続きを待つ。

「どうしていいかわからなくて…だから、その…教えてほしいんです!」

「?」

わからない。『アドバイスしてほしい』ならわかるが、教えてほしいとは…。いったい何をだ?

私が心底わからないという顔に見兼ねたのか水色が呟く。

「その、キスの仕方とか…いろいろ…」

「へ?」

私は思ってもみなかった言葉に、思わず間抜けな声をあげてしまった。

いったいどこをどうやったらそんな流れになるんだ?

「あの…やっぱりダメですよね…」

水色の今にも泣きそうな顔に、思わず

「いや、そんなことは…」

なんて返事をしてしまった。

え?いや、私はそっちの気はないよ?でも、水色ちゃんって可愛…

などとほとんどパニック状態の私。一方、水色の方はというと、一気にパッと明るくなり、胸の前で『お願い』をするようなポーズで私を見つめている。

「わかったわよ…」

もうどうにでもなれっ!と半ば諦め気味に…

・・・・。

新しい扉が開いた気がした。


朱「朝8時前に出かけて、帰ってくるのが夜の11時過ぎ……アイツの勤務先までは20分程度のハズだから……」

橙「あれ?珍しい、朱色さんが考え事なんて……いたたたたッ!」

朱「失礼なコトを抜かすのはこの口か?ん?」

橙「ご、ごめんなひゃい……それで、なにを考えてたんですか?」

朱「ここんとこ、色無が疲れ切ってる原因調査」

橙「あぁー、なるほど。つまりアイツは毎晩誰かをつれこんで……(ガツンッ!!)いったぁ!!」

朱「あのね。これはけっこう深刻に受け止めてほしいんだけど、いいかなぁ?オレンジちゃーん?」

橙「……はい、ごめんなさい。それで、原因は分かったんですか?」

朱「うん、カンタンだった。アイツがすごくムチャなバイトしてるってこと。してるのか、させられてるのかは知らないけどね」

橙「ふむふむ。 ふふ……なんか、すごくアイツらしくて笑っちゃいますね」

朱「そうだね。アイツのコトだから、きっと断れないんだろう。まぁ、だからこういうふうに心配しちゃうワケだけど」

橙「へーぇ。本人が目の前に居なければ、優しいんですね」

朱「……まぁ、寮母だしな。……なんていうのはタテマエだね。 やっぱり、私はアイツが好きだわ」

橙「———」

朱「本人に言うなんてことはしないし、感付かせたくもない。なんでかねー……こういうところだけ、姉さんに似ちゃったね」

橙「姉さん……群青さん、ですか?」

朱「……ま、この話はいいの。イマの問題はひとつだけ。疲れ果てた色無のことでしょ?」

橙「……そうですね。疲れがたたって倒れられる前に、どうにかしないと」

朱「うん。とりあえず、あのカッコつけに話を聞き出すところから、かな」

橙「あはは。そうですね、まずはそこからやってみますか♪」

橙(それにしても……朱色さんの本当の姿を見たら、色無は……ううん。それは、考えないでおこう……)

朱「——どうだ、調子は」

男「はは……まぁ、そこそこです」

朱「そっか、それならいいよ。最近のオマエ、疲れてるように見えたからさ」

男「疲れて……、……やっぱり、そう見えますか?」

朱「うん。かなりまいってる。 まぁ、安心しな。気付いたのは私だけみたいだから」

男「……かなわないっすね。やっぱ」

朱「ナメるなよ?これでも寮母って立場なんだからさ。やっぱ寮生のことは知っておかないと」

男「……」

朱「それはそれとしてさ。いいモンあるよ、ホラ」

男「? コレって、ミルク……?」

朱「そう。しかも私特製のね。味わって飲みな」

男「じゃあ……いただきます(コクッ) ……あまい」

朱「疲れた時はコレだよ。甘いモノ。べたべたに甘いのはパスだろうけど、コレくらいならいいだろ?」

男「……はい」

朱「あのさ——アンタの疲れを見せまいとする姿、カッコイイよ。だけどね、イマのアンタはホントに苦しそうだ」

男「……」

朱「そういうときくらい、言えよ。そういうときこそ歯を食いしばってなんてのは、いらない。イマのアンタにはそんなの必要ないんだ」

男「……」

朱「抱え込むな。オマエの重荷なら、ここにいるみんなは喜んで背負ってくれる。愚痴でもなんでもいい。その荷物を少しはこっちによこせよ、な?」

男「……」

朱「……オマエの思うところまで口を出しちまったな。ごめん。 だけど、周りにいるみんなのことを心配させまいなんていうのは、もう、いいからな」

男「……朱色、さん……」

朱「ま、そんだけ言いたかった。あとはソレを飲んで、ゆっくり寝な。明日は休みなんだろ?」

男「……はい。 あの……すいません、なんか」

朱「ばーか。そういうときはな、“ありがとう”って言えば、“ごめんなさい”って意味にもなるんだよ。わかったか?」

男「……ありがとうございます、朱色さん」

朱「ん、どういたしまして。それじゃあな、ゆっくり休めよ」

男「ふぅ……朱色さん、ありがとう……」(いい感じに眠くなってきたし、今日はもうこのまま寝よう……)

灰「Zzz……」

男「〜〜〜ッ、またコイツは人のベッドで……おい、起きろッ!!」

灰「ん〜……?なにさぁ、もう……怒鳴るなよぉ、人が寝てるんだからさぁ。まったく……」

男(ブチッ)「……テメェ、いい加減にしやがれ!!いつもいつも寝てばっかのくせして、なんなんだオマエは!!」

灰「!」

男「いいか!?俺は疲れてんだよ!!だから寝させろッ!それを邪魔するんだったら、今すぐここから出て行けッ!!!」

灰「……」

男「ぁ……ッ、……悪い……今のは、言い過ぎた。その、ごめん」

灰「——やっと聞けた。その言葉」

男「……ぇ?」

灰「さっき、朱色さんの前でも言わなかったこと。自分が疲れてるんだってこと、ようやくハッキリと言ったね?」

男「ぁ……」

灰「だから、もう隠し立てをする必要はないよ。ホラ、眠ろう?ベッドは温かくて気持ちいいから」

男「……灰色……」

灰「おつかれさま、色無。 へへ……今日はもう、ゆっくりと休もうよ。きっといい夢が見られるよ」

男「なぁ……俺、……さっき、その、あんなふうに……」

灰「……それはいいから、寝るよ。さっきはぐっすり寝てたところで起こされたから、もう眠くて眠くて……」

男「……灰色」

灰「む〜?」

男「……ありがとう。それと、おやすみ」

灰「……ぐぅ……」(うぅん、ガラにもないことやっちゃったけど……まぁ、いっか。うん……Zzz……)

男(……にしてもまさか、灰色に救われるとはな。朱色さん共々、意外な人が助けてくれるモンなんだなぁ……)

青「……ねぇ、黒」

黒「なに?」

青「あのさぁ……最近、アイツの様子がおかしいと思わない?」

黒「アイツ?それって、色無のこと?」

青「うん……。なんか、前みたいに騒がしくなくなったっていうかさ。普通に元気がなくなったっていうか……」

黒「あぁ、言われてみればそうね。夏バテかしら?」

青「それだったらまだいいんだけど、なんかものすごく思い詰めた顔してるときとかあって……なんていうか」

黒「心配、なのね?」

青「ッ! ……はぁ、そうね。心配してると思う。このまま倒れられたりしたら、なんて考えると……」

黒「ふぅん……それなら、いつもみたいに言えばいいじゃない。色無に、面と向かって」

青「ん……そう、なんだけど」

黒「……貴女らしくない返事ね」

青「だって……だって、さ。アイツがどれだけ意地張ってるかって、黒にも分かってるでしょ?」

黒「……」

青「疲れてるところを見せまいと頑張ってるのに、なのに『疲れてるんだね』なんて、言えないよ。せっかく、アイツが頑張ってるっていうのに……!」

黒「頑張ってるソレを無にしてしまいそうで、そしてアイツに嫌われそうで……それが、怖いから?」

青「———!」

黒「私は、アイツが頑張ってるとは思ってない。ただもう、無理をしてるんだってしか思ってないの」

青「……」

黒「だから私は言うし、あんな無理は止めさせる。そういうのは周りにいる人がしてあげることだと思うから」

青「……やっぱり、黒は強いね……」

黒「その言い方は間違いよ。それじゃ貴女は弱いっていうの?」

青「ぇ……」

黒「弱いんじゃない。貴女はちょっと、優しすぎるだけ。色無を想うあまりに、ね」

青「ッ——わ、私はそんなッ!た、ただ別にそういうつもりじゃなくって!」

黒「あらあら、珍しい。青が説得力ゼロなことを言ってる……ふふッ」

AM~8:32

?(……チュー……チュパ、チュパ……)

男(……な、んだ?この音……人の、けはい……?)「……ん、んん……?」

赤「ふぁ、おひた。ひろなひ、おふぁよー」(※あ、起きた。色無、おはよー)

男「んあ、赤……か……オマエ、そんなとこでなにしてんの……?」

赤「ぷはッ、ごちそーさまっと。いやぁ、やっぱりポッキンアイスは夏って感じがしていいねー♪」

男「こら、シカトしてんじゃねぇ」

赤「ん?いや、なにしてるってワケでもないんだけど。ほら、別にナニもしてないし」

男「……なんかよくわからんが、じゃあなんで俺のベッドに腰かけてんの?」

赤「んー……最近まともに話してなかったから、かな。ちょっと気になってさ」

男「——」

赤「別にカレシとカノジョじゃないから、そんなの気にしたらオカシイんだけどね。でも、やっぱり、ちょっと……」

男「……ごめん。でも、別に避けてたとかそういうワケじゃないから」

赤「そんなの分かってるよ?色無がボクのコトを避ける理由なんて、ひとつも思いつかないもん」

男「……まぁ、そうだろうけど」

赤「だからきっと、余裕がなくなってるんだろうなって。そう思って、ちょっと」

男「……」

赤「ねぇ、色無。ボクはさ、お姉ちゃんみたいにはできないけど……でも、話を聞いて、相談に乗ることはできるよ?」

男「赤……」

赤「ボクだって、今まで何度も挫けたし、疲れてどうにもならなくなった時がある。だけどそんなときは、必ず誰かが助けてくれた」

  ~それはよくある言葉で、ありきたりだったかもしれない。でも、また前を向いて歩くには、十分だった。ココロがすごく、軽くなった」

男「……」

赤「だから……」

男「——ありがとな、赤」

赤「え?」

男「朱色さんとオマエ、ずっと似てないと思ったけど……やっぱり姉妹なんだな。 ……ありがとう」

赤「ぁ——う、ううん。そんな、お礼なんて言わなくていいよ」

男「さて……とりあえず起きたばっかで水が飲みたい。よっ、と……(ガバッ) つーことでちょっと下に行って来るわ」

赤「あ、うん。行ってらっしゃい……」 (バタン)

男(くそッ……気付かれまいとしていたのに、このザマかよ……どんだけ情けないんだ、俺……)


「あー……どうしよ……」

ざあざあと降る雨。それを見ながら、呟いた。

学校の昇降口。帰ろうにも傘がない。

困った。

「走って帰ろうかなぁ……」

ざあざあざあ。雨は勢いよく降り続ける。

ここ一週間ずっと晴れだったので、多分その反動だろう。

やむ気配は全くない。降り始めに比べると随分マシだが、

それでも、十分強い雨だった。傘がないなら、

20秒もしないうちにびしょ濡れになってしまうだろう。

「……」

ちらり。下駄箱の横の傘立てを見る。

もちろん私の傘はない。考える。

——借りて帰ろうか……

借りる、と言っても結局言い訳同然だろうが。

考える。

「……、やっぱり、ダメだよね……」

誰かのものを勝手に持って行くのは気がひける。

それに、こういうのは一度やってしまうとクセになってしまうだろう。

「……、よし」

腹は決まった。走って帰る。

雨を睨みつける。ざあざあ、勢いは全く変わっていない。

すぅ、と深く呼吸して、走り出そうとしたその時、

「傘がないの?」

「ひゃいっ?」

突然後ろから聞こえた声。変な声を出してしまう。

走り出そうとしていた勢いで、ちょっとつんのめってしまう。

雨の中に飛び出しそうな体を強引に押し込める。

素早く後ろを振り返ると、そこには黒さんが立っていた。

クラスは同じだが、話したことはほとんどない。

言いたい事ははっきり言う人らしく、

私とは正反対なので、ちょっと苦手意識を持っていた。

突然のことに、しばし思考が停止する。

「どうなの?」

「……ぇっ、へっ、あっ、な、何……ですか?」

答えになっていない。随分間抜けな声を出してしまった。黒さんは変わらぬ口調で、

「だから、傘がないの?」

重ねて問いかけてくる。

「えっと、……あり、ません……」

「なら、入れてあげるけど」

「えっ?」

えっと、つまりそれは。

「傘がないんでしょ? なら、入れてあげるって言ってるの」

そういうことらしい。

「えっと、その……」

言葉を探していると、

「あなたの家、丁度通り道だし」

言いつつ、私の横を通り抜ける。ばさっ、傘を広げる。

「で、どうなの? 必要ないんなら、私は帰るけど」

こっちの目をまっすぐ見ながら。

「えっと、それじゃ……」

色々なことが頭を通り過ぎる。通り過ぎて、

「……じゃあ、お願いします……」

頼む。黒さんは前を向き、

「じゃ、入りなさい」

傘に入れてもらう。

——ある日の、下校風景。


赤「おー、もう紅葉の季節かぁ」

青「そうねぇ。だいぶ秋らしくなったきたわね」

赤「ん〜、夏から秋にかけての季節の移り変わりは虚しいものを感じさせるなぁ」

青「なんで?」

赤「なんか秋に入ったら一年の終りの準備に入ったって気がしてね」

青「なるほど」

赤「まあ、そんなこというなんて私のガラじゃないな」

青「ふふ……それは言えてるわね」

赤「いま馬鹿にしたぁ?」

青「まさか。ただ似合わないなぁっと」

赤「やっぱ馬鹿にしてんじゃんよ」

青「あ〜あ、そんなにすねなくても」

赤「ふぅ……それより焼き芋作らない?」

青「あ、いいわね」

赤「よし、さつま芋とってくる」

青「じゃああたしは枯れ葉を集めとくわね」

赤「わかった。さて、寮までひとっ走りしてくるか」

青(来年もこんな風に過ごせるといいな……)


赤「あー、寒い……」

青「まだ秋なのに?」

赤「暑いのは平気なんだけど寒いのは苦手……」

青「へぇ〜、これまた意外ね」

赤「なんとでもいえばいいさ。青は寒いの平気なの?」

青「あたしは平気。逆に暑いのが駄目ね。日焼けするし」

赤「なんか私たちって正反対だよねぇ」

青「そういえばそうね」

赤「性格もお互い違うし」

青「あたしは几帳面で真面目」

赤「わたしは大雑把で自由奔放」

青「なんであたしたちって仲がいいんだろ?」

赤「さあ?」

青「なぞね……」

赤「まあ、考えても仕方ないからとりあえず寮に戻ろう……ここは居づらい……」

青「そうね……こんなカップルばかりの並木道なんて女二人で歩くのは酷だわ……」

赤「帰りになんか食べ物買ってく?」

青「お団子でも買っていく?」

赤「お、それいいね」

青「この前美味しいお団子屋を見付けたからそこに行きましょうか?」

赤「OK、把握した」

青「それじゃ早速行きましょうか」


茶「よし、今日もがんばって学校に行きますか!!」

黄緑「あら、ボタンをかけ間違えてるわよ」

茶「え!?あ、しまった……」

黄緑「ほら、しっかりね?」

茶「すみません……」

黄緑「次から気を付けないとね?」

茶「はい!!」

黄緑「ふふ……その調子よ」

茶「あ、靴下はき忘れた!!」

黄緑「はい、靴下」

茶「はぅ、いつもいつもすみません……」

黄緑「気にしなくていいのよ」

茶「それより黄緑さんは準備しなくても?」

黄緑「私は既に準備してるわ。あとは学校に行くだけよ」

茶「そうなんですか……足引っ張るみたいであたし邪魔ですかね……」

黄緑「そんなことないよ。私は茶色ちゃんみたいに人の言うことを素直に聞いてくれる人が好きだから気にしないでいいわ。だから落ち込まないで。ね?」

茶「黄緑さぁん……」

黄緑「あんまりお喋りしてると遅刻しちゃうから学校に行きましょうか?」

茶「はい!!」


白「く〜ろ〜ちゃんっ」

ぎゅっ

黒「わっ……どうした白」

白「今日は黒ちゃんに甘えるの〜」

ぎゅ〜、すりすり

黒「全く、しょうがないな」

白「しょうがなくなんかないも〜ん。だって、最近黒ちゃんと全然お話が出来なかったから」

黒「確かにちょっと久しぶりかもね」

白「……良かった」

黒「え?」

白「退院してから黒ちゃん、私の事避けてるような気がしたから、嫌われちゃったのかと思って」

黒「そんな事ないっ!私が白の事を嫌いになる筈ないじゃないかっ!!」

白「うん。そうだよね。でもね。黒ちゃんは私が誰かと話してると話しかけなくなった。ご飯を食べるとき隣に座らなくなった。その日何が合ったかとかも聞かせてくれなくなった。それにね、昔はこうしてたら抱き返してくれたんだよ」

黒「それは……」

白「黒ちゃん、私が一人でやっていけるようにって思ってくれてるのはわかってるつもりだよ。でもね、やっぱり寂しいんだ」

白「お父さんもお母さんも私から目を逸らして見なくなって、なのに黒ちゃんはずっと私の側にいてくれたんだよ。私の家族も大事だけど、一番大事なのは黒ちゃんなんだよ」

黒「白……」

白「だから私にはまだ黒ちゃんが必要で、側にいてくれないと駄目なんだよ」

黒「そっか……ごめんね」

白「私もごめんね、甘えん坊で」

白を抱きしめ返す黒

黒「もう少しだけ、白を甘やかすことにするよ」

白「出来ればずっとがいいな」

黒「調子に乗るな」


んー

大きく背伸びをする

ネムイ

昨日は遅くまでカチカチやってたからなぁ

「おはよ!灰ちゃん!」

後ろから元気な声が重たい頭に突き刺さる

まったく、朝から元気なことで

「おはょー」

「ちょっと……大丈夫?死んだ魚が腐った上に醗酵したような目をしてるよ?」

うるさい。それじゃぁ腐りきってるじゃないか

「あー……ちょとねー……夜更かししちゃってねー」

「だめだよー、ちゃんと寝ないと。夜更かしはお肌のライバルだよ」

「大敵でしょ……ふぁぁー……あー……あたし保健室で寝るからあとはよろ」ノシ

とっとと背を向けて校舎へ向かう

何か後ろで空が言ってるようだが、聞き流すことにした

間延びしたチャイムが鳴る

下校の時間だ

とっと帰って新薬の研究に勤しまなければ……

「灰ちゃーん!!」

朝からこいつは……

「なに」

「今日部活休みなんだ、一緒にかえろ♪」

「断る」

「えーなんでー?」

「大体逆方向でしょ、帰り道」

「んー、じゃあ今日は灰ちゃんの家に遊びに行く!ってのは?」

「断る」

「やだ、行く」

……こいつ……

「……はぁ……好きに汁……」

「やったー!!黒さんの料理好きなんだよねー」

……夕飯まで食うつもりか……

にこにこしてる空の顔を見る

まぁいいか

これでも、数少ないトモダチだ

大事にしてやるとしよう

「今日のご飯、なにかなー」

「あたしに聞かない」

「サンマとか美味しい季節だもんねー」

「……魚は嫌いだからヤダ」

秋の夕暮れ帰り道







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 13:04:02