水メインSS

黄「水ちゃ−んたんじょーびおめでとーぅ。」

水島に抱きつく黄田、今日は水島の誕生日だ。

無「そうだな、誕生日おめでとう。ほらよ。」

俺は水島の手を取り、手のひらに一つの箱を置いた。

黄「これねこれね、色無と一緒に選んだんだよ。」

中は水色の腕時計、選んだのは黄田と俺だが全額俺持ち財布は空だ。

さて、肝心の水島の様子は・・・・・・

水「・・・・・・・・・・ぁr・・トぅ。」

相変わらず、だな。ここまで顔を赤くする必要ないのに。

黄「おいおいもうちょい顔上げよぅよ。」

そう言うと黄田は水島の後ろの回りこんで両手で頬っぺたを掴んだ。

黄「ほれ。」

うつむいていた顔が急にあらわになる。赤くなった水島と目が合う。

水「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うぅ。」

まずい急に涙目になってきた。

無「黄田さん、もう勘弁してあげてください。」

黄「えっ?なんでさ。」

無「こっちに来てごらんなさい。」

黄田は「ゲッ」と一言漏らすとトイレ行ってくると言い逃げてしまった。

無「ったく。すまなかったね水島さんってまだ泣いてんのかよ!」

これはまずい。緑あたりに見られたらドツかれる状態だ。

無「えーっとなんだ、今日は天気がいいな。なっ。」

水「・・・・・・・・・くすん。」

だめか。ならばこれならどうだ。俺は水島の肩をつかんだ。

無「水っ・・・・・・・。」

水「・・・・・・・・・・っ!!」

見つめ合う俺と水島、朝からこんな雰囲気になっていいのか?

水「・・・・・・・・・・・うぅ。」

なんでー。また泣き始めたよ。

緑「あんた・・・水島さんになにしてんの?」

見つかった、終わりだ。なにもかも。

無「俺は悪くありません!黄田さんがっ!黄田さんがっ!」

緑「じゃあその両肩に添えられた手はなんでしょう?」

今更だが手を離す。遅かったことはわかっていた。



          ゴッ



無「ォぉおぉぉぉぉぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!」

どうやら頭の旋毛を本の角で叩かれたみたいだ。頭を抱え教室にうずくまる俺がいる。

緑「これぐらいは当然ね。そろそろHR始まるから席に座りなさい。」

軽い笑みを見せると緑は自分の席に向かって行った。黄田め。覚えてろ。

3時限目が終わった直後水島が来た。しかもすごく強張った顔をして。

こっちに向かってスタスタ歩いてくる。

水「あっ!のぉ・・・・・頭大丈夫ですか・・・・。」

「あ」の時点で声が裏返り、さっきまでの強張った顔が一気に萎えたのがわかった。

きっとさっきのことを聞いているんだろう。

無「大丈夫だけど・・・『頭大丈夫ですか』ってちょっと語弊が生まれるぞ。」

水「すっ、すいませんっ!違うんです私が言ってるのはさっきの頭のこっ・・・・あぁ。」

無「わかってるって。頭なら大丈夫だから心配しなくていいぞ。」

そう言って俺は水島の頭を撫でてあげた。しかしそれが逆効果だった。

水「ほんとにごめんなさい・・・・私が泣き虫なばかりに・・・・・ぅっ。」

また半泣き状態だ。

無「こらこら泣くな泣くな。見てみろ何もなってないだろ?」

頭を見せたがこれがまた逆効果。どうやら少し赤くなっていたらしい。

水「赤くなってますぅ・・・・・・・・。ごめんなさいぃ。」

無「マジ?でもこれは緑のせいであって水のせいじゃないよ。」

緑「誰のせいですって?色無君?」

後ろに緑が立っていた。これはきっともう一回食らうな。

緑「因果応報という言葉を教えなくてはならないようね。と言いたいところだけど・・・・ね。」

緑の視線の先には水島がいた。

緑「ま、これからは水島さんを泣かせないようにしなさい。」

チャイムが鳴ったので緑と水島は席に戻った。





昼休みだった。

黄「なあに水?用事って?」

水「・・・・・・・・ちょっと来て。」

珍しいな水島から黄田を呼び出すなんて。俺はその様子をしかと目撃していた。

教室から出て行く瞬間水島と目があった。やはり赤くなってしまった。



放課後になり俺と赤川、茶渡、黄田とトランプで大富豪をしていた。

赤「はい、革命。」

無「あ・あ・あ・あんた何してくれてんだ。2、1、Kがただの紙くずに・・・・。」

俺の手には2が2枚、1が1枚、Kが2枚あった。しかしまとまりがなく、上位の数しかなかった。

茶「えぇーっと、ハートの9、10、J。出せる人いる?」

赤「甘い、6、ジョーカー、8。」

黄「無理・・・・かな。」

無「ねーに決まってんだろ。」

茶「ない」

赤「よし、ならこれで決まりね。」

4が出され、赤の勝利が確定した。

無「赤ぁ、お前っていつもトップとるよなぁ。」

赤「色無はいつも勝ちにこだわり過ぎるの。相手の出すカード、その配位置、枚数、それを見計らって

  出すことが大事。色無はいつも強いカードを右側から順に並べているでしょう?だからもし10を

  出したらそこから右はそれ以上もしくは同じ。癖をまずどうにかしなさい。」

無「・・・・・・・・・お前絶対『アカギ』読んでるだろ?」

無「あとさ、黄。おまえ昼休み水となに話してたの?」

まだ大富豪が続くなか赤川が俺の弱点をバラしたため俺はカードを出せずにいる。

黄「おっ?なんだ?お前ら相違相愛かコラ?」

黄田は嫌味な笑いを浮かべながらこっちを睨んでくる。正直怖い。

赤「ほー水島と色無はできてるのか。黄、もっと聞かせろ。」

茶「とうとう二人に春が来ましたか?おめでとうございます。」

この黄娘が変なこと言ったせいでギャラリーも巻き込んでしまったか。

無「知るかそんなこと。で?どんなこと言ってたんだ。」

黄「えーっとな。簡単にいうなら誕生日プレゼントのお礼したいんだって。おかしいぞって言ったん

  だけど、あまりにもお返ししたいって言うもんだから・・・・・・・・。」

無「なんだ?続き言えよ。気になるだろ?」

戸惑いつつ、ニヤニヤしながらこっちを見る視線が痛い。

黄「・・・・・・・・・・キス・・・・なんてどう?って言っちゃった。だって水、お前のこと好き

  そうだったし。・・・・・・悪くないかなって。」

茶「で?水ちゃんは何て?」

黄「うつむいて『がんばる』って言った。・・・・と思う。」

赤「本気ね。水ちゃんなかなか情熱的ぃ。」

こうなると女の結束力は強い。急に静まりかえる。みんな何か考えているみたいだ。

赤「あっ、そろそろボク部活だ。先行ってるから。ごめんねぇ。」

茶「わっ私バイトです。私ビリでいいですよッ。」

黄「私は・・・・・ケロロ録画しなくちゃ!帰るっ!」

俺は教室に残されトランプのあと片付けをするはめになった。

無「頭悪い連中だ。水がこんな遅くまで残ってるわけないだろうが。」

そういうことで俺も帰ることにした。

そう高をくくったのが間違いだったのか水島が昇降口にいた。

あれは本気なんだろうが待ってまでする必要はないだろ。

無「水・・・・いたのか・・・・・・・。」

水「あのぉ・・・・ぃっしょにかえりま・・・せんか・・・・・。」

顔を真っ赤にしてこっちを見てくる。一瞬ドキッとしてしまった。

断る理由もないので当然一緒に帰る。というより断ったら水島が不憫でならない。

無「なぁ、箱開けてくれたか?」

水「うん・・・・すごく・・・・・・よかった。」

無「そうかそうか、選んだかいがあったよ。」

水島から話題を持ち上げることはないから俺から話す。

しかし今の話で思い出したんだろう。水島は焦り始めた。

水「あのっ・・・・その事っ!なんだけど・・・・・。」

無「お返しの話でしょ?黄から聞いたよ。無理にそんなことするもんじゃないぞ。」

水「えぇぇぇぇぇっ・・・・・・!言っちゃ駄目だってぃったのにぃ・・・・・・。」

今度は赤くなるばかりではなく目に涙まで浮かべていた。

水「だって、黄ちゃん言ったから・・・・・。それに・・・・無理してなんかじゃ・・・・・。」

無「無理じゃないって水島さん・・・・?」

水「・・・・っきな人だもん。」

泣いたまま黙る水島。きっと好きな人と言ったんだろう。流石に俺も答えなければならない。

水島ががんばって言ったんだ。俺が恥ずかしがってどうする。

無「俺も水のこと好き、ホント。だからさ・・・・・。」



          付き合うか



黄「で?何?今ラブラブなわけ?」

机に突っ伏した黄田が聞く。

無「いや、そうなったばかりだし・・・・・。なっ。」

水「・・・・・・まだ。」

なぜか知らんが問い詰められる俺達。

黄「でも昨日キスしたんでしょ?十分十分。」

無「これがまたしてないんだよ。」

黄「水ぅ〜あんたしてないのぉ〜。」

水「・・・・・ぅう。」

無「こらこら泣かすな。水は繊細なんだぞ。」

黄「はいはい、いい彼氏っぷりですねぇ。」

黄田が視線で訴えている。何が言いたいかはわかっている。

無「おい泣くな。こっち向け。」

涙目でこっちを向いた水島の額に口を付ける。

無「俺だって恥ずかしいんだからなっ。」

水「くすっ」

黄「チキンめっ。口だろそこは。」

お互い口はまだまだみたいだ。


 『フォークダンス;水色の場合』

 ー--前略---(>>242の最初の部分)



トッピングがバナナとパイナップルという考案者を張り倒したくなるようなお好み焼きを処分しながら、

グラウンドを眺める。

文化祭名物、即席カップルの多いこと・・・。見ているだけで気分が悪い。

いや、この気分が悪いのはお好み焼きのせいかもしれないが。

どちらにしても現状脱却のため抜け出すことにした。

去年は途中で教室に戻ったがそこにはすでに即席カップルの姿があった。

そこで今年は中庭を抜けて、校舎裏近くの木の下に避難することにしたのだが・・・・。

誰かいるな。花壇の前にしゃがみこんで。薄暗くてよく見えない。

近づいてみた。

?  「♪♪♪〜♪〜♪♪〜」

どうやら花を見ながらフォークダンスの曲を鼻歌で歌っているようだ。

っと、立ち上がったぞ。

そのまま鼻歌を歌いながら、一人でフォークダンスを踊りだす人影。

気になるのでもう少し近くに・・・ってアレは水色ちゃんか?というか水色ちゃんだ。

だって踊りの途中で足が花壇に入って花を踏んだのか「ごめんなさい」って謝ってるんだから。

あんなに花に丁寧に謝るのは水色ちゃんくらいだ。



男  「やっぱり水色ちゃんだ。こんなところで何してるの?」

水色 「?! あ・・・お、男くん。」

それまでとうって変わって、急にギクシャクした動きになる水色ちゃん。俺ってそんなに怖いかな。

男  「ごめんね。なんだか驚かせたみたいで。」

水色 「う、ううん。・・・だ、だいじょうぶ。」

いや、俯いてコッチみてないし。全然大丈夫そうに見えないんだけども。

男  「それで、どうしたの?こんなところで。」

水色 「え・・・えっと、お花が・・・気になったから・・・。」

男  「ふ〜ん。そっか。」

水色 「あの・・・お、男くんは・・・・どうして?」

男  「あ〜、ちょっと気分悪くってね〜。コッチのほうで休もうかと思って。」

水色 「だ、だいじょうぶ?ほけん・・しつ、行ったほうが・・・。」

男  「あはは。ありがとう。実は半分口実でね。向こうの空気が居づらくって逃げてきただけなんだ。」



男  「ところで水色ちゃんはフォークダンスいいの?」

水色 「う、うん。わたし踊りとか・・・ダメだから・・・。」

男  「そんなことないよ〜。さっきの踊りすっごいうまかったよ!」

水色 「?!」

男  「歌もとってもうまかったし。」

 ((((((BOMB)))))) 漫画ならこういう効果音が出そうなほどの勢いで水色ちゃんは真っ赤になった。

耳まで真っ赤だ。

男  「ごめんね、覗くつもりじゃなかったんだけど見えちゃって。」

だめだ、おそらく聞こえていない。真っ赤でパニック状態というかぐるぐる考え込んでいるのが分かる。

う〜ん。どうしたものか。そうだ。

男  「あのさ、水色ちゃんに頼みがあるんだけど。」

水色 「ヒャッ、ひゃい。なんれしょう。」

やっぱりまだ変だ。

男  「あのさ、俺フォークダンスって踊れなくて。よかったら教えてもらえないかな?」

水色 「あ、・・・あの・・・・・えと・・・・。」

なんだかいつもの水色ちゃんじゃないけど誰とも踊れない文化祭は避けたい。押しの一手だ。

男  「確か手はこうだよね。」

水色ちゃんの手を取り横に並ぶ。

水色 「ひぁっ!」

男  「あ、ごめん。そんなに嫌がられるとは思わなかったから・・・。ほんとごめん。」

水色 「あ、べ・・・別に・・・嫌じゃない・・・です。」

男  「そう?じゃあ教えてもらっても・・・?」

水色 「ハ、ハイ!え、えっと・・・・まず手を〜〜〜〜〜」

はじめはぎこちなかったものの教えてくれるうちにだんだんスラスラ話してくれるようになった。

俯いてはいるけれど・・・。

水色 「みぎ、ひだり、みぎ・・・で私が回ってお辞儀。それでまた最初に戻ります。」

男  「お〜。やってみると案外簡単かも。」

グラウンドのほうから聞こえるフォークダンスの音に合わせて踊ってみる。

男  「いい感じだ。俺だいぶうまくなったよね?」

水色 「はい!バッチリです!」

すっごい笑顔。目も合っちゃったりなんかして。

 *1 

男  「水色ちゃん?ここ回るところじゃない?」

水色 「はひ〜。」

男  「いや・・・・・回りすぎ回りすぎ。それにそっちは花壇・・・・って踏んでる!花踏んでる!」

水色 「あ〜!ごめんなさい!ごめんなさ〜い!」



その後二人で花壇の修復。水色ちゃんが小声で「ごめんね」と言っていたのが印象的だった。


「あーあ、こんな時間から朝補習かよ。」

早朝、俺は補習を受けに学校へ普段よりも一時間半早く登校した。

「眠い…だるい…。サボって寝てえ…。」

グチグチと愚痴りながら、校舎へ入ろうとすると花壇の前の影。

「ん?誰だ?」

見ると、水色が花壇の花にじょうろで水をあげていた。



男「お、水色じゃん。おはよ。」

水色「はうっ!…お、男…さん!!」



水色は俺の姿を見るなり、真っ赤になって後ずさりする。

恥ずかしがりやで大人しい水色らしい仕草だけど。



男「こんな朝早くになにやってんの?花の世話?」

水色「あ…私…園芸部だから…。」

男「へー、偉いね。いつもこの時間に登校してるの?」

水色「…(コクン)」



そういえば、学校の花壇はちゃんと手入れされていて、

季節ごとにいつも綺麗な花を咲かせている。

でも、誰が世話していただとか考えた事もなかったな。

男「これ、何の花?」

水色「あ…えと…ベゴニアと…ペチュニアと…パンジーと…。」

男「へー、詳しいんだね。」

水色「私…お花屋さんになるのが夢なんです…。」



はにかみながら微笑む水色の笑顔が、驚くほど可愛くて思わず見入ってしまった。



男「水色って、笑うと可愛いね。」

水色「…えっ!!」



真っ赤になったままうつむく水色の表情も可愛い。

男「ねえ、この花なんて花?」

水色「し…芝桜です…。」



薄紫よりも淡い、水色の小さな花が咲いていた。

ひっそりと地に這うような正直地味な花だけど澄んだ綺麗な色で。



水色「あの…、芝桜の花言葉って知ってますか…?」

男「ん?いや…聞いたことないな。何て花言葉?」

水色「え!あ…忍耐とか…。」

男「へー、水色にぴったりじゃん。いや、変な意味じゃなくてさ。」

水色「あ…の…男さ…ん。私…。」



先生「コラー!男!!さっさと教室入れ!」

男「ヤベッ!じゃ、また後でな!水色。」

水色「あ…。」



慌てて校舎に入るその時、水色が何かを言った気がしたが俺には聞こえなかった。



水色「芝桜の花言葉って…『燃える恋』って意味もあるんです…。」


 自習時間は楽しいな、わぁい。楽しいけど、眠いので寝る。

水「あ、あの、静かに、みんな静かに……」

 しばらく騒音に負けじといびきを奏でていたのだけど、隣から囁くような声が聞こえてきたので目を開ける。

男「んー……なにやってんだ、水っち?」

 声をかけると、水っちが俺の方を向いた。

水「え、えと、みんなに注意してたの。……ほら、わたし委員長だし」

 そういや、いつだったかHRで推薦されてたっけ。気が弱そうだけど、大丈夫か? ……ま、大きなお世話か。

男「んで、みんなに注意してたみたいだけど、効果の程は?」

水「あ、う……」

 耳を澄まさなくても、休み時間と変わらない騒音が耳に届く。効果0っぽい。

男「委員長なのにダメダメだな。委員長失格!」

水「……好きでなったんじゃないもん」

 ずびしと事実を突きつけると、水っちは下を向いて両手の人差し指をつんつんつつき出した。……言い過ぎた?

水「……推薦されただけだもん。……おっきい声だすの苦手だもん。……本当は保健委員とかがよかったもん」

 む、どんどん水っちがインナースペースに引きこもっていく。

男「ええい、過ぎたことをぐちぐち言うない! あと、もんもん言うな!」

水「……もんもんなんて、言ってないもん」

 言ってる。今まさに言ってる。

水「……みんな言うこと聞かないし、キミはいじめるし、……もうやだぁ」

男「あ、いや、いじめるとかそんなじゃなくて、その」

水「うっ、ぐすっ……」

 あれ、泣いてる? ……てーか、俺が泣かした?

男「ああいや違う怒ってるんじゃなくてそのあのごめんなさい俺が悪かったです!」

 泣かせるつもりなんてなかったのに……ああもう、自分が腹立たしい。

水「……うー」

 不満げに涙目で俺を見る水っち。

男「あー、その、……食べる?」

水「飴玉……。ばかにされてる……えぐっ」

 甘味で泣き止ませようとしたら逆効果。ほんに近頃の娘さんは難しいのぅ、ほっほっほ。

男「いや笑ってる場合じゃなくて!」

水「笑ってないもん、泣いてるもん……」

 俺の一人つっこみに律儀に反応する水っち。

男「ええと……その、そのうちいいことあるよ。はっはっは」

水「……超てきとー。……全然心こもってない」

 だって俺の語彙には泣いてる女性を慰める言葉なんて……あ、あった!

男「そんな顔しないで。泣き顔なんて君に似合わないよ? さ、涙を拭いて」

 いかん、自分で自分を殺したい。

水「……ばかみたい」

 お願い、誰か助けて。じゃなきゃ今すぐ俺を殺して。

黄「『さ、涙を拭いて』だって。きゃはははは!」

 黄に聞かれてた。もうやだ。

黄「ねーねー、さっきのも一回言って。『さ、涙を拭いて』……ぷ、ぷぷーっ!」

男「う……うわぁぁん! 貴様、女性のくせに男をいじめるねい! 泣いちゃったじゃねえか!」

水「わ、泣いてるのにいばってる」

 気がつけば水っちの涙は止まっていた。代わりに俺の双眸からとめどなく溢れているが。

黄「『さ、涙を拭いて』……ぷ、ぷぷぷーっ!」

男「うわぁぁん、黄色が俺を陵辱するー!」

黄「あ、コラ! 人聞きの悪いこと言うなーっ!」

 背後から何か聞こえるけど、気のせいだ。傷心の俺は教室から脱し、放浪の旅に出るのだった。

 すぐ教師に見つかって怒られた。戻らされた。

水「おかえり」

男「……ただいま」

 まぁなんか知らんけど水っち泣きやんでるし、いいか。

黄「ねーねーみんなー、モノマネするよー。『さ、涙を拭いて』……ぷ、ぷぷふーっ!」

 だから、黄がみんなを集めて俺を小馬鹿にするのも我慢できるような気がしないような予感がないわけでもない。

男「う、ううう……」
水「あ、また泣いてる。あはは、私以上に泣き虫さんだね、キミ」

 そう言って小さく笑う水っちだった。



『ブルーハワイ』

 窓の外から、お祭りの音が聞こえてくる。毎年やって来る憂鬱は、今年も変わらない。

わたしの両親は遊びに行けと進めてくるけれど、行ったってどうせつまらない。どんなに賑やかに飾られていても、一人のお祭りは楽しくないに決まっているから。皆と一緒に騒ぐなら楽しいかもしれないけれど、気弱なわたしにはきっと無理だろう。友達も少ないわたしは、だからこの時期や、神社の近くのこの家が少し嫌いだ。

「ともだち」

 小さく呟いて、わたしは溜息をついた。

「色無くん、どうしているんだろう」

 わたしの頭に浮かんでくるのは、わたしの数少ない友達の一人。明るくて優しい彼の周りには、いつもたくさんの人が集まってくる。皆で彼を馬鹿にしたり時には困らせたりしているけれど、それでも離れていかないのは、やっぱり皆彼のことが好きだからなんだろうと思う。最後には皆、笑って収まっている。

「会いたいよ」

 思い出すのは、初めて話しかけられた日のこと。あまり人と話をするのが得意ではないわたしに、彼は笑って話しかけてくれた。それだけじゃない。すぐに泣き出すわたしを気遣って、一生懸命根気良く話をしてくれた。友達が居なかったわたしを色々構ってくれて、皆の輪に入れてくれた。そのお陰で、友達も出来た。

 そうしてくれたから、実はわたしは、少しは彼の特別なんじゃないかと思っていた。

 でもそれは只の自惚れで、彼は誰にでも優しいのだ。今頃は、オレンジさんや黄色さんみたいに、明るくて一緒に居て楽しい人と歩いているんだろうか。

 泣きたくなってくると、不意にノックの音がした。

「どうぞ」

 お母さんが、遊びに行けとでも言いに来たんだろうか。

「元気?」

 ドアが開き、そこに居たのは色無くんだった。手に持っているのは、カップ型の容器が二つ入ったビニール袋。

「い、色無くん? 何で?」

「はいこれ、水色は前にブルーハワイが好きって言ってただろ?」

 渡されるのは、わたしの好きな味のカキ氷。わたしの名前と同じ綺麗な水色の、お祭りの名物。何で、こんなものがここにあるんだろう。

 暫く無言で、二人で食べる。

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「ごちそうさまでした。…ありがとう」

「なあ水色」

「何?」

 思わずわたしは身構える。色無くんのお陰で泣くことは少なくなったけど、気弱な性格はなかなか治らない。

「美味かった?」

「うん」

「祭りには、もっと美味いもんや楽しいものがあるからさ、良かったら一緒に行かない?」

 最初は自分の耳を疑った。

 色無くんが誘ってくれている、その事実だけで泣きそうになった。

「あ、いや、ごめん。嫌なら良いんだけどさ」

 わたしの無言を否定と取ったのか、慌てた様子で口早に喋る。

「ごめんなさい、色無くん。ちょっと部屋から出て?」

「うわマジでごめん」

「浴衣、出すから」

 少し黙ったあと、色無くんは笑顔を見せた。それにつられて、わたしもあまり得意ではない笑顔を浮かべる。

「早めにな」

「うん、急いで着るね」

 わたしはこの家の場所もこの時期も、少しだけ好きになれそうだ。

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私は水色。人見知りが激しくて、いっつも下を向いて歩いている。

本当はこんな性格を改善したいけれど、小さな頃からずっとこうだったから簡単に直すことは出来ないまま、今に至る。友達もあまり多くない。



そんな私は、今パン屋に来ている。美味しいんだよ、ここのチョココロネ。

「あらぁ〜、水色ちゃんじゃない」

「あ、ピンクさん」

チョココロネをトレーに乗せているときに、ピンクさんに声をかけられた。~

数少ない私の友達の一人。……相変わらず大きいなぁ、一部分が。
「水色ちゃんもここのパンが好きなのぉ?私もここのフランスパンが大好きなの〜」

「そうなんですか」

「大きくて硬くて美味しいのよね〜」

店内にいた男性客が一瞬硬直した。この人は、何と言うか……悪い方向のボケを出すから時々困る。

「水色ちゃんはチョココロネが好きなのぉ?」

「はい、美味しいですから」

「で、でもその量は多くない?」

ちょっとひきつった笑顔で、ピンクさんが私のトレーを指差す。

トレーの上にはチョココロネが六つとパイシューが二つ。確かに多いかもしれないけれど、甘いものは別バラというし。

「大丈夫ですよ」

そう言って、レジに向かう。

ピンクさんも一緒にレジに来て、店員さんが少しかっこよかったからか

「ここのフランスパンは太くて口に入りきらないんですー、うふふっ」とか

卑猥な想像をかきたてるような事を言って困らせていた。

私みたいに胸が震える淡く揺れてるって感じの女の子にはできない技だ。ある意味うらやましい。



「はー、買ったわね〜」

長くて太いフランスパンと、小さなパンをつめた袋を持ちながらピンクさんが笑顔で言う。

「そうですね」

私は細々としたパンばかりなので、ビニール袋をぶら下げている。

何か、アメリカの買い物帰りの奥さんと、日本のタイムセールの帰りのおばさんみたいな
さわやかさに差がありすぎる私たちの姿が少しばかり気になってしまった。



「ねぇ、水色ちゃん、これからうちにこない?」

「いいんですか?」

「もっちろん、せっかくのお休みに友達と会えたんだからこれでお別れは寂しいじゃない」

「友達……」

改めて言われると、何だかちょっぴり恥ずかしい。

「じゃあ、お邪魔させてもらいます」

「うん♪じゃあ行こうか〜。あ、チョココロネ一個もらっていい?私、あのお店の食べたことないんだ〜」

「いいですよ」

そんな会話をしながら、私の家とは違う方向へ二人で歩き出す。

私は友達が少ない。

でも、少ないからこそ一人ひとりの友達との時間を大切にできるんだろうな。

そんな事を思いながら、私はパンの袋からチョココロネを取り出して、ピンクさんに渡した。


「——おー、けっこういるいる。蛍って綺麗だよな、やっぱり」

「よかった……。せっかく来てもらったのに、全然いなかったらどうしようかと……」

「はは。まぁ名所みたいにいっぱいいるワケじゃないけど、これでじゅうぶん。それに、人もいないから静かだし」

「うん。……ホントに綺麗だね、蛍」



手を繋ぎたい。

そう思って伸ばそうとする右手は、蛍のようにふらふらと彷徨う。

だけど、蛍のように光りもしないその掌。隣の彼が気付くはずもなくて。

「ああ。ホントにいい場所だよな。なぁ、来年はみんなも連れてこよう」

「ぇ……」

「もったいないぜ?近場でこれだけいい場所があるんだから、やっぱりみんなでさ」

「……、……」

「……………そっか。いいと思ったんだけどな」

「あ……」

そうだ。彼は私の言葉だけじゃなくて、態度もしっかりと見ているんだ。

だからだんまりはしちゃいけないってこと、もう分かりきってるハズなのに。



「……じゃあ、これはいいのか?」

「え?————ッ」

不意に。

気付かれてなかったはずの掌が、彼の手で捕まえられた。

「………」

「……………」

彼は何も言わない。だから私も、何も言わないままで。

でもその代わり、そっと指を絡めてみる。



———名も無い蛍の川は、穏やかに。

     きっと来年も再来年も、この静かな時間を、私たちに。


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水「はぁ……」

無「……?なぁ、水が元気ないような気がするんだけど何かあったのか?」

赤「さぁ……今日は朝からずっとあんな感じで…」

黄緑「あ、私知ってるよ。確か大事に育ててた鉢植えが枯れちゃったんだとか…」

無「なんだそんなことか…」

黒「そんなこととはひどいやつだな。彼女にとっては重要なことなんだ。」

無「ごめんごめん。しかしまぁ、水色らしいっちゃあ水色らしいなぁ。」

   帰り道

水「なんで枯れちゃったんだろ……あんなに大切に育ててきたのに。…お水やりすぎちゃったのかなぁ?」

無「あ、いたいた。お〜い、水色〜!」

水「…え……?色無しくん?」

無「今日元気なかったけどさ、あんまり落ち込むことないよ!いま店の人に聞いてきたんだけど、あの花はこの時期になると枯れちゃうんだってさ。だから水色のせいじゃない!」

水「え?え?な・・・なんで知ってるんですか…?」

無「とにかくこれ、あげるよ。普段お世話になってるお礼!じゃーなー!」

水「あ……待っ……。…ありがとうって言えなかった…。…でもこれ、いったいなんだろ?可愛い包み…」

       水色の家

水「開けてみよう…かな。」

水「あっ…お花だ。フウリンソウ…花言葉、感謝・思いを告げる……。………ありがとう、大事にするね、色無しくん。」


男「さーてと、今日は赤の自主練もないし、おれを苦しめる灰色も黒に無理矢理引きずられて帰ったし、久々にゆっくり帰るとするかな」

水「…い…色無し君っ!!」

男「わ、水色。どうしたの、そんな慌てて?」

水「あの…その…こ、このあいだはありがとうっ!」

男「このあいだ……?…あぁ、お花のこと?いいっていいって勝手に渡したプレゼントなんだし!それより、気にいってくれた?」

水「は、はい!とっても大事に育ててます!」

男「そっか、よかったぁ。ああいうのって選び慣れてないからさ、凄く迷ったんだよね。結局お店の人に花言葉聞いて、一番合ってるのにしたんだけど」

水「『感謝』ですか?」

男「お、やっぱり水色なら気づいてくれると思ってたよ!」

水「……でも……あのお花にはもう一つ花言葉あるんですよ?」

男「え?そうなの?」

水「(やっぱり知らなかったんだ……。よし、)」

男「どんなの?」

水「……『思いを告げる』です」

男「へぇ〜、そんな意味があったのか〜……」

水「……色無し君」

男「ん?(何か珍しく真っ直ぐ見つめてくるけど…まさか…ね。)」

水「…私……」

男「………?」

水「色無し君のこと

桃「あ、色無しく〜ん!」

緑「…色無しと水色ちゃんか」

紫「何やってんの?帰んないの?まぁいいや、その、一緒に帰ろ!」

水「あ、はい」

男「ん?あ…あぁ、そうだな、帰るか」

紫「コソコソ(ピンク、なんでいちいち声かけたの?)」

桃「(あら…だって、いまいい雰囲気だったじゃない)」

紫「(いい雰囲気?)」

桃「(告白しようとしてた、ってこと)」

紫「(な……こ、告白!?)」

桃「(水色ちゃんにうらみはないけど、色無し君をとられたくないでしょう?あなただって)」

紫「(…私は別に…!)」

桃「(いいから!)」

紫「(……とられたくない、かも)」

桃「(素直でよろしい!)」


橙「水ちゃ〜ん!」

水「オレンジちゃんに黄色ちゃん、それに赤ちゃん……?どうしたの…?」

赤「バ」黄「ン」橙「ド」

赤黄橙「組もうぜ!!」

水「…え…?」

黄「水ちゃん、なんか楽器できる!?あ、私ドラムね!」

赤「私ギター!」

橙「ボーカル!」

水「え〜っとぉ〜……」

黄緑「あんたたちまだやってたの?水ちゃん、さっき私も誘われたわ。嫌だったらちゃんと断っときなさい」

紫「私なんてちびっ子ダンサーとして誘われたんだよ!?ちっちゃい言うな!」

橙「あぁもう、いまは水ちゃんの意見を聞いてるの!!一次審査で落ちたやつは帰れ帰れ!」

黄緑「な…落ちたですって……?こっちから断ったんじゃない!何様よアンタ!!」

紫「ちっちゃい言うな!」

赤「みんな楽しそうだなぁwww」

水「あ…あの……」

黄「でも結局黄緑ちゃんは楽器何も出来なかったんだよね?」

黄緑「そうだけど?」

橙「ほぉら!落選落選!」

黄緑「……なんかその言い方が癇に障るのよっ!」

水「あの……」

橙「あ、紫ちゃんは一次審査通ったんだよ?断られちゃったけど」

紫「ちびっこダンサーなんて絶対嫌!」

赤「平和だなぁ…www」

水「あの!」

赤 黄 橙 黄緑 紫「……!!」

黄「なぁに水ちゃん?」

水「私……出来ます!…というか…やります!」

黄緑「…!?水ちゃん!?」

橙「お、いいねぇ!何できる!?」

水「ピアノとかキーボードとか…鍵盤なら!」

黄「よっしゃ!早速テストテスト!音楽室行こ!」

  音楽室にて

橙「すご……」

黄緑「水ちゃんこんなに弾けたのね…」

赤「プロ並みじゃん!!」

水「………ふぅ…。どうもおそまつさまでした///」

黄「いいよいいよ!水ちゃん新メンバー決定!!頑張ろうね!!」

水「は……はい!」

水「(色無しくんに振り向いてもらうためには……こういうところで目立たなきゃ。目立つのは苦手だけど……ピアノなら!)」



桃「って思ってるわね、あのもじもじした中にも決意を秘めた顔は」

黒「そんな感じだな。でもなんで私らは遠くから見てるんだ?」

桃「あら、決まってるじゃない。色無

男「あれ?二人ともこんなとこで何やってんだ?」

黒「色無しか。実はだな……」

桃「そんなことより色無し君、一緒に帰らない〜?」

黒「……こいつ…?」


色無し「どうした水ー、突っ伏したりして。ってあなたこれ、酒じゃないですか!」

水色「ぁ、色無しさん、こんばんは。」

色無し「ああ……こんばんは………」

水色「色無しさん……私ですねぇ………」

色無し「なんですか?ニヤケ顔になって……」

水色「フフフフ………色無しさぁん私ぃ………」

色無し「はい……なんでしょう?」

水色「私ですねぇ!色無しさん!」

色無し「ちょ、目血走ってますよ!大丈夫です?」

水色「だぁかぁらぁ!私ぃ色無しさぁんんん!」

色無し「ヒィィィィ!なんですかっ!?」

水色「ハァはァ……ハァ…………」

スタスタスタスタ   ガチャン

色無し「えっ何?今の?」


朱色「おーい色無!」

色無「なんですか?朱色さん。」

朱色「ちょっと競馬行って来るから掃除よろしくね〜」

色無「はぁ・・・またですか、わかりましたよ。」

水色「あ・・・色無君。なにやってんの?」

色無「水色・・・ちょっと朱色さんに掃除を押しつけられてな」

水色「(また競馬に行っちゃったんだ・・・)あ、あの色無君。もしよかったら私の部屋に来ない?」

色無「ああ、いいぞ。もう掃除終わったからな」

水色「ね、ねえ色無君、ひ・・・膝枕してあげようか?」

色無「は?急に何言い出すんだよ」

水色「あ、あの。別に深い意味じゃなくて、その・・・色無君、疲れてるみたいだったから・・・」

色無「ふーん・・・じゃあ頼むよ」

水色「(あ・・・色無君の体温が伝わってくる・・・)」

色無「水色の膝ってすごく暖かいな・・・とても気持ちいいよ」

水色「あ・・・ありがとう・・・//////////」

水色「(こういうのを幸せっていうのかな・・・色無君に膝枕できるなんて・・・このまま時間が止まってくれないかな・・・)」


水「(カリカリカリカリカリカリ)」

無「おい水ぅ」

水「(カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ)」

無「あのぉ……水色さん?」

水「(カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリポキッ)あっ、芯折れた」

無「水っ!」

水「ひゃいぃぃぃろぁしさん!」

無「リアクションデカすぎ。宿題するのはいいけど落書きに夢中になってましたよ」

水「あ。はは…………」

無「ヒマワリ描いてたんだ。上手いじゃん」

水「………そう、ですか?」

無「うん。そうだこんど公園いかない?あのでかい公園」

水「いいんですか!」

無「いや、いいも何も俺からいったことじゃん。ヒマワリ好きなんだろ?」

水「いいいいつですか!」

無「いつでもいいから肩掴んで揺らすのやめて」

水「じゃああああああきょきょきょうでも!」

無「いいからいいからやめて頭グラグラしてきた」

水「じゃあ待っててください!すぐに宿題終わらせます!」

1時間後

水「あのぉ………」

無「あ、終わった?」

水「その……集中できないというか………別に色無さんが邪魔ってわけじゃないんですけど………」

無「あぁ。とりあえず俺は自分の部屋にいるから終わったら来て」

水「す、すいません」

パタン

無「………なんでここ来たんだっけ」


『ある日の下校風景』

この角を曲がれば下駄箱。そしてそこには彼がいる。

教室を出るのを確認した。階段を降りていくのを確認した。

この角を曲がるのを確認した。声はかけられなかった。

一緒に帰ろう、ただひと言だけ。ひと言だけ、ひと言だけ——のはずなのに、

言葉は出かかって、喉の奥でひっかかって、そして、出てこなかった。

だから、次で言わないと。そう自分に言い聞かせる。

緊張で足が震える。固く握った手に、じわり、汗がにじんでくる。

——いっつもこうだ……。

ひとつ溜息をつき、ポケットに手を入れる。

そこにある、ハンカチ——水色のハンカチを、ぎゅっと握る。

中学一年生の誕生日に、彼がくれた水色のハンカチ。

擦り切れて、大分薄くなっている。でも、私のお気に入りだ。お守りみたいなもの。

大丈夫、大丈夫……と心の中で唱える。徐々に足の震えがおさまってくる。汗が止まる。

よし、と呟き、一歩踏み出した。

彼は靴を履き終わり、今まさに外に出ようとしているところだった。

勇気を振り絞って声をかける。

「あ、い、色無君っ!」

自分でも驚くほど大きな声がでた。彼は、やや驚いた様子で振り返り、

「あ、水色」

と言う。急に大きな声出してどうした、ちょっとびっくりしたぞ、と付け加えた。

「あ、えっと、その、今から帰りだよね、その、もし良かったら——」

息継ぎして、

「もし良かったら、一緒に帰らない?」

言った。死ぬほど緊張した。足がまた震えはじめた。

手のひらだけでなく、ありとあらゆるところから汗がふき出す。

今の私の顔はきっと真っ赤だろう——、そう思い、でもそれをどうできるはずもなく、

意識したことでかえってさらに赤くなってしまった気もする。

実際は5秒やそこらだったのだろうけど、私にとっては永遠にも感じられる時間が過ぎたあと、

「ん、良いよ」

いつもののんびりした口調で、彼はあっさりと答える。

ちょっと拍子抜けで、でもそれはとっても嬉しくて、

「あ、ありがとう!」

思わず笑顔でそう答える。

小走りで彼の隣に行き、

「それじゃ、行こっ」

歩き出す。でも彼は歩き出さない。

「ん?どうしたの?」

「いや、水色——」

軽く頭をかきながら、彼は言う。

「上履き、靴に履き替えないの?」

え?

自分の足元を見る。

しっかり上履きのままだった。

「え、あ、あ——」

顔に血が昇ってくるのがわかる。顔の温度が上がるのがわかる。

「ご、ごめん! 今すぐ履き替えるから、ちょっと待って!」

素早く下駄箱に戻る。彼は、ぷっと吹き出し、

「ははっ、水色って天然だなっ」

そういって笑顔を見せる。

「うぅ〜、笑わないでよぉ〜」

自分の靴を取り出し、真っ赤になりながらも、思わず笑顔がこぼれる。

——勇気をだして良かった……。

今、私は幸せだ。


 校門にて

水「よ……よし、今日こそ……」

男「んじゃーな赤〜。あんまり部活頑張りすぎるなよ〜」

水「あ……あの、色無くんっ!」

男「わっ!?……って水色ちゃん?びっくりしたぁ……」

水「あ、ご、ごめんなさい……」

男「……なんでここにいるの?水色ちゃんは補習ないでしょ?」

水「そうなんですけど……」

男「……あ、まさか俺を迎えに来てくれたとか!?いやぁ嬉しいなあwwwwww」

水「え?あ、えぇと……そうなんです!!」(本当はちがうけど、一緒に帰るのもいいな……)

男「本当に!?冗談のつもりだったんだけど……ありがとう///」

男「それでさぁ、エメラルドのやつ、俺と間違えて試験管の先生殴っちゃってさぁwww」

水「えぇ!?エメラルドちゃんそんなことしちゃって大丈夫なんですか!?」

男「大丈夫なわけないじゃんw職員室で3時間も説教くらった上に、また追試ww」

水「自業自得かもしれないですけど、ちょっと可哀想ですねw」

男「だよなーww」

水「……」

男「……」(やべー、また微妙な間があいちった……)

水「……あの」

男「ん?」

水「えっと……ぇ……ぇ……ぇい……」

男「……?」

水「……ぇ……来週の土曜日に映画いきませんかっ!?///」(言えたっ!!)

男「……な〜んだ、さっきから言いたそうにしてたのはそれだったのか。いいよ、行こう行こうww」

水「……へ?いいんですか!?」

男「水色ちゃんのお誘いを断る理由なんてないもん!何見よっか?」

水「あ……///じゃ、じゃあ見たいものがあるんですけどいいですか?」

男「いいよいいよ!俺映画はだいたい好きだしね」

水「いまテレビでCMやってるんですけど……」

男「あぁあの……」


寮の共同浴場。水色が一人、入浴中だった。

広い湯船に一人浸かっている。四肢を存分に伸ばし、お湯の暖かさを存分に味わう。

「気持ち良ぃ〜……」

至福の表情で呟き、ほう、と一息。

水色は入浴が好きだ。

ん〜、と湯船の中で伸びをする。お湯がちゃぷん、と音を立てる。

同時刻、脱衣所。

疲れ切った顔、虚ろな目で服を脱ぐ色無。

床に落とした服が、ぱさりと音を立てる。

はぁ、と溜息をつき、

「疲れた……」

呟く。

「風呂入って早く寝よ……」

独りごち、欠伸を一つ。

服を脱ぎきり、タオルを持って浴場に向かう。

「じゃ、そろそろ上がろうかな……」

湯船を出る。ざば、と水の音。

頭に乗せていたタオルで軽く体を拭き、浴場と脱衣所を隔てる戸へ。

すたすた歩き、戸の前へ。開けようと、手を伸ばし、

がらがらがら。

戸が開いた。伸ばした手は、戸があったはずの場所を通り抜け、何かにぶつかる。人。

「ぇ?」

反射的に手を引っ込める。

人。色無が、戸を開けていた。

「ぁれ、えと、色無、君、だよね?」

目をぱちくりさせながら水色。

「ぇ、あ、あれっ? なんで?」

「ん、ぁぁ、水か……」

今気づいた、という風に、無表情で色無。

「とりあえず、俺風呂入るから……」

と、一言。

「ぇ、ぁ、いやその」

と、ふと気づく。

自分の体を見やる。肌。一糸纏わぬ姿。詰まる所、完璧な真っ裸。

「……ぁ、」

頭に血がのぼる。一瞬で顔が真っ赤になる。体温が一気に10℃上がったような錯覚を覚える。

「ぇぇぇぇっと、その、ゴメン! 私、すぐに出るから!」

勢いよく動き出し、色無の横を通り抜けようとするが、

ドンっ!

肩と肩が勢いよくぶつかる。

疲れ切った色無にそれを受け止める力はなく、体の任せるまま、後ろに倒れこむ。

「え? うわゎっ!」

バランスを崩した水色も、色無とともに倒れていく。

どしーん。

盛大な音を立てて色無は地面に激突。その上に覆いかぶさるように倒れこむ水色。

「ぁ……色無君、大丈夫!?」

後頭部を強く打って白目を剥いている色無に声をかける。起きない。

「あ、ゃ、どうしよう……」

焦燥する水色。そして、がらり、という脱衣所の扉が音。

「っ!?」

反射的にそっちを見ると、青色がそこに立っていた。

ぽかんとした様子。

「えっと……」

言葉を発する。

脱衣所。素っ裸で重なる水色と色無。水色が押し倒したようだ。

想像されることは、詰まる所、

「……失礼、しました……」

真っ赤になりながら、戸を閉める。

残された水色は、

「あ、青、これは違うから! その、ほんとにほんとに何にもないから!」

叫ぶ声が虚しく響き渡る。

状況は中々に複雑であった。


水「あ、ひまわり」

無「ホントだ。大きいな、俺の背丈くらいあるや」

水「私、ひまわりって大好きなんです」

無「へぇ……ちょっと意外かも」

水「? 意外、ですか?」

無「うん。もっとすみれとか百合とか、そういう楚々とした花が好きなのかと思ってた」

水「……それは、私に元気が足りないということですか?」

無「いやあのえっとそうではなくて、なんというか、ほら、イメージ的にね」

水「……くすくす、焦らなくても大丈夫ですよ、言いたいことは分かりますから」

無「ならいいんだけど」

水「でも、確かにイメージは違うかもしれませんけど、似ているところもあるんですよ?」

無「似ているところ? 例えばどんな?」

水「例えば、一途に太陽を追いかけるところ、とか」

無「? 確かにひまわりはいつも太陽の方を向いてるけど、水ちゃんはそうじゃなくない?」

水「ううん、私も向いてますよ、ずっと。……私の太陽は、気づいてないみたいですけど」

無「? 全然わかんないや、どういうこと?」

水「ふふ、ナイショです。……いつか、私の中のひまわりが大きくなったら、教えてあげますね」

無「?????」

水(そう、いつか、必ず……)

水(だから、それまでちゃんと、私を照らし続けてくださいね?)

水(私だけの、太陽さん♪)


私は学校が嫌いだった

話すのが苦手で仲の良いと呼べる人もいなかった

言いたい事があってもいつも言えなかった

いつも周りが楽しそうにしているのを遠くから見ているだけ

その日も楽しそうに話すクラスメイトを眺めていた

そんな時だった彼が私に話しかけてくれたのは

無「水色さんだっけ?良ければみんなで昼食食べない?」

いつも1人だった私にはそれだけの事でもとても嬉しかった

それからは学校が好きになった

学校に行けば彼に会えるから

気がつけば自然と笑えるようになっていたし、自分の言いたいことも少しずつだけど言えるようになってきた

だから少しずつ頑張ってみようと思う

こんなに素敵なきっかけをくれた彼に

いつか……

「水色—!!早くしないと遅刻するぞ—!!」

「待ってよ!色無くん!!」

自分の気持ちを言えるようになるために


私のコンプレックス。それは極端に弱気なこと。いつからこんな性格になったのかは自分でもよくわからない。ただひとつ分かるのはこの性格でいままでほとんどいいことが無かったということ。

いまわたしは勝手に決定された委員長の仕事を学校に残ってこなしている。

水「はぁ……終らないなぁ……」

一人放課後の教室に残り作業を進める。憂鬱な気分で胸が一杯になる

無「よぉ、お疲れ」

水「ふぁい!?」

急に声をかけられて驚いてしまった。

水「色無君帰ったんじゃなかったの?」

無「忘れ物とりに来たさ」

水「そう……」

彼は色無君。同じクラスの男子でわたしが好意を抱く男の子……

声をかけられたときにわたしに会いにきてくれたのかとすこし期待してしまった……

無「作業手伝おうか?」

水「え!?いいよ、わたしの仕事だし……」

無「気にしない気にしない」

水「あ、あの、ありがと……」

わたしの使ってる机に他の机をくっつけてとなりに座る彼。となりに座られるだけで胸の鼓動が高鳴る。

無「おっと消ゴム貸して」

水「あ、はい」

彼に消ゴムを手渡そうとすると急に消ゴムをもった手をつかまれる

水「あ、あの……」

突然の出来事に動揺しながらも話しかける。

無「あのさ、迷惑な話かもしれないけどさ俺水色のことが好きなんだ……」

水「え……」

突然の告白

無「この作業が終わったあとどっかに行かない?」

水「う、うん……」

無「じゃあ早く終らせるか!!」

水「うん!!」

さっきよりもはっきりと彼に返事をする。

この瞬間からわたしの楽しい学校生活が始まった。そんな気がする……


「タオルと、軍手と、移植ごてと……うん、忘れ物はなし。行こう」

 寮の玄関で最後の確認をすませると、水色はスニーカーの靴ひもを締め直してサッシを開けた。

「うわあ、まだ午前中なのに今日も暑いなあ……でもがんばらなくっちゃね」

 圧力さえ感じる熱気に、水色は顔をしかめた。あっという間に汗が噴き出てきたが、萎えかけた気持ちを水色は奮い立たせた。

「玄関先でガッツポーズして、なにやってるの?」

「ひゃああああああ!! 茶、茶色ちゃん!」

 不意に背後から声をかけられ、心臓が口から飛び出そうになる。振り返るとそこにはジャージ姿の茶色が怪訝そうな顔をして立っていた。

「あ、びっくりさせちゃった? ごめんね! 制服着てるってことは、もしかして学校に行くの?」

「う、うん……今日は園芸部で世話してる花壇の水やり当番の日だから……」

「そっか! じゃあちょうどよかった、一緒に行こ! わたしも生物部で飼ってる動物の世話係の日なの!」

 何がそんなに嬉しいのか、茶色は水色の手を取ってブンブンと振った。茶色がいてくれた方が楽しいので水色としても異存はなかったが、疑問はあった。

「うん、それはいいんだけど……茶色ちゃん、学校までジャージで行くの?」

「? うん、そだよ。飼育小屋の掃除とかするとどうしても汚れちゃうし。水色ちゃんは向こうで着替えるの? 面倒じゃない?」

「……そうだね、次からはそうしようかな」

 年頃の女の子としてそれはどうかな、と水色は思ったが、本人がそれでいいなら文句を言うこともない。水色は少し引きつった笑顔を浮かべ、不思議そうに見つめる茶色の視線を受け流した。

 

 教室でジャージに着替えて花壇に向かうと、すでに近くの飼育小屋を掃除していた茶色が駆け寄ってきた。

「ねえねえ、こっちは小屋の掃除と餌やり水やりで1時間くらいかかるんだけど、水色ちゃんの方は?」

「えっとね……今見た感じだと、他のみんなはあんまり熱心に世話してなかったみたいで……ちょっとこの子たち元気がないの……」

 水色は悲しげに肩を落とした。花壇に目をやると、草花には疎い茶色にも、しおれて力なくうなだれているのが分かる。

「それで、雑草抜いたり、肥料を足したりで……お昼過ぎまでかかりそうかな……」

「え、そんなに? じゃあこっちを急いで終わらせて、水色ちゃんの方を手伝うね!」

「い、いいよそんな……」

 遠慮する水色に、茶色は腰に両手をあて、少し怒ったように言った。

「ほら、それ! 水色ちゃんはすぐ遠慮する癖を直さなきゃダメだよ。友達なんだからどんどん頼ってよ! わたしお花のことはよく分かんないけど、草むしりくらいできるよ?」

「茶色ちゃん……うん、ごめんね」

「そうやってすぐ謝るのも……ってわあ! なんで泣くの!?」

「ご、ごめんね……『友達だから頼っていい』って言われて、嬉しかったから……ごめんなさい、じゃなくて……ありがとう……」

 困った顔で微笑みながら涙ぐむ水色に、茶色は少し慌ててわたわたと手を動かした。

「い、いやあの、それって実は……その、ある人からの受け売りなんだけどね。ほらほら、もう泣きやんでよ! じゃあわたし掃除終わらせてくるから、、またあとでね!」

 少し照れた様子で飼育小屋に全力疾走する茶色を見送ると、水色は花壇に水をやるためにホースのコックをひねった。

 

 元来引っ込み思案な水色は、寮に入って半年が経つ今もあまり皆と話すことはなく、それゆえにとても大事なことを知らなかった——“張り切った茶色は高確率で大惨事を引き起こす”ということを。

「わーーーーーーー!!! ウサギがーーーー!! ニワトリがーーーーーー!! 水色ちゃん捕まえてーーーーー!!」

 茶色の奇声に驚いて振り向くと、水色は目を疑った。開け放された飼育小屋の戸からウサギとニワトリが逃げだし、なぜか皆水色のほうめがけて突進してきたのだ。

「え、ちょっと、やだ、なに? わわ、危ないから離れて、あっ! 花壇に入っちゃダメーー!! きゃあ!!」

 焦った水色はホースに足を取られ、その場にしりもちをついた。出しっぱなしだった水を頭からかぶり、ずぶ濡れになってしまう。

「水色ちゃん大丈夫!? ごめんね、すぐ捕まえるから……わああ!!」

 手近なニワトリに飛びついた茶は余裕を持って身をかわされ、そのまま水たまりに頭から突っ込んだ。花壇の中を我が物顔で歩き回るウサギとニワトリを、二人は呆然と見つめるしかなかった。

(ああ、お花が……部のみんなで一生懸命育ててきたのに……)

(どどど、どうしよう! わたしのせいで花壇が……それにウサギもニワトリも、校外に逃げちゃったら保健所に連れて行かれちゃう……)

 二人は同時に祈った。

((助けて、色無君!))

 

「……なにしてんの、お前ら?」

「「!!」」

 色無は呆れたような声を上げ、水色の手からホースを取ると、きゅっとコックを閉めて水を止めた。

「い、色無君? なんでここにいるの?」

「ああ、文化祭の準備に駆り出されて来たんだけど、だるいからフケてきた。内緒だぞ? それよりこの惨状はいったい……あー、いやいい。どうせまた茶色がミスッたんだろ」

「う……その通りです……」

 水色の疑問に答えながら、色無は茶色を軽く睨んだ。これ以上はないほどに、茶色はシュンと小さくなった。

「まあ説教はあとだ。二人はウサギを餌で釣って、一匹ずつ小屋に戻せ。俺はニワトリを捕まえるから」

 言うが早いが、色無は一番手強そうな雄鳥に勝負を挑んでいった。

 

「だーかーらー、なんでお前は二つの小屋を同時に掃除しようとするんだ!」

「痛い痛い痛い、痛いよ色無君! だって水色ちゃんが花壇の手入れに時間がかかるって言うから、さっさと終わらせて手伝おうと思って……」

「何ごとも一つずつ確実にこなした方が早いっていつも言ってるだろうが!」

「痛いいいいいい!! 反省してるからもう許して〜〜〜〜!!」

 帰り道、ジャージに乾いた泥をつけたままの茶色の頭を、これまた泥だらけの色無が握り拳でぐりぐりと責め続けていた。

「いいや、お前には厳罰が必要だ!! ……といいたいところだが、今回はその動機に免じてこの辺で勘弁してやろう」

「わーい、やったー!」

「調子に乗るな!」

「痛っ! てへへ……でもありがとね、色無君がいなかったら大変なことになってたよ」

 もう日もずいぶんと傾いてきた中、色無と茶色がふざけながら先を行くのを、水色は羨望の眼差しで見つめていた。

(わたしもちゃんとお礼言わなきゃ……でも、茶色ちゃんと仲良くしてるのを邪魔しちゃ悪いよね……でも……)

 そんな思いをループさせていると、逃げる茶色を追うのを諦めた色無が戻ってきた。水色の胸が早鐘を打つ。

「花壇、ちょっと荒れちゃったけど大丈夫だったか?」

「う、うん……見た目ほどお花は痛んでなかったから大丈夫だと思う……しばらくは様子を見ないといけないけど……」

「そっか」

「あの、色無君……今日は、迷惑かけちゃってごめんなさい……」

 お礼を言おうと思っていたのに、口をついて出たのは、身に染みついた謝罪の言葉だった。色無はちょっと驚いた顔をして、それからとがめるようにぽんぽんと水色の頭を叩いた。

「こら。こういうときは“ごめんなさい”じゃなくて、“ありがとう”って言ってほしいな。友達なんだから、頼るのは当然だろ?」

「!! あ……うん、ありがとう……」

 茶色が言っていた“ある人”が誰なのか、水色は理解した。色無が寮の誰からも好かれているわけが、少し分かった気がした。

「あ、そうだ。俺もしばらくは文化祭の準備で学校行かなきゃならないからさ、花壇の世話も手伝うよ。少し早めに寮を出れば時間もあるだろうし」

「え、そんなの迷惑……」

 いつものように否定の言葉を紡ぎそうになる弱気な心を、水色は振り払った。

「……ううん。そうだね、ホントは一人だと大変だったの。ありがとう色無君、明日からお願いね!」

 真っ直ぐ顔を上げて微笑む水色を見て、色無は眩しそうに目を細めた。


キュ、キュ……

水「ふぅ……」

自室でシャワー浴びシャワー室から出る。そして着替をいつも置いてる棚に手をやる。

水「あれ?」

しまった……着替を置いとくのを忘れちゃった……

仕方ないと思いつつ体を拭いた大きめのバスタオルを体に巻き服が入ってるタンスまで歩く。

ふと鏡が私の目にはいってきた。鏡に写った自分の姿をみてみる。

……また胸が大きくなったかもしれない。

大きくなる度にブラジャー買い換えるのもなかなかめんどうなんだよなぁ……。

水(ちょっとポーズでもとってみようかな……よっと)

両腕をあげ手を頭の上で組ませる。

自分でいうのもなんだけどなかなかエロイ……

無「お〜い水色ぉ入るぞ……」

水「ん!?」

いきなりの訪問者にどうすればいいのかわからず頭が混乱してしまった。そして運が悪いことに体に巻き付いていたバスタオルがバサッという音をたて部屋の床へ……

無「……」

いま私は裸をみられてるとして……あの恥ずかしいポーズがみられた?

無「し、失礼しました……」

水「ちょ、ちょっとまって!!」

無「ぬが!?」

逃げる色無君をおさえようとすると、いきおいあまって押し倒し、色無君に覆い被さる姿勢になる。

無「……」

水「あ、ごめんなさい!?」

無「服をきてください……」

水「あ、はい……」

立ち上がり服をとりにいこうとしたそのとき……

朱「色無ぃ酒かってこぉい……って」

無&水「あ……」

今日は厄日でしょうか?トラブルがたえません。

朱「そうかそうか……もう子どもじゃないもんなぁ」

無「勘違いしてません?」

朱「みなまでいわなくてもわかる!!ただな、やるんだったら避妊はしっかりな。じゃ、励んでくれたまえ。あははは!!」

無「……」

水「とりあえず服きてくるね……」

無「あ、あぁ……」


—ジュージュー

水「〜♪」

—ガチャッ。

無「ただいま」

水「あ、おかえりなさい、色無さん」

無「いい匂いだね。今日は魚かい?」

水「はい。……上手く焼けてるといいんですけど」

無「ははは、水は料理上手だから大丈夫だよ。それより、そのエプロン可愛いねw」

水「えっ?……あ、えっ……と、はい……?///」

無「だからエプロンが可愛いって。誰も水が可愛いなんて言ってないよ?w」

水「……そ、そうですよね!やだ私ったら……勝手に勘違いして……くすん……」

無「ちょっ、泣かないで!……もう、水はちょっとからかうとコレだからなw」

水「……ぅくっ……ひっく……」

無「あー、もうダメ。可愛いすぎ!」

水「……ぅぇっ……(ひょいっ)—ひ、ひゃぁっ?!い、いきなり抱き上げないで下さい///」

無「ゴメンゴメン。秋刀魚も食べたいんだけど、今は水の方が食べごろだから先に水を頂こうかw」

水「……え、えぇっ?!秋刀魚が冷めちゃいますよ?!」

無「また温めなおすさ。さて、……頂きますw」

水「ら、らめぇっ!!秋刀魚がぁっ……あ……?///」

紫「秋刀魚がどしたの?」

水「(ゆ、夢か?!)な、なんでもないのっ!///」

紫「?? 変な水ちゃん……」


ある夜のこと。

水色は一人で桜を見つめていた。

はらはらと。儚げに散る桜。

それが、なにか不思議な魅力を兼ね備えていて、つい見入ってしまった。

無「水色?」

水「ひゃっ……!いっ……色無さん?」

いつの間にか、色無が隣に立っている。

水「いったい……いつから……?」

無「今来たとこ」

そう言うと、色無は桜を見つめた。

水色も、一瞬遅れて桜を見る。

美しく散る桜は、自分には到底……。

無「なっ……どうしたんだよ!水色」

水「え……?」

頬を伝う。冷たい感触。つぅっと下に滑っていく。

水色は涙を流していた。

無「どうしたんだよ?」

色無が優しく問いかける。

水色は、俯きながら小さな声で呟いた。

水「あたしは、しょせん薄い薄い水色で……。散っていても美しい桜にはなれないと思うと……つい……」

涙を流しながら、水色は自嘲的に微笑んだ。

色無「馬鹿」

色無が水色の頭をコツンッと叩いた。

無「馬鹿馬鹿馬鹿」

水「何っ……するんですか」

最後に、水色の額を指で弾く。

無「お前はなぁ。この桜よりもずっとずっと綺麗だよ。

他の奴らが持ってて、お前が持ってない物も確かにある。でも、お前しか持ってない物も確かに存在するんだ。

薄い水色だって。重ねれば濃くなるんだよ。

んな馬鹿なこというな。馬鹿」

一気に吐き出すように言い切ると、色無は照れたように横を向いて、水色の視線から逃れた。

水色は、しばらくポカンと色無を見つめていた。

水「あたししか……持ってない物……?」

無「あぁ。それは必ずある。お前が気づいてないだけだ」

あたししか持ってない物。

そんな物……あるのかな?

分からない。でも、自分のためにそう言い切ってくれた色無の心が嬉しくて、微笑んだ。

「ありがとう」

あたしにしかない物。いつか……見つけられるかな?

そんな事を思いながら水色はまた桜を見つめる。

桜は変わらず、華麗に夜に舞い続けていた。


『れんたるびでお』

無「あ、水だ」

水「……」テクテク

無「また下向いて歩いてるのか」

水「ぁ……あの……」

店員「はい。どうされました?」

水「ぃぇ……なんでもないです、ごめんなさい」

無「……見てられないな」

水「……(どうしよう、ビデオ借りたいけど、どこにあるかわからないし。あきらめようかな……)」

無「よう、水」

水「!~……色無君」

無「(すごくホッとしてるな)……なに探してる?」

水「……(恋愛映画だなんて恥ずかしくて言えないよ。どうしよう)」

無「……(恋愛物の棚の方をちらちら見てるな)」

水「……(帰ろうかな……)」

無「水、俺恋愛物が観たいんだけど、何かオススメないか?」

水「! じ、じゃあ色鉛筆物語なんてどうかな?」

無「(それが水の観たいやつか)んーと……これか」

水「そうそれ! すごくいい話だって聞いたから(でも一つしかない……)」

無「なあ、水。一緒に観ないか?」

水「いいの?」

無「ああ、水が良ければ(普段は恋愛物なんて観ないけど水と一緒なら楽しいかもしれないし)」

水「ありがとう(気を使ってくれたのね。優しい色無君……大好き)」


『ねおき』

水「すいません」

無「……zzz」

水「あの……すいません(やっぱり起こすなんて無理だよ)」

無「うーん……」

水「あの……起きて下さ——」

ガシッ

無「……」

水「ひゃぁぁぁぁぁ!」

無「ん? あれ?」

水「はな、はなし、離して下さ、色無くん!」

無「うわっ! ……水?」

水「い、色無くんに抱きしめられ……」

ぷしゅー

無「水、しっかり!」

水「ぅぅ……」

無「だからごめん」

水「……恥ずかしかったです」

無「……ごめん」

水「でも……」

無「でも?」

水「……ないです……」

無「え?」

水「……なんでもないです(嬉しかったから怒ってないです、なんて言えないよ)」


 お買い物から帰る途中で色無くんに会いました。

「やあ水色。今日も水色だね」

『えっ!? あ、そ、その……なんて答えれば……?』

「下らない冗談だから『なに言ってるんですかこの屑野郎。さっさと首吊って氏んでください』とか言えば良いんだぜ」

『え、そ、それは……ちょっと……』

「まあそれはおいといて、買い物帰りか?」

『あ、はい。ちょっと参考書を』

「お〜、真面目だな水色は。俺なんか学校で配布されるヤツすらやらないぞ」

 それは……正直どうかと思う。それでも色無くんは成績割と良いから困る。私がもう少し勉強できて色無君が勉強できなかったら……

『もー、しょうがないなー色無くんはー。仕方ないから私が教えてあげる♪』的なお勉強会イベントが発生しちゃったして、

 落とした消しゴムを拾うときに手と手が触れちゃったりして、見つめ合うと素直におしゃべり出来なくなっちゃったりして、

そして……そのまま……ゆっくりと……二人の顔は近づいて……(ry

「おーい、水色ー、どーしたー?」

『え……あわわわわわわ!!?? ご、ごめんなさい! ちょっと妄そ……じゃなくて考え事してました!(////)』

「??? そうか……?」

 ぁぅぅ……なんたる失態……バカバカ! 私のバカ! ……よ、よし! と、とりあえず話題を変えましょう! 
『しかし色無くん……完全防備ですね』

 厚手のコート、そして手袋……さすがに少しやりすぎな気がします。

「俺寒いの苦手なんだよ。つーか嫌いだ! 寒いのなんて大っ嫌いだ!」

 なんとなく某テルーを思い出しました。

『そうなんでsくしゅんっ……ぁぅ……(///)』 

 くしゃみするのを他人に見られると何となく恥ずかしい。多分私だけだと思いますけど……

「寒いのか?」

『え……あ、はい……少し……』

 今日は風が強いせいか意外なほど寒い。さっき色無くんの格好をやりすぎと言ったけど……あれくらいでも間違いではない気がします。

「結構薄着……だな。駄目だぞ、この時期は厚手のもの着ないと。風邪引いたら大変だ」

『あ……ごめんなさい……』

「あ、いや、謝らなくてもいいぞ! つーか俺の言い方が悪かったな! こっちこそスマン!」

 すぐ謝っちゃうのは私の悪い癖の一つです。治さないと……いけませんね。

「うーん……(ピコーン!)いいこと思いついた!」

 ……???? 
「ほれ、使え」

 自分のはめていた手袋を片方外し、私に差し出す。

『え? あ、あの……いいんですか?』

「いいから使えって。手先あったかくするとだいぶ違うぞ」

 断っても無駄そうなのでお言葉に甘えさせて貰う。

『ぶかぶか……ですね』

「やっぱちょっと大きすぎたか。水色手ちっちゃいしなぁ」

 たしかにぶかぶか……すごくあったかい……

『でもなんで片方だけ……あ、その両方よこせってことじゃないですよ! ちょっと疑問に思ったから……』

「安心せよ。我に秘策有り……ってねw」ぎゅっ

 そういって私の手を握る色無くん……えっ!!?!?? 
「よいしょっと」

 そして私の手を握ったままコートのポケットの中に手を入れる。 

『あ、あ、あの……い、色無……くん……?(/////)』

「こうすれば二人ともあったかいだろw」

 確かにすごくあったかい。でも……顔は熱い。ああ……嬉し恥ずかしってこの状態を言うんですね……うにゃあああああ(ry

「あ、もしかして……嫌か? まあ相手が俺じゃしょうがないか……」

『え、そ、その、い、嫌じゃ、ないですけど……(/////)』

 むしろ嬉しい。すっごい嬉しい。テラウレシスです。イヤッッホォォォオオォオウ!(AA略)って感じです。

『あ……そ、その……私は良いんですけど……他の人に見られたら……誤解されたりして……迷惑かけちゃう気が……』

「誤解? どんな?」

『え!? そ、その……なんというか……こ、こ、こ、恋人……同士……に思われたり……(/////)』

「え? ああ、それならむしろ嬉しいかも。なんたって相手が水色だしなw」

『な、なんで私が相手だと……?(/////)』 

「なんでってそりゃ……水色めっちゃ可愛いし」

 え、ええええええええ!? い、色無くんが……私のこと……か、可愛いって……めっちゃ可愛いって……え、え、え、え、(ry

『はぅ……(//////)』

「顔真っ赤だなw~ゆでだこみたいだw」

『ぅぅぅ……色無くんの……いじわる……(//////)』

「ゴメンゴメンw~ってもうこんな時間か……帰るか。送るぞ?」

『あ……お願いします……(//////)』

 少しくらい甘えても……いいですよね……? 

 途中会った橙ちゃんが「IRONASIと繋がったままこんな街中歩くなんて……頭がフットーしそうだよぉっっ」

 とかあらぬ誤解を招くようなことを叫んだ以外はとくに何事もなく家に到着しました。

『あ、あの……ありがとうございました。わざわざ送ってもらって……』

「いいっていいって。どうせ帰る方向変わんないしな」

 こういう事をさらっと言えるのはなにげに凄いと思う。少なくとも私には無理です。

「あ、関係ないけどさ、俺寒いのも悪くないなと思った。むしろ寒いの好きになったかも」

『え……? どうしてですか?』

「水色と手を繋いで歩けるから」

『ッ!!??(//////)』

 なんという殺し文句。たった十七文字で顔が真っ赤になってしまった。この殺し文句は(ry

「なーんつってなw~じゃあな! また明日!」

 そう悪戯っぽく言って走り出す色無くん。やっぱちょっと恥ずかしかったのかな……? 
『ぇ、ぁ、さ、さようならっ(//////)』

 でも私はそれ以上に恥ずかしい。顔も真っ赤です。多分耳の先っぽまで真っ赤です。ホントにξ//�//)ξな感じです。

『……でも……やっぱ嬉しいです……♪(///////)』


♪い〜しや〜きいもぉ〜……

水「あっ、石焼芋屋さん……どうしよう、食べたいなぁ……でも恥ずかしいしなぁ……やっぱり食べたいかなぁ……あ、あの!……その……焼芋一つ下さいっ!///」

「あいよ〜、300円な。熱いから気をつけろよ!」

水「は、はい!」

「まいど〜!またよろしくね、お嬢ちゃん!」

水「あ、ありがとうございましたぁっ!」

「……それ、俺の台詞じゃね?」

水「(はふはふ)んー……おいひぃ……♪」

無「ん、水?なんかいいもん食ってるな?」

水「!! い、いろなひ君っ!?んぐっ……こほっ、こほっ!」

無「おいおい大丈夫か?そんなに慌てなくても別に奪い取ったりしないから大丈夫だよ」

水「……っはぁ!……び、びっくりしたぁ///(ぽろっ)」

無「あっ……芋、落ちたぞ?」

水「へっ?……あぁっ!わ、私の焼芋がぁ……」

無「さすがにこれはもうダメだな……」

水「うっ……ひっく……折角……恥ずかしいの我慢して……買ったのに……ふぇぇん……」

無「……。よし、わかった!こうなったのも俺のせいだし、もう一つ俺が買うよ」

水「ふぇぇ……えっ?」

無「ほら、買いに行くぞ!早くしないと焼芋屋が行っちまう!(ぎゅっ)」

水「あっ……うんっ!///」

無「美味いか?」

水「うんっ!」

無「そっか、良かった。それにしてもホントに幸せそうに食べるなぁ」

水「……あ、あんまり食べてるとこ見ないで///」

無「っと、ゴメンゴメン。でもそんなに美味しそうに食べてくれるとまた買ってあげたくなるよ」

水「……じ、じゃあ……また、買って?」

無「!! 反則だ……そんな顔しておねだりされたら断れねぇよ……」

水「……ほ、ホントに!?やったぁ!」

無「(この笑顔が見れるなら……300円なんて安いもんだよな)」

 1週間後

無「あれれ〜?3000円あったお財布の中身がみんな消えちゃったよ〜?」

水「……焼芋おいひ♪」


『石焼芋?』

無「はふはふ……どうして焼き芋ってうまいんだろなー?」

水「あ……色無……さん?」

無「あ、水ちゃん。どうしたの?」

水「私は、本を買いに……あ、あの、色無さんは?」

無「俺は芋を買ったから食べようと……そうだ、水ちゃんもどう?」

水「え、ええっ! い、いいんですか……?」

無「そんなかしこまらなくてもいいから、ね?」

水「あ……それじゃ、お言葉に甘えて……(照)」

無「はい、どうぞ」

水「あ、ありがとうございます……あ、あつっ」

無「あ、冷ましたほうがいいよ、熱いからね」

水「あ、はいっ……ふーふー」

無「それじゃ俺も……あー、うまい」

水「(パクッ、モグモグ)あ……おいしいです」

無「そっか、良かったね(ナデナデ)」

水「ふぇ!? い、色無さん?」

無「あ、ごめん。しないほうがよかった?」

水「い、いえ、そういうわけでは……(照)」

無「そう? んじゃ……(ナデナデ)」

水「……あ、あうぅ……」


『よびかた』

水「色無君」

無「ん?」

水「い、色無……君」

無「……水?」

水「……やっぱり呼び捨てになんて出来ない」

無「呼び捨て?」

水「うん、呼んでみたいんだけど、どうしても呼べないの……」

無「呼べばいいじゃないか」

水「うん……それじゃ、い」

 ガラッ

黄「色無ー、水知らない?」

水「い、色無っ!」

黄「……なにしたのよ、色無」

無「なにって、なんだよ?」

黄「水があんなに真剣に色無を呼び捨てにするなんて、怒らせるようなことしたんでしょ?」

水「ちがうの、黄ちゃん!」

黄「へぇー、呼び捨てにねぇー」

水「……どうしても普通に呼べないの」

黄「いいんじゃないの? 呼び捨てにできなくても。逆に私が『いろなしくーん』とか言っても違和感あるでしょ?」

無「ある意味新鮮かもな……」


黄「色無ー、DVD借りてきたからみんなで鑑賞会しよ!」

無「おっいいねー何を借りてきたんだ……ってこれは……ホラー映画?」

黄「そうだけど?あれれーもしかして色無こういうの苦手なんだ〜w」

無「ばばか言うなよ!オレはれっきとした漢だよ?全然平気だっつーの!」

黄「ホントかな〜?w」

(劇中)男A「馬鹿馬鹿しい!俺は自分の部屋に帰って寝るぞ!」

紫「ああぁ〜1人になっちゃダメだって〜」

赤「後ろ後ろ!やばいよ、にーげーてー!」

一同(ドキドキドキ……)

(劇中)男A「……ぐはっっっ!!(後ろから串刺し)」

黒「キャーー!!」

橙「うお、びっくりした!って今のかわいい悲鳴……黒がきゃーって……w」

黒「う、うるさいわね!怖いもんは怖いの!」

桃「私も怖かった〜色無くーん……って真横にいたのになんでそんな隅っこで頭抱えて震えてるの?」

無「へっ!?あはは違うよこんなのなんともない……ってぎゃああああ!内蔵食われてるぅぅぅ」

青「やっぱり色無こーゆーのダメなんだー、情けな〜いw」

一同(でもそんな貴方も……好き)

無「ってかこんなの誰だって怖いに決まってるだろ!!誰だって……ん?」

水(平然)

無「……水、おまえ平気なの?」

水「はい?あ、ええまぁ」

緑「へぇ意外、絶対こういうの苦手そうなのに」

無「……はらわた引きちぎられてるんだぞ?血ドバドバでてるんだぞ?怖くないの?」

水「確かにグロテスクですけど……人間なんて一皮むけばみんなこんなものですし……それよりも……人の心の内面……心の中に潜む闇……そんなものの方が遥かに醜くて怖いから……ってやだ、私何を言ってるのかしら……あのー皆さん、冗談ですから本気でひかないでください……」

一同(……ある意味この娘が一番怖いかも……)


『雨のバス停で』

 雨が降りだしていた。と言っても俺自身、濡れて無いから別にいいんだけどね。

 時刻は四時を少し回った所で、冬中旬のこの時期に、これ程の雨が降るとは珍しかったが、これも異常気象と言うものなのだろう。 雨はしきりにアスファルトを打ち付け、水しぶきが高く跳ね上がっている。

「まいったな……」

 なんとなしに呟いてみたが、どうする事も出来ずにバス停の青いベンチの上へと腰掛けた。

(小雨なら走って帰るんだけどなぁ)

 そう思いながらボケェ〜と間抜けな面しながら眺めていると、この豪雨の中を一人走ってくる女のコが居た。

 小柄な身体付きに、少しだけ艶のある水色の髪。

 髪は肩まであって、少しだけ内巻の癖があり後ろ髪はピョコンと跳ねている。

 そんな彼女が一心不乱に此方に向かって来ていた。

「おい! 水色?」

 水色はハッと俺に気付くと、数歩いて立ち止まった。

「色無……くん?」

 この豪雨の中で、立ち止まる彼女。

「つうか、そんな所でつっ立って無いで早く!!」

「う、うん」

 彼女は鞄を抱きかかえながら、バス停へと入ってくる。

 制服は雨で濡れていて、髪が彼女の頬にくっついている。

「珍しいな、水色が傘を忘れるなんてさ」

「……う、うん」

 小さく頷くと彼女はギュッと鞄を抱き抱えながら、うつ向いている。

(何だろう? 俺なんか悪い事したかな?)

 ギュッと鞄を抱き抱えながら、彼女は顔を真っ赤にさせている。

「な、なぁ?」

「は、はい!」

「俺、何か悪い事した?」

 水色の方に振り向くと、彼女はまたギュッと鞄を抱く。

「こ、こっちを見ないで下さい」

 何気に凄い事言われた、俺なんか悪い事したかな? 何だよ何もしてないのに嫌われてるって、どんなに俺って印象悪いんだよ。

 もっの凄く落ち込んで、バス停のガラスに額を当てた。

「いいんだよどうせ俺なんか、俺なんか、馬鹿で嫌われ者のクズ野郎さ」

「ち、違うんです! そう言う意味じゃ無くて……そ、その」

 言いにくそうに彼女はうつ向く、顔が熟れた林檎みたいに真っ赤だ。

「し、下着が……す、す……て……です」

 か擦れるような小さな声で彼女はそう言う最後の方は聞き取れなかったが、まあ想像は出来る。

「あのな、そう言う事は先に言えよ……」

「ご、ごめんなさい」

 そう言う事か……

 しかしながらそんな情報を聞かされれば、男としては意識してしまうのは当たり前な訳で、何かにつけて彼女を見てしまう。

 薄青いブラジャーだった。

 体格からして小さいが、まあけど……駄目だ! 顔がニヤケちまう!! これが男の性か! 糞野郎!

 自分自身の頭の悪さに、少しだけ自暴自棄に陥っている時に水色から声が掛った。

「雨、止みませんね」

「うん? うん」

 一層水しぶきを跳ね上げている雨は、ザァァァァとテレビの砂嵐みたいなノイズを響かせながら、止もうとはしなかった。

「激しくなってきたな」

「はい……」

 会話が続かない。

「そ、そう言えば色無くんは……え、えっと」

「無理して喋ん無くてもいいっつうの」 水色は顔を真っ赤にしながらうつ向く。あ、何か悪い事言ったかも。

 彼女はうつ向いたまま、顔を上げない。泣かしてしまったかも知れない、そう思った。

 だけど彼女が見ると小さな蛙が一匹、彼女と目を合わせている。

「ゲコゲコ」

「ゲコッゲコッ」

 可愛らしいく彼女は蛙の泣き真似をすると、少ししゃがんで蛙を眺めていた。

 なんつうかカメラとか持ってたら、30枚のフィルム全部使ってしまいそうな感じだ。

 彼女は幸せそうに蛙を眺めて、嬉しそうに笑む。

 何とも何とも幸せそうだった。

 声をかけるか悩んでいたが、結局は止めた。

 見ている方がいい。

 雨はまだ止まずに、バシャバシャと音を立てて降り続いていたが、彼女の部分だけ雨が光輝いている様に見えた。


水「あ……」

無「ああ水ちゃんおは……って何で!? 何で逃げ出すの!?」

水「ご、ごめんなさいぃ!(トタタタ)」

無「ああ! ちょっと!」

水「はぁ、はぁ……(ここまで来ればもう……)」

無「はぁ、はぁ……ねぇ、何で逃げるの? 水ちゃん……」

水「///ひゃうっ……」

無「俺何か悪いことしたかな……」

水「////い、いえ……別にその……」

無「最近目も合わせてくれないよね……」

水「////えっと……その……」

無「何か悪いことしてたならゴメン! 謝る!」

水「!? いえ、別にそんな! 何も悪いことなんて……」

無「じゃあ何で!? 何で避けるの!?」

水「////……はず……恥ずかしいから……///」

無「へっ?」

水「////恥ずかしいからです///……」

無「それだけ……?」

水「///はい……」

無「……良かったぁ」

水「え?」

無「嫌われちゃったのかと思ってた」

水「え!? えと、えと……。嫌うとかそんなこと、絶対ないですっ!! ……あっ///」

無「ははは、安心したよ」

水「〜〜〜っ///」

無「じゃ、行こっか」

水「///え? ……どこにですか?」

無「どこって学校だよ。早く行かないと遅れちゃう」

水「えっ……えと……はい!」

水(///うう……並んで歩くの恥ずかしいよぉ///)


「はぁーっ……寒いなぁ……」

大晦日であるこの日も水色は学校の花壇の手入れに来ていた。予報では2日から崩れると天然パーマの人が言っていたから、である。

「んしょ……これでしばらくは大丈夫」

簡単な作りだが、土が外へ流れ出さない様に囲いを立て終わった頃には夕方近くになっていた。

「汗かいちゃったし、冷えて風邪ひいちゃうから帰ったらお風呂入らなきゃ」

冬の夕暮れは短い。あっという間に空は黒くなる。いつもの道も通りが少なく、風も冷たい。

「もう今年も終わりか……楽しい事、いっぱいあったなぁ」

みんなで怪談したり、体育祭で自分でも信じられないくらい大声で応援したり、文化祭で造った活花が新聞に載ったり……

「よぅ水色。今、帰りか?」

「ふぇっ!?い、色無君?」

「そんなに驚かれるとヘコむなぁ……」

「あぅ……ごめんなさい……」

「いやいや水色が謝る所じゃないから。こっちこそごめんね」

「色無君はどうしてココに?」

「朱色さんのパシリの帰り」

と言いながらコンビニの袋を見せる。中身は煙草やらお菓子やらが入っている。

「あの人極端に寒がりだからね。あ、出る時に黄緑が年越し蕎麦つくってたから早く帰って暖まろうぜ」

 ギュ……

「あ……」

「行こう」

「う、うん」

繋いだ手が手袋越しでも暖かかった。水色の瞳に写る向日葵は寒くても暖かい笑顔を向けてくれていた。


無「あれ、水ちゃんどうしたの?」

水「あの、その……私、色無くんのことが……」

無「?」

水「すき……焼きって好きですか!?」

無「え……ま、まあ……」

水「はは、えっと、私も好きなんです……」

無「そう……」

水「良かったぁ〜」

無「……それを言いに来たの?」

水「え、えと、その……好き……」

無「……」

水「ミング、スキミングって怖いですよね〜あはは」

無「……うん、気をつけなくちゃね……」

水「あはは……はぁ……」

無「ねぇ、どうしたの?」

水「いえ……なんでもないんです……(しゅん)」

無(? ……なんだろう……?)

水(うぅ……また言えなかった……)


きっかけは、ほんの些細なことだった

いつまで経っても寮に馴染むことができなかった私に声をかけてくれたこと

ただそれだけだった

でも、私にはそれがただ嬉しかった

ここに来て初めて自分の名前を呼ばれた気がしただ

それから、私たちはとても仲良くなった

私は彼女の一番の友達に

そして、彼女は私の本当に大切な人に

そう、私は彼女が好きになっていた

私はただ彼女のそばにいられればよかった

人を好きになるのにはどんなことも関係ないと思っていた

だけど、彼女は女の子で

異性の色無くんが好きで

彼女が彼の話をするのが嫌だった

でも、私は彼女の役に立ちたかったし、もっと好きになってほしかった

自分のことを好きになってくれと言えたらどんなによかっただろう

だけど、それを言ってしまったら……

もう今のままではいられない

なんて残酷なんだろう

どんなに思っても私の思いは届くことがない……

今はそれがただ悲しい

水「……」

空「先輩、どうしたんですか?」

水「……なんでもないの……なんでも」


水「色無くん……こ、これっ!」

無「ありがとう。……なんだろう、お守り?」

水「ご……合格祈願です!!」

無「合格祈願……」

水「あの……その……が……頑張ってください!」

無「えーと……水色ちゃん?」

水「あああのこんなことで呼び止めちゃってごめんなさい!」

無「そうじゃなくて……ほら、受験は来年っていうか……」

水「……」

無「……」

水「……えっ!?」

無「しかもほら、俺受験なら水色ちゃんも受験でしょ……?」

水「……あぁっ!!」

無「あとこれ……合格祈願じゃなくて安産祈願のお守り……」

水「……はぅっ!!」

無「……」

水「ごめんなさい本当にごめんなさい忘れてくださいっ!!」

無「あ、水色ちゃん!?……どうしたんだろう、最近茶色に似てきたような……いや、茶色どころじゃない、深緑さんに近い気が……」


水「はぁ……また今日もちゃんとお話しできなかった……」

放課後、花壇の手入れをしながらまた一つため息をつく。

水「今日はね?数学の時に助けてくれたんだよ……」

手入れをする花達に今日の出来事を嬉しそうに報告する。普段は性格上、滅多に人前に立つ事がない。不意に授業中に当てられた今日はいつも以上に戸惑い泣きそうになった。その時、隣の席にいた色無が助け船を出してくれた。

水「でもね……またお礼、言い損ねたんだ……」

一転、表情が暗くなる。

水「ダメだな……わたし……」

無「どんなトコが?」

水「ひやあぁぁぁぁい、色無君!?何でココに?」

無「驚かせてごめん。いや、廊下から水が見えたからさ。ダメなところなんて俺だってあるさ」

水「ふぇ?色無君でも?」

無「ああ……まあ俺の事は置いて。水のイイ所は……」

まだまだ寒い日中、学校の花壇だけは春の花が少しづつ芽吹きはじめていた。


私は今、日課である寮の花壇のお手入れをしています。

最初は私に何かできる事は無いかな?と思って始めたこのガーデニングは、今となってはちょっとした使命感すらも感じられる程の物となっていました。

今は冬の真っ只中ですから、花も咲かず、花壇はとても寂しい状態です。でもこの土のしたには春に芽吹くために頑張っている花たちがいるのです。お手入れは欠かせません。

そうして今日の日課を終えて、寮の方へ戻ろうと立ち上がったときに、後ろから声をかけられました。

「よう、水。今日も精が出るな」

振り返ってみると、そこには色無君。朝の寒さが堪えているのか、両腕をお腹の上で抱えて、少し震えていました。

「色無君……これは、日課みたいなものだから……」

「生活の一部ってわけか。こんな早くにご苦労様な」

特にバカにするような、嫌味なことを言うような様子でもなく、素直に口にする色無君。あ、でも呆れはちょっと含んでいるかも……

「別に……大変ってわけじゃないです。……慣れちゃいましたから」

「そっか」

自嘲気味に呟く私に、どうでもよさそうな口調で花壇を見つめる色無君。少し、落ち込む……

「ま、無理はすんなよ」

花壇から私に視線を移して、私の頭に軽く手を触れる。その眼は素っ気無い態度と違ってとても優しい目をしていました。

しばらく私は呆然として色無君に撫でられ続けていました。とても恥ずかしかったです。でも嬉しくて、とても心地よかったです。

そうして私はしばらく色無君の撫でる感触に身をゆだねていたのですがそのうちに、はっ、として

「あ、あの……頭……」

とようやく声を絞り出せました。

「おっと、これじゃ子ども扱いしてるみたいだな。ゴメンゴメン」

私の力ない抗議に、すぐさま手を離す色無君。少し、名残惜しかったり……

それにしても、この素直さと台詞をなんで紫ちゃんにしないんだろう?そうすれば絶対喧嘩なんかしなくなるのに。

「なぁ、水。寒くないか?もう戻ろうぜ」

言葉通りに寒さに震える色無君は、くるりと振り向いて歩き出してしまいます。

「あ、待って……」

連れ立って歩いて、花壇が見なくなった辺りで、色無君が振り返りました。

「また、咲くといいな、花」

「え?」

「去年一年通してあそこに花ぁ咲いてたけど、それが綺麗だったから」

私はまずビックリしました。元々あの花壇と花は中々人と仲良く慣れなくて半ば寂しさを紛らわせるために始めたものであるからです。

それなのにそれを綺麗と言ってくれる人がいた。ちゃんと見てくれる人がいた。

私はすぐに嬉しさがこみ上げてきました。

「また、見たいな」

色無君は、さっきみたいな優しい目を向けて、笑っていました。

そして、私も、笑っていました。

「はい!頑張ります!」


 コンコン。

「はーい」

 控えめなノックの音に、読んでいた漫画をベッドに放り投げて返事をする。だが扉が開く様子はない。この時点で俺は、誰が訪ねてきたのか見当がついた。

「開いてるから入っていいよ、水ちゃん」

 バサバサっと何かを落とす音がして、あわててそれを拾う気配がして。彼女が部屋に入ってきたのは、たっぷり三十秒は経ったあとだった。

「あ、あの、夜遅くにごめんね……その、どうして私だって分かったの?」

「この寮の連中はたいていノックなんかしないし、する奴も俺の返事を待たずにドア開けるし。招かれるまで入ってこない礼儀正しい子は水ちゃんしかいないからね」

「そんな……礼儀正しいなんて、そんなことないよ……」

 さっそく頬を朱に染め、手をぶんぶん振って否定する水ちゃん。面白いけど、放っておくと話が進まないので、いつものようにこっちでリードする。

「それで、どうしたの? 何か用事があるんだよね?」

「あ、はい……あの、明日の情報の授業の予習をしてたんだけど、分からないところがあって……出席番号順で、私当てられちゃうから……」

「ああ、教えて欲しいってこと? うーん、俺で役に立つかどうか分からないけど……じゃあ一緒に考えようか」

「う、うん! ありがとう、色無くん!」

 ようやく水ちゃんの笑顔を見られて、まずは一安心。俺はほっと息を吐いた。

 

 今どきパソコンなんて、自宅生なら一家に一台くらいはあるだろうけど、寮生にとってはそれなりに贅沢品だ。持っているのは俺の他に数人。水ちゃんは持ってない方だ。

「いちおう起動するところから全部水ちゃんにやってもらおうか。電源入れて、ゲスト用のIDとパスワードを入力して……」

 ゲストIDならエロゲのアイコンもお宝画像フォルダも表示されない。俺専用のIDとパスは脳内に刻み込んである。灰や橙の不法侵入に備え、そこら辺のセキュリティは完璧だ。

「で、何が分かんないの?」

「あの、この問題なんだけど……」

「表計算か。じゃあエクセル起動して」

 その問題は、普段からエクセルに触ってる者にとってはそれほど難しいものじゃなかった。全部教えちゃうのは簡単だけど……まずは水ちゃんに考えてもらおうか。

「……えっと、あの……」

「ん? どうかした?」

 だけど、水ちゃんはエクセルを起動したとたんにオロオロしだした。さすがにまったく手もつけられないってことはないと思ったんだけど。

「あの、カイルくんがいないみたい……」

「……え? ごめん、今なんて? かいるくん?」

「カイルくん……このへんにいつも浮かんでる、イルカの……」

 水ちゃんがモニターの右上あたりを指さす。ああ、あれか……てか、あのイルカはカイルって名前なのか。初めて知った。

「あれは邪魔だから消しちゃったよ。たいていの人はそうしてると思うよ。うるさいし、ろくに役に立たないし——」

「そんなことないよ! カイルくんは可愛くて、とっても優秀で、いろんな質問に答えてくれるんだから!」

 水ちゃんは俺の声をさえぎり、ものすごい勢いでイルカを擁護した。びっくりした……こんな大きな声出す水ちゃんは初めて見た。

「えと、ごめん……じゃあアシスタントを表示するようにするから。いくつか表示変えられるけど、イルカでいい?」

「あ……はい、カイルくんでお願いします……」

 我に返った水ちゃんは、湯気を噴きそうなくらい真っ赤になってうつむき、消え入りそうな声でそう言った。

 

「えと……カイルくん、ここはどうするの?」

「……」

 クケケケケーっと、例のイルカが癇に障る声で現れると、とたんに水ちゃんは元気になった。

「そっか、こうすればいいんだ。ありがとう、カイルくん」

「……」

 何か分からないところに突き当たるたび、カイル君に話しかけながら質問を打ち込み、解決していく水ちゃん。ここまでアシスタント機能を使いこなせるのは、ある意味すごい。

「……というか、カイル君がいれば俺いらなくない?」

 大人げないなーと自分でも思ったものの、ちょっとイルカに嫉妬した俺は、つい口に出して呟いてしまった。

「そ、そんなことないよ! 色無くんがいてくれないと困る!」

「でもさ、分からないことは全部カイル君に聞いてるじゃん。カイル君も優秀だから、ちゃんと答え教えてくれるし」

「カ、カイルくんに分からなくて、色無くんじゃないと答えられないことだってあるよ……」

「そうかなあ。たとえばどんな?」

 無言。ちょっといじめすぎたかな? 謝罪の言葉を口にしようとしたとき、水ちゃんの指がキーボードの上をなめらかに滑った。

『色無くんともっと仲良くなる方法』

「……」

「……」

「あー、えーっと……今度の日曜日、どっか一緒に遊びに行こうか。映画でもいいし、買い物でもいいし。それでさ、いろいろ話をしようよ」

「え……あ、う、うん!!」

 パーっと花を咲かせるように、水ちゃんは笑顔を浮かべた。


男(通学路ってめんどいんだよなー。こっちから行けば早いのに、どうしてわざわざあんな回り道するんだろ)

水「い、色無くんっ」

男「ん?あ、水色。どしたの?」

水「あのっ、そっちは通学路じゃないから……」

男「えー、べつにいいじゃん。先生が見てるワケじゃないし、こっちのが早いんだしさ」

水「でも、通学路は無視しちゃいけないって」

男「守ってるヤツなんかまわりにはほとんどいないって。それにさ、怒られたところで……」

水「うぅ……ひ、っく……だめ、だよぉ」

男「え!?ど、どうして泣くんだよ!?オレがなんか悪いこと……いや、してるんだろうけど、なにも水色が泣くことないだろ?」

水「だって、だって……」

男「あー、わかったわかった。わかったよ。ちゃんと通学路で帰ればいいんだろ?ほら、行くぞ」

水「ぁ……ご、ごめん、なさい」

男「たく、いちいち泣くなよな。別に泣かすようなことしてないだろ」

水「あぅ……」

何の因果か、その次の日。

通学路を無視する子が増えてきたと学校に苦情が寄せられたらしく、その日以降、見回りの先生が厳しく見張るようになってしまった。

ただでさえ退屈な帰り道なのに、わざわざ回り道なんて苦痛以外のなんでもない……と、思っていたのだけど。

水「?」

男「なんでもない」

水「そ、そっか。えへへ……」

その日以降。

俺は見回りの先生がいようといなかろうと、通学路をきちんと守って帰るようになった。

……ただまぁ、通学路なんて関係ない今でもオマケがついてくるのは、また別の話ということで。


コンコン。

水「色無君、いる?」

無「うん、カギ開いてるからどうぞ」

水「ありがと、それじゃお邪魔しますっと」

無「水ちゃん何か用?」

水「ドーナッツ作ったから一緒に食べようと思って」

無「ありがとう。おっ、美味そうだ」

水「はい、どうぞ。それとこれはアイスミルクティ」

無「それじゃ頂きま〜す」モグモグ・ゴクゴク・モグモグ

水「お味の方はどうかしら?」

無「う。うううううううう」

水「どうしたの?色無君、大丈夫?」

無「うううううううううううう……」

水「ノドに詰まったの?」

無「ううううう」ブンブン←首を振る音

水「それとも美味しくなかったの?どうしよう?」グスン(><)

無「プファ〜、う、美味い!」

水「もう……」

無「えへへ。ゴメンゴメン」

水「あんまり驚かせないでよ」

無「でも、すっごく美味いってのは本当だぞ」

水「本当?で、どこがどんな風に美味しかった?」

無「ドーナッツの穴のところに水の真心がこもってて」

水「もう、色無君の意地悪」


男「うーわぁ、やっぱ休みともなると人が多いなー」

水「そ、そうですね。お店もいっぱいだし、迷いそうです……」

男「ここで迷ったら二度と会えなくなりそうだな。気をつけないと」

水「は、はいっ!」

男「さーてそれじゃ行きますかー。お使いの品物は後回しにして、まずは服でも見てこうかな」(ギュッ

水「ふぇ!? い、色無く、手っ……」

男「はぐれないように気をつけてなー」

水「あぅぅ……」

男「——ふぅ。時間も時間だし、ようやく人が減ってきたかな」

水「そうですね……少し歩きやすくなった気がします」

男「何事もなくてよかったよ。迷子にもならなくて……あ。今気付いたけど俺、手ぇ繋いでたんだっけ」

水「ぇ、あ、はい……」

男「ごめん、無意識にやってた。けどこれのおかげで迷子にならなかったのかもね」

水「は、はいっ」

男「でももう離してよさそうだよ。ごめんな水色、勝手な真似してさ」

水「ぁ、……」

男「水色?」

水「……」(カァァ

男「……離しても大丈夫だよ?」

水「……」

男「……このままがいいの?」

水「……」(コクコク

男「……んと、じゃあこのままで、帰ろっか」

水「は、はいっ……えへへ♪」


無「水っー!」

水「い、色無君? どうかしたの」

無「突然だけどかまくら作らないか?」

水「かまくらってあの雪の?」

無「そうそう。雪見てたら昔作ってたのを思い出しちゃってさ。作りたくなって」

水「でも、それって大変なんじゃ……」

無「大丈夫、雪も少ないしそんなに大きくはならないよ」

水「わ、分かった! 準備するので待っていてて」

無「ッ完成!」

水「急いで作っちゃいましたけど大丈夫かな?」

無「んー問題ないだろ。早速、中に入ってみるか」

水「寒くないの?」

無「結構暖かいよ。……寒かったら手つなげばいいし」

水「そ、そうだよね。……あ、本当に暖かいね」

無「だろ? まー手はちょっと悴んでるけど」

水「じゃ手……繋ごう? そっち行ってもいい?」

無「ああ、いいよ。(そうなると体も密着しちゃうんだけど)」

水「……」

無(ま、いいか)

無「水? そろそろ帰らないか? いくらなんでも風邪引いちゃうぞ?」

水「も、もう少しだけ……」


「それで、本当にここでいいの? 園芸店とかじゃなくて?」

「は、はい……一度、来てみたかったんです……」

 日ごろ目立たないところで寮の管理を手伝っている水色をねぎらおうと、デートに誘ってみた。喜んでくれたのは何よりだが、行きたがった場所というのが……。

「ボウリング場ねえ。まあ水色がやりたいならいいけど、手加減しないぜ?」

「ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします……」

 初っぱなからすげえ不安だ。

 ごとん、ごろごろごろ……がたん、ごろごろごろ……

「あ! あああ……」

「またガーターか。ある意味すごい記録が出そうだな」

「うう……」

 半泣きでレーンから帰ってくる水色。あと一投を残すだけだというのに、スコアには一桁の文字が記されている。なかなか見られるものじゃない。

「よっ、と。よっしゃ、スペアいただき!」

「ず、ずるいです、色無くんばっかり……」

「いや、ずるいとか言われてもなあ」

 別に俺もそんなにうまい方じゃない。赤あたりにはぶっちぎりで負けるだろう。だが水色とボウリングは相性最悪のようだ。一番軽い玉でもふらつくんじゃ、コーチする以前の問題だ。

「土とか肥料とか、けっこう重いもの持ってるくせになあ」

「だ、だってなんだか持ちにくいし、投げると大きな音がするから恐くて……」

 そう言えば、両隣のレーンで音がするたびにびくついてるな。ほんとにボウリング向きじゃない性格だな。

「まあしょうがない。これで最後だし、さっさと投げて終わりにしようぜ」

「ごめんなさい……」

 申し訳なさそうに呟き、水色は最後の一投をレーンに放った。

 ごとん、ごろごろごろ……

「……あれ? ね、ねえ色無くん、まっすぐ進んでるよ? これすごくない? ねえこれすごくない!?」

「おお〜。最後の最後でようやくまともに投げられたか」

 奇跡的に右にも左にも曲がらず、水色が投げた玉はまっすぐ転がっていった。目をきらきらさせた水色が、俺の手を取ってぶんぶん振り回している。

(これはもしかしたらもしかするかも……)

 ストライクを期待して二人で見つめたボウリング玉は、いいコースでピンに吸い込まれていった……のだが。

 カコンカコン……

「……え? なんで?」

 ピンは両端に三本ずつ残し、四本しか倒れなかった。

(あいたたた……速度が足りなかったか)

 天を仰いで嘆息する。まさか、球があんまり遅すぎてピンが倒れないなんてことがあるとは夢にも思わなかった。

「ねえ……なんで? 今の真ん中当たったよね?」

 半泣き——いや、もうボロ泣きで俺の胸元にしがみつき、ばしばし叩いて八つ当たりする水色。

「もうやだあ……ボウリングなんて大嫌い!」

「あーよしよし。帰りにお花屋さんでも寄っていこうぜ。な? だから泣きやめよ」

 俺は口ではそんなことを言いつつ、悔し泣きする水色が見られるなら、またボウリングに来てもいいな、などとふらちなことを考えていた。


水「♪〜」

白「なに作ってるのー?」

水「あ、白ちゃん。んと、ちょっとケーキを作ろうと思って」

白「ホントに!?すごいすごい!でもどうして?」

水「えっと、その、お菓子の本を読んでたらつい作りたくなっちゃって……それで」

白「へー。ね、できあがったら私ももらっていいかな?もちろん色無くんも呼んで、三人で!」

水「あ……う、うんっ!」

水「——ふぅっ」

白「わぁ、真っ白!すごい綺麗にできてる!」

水「そ、それほどでもないよ……よしっ、あとはいちごを飾って」

白(それにしても、生クリーム美味しそう……)

水「ねぇ白ちゃん、いちごの飾りつけを手伝って……白ちゃん?」

白「ふぇっ!? はややや、いやなんでもないよっ!?ボウルに残った生クリーム舐めたいなーなんて思ってないよ!?」

水「へ……?」

白「あ……あ、あぅ」

水「……くすっ。いいよ、あげるね。パテを自由に使ってなめちゃっていいよ。た、たぶんおいしいと思うから……」

白「ほ、ホントに? やったぁ、ありがとう水色ちゃん!いただきますっ」

白「ぺろ、あむっ。んん、あまぁい……よっし、とことんまでなめちゃうぞ!残さず掬ってー、あーむっ。んっ」

男「ちーす。お呼ばれに預かったのでやってきまし——……おーい白、口周りクリームいっぱいだぞ」

白「ひゃああああっ!いい、色無くん!?や、これはちが、あう、あの、えっと!」

男「鼻の頭にまでつけちゃって……ひょいっと。あむっ……うん、おいしい。さすが水色!」

白「あ、ありがとう色無くん。あの、このことは黒ちゃんたちには内緒にしてね?」

男「はいはい。それじゃ水色の手作りケーキをいただこうか……ん?水色?」

水「……」

男「鼻の頭にクリームつけてどうし……もしかして、取ってほしい?」

水「……(コクリ)」


『きっかけ』

水「お水だよー、元気に育ってねー」

無「楽しそうだね」

水「い、色無くん!」

無「おはよ」

水「おはようございます。あの……見てました?」

無「うん。あんな風にみんなと話せばきっともっと楽しくなるよ」

水「あ、えっと……」

無「みんなだって、もっと水と話したいと思ってるよ」

水「色無くん……」

無「この寮に来た頃と比べたら、ずいぶん喋ってくれるようになったけどね」

水「それは色無くんがいつも話し掛けてくれるから……」

無「男の僕と喋れるようになったんだから寮の他の人とも話せるようになるよ」

水「……って言ってくれたお陰です」

無「努力したのは水自身でしょ?」

水「……でもきっかけをくれたのは色無くんです。色無くんにあえて本当に良かった」

無「あー、うん。そんなに感謝されると、なんか照れるよ」

水「これくらい感謝したうちに入りません! ……何かしてほしいことありませんか?」

無「えっと……そのうち考えておくよ。それじゃ」

水「はい(出来ればずっと一緒にいたいな……色無くん)」


無「水〜起きろ〜もう7時回ってるぞ。いい加減起きろ〜」

水「むぅ……あなた? ってきゃぁ?! もうこんな時間!」

無「もう朝飯は作ってあるからな」

水「ご、ごめんなさい」

無「しょうがないよな、遅くまであんなことしてるんだもの」

水「つい夢中になっちゃって……」

無「次は気をつけような。ま、なんにしても」

水「え?」

無「水の可愛い寝顔見れたから許してあげる」

水「あぅぅ……」

緑「お勧めした本、どうだった?」

水「うん、とっても面白かったよ。……ちょっと恥ずかしかったけど」

緑「???」


図書館にて

水(ほへら〜)

無(あれ? 水ちゃんだ。何読んでるんだろう)

水(ぽわぽわ〜)

無「(幸せそうだなぁ……)何読んでるの?」

水「ひゃ、ひゃい!? ……い、色無くん……びっくりしたー」

無「夢中になってたようだけど……花の図鑑?」

水「はい、お花見てると、凄く幸せな気持ちになれるんです」

無「そっか、水ちゃん花好きだもんね」

水「はい」

無「そういえば寮の花壇も凄く綺麗だよね。凄いなー、なにか一芸に秀でてるって。俺なんかなんも無いや、ははは」

水「そ、そんなことないですっ!」

無「へ?」

水「色無くんに褒めてもらって……それから私……」

無「……水ちゃん?」

水「はぅ気にしないでくださいっ」

無「……?」

 お花上手に育てられるようになったのは、色無くんが褒めてくれたからなんだよ?


水「い、色無くんこれ」

無「あ、クッキーだ。水ちゃんが焼いたの?」

水「(コクッ)」

無「そっかーありがとう」

水「あ、あの、食べ終わったら感想聞かせてくださいっ」

無「うん、わかった」

……

無「あ、水ちゃん」

水「あ、色無くん。えっと……(ドキドキ)」

無「えっとね、とっても——!?」

水「……」

無(目を瞑って真っ赤になってる……可愛いなぁ……)

水「……」

無「……」

水「……(ぷるぷるぷる)」

無「……?」

水「ご、ごめんなさい、今度はきっと美味しく作りますからっ(ぽろぽろ)」

無「ああ、ごめん! 違うんだ!」


無「っくし!!」

水「ひゃうっ!」

無「あ、ごめん、驚いた?」

水「あ……いえ……」

無「(ズズッ)なんか、もう花粉が飛んでるみたいでさ……」

水「!!(花粉って……私の花壇の花のせいかなぁ……)」

無「ん、どうした……へっくしっ!!」

水「だ、大丈夫ですか?」

無「あぁ、毎年のことだかr……っくし!!」

水「……」

無「うぅ……目がかゆい……」

水「……わ、私……」

無「えっ?」

水「花壇の花全部刈ってきますねっ!!(ダッ)」

無「お、おい!ちょっと……っくしょん!!」

水「はぁ、はぁ……ごめんね、みんな……でも私の好きな人をこれ以上苦しめるわけには……」

無「おーいっ!ちょっと待てぇ!!」

水「い、色無さん?!」

無「まさかとは思うけど、俺の花粉症はこの花のせいだと思ってる?」

水「……ち、違うんですか……?」

無「そんなわけないだろ。ていうかこの花が原因だとしても刈るなんて許さないぞ」

水「な、なんでですか……?」

無「水が一生懸命育てたのに、俺のせいでダメにしちゃうなんて嫌だからな」

水「……」

無「それに、この花壇に何にも無くなっちゃったら悲しいし。俺、水の育てた花を見るの大好きなんだから」

水「えっ……この花壇……見てくれてたんですか……?」

無「当たり前だろ。俺だけじゃない、他のみんなもちゃんと見てるぜ。みんな綺麗だとかこの寮の宝だとか言ってるんだぞ」

水「……ぅぅ……ひっぐ……み、みんな見ててくれた……なんて……ぐすっ……」

無「……別に悪いことして泣かせた訳じゃないのに、なんだろう……この罪悪感……」


水「すーすー」

無「確か水色はっと……いた。けど、眠ってるな」

水「んむぅ……」

無「植物の本読んでたのか。それにしても幸せそうだな」

水「お花さん……たくさん……」

無「夢の中でも花かよ。本当に花が好きなんだな」

水「ムニャ……色無君……大好き……」

無「えっ!?」

水「ふむぅ……ふえっ?! 色無君! ど、どうして……わ私さっき寝言言ってませんでしたか!?」

無「い、いや、そのなんというか」

水「や、やだー」ダダダダダッ

無「水?!」

緑「あなた水にいったい何をしでかしたの?」

無「俺は別に何も」

緑「犯罪者は皆そういうのよ……」


 ♪〜♪〜♪♪〜

水「……ふぅ」

パチパチパチ

水「えっ……!?」

無「素敵な旋律だね」

水「そんな、私なんて……」

無「ううん、水ちゃんは才能あると思うよ。少なくとも僕はそう思う」

水「あ、ありがとう色無くん」

無「もう一度、聞かせてくれないかな」

水「う、うん……」

♪〜♪〜♪♪〜

橙「うう、なんか入り込みにくい空間ね……」

黄「でも、知らなかったなー。水ちゃんがあんなにピアノ上手だったなんて」


水「ああ、あのっ、色無くんっ」

男「ん?どうしたの?」

水「お、お願いがあるの」

男「なに?」

水「その、えっと……うう、後ろから、ぎゅーって、してほしい、です……」

男「えっと……こう、かな?」

水「ぁ……う、うん。でも、もっと強くしても……」

男「わかった」

水「ん……えへへ。あったかい……」

男「水色……」

水「ふぇ? あ、い、色無くん……」

水(ポーッ)

白「あ、水色ちゃーん」(ポン

水「わひゃあああぁぁぅ!?」

白「ひゃあっ!? びび、びっくりしたぁ……」

水「あ、し、し、白ちゃん?どどど、どうしたの?」

白「み、水色ちゃんちょっと落ち着いて。声が裏返ってるよー」

水「ぁぅ……」

男「お、水色に白。こんなとこでなにやってんだ?」

水「ぃひゃああああああっ!!いいいいろなしくんっ!!?」

白「……だめだこりゃー」






*1 *2
*2 *3
*3 BOMB

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Last-modified: 2012-10-21 (日) 04:36:53