灰メインSS

『日曜日、灰の昼と夜』

灰「抜け道通るのも寒くなってきたなあ。色無ー?寝てるの?」

無「zzz……」

灰「フフッ、それじゃあ暖かい色無でぬくぬくしよっ……か、な?」

空「……すー、すー」

灰「空っ!なんで色無のとこで寝てるの!?」

空「きゃっ、灰ちゃん……なんでってお昼寝、ねえ寒いよ、お布団返して」

無「む?何してんだ、灰?」

灰「このエロ無、起きろ!なんで空と寝てるの」

無「いや寒かったし、眠いから昼寝でもするかな、と」

空「先輩あったかいですね。ねえ、灰ちゃんも一緒に寝ようよ」

灰「……色無のバカ」

無「行っちゃった。あいつなんで怒ってたんだ?」

空「(悪いことしちゃったかな?それにしても先輩、鈍いなあ)」

無「もう11時か。明日は学校だからもう寝とくか」

(……ガチャ、ゴソゴソ)

無「ん、灰。どうしたんだ」

灰「別に。寒いから来ただけ」

無「なんだよ。てゆーかなんで怒ってんだ?」

灰「怒ってない。なんでもないよ」

無「灰、俺が悪いんなら謝るからさ。機嫌直してくれよ」

灰「……色無はわたしの、湯たんぽだもん」

無「はい?」

灰「色無で暖まるのはわたしの特権だからね」

無「お前、ひょっとしてやきもち焼いてたのか?」

灰「ば、バカ!勘違いするな!」

無「はいはい、わかったからもう寝ような」

灰「ニヤニヤするな!このエロ無」


灰「……」

黒「……」

灰「……」

黒「……」

とっとっとっ……

灰「来た!」

黒「そうみたいね」

がちゃ

無「ただいま——」

灰「お帰り色無!(バサッ)」

無「あ!お前奪い取るなよ!」

灰「もうこたつで火照っちゃって火照っちゃって!」

無「こっちは寒い思いしてコンビニ行ってきたっていうのに……」

黒「お帰りなさい。でも、じゃんけんに負けたんだからしょうがないわよ」

無「まぁね……うぅ、寒い。俺はもうアイスとかいいや……」

黒「ほら、早く入れば?あったかいわよ」

灰「雪見〜雪見〜!もちもち〜」

無「ったく……冬にこたつでアイスとは地球に優しくない子だ……」

黒「ちょっと贅沢しすぎかしら?」

無「……ま、このくらいの贅沢は許してもらっても悪くはないでしょ」

灰「……む!色無!私は期間限定生チョコレート味を要求したはず!」

無「なかったんだよ、あそこのコンビニ」

灰「もう一個先のコンビニだったらあったのに!」

無「行けってか!」

灰「おーよ!」

黒「無茶言わないの。それより色無、私の分は?」

無「ん?ちゃんと買って来たよ。……ほら、アイスボックス」

黒「ありがとう♪」

灰「……」

無「……」

灰「お姉ちゃん、あれ好きだけどさ……」

無「あぁ……」

灰・無「寒そうだよね……」


灰「問題です」

黒「何?」

灰「少し入ると天国。でも全部入ると地獄これなーんだ」

黒「なにかしらね」

灰「ヒント。今、お姉ちゃんの目の前にある物」

黒「コタツ?」

灰「正解。だから……」

黒「何?」

灰「私が悪かったよ。コタツから出ないって言ったのは悪かった」

黒「で?」

灰「いいかげんコタツから出してください。すっごい汗でてるんだ。冬なのに」

黒「どうしようかしらね」


空「灰ちゃん、今日はお鍋だって」

灰「ふむ、鍋は良い。鍋は。しか〜し、この私灰には絶対に許せない存在がある!」

空「冬なのに春菊って名前が気に入らないとか?」

灰「そんな黄色さん如き低脳が鬼の首を取ったかのように揚げ足取りそうなことなんかと一緒にしないでもらいたい!」

空「いくらなんでもそれは言い過ぎじゃない。黄色先輩に何か恨みでもあるの」?

灰「そんなことはどうでもいい! 私が許せないこと! それは! 鍋奉行だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

空「鍋奉行? 別においしいお鍋を作ってくれるんならいいんじゃないの?」

灰「鍋の味はとりあえず置いておく。私が許せないのは、ああいった手合いは作り方にいちいちいちゃもんつけること。やれ白菜を入れるタイミングが早いだの肉が固くなるから白滝の隣に置くなだの、細っかい事をうだうだうだうだ言いやがって。例えば昆布の旨味成分なんて高々数分煮た程度で完全に出るわけじゃなし、完璧な理論値には程遠い鍋しか作れないくせにお前は鍋がわかってないとかほざきやがって。お前はどれ程わかってやがるんだと。普段さぞや旨い鍋食ってんのだろうなと。その上そういうヤツほど普通の料理も作れなかったりするんだよ。ジャンクフード大好きだったりするんだよ。普段の食事に気を使わない様な人間が鍋のときだけ偉そうにしてんじゃねーよと言いたい。こればっかりは例えお姉ちゃんでも黄緑さんでも、吹けば飛ぶような水色さんでも吹けば(魂が)飛ぶような白お姉ちゃんでも、ぜぇったいに認めない! もし誰か仕切り出したらガラムマサラ入れて強制カレー鍋に作り変えてやるんだから!」

空「うわぁ〜、本気と書いてマジだよこの人……」

無「ネギはこのタイミングで入れるのが一番うまいんだよな〜」

灰「いやぁ、色無のおかげでおいしい鍋が食べられて嬉しい限りだよ。楽しみだなぁ」

空「うぉい!? いくらなんでもわかり易過ぎるでしょ!」


TV「そんなの関係ねぇ、オッパッピーなどのお笑い芸人のネタや、いじめ同然の言葉となったかわいがりなども……」

灰「りゅーこーごたいしょーか……」

黒「あんまり聞いたことのないものも多いわね」

灰「……我が寮のりゅーこーごたいしょーは?」

黒「……ウチってそんなに寮内で流行りとかあったかしら?」

灰「よーく考えればあるはず……」

黄『カレー』

灰「これじゃない」

黒「どれよ?」

青『そう、あなたはまるで永遠(とわ)の——』

灰「これでもない」

黒「だからどれよ?」

紫『ちっちゃいゆーな!』

灰「これもいつもどおり……」

黒「……」

薄『たすけてしーちゃん!』

灰「……これだ!!」

黒「?」

灰「ほら、耳を澄ませば聞こえてくる……」

「しーちゃん♪」

「その呼び方はやめて!」

「くりーむちゃんはいいのにぃ?」

「あれは……なんというか、昔からだから!」

「しーちゃん♪」

「だからやめろって!」

「……片付け手伝って、しーちゃん」

「緑までっ!?」


「ふう……緊張したあ」

 これまで入ったこともないファンシーショップで買い物をすませ、逃げるように飛び出してきた僕は、角を曲がったところでほっと一息ついた。

「あー、パステルカラーの洪水でなんだか目がちかちかする」

 まぶたの上から何度か目をマッサージすると、僕は手にした戦利品の紙包みを誇らしげに見つめた。

「恥を忍んでじっくり選んだだけのことはあった……はず。あとは何とかして、明日黒さんに会う算段をつけなくちゃ。クリスマスイブの明日こそ、友達関係から一歩進んで——」

 腹にぐっと力を入れ、力強く決意の言葉を口にする。

「黒さんと友達以上恋人未満の関係になるんだ!」

 ……我ながら、情けない決意だった。

 

 初詣が黒さんの風邪で中止になり、次の約束のときには僕が遅刻した上、連絡ミスや不慮のトラブルが重なって結局キャンセルになってしまった。

 それ以来、秘密の携帯電話でのやりとりは続いているものの特に変わったこともなく、一年近く経った今も僕たちは『異性の友達』のままだった。

 このままでは駄目だ、とようやく気づいた僕はこうしてクリスマスプレゼントを用意し、黒さんを誘い出すためのプランを練りつつ家路をたどっていたのだが……。

「どーん!」

「うわあっ!!」

「にーちゃ、つーかまーえたー!」

「は、灰色ちゃん!?」

 いつものゴシックドレスの上に、もっこもこの毛皮のコートを着た可愛い天使(あるいは悪魔)、灰色ちゃんが後ろからタックルしてきて太ももにしがみついていた。

 どうやら、平穏無事には帰れないらしい。

 

「へー、おつかいなんだ。えらいね」

「うん。かーちゃにスーパーでお買い物してきてって頼まれた」

 灰色ちゃんは首から下げたがま口を嬉しそうに見せびらかすと、それが当然といった感じで僕の手を取り、目的地を目指して歩き始めた。

「あ、あのさ、灰色ちゃん。僕も一緒に行かなきゃ駄目? ちょっと用事があるんだけど……」

「おっかいものー、おっかいものー、にーちゃと一緒におっかいものー♪」

「行かなきゃ駄目なのね……」

 軽やかな足取りで調子っぱずれな即興曲を口ずさむ灰色ちゃん。こんなに楽しそうにされては、手をふりほどくなんてできなかった。

「おっかいものー、血のつながってないにーちゃ、ほんとは他人のにーちゃとおっかいものー♪」

「ちょ、灰色ちゃん何言って——ち、違いますよ、友達の妹なんです! 別に怪しい者じゃありませんから!」

 道ばたで談笑していた奥様たちが、笑顔を凍りつかせて無遠慮な視線をぶつけてくる。僕は脂汗を流しながら、灰色ちゃんを脇に抱えてその場を走り去った。

 

「はあ、はあ……あのね、灰色ちゃん。確かに間違っちゃいないけど、ああいう言い方は誤解を招くから……灰色ちゃん!?」

 ひりひり痛む気管支を落ち着かせながら、スーパーの駐車場に灰色ちゃんを下ろす。やんわり注意しながら顔を上げると、もう灰色ちゃんの姿は影も見えなかった。

「ど、どこ行っちゃったんだ!? もう店の中に? 頼むからちょっとはおとなしくしてよ……」

 ぐらつく膝にむち打って混雑するスーパーの中を探し回ると、灰色ちゃんはおつかいそっちのけで試食コーナーにかぶりついていた。

「あら灰色ちゃん、いらっしゃい。今日は一人でおつかい? えらいわねー」

「ひとりじゃないよー、にーちゃといっしょ」

「にーちゃ? あらあら、こんな歳の離れた彼氏を捕まえるなんて、灰色ちゃんも隅に置けないわねえ」

「かれしじゃないよ、にーちゃだよー」

 どうやら顔見知りらしく、レトルトのハンバーグを焼きながら大きな声で話す店員のおばちゃんに曖昧な会釈をして、僕はもう逃がすまいと灰色ちゃんの手を取った。

「灰色ちゃん、勝手に一人で行っちゃ駄目だよ。ハンバーグ買うの?」

「はんばーぐ……」

 灰色ちゃんはもう片方の手だけで器用にがま口を取り出し、中からメモを出して食い入るように見つめ——肩をがっくりと落とした。

「はんばーぐ、なかった」

「あら残念。じゃあまた今度買ってちょうだいね」

 試食コーナーのあたりは人通りも多く、買う気がないなら邪魔にならないよう場所を空けた方がいい。そう思って灰色ちゃんの手を引くと、逆にぐいっと引き寄せられた。

「にーちゃぁ、はんばーぐぅ」

「え? だって灰色ちゃん、今日はいらないんでしょ?」

「はんばーぐぅ〜」

「……あの、試食だけさせてもらうってわけには……」

「ごめんなさいねえ、うちも商売だから」

 口調は柔らかだったが、おばちゃんの目はまったく笑っていなかった。この人はプロフェッショナルだ。

「灰色ちゃん、やっぱり駄目だって。残念だけどまた今度——」

「だー」

「うわーーー!! 灰色ちゃんよだれよだれ! すっごい垂れてる! あっ、コートの袖でぬぐっちゃ駄目だって!!」

 壊れた蛇口みたいに、口の幅いっぱいによだれを垂らす灰色ちゃん。あとからあとから溢れてきて、いくら拭ってもきりがない。「あーもう! おばちゃん、これ一個もらうよ!」

 やむを得ず、ハンバーグが一切れ刺さった爪楊枝をつかんで灰色ちゃんの口に放りこむ。何度かもぐもぐしたあと、灰色ちゃんはぱーっと笑顔を浮かべた。

「毎度ありー」

 大喜びの灰色ちゃんと同じくらい嬉しそうな顔をして、おばちゃんがレトルトのパックを突き出してくる。僕はそれを力なく受け取った。

 

「これを灰色ちゃんの財布で買うわけにいかないしなあ……しょうがない、今日の夜食にしよう。灰色ちゃん、結局何買うの? メモ見せてくれる?」

 ハンバーグを買い物かごに入れ、灰色ちゃんから買うものを記したメモを受け取る。それを見た僕は目を疑った。

「これ全部買うの? 多すぎない?」

 黒さんと灰色ちゃんのお母さんが書いたのだろう。ていねいな字が並んだ買い物リストには、とても灰色ちゃん一人では持ち歩けないほどの量が記されていた。

「全部揃えたら灰色ちゃんと同じくらいの重さになると思うけど……ほんとにお母さんが灰色ちゃんに買ってきなさいって言ったの?」

「うん。ねーちゃと灰色の二人で買ってきなさいって言った」

「黒さんにも!? それで黒さんは?」

「ねーちゃ、途中で他のお店に寄り道して、全然出てこないから置いてきた」

「それを早く言ってよ!」

 僕は大あわてでケータイを取り出し、メモリーの一番上に登録してある番号を呼び出した。

 

 ケータイの向こうで半狂乱になってる黒さんをなだめすかし、事情を説明して電話を切った。今ごろ猛ダッシュでこっちに向かってるだろう。

「ふう、これで一安心。それじゃ、黒さんが来るまでに買い物すませちゃおうか」

「わかったー」

 このスーパーを使い慣れているのか、商品の場所をよく覚えてる灰色ちゃんに先導されながら効率よく買い物をすませ、レジに並ぶ。

「はい、3000円お預かりします。777円のお返しです。ありがとうございましたー」

「やったー、ななななななー。おおあたりー、かくへんー。よかったね、にーちゃ。玉がいっぱい、めだるもいっぱい」

「は、ははは……物知りだなあ、灰色ちゃんは。いやいや、僕はパチンコもパチスロもしませんよ、学生ですから……」

 もういっそ消えてなくなりたい……買い物客と店員のさげすみの視線を全身に浴びながら、僕はのろのろと品物を袋に詰めた。

 スーパーを出てぐるりと見渡したが、黒さんの姿は見えなかった。僕らが来た道からよく見えるところに立って待つことにする。

「灰色ちゃん、さっきの大当たりと確変とか、どこで覚えたの?」

「とーちゃに読んでもらったご本に書いてあった」

「……なんて本?」

「えーと、ぱちんこひっしょうがいどすぺしゃるー」

 なんてものを読んで聞かせるんだ……灰色ちゃんがせがんだんだろうけど。しかし前に電話口で声を聞いた限りは厳格そうな感じだったけど、パチンコするのか。

「灰色ちゃん、その本は大人が読むものだから、もう灰色ちゃんは読んじゃ駄目だよ」

「うん。とーちゃもかーちゃに見つかってすっごい怒られてた。とーちゃは正座して泣きそうだった」

 恐妻家なのか。次々と黒さんの過程の秘密が明らかになっていくな……そうだ! 黒さんについて、灰色ちゃんから何かためになる話が聞けるかも!

「ね、ねえ灰色ちゃん。黒さんは、その、おうちではどんな感じなのかな?」

「ねーちゃ? ねーちゃはねえ……」

「うんうん、ねーちゃは!?」

「私の何が知りたいのかしら?」

 ……ああ、以前にもこんなことがあったな、とデジャヴを感じながら振り返ると——やはりそこには、漆黒の髪を揺らす鬼の姿があった。

 

「まったく、灰色を使って人のプライベートを探ろうなんて、悪趣味ね」

「ごめんなさい……」

 灰色ちゃんと手をつないで前を歩く黒さんをまともに見ることができず、僕はうつむきながらその後ろをとぼとぼとついて歩いた。

「まあいいわ。灰色の子守をしてくれて、買い物までしてもらっちゃったし。許してあげる」

「……そうしていただけると助かります。それにしてもすごい量だね。いつもこんなに買うの?」

「ううん。これは明日のパーティー用よ。クリスマスだから、友達を何人か呼ぼうと思って」

「あ、そうなんだ……パーティーするんだ……」

 がっくりと全身から力が抜ける。家でパーティーするんじゃ外には誘えないよな……かといって『僕も行っていい?』って言うのはあまりに図々しいし……。

「? どうかした?」

「い、いや、なんでもないよ! そっか、パーティーか。それであんなにたくさん手羽元買ったんだ。あれ? そういえば七面鳥じゃなくて鶏でよかったの?」

 気落ちしてるのをごまかそうと思いついた話題を振ってみたが、意外なことに灰色ちゃんが食いついてきた。

「しちめんちょう? 鶏さんじゃだめなの?」

「いや、駄目ってことはないけど……七面鳥の方が本格的、なのかな。でもなかなか手に入らないからね」

 がっかりするかと思ったけど、どうやらただの好奇心だったらしい。納得した顔になった灰色ちゃんは、来たときと同じように即興で歌い出した。

「にっわとっりさんはー、にっせしっちめんちょうー。ねーちゃのおっぱいはー、にせおっぱいー」

「え……?」

「な……なんてこと言うのよ! これは本物よ!」

 黒さんが両手で胸元を押さえながら、顔を真っ赤にして抗議した。

「でもこのあいだ、桃ねーちゃが『黒はお腹と背中の肉を集めてやっとCカップなのよ』って」

「桃のやつ……明日会ったらただじゃおかないわ」

 あ、桃ちゃんも来るんだ。意外な交友関係だな。まあ桃ちゃんに比べたらあれだけど、黒さんだってなかなか……それにしても、Cか……。

「……何見てるのよ」

「え!? べ、別に何も見てませんですよ?」

 慌てて目をそらす。黒さんのじとーっとした視線が、今日刺さった中でも一番痛かった。

 

 いつの間にか、言葉を交わすこともなく二人並んで歩いていた。灰色ちゃんは野良猫を追いかけて、ずいぶん先の方を走り回っている。

「……ねえ。明日なんだけど」

 沈黙を破って、黒さんが口を開いた。

「女の子ばっかりじゃつまらないからって、一人ずつ男の子を誘ってくることになってるんだけど……私だけまだ誰も誘えてないのよ」

「……あの、それって、つまり……」

「そういうことよ。無理なら……別にいいんだけど」

 そのとき、ようやく気がついた。黒さんへのプレゼントを背中に隠してる僕と同じように、黒さんもさっきから小さな紙袋を僕から隠してるってことに。

 それは男性向けの服なんかを売ってるお店のもので……これって少しは期待しちゃってもいいんだろうか。

「全然無理じゃないよ! 行く! 絶対行くから!」

「そう。それなら明日、夜七時からだから。遅れないでね」

 もう天にも舞い上がりそうな僕とは対照的に、黒さんはいつものようにクールだった……野良猫に飽きた灰色ちゃんが戻ってくるまでは。

「ねーちゃ、お誘いできた? 作戦成功?」

「なっ! さ、作戦て何よ!? 私は別に……」

「ねーちゃ、昨日鏡の前で、ずーっとお誘いの練習してた。シャドーお誘い?」

「!! は、灰色……あんたはいつもいつも余計なことばっかり〜!!」

 髪を逆立ててつかみかかった黒さんの手をするりとかわし、灰色ちゃんが嬌声を上げて逃げていく。そのあとを追う黒さんの背中に僕は声を張り上げた。

「お誘いありがとう! 絶対行くから! 楽しみにしてるからねー!」

 黒さんは振り返らなかったけど、その耳は真っ赤に染まっていた。


灰「色無が実家に帰ってしまって大変にヒマなので、ゲーム大会を開きたいと思います」

黒「いきなりみんなを集めだしたと思ったらなんなのよ一体……」

灰「だからさっき言ったとおり、ヒマなんでゲーム大会をするの」

青「わたし忙しいんだけど」

赤「ボクもランニングに行きたいなぁ」

灰「まぁやりたくないなら参加しなくてもいいよ?ただ賞品は渡せないけど」

紫「賞品ってなに?」

灰「色無の部屋の合鍵を朱色さんから預かりました。なので色無がいない間部屋に入れます」

 ざわっ

灰「たとえば色無が帰ってきたときに、部屋がキレイになってたら喜ぶかもしれないよね? たとえばベットの下の本を見たら、好きなタイプがわかるかもしれないよね? たとえば色無の日記。普段は鍵がかかってて読めないけど、その鍵が見つかるかもしれないよね?」

 ざわざわっ

灰「さぁみんな、どうする?」

 『参加しますっ!!!!!!!!』

灰「お〜し決定。一人だけが部屋に入るとなにするかわかんないから、牽制の意味も込めて上位四名に鍵を渡そうと思います」

 『おおおおおおおおお!!!!!』

空「あ〜あ、負けちゃったね。お姉ちゃんたちムキになりすぎだよ……」

灰「ふふふふふ、計画通りだ。ここまで上手くいくとは思わなかったけど」

空「計画通り?」

灰「うん。わたしは始めっから特定の人物に勝たせる事を目的に勝負に臨んだのさ」

空「お姉ちゃん、黒さん、桃さん、橙さんを勝たせるのが目的だったの?」

灰「うん。むしろここからが本番だよ」

空「?」

灰「(ぷるるる、がちゃ)あ、色無?お願いがあるんだけど、今度一緒に遊びに行かない?うん、空も一緒に」

空「ええっ!?」

灰「OKだってさ。実はね、あの企画はデートの邪魔をしそうな人間をあらかじめ排除するために計画したのさ」


無「(ガンガン)灰!ここから出せ!」

男「なんだよこの変なカプセルは!俺達をまぜっこモンスターするつもりか!」

灰「rightその通り、よくわかったね」

緑「君達は(ハァハァ)今から合体(ハァハァハァハァ)することに(ハァハァ)色男へと進化するのだ!」

無「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」

灰「それじゃスイッチオン」

ピカっ

灰「ククク……どれどれ結果はどうかな?」

男無「うふふふ……」

灰「しまった!色無より男のほうが何かと濃かったから『色男』じゃなく『男色』になってしまった!」

無「(ガバ)うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

灰「うるさいよぉ色無ぃ、あと10分寝させてよぉ」

無「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


灰がツンデレになる薬を開発したようです。

灰「ってことで、水ちゃんちょっとこっち来てー。(チョイチョイ)」

水「?」

灰「ささ、クイッと」

水「えぇーっ!?な、なんか怪しい色してるよ、この液体……」

灰「飲めおらー!」

水「き、きゃあーっ!!」

——ドタドタドタ……ガチャッ

無「おいっ、今何か悲鳴が……」

灰「おー、流石色無。空気読めてるよ」

無「は?」

水「……うぅ」

無「水ちゃん?もしかしてお前、水ちゃんに何かしたのか?」

灰「まぁまぁ、そう熱くなんないでよ」

無「お前なぁ……水ちゃん、大丈夫?」

水「……べ、別に……色無君に心配してもらっても嬉しくなんかないです」

無「……がーん」

水「えっ……あ、あぁ……えーと……そ、そんなに落ち込まないでください!」

無「あれ?今度は何か励まされてる?」

水「か、勘違いしないでください!……い、色無君の落ち込んだ顔なんて見てるとこっちまで落ち込んじゃうんです!」

無「……おい、灰」

灰「うん、なかなか良いツンデレっぷりだね。流石私のツンデレ薬!」

無「そんなもん飲ませたのか!もっとデレ分を多く……じゃなくて早く元に戻せ!」

灰「さーて、次は誰に飲ませようかな?」

 

黄「あ、灰ちゃん何それ!?新しく出たジュース!?ちょっと貰うね!(ゴクゴク)……ぷはー!」

灰「……み、みんな飲み干しちゃった」

黄「ごめんね、美味しかったからみんな飲んじゃっ……ん?何か……」

無「(キョロキョロ)畜生、灰の奴どこに……あ、居た!」

灰「黄色ちゃんにみんな飲まれちゃった」

無「……よりによって一番面倒くさそうな奴がみんな飲んだのか」

黄「誰が面倒くさいって?」

無「おわっ!?な、何でもないですよ黄色さん」

黄「ふーん」

無「……あれ、案外普通?」

黄「……(じー)」

無「ん、どした?俺の顔何かついてるか?」

黄「!!(プイッ)」

無「……黄色?」

黄「い、色無……あ、あたし何か変なの……色無の顔見るだけでドキドキしちゃう」

無「……ぱーどぅん?」

黄「ねぇ、どうしよう……ドキドキ、止まらないよ?」

無「あ、あの……ちょっと、そんな顔は反則ですよ?(ていうか黄色ってこんな可愛いかったか?)」

黄「こんな顔見せるのも色無だけなんだからね?……ほら、もっと近くで見て?」

無「き、黄色?ちょっ、顔近い……」

黄「色無……す……」

無「ち、ちょっと待て黄色……その先は……その先は……!(ドキドキ)」

灰「えい。(スパン)」

黄「あいたっ!ちょっと、灰ちゃん何すんのよー!」

灰「元に戻したのです」

黄「は?元に戻すって……あれ、あたしさっきまで何を……」

無(元に戻って良かったような良くなかったような……)


灰「ありえないくらい寒くなってきた……」

無「なんだ、またこたつむりやってるのか?」

灰「この寒さは異常」

無「……確かに寒いな。俺もコタツに入るか」

灰「あ、先客がいるから気をつけて」

無「先客……?」

黒(ヒョコ)

無「うぉ!?」

黒「寒い……」

無「黒がいたのか……」

灰「お姉ちゃんも寒がりだからね」


灰「寒い!眠い!腹減った!」

無「うん、とりあえず俺の部屋から出て自分の部屋に戻ろうか?」

灰「それはイヤ」

無「ていうか眠いなら寝ろよ!こんな夜中に押し掛けてきて一体何なんだよ……」

灰「お腹が空いて眠れない」

無「あいにく食料は何にもないぞ。冷蔵庫の中の食べたら黄緑さんが怒るしな」

灰「色無のバカぁー」

無「俺のせいじゃないだろ」

灰「……こうなったら、空腹を紛らわせるために寝るしかない!」

無「おー、それが一番だ。早く寝ろ……って、何勝手に人のベッドに潜り込んでやがりますか!」

灰「ほら、添い寝してあげるからおいで」

無「……出てk」

灰「うわー、ウソウソごめんなさい!一緒に寝て下さい寂しかったんです」

無「……なら最初からそう言えばいいのに。ほら、もうちょっとそっち詰めろよ」

灰「はーい。……クックッ、チョロいもんよ」

無「やっぱ出てけおらー!!」


灰「ふぅ、今年もあと残り11ヵ月とちょっとか……」

無「まだ始まったばっかなのに、さも残り後少しみたいな言い方すんな」

灰「ねぇ、色無?」

無「なんだ?」

灰「あたしね……ううん、やっぱり何でもない」

無「途中でやめんなよ!気になるから!」

灰「……じゃあ言ってもいい?」

無「うん」

灰「あたし……」

無「(ゴクリ)」

灰「足が痺れてコタツからでれないの!さっきからもうトイレ行きたくてしょうがなかったんだけど、恥ずかしくて……」

無「(ガクッ)そんなの早く言えよ!わざわざ意味深な雰囲気にして焦らすなアホ!」

灰「ねぇお願いはやくぅ……」

無「ほら、肩貸してやるから……」

灰「(カクン)きゃっ!だ、ダメ……やっぱり立てない……」

無「……しょうがないな全く。(ヒョイ)」

灰「わぁっ!!」

無「足が痺れてトイレに行けないお姫様なんて、何か情けないな」

灰「う、うるさい!早くトイレに連れてけバカ色無!!」

無「……さーて、何処に連れて行こうかな?」

灰「あーんごめんなさい許して下さい早くトイレに連れてって下さい!!」


 自慢ではないが、私は朝に弱い。起床ほど嫌いなものもない。

 しかし、私の抱き枕、もとい、この部屋の主の起床は早い。

 しかも寝起きも大変よろしいので、私から見れば無駄に元気だと感服せざるを得ない。

 そうして、彼は朝一で窓を開けて、大きく深呼吸、冷たい風が私の顔に吹きつける。

 寒い、早く閉めろ、と黒いオーラが私を包み始めると、

「ほら、いつまで寝てるんだよ。早く起きろって」

 そう眠たげに彼は言った。私は寒い、と言わんばかりに毛布を引き寄せる。

「ったく、おら、起きろ」

 そう聞こえると、今度は顔にカーテンの奥からまばゆい太陽の光が刺す。読んで字の如く、目に痛い。

 くるっとひっくり返り、目の前の枕に顔をうつぶせ、後ろの髪に光を受ける。

「ん、くぅぅ……うんっ」

 枕からは少しの汗と、いつもの彼の、とても安心する、やさしい——。

「いいかげんにしろ」

 ゴツ。

「……い、いたい」

「灰が起きないと、俺が着替えられないんだが」

「うーあ、分かりました、起きますよ」

「本当に寝起き悪いよな……ん」

「どしたの?」

「灰の髪、なんかいいにおいすると思って」

「……変態」

「ばっ!か、違う!違うから、そういう意味じゃなくて!」

 後ろで何か聞こえたが、構わず部屋を出る。

「ああいうこと言うかな、普通……」

 そう言って、一房、自分の髪をつまんで鼻に近づけた。

 それは、太陽の光でふんわり香る自分と、布団に染み付いていた誰かの匂いがした。


空「ねぇ、灰ちゃん」

灰「え?」

空「せっかく雪積もってるんだし、雪合戦しようよ!」

灰「嫌だ、寒い」

空「えと、じゃあ……灰ちゃんの好きなことでいいから遊ぼっ!」

灰「嫌だ。私はこのままコタツになりたい……コタツと一体化したい……」

空「もう、そんなこと言わないでさー」

無「……お前らっていつも一緒に居るけど、本当に仲良いのか……?」

空「……え? それは、その……」

灰「……いいよ?(ギュッ)」

空「え、は、灰ちゃん!? 苦しいよぅ……」

灰「この際だから色無に見せつけてくれよう」

空「も、もう。やだぁ〜くすぐったいよぅ……」

灰「よいではないか、よいではないか」

空「やーん」

無「うん、聞いた俺が悪かった。目の毒だから取り敢えずそれを止めてくれないか?」

灰「色無があっち行けばいいじゃん」

無「あのな……」

空「は、灰ちゃん? そんなこと言っちゃだめだよ……」

灰「そうだ、空。この前買ったゲームしよー。……あれ? 色無どうしたの? そんな怖い顔しちゃって」

無「ここは俺の部屋なんだが……」


『Top of the World』

「私は世界のてっぺんから全てを見ているの、ってね」

「なんだそれ?」

私はいつものように色無におんぶされながら帰宅していた。……なんだかんだでおんぶしてくれるあたりさすが色無と言わざるを得ない。

「ん〜?お姉ちゃんが聞いてた曲」

「ああ、カーペンターズのやつか」

誰もが知っているであろうメロディーを鼻で鳴らしてみたり。

「こんな気分なのかもね」

世界のてっぺんから全てを見下ろす。……けっこうこの世界も悪くない。

「たかが俺に背負われてるくらいの高さで大げさだな」

色無は笑いながら、私が落ちないように持ちなおした。

……この高さだからいいんだけどね。

「まあまあ、とりあえず寮まで急いでたもれ」

「いつの時代のやつだよ、お前は」

冗談を交わしながら揺られていく。

色無と同じ目線、Top of the Worldで。


灰「お姉ちゃん♪」

黒「なに? 急に気持ち悪い声だして、うっとしいから離れてちょうだい」

灰「ああん、そんなこと言わないでよー。さいきん白姉ばっかりで私のことかまってくれないじゃん」

黒「あら、あなたも色無にべったりしてると思うけど?」

灰「だからたまには甘えてみようと思うんだよ。姉妹仲良くさ」

黒「まったくしょうがないわね。ほら、こっちに来なさい」

 コンコン

空「灰ちゃーん。黄緑さんがお菓子作ったんだって、一緒に食べよー」

灰「あ、うん今行くー」

 バタン

黒「……ひょっとしてばかにされてるのかしら」


灰「おはよう色無ー」

無「おはよ……ってお前どうした? 目ぇ赤いぞ、ゲームのやりすぎか?」

灰「実はちょっと悲しいことがあって、昨日は一晩中……」

無「花粉症か?」

灰「少しくらいかまってくれたっていいじゃない!」

無「去年までは出てなかったよなー?」

灰「うん、とうとう私にもやってきたみたいでね。ティッシュ散乱、まるで男の部屋みたいになってますよ」

無「あいつを喩えに出すなよ……。で、なんで俺の部屋に来た?」

灰「うつそうかと思って」

無「風邪じゃないんだから……」

灰「くらえーげほげほ」

無「うわ、やめろよ!」

がちゃ

黒「灰色ー、ついでにマスク買ってきてあげたわよー……って何やってんのあんた」

灰「ちょっと杉の気持ちになって花粉を飛ばしてます」

無「これ花粉なの?」

黒「……私もやっていいかしら」

灰「どうぞどうぞ」

無「……黒!?」


空「うわぁ!2年の階ってこんなふうになってるんだぁ!」

青「そうよ。ここが図書室であそこが生徒会室」

空「お姉ちゃんいつもあそこいるんだ!すごーい!」

青「す、すごくはないわよ!それでほかには?」

空「ねぇお姉ちゃん!あそこ何!」

青「あれは武道館ね。あそこで弓道とか剣道とかやるのよ」

空「じゃ、じゃああそこは!」

青「あそこが学食ね」

空「じゃああそ(ry」

青「あそこが(ry」

空「じゃあ(r」

青「あそ(r」

空「(」

青「」

灰「お姉ちゃん、私の下足入れどこー?」

黒「自分で探しなさい」

灰「お姉ちゃ〜ん私の教室どこー」

黒「校門に紙貼ってあったでしょう」

灰「お姉ちゃ〜ん私のロッカーどこー」

黒「なんであんた私のクラスわかったのよ……!」

灰「ありゃ?ばれた?」

青・黒「はぁ……」


『そして明日の色鉛筆より——?』

無「灰はさ、もし地球が明日でなくなるって言ったら——」

灰「地下に核シェルター作ってあるけど、使う?」

無「あ、うん……」


灰「い゛ろ゛な゛じーおんぶー」

無「ちっ、裏門通ったのに見つかったか。よいしょっと……で、どうした、風邪か?」

灰「ずずず……いんや、花粉症らしくてね……」

無「へぇー。何も患いそうにないのにな。少しでも抑える薬をもらってきたら?」

灰「うーん……なんかこの私が病院に行くのは他のみんなに示しがつかない気が……」

無「どんな存在だよ!」

灰「とにかく医者にはかからない! 失礼な゛ヤヅめ゛」

無「言ってるそばから鼻水……」

灰「ずずず……結構辛いもんだね、こりゃ」

無「すすらないで鼻かめばいいのに」

灰「ティッシュ持ってない……」

無「俺のかばん漁ってみ? ポケットティッシュ入ってるから」

灰「むぅ……何に使ってんの青少年が昼間っから」

無「いやいたって普通の使い方ですけど」

灰「……そうだ、色無」

無「なに?

灰「ちーんして」

無「……お前なぁ」

灰「いっつ あ ジョークってやつですよHAHAHA!」

無「……ほら、こっち顔向けて」

灰「……え? ……いや、あの、色無?」

無「いっつ あ ジョークってヤツですよHAHAHA!」

灰「……ほー」

無「あまり年上をからかうもんじゃないぞ灰色くん? HAHAHA!」

 ちーん

無「あぁ! ちょ、制服はないわお前! 女としてどうよそれ!」

灰「私に勝とうなど10年早いわ!」


灰「ねぇねぇ」

無「あ、どうしたのそんな胸張って」

灰「変態めが。まぁこれを見なさい。(ゴソゴソ)じゃじゃーん!」

無「う、うわぁ……。お、俺、たまに酒は飲むけど薬はやらないようにしてるから……!」

灰「確かに注射器だけど怪しい薬じゃないよ。これはね、風邪のワクチンなのだよ」

無「へ、へぇ〜そうなんだ。じゃあ俺は用事あるから!」

灰「あ!待ってよぉ〜! ちゃんとマウスで試したから大丈夫だよぉ〜!」

灰「ちぇ、今日は寮にいる奴がみんな湿気てるや」

黄「せっかく集ったのにそんなこと言うなよぉ」

紫「そうだ! ちっちゃいって言うな!」

桃「そうよ! 私だって肩がこって大変なんだから!」

橙「みんな……違うよ。何かが」

灰「君達を呼んだのは他でもない。私はとうとう作ったのだ! このっ! 風邪に対するワクチンを!」

黄「風邪に対するワクチン?」

紫「そんなの昔からあるんじゃなかったの?」

桃「いつも風邪ひいたら病院で打ってもらってるあれじゃないのかしら?」

橙「そんなの今さら見せられてもねぇ」

灰「……」

灰(ブツブツブツブツ)

黒「熱心ね。次はどんな悪巧みを考えてるのかしら?」

灰「馬鹿につける薬を考え中」

黒「あ、そ」


灰「うー、今日も徹夜だ朝日がきつい……と」

空「灰ちゃん、おはよー! またゲームで徹夜したの? 顔ぼろぼろだよ」

灰「おはー。いや、ほんとは早めに寝るつもりだったんだけど、PT狩りで人手が足りないって言われて、つい……」

空「ネトゲ廃人も大変だね……あれ? 灰ちゃん、その小指につけてるの……指輪? 珍しいね、灰ちゃんがアクセなんて」

灰「……あー、これはね、幸運を呼ぶラッキーリングなんだよ」

空「らっきーりんぐぅ?」

灰「あ、今『うさんくさいなー』って思ったでしょ? これはそこらにあふれてるバッタモンとはわけが違うんだって!」

空「どう見ても縁日で売ってるような子供のおもちゃみたいだけど……」

灰「私も半信半疑だったんだけどさー、これをつけてからというもの敵に囲まれてピンチになることもないし、レアはざくざく出るし、いいことずくめなんだよ!」

空「ネトゲ限定なの?」

灰「そんなことないよ。このあいだ先着百名様限定のスペシャルスイーツ食べに行ったんだけど、靴紐は切れるわ電車は遅れるわ職質にひっかかるわで、結局食べられなくてさ」

空「? だめじゃん」

灰「それがあとで分かったんだけど、そのスイーツ、材料が全部中国産だったんだよ!」

空「本物だ! 本物の幸運アイテムだ!」

灰「でしょ? これもう生産終了してるんだけど、親友の空になら特別価格一万円で私の予備を譲ってあげてもいいよ」

空「うーん……欲しいけど、今お金が……」

灰「そんなあなたも安心の分割払い! 通常二千円×六回払いのところを、ただいま四千円×三回払いの限定サービス中!」

空「お買い得だ! 待ってて、今お金下ろしてくるから!」

 パタパタパタパタ

灰「……行っちゃった。うーむ、まさか完全に本気にするとは」

無「天誅!」

 ゴス

灰「! いったーい! なにすんのさ、色無! いきなり乙女の脳天にげんこつ食らわすなんて、それが男のやること!?」

無「ティーンズラブ雑誌の別冊付録漫画みたいな営業トークで友達からお金を巻き上げようとしてるやつが言うな! それが乙女のやることか!」

灰「喩えが的確すぎてキモイんだけど……別にほんとにお金取ったりしないよ。ちょっとからかっただけ」

無「まあ俺も、お前が本気だとは思っちゃいないが……ともかくその指輪は外せよ」

灰「なんでさ? 昨日ちょっと探し物してたら出てきたんだよね〜。思い出すなあ、去年の夏祭りにこれを買ってもらったときのこと——」

無「ばっ、ちょ、お前なに言ってんだ! お前が『何でもいいからおごれー』ってうるさいから買ってやっただけだろ! 祭りのときつけるならともかく、普段つけるようなもんじゃないぞ」

灰「喜ぶ私に、色無はなんて言ったっけなー? 確か『そんなんでいいなら、そのうちもっといいやつ買ってやるよ』だったかなー? あのときの色無はかっこよかったなー」

無「いや、あれはその場の雰囲気に流されてだな……」

灰「あれからもう半年以上かー。そのうちっていつかなー」

無「……しょうがねえなあ。分かってるだろうけど、あんま高いのは買えないからな」

灰「やったー! 色無大好きー!」

無「まったく、こんなときばっかり動きが軽いんだからな」

灰「まあまあいいじゃん……えへへー」

無「なにニヤニヤしてんだよ」

灰「ん〜? いやー、こうしていいことがあったわけだし、この指輪はやっぱり本物のラッキーリングだったんだなーってね」

無「……バーカ。ほら、出かけるからさっさと着替えてこい」

灰「はーい!」

空「灰ちゃん、お金下ろしてきたよ! ……あれ?」


『魔法少女ハニカムグレイ』

 面倒を避けるためなら、どんなことでも行う。

 幼なじみの灰の、矛盾した行動理念だ。

 遠くの物をその場から取るために、わざわざ機械工学の勉強したりとか、そんなところだ。

 それはいつものことだから見慣れているし、めんどくさいと言って何でもこちらに押しつけられるより、ずっとマシだ。

「だからって、そのエキセントリックな格好は何なんだ?」

「……説明、だるぅい」

 巫女服らしき紅白の着物と、失敗した和洋折衷を思わせる妙な小物。ステッキか?

 そんな奇抜な格好をした幼なじみが、眠たそうに目を細めながら、俺の隣を歩いていた。

「いや、だるーいじゃなくてさ。そんな格好している奴の隣はあまり歩きたくないぞ」

「ときどき失礼だね、君は」

「一般的見解を述べただけだ。で、何だよそれ」

 説明しないとダメか。そんな事を言いたげなため息をつくと、その場で一回転して、眠たげな顔から明るい笑顔に。そしてポーズ。

「まほーしょーじょハニカムグレイ。設定年齢14歳。ハリポタの後輩」

 ……あぁ、相変わらず眠そうだ。主に喋り方。

「顔と口調が合ってない。あとお前は日本の高校生じゃなかったのかよ」

 どうしてこう、詰めが甘いというか適当というか。

「ということで、魔法少女になったの。便利だと思って」

「相変わらず面倒とか言いながらさらに面倒なことしてるのな」

「毎日放課後頑張りました。ステッキ素振り1000回とか」

 その場でゆるい素振りを見せてくれる灰。こんなゆっくりしたのが効果あるのか。いや、細かいツッコミどころはたくさんあるけど。

「だるいが口癖の奴とは思えない行動だな、おい」

「千里の道も一歩からだよ」

「それは普段のお前に捧げる。で、その格好でどんな面倒を解決するんだ?」

 また説明めんどくさいと言いたげなため息。

「身を軽くして、君が私の登下校を手伝うのを楽にしてあげる」

「飛べばいいんじゃね? 魔法で」

「魔法の力で、いろんなピンチを脱する。君が」

「何で俺なのかな。自分、魔法使いだろ?」

「今ならもれなく熱い友情シチュエーションつき。傷ついた私を、君が夕日をバックにおんぶ」

「それいつものことじゃん? というか、どうして魔法使いの使い魔みたいなことを俺がしないといけないんだ」

 このいい加減さもいつものことだから、今さらどうこう言うつもりはない。

 だが、何故その苦労を俺が被らないといけないのか。向こうは当然のことだと言うことで説明もしてくれないが、いくら何でも魔法が使えるなら……いや、ホントに使えるとは思ってないけど。

 しかし相変わらず、説明めんどくさいと意思表示のため息。そして俺の方から視線をそらすと……。

「だって……魔法覚えたの、君を見つけやすくする……学校、別々になって」

「え、何だって? 聞こえないぞー」

 小さな声に対し聞き直してみるも、灰は不機嫌そうに頬をふくらましただけで、何も答えてくれない。

 そしてステッキで俺の後頭部を軽く叩き、俺の前に立つ。

「というわけで君は使い魔。これは使い魔の証だから、ずっと持ってて」

 そう言って差し出してきたのは、どこの神社でも売っていそうなお守り一つ。

「ん、なんだ……おい、これ安産のお守りだろ」

「元気な子を産んでね。私の代わりに」

「いや、生物学的に無茶だろそれ。というか、何でお前の代わり……いてっ!」

「口答えは許さない。あと、使い魔ならずっと一緒にいること。私が呼んだときは、

どんなときでも駆けつけること。キバットぐらいのタイミングで」

 ホント身勝手な奴だ。そんなことを思い、苦笑を浮かべる俺。

 そして何を思ったのか、灰は俺に向けて両手を差し出してきて……。

「というわけで、おんぶ」

「歩けよ」

「だるぅい」

 と、魔法少女になっても相変わらずの一言を、口にした。

 ある月の日曜日。別々の高校に通うことになってしまった俺達が、一緒に出かけた日のこと。

 背中の魔法使いは、相変わらずの重さ。魔法で軽くなんて、全然なっていない。

「満足満足」

「お前なぁ……ったく」

 文句の一つも言いたいが、はにかんだ笑みを見せる灰を見ていたら、なんだかそんな気も失せてしまった。


灰「空ー宿題教えてー、というより宿題見せてー、さらに代わりに写してくれたら私は嬉しいよー?」

空「学年トップの灰ちゃんが、中の下な私の宿題を写しに来るっておかしいよね?」

灰「まあいいじゃない。空はやればできる子だよ」

空「灰ちゃんにかかればこの宿題だって5分で終わるんでしょ?」

灰「私にはその5分が惜しい。そしてめんどくさい。だからみーせーてー。ついでに代わりに答えを書いてくれると嬉しい」

空「でも宿題は自分でするものだよ?」

灰「空、私にはこの程度の宿題は経験値が1も入らないのだよ。だから……」

空「んー……そうだ灰ちゃん、宿題一緒にしようよ」

灰「え?」

空「えっと、実は私もまだ終わってないんだ」

灰「あー……お邪魔しましたー、終わったら見せてー」

空「あ、逃げないの! ね、一緒にやろ?」

灰「えーめどいー」

空「ほら、灰ちゃんは解くだけでいいから! 私は灰ちゃんの分も書いてあげるから!」

灰「ほほう、この私に交換条件とな? さっきと言ってること違うし」

空「細かいことは気にしない! やる? やらない? どっち?」

灰「よし、のった! お主も悪よのう、ほっほっほ」

空「お代官様ほどではないですよ♪」

緑(駄目な妹'sね)


無「……なぁ、灰色」

灰「んー?」

無「そういえば最近ゲームやってないな」

灰「んー、まぁねー」

無「もうやめたのか?」

灰「やめたってゆーか……ちょうどおもしろいソフトも出てないしね。あ、あと新しい遊び道具を見つけた」

無「遊び道具?」

灰「うん」

無「何それ?」

灰「ん」

無「……ん?」

灰「ん」

無「……俺?」

灰「他に誰がいるの? 色無といると退屈しないからねー」

無「一緒にいたって、いつもと変わらずだるそうにしてるじゃんか」

灰「腹の底では何考えてるかわかんないよー?」

無「例えば?」

灰「例えば……今はすごくわくわくしてる」

無「……わくわく?」

 『い〜ろ〜な〜し〜さ〜ん?』

無「黄緑さん。どうかしたんですか?」

黄緑「こういうの……まぁ男の子だからしかたないですけど……居間の机の上にありましたよ!?」

無「これは……男から回ってきた『月刊人妻』! なんでそんなところに!?」

黄緑「うちは女の子のほうが多いんですから、ちゃんとこっそりしてくれないと困ります!」

無「は、はい! ごめんなさい! ……なるほど、そういうことか、灰色。宣戦布告ってことでいいな?」

灰「色無ごときが灰色ちゃんに勝てると思って?


無「ふぁーあ……そろそろ寝るかな。おやすみー」

橙「おやすみー」

無「そういえば明日は英語の小テストがあるんだったな。一応寝る前に少しでもやっておくかー……」

 ガチャ

灰「はっはっは! よく来たな色——」

 バタン   ガチャ

灰「ここまでたどり着いたことは褒めてやろう! だがそれもここまでだ!」

無「俺の部屋だし。ちょっとイスからのきなさい。勉強するんだから」

灰「勉強? 何かあんのー?」

無「英語の小テスト。まぁそんなに難しくはないだろうけど」

灰「んー……よかろう。魔王のイスはお前にくれてやる」

 ひょいっ

無「どーも。……よいしょっと」

灰「……よいしょっと(色無の膝に乗る)」

無「……何やってんの?」

灰「ほら、気にせず勉強していいよ。間違ってたら言うから」

無「いや……違う間違いを犯すとか考えないの?」

灰「きゃーへんたーい。っていうか色無にそんな度胸はないとみてる」

無「よくわかってらっしゃって。……ま、勉強するか」

灰「そこは熟語。覚えてないと絶対書けないよ。でもこんなの中学でやったでしょ? なんで覚えてないの?」

無「……ごめんなさい」

灰「あー、もう、これは時制が違う。こんなの定番の問題じゃんか。ひっかるヤツがいるなんて!」

無「……ごめんなさい」

灰「これなんて綴りが違う! 英語の綴りなんてだいたい同じなのになぜこんな間違いを?」

無「なぁ灰色、明日プリン買ってきてやるからもう寝よう?」


『Image』

無「なぁ……なんか月曜の午後の授業って眠いよな〜」

灰「それがどうしたの?」

無「それでなにかこう……夢心地っていうかなんていうか……」

灰「それでそれで?」

無「聞いているのか? お前は。人の話を」

灰「眠いまで聞いた」

無「おいおい。まあいいや。んでさ、いろいろとイメージが沸くわけよ」

灰「たとえば?」

無「彼女の話とか」

灰「色無ごときに彼女なんていたっけ?」

無「いやいないけど……これから考える」

灰「ふ〜ん。で、私とかどう?」

無「断るね。どうせハッタリだろ?」

灰「あはは〜ばれた〜?」

無「あたりまえだ!」

灰(本当は狙っているよバカめ……早く気づけ)


無「暑い」

灰「そりゃもうすぐ夏ですから」

無「そうじゃなくて、お前を背負ってるから背中が蒸れると言いたい」

灰「私も我慢してるからお互い様ということで。お腹側がスケスケになってるかも」

無「……いやいやいや」

灰「もしかして想像した?」

無「してないっス」

灰「嘘だね。でもまあ寛大な灰ちゃんは煩悩魔人の色無を許してあげるよ」

無「へいへい」

灰「というわけで色無さんや、マ○ク行こう○ック。もちろん色無の奢りで」

無「結局それかよ」

灰「色無は男と同類のエロ魔神だって言い触らすよ?」

無「どうぞご自由に。エロ魔神の俺は今後一切お前に関わらないようにするよ」

灰「……むー」

無「フフン」

灰「色無の癖に最近口答えが多いぞー」

無「どれだけお前を見てきたと思ってるんだ?」

灰「……どうしてそういう勘違いさせるような言葉をポンポン出せるかなぁ」

無「何か言ったか?」

灰「べつにぃー」


空「灰ちゃん。見てみて、いま流行のエコグッズ」

灰「あー、うん。よかったね」

空「私たちもエコ活動しようよ」

灰「うえぇ、やだ。今ブームらしいけど、どうせ冬あたりには飽きてるでしょ」

空「そんなことはなにんじゃない?」

灰「流行というのは大抵熱しやすく冷めやすいんだよ。洞爺湖サミットあたりがピークなんじゃない?」

空「そうだとしても……」

灰「だいたいエコエコって言ってるけど、この便利な世の中じゃ無理だって。ゲームとエアコンとこたつを取られたら私は生きていけないよ」

空「ええ! いくらなんでもそれはないでしょ」

灰「そんなことあるんだよ。だからエコなんかやりたくない」

空「はぁ、灰ちゃんを口で納得させるのは難しいなぁ。黒先輩みたい」

灰「だって姉妹だし。でも姉様には負けるよ、ほんとにすごい頑固で──ん? どうしたの空」

空「う、後ろ」

灰「ん?」


 コンコン。いつものようにノックすると扉の向こうから、いつもと同じやる気のない返事。

「ふぁい、どぞ」

「おまえな、寮の中からわざわざメールで呼び出しとか——」

 扉を開けながら、どういうつもりだと続けようとした口は、違う音を出した。

「うわっ、寒っ!!」

「当たり前でしょ、温度上がるから早く閉めなさいよ」

 部屋の中は真冬並みの温度になっていた。

「それで、真夏に極寒の地を作り出して布団に包まるとかどういうつもりだよ」

「んー、夏の醍醐味?」

「訊いてるのは俺のほうだ」

「まー、いいじゃない、せっかくきたんだから温まっていきなさいよ」

「……帰る」

「ちなみに中からは、私しか開けられないから」


黄「あ゛ーづーい゛ーよ゛ー」

無「扇風機を独り占めするな……」

黄「わ゛だじの゛だも゛ん゛ー」

無「風がこない……」

灰「こんな経験したことありませんか? そんなあなたに朗報です!」

無「お?」

黄「なになにー?」

灰「じゃん、業務用扇風機! この風力なら、どこにいたって風がきますよ!」

無「どっから持ってきたんだよ……」

灰「スイッチオン!」

無「おー!」

黄「すずしー! でかした灰色ちゃん!」

灰「やっぱりアメリカンサイズですよアメリカンサイズ」

 ぶぉぉぉぉぉ      ばさぁぁぁぁぁ

無「あ」

黄「あ」

灰「……やば」

無「机の上にあった群青さんの資料が……」

灰「スイッチ! スイッチ切って!」

黄「スイッチオフ!」

 ぶぁぁぁぁぁぁ

灰「まさかの強風!」

無「コンセント抜けコンセント!」

群「……で?」

無黄灰「ごめんなさいでしたぁ!」


無「……んぅ」

灰「あ、起きた?」

無「……暑い、降りろ」

灰「降りてもいいけど、朝からご立派な息子さんとご対面ですかね」

無「んん? ……!? ちょ、これはだな、男なら誰でも起こるものでっ」

灰「みなまで言わなくてよろしい。だいたい、男の人は誰でもこうなることぐらい知ってるしさ」

無「……はぁ、朝から疲れる。というか女の子なんだから、もう少し恥じらいというものを持てよ」

灰「私は羞恥心よりも知的好奇心の方が強いのさ。でもね……」

 ぎゅ

無「な……」

灰「ドキドキしてるの聞こえる?」

無「あ、ああ」

灰「私だって内心はこんなになってるよ?」

無「あ、ああ、そうだな」

灰「……」

無「……」

灰「……っぷ、あはははは! 色無ったら顔真っ赤! 可愛い! いひひひ!」

無「ッ!? この、またからかいやがったな!」

灰「あはっ、はは、はっ、ケホッケホッ」

無「お、おい大丈夫か」

灰「はー、はー、はー、ふー危うく笑い殺されそうだった」

無「このっ……だいたいなぁ、絶壁に囲まれたってなんともっ」

灰「ほぅ? 耳まで真っ赤にしてたのはどこの誰だったかなぁ?」

無「あれはビックリしただけだ! そもそも“ない”より“ある”ほうがいいに決まってる」

灰「そう……なんだ……」

無「あ、おい俺は灰がどーのこーのと言ったわけじゃ」

灰「ぷはははは! もう、色無はどこまで引っかかれば気が済むの!」

無「こ、このやろー!」


灰「……ん……」

無「ん? やっと起きたか」

灰「あれ……色無、いつのまにおんぶ?」

無「……お前がバスの中で気持ちよさそうに寝るもんだからな……」

灰「……おー、世話かけるねぇ色無くん」

無「もう慣れたよ……。帰り道で熟睡とは、珍しいな。なんかあったのか?」

灰「んー、うちの学年は体力測定があって……ちょっと久々に本気で挑んでみたらこの有様ですよ」

無「普段の怠けがな」

灰「かなり影響したかな。まー改める気もないけどね」

無「よし。自分で歩け。今から」

灰「えー? やだー」

無「よく考えたら、普段から歩きもしないっておかしいだろ」

灰「ぶー。私は色無だからおぶられてあげてるのにー」

無「なんという上から目線!」

灰「いいからほら。もうちょっとだよー」

無「ったく……」

灰「……色無」

無「……ん?」

灰「……好き」

無「……ん」

灰「……ありぃ!」(ぺしっ)

無「……お前降りろ! 今すぐ!」

灰「あーん冗談だってば色無ー!」


灰「あー……暑いー……風呂上りだってのにまた汗かいちゃうよ……」

無「こらこら、Tシャツをパタパタしない。見えるから」

灰「あ、色無。いたんだ」

無「絶対気づいてたよね?」

灰「いいからそこどく。私の定位置だから。……あ゛〜ずずじ〜」

無「……アイスでも買ってくるか」

灰「あ゛ー、わ゛だじも゛行ぐ〜」

無「先に髪乾かせ」

灰「ちょっと待ってー(わしゃわしゃ)」

無「ちょ、扇風機でかよ!?」

 ぶぉぉぉぉぉ

無「普通しないだろ……年頃の女が」

灰「色無ってそういうところ結構細かいんだー」

無「髪が痛む!」

灰「熱のほうが痛むと思うんだけど……」

無「え? なに?」

灰「こっちまだ乾いてないよ!」

無「はいはい……って自分でやれよ! なんで俺がやってるんだよ!」

灰「色無はさー、長いのと短いの、どっちが好き?」

無「んー……しいて言えば、長いのかな……」

灰「へー……私、長いよね?」

無「……あ、いや、別に深い意味はなく、な?」

灰「明日ばっさり切ってこようっと」

無「……どんな嫌味だそれは?」

灰「何か期待した?」

無「してません!」

無「よし、終わりっ」

灰「じゃあさっそくコンビニへレッツゴー三匹」

無「ふぅ……俺のほうが汗かいちゃったよ」

灰「ん」

無「……ん?」

灰「ん!」

無「……嫌だ! こんなクソ暑いのになんで人一人背負わなきゃならないんだ!」

灰「えー……じゃあはい。ひっぱってってー(ごろん)」

無「……そういえばジャンプも発売日だったっけー」

灰「あー! 置いてくなー!」

無「朱色さん、ちょっと行ってきまーす(ガラガラ)」

灰「待つがよい! 待って!(ばたばた)」

無「うわぁ……外暑っつ……」

灰「うわ……ほんとだ……もう帰ろうかしら(ぴとっ)」

無「……なぁ、暑いよ。腕にくっつくな」

灰「引っ張っていけぇー」

無「……(すたすた)」

灰「うひゃー(ずりずり)」

朱「……傍から見たらバカップルじゃないか。いいのかー、お姉さん?」

黒「……あの子が気に入ってるんだし、好きにさせます」

朱「複雑だねぇ」

黒「……そうでもないです。また一人蹴落とすライバルが増えただけですから」

朱「妹でも容赦なしかい」


 ぴこぴこぴこぴこ……

無「と! おりゃ!」

灰「甘いよ」

無「ぬがぁ!」

黒「何やってるのよ」

無「懐かしのスト2だ」

灰「いろなしよわいです」

黒「ふーん」

無「くそ! 俺のガイルを弱いだと……」

灰「わたしのザンギに勝てると思って?」

黒「それはいいとして、これが見える?」

無「時計だな」

灰「よそ見は禁物だよ」

黒「時間を見ろって言ってんのよ! 早く寝なさい!!」


灰「う〜ん、やっぱりそうか!」

無{どうしたんだ?」

灰「色無クン、寮生の名前とキャラには関連性があることがわかったんだよ」

無「どういう意味?」

灰「黄:カレー+緑:真面目=黄緑:真面目で家庭的」

無「うん、なるほど。他には」

灰「赤:貧乳+青:貧乳=紫:救いようのない貧乳」

無「そう言われれば」

灰「黄:香辛料+白:虚弱体質=薄黄:説明不要」

無「それじゃ、お前は?」

灰「黒:自分の本能に忠実+白:虚弱体質=灰:怠け者のヒキコモリ!」

無「う〜ん。空は?」

灰「水:妹属性満載+白:無邪気=空:妹属性で無邪気」

無「だったら、桃はどうなんだよ?」

灰「赤:天真爛漫+白:甘え上手=桃色:計算ずくの天然!」

無「寮生じゃないけど、朱色さんと群青さんは?」

灰「赤:天真爛漫+橙&黄:お祭り好き=朱色さん:働かないで飲んでばかりの寮母」

無「おいおい、それシャレにならないぞ……」

灰「青:真面目で貧乳+黒お姉ちゃん:真面目で貧乳=群青さん:説明不要」

群「黒ちゃん、貴女の妹さんにはキッチリと教育する必要があるようね」

青「私もお手伝いさせていただきます!」

黒「それじゃ、灰。部屋に行きましょうか!!!!」


灰色「おんぶにだっこ、って言葉って何か変じゃない?」

色無「何だ?唐突に?」

灰色「だって、おんぶとだっこって同時に出来ないじゃん」

色無「それだったら、おんぶに、じゃなくっておんぶとだっこ、だろ?」

灰色「おぉー」

色無「おんぶだったりだっこだったり、って事じゃないか?」

灰色「なるほど、じゃぁまずは」

色無「だが断る」

灰色「まだ何も言ってないのに……」

色無「って言いながら背中に乗るな」

灰色「まずはおんぶから、っと」

色無「だから何でおんぶ?」

灰色「ふむふむ、やはり色無の背中は良いのー」

色無「って聞いてねーし」

灰色「という訳で、コンビニに行こう!」

色無「どういう訳だよ?」

灰色「喉が渇いたのでジュースを所望する次第であります」

色無「大体なんでおんぶしたまま行かにゃならんのだ?」

灰色「……だっこのほうが良かった?」

色無「そうじゃない!」

灰色「ま、つべこべ言わずにゴー!」



色無「ほれ、コンビニだ、そろそろ降りろ」

灰色「ここで問題です、靴はどこでしょう?」

色無「あっ!寮からおんぶのまま来たから、もしかして灰色は裸足なのか?」

灰色「ぴんぽーん!」

色無「このまま入るのはさすがに恥ずかしいものがあるが」

灰色「気にしない!れっつごー!」

灰色(おんぶなら顔が赤くてもばれないから)


灰「PS3に手を出そうと思う」

無「おま……2で十分だろ。PSPだって持ってるんだし」

灰「だって飽きてきたし」

無「お前ビジュアル面なんて気にしてないだろ?Wiiにしとけば?」

灰「体動かすのめんどくさそうだし」

無「こいつは……」

灰「ということで、買って?」

無「何ほざきやがってるんですか?現在最も高い機種ですよ?」

灰「いーじゃ〜ん。買って〜?ね?」

無「かわいく言っても無理」

灰「買えよー」

無「怒っても無理」

灰「ぐす……買って……下さい」

無「!……泣いても無理」

灰「けち〜」

無「我慢しなさい」

灰「いいも〜んだ。お姉ちゃ〜ん!この前色無がお姉ちゃんのブ……」

無「どわー!何故その事を知ってる!?わかった!クリスマスまで待ってくれ!それで勘弁して!?」

灰「ふっふーん。楽しみにしてるよ?季節外れにサンタさん?」


橙「ねー色無、こんな服はどうかな?」

黒「色無、私にこの服は似合うかしら?」

桃「色無くん♪ 私にこの服似合う?」

茶「あ、あの、色無くん! この服私にどうですか!?」

無「はぁ……なんで皆俺に聞くんだ? こういうのは女の子同士でやるものじゃないのか?」

灰「……鈍感だね、色無(ピコピコ)」

無「?」

灰「まぁ、私はどーでもいいけどね。あ、そっちに行ったよ、色無」

無「おう、こっちに任せておけ」

 そう、私には関係ない。

 私にはこの関係があるから。


灰「灰色プロデュ〜ス」

無「はい?」

灰「このコーナーは虹色寮のメンバーでいろいろ楽しんじゃおうというコーナーでっす」

無「わー……(なんかよくわからんけど、暇だからいっか)」

灰「まずはこの三人。彼女達が組めば何が起きるか想定不能? A.h.oの皆さんでーす」

赤「何時でも何処でも走ります! ボクの名前は赤!」

茶「ふぇえ、私は真面目にやってるつもりなのにぃ……茶色です……」

黄「そして虹色寮の元気印!リーダーの黄色だよ!!」

赤茶黄『三人合わせて、A.h.o!!』

灰「どう?」

無「誰もグループ名にはつっこまないのね」

黄「え? いい名前じゃん、A.h.o」

無(まさか『アホ』に気付いてないのか? まさかな……けど怒らないっていうことは……)

赤「なーに? じろじろ見ちゃって」

無「お前らホントかわいいなぁ」

赤茶黄『え!?』

灰「続いてはこちら。その押しの強さは圧倒的! 羞恥心の皆さんでーす」

無「まだ続くんかこれ」

焦「羞恥心? なんだそれは?」

黒「さあ? そんなもの感じたことはないわね」

桃「あたしはやりたいようにやってるだけだよ〜♪」

焦黒桃『三人揃って、羞恥心!!』

灰「どう?」

無「うわぁ……これはキツイ」

黒「何がキツイのかしら? 色無(ぎゅっ)」

桃「うふふ♪ あたしが最近ブラきつくなってきちゃってたのバレたのかな〜?(むぎゅっ)」

焦「こら君達。リーダーである私を差し置いて色無を占領するな(ぎゅ〜)」

無「う!(やっぱりきつかったー!! この三人に勝てるわけねー!!)」

黒「あら、リーダーだとかは関係ないわ。問題は色無が誰を選ぶかよ」

桃「桃を選んでくれたら、桃のおっきな胸、独り占めできちゃうよ♪」

焦「君以外を愛する事は考えられない。私は君を愛する為に生まれてきたんだ。さあ、私を選んでくれ」

無「むー! むー!(これだけ抱きつかれたら何も言えねー! ってか息ができない……!!)」

黒桃焦『さあ、誰を選ぶんだ!?』

無「ばたんきゅ〜……(ぱたっ)」

黒「あら大変。色無が倒れちゃったわ」

焦「む! それはいかん! 急いで人工呼吸を!」

桃「あー! それ桃がやりた〜い♪」

無(もうどうにでもしてくれ……)

灰「死の淵をさまよった感想は?」

無「元はといえばお前のせいだろが……」

灰「気を取り直してお次はこの三人。武器は大人の色気だ! Ms.Adults!!」

群「アダルトって……私まだ2?歳なのに……」

朱「姉さんはまだいいよ……あたしなんかまだ2?歳だぜ……?」

黄緑「あらあら、大丈夫ですよ……私なんかまだ高校生ですのに……」

群朱黄緑『三人そろってMs.Adults……』

灰「どうでっしゃろ?」

無「今までで一番ノリ気じゃないな」

朱「ったりめーだ! 誰がアダルトだ!? こちとらまだまだピチピチ(死語)だっつーの!!」

群「は〜あ……やっぱり2?歳ならもうおばさんの仲間入りなのかしら……」

黄緑「落ち込まないで下さい。私なんて、私なんて……」

群朱黄緑『(ず〜ん……)』

無「うおわ……何だこの重苦しい雰囲気は」

灰「何とかしたほーがいいんじゃない?」

無「何とかったって……あの〜、御三方?」

群「いいのよ、色無君……私達はもう朽ちるのを待つだけの身なんですもの……」

無「(重傷だこりゃ)何言ってるんですか!? みんなまだまだかわいい『女の子』じゃないですか!?」

朱「お、女の子……?」

無「そうですよ! 朱色さんも群青さんももちろん黄緑だって、他の皆と変わらないんですよ!!」

黄緑「色無さん……」

群「でも、色無君だって年上より同い年の『女の子』の方がいいでしょ……?」

無「年齢なんて関係ありません! ……皆さん、素敵な女性なんですから」

群朱黄緑『色無(さん、君)……』(きゅんっ)

灰(あ〜あ、完全にオチたねこりゃ)


灰「さあさあ次のトリオはどんなかな〜?」

無「もう止めよう……いいかげん疲れてきた」

灰「そんなあなたにぴったりの癒し系の三人。S・A・Aの皆さんです」

白「? 灰ちゃんに呼ばれて来たんだけど、何かな?」

水「あの、えと……」

紫「なーにー?」

無「お前、三人に説明してないのかよ」

灰「ふふふ、この三人には素のリアクションをしてもらった方がいいと思ってね」

無「はあ」

灰「ふふ、さ、三人共、ちょいとこちらへ(ごにょごにょごにょ)」

白水紫『!!!』

無(何吹き込みやがった?)

白「あの、色無君……ごめんね?(ぽふっ)」

水「し、失礼します……(ぽふっ)」

紫「もう、しょうがないなぁ……(ぽふっ)」

無「お? どうした皆寄りかかってきて」

白水紫『……(すりすりすり)』

無「こ、これは……癒される……」

灰「ふふん。これぞS(スモール)・A(アニマルズ)・A(アタック)。どうだね? 色無君」

無「すごく……癒されます……ありがとな、みんな(なでなで)」

白「えへへ♪」

水「……(完全に沈黙)」

紫「んん……撫でるならもっと優しくしてよね……」

灰「さあさ癒された所でもういっちょ行ってみよー」

無(全員分やるんだろうなぁ)

灰「はっきり言ってワンマンチーム? 気にしません! ド(ばたんっ!!)」

薄「しーちゃん助けて!!」

無「うお!? どうした薄黄!?(何でそんなに服乱れてるんですかー!?)」

橙「へっへっへ、もう逃がしまへんで〜」

薄(ぷるぷるぷるぷる)

無「お前、何してんだよ……(めっちゃゴスロリってるー!)」

橙「いやね、前から素材はいいなと思ってたもんで、ここらでいっちょおめかししてあげようと」

無「それで嫌がってるのに服剥ぎ取ろうとしたわけだ」

橙「だってー、もう一人のチームメイト、緑ちゃんはこんなに素直にお着替えさせてくれたのに」

緑「……(ぺらっ)」

無「お前そりゃ読書モードだからだよ(ゴスロリ緑かわいい緑かわいい緑かわいい!!)」

(ひょこ)灰「改めまして、こちらDOLLSの皆さんでーす」

無「他の二人、ただの橙の着せ替え人形じゃねーか!!」

薄「ふええん……」

緑「あら、何かしらこのいい匂い……食べちゃお(ぱくっ!)」

薄「ふえええ!? 食べないで〜!?」

無「こら緑! それは薄黄だ! だめだこいつ、読書モードで無意識に食い付いてやがる!!」

橙「あたしも一口〜♪(ぱくっ♪)」

無「仕事を増やすなー!!」


灰「最後は私、灰ちゃんと空、あとついでに青ちゃん先輩の『平穏な日々』チーム」

青「ちょっと! なんで私はついでなのよ!?」

空「お姉ちゃん……」

無「で、この三人でなーんで『平穏な日々』なんだ……ん?」

青「まったく……今度私が直々に説教してあげようかしら」

灰「えー別にいいじゃーん。減るもんじゃないしー」

空「は、灰ちゃん……! あんまり怒らせると!」

無「この構図は……」

 青→(最近デレが多くなってきた)ツンデレお母さん

 灰→基本的にやる気なしの双子の姉

 空→しっかり者の双子の妹

無「……!(三人まとめてぎゅーっ!)」

青「ちょ、ちょっと! 色無!?」

無「俺達、幸せになろうな……!」

青「なななな!? ちょっ、えぇ!?」

空「ふわぁ……(今日の色無先輩、大胆……)」

灰「……計画通り」


無「なぁ、そういえば十月十日って目の日だったらしいぞ」

灰「へぇー。誰も何も気にしなかったけどねー」

無「そうだなー。目の日っつったって……特になぁ」

灰「ねー」

無「……」

灰「……何? ゲームに集中できないんだけど……」

無「……いや、お前の目ってどんなのかなーって思って」

灰「……あー、死んでしまったー」

無「あ、ごめん」

灰「……ふぅ。ほら、思う存分見なさい。灰色ちゃんの目を。どうよ」

無「垂れ目かと思ってたけど、そうでもないのなー」

灰「まぁ黄緑さんよりはね」

無(じー)

灰(じー)

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無「……」

灰「……ねぇ、色無」

無「あぁ……何も言うな、わかってる。俺もだから」

灰「誰か来てくれないかな……」

無「そうじゃないとマズイな、止まらないかも」

 ガチャッ

黒「……色無! 何やってるのよ!」

無「助かった! 黒、なんとかしてくれ!」

灰「お姉ちゃん! 早く間に入って!」

黒「……ちょっと、何の話?」

無「目が離せなくなった! 先にやめたほうが負けな気がして!」

灰「たとえるなら猫の牽制のように! 動けもしない!」

黒「……一生やってなさいよ……」


灰「本? 読まないよ」

無「えー。世の中では読書週間らしいぞ?」

灰「私はテレビとゲームさえあればそれでいいのさー。あんなこまごまとした文字の集合なんて見てられないよ」

無「お前なぁ……」

灰「その点! ゲームはすごい! なんという爽快感か! まぁソフトによるけどね!」

無「緑が聞いたらなんというか……」

無「……っていうことがあってさー」

緑「……」

無「ゲームばっかやっててもあんなに頭よくなるもんなのか……くそ、不公平だよな」

緑「ちょっと、来て」

無「ん?」

無「図書室?」

緑「たとえばこれ。これも。これもこれもこれも」

無「わ! なんなんだよ? 全然ジャンルバラバラな本だな」

緑「裏。最後のとこ。カードの名前」

無「カード……? へぇー、灰色じゃん……って、え? これも? これも!?」

緑「図書室のはほぼ全部読破してるわ。古代の哲学書から最近のお笑い芸人自伝、スポーツの練習法まで」

無「……すげぇ……」

灰「……ん? 何、色無?」

無「まさかあんなに読んでたなんて……参りました」

灰「ふふん。読んでない本なんてないのだよ。そう……」

無「……?」

灰「キミのベッドの下にある本も——」

無「ごめんなさい! ごめんなさい!」

灰「最近のマイブームはスポーツっ娘なんだって?」

無「ごめんなさい! 本当にごめんなさい! いや、その、なんと言いますかね? やっぱり、あるでしょう?」

灰「何が?」

無「その、女の子がね、純粋にひたむきにスポーツに打ち込んでるとこを見るとね」

灰「どうなるの?」

無「こう……萌え……ではないですけど……引き寄せられるというか……」

灰「……親父くさ……」

無「なっ……!!」

灰「う〜む……まぁいっか。よし。色無。じゃあ私もスポーツやるよ」

無「……え? いや、え?」

灰「ほら! つき合え!」

無「ぐわっ! また負けたー!」

灰「ふふん。必殺技の使いどきを見極められないようじゃまだまだだね」

無「しかしこれ……意外と動きは本物のテニスに近いな」

灰「そうでしょう。よし、いくよ!」

無「ちょ、待て! クッパの必殺はこいつじゃ返せないって!」

灰「死ね死ねぇ!」

 ガチャ

黒「ねぇ、何やってるの?」

灰「!!」

無「! いや、あの、スポーツを……」

黒「来週、中間テストよね? ねぇ、何やってるの? こんな時間に何やってるの? ねぇ?」

無「ご……ごめんなさ……ひぃぃぃ!!」


無「読書週間かぁ」

灰「どくし よ週間」

無「なんだその微妙なアクセントは?」

灰「朱色さんと群青さんの週間」

無「ん?」

灰「どくし ん よ週間」

無(すごくいやな予感が……脱兎の如く)

灰「って、週間が終わっても独身だけどねー」

群「あら? 何の週間なのかしら?」

灰「って色無が言って……っていないし!」

群「ゆっくりお話を聞かせてもらおうかしら?」

灰「イタイイタイ……こめかみは許してー」


男「こういう昔ながらのストーブで餅を焼くのもオツなもんだな」

灰「はふはふ」

男「急いで食べて火傷すんなよッあぢゃぁッ!!」

灰「ばーか。はふはふ、うまうま」

男「あっつー……いや、オマエが平気そうに食べてたからつい。てかオマエなんで平気?」

灰「びろーん。はふはふ」

男「聞いてねぇし」

灰「びろーん。びろーん……おぅ?」

男「いや伸ばしすぎだから」

灰「……ん」

男「ん?……目で訴えるな。そんなポッキーゲームみたいなことしません。てかできないだろ」

灰「むー。もぐもぐ(——幸せって、こういうことかな)


無「ただいま……って、まーたお前は勝手に人の部屋のコタツに入りやがって」

灰「……色無。聞きたいことがあります。このコタツ、温度調整つまみが弱のところで固定されて動かないようになってるのですが」

無「ああ、電気代も馬鹿にならんからな。俺は弱で充分あったかいし、誰かさんが勝手に今日にしないように接着剤で——」

灰「ちょっとそこに正座」

無「……は? お前いきなり何を——」

灰「正座!!」

無「……はい」

灰「色無はコタツの魅力を半減、いや激減させた……この罪万死に値する。しかしこれまでの働きに免じて罪一等を減じ、びんた一発で勘弁してあげよう」

無「何で俺のコタツを俺がいじっただけでお前にびんたされにゃならんのだ! 弁護士を呼べ!」

灰「軍事裁判に弁護士など無用! お上の寛大なる御心を持って、弱・中・強の3種類から選ばせてやろう。どれがいい?」

無「なんて理不尽な……じゃあ弱でお願いします」

灰「却下」

無「選ぶ意味ねーだろ! しょうがねーなあ……中でお願いします。なあ、頼むから洒落ですむ範囲で勘弁してくれよ?」

灰「中でいいんだね?」

無「おう。どんとこい!」

灰「ほんとにちゅうでいいんだね?」

無「あんまりじらすな! ひとおもいにやってくれ! さあ!」

灰「それじゃあ遠慮なく」

無「!!」

無「……お前、今のは……びんたじゃねーだろ……」

灰「ちゅうでいいって言ったじゃーん。あー、けっこうあったかくなるね、これ。これならコタツが弱でもいいかもね」


無「……なあ、寝るなら部屋に戻れよ。背中にもたれられると重いんだが」

灰「別にいいじゃん。色無あったかいし、こうしてると気持ちいいんだもん」

無「まったく……」

灰「あー、色無の心臓の音がする。これって私だけの最高の子守歌なんだよねー」

無「……」

灰「……ねえ、もっとゆっくりにしてくれないと、ハードロックじゃ眠れないよ」

無「無理言うな」


灰「あぁぁ、そんな…予想はしていたがまさか現実に…」

無「灰?えらく顔色が悪いがどうした?」

灰「あ、ありのままに起こった事を話すぜ、3/28と思っていたものがいつのまにか7/11になっていた」

無「何の話だ?」

灰「ド○クエ9の発売が延期になった……」

無「あ、何だ」

灰「何だとは失礼な。春休みの予定が丸つぶれなのだよ」

無「これまた1ヶ月も先の話じゃねーか」

灰「わかってないな色無は。発売日から72時間以内にクリアする醍醐味」

無「って3日で終わるのかよ!」

灰「その後最初からやり直したりレアアイテム探したり」

無「終わったあとにまた最初からするのか?」

灰「こうすることで2週間は楽しめる」

無「春休み全部使うつもりだったのか?」

灰「当然。春休みは宿題もないし」

無「あってもどうせやらないくせに」

灰「……あー春休みがヒマになっちゃったなー」

無「棒読みで言われても」

灰(じーっ)

無「上目遣いで見るな」

灰(ウルウル)

無「わ、わかったよ……春休みは一緒にどっか行こう、な?」

灰「わーい色無ありがとー大好きだよー」

無「だから冗談でもそういうのはやめろって」

灰(……さすが色無、鈍感にもほどがある)

無「ま、でも、春休みといわずに今から出かけるか?」

灰「え?」

無「気分転換位にはなるし、あ、俺とじゃダメか?」

灰「……着替えてくる(なんでこういう時にフラグ立てるかなぁ……)」


無「ただいま〜」

灰「おかえり〜。お腹空いたから何か作って〜」

無「おいおい、俺いま仕事から帰ってきたばっかりなんだけど」

灰「別に嫌ならいいよ。こないだ作った薬飲めばいいんだし」

無「そんなもの飲むなよ。わかったよ、俺が作ればいいんだろ?」

灰「最近、血の巡りが良くなってきたようだね」

無「また妙なもん飲まされちゃたまらないからな」

灰「ぐずぐず言わずにさっさと作る!」

無「ほれ、オムレイスとアスパラベーコン出来たぞ!」

灰「それじゃ、あ〜ん!」

無「おいおい…… ま、いっか。それじゃ大きく口を開けてろよ」

灰「あ〜ん。モグモグ」(最後に『正義』は勝つんだよね)


 昼下がりの商店街。少し遅めの昼飯を買い、帰ろうとしていたところで、

「あ、色無」

 ばったり、なんて擬音がしっくり来るような感じで灰色と会った。

 聞けば、昼前から出かけて昼食を済まし、今から買い物に行くところだったらしい。

「……莫迦な」

 思わず、呟いた。

「どったの?」

 不思議そうにこちらを覗き込んでくるその顔は、やっぱり灰色で。

「灰色が、外食……? その上これから買い物だと? そんな莫迦な!」

「……しつれーなこと言うねキミ」

「こんなの灰色じゃない……」

「人の話聞け」

「ああ灰色、しっかりしろ! 夏だからって二週間部屋に篭りっぱなしだったあの日の君を思い出すんだ!」

「こんのおおばか色無ーーーー!!」

「……痛い」

「自業自得だ、莫迦っ」

 あれから怒った灰色に顔面を思い切り引っかかれた。痛い。

 しかもお店回りにつき合わされた。だるい。

 その上荷物持ちまでやらされた。重い。

「で? ちなみに昼はどこで食べたんだ」

「……マック」

 答えた灰色はしかめっ面。なんか嫌な事でもあったのだろうか。

「えと、実は——」

『いらっしゃいませ。ご注文は?』

『チーズバーガー。チーズ抜きで。あと、水ください』

『はい、ハンバーガーがお一つですね。こちらでお召し上がりですか?』

『あ、はい』

『お会計100円になります』

『ん? ひ、ひゃくえん!?』

「——ということがありまして」

「なるほど、ハンバーガーが値上がりしてた、と」

「そうなんだよ。それも20円だよ!? 100円マックなんて冗談じゃない! チーズバーガーと同価格なんて、どう考えてもチーズの分損してるじゃん! きっと店員も『うはwwwこいつうめぇwwwww』とか思ってたに違いないよ!」

「じゃあチーズ抜きなんて言わなきゃよかったものを」

「だって、支払いのとき始めて値上がりしてるのに気付いたんだもん……」

「んじゃ注文止めればよかったのに」

「なんか恥ずかしいじゃん、それ」

「さすがは温室育ちだな。俺だったら20円は見過ごさない」

「チミのプライドは20円以下か。てか温室は白のキャラでしょ」

「ふ、世間の荒波をくぐり抜けてきた俺に言わせれば、お前なぞ深窓の令嬢同然ですよ」

「む。私だって、日がな毎日お姉ちゃんの憤怒と失望とその他色々の含蓄ある針のような鋭利な眼差しを受けて、たくましく育ってきたんですよ?」

「イヤもうお前、黒の視線なんぞ意に介しちゃいないじゃん」

「うん、慣れた」

「……ごめん、俺が間違ってた。お前タフだわ」

「——とかなんとか言ってる間に、気付いたらチーズバーガーがさらに二十円値上がりしていた訳だけど」

 また久しぶりに外出している灰色と出会ったので、昼を一緒する事になったのだが。

 再び灰色がメニューにいちゃもん付け出した。

「よかったじゃん、普通のハンバーガーとチーズバーガーの差別化が図られて」

 石油とかなんとか高騰の折だし、しゃあないと言えばそれまでだろう。

「よっくなーい! 値上げ、それは悪!」

「まあ言いたいことは分かるが、お前の発言の説得力は限りなくゼロに近付いてるぞ。それはたったひとつのシンプルな理由だ。『てめーはおれに奢らせた』」

 というか、よりにもよって店の中で悪口言うなよ。

「ジョジョっぽい文句は間に合ってます。あ、フルーリーおかわり」

「ここでフルーリーに走るお前の神経の図太さに感動した」

 おれならマックポークでも遠慮するぞ。

「うまうま〜」

「……いや、もういい。好きなだけ食べてください」

 まあ、結局は惚れた弱みというやつなのだろう。あー、今日も財布が寒い。


『あるつゆのひ』

「ねー、いろなしー」

 相変わらずの雨の中、買い物を終え一息つこうと寮の自室の扉を開けると、気の抜けた声が耳に届いた。

「……はー」

「なによ、その『まぁ、なんてかわいらしい娘なんでしょう』的態度は」

「可愛いとか自分でいうかね、この自堕落娘は」

「んー、平均よりはちょっとくらい上でしょ?」

「あー、はいはい。かわいい、かわいい」

「……」

「で、そのかわいい娘さんはどうして、俺の部屋の俺のベッドに寝っ転がってゲームしてるんだよ」

「これ? ワゴンで安売りしてたから買ってみた」

「面白いのか?」

「ストーリーより友達の反応が面白い……ある意味」

 何でも、主人公が時間に干渉して人を助けるゲームらしいんだが、主人公が罠にはめられて窮地に陥ると、主人公に憧れてた後輩やら、小さい頃から一緒だった幼なじみ達やらに一斉に見離される展開があるらしい。

「はくじょー、だよね。もうちょっと信じてあげればいいのにさー」

 そう話す灰の横、ベッドに腰掛けるとそっと頭を撫でた。

「な、なにするのよ」

「その主人公に同情して涙目になるとか、確かに可愛いなお前」

「な、泣いてない……ちょっと恐かっただけだもん」

「はいはい」

 いきなり起き上がった灰が背中に抱きつくと、少しの間そのまま顔をうずめた。

「ふー、やっぱり泣き鬱展開には色無の背中よねー」

「灰、人の背中で涙拭くなよ。つーかやっぱり泣いてたんだろお前」

「いいじゃん、広いんだしさ」

「……」

「……」

「そういえば黒が探してたぞ」

「あ、買い物頼まれてたんだった」

「早く行かないと怒られるんじゃないのか?」

「現物は確保済みだから大丈夫」

「それならさっさと行ってこい」

「そーだね、『行って来る』よ」

 駆けていく足音に、

「ドアぐらい閉めていけ」

 と怒鳴りながら、行って『来る』つもりな灰の分もコーヒーを淹れることにして、買ってきた豆を早速挽くことにした。

「最初の内気加減からすれば相当な進歩だよな、アレは。いや進歩のし過ぎか」

 初めて会った時、黒の後ろに隠れるようにしていた姿を想い出しながら、サイフォンのアルコールランプに火を入れた。


『あるはれたあさ』

「晴れたよー」

 まどろみをかき消す突然の衝撃は、いつもと変わらない調子の声と共にやってきた。

「ぐっ!!」

「どうしたの? つぶれたカエルみたいな声出して」

「……寝てるときにいきなり飛び乗られたら普通声くらい出る」

「灰ちゃん、やっぱりやめた方が良かったんじゃ……」

「女の子二人分くらい軽く耐えなさいよね」

「……って、水も一緒か」

「という訳なので、コーヒーを飲ませろー」

「あ、あの。灰ちゃんが色無君はこうしないと起きないって……それで」

「……わかったからとりあえずよけてくれ、コーヒーの準備もできん」

「仕方ないなー、よけてあげるよ」

「あ、あの……よろしくお願いします」

 豆を挽き、サイフォンをセットする後ろで、灰と水が今日の予定を話し合っていた。

「幸運な色無さんにすてきなお知らせです」

「お前が俺をさん付けする時は、大抵ろくな事にならないんだが」

「なんと両手に花で街中デート、やったねこの色男」

「あ、あの、寮で足りないものがたくさん出てきて、みんなで手分けして買いに行こうって」

「荷物持ちね、了解。豆も尽きかけてたし、ちょうどいいか」

「決まりね、ほらトースト焼いて来るから食べたらすぐ出るよー」

 そう言って食堂に駆けていく灰。

「いつもは動きたがらないのに、どういう風の吹き回しだよ」

 と思わず口に出すと、水が、

「買い物担当の内容をくじ引きで決めることになりかけたんだけど……灰ちゃんが重い物担当に立候補したの。黒ちゃんとかすごくびっくりして……菜園用の肥料に詳しいからって私を引っ張ってきて、ここに一直線で来たんです」

 と教えてくれた。

「寮の事に熱心なのはいいことか」

「そ、そうですね」

「ただいまー、ほら、コーヒーも出来たしすぐ行くよー」

「朝食くらいゆっくり食わせろ」

「せっかくの貴重な晴れを有効に使わないと損だもん」

「灰ちゃん、お店開くまでまだ少し時間あるし大丈夫だよ」

「むー、わかった。でも今日は一日付き合ってもらうからね」

「はいはい、それじゃあ——」

 一日分の買い物を午前中で終わらせたら好きな所に連れて行くと言ったら、灰と水が本気を出して本当に終わらせてしまい、昼からあちこち引きずり回されたのはまた別な話。


灰「やっと逢えた……もうあなたを離さないっ!」

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無「おいおい、そんな抱きしめてたら腹壊すぞ。少しは離れて風に当たれって」

灰「いいの。私、このヒトにだったらどれだけ冷たくされても悦べるから……っ!」

無「変なスイッチ入れて頭トバすなよ。ちょっと、黒からも何か言ってくれよ」

黒「灰、それは寮生共有の扇風機よ。独り占めしてないで、首振りさせてこっちにも風がくるようにしなさい」

無「暑さで余裕なくなってるな、黒も! ったく、明日になって苦しんでも知らないからな」

灰「っくぁ……! このお腹の痛み……これが、これが陣痛……っ!?」

無「ただの腹の冷やしすぎの腹痛だ、それは。ほら、朱色さんから腹痛止めの薬もらってきたから飲みな」

黒「夏の風物詩ね、これも。灰が扇風機の当たりすぎでお腹壊すと、夏が来たって気がするわね、やっぱり」

無「分かってて止めないのは家族故の無遠慮なのか愛なのか、どっちだよ!?」

黒「ふふ、そんなの決まってるじゃないの。分かりきったことを聞きたいの?」

無「い、いや。俺、それ聞いたら後悔しそうだからやめとこうかなぁ。ははは」

灰「愛が、愛が足りない……!」

黒・無「なら自爆するのやめなさい!」


無「灰〜、黒が呼んでるぞ……って、まーたお前は、たいして暑くもない朝っぱらからクーラーがんがんに効かせた中でゲームしやがって」

灰「夏にクーラー使わないのは文明に対する冒涜だよ」

無「はいはい。今日は珍しくDSじゃないのか。てっきりドラクエやってるもんだと思ってたが……ん? これもドラクエか? にしてもずいぶん画像が荒いな」

灰「9はこのあいだ、緑ちゃんが某イベントに持ってってくれたおかげでスレ違い1000人も達成したし、ちょっとお休み。これは5だよ」

無「5? 5なら俺もやったことあるけど、もっときれいだった気が——って、これスーファミ版かよ!?」

灰「ドラクエに限らず、リメイク版はすべて邪道だよ。限られた性能しかない旧世代のコンシューマー機で最善を尽くしたスタッフに敬意を表さないとね」

無「まだ動くスーファミなんて存在したのか……つーかお前、これ発売されたときはぎりぎり生まれてたかどうかってとこだろ」

灰「名作は時を越えるのだよ」

無「いや、そんなふんぞり返られても全然言葉に重みとかないから。……あれ、勇者の名前がいつもと違うな」

灰「へ!? あ、あー、そうだっけ? なんか思いつかなかったからお姉ちゃんの名前にしただけなんだけど」

無「だっていつもは……なんだ、その……俺が言うのもなんか照れるけど、『いろなし』ってつけてただろ」

灰「な、なにそれ? 確かに何回かつけた覚えもあるけど、別にいつもってわけじゃないし……自意識過剰なんじゃないの?」

無「はあ? いや、絶対つけてただろ! お前、俺が嫌がるのを見ながら喜んでつけてたじゃないか。絶対間違いない!

灰「……まあ、別にいいじゃん。たまには他の名前にしたくなることもあるんだよ。それとも、何? ほんとは自分の名前つけて欲しかったとか?」

無「いや……そういうわけじゃないけど。ただ、どういう心境の変化なのかと思っただけだ」

灰「……心境の変化とか、そう言うのとは違うんだけど……」

無「けど?」

灰「……だって色無が他の女と結婚するなんて嫌だしさぁ………他のシリーズなら問答無用で『いろなし』にするんだけどさ。……あ! お、お姉ちゃんが呼んでるんだったっけ? ちょっと行ってくるね!」

無「……いきなりそういうこと言うのは反則だろ……」


無「もう十月か……夏休みが終わってからもう一ヶ月」

灰「……(ピコピコ)」

無「それなのに灰は俺の部屋でよく遊ぶけど……大丈夫なのか?」

灰「何がー?」

無「もうそろそろ試験があるぞ?」

灰「大丈夫大丈夫。一夜漬けでどうにか」

無「それでどうにかできるのがまた灰らしいというか……」

灰「色無こそ、試験大丈夫なの?」

無「俺はある程度勉強して、後は神頼みだ」

灰「……」

無「どうした?」

灰「色無……十月の旧暦って知ってる?」

無「?」

灰「『神無月』。つまり神様頼りは通じない」

無「……」

灰「……」

無「黒、勉強を教えてくれないか? この通りっ!」

黒「(灰が色無のところに居たことを叱ろうとしてたけど……考えたわね)えぇ、いいわよ」

灰「……色無のベッド気持ちいい」


黄「うー、寒いー」

薄「黄ちゃん、寒いからって毛布にくるまるのは……」

黄「だってー。こんなにも寒くなるなんて思わなかったんだよねー」

薄「もう……黄緑ちゃんが暖房器具を探してますから、毛布から、ね?」

黄「うー……あ、ほら、色無も毛布にくるまって……」

薄「え、色無君……?」

無「……」

灰「さむいねー、色無」

無「……俺は背中にしがみつかれて暑い上に重いんだけど」

灰「いいじゃん、寒くないんだから。それとも、姉様に——」

無「だぁぁぁぁっ! 分かった、分かったから言うな!」

灰「最初からそう言えばいいのに。あ、次はお風呂に入りに行きたいな〜」

無「……覚えてろ、灰」

灰「ん〜、それは色無が私の感触を覚えててくれるってことだよね」

黄「……」

薄「灰ちゃんらしいですね」

黄「うらやましいと思えるのはなんでだろう……」

薄「え?」


 サインシータがどうたらこうたら。タンジェントでなんやらかんやら。はあ、宿題が終わらない。もうさっぱりわからん。俺の頭が悪いせいもある、っつーかそれがほとんどなんだろうが、今の状況ではどうしても責任を転嫁してやりたい奴がいる。

 ない頭にムチ入れてまじめに数学に取り組む俺の隣で、独りキャッキャと格ゲーやってるお気楽道楽自堕落放蕩気まぐれグータラの、灰とかいう小憎らしいこいつに。

「色無〜、まだ宿題やってんの? そんなのさっさと片付けて、2人で対戦しよーよー」

「……俺の宿題がなかなか片付かないのは、たぶんお前が隣でゲームやってて気が散ってるせいなんだけどな」

「あー、あたしのせいにするー。だからあきらめなって言ったじゃんか。灰ちゃんがゲームやりに来るまでに宿題やっとかなかったチミが悪いんじゃないのかね、ん?」

 いかにも不当な言いがかりだと言いたげに唇をツンと尖らせながら、灰はイヤミな課長のような口調で言う。確かに、場合によってはじゅうぶんまっとうな言い草なんだが、

「それってさ、『いついつにゲームしに行くね』みたいにちゃんと予告した奴がする主張だよな」

 こいつの場合はただの屁理屈だ。

「ふふ〜ん、あたし、時間って物の実在を信じてないからさ、そんなものにがっちり囚われて生活するのやなんだよね。だからあたしは、『何時に』とか、『何時までに』とか、『何時から』とかそういう約束しないってポリシー持って生きてるんだ。……なーんて、どう? ちょっとかっこよくない?」

「……ああ、そうだな。かわいそうな奴も突き抜けるとかっこよくなることに気づかせてくれたよお前は」

 『自分は時間にルーズなので、そもそも時間を指定した約束をしない』ってだけのことを、『時間は実在するのか』っていう哲学の命題を目くらましに、ちょっと高尚にしてみたつもりらしい。

 ほんと、グータラな奴ってのはとことんグータラであることに一生懸命だったりするよな。まあなんであれ、自分が胸を張れるポリシーがあるってのは素敵なことだと思うよ。社会が許すかは別として。

「んね〜色無〜。もうあきらめなされ宿題。対戦しよー対戦。あたしだいぶ練習できたから、今日こそ色無に勝てる気がするんだ」

「嫌。俺はまじめな高校生なんだ。宿題はちゃんとやる。それが俺のポリシーだ」

「そんなポリシー捨てちゃいな。大丈夫、宿題やんなくたって死んだりしないし。自慢じゃないけど、あたし今まで宿題ちゃんとやってったことなんかないよ」

 自慢じゃないけど、とか言いながら、めちゃくちゃ自慢げな顔しつつ平たい胸をしっかり反らしてますけども。いやいや、それほんとに自慢じゃないってわかってるか? 誰も褒めてくれないからな。

「……さっきのお前のポリシーこそ、今すぐ捨てるべきものだと思うんだけどな」

「ったくもう。グダグダ言ってないでさー。……チッ、しかたない。こんな手は使いたくなかったんだけど……灰ちゃんを本気にさせちゃった色無が悪いんだからね」

 普段より少し低い声でそう言いながら、灰は女の子座りの姿勢からゆらゆらと立ち上がり、通信教育でありそうな中国拳法っぽい構えを取った。

 瞬間、なぜか俺の体を駆け巡る寒気。常時眠たそうに見える灰の目が、クワッ、という擬音がぴったりな具合に見開かれている。

 そこから先のことは、よくわからなかった。一瞬目の前が真っ白になったかと思いきや、次の瞬間には、俺の脚にかかる重力がやけに増していた。

「な、灰、お前いつの間にひざの上に? 今俺に何をしたんだ?」

「ふふーん。可愛い女の子だけが習得できるという幻の体術を使ってちょ〜っとね。ってほらほら、あたしがここにいるんじゃもう宿題なんてできないでしょーが。さあさあ、潔くあきらめたまえ。あきらめるまでここをどかぬぞ」

 気まぐれな飼い猫がデレタイムに入った時みたいに、俺の膝を武力占領して居座る灰。

 とりあえず可愛い女の子どうこうの怪しい拳法については、俺には絶対習得不可能なので興味がないってことで、一切つっこまないことにする。

 同い年なのに小学生にしか見えない同級生ほどじゃないが、こいつも結構チビ助。でもそんなミニマム娘とは言え、膝に乗られて長時間耐えられるほど俺の体も精神も頑丈にできてはおらず。

 かといって、憎らしいとは言え女の子、無理矢理ひっぺがすなんてのはさすがに外道なわけで。俺に残された道は結局これしかなかった。

「はあああ……わかりました。もうあきらめます」

「ありゃ、もう降参かー。さっすが色無、甘えられるととことん弱いよねぇ。フヒヒヒ」

「なんかの聞き間違いかな。甘えられたっていう記憶がないんだが。お前は今甘えてるつもりなのか」 

「あ、ひどい。色無さんたらひどい。ウブで純情な灰ちゃんにとっては、男性のひざに座るなんてこと、とっても勇気がいることなんだから——」

「あっそ、早くどけ。重い。チビのくせに重い。あー足がしびれてき——ごふぅっ!?」

 ……フッ、このチビいいヘッドバット持ってやがるぜ……。漫画ならばっちり星が5個は飛んでるところだぞ。

「ふはは、痛かろう? あたしのボケをスルーした上、チビとか重いとか失礼なこと言った罰ね……って、痛つつ、頭突きって自分も結構痛いんだよね〜……はっ、いかんいかん、時間を無駄にしてしまう。さてじゃあ色無や、対戦じゃ対戦じゃ」

 そう言って灰は、ようやく俺の膝上を明け渡した。宿題をあきらめた手前、もうつき合ってやらんわけにもいかない。

「ふっふっふ、さっきも言ったけど、今日はあたしかなり自信あるんだ〜。だからさ、なんか賭けよーよ」

「……そりゃまた都合のよろしいことで」

「お? なにかね? 色無はあたしに勝つ自信がないのかね? 勝負する前からヘタレ宣言かな、ん?」

「……何賭ける?」

「ぷふっ、さっすが色無、挑発にもとことん弱いよねぇ。ニシシシ」

 ……マジで憎たらしいわーこいつ。発言だけならともかく、心底軽蔑したような目つきと唇の片端だけ吊り上げた薄笑いをコンボさせてくるからな。イラッとさせられる度が12割増しくらいになる。

「ふむ、じゃあねぇ……あたしが勝ったら、『完敗だ、よくがんばったな灰』って言いながら、あたしの頭撫で撫で」

「……俺が勝ったら?」

「その時は、『惜しかったな、でも強くなってるぞ灰』って言いながら、あたしの頭撫で撫でする権利プレゼント」

 これ、おかしいよね。おかしいと思わね? 結局頭撫で撫でらしいよ? 

 でもま、それでさっさとゲームタイムが終われるならそれでいいかな。宿題再開できるチャンスが早まるならば。

「おっけ。勝負一回きりでいいな」

「お、いいねぇその心意気。男なら一本勝負ってわけだね。よしよし、それじゃやろっか。あ、色無は当然、キャラ選はランダムね。あたしはサガットで」

 

「完敗だ、よくがんばったな灰。クソッ」

 あっさり負けました。悔しいけどほんとに完敗です。

 言い訳をさせてくれ。俺はこのゲームしばらくやってなかったんだ。それと、キャラの相性が悪すぎたんだ。そうでなきゃあんなひどい負け方するわけが……ぐすっ……

 で今、敗北の涙と恥辱にまみれた撫で撫でタイム。

「でへ、でへへへへ……」

「やべぇまったくかわいくねぇ……そこはさ、ちょっとはにかみつつ『え、えへへ〜。あ、ありがと』とか言うとこなんじゃないのか」

「いや〜なんかそういうキャラじゃありやせんからあたし。さて、悔しいだろ色無。悔しいよな。じゃあもう一勝負しよーよ」

「嫌。宿題やる……って、ん?」

 灰の頭を適当にぐりぐりと撫でまわしてた俺は、その一部分がぷっくりと腫れあがってることに気づいた。これ、さっきの頭突きの名残だな。

「さっきの頭突き、お前も相当痛かったんじゃないか? なんかここ腫れてるぞ」

「へ? あ、あちゃちゃバレちゃった? 実は今もちょっとジンジンしてるんだよね〜。頭の固さには自信あったのにさ」

「へっ、アホだなお前は。やせ我慢なんかして」

 効果があるのかはわからん、っつーかむしろ逆効果な気もするけど、俺に痛みを与えるつもりで逆に痛みを被ってる灰の頭が少し不憫に感じて、俺はそっと撫でてやった。

「アホすぎてかわいそうだから、もうちょっと撫でてやるからな。そーれ痛いの痛いの、灰の脳みそにトンデケー」

「ちょ、脳みそイタい子にする気か! ……でもま、いっか、これでも……えへ、えへへへ〜」







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 05:14:03