桃メインSS

男子生徒「桃ちゃん、デートしてよ〜」

男子生徒「桃ちゃん、今日も可愛いね。」

桃「え〜、桃困っちゃいますぅ。」



うちの学校の名物。桃に群がるヤロー共のうざいこと、うざいこと。

確かに桃は可愛くて巨乳だがそれにしても…。

桃が、俺の視線に気付くとすぐさまこちらに駆け出して来た。

制服に包まれたたわわなメロン…いや胸がゆっさゆっさと重たげに揺れる。



桃「男ちゃ〜ん。」

男「おう、桃。相変わらずモテるなあ。」

桃「ええ〜っ。そんなんじゃないよぅ〜。今、お弁当?」

男「ああ。今日も購買のパンだけどな。」

桃「じゃ、いっぱいお弁当作ってきたから食べて食べてっ。」



そう言うと、桃は重箱かという位大きな弁当箱を取り出してきた。

どう見ても桃は家庭的なタイプに見えないけどな…。

どんな中身なのか想像しただけで身の毛がよだつ。

桃「あー!男ちゃん、桃のお弁当美味しくないって思ってるんでしょ〜?」

男「そ…そんな事ねえけどさ。」

桃「食べてくんないとイヤぁ。桃泣いちゃう。」



覚悟を決めて、重箱を開けると思わず声をあげた。

中には、色とりどりの見事なおかずがぎっしりと詰まっている。

まるで本職の料理人が作ったみたいだ。とても目の前の桃が作ったとは思えない出来。



桃「ねっ!美味しそうでしょ?食べて食べてっ」

男「お、おう…。」



おそるおそる、箸を付ける。味も焼き加減も見た目も完璧な仕上がりに驚く。



男「う、うまい…。」

桃「ね、美味しいでしょ?」

男「これ、ほんとに桃が作ったの?すげえうまい!」

桃が、少しだけ寂しそうな顔をした。



桃「うちね…、お母さん仕事で滅多に家にいないから、桃がご飯作ってるんだ。」



そういえば、桃のお母さんって有名な女優なんだっけ?

確か今、新作映画の撮影でヨーロッパに行ってるって聞いたけど…。

華やかに見える桃も、随分寂しい思いをしてたんだろうな。



桃「お母さんが帰ってきた時に、美味しいご飯を食べて欲しくて一生懸命練習してるの。」

男「エラいな。桃は」

桃「でも、今は男ちゃんが美味しいって言ってくれるのが一番嬉しいな。」

男「え…あ…。」

桃「はい、あーん。」



桃がウィンナーを俺に差し出した。されるがままにあーんとくわえる。

学校のアイドル的存在の桃にそんな事してもらえるなんて…。

桃ファンに見られたら殺されるな。そんな事を考えつつ、そのまま食おうとしたら…。

桃「男ちゃん、あたしにもちょーだいっ」

男「!!」



桃はなんと、俺が口にくわえてるウィンナーのもう片方をカプリと齧った。

しかも、唇ギリギリ…。桃の吐息をかすかに感じた。甘いシャンプーの香りも…。



桃「じゃねっ。重箱食べ終わったらちょうだいねっ。」



モグモグとウィンナーを食べながらまるで、風のように走り去った桃の、

最後に残したセリフにまた仰天した。



桃「今度、裸エプロンで作ってあげてもいいよっ。なんてねっ。」



その言葉をたまたま聞いてた桃親衛隊のヤロー共と、青・緑・紫連合軍に

タコ殴りにされるのまで、それから10分もたたなかった(終わり)


男「ぐぅ……眠い、眠すぎる」

桃「まだ午前中だよ?あ、さては夜更かしのしすぎ?」

男「しょうがねぇじゃん、サッカー見てぇもん……でも、さすがに全試合はキツいわ」

桃「わぁ。日本戦だけじゃなくて、その後もきっちり見てたんだ。好きなんだね」

男「まぁな。なんといっても4年に1度っきりのイベントだし、見逃したらもったいねぇじゃん」

桃「そっか。それでその代わりに、この授業中っていう時間を見逃すんだね」

男「そういうこと。というわけでおやすみなさい」

先「———おいそこ、誰ださっきから。授業中は静かにしろ。 ……ただし、居眠りは厳禁だぞ」

男「げ、マークされたか。 はーい、すいませんでした」

桃「あはは。バレちゃったね」

男「まいったな。しょうがない、昼放課を活用するか」

桃「あ、それじゃあ……ねぇ、私もいっしょにいいかな?屋上に行くんでしょ?」

男「ん?そりゃ別にいいけど。でも俺、悪いけど構わずに寝るぞ?かなりキツいから」

桃「うん、いいよ♪」

ーーーーーー

男「Zzz……」

桃「爆睡してる……ホントに眠かったんだなぁ。 よいしょっ、と」(ポフッ

男「ん……」

桃(一度やってみたかったんだよね、好きな男の子にひざまくらするの♪)

男「……ぐぅ」

桃「へへ………なんだか、こうしてみると可愛いなぁ……おやすみなさい。……今だけの、ダーリン」

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先「——つまり、色無と桃色がフケたってことでいいのか?でもカバンはあるよな。どこに消えたんだアイツらは……」

橙「……どこかは知らないけど、間違いなく桃色空間が展開されているわね。あー、今日も一段とアツイわぁ」

黄(も、桃色空間……色無と、ピンクで………?) 「……………ぁ、やば、鼻血が」


『ある曇り日に』





6月の半ば。本日は曇天なり。

今現在、雨は降りそうで降っていないけれど、夜も深まる頃には降り出すだろうと予報では言っていた。

「雨、降りそうだな……カサ持ってきてないから、降り出す前に帰らないとヤバいな」

私の右隣、半歩前を歩く彼は不満気にそう漏らす。

「そうだね。あ、でも今降ったら相合傘のチャンスじゃん。むしろ喜ぶべきなんじゃない?」

私の左隣、並んで歩く彼女は楽しそうにそう言う。それを彼は『アホか』とそっぽを向いて切り捨てた。

「あっはっは、照れてやんの。純粋っていうか、ピュアっていうか……いひひ」

「誰も照れてねーよッ!アホなこと言ってんじゃねぇッ!!」

そして始まる、私を挟んでの楽しい口論。

私はどちらの言葉にも耳を傾けて、笑う。すると片方からは賛同、片方からは批難。

それを何度か繰り返したところで、私はさらっと言ってみる。

「でもさ、オレンジちゃん。もし相合傘なんてやったら、どこからどう見ても立派な“カップル”だよ?」

「へっ?あ……ぃ、いやだなーもう!!私は単にカワイソウだからしてあげるっていうだけで……」

「ふぅん。オレンジちゃんは優しいんだね、ふふ……あははっ」

「ぴ、ピンクッ!!なによその意味ありげな笑いはーッ!!」

「なんでもないよー。ほらほら、急がないと雨が………あれ?」

赤い顔をしたオレンジちゃんが隣で騒ぐのを、隣の彼は聞いていなかった。というより、居なかった。

慌てて振り返ってみると、彼は数歩後ろの所で何かをじぃっと見つめていた。

「あれ?どうしたの……?」

タタッとオレンジちゃんが走り寄る。私も傍で彼に倣う。

そして同じような目線から、同じものに気が付いた。

「ネコ……?」



道路脇の邸宅、その庭らしきところからじぃっとこちらを見つめる、小さなネコ。

私たち3人の視線をしっかりと感じているはずなのに、逃げる素振りすら見せない。

「………」

突然オレンジちゃんがすっと座り、無言のままネコを呼ぶ。指をちょいちょいと動かすだけの、シンプルな動作。

すると——信頼はもちろん、餌すらもないというのに、ネコはとてとてと走り寄ってきた。

「飼い猫、だったんだな」

彼の呟きに頷く。野生の猫ならこんなふうに寄って来ることはまずありえない。

ただ、その呟きが過去形というのが、哀しかった。

「見知らぬ人間にも寄ってくるなんて、相当人懐っこいわね。珍しい猫だなぁ」

よしよし、とオレンジちゃんはネコの頭を撫でる。

ネコはとても嬉しそうにノドを鳴らし、オレンジちゃんの指や手に頬をすり寄せ始めた。

「あぁ、やっぱりガリガリだわ。どれくらい食べてないのかな、このコ」

「さぁな……」

「………」



「……………」



それからしばらく。

ネコがノドを鳴らす音だけが、夕暮れに佇む私たちの世界だった。

この歳になれば嫌でも知っている。

この手のことは、哀れみと同情だけではどうしようもないことに。

だから、オレンジちゃんや私のカバンに少しながら食べ物があることを、みんな知ってて言い出さない。

捨てられたということは、野生に帰ったということ。

たとえその命が野生を知らないとしても、摂理は決して覆らない。

生きるなら自分で餌を捕り、自分で自分を護る。餌を与えてくれるモノも、護ってくれるモノもいない世界。

このちいさなネコは、そういう世界に投げ出された。

……だから、このネコが無力故に力尽きてしまっても、それは仕方の無い事なんだと。



———そうやって。

     諦められて、忘れられたら、どんなにラクだろう。



「……飼えない、かな」

呟いた途端、二人の視線が私に向けられる。

「はぁ。やっぱりそうなっちゃうよね……それで?アテはある?」

「………」

首を、横に振った。

「だよねぇ。まぁ理由なんてよくあるケースだろうから聞かないけど」

『アタシもそのケースに含まれるし』と、オレンジちゃんはつまらなさそうに呟いた。

「ねぇ、色無くんは……どう?」

請うように聞いた。その眼に否定的な色が浮かんでいると知って、なお。



「……ごめん」

「………ううん。ごめんね」

「…………ごめんね。どうも私たちは、キミとは縁がなかったみたい」



それぞれの謝罪。

それを知ることのないちいさな命は、いつの間にか私の靴に頬を寄せていた。









アスファルトを踏む靴は、水音を立てる。

すっかり雨雲に覆われた空は真っ黒で、辺りはもう真っ暗。



私は独りで歩いていた。

夕暮れ時に3人で歩いていた道を、さかさまに。



「——お待たせ。たべもの、持って来たよ」



みゃあ。と返事がして、ずぶ濡れになったネコがとてとてと走り寄ってきた。

私はついさっき買ったばかりのキャットフードを取り出して、その封を切る。

「はい、どうぞ。いっぱい食べてね」

掌で皿を作り、ざらざらと出すと、ネコは飛びつくような勢いでがつがつと食べ始めた。

……それを可愛いと思うのと同時に、なんだかとてもいたたまれない気持ちで、いっぱいになる。





「—————なんだ、考えることは一緒か」

「えッ!!?」



振り返ると、そこには透明な傘を差した色無くんが立っていた。

その手に、私とおんなじレジ袋を引っさげて。





「……ダメだってわかってるのにな」

「うん」

ぱりぽりぱりぽり。掌に盛ったご飯はもう2杯目で、それもわずかになってきた。

「でも、ほっとけなかったんだよね」

「そうだな。ほっとけなかったから、こんな後先考えないことをしてる」

ぺろぺろ。おかわりを平らげたネコは、名残惜しそうにお皿を何度も舐める。くすぐったい。

「こんなにかわいいのにね。どうして捨てられちゃったんだろう……」

「……そんなの知らないし、知ることもできないし、知らなくていいと思う」

寂しそうな呟きの後で、彼は不意にネコを抱きかかえた。

にゃ、と小さく鳴いたものの、ネコは嫌がる素振りを見せない。

「だけど、こんなにいい子なんだ。きっと飼い主にどうしようもない事情があったんだと思う」

「ん……そうだよね、きっと」

「そうに決まってる。……なぁ。オマエもちょっと抱っこしてみるか?おとなしくて可愛いぞ」

「え?あ、うん……じゃあちょっとだけ」

彼から私の腕の中に移されても、ネコは満足そうな顔でゴロゴロとノドを鳴らしていた。

すっかり痩せてしまった顔だったけど、その顔は写真でよく見る猫よりもかわいいように思えた。

だから、ぎゅっと、少し力を込めて抱く。

「しかし、ホントに大人しいよな。よっっぽど人が好きなんだろうな」

「うん、そうだね……。かわいいなぁ……」



『♪———♪——♪————♪——』



と。いきなり、びっくりするような音楽が私のカバンから鳴り出した。

この着信は、お母さんからのメール——今の状況から考えるに、その内容は『帰って来なさい』ということだろう。

「……私、帰るね」

「へ?………あぁ、もうこんな時間だったのか。それじゃ俺も帰るかな」

ネコを地面に置いてあげてから立ち上がると、隣の彼もスッと立ち上がった。

「……安物だけど、マシにはなるか」

「え?」

彼はいきなりそう言って、見上げるネコにそっとカサを立てかけた。

『漫画でしか見たことないけどな、こんなの』と困ったように彼は笑う。そうだね、と頷くと、なんだか頬が緩んでしまった。

「だけど……どうする?オマエもずいぶん濡れちまってるよな」

「あ、うん。でもここまで濡れちゃえばいっしょだし、いいよ」

それも、学校にカサを忘れた私が悪い。

さらに言うと、色無くんと同じように一度家に帰ればよかったものを、そうしなかった私が悪いんだから。

「そっか。じゃ、早いところ帰ろうぜ。雨が強くならないうちに」

「そうだね。はやいとこかえろっか」



またね、とカサ越しに見えるネコに手を振って、私たちは再び帰り道を辿り始めた。







「———なにしてんの、アンタたち」

「そう言うオマエこそなにしてんだよ」



ちょうど3人が分かれる道の近くで、なんとオレンジちゃんと出くわした。

私たちと違ってどこも濡れた様子がない彼女は、ちょっと冷たい感じのする目で私を見ているような気がした。

「まぁ、きっとあのコのところに行ってたんでしょうね。考えることは同じか」

「っていうことは、オレンジちゃんも今から……?」

「そ。ただ、餌をあげるとか拾いに行くとかじゃないけどねぇ」

そう言って彼女がカバンから取り出したのは、おしゃれなデザインのデジカメだった。

「これであのコを写してさ、貰い手を捜そうと思ったの。ただ単に捨て猫って言うんじゃ、あんまりピンとこないでしょ?」

「なるほど……なかなかいいアイデアじゃんか。さすがオレンジ」

「まぁねー。カサを忘れてずぶ濡れになるアホとは違うのよー」

「ぐ……」

「あ、あはは……」

返す言葉もない。でも色無くんは事情を話せばいいのに、そういうつもりはまったくないようだった。

「しっかし派手に濡れてるわねー、ピンク。アンタ自分の服装わかってんの?」

「え?」

なにが?と尋ねると、オレンジちゃんはものすごく呆れた顔で脱力した。

「……今って夏服だからさ、カッターじゃない。っていうか自分の服を見れば一目瞭然よ、このおばかちゃん」

「?………—————ッ!!!!」

自分を見て——少し寒いと思っていた身体に、カアッと熱が上ってくるのをハッキリと感じた。

そういえば自分が夏服だったということに今さらになってから気付き、後悔したい気持ちでいっぱいになる。

「あぁ、わざとじゃなかったんだね。しっかしエロいなぁ。黄や青、紫あたりが見たらどうなることやら……いひひ」

「なななッ、そ、そんなつもりじゃッ!!」

「あはは。そんなつもりだったらシバくわよ?」



「……おい。オマエら俺の存在忘れてないか?」

「忘れていいのよ。このままだったら送り狼になってたでしょ?もしくは曇天の下で青か——」

「おい。俺をなんだと思ってんだオマエ」

「あはははは。男だったらそれくらいやっちゃえって意味を込めてるのよ」

「お、オレンジちゃん……」



ーーーーーーーーーー



「———さて、いい加減しゃべるのもやめよっか。アンタたちも寒いでしょ」

「俺は大丈夫だけどな、さすがにピンクは寒いだろ」

「あ、えっと……ちょっとだけ」

「はいはいそれじゃお開きということで。私はいい貰い手が見つかるように、いい写真を撮ってくるから」

「頼む。何かあったら俺も手伝うから」

「うん、アテにするわ。それじゃおふたりさん、また学校で」

「またね、オレンジちゃん」

「じゃあな」



雨は止まず。

傘を差すひとつの影は、傘を差さないふたつの影を眺め続ける。



「………相合傘なんてやったら立派なカップルとか言ってたけどさぁ、ピンク」

やれやれと、橙は遠ざかる背中に向かって呟いた。





「雨の中で傘も差さず、ずぶ濡れなのに楽しそうに歩く二人———今のアンタたちさぁ、立派な“バカップル”に見えるわよ?」





涙空の下。

橙は晴れやかな笑顔で、消え行く二人を見送った。


桃(♪—♪——♪……よしっ、クリアっと)

男「……上手いなー、ポップン。正直ちょっと意外だわ」

桃「あははっ。こういうの、けっこう楽しくって。最近はオレンジちゃんもやるんだよ」

男「え、アイツが?………あー、でもけっこうイメージできるわ。うん」

桃「私は黒ちゃんに教わりながら始めたんだけどね」

男「はぁ!?く、黒がポプなんてやるのかよ!それはイメージできんなぁ……」

桃「そう?すっごい上手なんだよ。私なんてまだまだ……さて、次の曲は何にしようかなぁ」

橙「——放課後デートはゲーセンかぁ。珍しい選択ねぇ、アンタたち」

桃「あ、オレンジちゃん。この曲が最後だからちょっと待っててねー♪」

橙「ちっ、集中しちゃっててからかってるのに気付いてないか。色無ちゃんはしっかり赤くなって慌てふためいてるのにねぇ」

男「ちゃんとかつけるなキモいから!っつーか、誰が赤くなってるんだよッ!!」

桃「♪」

橙「お、はじまった。………ところでさぁ、9ボタンでのプレイって動き激しいよねぇ」

男「シカトかよ……まぁいいや。 確かにめちゃめちゃ動くよな。それがどうかしたか?」

橙「いや、たわわに実ったなんとやらが惜しげもなく揺れてるなぁ、と」

男「は?—————ぁ」

橙「うーん。本人にその気がなくても、ここまで見せ付けられると……紫だったら泣いちゃうわよ?」

男「………見たらダメだ、見たらダメだ、見たらダメだッ!」

橙「うわ、ウブすぎでしょアンタ。……どーせいつかしっかりひん剥くくせに」(ボソリ

桃「♪〜〜♪〜♪〜♪」


男「ぐぅ〜ぐぅ…(寝てる)」

ガチャ!トコトコ…

桃「だ〜いぶ!」(ドカッ

男「ぐぉ!!!!」

桃「ただいま♪」

男「お前…俺が寝てたら腹の上にダイブするのやめろよ…」

桃「えへへへw」

男「ったく…早くどけろよ」

桃「あれぇ?おかえりのチューはぁ?」

男「…………」(チュ

桃「もっかい(もう一回)」

男「…………」{チュ

桃「もっともっと」

男「ダメ!」

桃「ぶぅ〜ぶぅ〜!良いもん!自分でするからw」{チュチュチュチュチュ

男「……コラw」

桃「だってしたいんだも〜ん♪」


桃「——どう、かな?」

男「………いや、似合ってる。似合いすぎだから……」

桃「あぁ、よかったぁ。やっぱりオレンジちゃんのセンスはいいんだなぁ」

男「ていうか、オレンジといいオマエといい、どうして俺に見せるんだよ……鏡見りゃ、似合ってることくらいわかるだろーに」

桃「……似合ってるかどうか、自分でわかってもしょうがないんだよ」

男「ん?」

桃「オレンジちゃんも私も、おんなじ。だから色無くんを呼んだんだよ」

男「……あー、えっと?」

桃「ふふっ。 ……ねぇ、今から泳がない?」

男「はぁ?確かに暑いけど、どこで泳ぐんだよ。まだ市民プールもやってないっつーのに」

桃「んーとね、私んちのお風呂に水を張るの」

男「……なんですと?」

桃「意外と広いんだよ?泳ぐのは……ちょっとムリだけどね。 でも、ふたりくらい一緒に入れるよ」

男「ふーん。ふたり入れるならけっこう広———え?」

桃「気持ちいいよ、きっと。ね——だから、いっしょにはいろ?」

男「ッ———……いや。間違ってると思うぞ、いろいろ」

桃「せっかくの水着だもん、やっぱり水がなくっちゃ。ちょっと準備してくるねー♪」

男「あ、おいッ!ひ、人の話を聞けーッ!!」


桃「今日は自分でお弁当を作ってみましたー♪」

男「へー、ピンクが?自信のほどは如何ですか先生」

桃「えへへー。それは食べてからのお楽しみってことで、はいっ」

男「うっわ美味そう!これ、ホントにオマエが作ったの!?」

桃「うん。じゃあまずは定番の玉子焼きからね。はい、あーん」

男「それはいいから……」

桃「えー。じゃああげないもんね」

男「ふふふ、それなら奪い取るまでよッ!!」

桃「あッ!」

男「この玉子焼きはいただいた!というワケでいただきます」(モグモグ

桃「もう……まぁ、いっか。それよりその……味はどう?」

男「んむ、美味———(ガリッ)——〜〜!!?」

桃「え!?ど、どうしたの?」

男「た、卵のカラ……思いっきり、噛んだ………」

桃「ほ、ホントに!?やだ、ごめんね色無くん!!」

男「ん〜〜〜〜……(ゴクン)、ふぅ……ビックリした」

桃「……ごめんね。口の中、大丈夫?痛くなかった?」

男「おいおい、たかが卵のカラだぞ。金属片とかじゃあるまいし、平気だよ」

桃「……ごめんね」

男「そんな謝るなって。それよりさ、そこのから揚げも味見させてくれよ」

桃「………」

男「あー……………えと、オマエが食べさせてくれると、いいんだけど……」

桃「ぇ?」

男「だから、その………さっき、やってくれたじゃん。あーんって……アレ、やって」

桃「あ——……うん!きっと、今度は大丈夫だから……はい、あーん♪」



橙(……うーん、屋上にいると思ったのはいいけど、まさかピンクまで居るとは……しかもなに?あのバカップルっぷり。いいなぁ……もう)


『桃色スライダー』

「いーろなしくん♪」

 そう言って駆け寄る彼女はピンク色のビキニ姿。たわわに実った果実が周囲の男の目を釘付ける。

心なしか周りの女性の目も惹きつけている気がする。時折「綺麗ねぇ〜」とか「羨ましいわぁ」とかいった声が聞こえる。

 ここは市内のウォーターパーク。休日になるとやたらと人で賑わう。夏休みになると泊り掛けで遠方から来る人達も結構多い。

流れるプールに身を任せながらまったりとたゆたったりしていると日々の生活の鬱積も何処かへ飛んでいってしまう様。

そんな風にして一頻り楽しんだ後、水から上がって休むこと20分位した頃だろうか、隣にいた桃さんが誘ってきた。

「ウォータースライダー行きましょうよ」

「ウォータースライダーかぁ」

 此処のウォータースライダーは3種類もある。勿論、一番の目玉だ。

大勢の客がこれを目当てにここに来ているといっても決して言い過ぎではない。

 静かに風が吹いた。まるで僕を誘っているような。

「うん、行こうか」

 僕はてっきり3種類の中でも比較的落ち着いているやつに乗ると思っていた。

しかし桃さんは遣り手だった。僕は彼女に見た目の可憐さに反した度胸があることを失念していたのだった。

「あれに乗りましょうよ」

 彼女は平気な顔でそう言った。屈託の無い笑顔。その顔は本当に嬉しげだ。思わずこっちも笑顔になってしまう。

「そうだね」

 正直言って僕はちょっとビビっていた。専用の浮き輪で滑り降りるそれは、時速40キロと全長131メートルを売りにしている。

結構高い。というかかなり高い……。桃さんはと見ると穏やかな顔で微笑んでいた。

元から作りが違うらしい。彼女の恐怖メーターが振り切れる事はあるのだろうか。

僕と桃さんは折角の機会だからと2人乗りの浮き輪で滑り降りる事にした。

「きゃーっ」

 桃さんは楽しそうに声を上げていた。しかしこっちにはそんな余裕などは無かった。

「ぎゃ————————っ!」

 怖い、かなり怖い! 

 そして余裕が無いのはそれだけではない。僕と桃さんは体が密着していた。当然桃さんの胸も……むにむにむにむに。

「ああああああああ」 

 凄いスピードのまま物語は佳境を迎える。やばい、この勢いのまま行ったら逝きかねない。

水面に落下する衝撃はどのくらいだろうか……。

『ざっぱぁああああああんっ』

 落下の衝撃はそれほどでもなかった。最後のところで掬い上げるような造りになっていたからだった。

そりゃ直撃はしないよね。死人が出る……。水を切るようにして水面に不時着する。

「あはははははっ☆」

 桃さんは楽しそうな声を上げながらプールに落ちた。みっともない悲鳴を上げながら落下する僕とは器が違う。

「あー死ぬかと思った……。えっ、ええええええっ!」

 桃さんはと見ると、水着ははだけ落ち、ふくよかな胸があらわになっていた。

桃さんは気付かずにニコニコしている。思わず凝視……せず、顔を逸らしながら言った。

「もっ桃さん! 水着、水着!」

「え?」

 桃さんは一瞬何を言われたか解からなかった様。少しの間があって気付いた。

「きゃ————っ」

 そう言って胸を押さえる。しかし、これはこれで凶器だ。桃さんの胸は腕の中で形を変え、これでもか! と自己主張している。

「きゃ————っ。いっ色無君、水着どこ!?」

 キョロキョロする彼女。慌てている所為か直ぐ後ろにぷかぷかと浮いている水着に気付かない。

「もっ桃さん、後ろ、後ろ!」

 彼女は後ろのそれに気付くと慌てて掴んだ、のだが……。

「ふっ、ふえーん。どうしよう……。一人じゃつけれないよ……」

 そうなのだ、彼女が独力で水着を着けようとすると豊満な胸があらわになって彼女の体がさらされてしまう。周囲にはそれなりに人がいた。

 まっまさか、これは僕が付けるしかないのだろうか……。

「ぼっ僕が付けようか……」

 言ってみた。まずかっただろうか……。

「ふぇ、おっお願いしますっ!」

 そんな訳で水着を付けている。しなやかな背中に参ってしまいそうだった。

 何とか見ないように見ないようにしながら紐を結ぶ。

「はいっできた!」

「ごめんなさい色無くん……」

「へ!?」

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「迷惑かけちゃって……」

 桃さんは頬を染めながらそう呟く。……そういうことか。何か悪い事しちゃったかと思った。

何しろ女の子の水着なんて付けてあげたこと無かったから……。

「いっいいよ別に……アクシデントだし……」

「ううん、そんな事無い!」

 変なところで押しが強い。いやいや、桃さん。普通そこは「もー」とか、或いは「見たな!」とか言いながら激怒して怒るところですよ!?

「いやいや……いい物を見せてもらっておいて謝られるなんて……」

 ああ! しまった! 失言だ!

「え?」

 しかし彼女は良く解からなかった様子で首を捻っている。……桃さんじゃなかったらどうなっていた事だろうか。

「楽しかったねー」

「そうですね〜」

 ウォーターパークから出た僕達は並んで歩いている。

色々あって目まぐるしい日だったけれど楽しい一日だった。

こんな可愛い女の子とデートが出来るなんて、春からしてみれば夢の様だ。

 夕日が僕達を染めていた。

「また行きましょうね」

 寮の近くまできた時、桃さんがそう語りかけてきた。

「そうだね」

 こんなに晴れやかな気分になれるのなら、何回だって行きたい。……いや、決してポロリを期待しているとかじゃないんだぜ。


桃「色無君〜、ちょっとちょっと〜」

男「何さピンク?」

桃「ちょっと最近胸がまた成長しちゃってさぁ、肩が凝ってしかたないのよ」

男「な…そんなん男の前で言うことじゃないだろ!!///」

桃「あ、ごめんごめんwでも肩揉んでくれない?ダメぇ?」

男「う……別にいいけど///(あんな目で見られて断れるやつがどこにいるんだよ…)」

桃「やったー!ありがとう色無!」

男「よいしょ……このへんか?」

桃「ん……そうそう………あっ…そこそこそこそこ…!」

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男「おばはんみたいな言い方するなよw」

桃「そう?じゃあ……あっ……あんっ…んっ…」

男「やめてください!!///」

桃「やだ、何想像してるのよ、もうっw///」

男「ピンクが言ったんじゃんか!!」

紫「…こちら紫、巨大な桃色空間を感知。けど……私には入れない…っ!」

橙「大丈夫、これから大きくなるよ…」

紫「ちっちゃい…ゆー…なぁっ……グス」


桃「ゔ〜……頭いたい……エアコンの付けすぎで風邪引いたかな」

紫「大丈夫?」

無「ただいま〜ん?二人ともどうした?」

紫「いや、なんか桃が風邪引いたみたいで」

無「え〜大丈夫ですか?ってかうつさないでくださいね」

紫「そういえば人にうつせば治るなんてよく言うよね」

桃「(ピカーン)」

無「どうしたんですか?」

桃「あぁん色無ぃ……なんか体がほてっちゃったみたい」

無「いや……風邪引いてますからね」

桃「ほらぁ……こんなに胸もドキドキしてるのよん?」

無「チョット!?何さわらしてるんですか!?」

紫「ビキ」

桃「あら〜?もう色無ったらかわいいんだからぁ」

紫「チョット!?色無になにしてんのよ!?」

桃「あら〜?胸の無い子の嫉妬は醜いわよ?」

紫「(ビキビキ)チョット色無!!あんたも何デレデレしてんのよ!!」

無「デレデレなんて……うわっ」

桃「フフ……」

チュッ

紫「!!!!!?」

無「チョッ……もが……ん……んん〜」

桃「んん〜チュッ……レロッ……ッ……ッッ」

紫「……」

無「ぶはっ……な、なにするんですか(し、舌入れてきた)」

桃「ンフフッ風邪って人にうつすと治るって言ったじゃない?だから」

無「だからって……」

桃「でも……ダメだったのかしら?もういい寝る、じゃあね」

無「チョッ……」

紫「……」

無「……む……紫さん?」

紫「色無のばかぁぁぁぁぁぁぁ……!!!もうしらない!!」

無「ちょっ……どっから100tハンマーを」

紫「死ねぇぇぇ!!」

無「うわぁぁぁぁぁ」

バシィィ!!

翌日

無「ゼエハァ……あの紫さん」

紫「何?」

無「助けてください……」

紫「死ね」

桃「……ん〜よく寝たわぁ、風邪治ったみたいねぇ、よかったわぁ……フフッ」


桃「いーろーなーしーくーん♪」

男「ん?なんかテンション高いな、ピンク。どしたよ?」

桃「実はねー……(ゴニョゴニョ)」

男「———いやちょっとまてこら。なんでソレを嬉々として俺に報告すんの?」

桃「だってこんなこと喜んでくれるのって、色無くんしかいないでしょ?」

男「……少なくとも、紫に言ったら枕を涙で濡らすだろうな。ていうか俺が喜ぶってのは、その」

桃「てやっ」(ギュッ!!)

男「わぷッ!」

桃「どーぉ?ふにふにできもちいーでしょ?」

男「ちょちょちょ、待てこら!そりゃ確かに気持ちいい、ってアホか俺!!あぁもう、いいから離せー!」

桃「ぁん……あ、あんまりジタバタしないでよ。今日はその、お休みだから……ブラしてないの。だから、その……こすれるっていうか」

男「———」(ボンッ!!)

桃「あ、大人しくなった。 えへへ……こうしてると、なんだかしあわせ感じちゃうなぁ……♪」

男「……」(……なんか、抵抗するだけアホらしい気がしてきた……)

橙(うわっちゃぁ、タイミング最悪……なにあの桃色空間?羨ましいったらないなぁ、もう)

男(あ、ドアのところに誰かいる!き、気付いてほしいけど……でも、紫とか青だったら地獄だし……ああもうッ!)

桃「あッ……い、色無くん、だからあんまりバタつかないでっ」

男「へ?あ、ご、ごめんッ。そういうつもりじゃなくて」(……あれ?い、いなくなってる?おかしいな……)

橙(まぁいっか。この場はピンクに譲るとして……あとでもーっとすごいコトしてやろっと。けけけ♪)


桃「今日は女子も男子も体育館でバスケ。色無くんは着替えが早いから、いつも通りならボールを用意させられるはず。先回りして……」(トタタタッ

教師「おー色無! いつも早いな。先にボール用意しといてくれるか」

無「わかりました」

紫「あっ色無! 私も行く!」

ガララッ。

無「ふぅ〜薄暗いなぁ。ボールのカゴは……」

紫「こっちじゃない?」

無「あっこれだこれだ」

無「……なんだかどれもこれも空気抜けてるな……」

紫「下のは?」

無「ゴソゴソ。どれもあんまり……」(ふにふに

無「ん? なんだかこれは一段と柔らかいな……」

桃「はっ……くうっ……くすぐったいです……」

無「もっ桃さん!?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

無「はっ!!! 後ろから物凄いオーラが……」

紫「色無のばかぁあああああああああっっっ!!!!!!!」

ばちこ————————————ん。

無「ぐわぁあああああああああっ!!!!!!」

……

桃「よいしょっと。そろそろ出て行かなきゃ」

ガラガラガラ。

桃「ふう……」

教師「なんだ! 桃はまだ着替えてないのか!? もう授業始るぞ!」

桃「ひゃうっ。自分の着替えを忘れてたっ!」

黒「天然なんだか計算高いんだか良くわからないわね……」


桃「はぁー」

 見つめる視線の先には色無。赤や青や橙等と楽しそうに話している。そこに黄も混じってきて話はいっそう弾んでいるようだ。

桃「色無くんと仲良くなるにはどうしたらいいのかなぁ」

 桃は色無が好き。色無も桃の事が好きだろう。でも、それは友達として、他の娘と同じ様に好きだという事に他ならない。特別な関係では無いのだ。

桃「あっ!いいこと思いついた!」

 T字路の通路の陰に桃は隠れていた。そろそろ色無が来るのだ。真っ直ぐ行った所に教室がある。そこに丁度飛び出して衝突。

お互い転んで、そこから「大丈夫?」などと会話が発展したり、上手くいけばびっくりしたドキドキが、何やら「これって恋?」みたいな感じに脳の中ですりかえられて、異性として意識してくれるきっかけになるかも知れない。桃はそれを思いついた。

桃「もう少し……」

 ダッダッダッダッ。

黄「いーろなしー!」

桃(今だ!)

 シュバッ。ドガッ! 
桃「キャッ!」

黄「ああっ!」

色無「ぐえっ!」

 桃が色無の前に飛び出したところに黄が物凄い勢いで突っ込んできた。彼女もまた、関係発展のため、抱き付こうとしていたのだ。

黄の性格を象徴するように元気一杯に走り込んできたので、通常なら音や気配で気付くはずが、桃の頭は作戦の事で一杯でそれに気付かなかった。背中から押され、色無に抱き付くようにして倒れる。

桃「いたた……」

 しかしこれはこれで成功かも知れない。色無は下敷きに、桃はその上に。

まるで色無の腕の中に包み込まれているような。……実際には彼女の方が抱き付いているのだが……。

黄「ああ————!!!!」

色無「なあ……どいてくれないか? 苦しい……」

桃「桃はくるしくないから平気です!」

色無「はぁー」

黄「しまった——————っっっ!!!」


桃「いーろなしくん♪」(ぎゅっ

無「わっ桃ちゃん! 胸あたってる、あたってるって!」

桃「い、い、の! あててるの!」

無「えっ、えぇええ!?」

桃「だって、聴こえるでしょ? 桃の音が」

無「へ!?」

桃「もー、心臓の音! ほら——」

 トクントクントクン

桃「こうしてると、桃の気持ちが伝わる気がするの……」

無「あ、うん……」(胸の所為で遠くて良く聴こえないけど、いいか……)


桃「はぁい次の授業は体育だよぉ」

黄「先生!なにやるの?」

桃「今日は先生の大好きなマット運動よ☆」

赤「サッカーしたーい」

黄「どうかーん」

桃「そう?ブルマとマットっていい組み合わせじゃない?高校の頃思い出すわぁ。あれは体育倉庫で」

緑「不潔……」

桃「緑ちゃん、あれ見てご覧。色無君、マットの用意してるよ。意外と彼得意なのかしらねぇ」

緑「ッ!わかりました。いいでしょう」

桃「でもね緑ちゃん?」

緑「何でしょう?」

桃「私はショタもいけるのよ」

緑「教育委員会に報告しますよ?」

桃「冗談よぉ。こわぁい。でもそこが緑ちゃんの可愛いところなのよねぇ」

緑(びくっ!)


無「それがさ……」

桃「うん♪」

 今日は色無くんと一緒に帰っている。

いつもなら教室でみんなが目を光らせているから誘えないけど、今日は下駄箱のところでばったり会った。

桃「あれ? こんな道に出るんだね」

無「そうなんだ。こっちの方が早いからいつもこの道使ってる」

 色無くんと初めて一緒に帰る道。そこには見慣れない風景が拡がっていた。

電柱や塀に生い茂るツタの葉も、人家の庭先に見える色あざやかな花も、

いつも帰る道とは様子が違っていて、私の好奇心をくすぐっていく。

しばらく話して歩いていると、彼の家が見えてきた。

 ピンポーン♪ ガチャガチャ。

無「あれ? だれも居ないのかな?」

 そう言って彼は鞄から家の鍵を取り出して開けた。

無「さ、あがって」

桃「お邪魔しまーす」

桃「ここが色無くんの部屋?」

無「そうだよ。あんまり片付いてないから恥ずかしいけど」

桃「へぇ〜っ」

 確かにごちゃごちゃしていてあまり片付いてはいなかった。

でも汚いっていうんじゃなくて、物がいっぱいで「男の子の部屋」って感じ。

私は初めて訪れた「異性」と意識する男の子の部屋に感心し、また、安心もしていた。

だってあんまり片付いていたら、気が抜けないって思っちゃうもんね。

無「麦茶でも持ってくるよ」

桃「あっお構いなく〜」

 そう言って彼は部屋から出て行く。

 改めて部屋を見回してみても女の子の気配はない。そのことにも安心する。

人の部屋をきょろきょろ見回していやらしいって思うけれど、好きな人相手だと心配からついやってしまう。

桃「はぁ〜」

 思わず溜息が出た。色無くんはみんなの人気者。それはきっとみんなのことをちゃんと見ていてくれるから。

必然、ライバルは多い。もちろん色無くんは私の物だけじゃないのはわかっているけどさぁ。

桃「はぁ〜」

 考えれば考えるほど憂鬱になってきた。私には勝算がある訳ではなかった。

今日だってたまたま一緒になったから帰っただけ。彼氏と彼女の関係になんて程遠いのだ。

桃「憂鬱だなぁ〜」

無「何が憂鬱だって?」

桃「ひゃあっ!」

 私が呟くと同時に彼は笑顔で麦茶を持って部屋に入ってきた。

聞かれてしまった……。でも悪いふうには取ってないみたい……。

桃「ううん、なんでもないの。こっちの話」

無「そう? なんかまずい事あったら言ってよ?」

桃「ううん、違うの。全然関係ないことだから、気にしないで」

 気を遣わしてしまった……。あああ、私のばか。何をやっているんだろう。

 色無くんは私の横に座ってテレビをつけた。14インチのテレビ。画面には高校野球が映っていた。

無「何か見たい物、有る?」

桃「ううん、何にもない」

 私はそれをぼうっと見ながら、今日こそは聞こうと思っていた事を思い返していた。

今日こそ聞こうと思っていた事。それは、『色無くんって、好きな人とかっているの?』……って事。

意を決して聞こうとする。が、

桃「色無くん……」

無「ん?」

 駄目だ——。面と向かって顔をあわせると、どうにも言えない。

さっきまで言えたはずの事が、のどに引っ掛かって出てこない。

それに、距離も近い。何だか気恥ずかしくなってくる。

桃「ごっごめんなさい。なんでもないの」

 何でもなくはないのに、何を言っているんだろう。

それにこれではもっと気を遣わせてしまう。

無「そう?」

 色無くんは相変わらずの笑顔。私はほっとするが、何だかこれでは申し訳がない。

どうしよう……。私は悩んでいた。今日みたいにチャンスはそうそうある訳じゃない。

これを逃したらもう、しばらくは来ないかもしれない。

そして、私ばかりにチャンスはめぐってくる訳ではない。

それを掴んだ人にきっと彼は振り向くのだろう。何だかそんな気がしていた。

 あっ。これは……。ふと、ある雑誌が目に入る。

桃「この女の人、胸大きいね。私くらいかな?」

無「あわわっ! それは!」

 慌てて私の目の前からそれを遠ざける。男の子はそれを女の子に見つかってそんなに慌てるものなのだろうか。

あんなの私にもついてるから別になんとも驚かないのになぁ……。

無「えっと、これはその……」

 色無くんはまだ慌てている。チャンスだ——かしこまって話すよりよっぽど言いやすい。今のうちにさっき言えなかったことを……。

桃「ねぇ、色無くん」

無「はっ、はいっ!!?」

桃「色無くんって、好きな人いるの?」

 聞いてしまった。……色無くんは固まって動かない。

桃「……そうだよね、急にこんな事聞かれても困るよね……」

 なんだか弱気になってしまった。聞かなければ良かったかな……。

無「いるよ」

桃「えっ」

 思わず声をあげてしまう。色無くんの顔が赤い。

桃「そっか」

無「うん」

 ……好きな人がいる。それって——。

無「俺、桃のことが好きなんだ」

桃「ひゃうん!」 

 自分でもびっくりするほど変な声をあげてしまった。

無「だっ駄目かな」

桃「ううん、びっくりしただけ……」

無「じゃあ……」

桃「うん、付き合いましょ」

 送ってくよ。そう彼が言った。私はいいよと言ったけどどうしても送っていきたいのだそうだ。

桃「ふふ、変なの♪」

無「いいだろ、別に……」

 なんだか彼は照れている。恋人同士になって初めて一緒に歩く道。そう考えるとなんだか私まで照れてきてしまう。

桃「えい///」

 私は恥ずかしさ紛れに彼の腕に飛び付いた。

無「うわっなんだよ///」

桃「えへへ///」

 恥ずかしがる彼を見てなんだか私は笑ってしまう。

無「おっおい! 当たってるって///」

桃「当ててるの♪」

無「え!?」

桃「だって大きいの好きなんでしょ?」

無「うっ///」 

 彼は赤面して黙り込んでしまった。ふふ、こういう顔も可愛い。これからもこうやってからかっちゃおうかな。

 私の大切な夏の日の思い出——。


何ものにも染まらず、信念を貫き進む道……

人はその生き様を「おっぱい道」と呼ぶ。

桃「色無君」

無「なに?」

桃「このDVD何?」

無(そ、それは俺の秘蔵のエロDVD「おっぱい道」!!)

桃「もしかしてアダルト……」

無「わぁー!!」

桃「やっぱり……」

無「もうお婿にいけない……」

桃「こんなおっぱいよりわたしのほうがいいおっぱいしてるよ!!」

無「(゚Д゚)はい?」

桃「だから、こんなものよりわたしのおっぱいのほうが……」

突然上着を脱ぎだす桃

無「うぉぉ!?服を脱ぐな!!」

桃「えー」

無「心臓に悪いわぁ!!」


『おっぱいライダー』

青少年の平和とエロスを守るため日夜戦い続ける女性がいる!!

はち切れんばかりのおっぱい!! むちむちの体!!

そんな美貌をもつ彼女を人はこうよぶ……おっぱいライダーと!!!!

桃「でたわね、貧乳怪力女レッド!!」

赤「だれが貧乳怪力だぁ!!」

桃「ふふふ、そんな風に岩石を持ち上げるから貧乳怪力よばわりなのよ」

赤「貧乳は関係ない!!岩石でもくらっとけ!!」

桃「甘いわ!!おっぱいシールド!!」

赤「なに!?」

説明しよう!!おっぱいシールドとはおっぱいライダーがもつおっぱいの弾力を一時的に高め飛んできたものを飛んできた方向に同じ威力ではね返す最強の防御技である!!

赤「な、岩石をおっぱいで弾くなんて、あっー!!」

桃「おっぱいは勝つ!!」

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またここにおっぱいライダーに武勇伝が誕生した!!

いいぞおっぱい!!強いぞおっぱい!!

さあ、みんなも一緒に叫ぼう!!

おっぱい!!おっぱい!!

紫「なんかこの特撮番組むかつく……」


「ん〜、やっぱり黄緑さんの作るご飯は最高よね〜。もう一杯おかわりもらっていい?」

「ふふ、いいですよ。たくさんありますからね」

 今日の晩ご飯も、ちっとも仕事をしない朱色さんに代わって黄緑さんが作ってくれた。彼女の料理はいつだっておいしいけど、秋の味覚を取りそろえた今夜のメニューは格別だった。

「……しっかし、よく食べるわねえ」

「だって食欲の秋だもん。この炊き込みご飯も絶品だし。そういう紫ちゃんだって二杯食べたじゃない」

 まあ、三杯目っていうのは私もちょっとどうかと思ったけど、おいしいものを食べたいっていう誘惑に負けちゃったんだから、これはもう仕方がない。

「そりゃそうだけどさあ。なんていうか、非常に言いにくいんだけどぉ……ちょっと太ったんじゃない?」

 !! 全然言いにくいなんて思ってない様子で、紫ちゃんはいやーな笑みを浮かべながらとんでもないことを言ってくれた。

「そ、そんなことないよお。ほら、だんだん寒くなってきて厚着することが多くなってきたから、そう見えるだけだって」

「そうかなあ〜? このへんとかけっこうぷにぷにしてるんじゃないの? えいっ!」

「きゃっ! ちょっとやめてよ〜!」

 いきなりお腹を掴んできた紫ちゃんの手を、私は慌てて振り払った。でも……なんか今、“むにゅっ”って擬音が確かに響いたような気が……。

「わ、わたし太ってないよね? だいじょぶだよね?」

 思い思いに箸をすすめたりお話ししてたみんなが、急に静かになった……なんで目を反らすの? もしかしてわたし……軽くヤバイ? マジでヤバイ?

「いや、女の子は体重気にしすぎじゃないか? ちょっとぽっちゃりしてるくらいがちょうどいいぜ」

 色無君、それフォローになってない……すっかり食欲もなくなったけど、茶碗に盛られたご飯を残すわけにもいかないから、私はもそもそと箸を動かした。

「ふ、増えてる……二キロも……」

 お風呂に入ってヒリヒリするくらいに体を洗って、お化粧もマニキュアも落として、服も下着もアクセも髪留めもない状態で祈るように体重計に乗ったけど、神様は見逃してはくれなかった。

「……こうなったら……やるしかない……」

 私は全裸で拳を握って決意した。そう、ダイエットするしかない!

 

「赤ちゃん、おはよ〜!」

「うわっ、びっくりした! どーしたの、こんな朝っぱらから?」

「うん、私も今日から早朝ジョギングしようかなーと思って。一緒に走ってもいい?」

 翌朝、寮の入り口で柔軟体操している赤ちゃんにそう言うと、目を丸くしてビックリされた。

「どういう風の吹き回し? まあ別にいいけどさ、ボクけっこう遠くまで走るけど、ついてこれるの?」

「だいじょぶ! 私頑張るから!」

「待って……赤ちゃん、速すぎる……ちょっと、ちょっと休憩……」

「え〜、またぁ? だからボクについてくるのは無理だって言ったのに。まだ二キロちょっと、いつもの半分も走ってないよ?」

 息も絶え絶えで道ばたにへたり込むと、赤ちゃんは足踏みしながら呆れたようにため息をついた。こっちは汗一つかいてない。

「半分……毎日四キロ以上走ってるの……?」

「夜も走ってるから、だいたい一日十キロくらいかな。あと部活でも同じくらい走るよ。ボク長距離も短距離も走るから」

「十……キロ……」

「どーする? まだついてくる?」

「先に帰らせていただきます……」

 私より食べる赤ちゃんと同じように運動すればやせられる、と考えたのが間違いだった。疲れて気持ち悪くて、朝ご飯は喉を通らなかったから、その分はやせたかな……あはは……。

 

「体型を維持するコツ? 特に気にしたことはないわね」

「でも、緑ちゃんはモデルさんみたいなスタイルじゃない。何か秘訣があるんじゃないの?」

 体力魔神の真似はできないと分かったので、今度は文系の緑ちゃんにすがってみることにした。彼女にできるなら、私にもできるよね。

「遠回しに胸がないって言われたような気もするけど……そもそも私は食が細いし。朝は野菜ジュースだけ、お昼はカロリーメイトとサプリメント。夜はみんなと一緒に食べるけど」

 緑ちゃんは机の引き出しを開けると、錠剤の入った瓶をいくつも取り出した。

「これがお昼に飲む分。これと朝の野菜ジュースだけで一日の栄養は足りるから、晩ご飯もあんまり食べずにすむわ。どう? 一緒に飲む?」

「……遠慮しときます」

 多少の食事制限は覚悟の上だったけど、これは無理。もうホント無理。私は苦笑いを浮かべて、後じさりしながら緑ちゃんの部屋から逃げ出した。

 

「ダイエット? 煙草吸うとやせるって言うけどねえ。あんたも吸う?」

「なんでそれを私に聞くの? 最近二の腕がたるんできた私への皮肉? 背中に肉がついてきた私への嫌み? 十代の小娘がダイエットなんて十年早いわよ!」

「毎日毎日馬鹿なことをしでかす妹の相手をしてれば、嫌でもやせるわよ。のしつけてあげるから、代わってくれないかしら?」

「馬鹿とはなんだ〜、離せー、降ろせー!」

「はあ……」

 夕飯前にお風呂に入って、気分と一緒に身体も湯船に沈み込んだ。あんまり運動してなさそうな人たちに手当たり次第聞いてみたけど、一つも役に立たなかった。

「あとの子たちはみんな部活やってるし……やっぱり私もどこかに入部した方がいいのかな……」

 お風呂を出て体を拭いて、着替える前に体重計の前に立って……やめた。今日一日、大変だったけどそんな急に減るはずないしね。

「さーて、飯の前にひとっ風呂浴びるかー! あれ、入ってたのか?」

「きゃっ! もー朱色さん、トイレとお風呂はノックしてっていつも言ってるじゃないですか!」

 着替えに手を伸ばしたところで、いきなり脱衣所のドアが開いてビックリした。バスタオルを外す前でよかった。

「いーじゃん別に、女同士なんだからさあ。そーいうのは色無だけちゃんとしてればいいんだよ」

「まあそうですけど……朱色さん? あの、どうかしました?」

 急に真剣な顔をしたかと思うと、朱色さんが私の胸に顔を近づけてきた。

「むむむ……うりゃ!」

「ひゃあああああ!! な、なにするんですかあ!!」

 いきなり朱色さんが、人の胸を両手で鷲掴んできた! あんまり男の人に持てなさそうだとは思ってたけど、まさかそんな趣味があるなんて……。

「こいつめ、また育ちやがったな……ついに九十の大台に乗って、Fカップも卒業か……」

「え? わたし八十八のFですけど……」

「そりゃ春の健康診断のときの話だろ? あたしの鑑定眼と神の手に狂いはないぜ。嘘だと思うならこんどお店で計ってもらえ。そーいや昼間ダイエットがどうとか言ってたけど、乳が育った分じゃないのか?」

 呆然とする私を尻目に、朱色さんはぱぱっと服を脱ぎ散らかすと湯船に飛び込んでいった。

「胸がおっきくなっただけ……太ったわけじゃなかったんだ……」

 五分前までモノクロだった世界がバラ色に輝きだした。

 

「今日も黄緑の作るご飯はおいしいね! おかわり!」

 なんのためらいもなく茶碗を突き出す私に、また紫ちゃんが話しかけてきた。

「またそんなに食べて、大丈夫なの? ダイエットしてるって聞いたけど?」

「いいの、私は食べた分、胸がおっきくなるんだから。紫ちゃんもたくさん食べないと、おっきくならないよ。いろいろとね」

「な……ば、馬鹿にして〜〜〜!! 黄緑、私もおかわり! 大盛りで!」

 私たちの話を聞いてたのか、みんなもいっせいに茶碗をさしだした。

『おかわり!!』

「あらあら……はいはい、ちょっと待っててね。順番にね」

 黄緑さんが大あわてでご飯をよそってる食卓で、色無君は一人だけすごく居心地悪そうだった。


『ぶき』

桃「いーろなしっ」

ぎゅっ

無「うわっ……なんだ桃か」

桃「なんだ桃か、ってひどいわね」

ぎゅ〜

無「も、桃……当たってる、当たってるって」

桃「え〜何が当たってるの〜?」

ぎゅ〜〜

無「うわっ、ちょっ、桃……(やばい気持ち良すぎて気が遠く……)」

桃「あら? 倒れちゃった」

無「……う〜ん」

桃「あ、起きた」

無「桃……」

桃「ごめんね〜、倒れるなんて思わなかったから」

無「……その胸は凶器だよ」

桃「でも武器は使った方がいいって言ってたよ?」

無「……誰が」

桃「ゲームの中の人。たいさ、とか言われてたけど」

無「……戦争もの?」

桃「ロボットとたたかってたわよ。蛇がどうとか言ってたけど」

無「……そっちの大佐か……」


『じゅーす?』

無「桃ー」

桃「ひゃっ、……色無?」

無「桃だー」

ぎゅ

桃「い、色無。今日はずいぶん積極的ね……お酒くさい?」

無「酒なんてのんでないよー、ジュースを貰っただけだよー」

桃「ジュースって」

無「桃って抱きしめると気持ちいいねー」

桃「ちょっと色無、それ以上はやめ……あら?」

無「……くー、くー」

桃「寝ちゃった……」

無「ぁ……痛っ、あれ?」

桃「すぅ、すぅ」

無「昨日は確か灰にジュースを作ったから試飲をしてくれって言われて……」

桃「ぅ……ふぁ、おはよ色無」

無「も、桃! 何でここに……」

桃「……色無が気持ちいいっていうから、抱き枕になってあげたのに、そんなこと言うなんて」

無「ええっ! そんな事言ったの?」

桃「次はアルコールなしで言ってね。それは置いといて、とりあえず続きを……」

無「ご、ごめんなさい!」

桃「行っちゃった……嬉しかったのに」


『石焼芋?』

無「はふはふ……どうして焼き芋ってうまいんだろなー?」

桃「あ、色無くん!」

無「お、桃。今帰り?」

桃「うん! 色無くんも帰り? 一緒に帰ろう!」

無「あ、その前に……一緒に芋、食べようか?」

無「はい、どうぞ」

桃「あ、ありがと〜、色無くん」

無「そう言われるものでも無いよ……っ!」

桃「あ〜ん……あつっ。 焼きたてだね、このお芋さん」

無「あ、ああ。 そうだね。(なんか……わざとエロく食べてません? 桃)」

桃「(モグモグッ)う〜ん、おいし〜い! ……ねぇ、色無くん」

無「(モグモグ)んぐっ! ど、どうしたの?(さっきの考え、ばれて無いよな?)」

桃「さっき、私の口を見て何を思ったのかな〜♪」

無「っ!(ば、ばれてるっ!?)」

桃「ねぇねぇ〜、何を思ったのかな〜?」

無「い、いや、何も……ってちょっ! 桃! 胸、当たってる!」

桃「当てているんだよ〜♪ 正直に答えない人への罰だよ♪」

無「(ちょ、これは……ある意味拷問だろ!)」

桃「(これくらいは、いいよね……?)ねぇ、何を思ったのかな〜?」

無「(ああ、幸せだけど……どうすればいいんだ……?)」


 ガヤガヤ……ガヤガヤ……

 狭い女子更衣室の中、体育の授業を控えた二十人ほどの女子が制服から体操服へと着替えている。

 そこは人数分の体臭が混じり合い、どんな朴念仁でも欲情してしまう桃源郷と化していたが、当の女の子たちにそんな自覚はない。

 交わされる会話もまた、女の子しかいないという気安さから、少々きわどいものとなっていた。

「それにしても桃の髪ってきれいよねー。つやつやしてるし、ボリュームもあるし」

「そう? 特に手入れをしているわけじゃないんだけど……」

「まあ髪もきれいだけど、やっぱり桃っていったらこの……胸よね!」

 むぎゅ。背後から忍び寄った橙が桃の胸を脇の下から鷲掴んだ。

「きゃっ! ちょっと橙ちゃん、やめてよ〜!」

「ん〜、この間よりまたちょっと大きくなってるみたいね〜。八十八のDってとこかな?」

 橙の的確な触診報告に、若干の嫉妬に駆られたクラスメイトたちが寄ってくる。

「マジ? いいな〜桃。ちょっとわたしにもさわらせてよ」

「あ、私も私も。御利益御利益……」

「やっぱり男がいると違うよねー。色無君に毎日揉んでもらってんの?」

 次から次に伸びてくる手を、桃は真っ赤になりながら必死に振り払った。

「そんなことされてないよ! まだつきあい始めたばっかりだし、キ、キスだって一回しか……あ」

 失言に気づいた桃は慌てて口をつぐんだが、もう遅かった。

「……へー。それじゃあそのキス一回で他にどこが変わったか調べてみよう。諸君、解剖だーっ!」

「「「「「おーーーー!!!!!」」」」」

「ちょ、ちょっと橙ちゃん、みんな、やめて、やめ、ああーーーー!!」

 

 この学校の更衣室は非常に古い建物で、壁は薄い上にひびが入っており、覗くことこそできないものの、女子の会話は男子に筒抜けだった。

 だがそれを卒業までに女子が知ることはほとんどない。男子は入学直後に先輩たちから更衣室の秘密を教えられ、それが女子にばれないように、息を潜めて着替えるよう指導されるからだ。

『……まだつきあい始めたばっかりだし、キ、キスだって一回しか……』

 今日も今日とて男子二十人、壁際にぺったりと張りついて女子の桃色トークを堪能していたが、桃の爆弾発言が投下されるやいなや、その視線がいっせいに一人の男子に集中した。

「……色無君。そんな格好でどこへ行こうというのかな? これから体育の授業なんだから体操服に着替えないと、なっ!」

 バチーン! 服を抱えてパンツ一丁で逃げ出そうとしていた色無の背中に、渾身の平手が振り下ろされて真っ赤なモミジが咲いた。

「いってええええぇええ!! なにしやがるこの——」

「ほらほら、もう授業始まる、よっと!」

「はやくしろよっと!」

「うらやましいぞっと!」

「死んじまえっと!」

 バチーン、バチーン、バチーン!

 始業の鐘が鳴ったとき、色無は十九枚のモミジを背中に散らして更衣室の床に転がっていた。

 

「あ〜ひでえ目にあった……」

「はあ……ひどい目にあったよ……」

 違う扉から、よろよろと同時に出てくる色無と桃。その視線が絡み合った。

「〜〜〜〜!!! 全部色無君のせいだからね!!」

 バチーン! みるみる真っ赤になった桃は、色無の背中を力一杯張り飛ばし、バレーコートの方へと去っていった。

「……なにが、俺の、せいなん、だ……」

 色無はその場に崩れ落ちて昇天した。


桃「はふー……」

男「おー、なにやらおいしそうなものを飲んでいらっしゃいますね」

桃「あ、色無くん。うん、さっきココアを淹れたんだよ」

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男「なるほど。寒いときはやっぱりあったかいものだよな」

桃「ということで、はい♪」

男「……え、なに?もらっていいの?」

桃「うん。ちょっと甘さ控えめだけど」

男「全然平気。じゃあせっかくだし、いただきます……うん。おいしい」

桃「よかった。 さてと。あったまったことだし、買い物に行って来なくちゃ」

男「買い物? あ、よければ俺も付いてくけど。荷物持ちってことで」

桃「え? ありがと!じゃあ、いっしょに行こ!」

男「うっわーやっぱり寒いなー」

桃「そうだねー。 でも、こうすればあったかいよ?(ギュッ)」

男「うぉ!? ちょ、ちょっと桃さんなにして」

桃「寒いから、腕を組めばいいかなって♪」

男「そ、それはいいけど!! で、でもほら俺荷物持ちだし!ていうかこれ腕組んでるというより抱きついてるよね!?」

桃「えー。私はそんなつもりじゃないんだけどなぁー……(ムギュー)」

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男(あぁもう誰かー!この腕に当たる感触をどうにかしてー!)

桃「えへへ……あったかーい♪」


「桃ちゃ〜ん。元気?今日もカワイイねぇ」

「桃ちゃ〜ん。今日ヒマ?どっか遊びにいかねぇ?」

毎日毎日飽きもせずに似たような言葉を投げつける男共。

胸部から下は決して見る事のない下卑た視線も相変わらず。まあ、下ばっかり見られても困るんだけど。

「ありがとぉ、でもごめんね。今日は友達と約束があるの」

こうしてかわすのも毎日の事。特に用事などはないけど、アイツ等と一緒にいるほうが嫌。

こんなやりとりは昔っから。

変わったことといえば、小学生の頃は純粋な好奇心に満ち溢れた目だったけど、歳を重ねるごとにどんどんいやらしくなった事くらい。

丁度、私の身体が二次成長を遂げ始めたあたりから。顔?顔は昔っから可愛らしかったわよ。

だから、私が住む寮に男が来るって聞いた時、私は物凄く嫌悪感を抱いたの。

今思えば、ちょっと自惚れてたのよ。

どうせ私を下品な目で見るのよ。いやらしい笑みを浮かべながら言い寄ってきたらどうしよう。って。

一時は寮を出る事まで考えたわ。それほどの嫌悪感。

でも私はその裏で、そんな男達の視線は、嫌ではあるけど悪い事じゃないって。

だってそうでしょ?その思惑はどうあれ、私の魅力は大概の男に通じて、尚且つある意味服従させる事ができる訳なのだから。

女としてはこれ以上無いことじゃない?男に不自由しないってことは。

ま、本当に私自身を見ていたのかは、解らないけどね。

とにかく、その彼は寮に移り住んできたの。

自己紹介。パッとしないとは言わないまでも、あまり美麗ではない顔は真っ直ぐ前を見据えて、

色無です、と人好きしそうな優しい笑みを浮かべていたわ。

次々と繰り出されてゆく寮生達からの自己紹介、特に黄と橙が張り切っていたわね、にほんの少し引き気味になりながら必死に住人を覚えようとしていたわ。

そうして一人ひとりに、よろしくおねがいします、と挨拶して回る色無くん。そして私の前に立って、

「よろしくおねがいします」

と、他の寮生と変わらないトーンで挨拶して、そのまま何事も無かったかのように次へ。

私はそのあっさりとした態度に、予想以上の呆れと喪失感を感じたの。

いかにも女慣れしていそうな類の男子でさえ私の前に立てば、少しでもたじろいだり、目を泳がせていたというのに、

この色無君はまったく揺らぐ事のない瞳で真っ直ぐ私を見つめてきた。

正直言うわ。私はこのとき確実に彼にかき乱された。惚れてしまったのよ。

この人ならば、私自身を見てくれる、または本当の私を見せてもいいと直感したの。

それからの私は、男に対する嫌悪感など遙か彼方へと放り投げ、彼を振り向かせる事に心血を注いでいるわ。

そしてそうしてゆく内にそんな嫌悪感は消え去り、むしろ快感、使役する事のほうが強く思えるようになっていったの。なんだか性格の表と裏の差も消えて来ている。

色無くんのおかげかな。浄化されていってるみたい。

彼と接触する事で、他の事なんかどうでもよくなったのかもね。

「桃ちゃ〜ん。今日もダメなの〜?」

「うん、ごめんね。じゃあね」

こうして、今日も誘いを拒んで真っ直ぐ寮へ帰って彼の元へ。

あ、色無君だ!

「お〜い、色無く〜ん」

「あ、桃……って、いきなり抱きつかないで……その、いろいろ、ヤバイ……」

「あのねぇ、色無君」

「な、なに?」

「えへへへ」

大好きっ!


桃「♪」

紫「あーッ!!ぴ、ピンク!なにしてるのッ!?」

桃「え?見ての通り、色無くんを抱っこしてるだけだよ?後ろから」

紫「そ、そんな冷静に返さなくてもいいから、さっさと離れてよ!」

桃「なんで?」

紫「な、なんでって……それは、そのぅ……」

桃「だってソファはふかふかで気持ちいいし、色無くんはあったかいし。できればこのままがいいんだけどなー」

紫「私がいやなんだってばー!」

男「んー(モゾモゾ)」

桃「っん……もう、びっくりしたぁ。急に動いたから起きちゃったかと思った」

紫「こ、このぉ……!」

桃「早い者勝ちってことで、ゴメンね?」

男(……今起きてることがバレたら全殺しだよな……紫的に考えて……しかしこのままではいろんな意味でマズい)

桃「あー、色無くんが起きたー」

紫「え!?」

男(んなッ!?)

桃「ほら、あ・れ♪ねぇ紫ちゃん、ちゃんと起きてるかどうか確かめてみる?」

男(ぴぴ、ピンク!?それってどういう意味だぁぁあ!?)

紫「……はぅ」

桃「あ、紫ちゃんダウンしちゃった。……くすっ。よかったねー、色無くん♪」

男(あれー?ピンクってこんなに怖い子だったっけなー……?)


桃「うぅ、ぐすっ……」

無『——ピンク、入っていい?』

桃「え? い、色無くん!?あ、えっと……い、いいよ」

無「ありがと。……あの、とりあえず頭から被った毛布を取ってこっち向いてほしいんだけどな」

桃「それはダメ。用があってきたんでしょ?どうしたの?」

無「用ってワケじゃないんだけど、心配でさ。顔が見たかったんだよ」

桃「……おおげさだね。ただの花粉症だよ?」

無「部屋にずっとこもってるという事実が心配なの。花粉症とかそういうの抜きでさ」

桃「……」

無「それにひとりでいるのも退屈でしょ?俺でよければ話し相手くらいにはなりたくてさ」

桃「ふぅん……おせっかいなんだね、色無くんって」

無「初めて言われた。それならおせっかいついでにさ、俺いい病院知ってるんだけど」

桃「え?」

無「電車使わなきゃ行けないけど、注射で症状を緩和してくれるトコがあるんだ。効果は人によりけりらしいけど、俺は効いたんでね」

桃「……その病院まで、色無くんが連れてってくれるの?」

無「当然。放っておけるほどラクじゃないだろ? ピンクもさ」

桃「うん……。ありがとう、色無くん」

無「——ぁ」

桃「! わわっ、今顔見ちゃだめっ!鼻とか赤くなってるしスッピンだし目も赤いし——!!」

無「あ、いや……ごめん(うわー何今の顔反則反則!!涙目だし顔赤いし!)」

橙「——あれ、ピンク!?この時期の休みに外へ出るって、いったいどういう風の吹き回し!?」

桃「うん。ちょっと、色無くんとお出かけするんだ♪病院で検査してもらわなきゃいけないことがあるからね」

橙(色無の付き添いで、病院にて検査……? まま、ままままさかまさか!?うそ!?)

無「おーい、行こうぜ。ピンクも無理しちゃダメなんだから、パッと行ってパッと帰ろう」

桃「はぁーい♪ じゃね、オレンジちゃん」(バタンッ

橙「ぁ……み、みみ、みんなああぁーッ!!ちょっと集合ッー!!」


『幸運』

桃「いーろなしっ♪」

無「なんだよ桃、なんかいい事でもあったのか?」

桃「まあねー、そうだ、いいものあげる」

無「団子?」

桃「美味しいよ? 特にこのあんことか」

無「あむ……確かにうまいな」

桃「ふふっ」

無「なんだよ笑ったりして」

桃「口の横についてるよ? ほら鏡」

無「え、あ、ホントだ」

桃「色無はホント美味しそうに食べるよねー」

無「うまいものはうまいからな」

桃「そうだよねー」

無「で、何があったんだよ?」

桃「占いで今日いい事があるって言われて、商店街で福引きしたら温泉のチケットが当たったのよ」

無「それはよかったな」

桃「日帰りだけどお肌にいい温泉だっていうし、ペアで混浴だし」

無「ペア……混浴……すごいな」

桃「夫婦に当てて欲しかったみたいだけど、せっかく当たったし、色無一緒に行かない?」

無「……いいのか?」

桃「いいよ、水着で入るから」

無「いいのかよ、桃の場合水着でもすごい破壊力が……」

桃「〜〜〜〜♪」

無「……聞いてないし」


夕暮れの学校、放課後の教室。とてもドラマチックで、やけに心が騒ぐ不思議な場所。

ここだと、カッコよさとかキレイさが5割増しくらいになる気がする。だって現に今、そう思ってるもの。

「あと30分か……」

彼が呟いたのは、いっしょに帰るまでの時間。

誰にも見られずに帰りたいというシャイな彼は、校内から人が居なくなるのを見計らって帰る。

私はもう、そんなことどうだっていいんじゃないかなぁと思うのだけど、彼にはなかなか難しいみたい。

「私は7時から見たいテレビがあるんだけどなー」

不意にぼそっと呟いてみる。案の定、彼は顔を上げてこっちを見た。

「7時……となると、今から出てギリギリ間に合うか。……うぅ」

ぽりぽりと頭を掻くその顔が赤いのは、夕陽のせいだけじゃあない。それは私がいちばん知っていること。

「ねぇ色無くん。私だけ先に帰っても、いいかな?」

ここで、不意の上に意地悪を重ねてみる。すると彼は予想通り、俯いて首をふるふると横に振った。

「……俺はピンクと帰りたい。だめ、かな?」

彼は顔を上げる。困ったような、だけどすごく照れてて赤い顔。あぁもう、ホントこれは反則だよ。

しかも控えめながら嬉しい嬉しい自己主張。好きな人にこんなこと言われて、断れる人っているのかな。

「そっかぁ。それなら、うん、いいよ。わがまま聞いてあげる」

「え?い、いいのか?」

「だってダーリンのお願いだもの、ね?」

言ってて顔が赤くなる。ただ、言われた側よりはきっとマシだけどね。

「けど、それならハニーのお願いを聞いてくれなきゃダメだよねぇ……?」

壁にもたれる彼の肩に、そっと身体を預ける。これは私からの、おねだりのサイン。色無くんが息を呑むのが分かる。

——そしてわがままなダーリンは、あまえんぼなハニーのお願いに応えてくれた。

「——……んー、チョコでも食べた?ちょっと甘かったよ?」

「……甘いものに敏感な舌ですこと。よく気付いたなぁ」

こころ騒ぐ夕陽の教室。ドラマよりもチョコよりも甘い、私たちの放課後物語。


桃「色無くん、ちょっといい?」

無「なに?」

桃「もうすぐ三月三日。桃のせっく……だね」

無「え? あ、ああ……」

桃「うふふ。桃のせっく……楽しみだなあ。ね、色無くんもそう思うでしょ?」

無「い、いや……雛祭りは女の子のお祭りだし……」

桃「違うよ色無くん。雛祭りじゃなくて桃のせっく……だよ」

無「……あのさ、微妙なところで不自然に区切って言うのはやめて欲しいんだけど……」

桃「え〜? 桃なんにも変なこと言ってないよ? 桃のせっく……って言っただけじゃない」

無「だからそれが——」

橙「神聖な学生寮の廊下で何をふらちな話をしとるか、このバカチンがーーーーー!!」

無「ごふっ!!! あ、なんかデジャヴが……去年も似たようなことあったなあ……」

桃「ふふっ、今年も桃の部屋でやるから、遊びに来てね。桃のせっく……パーティーに♪」


「ねえ、英子のとこってひな壇飾った?」

「うちは高校入ってから出さなくなったよ。美子は?」

「うちは妹いるからねー。あの子は大喜びしてたけど、正直この歳になると邪魔なだけよ」

 帰宅中の女の子たちの話し声を耳にした色無は、自分には縁遠い行事のことを思い出した。

「そういや今日はひな祭りか。桃んとこはひな壇飾ったか? 見た覚えないけど、一人っ子だからけっこう立派なの用意してそうだよな」

「うちにはないよ。私が小さいころは生活苦しかったみたいで、買ってもらえなかったんだ」

「え……あーその、なんだ……すまん」

 ばつの悪そうな顔をして詫びる色無を、桃はいつもの調子で笑い飛ばした。

「謝ることなんかないよ。昔はって言ったでしょ。今は人並みだよ。それに、立派なお人形はないけど、ひな飾りならうちにだって——!」

 ハッと口をつぐむ桃。しかし色無は聞き逃さなかった。

「あ、なんかあるんだ? 桃がどんなの飾ってるのか興味あるなあ。見せてくれよ」

「だ、駄目に決まってるでしょ! 女の子のお祭りに興味持つなんて、色無くんのエッチ!」

「そんな変か? いいじゃん、ひなあられとか白酒とかあるんだろ? 俺ああいうの大好きなんだよ」

「ぜったいぜったい駄目ー!!」

 

「なんだかんだ言って家に上げてくれるんだから、桃は優しいよなあ」

「色無くんが家の前で大声出してダダこねるからだよ……今度あんなことしたら、ストーカーだって言ってお巡りさんに引き渡しちゃうからね!」

 困り切った顔をして、桃はひなあられと白酒を載せたお盆をテーブルの上に置いた。

「はい、おまちどおさま。食べて飲んだらすぐ帰ってね」

「いや、それはあとにしてまずはひな飾りを……お、これかあ。これはこれは……」

 きょろきょろと部屋を見回していた色無は、お目当てのひな飾りを発見し、あまりの意外さに絶句した。

「……むう。まさか折り紙でひな飾りとは予想外だった。しかも内裏びなだけじゃなくて大臣、三人官女、五人囃子、うわ箪笥だのぼんぼりだのまであるよ。これ全部桃が折ったの?」

「……そうだけど」

「いや、桃がこんな器用だとは知らなかったから、ちょっと驚いた。へえ、みんなちょっとずつ顔も違うんだな……ん?」

 桃の意外な一面に驚きを隠せない色無だったが、最初の衝撃が過ぎると、ひな壇からわずかな違和感を感じた。

「あれ? なんか内裏びなだけ両方とも折り方が雑じゃないか? それになんか妙に古ぼけてるし……」

「あ! さ、さわっちゃだめー!!」

 桃の制止はわずかに間に合わず、色無はひょいと内裏びなをつまみ上げた。頭上にかざし、何の気はなしに裏返してみる。

「お、何か書いてある……『おだいりさま いろなし』『おひなさま もも』……!! これは、あのときの……」

 色無の脳裏に幼いころの思い出が蘇った。

 

「うっ、ひっく、ぐす……おかあさん、もももおひなさまがほしいよぉ。わ〜ん!!」

「……ごめんね、桃。ごめんなさい……」

「おばさん、ももちゃん、これあげる!」

 色無が得意げに差しだしたものを、桃はしゃくり上げながら受け取った。

「ぐす、ぐすん……あ! これ、おひなさまとおだいりさまだ!」

「さっきおりがみのじかんにおったんだよ! これでももちゃんもひなまつりできるよね!」

「ありがとう、色無君……そうだ、お内裏様に色無君の名前を、おひな様には桃の名前を書いておきましょうか!」

「「うん!」」

 

「お前、ずっと大事に持っててくれたのか……」

「べ、別に大事にしてたわけじゃなくて……こんなのでも人形だから、供養とかせずに捨てるわけにもいかないし……」

「ありがとな、桃」

「だから違うって言ってるのに! もう返して、片づけちゃうから!」

 真っ赤になった桃は、ぴょんぴょんと跳び上がって色無から内裏びなを奪い返そうとした。

「おいおい、片づけるには早すぎるだろ? まだ全然お祝いしてないじゃないか」

「三日のうちに片づけないと嫁き遅れるっていうでしょ! 毎年余裕を持って片づけてるの!」

「じゃあ今年からはゆったり楽しめるな。もう売約済みだし」

「え……」

 フリーズした桃を尻目に、色無は内裏びなを元の位置に戻し、テーブルの前に腰を下ろした。

「桃もぼーっとしてないでこっちこいよ。一緒に白酒飲もうぜ」

 色無が自分の横をぽんぽんと叩くと、その衝撃が伝わったわけでもないだろうが、おひな様が倒れてお内裏様にもたれる形になった。

「ほら、桃びなは積極的だなあ。本人ももうちょっと素直だともっと可愛いんだけど」

「……色無くん、わざとこうなるように置いたんじゃないの……?」

 桃はおひな様を置き直すこともなく、色無の隣に座ってそっと肩に頭を預けた。


男「お、さすがみんな似合ってるな」

赤「……」

青「……」

緑「……」

紫「……」

黒「……」

男「そんな不機嫌にしてたら五人囃子にならねぇだろ。そっちの三人みたいに、楽しそうにだなぁ——」

黄緑(ニコニコ)

白(ニコニコ)

橙(ニコニコ)

男「……いや、笑い続けてるってのもどうかと。もっと感情表現を豊かに——」

茶(グスグス)

水(グスグス)

男「って泣くのは反則っ! ピンクちゃんの希望なんだし、少しでいいから普段どおりにしてくれよ……」

桃「じゃーん! 似合ってる?」

男「へ? あ、似合ってるよ。マジで」

桃「本当? ありがと、君もすっごくカッコいいよ」

男「そりゃどーも。ってか、この微妙な空気をどうにかしないと」

桃「……ん〜、いいんじゃない?」

男「主役のピンクちゃんが言うならいいけど……」

桃「皆の気持ちはわからなくもないし、私としては参加してくれただけで十分かな。それよりも皆で写真撮ろう、写真っ!」

男「オッケー——ってピンクちゃん近すぎっていうかくっつきすぎっ!! 周りの視線がすごく痛いんですけどっ!?」

桃「君の役はお内裏様。じゃあ私の役は?」

男「お雛様」

桃「正解。じゃあ、お内裏様とお雛様の関係は?」

男「……夫婦」

桃「だよね? 夫婦ならこんな事するのも当然だよね? とぅっ!!」

男「うわっ!? ……この格好でお姫様抱っこは違わない? さっきより密着してるし」

桃「気にしないで、役得役得っ♪」

男「ピンクちゃんの色んな所のせいで大変な事になりつつあるんですが?」

桃「役得役得っ♪」

男「……女の子がそう言う事を嬉しそうに言わないっ」

黄「待てぇ〜いっ!!」

男「ん? どうかしたか?」

黄「なんで当然の様に私をスルーしてんのよ! おかしいでしょ私の格好!?」

男「えっと……役得役得っ♪」

黄「やったネ☆——って騙されるワケないでしょうがっ! チェンジ希望っ!!」

男「何で? お前好きでやってるんだろ、それ?」

黄「誰が好き好んで牛車の牛役なんかするかっ! せめて人にしろぉ〜っ!!」

男「つっても空いてる役なんてないしなぁ……」

桃「じゃあ、私と交代する?」

黄「マジでっ!?」

男「ピンクちゃんいいの?」

桃「うん。写真も撮れて私は満足できたし。それに……」

男「それに?」

桃「黄ちゃんが牛って言う割にはその——ねぇ?(ばいんばい〜ん)」

黄「うわぁ〜んっ!!」

桃「あら、走って行っちゃった。ざ〜んねん……くすくす」

男「……黒すぎてもうピンクちゃんって呼べないや」


無「慣れると朝のランニングもいいもんだな」

?「〜〜〜♪」

無「あれ? 誰かが歌ってる」

公園

桃「〜今日は楽しいひな祭り♪」

無「あ、桃だ(よし、いつも驚かされてるからたまには……)」

桃「……せっかく早起きしたのに色無くんは出掛けちゃったみたいだし、何しよう」

無(よし、後ろからそっと)

桃「色無くんにあいたいなー」

ぎゅ

無「だーれだ?」

桃「……色無くん、会いに来てくれたの? ありがと、うれしい」

無「……えっと、そこは『だれですか?』とかカウンターで肘打ちとかじゃないの?」

桃「私が色無くんの気配を間違えるなんてないよ」

無「え?」

桃「色無くんが近くにいると幸せな気持ちになるし」

無「え?」

桃「色無くんに触れていると、ドキドキするけど落ち着くし」

無「え? え?」

桃「他の男の人ならイヤだけど、色無くんならうれしいもの」

無「あ、悪い。今まで走ってたから汗くさいかも」

桃「ぎゅ、ってして?」

無「え? でも汗——」

桃「いいから、ね?」

無「あ、うん」

桃「ねえ、色無くん。今日はももの節句だよ? だから私に一日つきあってね」

——色無くんのにおいに包まれながら今日一日を想像して、私は幸せな気持ちになった。


私は男の子を好きになった事が無かった。

男子が私を見るときは大抵、この目立つ胸に視線が固定される。

——イヤだった。

 顔は笑っていたけど毎日浴びせられる視線に疲れてしまっていた日々。

——でも

 今では少し好きになれそうな気がする。

「ふぅ……」

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深呼吸して精神集中。

そして、私に背中を向けて本を読んでいる彼に向かって

「いーろなしっ」

「うわっ!」

抱きついたのが私だと気がついた彼は、あっという間に真っ赤になった。

「桃、あ、当たって……」

「え? なーに?」

——耳まで赤くなる彼が好き

——彼に触れているこの時間が好き

——ああ、どうしてこんなに安らぐんだろう?

私は聞こえないふりをして、しばらくの間この時間を楽しんだ。


『せいちょうき』

無「桃、おはよう」

桃「……色無くん」

無「ど、どうしたの? 具合悪いの?」

桃「なんか痛いの」

無「痛い? ケガしたの? お医者さんにみてもらわないと!」

桃「だって、はずかしいよ」

無「え?」

桃「ほらここが痛いの」

むに

無「!!」

桃「……どうしよう」

無「桃、はずかしいって言ってどうして触らせるの?」

桃「色無くんなら平気だもん。そうだ! 色無くんお医者さんになってよ」

無「ど、どうして?」

桃「色無くんになら見せてもいいから、お医者さんになって私の胸を治して、ね?」


 ときどき、というかいつも不安になる。

 自分という存在が、果たしてあの人の心のどれほどを占めているのか。

 彼は、端的に言ってしまうと鈍感な人で。

 どれほどの女の子が彼に思いを寄せているのか、なんて気付きもしない。彼はいつも当たり前のように、そんな女の子たちに手を差し伸べるのだ。

 それは、残酷なまでの優しさで。

 だからこそ、私も不安になる。私に向けられる彼の笑顔に、いったいどれほどの価値を付けてよいのか。

 ——胸に手を置き、ひとつ深呼吸。

 良きにも悪しきにも、他人より少し発育したこの胸は異性を惹きつける。

 いや、少なくとも今までそれを良しと思ったなんて無くて。この胸に向けられる視線が、私は大嫌いだった。

 だからこそ、異性という括りの中でも彼は異彩を放っていた。

 彼の視線だけは、きちんと『私』を見てくれた。それは、彼の持つどうしようもない優しさの所為。

 それは嬉しいことだったけど、同時にすごく不安だった。

 だって、私が異性に通じると思っていたものが、彼には通じないってことだから。

 無意識のうちに異性と接する時の拠り所にしていた柱が崩れた時、彼とどう接したらいいのか、どうすれば彼の気を引くことができるのか、私には知る術がなかった。

 誰にだって他人の心を知ることはできないんだろうけど、そのときの私の恐怖は人並みのそれではなかったと思う。でも畢竟その恐怖にもまた惹かれるのであって。

 ——もうひとつ、深呼吸。

 運命の出会いだとか、そういうものに憧れない訳ではないけど、私はやっぱりチャンスは自分で作らなきゃ掴めないものだと思う。彼を取り巻く状況を見ていると殊更そう思うわけで。

 だから、休日に街でばったりだとかそういう『偶然』は、実は影での努力の賜物。不器用な私なりの、精一杯の努力のかたち。

「いーろなーしくんっ」

 例によって今回もそう。ふらふらと帰宅の路に着く彼の腕に、後ろから抱きついた。

 うぉあ、と間の抜けた声。初め目を白黒させていた彼も、すぐに落ち着きを取り戻し、

「も、桃さん。おどかさないでよ」

 少し困ったようにはにかんだ。

「えへへー。さっきの色無くんの顔、可愛かったよ」

 なっ、と、どもる彼。そんな表情もまた可愛くて、無意識の所為か身を引こうとする彼の腕をより強く抱きしめた。

「え、うあ、も、桃さん、あの」

 すると彼は途端に赤くなり、言葉は支離滅裂。

「? どーかした?」

「あー、いやその、つまり、あ、あ、当たってというか」

 こちらまで恥ずかしくなってくる位にますます赤くなっていく彼を見ていると、何だか心があったかくなる。もちろん彼の言わんとすることが何かはよく分かるけど、

「むー、なに言ってるかわかんないよ」

 つい意地悪してしまう。こんなに楽しい時間を、彼の温もりを放すのはあまりにも惜しいから。

 彼はしばらくあたふたしていたが、やがて覚悟を決めたのか、

「……えーと、つまりは当たってるわけでして」

と、明言。それでもぼそりと呟くに止まった。

「別にいいよー。色無くんなら」

「いや、いいってそんな」

 自分でも何気にすごい事言った気がする。自分の顔が紅潮するのを堪えようと必死になっていることに、もちろん彼が気付くわけがなくて。彼の言葉が自分を安く売るなといったニュアンスであるのに、嬉しいようで不満な、どこか複雑な気分。

「……色無くんは、いや?」

 心にあった、一抹の不安を乗せた言の葉は、思いも寄らないほど弱々しく響いた。

「そりゃ嫌な訳ないけど……ってナニ言ってんだ俺!」

 ほとんど反射、という速度で返ってきたその本音に。思わぬ不意打ちに、心が跳ねた。

 同時に、限界。頬の紅潮と、顔が緩むのが止められない。思わず顔を隠そうと俯いてしまう。

「桃さん?」

 気遣うような彼の声に、心の中で、あと三秒、と返す。

 いち。

 に。

 さん!

 気合一発、顔を上げればもういつもの私。

「へ〜、色無くんってばえっちなんだね」

 あくまで平気を装いつつ、不意打ちの仕返しにまた意地悪することにした。

「え、なっ! ち、ちがっ! 誤解だ誤解!」

「ふーん、ほんとおかなぁ?」

「だ、だから抱きつくのは反則っ……!」

「ほら、やっぱりえっちだ」

「ああもう! さっさと帰るぞ!」

「わ、待ってよ〜」

 早足に歩き出す彼をあわてて追いかけ、腕を絡める。

 先程までのぎこちない雰囲気を払拭するように、他愛もない会話が始まる。そのうちに腕を組んでることを言及されなくなるのもいつもの事。

 ころころ変わる彼の表情は、見ていて本当に楽しくなる。

 今、私がいろんな彼を見ているように。

 彼は、いろんな私を見てくれているのだろうか。

 この時間に、価値を見出してくれているのだろうか。

 少なくとも、私にとってこの時間は一番価値あるものだ。

 願わくば、私に向けられる彼の笑顔も特別なものでありますように。


『桃色の日』

 なんだか、ひどい夢を見た気がした。

 ぼんやりと揺らぐ意識の中、そんな抽象的なことを思っていると、

「い……なし……」

 まどろみの中に、自分の名前のようなものを呼ぶ声を聞いた。

「もう朝……ろ」

 少しずつ意識がはっきりしてきて、自分が寝ていたということに気付く。

「……ほら、……起きて……」

 起きて、と言われても、まだとてつもなくまぶたが重い。つまり、眠い。よって拒否。

 ごろり、と体を反転させ、声のするほうに背を向ける。

「あ、こら……」

 今度は体を揺すられる。ああ、煩い。俺はまだ寝てたいんだってば。

 反抗の意を示すべく、毛布を頭からかぶる。

「む……だったら強行策……」

 なんだか不吉な単語を聞いたなあと思った瞬間、

「うりゃ!」

 どずん、と体に重い衝撃を貰った。何か重いものでも乗せられたのだろう。向こうはどうしても俺を叩き起こしたいらしい。

 だが、ここで屈するわけにはいかない。俺とて、たとえ刺し違えてもここは寝通す覚悟。今、目を開けて敗戦を喫したら、この先眠っても眠りきれん。

「おーきーろー! 色無くんー!」

 おおっと、ここで戦法を変えてきたぞ。毛布を剥ぐのが無理と分かったのか、毛布の中に進入してきた。互いの体が密着してああいい匂いがするうわなんだこれすごいやわらかくて気持ちいいって

「やめーい!」

 毛布を跳ね除ける。やはりというか、超々至近距離に、

「おはよー、色無くん」

 桃さんの、笑顔があった。

「で、なんで俺は清々しい日曜の夜明けと共に叩き起こされたんです?」

 現在時刻、午前四時半。部屋には、俺と桃さん。

「えーと……い、一日ってたった二十四時間しかないんだよ? それをぐうたら寝て過ごすのは若者として良くないんじゃないかなぁ、なんて」

「いつも休日は昼前まで爆睡してる人の言うことじゃないですよね、それ」

「む、むぅ……。今日は特別なんだよ!」

「それでもこんな時間に叩き起こすのはどうかと思いますけど」

「あ〜、朝はマズかった? イロイロと」

「——っ、そういうことじゃなくて! モラルの問題ってことです!」

「そうだよね〜。色無くんもオトコノコだもんね〜」

「だーっ! 人の話を聞けー!」

 こんな調子でのらりくらりとはぐらかされ、結局怒るどころか主導権すら向こうに握られている。いつものパターンといえばいつものパターンなのだが。……言ってて悲しくなってきた。

「ところで、特別ってなんですか?」

 とりあえず、桃さんの更生は次回に取っておくことにして、さっき疑問に思ったことを振ってみた。

 すると桃さんはキョトン、と首を傾げた後、

「わかんない?」

 なんだか小悪魔的な笑みを浮かべてこちらに寄ってきた。この笑いは、大抵よからぬことを考えてるときのそれだ。

「いや、全然、さっぱり」

 慌ててこちらも一歩下がる。その、朝のがまだちょっと残っていてアレでして。

 しかし、本当に心当たりがない。毎年、桃のせっく……(桃さん曰く、ひらがな表記とこの間が重要らしい)では随分とご機嫌だけど、あいにくと今は六月だ。目立った記念日でもなかった……と思う。

「ふふふ」

 桃さんはといえば、笑みを崩さず、なんか段々こっちににじり寄って来ている。しかもこれはエモノを狙う目だ。段々と隅に追い詰められる俺。部屋唯一の出入り口は桃さんの後ろ。

 まずい、これは計られたかもしれん。

「あ、あの、俺ちょっと外の空気吸ってきます」

 咄嗟に逃げようとしたときにはもう遅く。

「だ〜め♪」

 ぎゅむ、と擬音が聞こえるほどに抱きつかれた。

「おわ、ちょっと桃さん!?」

 むにむにむにむに、と桃さんの胸が当たる当たる。

「分かるまで離してあ〜げない」

「え、んなこと言われても、あ、ちょ……」

 むにむにむにむに。

 普通に考えて分からないものをこんな状況で閃くはずがあるかい。

「じゃあ、ヒントいち。今日は私の日です」

「も、桃さんの日?」

 桃さんの日。三月三日以外に何かあったっけ。ますますわからん。

「わかんない?」

 と、密着した状態から桃さん。ああ上目遣いも反則的……っていかんいかん。

「いやもうホント分かりませんから! とりあえず離れましょうお互いのために!」

「分からないなら、ペナルティーだよ♪」

 こちらの意見などまったく介せずそう言われて、何か言い返す前に体が押された。

 何かに足が引っかかって、そのまま押し倒される格好になる。背中に当たるスプリングの感触で、ベッドに倒されたと分かった。

「ちょ、ちょちょちょっと桃さんこれは」

「ヒントそのに。普通は、男の人が労われる日です」

 えへへ、と無邪気に、それでいて蟲惑的に笑いながら囁いてくる桃さん。

 いやもう、ヒントだとかクイズだとか言ってる場合じゃなくて。桃さんの甘い匂いとか耳朶をくすぐる吐息とかふにふにした胸とかがまさに必殺の凶器で。

「は、うぅ……」

 莫迦なことに喘ぎ声などあげてしまった俺を、誰が責められよう。

「あ、こら。マジメに考えなきゃだめだよ」

 と、言いつつも、俺の反応に気を良くしたのかますます過剰に擦り寄ってくる桃さん。

「ふふ、えっちだなぁ、色無くんは」

 そう言って今度は頬をつんつん。まずい、ホントに理性が飛びそう。

 ——っていやいや待て待て待て。なんかおかしいぞ。どう考えてもあり得んだろこの流れは。さては灰の奴の企みか? きっとどこかでカメラでも回してるに違いない。精神集中空即絶色煩悩退散、がんばれ俺。負けるな俺。ここは桃さんに一喝してやらねば。

 そんな俺の決死の努力を嘲笑うかのように。

「じゃあ、ヒントさん。これと関係大アリです♪」

 ふわりと、その豊満な胸に、顔を抱かれた。

「あ、ああああああ、ああ」

 もう、自分が何を言っているのかも分からない。服越しでも存分に感じる、温かな体温とむにむにとした感触。脳は熱暴走を起こし発火、体は痺れたように動かない。

「ふふ、これで分からなかったら、おしおき、だよ」

 そんな事言われても。顔が味わう弾力に、ヒントというか逆に迷わせられて。むしろこれは答えさせる気がないんじゃなかろうか。ああ、もしかして俺は桃さんの手のひらの上で踊らされていたのか。でももう、それすらどうでもよくなるような気持ちよさで。

「えへへ、じゃあ誘惑に負けてクイズが解けなかったえっちな色無くんに罰ゲームです♪」

 ふぅ、と耳に息を吹きかけると、桃さんは俺を放して上体を起こす。なんというか、名残惜しい、と思ってしまう俺はやっぱりどうしようもない奴だ。

「覚悟してね、色無くん……」

 そう呟き、桃さんは潤んだ瞳でシャツを捲り上げて——

 やわらかくて

 きもちよくて

 なんかもう、だめになる——

 そこで思考が途切れ、最後に脳に残った映像は、

『あれ、水。買い物帰りか?』

『あ、色無君。うん、ちょっとね』

『誰かに贈り物?』

『うん、明日、父の日だから』

 ——そんな、何気ない日常の一コマだった——

 なんだか、ひどい夢を見た気がした。

 ぼんやりと揺らぐ意識の中、そんな抽象的なことを思っていると、

「い……なし……」

 まどろみの中に、自分の名前のようなものを呼ぶ声を聞いた。


 棒アイスを食べてるところに、色無がきた。

桃「ねー色無ー見てみてー」

無「ん?」

桃「ぺろ……んちゅ……」

無「……」

桃「興奮した?」

無「……」

 無言で近づいてくる色無。

桃「……って、ちょ、ちょっと何? (やばい、刺激強すぎた? 男は狼?)」

無「……」

 そのまま無言で唇を近づけてくる。

桃(つ、ついに……!)

無「アイスいただき」

桃「……へ?」

無「いや、すげー美味そうでさぁ」

桃「……」

 去り際に、唖然とする私の耳にそっと一言。

無「……ドキドキした?」

桃「!!」


『まっさーじ』

桃「今日は暑いよねー」

無「そうだな」

桃「こう暑いといつもより大変なのよねー」

無「なにが?」

桃「わからない?」

無「いや、言わなくて良い」

桃「じゃあかわりにマッサージして?」

無「……話が異次元を通り抜けましたよ今」

桃「おねがい」

無「じ、じゃあ」

桃「えー、肩なの?」

無「……そっちは凝りようがないだろ」

桃「ホントにそう思う?」

無「……え?」

桃「確かめてみない?」

桃「……という展開にならないかな?」

紫「なぜそれをあたしに聞かせる?」


 真っ暗な部屋の中は、今日も今日とて熱帯夜。

 クーラーはキチンと動いている。設定温度は24℃。

 暑いはずがない。ああ、暑いはずがないぞ。

「わ、落ちる落ちる。色無くんもうちょっと詰めて」

「いやちょっと桃さん? これ以上詰めたら俺マジで落ちるんですけど」

 ……二人でくっついて寝てなけりゃな。

『熱帯夜』

「えへへ、じゃあもっとくっつくしかないね」

 ここぞとばかりに抱きついてくる桃さん。いやもうなんと言ったらいいのか。漂う匂い、ふくよかな感触、甘ったるい声、理性を食い破る凶器。ええい落ち着け下半身。

「いやいやいやいや、落ち着いて後ろを振り返ってください。桃さん絶対落ちませんて」

 状況を客観的に見てみよう。

 ベッドの隅の隅の隅の(10行くらい略)隅まで追いやられている俺。そこにさらに詰め寄ってくる桃さん。余る桃さん側の面積およそ全体の三分の一。

 つまり、落ちないためには桃さんが俺から遠ざかればいいという実に論理的な結末が。

 ……いや、それ以前に一緒に寝なきゃ全て解決なんだけど。

「というわけでほら、もうちょっと向こうに」

「……」

「……」

「……テヘ♪」

「笑ってごまかすなー! そしてなぜこの後に及んでさらにくっつく!?」

 果たしてこの人は自分がどれほど危険な事をしているか分かっているのだろうか。俺高校生ですよ? 繁殖期のオオカミさんですよ? ええいだから落ち着け下半身!

「むー、思春期男子としてその反応はどうかと思うけど」

「いや文句言われても」

「……分かったよ」

 と、途端に距離を取る桃さん。それどころか、ぷい、と背中を向けられた。

 いじけたらしい。

 取り敢えず一段落、と思ったのだが。

 気付けばさっきの感覚を思い出してる未練たらたらな俺。だって桃さんにくっつかれて嬉しくないわけあるか。

 ……もうちょっとぐらいなら近付いてもいいよね?

 じり。

 ……もう少しくらいいいか。

 じりじり。

 ……あ、あと少し。

じりじりじり。

 とかやってたらいつの間にか桃さんのうなじが目の前。全然動かないところを見ると寝てしまったんだろうか。

 やたら大きく耳に残る自分の動悸。しょうがないよそういう年頃なんだからうんそうだ触らなきゃ大丈夫、と頭の中を蹂躙する言い訳の数々。

 一人悶々としていると、

「つっかまえたー」

 くるりと振り返った桃さんにみごと隙を突かれた。がっしり服を掴まれる。

「へへん、色無くんの行動などバレバレなのだよ」

 と、したり声。ぐぁあ、完全にしてやられた。

 ああまたさっきみたいな事になるのかなー、とか思ったけど、互いにそのまま動きがない。どうしたのか、とよくよく顔を見れば、桃さんはちょっと不機嫌そうだった。

「……色無くんのムッツリ」

 反論の言葉もございません。目を逸らしてしまう自分が真っ赤になっているのが分かる。

「結構傷ついたよ? 嫌がったフリしてさ」

「いやもうホントごめんなさい」

「それじゃ、お詫び」

「へ?」

「だから、お わ び。言葉じゃなくて態度で示してくれないと」

「えー……具体的にはどのような」

「……して」

「はい?」

「だからね、えと、今、したいこと……して?」

 言い切ってぎこちなく微笑む桃さんは、耳まで真っ赤。

 ——何つうかね。してやられたよ、ホントにさ。

 もう本心を見抜かれてる以上、やることは一つだけ。やりたいことも一つだけ。

 そうっ、と桃さんの体に手を回す。

 ——それは誰の体温だったか。

   ——真っ暗な部屋の中は、今日も今日とて熱帯夜。


桃「……色無くんて運動部に入ってないわりには結構しっかりした体つきだよね」

無「え? ああ、朱色さんにいつもこき使われているからかな。あはは」

桃「ね、腕さわっていい?」

無「え……? いいけど……」

桃「わー、結構硬いねー、筋肉ついてる……。意外かも……」

無「そ、そうかな……あの、桃? そろそろ放してもらっても?」

桃「あ、ごめーん。つい。……ね、今度は私の触ってみない? 結構自信あるんだ」

無「……桃の? い、いいよ、遠慮しとく……」

桃「もー遠慮なんてしないの! あ……それとも……。嫌だったかな……」

無「ち、違うよ、そういうことじゃ……」

桃「じゃあ……触ってみて?」

無「う、うん……(ゴクリ。……? 自信があるっていったわりには筋肉ついてないというか……

いや、一応ついてはいるんだけど硬いというよりは柔らかですべすべで、それでいてもちもちっとしていて……ふむ……?)」

桃「どう?」

無「うん、女の子にしては、鍛えられてるんじゃないかな……?(……良くわかんないけど、たるんではいないし……)」

桃「ふふ、そっか」

無(ふう、終わった……)

桃「あ、ねぇ、そういえば知ってる?」

無「え?」

桃「二の腕の柔らかさってね……胸……おっぱいの柔らかさと一緒なんだって」

無「お、おっぱ……」

桃「ふふ、どうだった?」

無「あ……う……」

橙「ほらほらそこ、セクハラしなーいの!」

桃「むー、セクハラじゃないもん! スキンシップだもん」

橙「もん、じゃないの。色無困ってるでしょ」

桃「え? そ、そうなの? ……ごめんね色無くん……」

無「いや、別にそんな……」

桃(ふふ、期待通りの反応で可愛いなぁ)

橙「……っ! ……色無? 私のも触ってみない?」

無「え、べ、別にいいよ……」

橙「……桃のは触れても、私のは触れない?」

無「そ、そういうことじゃなくて……」

橙「それじゃいいでしょ?」

無「う、うん……」

黄「……」

橙「水ちゃんで最後だねー」

水「あぅ……ひゃっく、くすぐったいです」

無(……俺は何をしているんだろう……ってうわーなにこれ……水ちゃんの二の腕凄くやわらかくて気持ちいい……/)


『桃とスイカが浮かんでいたよ』

「く……」

 耐えろ、耐えるんだ……。炎天下の中俺は必死に自分に言い聞かせていた。

「もう、どうしたの? 色無くんが行くって言ったから私も付いてきたのに……ひょっとして、迷惑だった?」

 桃色の髪がふわりと揺れる。夏。プール。で、水着。またとないシチュエーションだ。

「そ、そんなことないよ」

 そう言いながら俺は頭を振る。目の前の二つのふくらみを極力見ないようにして。

「むー、そんなことあるー。……だって、なかなか目合わせてくれないもん……」

 しょんぼりして告げるその様子は寂しそうで。

「だ、だから違うって、楽しんでるって!」

「そうは見えないー」

 ぐ……そんなこといったってどうすればいいんだ……。まともに相対したら嫌でもそれは目に入ってくるわけで。そしたら凝視しかねないわけで。

そんなことしたらきっと新学期から俺のあだ名は変態王子になるだろう。寮生の奴らからは帰宅早々即刻そう言われるに違いない。

くそう、なんでも王子ってつければいいってもんじゃねーぞ!

「だから本当だって……」

 ああ、こんなことならプールに行くなんて言わなければよかった……。

本来なら嬉しいシチュエーションのはずなのに防衛本能が本来の機能をまっとうしているためにままならない。

「そう……なの?」

「そ、そうだよ?」

「むー?」

 そう言って桃は覗き込んでくる。幾分色素の薄い黒目に映るのは半信半疑の色。……っと!?

「えいっ!」

「のわっ!?」

 おもむろに腕を取られ、組むような形になる。

たおやかな腕が絡まり柔らかな果実が腕に押し当てられると同時に、甘やかな香りがふわりと漂い脳を刺激する。サラサラの髪。

「えへへー捕まえたっ☆」

「なっ、何を——」

 動揺する俺。しかし次の瞬間、笑顔だった桃の表情が不意に翳る。そして言った。

「……悩んでることがあったら言って欲しいな……。一人きりで悩むなんて、そんなの……嫌だよ?」

 心配しているとも悲しんでいるともとらえられる顔をしていて——俺は後悔した。

「……ごめん、桃のこと少しも考えてなかった……」

 ——自分のことばかりだ。自分の体裁ばかりを気にしていて、目の前の一緒についてきてくれた女の子のことを蔑ろにしていた。

いつも優しく声を掛けてくれて、何か失敗しても『大丈夫だよ』と小さな声で囁いて、それがたとえ皆の前だったとしてもフォローしてくれる桃。

その桃はいつもこちらを気にかけてくれているというのに。

「ごめん……」

「……どうして謝るの?」

「だって……」

 微妙な空気が流れる。あるいはそんなこと、桃は少しも気にしていないのかもしれない。でも今の俺にはそんな事はわからなくて。

「……ね、せっかくボール持ってきたんだし、ビーチバレーしよっか」

「え? ああ、うん……」

 そう言って桃はタオルと同じ場所に置いてあったふくらましたビニールのボールを持って来ようとする。

蔑ろにした挙句気を遣われて——何だかもうダメダメだ。

「そーれっ☆」

「っと!」

 ここの施設はかなり規模の大きいウォーターパークで、大小何種類ものプールによりどりみどりで入れるようになっている。

 俺たちはその中でも一番広いプールに来ていた。

 ビーチ感覚のプール、その中でもあまり人の居ない隅の方でビーチバレー。

水の中にひざ上10センチくらいまで浸かって。ビーチバレーといっても二人でラリーをしているだけだが。

 プールは夏休みにしては人がまばらですいている。平日だからだろうか。

それとも焼きつくような陽射しが強過ぎて逆に、「プールなんて……」ということだろうか。

「えーい! あはは☆」

 ぶるんぶるん。ボール以外の丸みが視界にチラチラと映る。イライラした。いやらしい欲望など消し飛んでしまえばいいと思った。

それさえなければこの瞬間、時間は、かけがえのない楽しいひと時になるんだろうと思うから。これはきっと、自分の意識の問題だと思うから。

「あっ! ごめーん!」

 桃のボールが逸れた。わざわざ空中で取らなくても落ちた後取ればいいだけのことだからそれでも良かったが、

あえてダイブする形になって手を伸ばす。弾いた。感触が伝わり、桃の方に跳ね返ったのを確認する。

「わっ!? すごーい!」

 バシャン。水面に落ちる。その衝撃を感じると共に、色々な物を水が洗い流してくれればいいと思った。水の中は気持ちが良かった。

「——クン? 色無クン!?」

 桃の声が聞こえる。水中からはそれが少し遠くからの呼びかけのような気がする。

「ぷはっ!」

「だ、大丈夫!?」

「……あーすっきりした!」

 全身水に浸かり、少しサッパリした気分になった。そんな俺の表情を見て桃が笑う。

「ふふ」

「……どうしたの?」

「いつもの色無くんだ」

 良かった、とその後に桃は付け加えた。

 

 休憩時間を挟んで俺たちは流水プールに入った。暫らくたゆたった後、桃は、『少し先に行ってるね』と泳いで行ってしまった。一人になった。

 全身の力を適当に抜いて、流されるがまま。流水プールはいい。

何もしなくても流されてさえいれば一周して元の位置に戻る。灰にはうってつけだろうなと思った。

 色々なことを考えた。寮での生活のこととか、クラス内での立ち位置、まだ終わっていない宿題とか。

だけどこうしているとそれらがどうでもいい事のように思えた。

 一時でもそんな気持ちにさせてくれたのは桃か、それともプールか。いずれにしろ俺はこの瞬間を楽しんでいた。

 ——その時だった。

「えへへ、つーかまえた☆」

 うかつだった。完全に気を抜いていて背後からの気配に気付かなかった。

「うぉっ……!?」

 柔らかなだけじゃなく跳ね返すような弾力のある物体が背中に押し付けられているのがわかる。

桃が後ろから抱き付いているのだ。どうやら一周してきて追い付いたらしい。

普段なら安心さえしてた甘やかな香りが至近距離で花咲き、この異常事態と相まって鼻腔を刺激する。

「も、桃!?」

「へへー、離さないんだからねっ!」

 密着、密着、そして密着。この世はパラダイス。そしてデンジャラス。桃の胸のたわわな質感が量感をもって俺の背中と脳を侵す。

「くふっ……!?」

 その瞬間、色無の鼻からは血が止め処も無くあふれ出した。それは緩やかに、人々の疲れを洗い流すかのように流れ、やがて大河となった。色無川の誕生である。

田畑を潤し、夏は子供たちにとって格好の遊び場となる。人々の生活を優しく包み込むようなその佇まいはまるで父のようでさえあった。……乳が発端であるだけに……。

「灰、何やってるの? さっさと買い物行くわよ?」

「……はーい」

 ふぅ、語り部役も意外と疲れるもんだね。ま、ギャラもちゃんと貰えるし、たまにならいいか。それじゃまた。

「てへ、ごめんね色無くん。やりすぎちゃった☆」


「ん……?」

「んぅ……」

部屋に帰ってきたら桃が寝ていた……どうやって入ったのやら……

「まあいいか……さてどうするか」

起こそうとも思ったがなんだか起こすのもかわいそうな気がするな、それに何より……

「……寝顔も可愛いな」

この寝顔をもう少し眺めていたいというのもあるしな。

「……みどりくぅん……」

「……!」

……寝言で名前を呼ばれるのはこんなに嬉しいものだったのか……

「むにゃ……あれ……?」

「あ……」

「……みどりくん?」

「あ、ああ、おはよう、桃」

「……あああああああああああ!!」

「な、なんだいきなり」

「ごごごごごごめんなさい!」

「あ、ああ、部屋で寝ていたことか?気にするな、鍵をかけておかなかった僕も悪いんだしな」

「えええええととりあえずこれお返しします……」

「ん?ああ、貸していた本か。ありがとう、どうだった?」

「うーん、もうちょっとハッピーエンドのお話のほうが私は好きかな」

「そうか。また探しておくよ」

……寝起きのあの色っぽさはなんだ。背筋がぞくっとした……なるほど、学校中で評判になるわけだ……

「つくづく自分には分不相応だな……」

「え?」

「ああ、いや、なんでもない」

だが選んでくれたのは桃だからな……全力でそれに応えられるよう努力しないとな


桃「色無君、お願いがあるんだけど……」

無「何?」

桃「私、逆上がりができないから練習したいんだけど、教えてくれない?」

無「別にいいけど……」

桃「それじゃ、あとで」(ウフ! 作戦成功!)

無「もっと勢いつけて!」

桃「それじゃ、お尻を押してよ!」

無「はいはい……」(桃さん、それ逆セクハラですけど……)

無「だ・か・ら、そこで腕で体を引き寄せて!」

桃「あ〜ん、胸が当たっちゃう……」

黄「あんな桃ちゃんのしらじらしいお芝居が見抜けないなんて、バカ色無……」

青(私にももう少し胸があれば……)


『うさぎさん』

無「ただいまー」

桃「おかえりなさい、あ・な・た」

無「ぶっ!」

桃「私にする? うさぎにする?」

無「バニーガールの格好して見上げないでくれ、いろんな意味でヤバいから」

桃「……記念日だからがんばったのに」

無「……がんばりすぎです」

桃「えー」

無「……涙目とかやめて下さい」

桃「どうしてよー」

無「……狼になりそうだからです」


無「おはようございま——うわっ、酒くさっ! 何を朝っぱらから飲んでるんですか、朱色さん!」

朱「何って、お屠蘇だよお屠蘇。正月なんだから当たり前だろ?」

無「もう三が日過ぎてますよ……なんだかんだ言って元旦から飲みっぱなしじゃないですか」

朱「かたいこと言うなって。ほら、祝いごとなんだからお前も飲め」

無「いや、僕は——」

桃「色無くんも飲もうよぉ。は〜、気持ちいい……なんだか暑くなってきちゃった……」

無「わーー!! 桃、ここで脱ぐな! 朱色さん、桃にも飲ませまたんですか!?」

朱「ちょっと舐めさせただけなんだがなあ。こんなに弱いとは思わなかったんだよ」

紫「またそうやって色仕掛けで迫って……色無が引いてるのが分かんないの?」

桃「あれあれ、紫ちゃん、嫉妬ですかあ? 焼き餅ですかあ? まあ紫ちゃんに色仕掛けは無理だもんね〜」

紫「べ、別に無理じゃないわよ! 私は色仕掛けできないんじゃなくて、しないだけなの! だいたい、そんな胸ばっか大きくなったって邪魔なだけじゃん!」

桃「ふーん、へー。じゃあ紫ちゃんはあ、初詣で何をあんなに一生懸命お願いしてたのかなあ?」

紫「な、なんだっていいでしょ……」

桃「毎年毎年、同じお願いしてけなげよねー。でも残念、それは神様の力を越える願いでーす! ドラゴンボールでも無理でーす! あはははは!」

紫「……お父さん、お母さん、ごめんなさい……新年早々、あなたの娘は犯罪者になります……」

無「わーー!!! 紫落ち着け! 酔っぱらいの言うことなんか気にするなよ、な? 今年は絶対いろいろ大きくなるって!」

群(意外に酒癖悪い子ね……関わらないようにしよう)

桃「……ぐーんじょーうさーん」

群「な、何?」

桃「私たちぃ、今年は前厄だったんで、みんなで厄払いしてもらったんですよぉ。ピチピチの十六歳ですから〜」

群「そう、それなら安心ね」

桃「そう言えば、群青さんて本厄じゃなかったですかあ? それも二・回・目の。大変ですよねえ。厄女じゃ、今年も良縁には恵まれそうにないですもんねえ」

群「……」

桃「『娘十八番茶も出花』って言いますけど、そうすると群青さんは苦みのきいた出涸らしですねえ」

群「……わーーん!! 朱色ー!!」

朱「ああ、よしよし……誰かその酒乱を黙らせろ!」

桃「きゃはははは!!」


『牛乳』

桃「寒い時に飲むミルクっておいしいよね〜」

無「ホットミルクはおいしいよな」

桃「人肌ぐらいの温かさが飲みやすいし、いい感じだよね」

無「……そうかもな」

桃「それに新鮮なのが一番!絞りたてがベストだよね!」

無「……確かにな」

桃「……色無くん、そんな新鮮なあったかいミルク、飲みたい?」

無「桃、わざとだろ」

桃「えへへ♪」


時々、息苦しくて目が覚める事ある。何か柔らかいもので顔を覆われて鼻も口も塞がれるのだ。

疲れているからかな。

眠っている時に呼吸が乱れている病気というものも聞いたことがある。

今度、詳しく調べてみようか……病院に行くのが先だろうか……。

だが、そんな時はいつも桃がそばにいてくれるんだ。

「苦しそうな感じだったから……気になって来て見たの」

優しいな桃は、ありがとうな。桃にはいつも世話になっているな。

こうやって夜中に目が覚めた時に桃がいてくれると嬉しいよ。

落ち着くまで手を握っていてくれるし。桃はいい匂いがするしな。

ああ、眠くなってきた……眠るよ俺。ありがとう、桃。おやすみ。

「おやすみなさい。色無君。ごめんね。ちょっと悪戯しすぎたわね……」


男「ピンクちゃんハッピーバースデー! はい、プレゼントのケーキ」

桃「うわぁ、すっごく美味しそうだね。ありがと!!」

男「本当はもっと気が利いた物あげたかったんだけど、何も思いつかなくて……。ゴメン」

桃「そんな風に言わないで、十分嬉しいよ。ただ、一個だけワガママ聞いてもらっていい?」

男「もちろん俺にできる事なら何でも。……無茶振りだけはやめてね」

桃「あはは、無茶じゃないって。そのケーキを『あ〜ん』って食べさせてくれないかな?」

男「それぐらいなら、恥ずかしいけど何とか」

桃「ホント? ありが……くちっ」

男「どしたの、風邪?」

桃「ちょっと鼻がムズムズしただけだけだよ。それより、あ〜ん♪」

男「あ、あ〜ん」

桃「あ〜……くちっ(ベチャッ)」

男「俺のほっぺたにケーキ押し付けてどうすんの。……やっぱ怒ってる?」

桃「違うよ、たまたまだって、たまたまっ!」

男「……ならいいけどさ。ピンクちゃん、そこのティッシュ取ってくんない?」

桃「ティッシュ? 大丈夫大丈夫、ちゃんと責任とって食べるから(ペロッ)」

男「うわっ!?」

桃「ん〜、おいし。じゃ、はりきってテイク2いってみよ〜」

男「……」

桃「あ、その前にもうちょっと右向いて——うん、その角度なら次は上手くいくかな?」

男「……何狙ってんの?」

桃「やっぱり美味しいものは一緒に食べないと——ね? はい、あ〜ん♪」







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 04:19:43