白メインSS

白「スースー」

無「どこに行ったのかと思ったら」

白「ん……」

無「お前が寝てるときにだから言うけどな、白。俺まだ不安なんだ」

白「……」

無「もし白が病気なんかしていなくて、いろんな人と出会っていたら……俺なんか選ばなかったんじゃないかって。俺よりいい人をみつけていたんじゃないかって。もっと幸せになっ──」

白「色無君のばーか」

無「ッ!?」

白「私は色無君だったからこそ好きになったんだよ」

無「……」

白「今度さっきみたいなこと言ったら、許さないからね」

無「あ、ああ分かったよ」

白「うん!~そうだ、色無君もお昼寝しない? 暖かくて気持ちいいよ」

無「んーじゃお言葉に甘えて。お隣失礼するよ」

白「どうぞどうぞ!」


久しぶりに取れた休み、外は小雨で出かけるのは若干躊躇われる。

本来なら家でゆっくりと休むか何かしているのだがな。

結婚してから益々元気になった我が愛する妻はそんなことはお構いなしのようだ。

白「ねぇねぇ、もう紫陽花が咲いてるよ。キレーだね」

無「ここは毎年他より早く咲くんだよ。今年は白い花が咲いたみたいだな」

白「毎年花の色が違うの?」

無「そうだな。紫色とか青色のもあるな。黄色もあったぞ」

白「へー不思議だね」

無「……白、ちゃんと傘はさしてくれ。風邪ひくぞ」

白「大丈夫だよ。小雨だし、そんなに濡れないよ」

無「そんなこと言って前も体調崩したろ!」

白「はーい……あれ、雨止んでるよ?~太陽さんも出てきてるし」

無「ん?~おお、本当だ。いつの間に」

白「じゃもう傘ささなくてもいいよね。あ、空見て!」

無「虹か、大きくて綺麗だな」

白「雨の日に出かけるのもたまにはいいよね」

無「……本当にたまにだぞ」

白「分かってますよー」

無「そろそろ帰ろうか。途中で夕飯の材料でも買っていくか」

白「うん!」


 風邪を、引きました。

 生まれつき体が強くない私にとっては、まあよくある事なのですが。

 今日はちょっと特別で。

 あの人が、看病に来てくれました。

『白いこいびと』

 夕日で染まる赤い世界の中、一人廊下を歩いていた。

 手には水と薬の乗ったお盆。行き先は……もう目の前。

 部屋を間違えていないか少々不安だったが、

「白、入っていいか?」

 木製のドアを軽く叩き、声を上げた。

『どうぞ』

 壁一枚隔ててくぐもった声。少し安堵を覚えつつ、ドアを開けた。

 ドアの向こうの世界も赤く、故にベッドに背を預ける白と紅との美麗なコントラストに、覚えず息を呑んでいた。

「あ、お薬持ってきてくれたんですね」

 初めは少し驚いた様だった白も、お盆を見て納得したように微笑む。

「ああ、ちょうど皆出掛けてて。まずかったかな」

 その笑みにどこか気恥ずかしくなって、そんなことを口にしていた。

 すると白は慌てて首を振り、

「そんなことないですよ。んー、むしろ僥倖、かな」

 明るい声で答えてくれた。社交辞令のようなものと分かってはいても、やはり嬉しくなる。

 とりあえずお盆を差し出すと、

「あ、それ、机に置いといてください。後で飲みますから」

 今飲んでしまったほうが早いと思ったのだが、とりあえず脇の机にお盆を置く。

 俺が不思議な顔をしているのに気がついたのか、白は、

「お薬飲んだら、色無くんが帰っちゃいますから。だからもうちょっと後で、です」

 あははと笑って、そう言った。

「——っ」

 なんて不意打ち。他意がないことは分かっているのに、顔が紅潮してしまう。

「えーと……そゆこと……です」

 こっちの反応に言った方も恥ずかしくなったのか、白も目を逸らす。

 少しの静寂。でも気まずいものじゃなくて。ずっと味わっていたいような、そんな時間。

 やがて、どちらともなく笑いが零れ、それからは会話が止まることなく続いた。

 他愛ない話が一段落したところで時計を見ると、はや一時間。

 少し元気が戻っているとはいえ、白がまだ全快ではないのも確かだ。

「白、そろそろ薬飲んで夕飯までもう一眠りしといたほうがいいんじゃないか?」

 そう切り出すと、白は少し不満そうに頬を膨らませたが、すぐに諦めて、

「……はぁい」

 優等生な返事をして薬を手に取った。

「色無くん」

 そろそろ席を立とうかな、と思っていると、白が口を開いた。

「わざわざ、ありがとう」

 なにを突然改まって、と口から出そうになったのを、慌てて抑える。

「どういたしまして。俺にできることなら何でも我が侭言ってくれ」

 こちらも律儀にそう返した。親しき仲にも、とはよく言うが、これが白なりの流儀なのだろう。

「……じゃあ、一つお願いしちゃおうかな」

 こちらとしては定型句のように何も考えず言った文句だったのだが、当の白は、いいこと考えた、という顔でそう返してきた。

 できることなら、という気持ちに偽りはないので、快く引き受けてやる旨を伝えると、

「それじゃ、もうちょっとこっちに来てください」

 ちょいちょいと手招き。黙って近づく俺。

 刹那。

「——!」

 互いの唇が、軽く触れ合った。

「……え、えええええええ!?」

 訳も分からず頓狂な声を上げる俺。我が事ながら至極情けない。

「薬よりもこっちの方が効きそうですから。うつせば治る、って言いますし」

 軽く舌を出して、えへへ、と笑う白は対照的に至って落ち着いて———

「あ、色無くんが風邪引いたら私がその、看病しますから心配しないでください。そ、それじゃおやすみなさいっ」

 もなかった。早口で捲し立て、布団に顔まで潜ってしまう。その顔が真っ赤だったのも勿論見逃さなかった。

「——ああ、もう」

 俺はといえば、あまりの出来事にどうしていいか分からず、しばしその場に立ち尽くしていた。

——取り敢えず、この顔を何とかしてから部屋を出よう。

 そんな事を、考えつつ。

 翌朝から俺が白に看病してもらうことになるのは、また別の話。


「はぁ……」

最近お風呂場で自分の身体を見てみるのが日課になってます。

別にお肉がついてきたなぁ、とかじゃありませんよ?

実はですね。この前色無君のお部屋を掃除していたら、見つけちゃったんです。

健全な男子なら持っているだろうアノ本を……

「う〜ん、あの本にはもっと胸の大きい女の人が……」

色無君も~ボンッ~キュ~ボンッ~みたいなのが嬉しいんでしょうか?

改めて自分のを触ってみます。 

       フニフニ

「少し……小さいかな?」

やっぱり色無君の奥さんとして、理想の女性になりたいです。

       フニフニ

「よし、決めた!」

すべては色無君に喜んでもらうために!

「色無君ッ!」

「し、白? どうした、なんか殺気立ってるけど……」

「私、ナイスバディになるよ!」

「は?」

「だって色無君って胸の大きい女の人が好みなんでしょ?」

「いや、そんなことは──」

「この本の人たちはみんな大きいよ?」

「そ、それは俺の秘蔵本?! 保管しておいたはずなのに!」

「やっぱり色無君は……」

「ちがーう! この本が偶然そういうのだっただけ! 胸が大きけりゃいいって言うのじゃないの!」

「本当? 私じゃ物足りないな、とか思ったりしてない?」

「ないない、俺はありのままの白がいいと思ってるよ」

「……そ、そうなんだ」

「しかし、どうしてあんなこと言い出したんだ?」

「私って元々発育悪いし、それに……色無君にふさわしい奥さんになりたいなって」

「俺にしてみればすでに最高の奥さんなんだけど。優しいし、掃除は上手いし、料理も美味いしで」

「え、その……あう……」

当初の目的は果たせなかったけど、色無君に褒めてもらったのでとても幸せでした。


無「最近なんか疲れがたまってきたな……」

白「色無君、はいお茶だよ」

無「サンキュー」

白「本当にお疲れって感じだね」

無「ま、仕事は楽じゃないということだな。群青さんがいるから随分楽なんだと思うんだけど」

白「私が肩揉みしてあげようか?」

無「そうだな、ちょっとお願いしようかな」

白「うん、じゃあいくよ」

無「おう……お、上手だな白」

白「小さいころお父さんによくしてあげてたんだ」

無「へぇ、お父さんも幸せだったろうな。可愛い娘に肩揉んでもらえるとは」

白「か、可愛いって」

無「はは、俺もいつか子供に肩揉んでもらえるのかね」

白「そうだね……」

無「白、もういいよ。だいぶ楽になったよ、ありがと」

白「どういたしまして。さ、晩御飯の支度しなくちゃ」

無「あ、手伝うよ白」

白「ありがとう、色無くん」


『ともだち?』
白「色無くん、ごめんなさい」

無「いいってこれくらい。白はもっと頼ってくれても良いくらいだよ」

白「……ありがとう」

無「でも本当に軽いよな白は、階段から落ちてきたのを受け止めたのに逆にびっくりした」

白「少し暑い日が続いたらすぐこうなっちゃうの。でも受け止めてくれてありがとう」

無「だからこれくらい当然だって……友達なんだから」

白「友達……」

無「だから今度少し涼しい日にでもみんなで遊びに行こうぜ」

白「じゃあプールがいいな、黒ちゃんと一緒に選んだ新しい水着も着てみたいし」

無「ああ、楽しみにしとくよ」

白「私だってちゃんと恋人に……」

無「なんか言ったか、白?」

白「ううん、プール楽しみだなって」


『突然の雨』

ザアアアア……

白「どうしよっか?~色無くん」

無「とりあえず雨止みを待つしかないかな」

白「そうだね……」

無「それにしても、さっきまであんなに人いたのに」

白「皆慌ててどこに行っちゃったね」

無「ま、濡れるのは嫌だし。俺たちと同じように雨宿りしてるんだろ」

白「さっきまで騒がしかったのに急に静かになっちゃった」

無「そうだな」

白「二人っきりみたいだね」

無「……」

白「……」

無「……」

白「んっ」

無「……白」

?「二人ともここにいたのね」

白「きゃ」

無「うおっ」

白「く、くくく黒ちゃん?!」

無「どどうして、っていうかいいいつからそこに?!」

黒「あなたたち傘忘れて行ったでしょう?~迎えに来たの。ちなみにさっきからいたわ」

無「そ、そっか。ありがとな、黒」

白「う、うん。じゃ帰ろうか。黒ちゃん、色無くん」

黒「待ちなさい、二人とも」

白無「え?」

黒「キスとかそういうものは人の目がないようなところでしなさい。大体……クドクドクドクド」

白無「……ごめんなさい」


無「おーす、見舞いに来たぞー。調子はどうだ?」

白「あ、色無くん、いらっしゃい。今日は検査入院だもん、どこも悪くないよ。退屈で仕方ないから、早く寮に帰りたいな」

無「そっか。まあ明日までの辛抱だな。それにしても……なんか珍しいもんがあるな。白ってそんなギャル系の雑誌とか読むんだ。ちょっと意外」

白「ち、違うよ! これは昨日橙ちゃんが置いてったんだよ。『おもしろいから暇つぶしにどうぞ』って……」

無「ああ、橙のか……ちょっとびっくりしたよ。白が橙みたいに派手に着飾ったら黒が卒倒しそうだよな。あー、でもちょっと見てみたいかも。意外と似合うんじゃないか?」

白「そ、そうかな、えへへ……あ、そうだ! ねえねえ色無くん、この本におもしろい心理テストが載ってたんだけど、やってみない?」

無「心理テスト? まあいいけど、それで何が分かるんだ?」

白「それはないしょ〜。じゃあ私が質問するから、色無くんが答えてね。第一問。『知らない女の子が困ってたら助けてあげますか?』」

無「また漠然としてるなあ……そうだな、何ができるか分かんないけど、とりあえず助けようとはするかな」

白「第二問。『新しいことに挑戦するのが好きですか? 現状を維持する方が好きですか?』」

無「これも難しいな。でもまあ、いろいろやってみた方が楽しそうだし、新しいことに挑戦する方が好きかな」

白「第三問——」

橙「白ー、みんなで遊びに来たよー。昨日の雑誌、どうだった……って白が泣いてる!? 何したのさ、色無!」

無「ち、違う、なんもやってねーって! お前が持ってきたっていう雑誌の心理テストやってたらいきなり泣き出して……」

黄「どしたの、白?」

白「ぐす……色無くん……浮気度98%って……『天性のジゴロ。放っておいたら貴女もハーレムの一員に』って……」

橙「あー、『簡単に分かる彼氏の浮気度テスト』やったんだ。よしよし、しょうがないよ白。だって色無だもん」

桃「そうだよ白ちゃん。もう色無くんはそういう男の子なんだって諦めないと」

緑「何を今さらって気がするけどね」

黒「白を泣かせるなんて……色無、このろくでなし!」

無「……え? 何で俺が悪いみたいな流れになってんの?」


 雨にはあんまりいい思い出がなかった。

白「あーめあーめふーれふーれ かあさんがー」

 すぐに体を壊すから、ってお医者様にも言われていた。

白「じゃーのめでおーむかえ うーれしいなー」

 ……あぁ、やっぱり寒いなぁ。そろそろ帰ろうかな。

白「ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ」

無「らんらんらん」

白「……」

無「迎えに来たよ」

白「……」

無「ん……白?」

白「色無くんはあったかいね……とっても」

無「そうかな?ほら、早くしないと余計冷えるから。手、つないでこう」

白「あっ」

 繋がったゆびさきは なんてあたたかい 小さな奇跡

白「らーんらーんらん」


 まぶしいえがお

無「もう9月か……新学期始まっちゃったな」

白「そんなに浮かない顔してどうしたの?」

無「だって夏休みも終わっちゃったし、なんだか退屈になるなぁ……って」

白「そうかな、そんなことはないと思うよ」

無「……そういう白はずいぶんと楽しそうだな」

白「だって、今こうして色無くんと一緒に学校に行けるのが楽しいもん」

無「……」

白「それにね、教室でみんなに“おはよう”って言える。授業中に眠っちゃった色無くんをつんつんって起こしてあげられる。それから、一緒にお弁当食べて、放課後におしゃべりして、そして色無くんと一緒に帰るの。とっても楽しいよ。だって、全部、色無くんが教えてくれたんだもん」

無「……白」

白「なぁに?」

無「……遅刻するぞ、ちょっと急ごう!」

白「えっ、わっ、ちょっと待ってよ。いきなり走らないで色な……きゃっ!」

無「白!今日も寝てたらちゃんと起こしてくれよ!」

白「……はいっ!」


白「い、い、色無ひゅん!」

無「白、今、舌噛まなかったか?」

白「そんにゃことないれす!」

無「まぁ、それはさておいて。どうした?」

白「えーっとね、お弁当作ってみたんだけど……」

無「白が?」

白「うん」

無「そっか、白はえらいなぁ、よしよし」

白「えへへぇ……はっ、じゃなくて!」

無「ん?」

白「あのね……実はちょっといっぱい作りすぎちゃったから、色無くんに……一緒に食べてください!」

無「白、ちょっと落ち着こう。はい、深呼吸。すー、はー」

白「すーはー、すーはー」

無「もう大丈夫かな……もしかして、お弁当作ってきてくれたの?」

白「う、うん。あんまり自信はないけど……」

無「そっか、じゃあ折角だから一緒に食べよっか?」

白「やったー!じゃあ中庭の木の下で食べようよ!ほら、色無くんはやくー!」

無「ふぅ、購買のパン食べる前でよかった。それにしてもあの笑顔は……反則だ」

白「色無くーん?休み時間終わっちゃうよー?」

無「……今行く!」


白「うーん、週末の洗濯ってきもちいいなぁ。天気もいいし、ちょっとぽかぽか……だから、余計に、ねむ、い……な」

無「……ろ、……ぃろ、しろ、風邪引くぞ」

白「……ぃ、ろなし、くん?」

無「やっと起きたか。二度寝か?」

白「そういうわけじゃないんだけど……だってこんな天気だもん。お昼寝したくなるもん」

無「そんなに拗ねるなって。気持ちは十分にわかるからさ」

白「ほんとかなぁー?」

無「ほんとにほんと。だって白の寝顔がすっごく綺麗だったからさ」

白「……」

無「えっと、白、さん?なんか耳が真っ赤なん……」

白「お昼寝するから静かにしてて!」

無「しーろー?」

白「つーん」

無「……だから風邪引くって言ったろ?もう、ほらっ、これでいいだろ」

白「あっ」

無「こうやってくっついてれば大丈夫、だろ?」

白「……ふーんだ。……離しちゃ、いやだよ」

無「離さない」

白「……は、い」


白「うひゃぁわぁああああ!!!!!」

無「……白」

白「ひゃわわわぁあぁあああああああ!!!!!!」

無「白ってば……」

白「いーやーあーぁーーーーーーーー!!!!!!!」

無「……白っ!」

白「ひゃうん!」

『台風は未だ関東を北上中。突風、豪雨にご注意ください』

無「いくら風の音がすごいからって取り乱しすぎだ」

白「……そ、そんなに騒いではいなかったと、思う、よ?」

無「台風の音より騒がしければ十分だ」

白「ご、ごめんなさい……」

無「あ、別に白を責めているわけじゃないから……ごめん」

白「……あのね、」

無「うん」

白「風の、ごぉー、って音がすごく、こわくて、私の命が、ぐらって揺らされてるみたいで。

  ほんとはそんなはずないのにね……でもやっぱり不安になるんだ……おかしいよね、ほんと。臆病だ、私……」

無「……どうして?確かに白はちょっと敏感過ぎるのかもしれない、でも、そばにいるだけじゃ、だめかな」

白「いろ、なしくん……」

無「君の支えには、なれないかな」

白「そんなこと……そんなこと、ない」

無「ほんとに……?」

白「……うん。だいじょうぶ、ちゃんと伝わってるよ。色無くんの気持ちは、ここに」

無「白……」

白「だから……今は、まだこのまま……」

    きみのうでのなかで 


『いつか きみと とおいみらいで』

無「白、今日はわざわざ悪かったな」

白「ううん、全然平気。それにしてもおどろいたなぁ……」

無「ん、何が?」

白「だって色無くんが『敬老の日にじいちゃんとばあちゃんにプレゼント贈る』なんて言うんだもん」

無「……なんか変だったか?」

白「ううん、違うの。そんなことじゃなくて、その……買い物に誘ってくれたこと」

無「あぁ、それか。なんか……白ならちゃんとしたもの選んでくれそうだったからだよ」

白「そうかな? 黒ちゃんだって結構センスいいと思うよ」

無「そ、それはそうかもしれないけど……その……」

白「その?」

無「さ、最近……白は体調が悪くてあんまり外出してなかっただろ? だから、気分転換だって!」

白「……ほんとにー?」

無「ほんとにほんと」

白「じー……」

無「……うっ」

白「……ふふっ、そーゆーことにしてあげます」

無(ふぅ、助かった……)

白「ねぇ、色無くん」

無「なに?」

白「私たちがおじいさんおばあさんになったら、私たちの孫から素敵なプレゼントもらえるかな?」

無「あぁ、きっとそうだな……って、え? あ、今、私たちのって?」

白「らーんら、らーんら、らーん♪」


無「うちの学校の一番いいところって、自販機の安さだと思わない?」

白「他にもいっぱいあると思うけどなぁ……」

無「そのせいか、体育の後は大抵のものが売り切れちゃうんだよなぁ……って、ホントにないや」

白「どこかのクラスが体育だったのかな?」

無「はぁ、ツイてないなぁ……仕方ない、水で我慢するか」

白「残念だったね……あっ、そうだ、あのね、色無くん。もしよかったら……」

黒「白、色無、何やってるの。もうすぐ授業が始まるけど」

無「……黒か。いや、実は自販機が売り切れでさ……」

白「あ、あの、私のでよければ……」

黒「あぁ、そういうこと。お茶でよければここにあるわ」

無「それはうれしいんだけど……俺が飲んでもいいのか?」

黒「別に構わないけど……」

無「……じゃあ、お言葉に甘えて。ごくごく」

黒「それ、白の飲みかけだけどね」

無「ぶふぉわぁぐ! げほっ、げほっ! な、ななななんだって——」

白「……えええええええええええええええええええ!!!!!!!!」

黒「色無、品がないわね……」

無「ちょ、おま……」

白「ひゃわわわわわ! く、黒ちゃん!」

黒「別に今さら照れる仲でもないだろうに……見てるコッチが恥ずかしい。私は戻るぞ」

無・白「黒……」

先生「……こんな時間まで二人で何をやっとるのかね、色無、白」

無「せ、先生……す、すみませ——」

先生「ぶわっかもーーーーーーん!!!!!!!!!」

黒「結局、二人して放課後居残り掃除なんて……妬けちゃうなぁ……ふぅ」

先生「コラ、黒! 余所見するんじゃない!」

黒「ひゃいっ!」


無「今年は雪降らなくて残念だったなー」

白「そうだね……楽しみだったのになぁ。朝起きたら白銀の世界!」

無「でも白は雪合戦禁止だからな」

白「えぇっ!?ひどいよ色無くんっ!」

無「去年それで風邪引いてこじらせたろ」

白「うぅー……」

無「雪合戦は赤とか橙とか元気が有り余ってる人らがやればいいの。白は俺と一緒にかまくらな」

白「……」

無「そんな淋しそうな顔するなよ……」

白「いいもん!黒ちゃんに頼んで

黒「だめよ。雪合戦は私も反対。一緒にかまくらよ」

白「むぅー……」

無「まぁまぁそんなむくれるなって。みんなもそのうち疲れてかまくらに飛び込んでくるんだからさ。ちゃんと遊べるよ?」

白「……ん、それはそうだけど」

黒「っていうより全員かまくら作りに強制参加よ。雪合戦もいいけど形作ることも楽しまなきゃ。そして何より……白を差し置いて自分らだけ楽しもうなんて許さないわ」

無「おいおい黒、それはないだろw」

白「黒ちゃん、私そこまで気にしてないから大丈夫だよ!?」

黒「……まぁ……来年雪が降って積もったら、の話なんだけど」

無「……」

白「……はぁ、降らないかなぁ」


白「あ、色無君だ」

無「よぉ白……その衣装は?」

白「出し物の喫茶店で使うんだよ。この魔法使いの服」

無「ちなみに、出し物考えたのは?」

白「えっと……橙ちゃんと黄色ちゃんだったかな」

無(二人ともGJ!)

白「んー似合ってるかな?」

無「ああ、これ以上ないぐらい似合ってるぞ」

白「良かったー。じゃ、色無君にドンドン魔法かけちゃうよ」

無「魔法ね……例えば?」

白「……」

 ムギュ

無「し、白?」

白「色無君と仲良しになる魔法!」

無「その魔法にはとっくの昔に掛かっちゃてるな……」

白「じゃ、もっともっと仲良しになる魔法!」


『秋風が吹く頃に』

白「ちょっとずつ寒くなってきたね」

無「そうだな、ついこの間まで暑かったのが嘘みたいだ」

白「お洋服も衣替えの準備しないと」

無「そういえば橙や黄たちは秋物の服を買ってたみたいだぞ」

白「私も新しいの欲しいんだけど……色無くん、一緒に選んでくれないかな」

無「俺?~俺はそういうのまったく分からないぞ?」

白「大丈夫だよ。……やっぱり好きな人が選んでくれたの着てみたいし」

無「ん?~何か言った?」

白「う、ううん、なんでm……クシュン」

無「っと、さすがに夕方は結構寒いな。帰ろうか白」

白「うん」

白「ねえ、色無くん。手繋いでもいいかな?」

無「?~おう、いいぞ。……ほれ」

白「あはっ、やっぱり温かいな」

無「白が冷たいんだよ、あまり身体冷やすなよ」

白「そうかもしれないけど、色無くんは温かいよ」

無「そうか?~まぁ、いいけど」

白「〜♪」


『贈り物』

無「ただいまー」

白「おかえりなさい、あなた」

無「白、顔色が良くないみたいだけど、どこか具合悪い?」

白「ふふ、大丈夫ですよ。お医者様も自然なことだっておっしゃってましたから」

無「……それって」

白「はい」

無「……白」

白「……あなた」

無「そっか、えっと、そうだ! 早く休まないと!」

白「毎日きちんと動かないとダメだって言われました」

無「えっと、それじゃあ」

白「……ふふっ」

無「白?」

白「普段はとてもしっかりしているあなたがそんなに慌ててるなんて、なんだかおかしくて」

無「いや、だって、どうしていいか」

白「やっぱりこういうときは男の人のほうが慌てるものなんですね」

無「やっぱり名前を先に、いや白のご両親に報告を」

白「あなた」

無「……し、しろ」

白「わたし、今とても幸せです。結婚記念日にわかったのも神様がくれた素敵な贈り物なんじゃないかと思ってるんですよ」


無「白、大丈夫か!?」

白「……あれ、いろな、しくん……?」

無「体育大会の競技中に倒れるなんて……心臓止まるかと思った」

白「あれ、そうだった、の?……ごめん、あんまり覚えてなくて……」

無「そりゃあ、これだけ熱があれば誰だってそうだよ」

白「あっ、こんなに……」

無「怪我が無くてホントによかった……どうしてこんな無茶を?」

白「色無くん……怒ってる?」

無「もちろん」

白「うぅ……だって、みんなとの思い出がないのは嫌だったから……」

無「それで身体壊したら、元も子もないんだよ?」

白「分かってるけど……それでも一人で居るのは怖かったから……」

無「……まったく、仕方ないな。白、こっち向いて」

白「えっ、なに?……えっ、ちょ、い、いいいいろなしくん!?い、いきなりキキキ、キス……」

無「……そんなに驚かなくったって……コッチが恥ずかしいな」

白「だだだ、だって……風邪、うつるよ?」

無「あぁ、なんかもううつったみたいだな。だから、保健室で寝てないと」

白「……どうして?競技、始まっちゃうよ?」

無「たまにはこんなのもアリかな、ってのはダメかな?それに、コレだって立派な思い出だよ」

白「色無くん……ありがとう」


『sunny day』

 気温もぐっと下がり、やっと秋らしい天気になりました。

無「しろー?」

 でも、輝く太陽に以前ほどの暑さはなく、ちょっと寒いぐらいです。

無「しーろー?」

 特に朝の冷え込みはやっぱり苦手です。

無「……いたいた。白、探したぞ」

白「色無くん、おはよう」

無「あぁ、おはよう。こんなとこで何してたんだ?冷えるぞ」

白「うん……あのね、太陽にこう、手をかざしてたんだ」

無「?……あぁ、あの歌にある?」

白「そうそう。こうしてみるとちょっと透けて見えるけど、ちゃんと赤い血が流れてるんだよ?」

無「……あ、ほんとだ。でもわざわざ何で?」

白「……私がちゃんと生きてるってことを確かめたかったんだ」

無「そっか……こうしてみると白の手って綺麗だな」

白「そうかな……細さには自信あるけど、痩せこけて綺麗なんかじゃないよ」

無「そんなことない、そんなこと、ないから」

白「えへへ、そうかな?」

無「あぁ、そうだよ。ちゃんとここで、生きてるよ」

白「……そうだよね」

 冷えた朝に濡れた瞳は少し寒かったけれど、抱きしめられた体は、とてもあたたかく——


無「あー、疲れた……」

白「色無くん、寝るんだったら自分の部屋で寝た方がいいよ?」

無「いや、さっき終わったバイトが結構キツくてさ」

白「いーなー。バイトってあこがれるなぁ。何のバイトだったの?」

無「全国模試の試験官のバイト。ただ座ってるだけだから楽だよ、って言われたのに……」

白「のに?」

無「座ってるだけってのが退屈だし、みんな集中してるから窮屈だった」

白「そ、それは……確かに……」

無「おかげで余計に気疲れしちゃってさ……はぁ……」

白「それにしても色無くんが試験官かぁ。それだったらテストもちょっとは頑張れるんだけど……」

無「何か言った?」

白「なっ、なななんでもないよっ!ただ、色無くんは先生も似合いそうだな、って!」

無「そうかな?例えば何の教科?」

白「えーっと、うーんと、その……」

無「(……ゴクリ)」

白「……保健?」

黒「色無が鼻血出しすぎて倒れたって聞いたけど何をしたの?チョコの一気食い?」

白「さ、さぁ……なんでだろうねぇ?……え、えへへ……」


先生『本校の創立100年を記念いたしまして……』

無「ふぁ〜あ、創立記念の式典って授業無くていいけどさぁ……眠い」

白「色無くん、不謹慎だよ」

無「そうかもしれないけど……さすがにこれは、ちょっと……」

白「確かに、校長先生のお話がいつもより長く感じるね」

無「……もう、ダメみ、たいだ……ごめん白、肩、借り、る……」

白「もう、色無くんったら……って、えっ?あ、あのそのっ、色無くんっ!?」

無「……zzz」

白「ぁ、わわっ!(どどどどうしよう、色無くんに寄りかかられて……顔がち、近いよぉ……)」

無「……むにゃ……し、ろ……」

白「……えっ」

無「……zzz」

白「……くすっ、もう、色無くん……起きてないよね? ホントに寝てるよね? ……ごほん」

白「……おやすみなさい……あなた」


 とぽとぽとぽ……

白「ふーっ、ふーっ……あちっ! ちょっと熱すぎたな……舌がひりひりすりゅ……」

 熱いお茶がおいしく感じるようになりました、今日この頃。

白「ふーーっ、ふーーーっ……あっ、うん、おいしい……」

 ……おばあちゃんじゃないですよっ? でも、こうしてると不思議と落ち着きます。

無「おっ、白。俺ももらっていいかな?」

白「うん!今日は緑茶なんだ。ちょっと待っててね!」

無「それにしても、白って紅茶の方が好きだと思ってた」

白「変かな?」

無「変じゃないけど……意外かな」

白「紅茶ももちろん好きだよ。でもね、こっちの方がなんか、落ち着くんだ……」

無「あぁ、確かに」

白「それにね、なんか心からあったまる感じするよねぇ……」

無「そうだな……香りも、悪くないし……」

白「それに……」

 ふたりでぼーっとしてるだけでも楽しくて、今ではお茶は私の日課になってます。

 そして今日もまた、あなたとの安らぎのひとときを。


無「うー、さむさむ。もうすっかり冬じゃないか……」

白「色無くん、お帰りなさい」

無「うー、ただいま。夜になるとすっかり冷え込むなぁ……」

白「おつかれさま。……あれ、そのビニール袋は?」

無「これ?実は……へっへーん、コンビニで肉まん買ってみました」

白「わー、わー、いいなー……」

無「……これ、2個しかないんだ。だから……」

白「そっか……ごめんね?無理言っちゃって……」

無「ち、違う違う!そうじゃなくて……ふたりで食べない?もちろんみんなには」

白「……内緒、だよね?」

無「そーゆーわけです」

白「うん、ふたりだけの……内緒……」

無「……」

白「……」

無「そ、それじゃあ、食べよっか!」

白「……う、うん……」

 ぱくっ

 その日食べた肉まんは、今まで食べた中で一番おいしくて、一番あったかかったです。


『りんご』

無「黄緑さん、いますかー」

白「あれ、色無くん?黄緑さんなら買い物だよ?」

無「あちゃー、残念……」

白「うわっ、どうしたの?そのすごい数のりんご……」

無「実家の両親から送られてきたから、黄緑さんに剥いてもらおうと思ってさ……」

白「そーなんだー……あっ、とってもおいしそう」

無「うん、だからどうしても今食べたくなってさ」

白「……ねぇ、私が切ってもいいかな?」

無「……白って実はくいしんぼう?」

白「……ふんっ、色無くんの分は切ってあげませんよー!」

無「ごめんなさい」

白「……えへん、分かればよろしい」

無「へぇ、結構綺麗だな……」

白「だてに病院生活送ってませんからね……ほら、うさぎさん!」

無「おっ、これはなかなか凄いな」

白「えっへん!」

無「じゃあ、ひとつ食べようっと……」

白「あっ、うさぎさん!」

無「えっ」

白「自信作だったのに……食べちゃうの……?」

無「うっ……じゃあ、塩水につけておいてみんなに見てもらおっか」

白「うんっ!」


無「(いや、困った……まさか昼だってのに誰もいないとは……)」

白「ねぇ、色無くん?」

無「(金もないし、料理のスキルもない……)」

白「ねえってば!」

無「一体どうしろってんだぁーーー!!」

白「……この、ばかなしくーーーーーーん!!!!!」

無「うへいっ!?!」

白「まったく失礼しちゃうな!ずっと呼んでたのにっ!」

無「……とても焦ってたからさ、その、ごめん」

白「……お昼のことでしょ?黄緑さんから頼まれて色無くんのお昼の世話は任せる、って」

無「えっ……ということは……?」

白「私が今日のお昼を作る、ってことだよ?」

無「……」

白「さぁ、はりきって作りましょう!」

無「こ、これは……うまい……白、すごいじゃないか!」

白「ホントに?ウソじゃなくて?」

無「あぁ、味に関しては文句なしだ。ただ……」

白「……ただ?」

無「うさぎの形の……オムライスってのは器用だな、と思って……」

白「かわいいでしょー?きゅっきゅっ!(←ウサギの鳴き声的な意味で」

無「(ここまで凝ってると食べづらいっ……)」


無「なぁ、今日って最高気温が昨日より高くて暑くなるでしょう、って予報じゃなかったっけ……?」

白「そのはずだけど……へくちっ!」

無「セーター着てくればよかったな……」

白「マフラーもあってもいいね……へくちゅ!」

無「白?」

白「ご、ごめんなさ……くちゅん!」

無「ん」

白「?どうしたの?手が……どうかした?」

無「よかったらその……繋がない?ちょっとはマシになるかも……だしさ……」

白「うん……」

 ぎゅっ


無「あれ、この匂い……」

白「あっ、ぎんなんだー」

無「この匂いは苦手なんだよなぁ……誰だよ、学校に銀杏の木植えたのは……」

白「校長先生に失礼だよ?でも臭いのはちょっとね……」

無「でも、これぞ秋、って感じしない?」

白「そーだねー……最近の天気はただでさえ変だからちょっと目立つね」

無「よく見たら、周りはそんなに紅葉が進んでないみたいだな……」

白「ざーんねんでした」

無「……なんでそんなにうれしそうなんだ?」

白「だって、楽しみは後にとっておいた方が……きっと楽しいもん!」

無「……そうかもな。しばらくしたら中庭でお昼にでもしようか?紅葉がてらにさ」

白「うん!」


黄緑「今夜は鍋にしましょう!」

そんな一言から始まった今夜の晩御飯は、もちろん材料が冷蔵庫にはなく、

寮は結構な大所帯であるために買出し隊が選出された。男手である俺と……

白「どうしたの?そんなにぼんやりして……やっぱり夜は寒いねー」

彼女、白だった。

気が付くといつも近くにいる気がする。学校でも、寮でも。もちろんクラスメイトで同じ寮生。

当たり前といえば当たり前だが、なんとなくひっかかるのも事実だ。

無「(なんなんだろうな……)」

嫌いではない、と言って好きとかそういうのではない気がする。

無「(単に今までそういうのに縁が無くて、わからないだけかもしれない)」

不思議とそんな気持ちになること自体が初めてなのだ。それだけのことがこんなにも引っかかる。

無「好き、なのかな……」

知らずと声に出す。

白「えっ?何が?」

無「あぁ、な、なんでもない……」

白「そっかぁ……ざーんねーん」

無「えぁ!?」

白「ふふっ、なんでもないよ……さぁ、いこっ!」

なんだかとてつもなく厄介な問題を抱え込んでしまったらしい……でも、

寒空の下、輝く彼女の笑顔は、町の輝きよりも暖かくきらめいていたんだ——


白「わわわわっ、雨、雨だよっ!どーしよ……あっ、洗濯物入れないと!」

無「……手伝うよ」

白「あ、ありがとう」

——なんだろう、時々だけど

無「……」

白「さ、さっきはありがとう……いきなり雨降ってきて大変だったね?」

無「そうだな……」

——時々だけど、色無くんが、怖い。よくわからないけど……

無「……さん」

——誰かの名前をつぶやいてる

白「もうびしょびしょだね」

無「ああ」

——誰なんだろ

白「空、真っ暗だね」

無「ああ」

——どんな人かはわからないけど

白「黒ちゃんの下着、黒だったね」

無「ああ」

——今は私が

白「エロ無さんだね」

無「ああ」

——いるんだから

白「……ばか」

  わたしは、ここにいるよ?


  ぱたぱたぱた……

無「ん、来たかな……」

白「——はっ、はっ、はっ……い、色無く、ひゃっ!」

無「おっと……危なかった」

白「あ、り、がとっ……」

無「せっかく病院で診察してもらったんだから、無理して走ることないのに」

白「だ、だって、待ち合わせ、遅れちゃったし……はっ、はっ……」

無「転んで怪我しても嬉しくないからさ……ほら、これ飲んでちょっと落ち着いて」

白「う、んっ……こくこくこく——ふぅ、これコーヒー?」

無「そうだけど……やっぱり冷めてたかな?」

白「うん……それだけ待たせちゃったってことだよね。ごめんね……」

無「あ、謝るほどのことじゃないって。それに白を待ってるの、嫌いじゃないから」

白「……色無くんっ!」

 ぎゅっ

無「白!?な、ちょっと……」

白「だーめ。色無くんがあったかくなるまでだから」

無「みんな、見てるって……」

白「お返しだよ、お返し。ずっと待っててくれて、ありがとうっ!」

無「どういたしまして……なぁ、そ、そろそろいいか?」

白「だめーっ!」


白「色無くんの部屋お掃除タイム〜♪」

無「……いきなりどうしたんだ?エプロンなんか着て……」

白「黒ちゃんが『入るなら形からだ』って」

無「それにしても唐突すぎて……なんで最初にベッド下からなんだ?」

白「『どうせ色無のことだから、律儀にベッド下に隠してるんでしょ』だって」

無「これじゃ、まるで抜き打ち検査だな……」

白「あっ!」

無(確かヤバイものは男の家にまとめて預けてあるはず……それとも渡し忘れたかっ!)

白「……えっちな本。べ、別にこれぐらいは大丈夫……はっ!」

無「……ナンデショウカ」

白「ななななななななな」

無(こ、コレは『熟女との昼下がり』……こんなの俺の趣味じゃない! な、なんてこったい!)

白「あわわわわっわわわわ」

無「いや、これはちが」

白「色無くん××××××!!!!!!!!」

無「ホントにちが……いや、これは灰だろ!おい出て来い!」

白「×××××××!!!!!!!!!」

無「うわあああああああああああああああああああああああああ」

朱「やかましい!」

灰「こちらスネーク、任務は完了した。直ちに帰還する」

黒「……あら、まだ終わってないわ」

灰「……あ、あばばばばばばばばば」


無「うぁ……ね、むい……」

白「あっ、色無くん、おはよー」

無「ん……しろ?……おはよ……ふぁ〜ぁ……」

白「大丈夫?って全然平気そうには見えないけど」

無「……昨日遅くまで灰のゲームに付き合ってたら、夜が、明けてた」

白「灰ちゃんはまだ寝てるの?」

無「それはそれはぐっすりと」

白「ふふっ、今日が日曜日でよかったね」

無「本当に……コーヒーある?」

白「ちょっと待っててね——はい、どうぞ。ミルクと砂糖いる?」

無「いい、これくらいじゃないと、目、覚めないから……ふーふー……あっつ」

白「……私も飲もうっと」

無「白もブラック?」

白「私はカフェオレだよ」

無「……苦いのは苦手?」

白「し、失礼しちゃうなぁ……そんなこと、ないもん……ほら、じゃあそれ貸して!」

無「あ……うん……」

白「ふーっ!ふーっ!ふーっ!」

無「……どうかな?」

白「苦いね」

無「そっか」

白「……むー」

無「やっぱり白って……って、なんで俺のに牛乳いれるの?」

白「ふーんだ……砂糖も入れて、混ぜて、これで完成!」

無「そんな満足な顔されても……」

白「どうぞ、召し上がれ♪」

 満足そうな白の顔に何も言えず、黙ってそれを飲んだ。

 どううしてだろう、そのあたたかい味は白みたいな味がしたような——


 今日は待ちに待った文化祭の日です。どこのクラスの出し物もとっても楽しそうです。

 全部回れるかな……わくわくです。そして、私のクラスの出し物は——

   『中国茶店』

無「今さらだけどさ、なんで中国茶の喫茶店なの?」

白「普通の喫茶店じゃつまらないし、最近じゃ客引きには印象が薄いから、って」

無「まぁ、確かに最近じゃどこでも喫茶店とか見るしな」

白「……それだけじゃないんだよ?実は……」

黒「白、色無、今届いたわ。早く着替えなさい」

無「?何がだ?」

黒「……貴方、本当に話を聞いてなかったの?貴方と私と白はウェイター、そしてコレが……」

無「……まさか、制服がチャイナ服とは……なんか慣れないな」

黒「あら、以外に似合ってるじゃない。灰のセンスもなめたものじゃないわね」

無「コレ、灰が選んだのか……それにしても……黒」

黒「あら、どうしたの?」

無「その……黒地に昇り竜って、なんか強そうな格闘家みたいだな。似合ってるけど」

黒「ほめ言葉として受け取っておくわ。まぁ、私のはスリットが入ってるようなスカートじゃないし」

無「確かに俺のと似たようなズボンのだな。もしかして白も?」

白「黒ちゃーん、待ってってばーもう」

無「あ、白も着替え終わ、った、か……?」

白「うん、バッチリだよ!……あれ、色無くん、どうしたの?」

無「……白、その、スリット……」

白「これ?ちょっと恥ずかしかったけど、思い切って着てみたんだ……変、かな?」

無「ぜ、全然!……その、すごく、綺麗だと、思う。見違えた」

白「そうかな……えへへっ。色無くんも……いつもよりなんかかっこいいな……」

無「あ、ありがとう……」

黒「ほら、そこらへんでお喋りは終わり。今日の私たちの仕事は午前の接客。気合入れなさいよ」

無「あぁ、任せとけ」

白「うん!がんばろうね!」

無「いらっしゃいませー。2名様ですか?こちらのテーブルへどうぞ」

黒「オーダー、プーアル茶2セット。ちゃんと茶器はあっためてあるの?」

白「ご注文はお決まりですか?……はい、はい。かしこまりました、少々お待ちください」

白「ふーっ、こんなに大変だとは思わなかったな……」

無「白、気分が悪くなったらすぐに言うんだぞ?すぐに交代できるようにしておくから」

白「……ううん、平気。私はまだやれるよ」

無「でも……」

白「大丈夫。だって、最後までやりきるって決めたから。絶対、大丈夫」

無「……分かった。だったら白に任せる。だけどな、ちょっとでも危ないと思ったらすぐに言うんだぞ」

白「うん……それじゃあさ、もし私が完璧に仕事をこなしたら……午後、一緒に回ってくれる?」

無「あ、あぁ……もちろん」

白「……えへへ、じゃあがんばる!行ってくるね!」

 いつの間に、あんなに白は強くなったんだろうか……もう俺たちに守られてるだけじゃないんだ……

無「ちょっと、寂しいのか……」

黒「いつまでサボってるつもりかしら?」

無「はひぃ!……く、黒……」

黒「貴方がそんな風でどうするの。白にばっかり負担を掛けさせないで!」

無「すいません」

黒「分かったら、さっさと戻る!」

白「色無くん、4番テーブルにコレ、お願い」

無「あぁ、了解」

 まぁ、あんなに楽しそうなら、いいか……

 『いらっしゃいませ!』


 それは、いつもと変わらない、朝のこと——

 『にゃー』

無「ん?……なんか、聴こえたような……」

白「……あっちだ!」

無「お、おい、白!どこ行くんだ!……とりあえず追いかけるしかないか……」

白「……っ!」

無「……見つけた。いきなり走り出してどうしたん……こ、これは……」

 『にー』

白「この子猫、身体が、ぼろぼろ……け、怪我っ!」

無「……今すぐ寮に連れて行く。白は先に学校行ってて。俺はあとから……」

白「私も行く」

無「白……でも……」

白「急ごう!」

無「あ、あぁ……」

朱「あたしは動物に関しちゃ門外漢だが、確かにこれはぱっと見でもやばいな」

無「……とりあえず、獣医さんに見てもらってきます」

朱「待った。あんたこれから学校だろう?」

無「でもっ!この仔をほっとくなんて!」

白「……」

朱「……はぁ、あたしが今から連れて行くから。それで文句ないだろう?」

無「朱さん……」

朱「さぁ、さっさと学校に行って来い!……今ならなんとか間に合うだろ」

無「はい」

白「……はい」

 

黒「ねぇ、白。一緒にお昼食べない?……っていないし。色無、白が……ってもう、どこ行ったのよ……」

 『にゃ、にゃー』

無「ほら、パンだぞー、食うか?」

 『ふーっ』

無「あ、あれ?怒ってる?」

白「とりあえずホットミルク持ってきたけど飲むかな……?」

無「白……なんでここに……」

白「私だって心配だったんだよ。色無くん、授業もずっと上の空だったもん……」

無「そっか……」

白「それにね、似てたんだ……私に……」

無「……」

白「傷ついて、苦しんで、痛いのに誰もいなくて、一人ぼっち……まるで昔の私。泣き声で判ったの。

  あぁ、この仔も苦しんでるんだ、って」

無「でも……」

白「うん、もちろん今は色無くんたちがいる。だから寂しくないよ?でも、この仔にはいないから……」

無「大丈夫。一人ぼっちなんかじゃ、ないんだ……」

白「うん……」

 診断の結果、もう手遅れとのことだった。それでも、この仔を一人にはさせたくなかった。だから、二人で世話をすることにした。最後まで一緒にいるために——

白「ゆっくり……おやすみ……うっ、う……ぐすっ……、ふぇ、えぅっ……」

 数日後、最期を看取った白は、目が真っ赤になるまで泣いていたけれど、それでも笑おうとしていた。あの仔を送り出すために。

白「私たちが感じているしあわせ、少しでも分けてあげられたかな……?」

無「ああ、絶対に……」

 『にゃおーん』


『入浴剤』

黒『灰が作ったらしくて、うさんくさかったけど試してみたら意外と良かったわ。使ってみて』

白「って言ってたけど……このにおい、ハーブ?でもほんのりしてる……それに……なんかとろっとして、て……気持ちいい……かも。ぷくぷくぷく……ふあっ、なんか目まで、とろ……んとして……」

無「テスト勉強が長引いたな……さっさと風呂入って寝るか。この時間なら誰もいない……って、おい……」

白「あれ、色無く、ん……?どーした、の?」

無「あわ、わああああああ……」

白「いろなしくんが……ゆらゆらしてりゅ……きゅー」

 バタッ

無「え、あ、し、白!大変だ……お、おい!誰か!あ、黒!良かった……って、俺何もしてないから!」


朱「へっへっへ」

無「一体、どこの悪人ですか……」

朱「いや、コレ、知り合いから貰ってきたんだよ」

無「何なんです?コレ……発泡スチロールの箱?」

朱「空けてからのお楽しみさ……さて、そろそろお披露目の時間だ」

白「なあに、これ?」

黒「あぁ、不用心に近づくんじゃ……ちょ」

白「ひゃああああああ!」

無「し、白!」

赤「な、なんだコレ!」

朱「何って……タコだよ。見て分からない?」

白「ひゃあああああああああああああ!」

黒「いいから早く!わ、腕に巻きついて……」

朱「ああもうっ!黄緑っ、包丁、早く!」

黄緑「はい」

白「手、切られちゃう……きゅう」

無「白、しっかりしろ、白!」

朱「……ほら、タコ切ったぞ」

桃「まだ動いてるね……」

黄「でも、なんかもったいないなぁ……」

無「ふうん、どれ(ぱく)」

 『あっ』

無「もぐ……確かに、なかなか……うまい……お、白、気が付いたか」

白「……こっ、こわかったぁ(ぎゅっ)」

 『(じーっ)』

桃「あ、あたしもタコ!」

焦「ふむ、これは新手か……つまりタコプレ(ry」

 その後

白「うん、うん、そーなんだ……それでね……」

男「なぁ、ここわかんないんだけど……」

侍「なんなんだ、藪から棒に……」

男「ここの"たこ"う式(多項式)のとこがわかんないんだ」

白「びくっ!」

男「いやー、めずらしく勉強したらペン"だこ"が出来てさぁ」

白「どきっ!」

侍「だからなんなんだ、いきなり。どういう風の吹き回し……」

男「"たこ"く籍企業ってさ……」

白「ひっ……」

男「ククク……」

侍「貴様……」

黒「ふーん、そういうこと」

男「くくくくくくくくくくくろ……さん……?」

黒「来なさい」

男「ち、ちょっと待ってく」

黒「来い」

男「……むしゃくしゃしてやった。だが後悔は」

黒「させてあげるわ」


白「ね、色無くんは何色が好き?」

無「ん……あー」

白「白だよね!」

無「……えーっと」

白「ね!」

無「あ、あぁ……」

白「良かった!それじゃあばいばい!」

無「お、おぅ……何だったんだ?一体……」

 コンコン

無「白、前に貸してくれって頼まれたもの持ってきたけど、部屋のドア開けてくれないか?」

白「え、ちょ、ちょっと……そこに置いて!後で運ぶから!」

無「でも、ちょっと重いぞ」

 ガチャッ

白「大丈夫!」

無「で、でも」

白「大丈夫だから!ここからなら自分で入れられるよ。あは、はは……」

無「う、うん……(いくらなんでもおかしい……それに指、なんか痛そうにしてるし、落ち込んでるし……)白、その指……」

白「なんでもないよ……」

無「何でもなくない!」

白(びくっ)

無「相談、あるんなら乗るぞ……?」

白「……うーん、当日まで内緒だったけど、心配かけてごめんね。はい、これ」

無「リボンと……包み?」

白「マフラー、あんでたの。上手にできなかったけど……風邪ひかないでね」

無「……最高のプレゼントだよ、ありがとう」

白「どういたしまして!」


無「冬のコンビニってある意味避難所だよな……おー、さむっ」

白「でも、冬は期間限定チョコがいっぱいあるからしあわせだよぅ……」

無「そうだな……とりあえずおでん食べよ。すいませーん、えと、ちくわと、はんぺんと……」

白「あと、大根とこんにゃくお願いします」

無「……白」

白「えへへ♪」

店員「ありがとうございました」

無「……やっぱ外は寒いな。なぁ、もうここで食べない?ちょっと寒いけど」

白「うん、いいよ」

無「うわっ、うまそう……ふーふー、ふぁ、ふぁっふい」

白「もぐもぐ……はふっ、ふぁ、おひいいへ」

無「……何言ってるか全然わかんないな」

白「もご、だってあっついんだもん……かはっ、辛い!色無くん、カラシ入れすぎ……」

無「あ、悪い……」

白「罰としてちくわは没収します」

無「あぁ、ごめんごめん!それだけは勘弁してくれ」

白「……ふふふっ」

無「ぷっ、はは、あははは!……あったまったし、そろそろ帰るか?」

白「そうだね」

無「なぁ、白。そういえば、さっきチョコ買ってたよな。ちょっとだけ……」

白「だめ。これ以上間食したら晩御飯食べれなくなるよ?」

無「ねえ、白さん。さっき食べたおでんは……」

白「ほらっ、早く帰ろう!今日の〜お夕飯は〜なんだろなっ♪」

無「ちょっと、待てって!」


黒「ちょっと色無、あなた顔色が悪いわよ。保健室で休んだら?」

無「……そうなのか?でも……これから体育のタイム測定があるしな……」

黒「馬鹿言ってんじゃないの。付き添ってあげるから、さっさと行くわよ」

無「それじゃあ黒に迷惑かかるだろ。一人でちゃんと行って来るから、黒は戻ってて……そんじゃな」

黒「色無……」

無「失礼しまーす。って先生いないのか……まぁ、勝手に寝かせてもらうか……風邪引いたのかな……今日から毛布一枚増やして寝よ……zz……」

白「あれ、色無くん?」

無「……z……zz……」

白「どうしてここに?……色無くんも具合悪かったのかな……大丈夫?……じゃないか」

無「……ん、ぐぅ」

白「無理しないで、ゆっくり休んでね……」

 なんだろう、確かに俺は眠っていたはずなのに……微かな眩しさと、

白「わたしが側に付いててあげるから」

 手に絡んだ温かさをいつまでも感じていた。

保険医「白さん、ごめんなさいね。湯たんぽ探すのに時間かかっちゃって——」

無・白「……すー、すー……」

保険医「……必要なかったみたいね。あーあ、妬けちゃうなぁ……それにしてもこの子、随分大胆……」


無「外寒いー……なんで室内なのに廊下はあんなに冷たいんだよ……」

白「ね、色無くん。いつまで寝てるの?もうそろそろお昼だよー」

無「こう、いい感じに日射しが当たって、あったかいんだよ……」

白「そういえばこの部屋って日当たりいいよね」

無「もう……無理です……」

白「ほーらー、そのままじゃ風邪ひくよ?いくらあったかくても、そのうち日が射さなくなるよ?寒くなるよ?」

無「もう、なんでもいいよ……この陽だまりから動けない……」

白「もうっ!」

無「……zzz」

白「……寝ちゃった?……そうだ!せっかくだし……」

 (もぞもぞ)

白「んしょ、これでっ……ひざまくらの完成!」

無「んんぅ……んっ……」

白「ひゃっ!ちょっと……色無く、ひゃわっ!く、くすぐった……」

無「……ふが、ふが……んむぅ……」

白「も、もうっ!……くすっ、なんか色無くん……子供みたいだなぁ……」

無「……zzz」

白「風邪ひくって、言ったのになぁ……もう」

無「……」

白「私も……ふぁ、ねむくなって、きたかも……あふぅ」

無「……むにゃ、んん……し、ろぉ……」

白「ぁふ、ぅん……すぅ……」

 このまどろみを あなたと ともに

 

 後日
無「な、なぁ……白?あのさ……」

白「?どうしたの?」

無「えと……なんで?」

白「だって!この前はわたしがひざまくらしてあげたのにっ……」

無「えっと……気が付いたら白の膝の上に乗っていた、んですけど……?」

白「い、色無くんが勝手に乗ってきたんだよ!」

無「……そうだったっけ?……でも、男のひざまくらって、かなり硬いと思うんだけど……」

白「……わたしのはぷよぷよだったと言っているのかな?」

無「めっそうもございません」

白「なら座って♪」

無「はい」

白「……なんかちがう気がする」

無「なぁ、痛くなったから足崩していい?」

白「うん……想像してたのと、ちょっと……」

無「ふぅ、やっぱりあぐらの方が楽だなぁ……」

白「……あ」

無「ん?どうした……って、白!ちょっ、足の上にすわって……」

白「やっぱり、これは落ち着くかも……なんか後ろから抱きしめられてるみたい……」

無「しろっ、これ……やっぱやめっ」

白「胸が……どきどきしてるよ?」

無(どきっ)

白「ふふっ、でも……あったかいなぁ……」

無(うぁ、や、ばい……)

白「……すぅ、すぅ……」

無「ね、寝てる……はぁ、動けないしどうしたもんやら……」

白「……(くすくすっ♪)」


白が携帯を買ってきた。

本人も欲しいと言っていたし俺も白と連絡が取れないのは少々不便なのでそれは良いのだが……

白「えっと、このボタンが──」

まさかメールから教えることになろうとは。

ずっと病院にいたわけだし仕方がないといえば仕方がないのかも知れない。

というわけで現在白は説明書片手に真新しい携帯とにらめっこしている。

白「よし、色無くん。使い方バッチリ覚えたよ」

さすがは白。物覚えが早い。

無「お、そうか。メールも出来るか?」

白「うん、大丈夫。試しに送ってもいいかな?」

無「おお、いいぞ。何でも来い」

白「あの、じゃ隣の部屋いってくるね」

無「? ここで打てばいいじゃないか」

白「ちょ、ちょっと恥ずかしいから」

白、いったいどんな文を書こうというのか。

しばらくして俺の携帯が震えた。

開くと登録したばかりのメルアドだった。

『色無くんへ

  今日は一緒に携帯を選んでくれてありがとう。

  色無くんのとお揃いで嬉しいです。

  不束者ですがよろしくお願いします。

                  白より』

思わず苦笑してしまった。

初めて俺の家に来たときと同じ台詞じゃないか。

あの時は本当に驚いたものだが……

俺は一言だけ打って返信した。

『白へ

  こちらこそよろしく。

  いつまでも一緒にいような。

               色無より』


白「はぁ……」

無「どうした?」

白「聞いてよ!今日の運勢が最悪だったんだよ……もう星座占いも12位だし、血液型占いもだめだったんだぁ……」

無「それって気にするほどのことか?」

白「占いって結構気にするものなのです。だっておんなのこだもん」

無「ふーん、よく分かんないけどさ……お、これ当たりつきの自販機じゃん。白、何か飲む?」

白「私はいいよ……」

無「じゃあ俺が……ポチっと」

白「これって当たる人ってほとんど見たことないよ?」

無「もしかしたら当たるかもしれないだろ?」

白「はは、まさか……」

 ぴっ、ぴっ、ぴっ、ちゃらららっちゃらー♪

白「う、そ……すごい……」

無「よっしゃー!ラッキー!」

白「色無くん、すごいよ!」

無「だろ?じゃあ、ほら、これ飲めよ」

白「えっ、でも……」

無「運ってさ、こう、自分でぐっと掴むもんだと思うんだ。だからさ、掴める位なら分けられるかと思って」

白「あ、ありがとう……」

無「これで今日の運勢だって良くなるって。だから、そんなに落ち込むなよ?」

白「うん……ふふっ、確かに今日はラッキーなのかも……」

無「ん?どーした?」

白「ううん、なんでもない!ふふふっ、色無くん、ありがとっ!」

無「あ、あぁ……どういたしまして……」

 まぶしいくらいの白の笑顔を見れたことは、ちょっとしたラッキーってやつかもしれない。

白「今日もはりきってがんばりましょー!」


無「しろー、そろそろお昼だぞ。何食べる?」

白「うっ。わ、私は……いいよ」

無「何かあったのか?相談に乗るぞ。いつだって頼っていいんだからな」

白「……笑わない?」

無「よく事情はわからないけど、笑わない」

白「それがね……えたの」

無「ごめん、よく聞こえないんだけど」

白「……増えちゃったの……体重」

無「体重が増えた!?」

白「声大きい!!!!!」

無「み、耳がキーンと……ご、ごめん……」

白「お正月でね……おしるこいっぱい食べてね……昨日、久しぶりに体重計に乗ったの……」

無「……それで?」

白「……んもぅ!それ以上言わせないでよっ!!」

無「うおう!きょ、今日はいつもより元気だな……」

白「おんなのこには体重と年齢の話はだめなんだよ?」

無「最初に体重の話を始めたのって白だったんじゃ……」

白「い、い、いっ、色無くんの……」

無「の?」

白「鏡もちになっちゃえばいいんだーーーーー!!」 バタバタバタ……

無「しろー!文法が間違ってるぞーーーーー!って、そんなに気にするもんかねぇ……」

灰「他人事だと思って油断してるんじゃない?」

無「うわっ、おまえどこから出てきてるんだよ」

灰「最近の色無、たるんでるんじゃない?精神的と肉体的な意味で」

無「意義あり!」

灰「却下する。まぁ、聞きなさい。最近ね、私の抱き枕が妙に弾力を増してるの。わかる?」

無「それって……」

灰「天才の頭脳でどれくらいの増加率かグラフで推移を示してあげようか?」

無「……ちょっと走ってくる」

灰「いってら〜。さて、コタツを占領するならいまのうち〜っと」


白「くーろちゃん!」(抱きつく)

黒「白?どうしたの?」

白「えへへー。くーろちゃーん」

黒「……白?」

白「くーろとしーろでぇ……牛!牛さん!もーもー」

黒「……」

白「ほら、ほらぁ!くろちゃんも一緒に!もーもー」

黒「も、もーもー」

白「次はねー、くーろとしーろでぇ……パトk……ぴー……ぽ……すー……すー……」

黒「白……酔ってるわね?」

無「この中に、白に酒を飲ませたヤツがおる。お前やろ」

灰「チッ」

無「お前やー!」


 某スイーツ(笑)映画観賞後

橙「……」

無「なんか……ね」

黒「時間と金の無駄だったわ」

桃「黒ちゃんそれ言っちゃダメよ!」

橙「そうよ!あれでも一応泣く人はいるのよ!」

黒「事実を言ったまでよ。大体あんなリアリティのかけらもないのに何が実際にあった、よ。犯罪もいい所ね」

無「黒!やめてくれぇ……!時間が……金が……!」

黒「あんな映画で感動する人を見てみたいものだわ」

白「……ぐすん。……はぁ、感動したぁ」

黒「……!白……なんで!」

白「だってさ……」

白「現実じゃあんなことできないのわかってるからね……」

白「だから無菌室でキスしたりキャラメル口移ししたりできたらどれだけ幸せかなぁ、って」

黒「……。みんな、感動したわよね?」

橙「うん!したよ!もうボロ泣き!」

桃「そうそう!最後もうスクリーン見れなかった!」

無「白!こんど一緒に図書室行こうぜ!な!」


『早起きのごほうび』

「う、んんっ……ふぁ、く、ぅぅ……まぶし」

 朝、太陽の光は容赦なく私をカーテン越しに照らし出す。

 2月の天気は空気が冷たいながらも光はあたたかいので、朝のこの時間はまどろみ戦わなくてはならない。

「んー、ん、む……」

 もぞもぞと動き、ちょっとした防寒具を着こんでから外へ窓を開く。

 鍵を開けようとすると金具に触れると、

「きゃっ……冷たぁ……」

 金属から伝わる冷たさに、一瞬怯んでしまうのもいつものこと。

 空気を入れ替えるため、ではない。光を浴びるだけなら、カーテンを開くだけで十分だ。

 その理由は、

「お、白、おはよう。今日も寒いなー」

 ちょっとはにかんで、あいさつをする先客に会うため。

 毎日、眠気覚ましに外の空気を吸うために、窓を開けていることを知ったのはつい最近のこと。

 それから、私の早起きが始まった。

 あたたかい毛布から離れるのは大変なことだが、辛くはない。

 彼のいつもよりゆるんだ、やわらかい笑顔を独り占めできるのだから。

 私だけしか知らない、彼の秘密。早起きした私への、ちょっとしたごほうび。

「おはよう、色無くん」

 そして、一日が始まる——。


『snow smile』

無「うわ、雪だよ……」

白「わぁっ、雪だねえ……つめたっ!」

無「二月に雪ってのもなぁ。しかも今日って節分だし、なんか意味ありげだなぁ」

白「……鬼さんも、今日は外に出ないで家から出て行かないかもね」

無「それは困るな」

白「ふふ。はぁっ、息も、白いよ……」

無「白、あんまり外にいると身体壊す」

白「うん、でももうちょっとだけ、ここにいていい?」

無「……寒いから、もうちょっとこっち寄って」

白「……うん」

 ぽふっ

白「あったかい、ねぇ……いきなりどうしたの?抱きしめてくれるのは嬉しいんだけどね」

無「なんか、消えそうだったから。よくわかんないけど、ちょっと怖かった」

白「うん」

無「雪みたいに綺麗に見えて、それで消えそうなくらい、なんか——」

白「ここにいるよ」

無「えっ?」

白「大丈夫、わたしは、ここにいるよ」

無「……ん、悪かった」

白「ううん、いいの。心配してくれてありがと。本当に嬉しいよ……それに、」

無「何だ?」

白「離さないで、いてくれるんだよね?」

無「……ああ、もちろん」

白「だったら——」

 ぎゅーっ

白「ずっと、一緒だよ。えへへ」


『fragile』

風邪をひきました。……そんなに珍しいことでもないですね。

でも、一人で寝ているときの寂しさは、何度経験しても慣れるものではありません。

誰かにいてほしい。そう思うことはよくあります。

「白、具合どうだ?」

……色無くんだ。

「……まだちょっとだるいかも」

確かにだるさはありますが、色無くんがきてくれて、それも和らいだような感覚になります。

「そっか。早く治るようにゆっくり休めよ」

嬉しいことです。わざわざお見舞いに来てくれるなんて。

……でも、今日の私は——

ぎゅ

「……白?」

「ごめん……ちょっとだけ、こうさせて……」

私はいつか一人になる。……そんな不安が、頭から離れないんです。

「……少しだけ、寂しいの」

この繋いだ手だって、すぐに解かれるかもしれない。それでも、ほんのわずかでも……

ぎゅ

「……え?」

色無くんの手に力が入りました。穏やかな目で、彼は私を見つめます。

「ちょっとだけ、なんて水臭いこと言うなよ。白が安心できるまで、俺はずっとここにいるよ」

「色無くん……」

色無くんの手は、暖かかった。私の寂しさが、少しずつ溶けていく。

「二人なら、大丈夫だろ?」

その笑顔は何よりのクスリです。

「——うん」

早く、元気にならなくっちゃ。


『白いカーテン』

学校の授業は、基本的に同じことの繰り返しばかり。

いつもと同じように席に着き、同じように毎回黒板に書かれたものをノートに写す。

授業というのは思っていたよりも大変だった。でも、自分が望んだこと。

病室に一人でいた頃では、きっと経験できなかった、私の夢の1つ。

「ふぅ、疲れた……」

ふと、黒板から目を離し、空を見ようと窓へと視線を向ける。

あぁ、そういえば病室からも、いつもこんなふうに見ていたんだっけ。

「……」

まぶしいはずの光は、カーテンによって全て遮られている。白い、白いカーテン。あそこと、あの病室と同じ、真っ白。

「ははっ……なんだ……」

なんだ、結局、私はどこに居ても同じなんだ。結局は、同じ場所に戻る。真っ白なあの場所へ。

離れたつもりになっていただけなんだ——

肩の震えが止まらない。必死に押さえつけても、いづれ気付かれるかもしれない。

怖い、怖い怖い怖い怖い——

「おい、白」

「ひゃうっ!」

「そこ、うるさいぞ!授業中は静かに!」

「「は、はい!すみません!」」

「……まぁいい。授業、続けるぞ」

び、びっくりした……いきなり背中をつつかれて、本当に驚いた。だって、私の後ろの席は、

「わ、悪かった。そんなに驚くと思わなくて」

例によって例の色無くんだったから。なんとか平静を装って、小声で返す。

「ううん、大丈夫……どうしたの?」

「それが……これ、黒から回ってきた」

それは、折りたたまれた小さなメモ帳だった。それともう一つ、破られたノートの切れ端。

「先生がまたこっち見るかもしれないから、とりあえずまた、後でな」

そう言って、私に授業に戻るように促す。

突然のことに戸惑ってしまったが、手渡された手紙の方が気になり、折られたメモ帳を開いた。

『大丈夫。だから、安心して。私がついてるから』

それだけ。なのに、どうしてこんなにも、温かくなるのだろう。

「もう、ばればれだなぁ」

黒ちゃんに隠し事、できないや。それと、ありがとう。

残ったもう一枚の、ノートの切れ端。もう見なくてもわかる。

それでも、確かめてみたくなるのは、どうしてだろうか。そこには、ぶっきらぼうに、ただ一言、

『今日、一緒に帰ろう』

もう、大丈夫。目を閉じれば思い浮かぶ。必死に私を元気付けようとする、彼の姿が。

嬉しくて、愛おしくて、そっと。その切れ端を両手で抱き締めた。


『ゴミ出し寒い日の朝には』

朱「今日は燃えるごみの日だからなー。みんなまとめておくように」

無「んで、俺が運ぶわけですか……」

朱「当たり前だろ、唯一の男手。期待してるぞ?」

無「はぁ……ま、頑張りますよ。おーい、これで全部か?」

白「ま、待ってぇ……あと、これもお願い、して、いいかな……」

無「白、おはよう。な、なんか重そうだな。ほら貸して、持つから」

白「あ、ありが、とう……はぁー、重かったぁ」

無「んしょっと。ごくろうさん、部屋戻ってていいぞ。後は俺が外まで運んでおくから」

白「……やっぱり手伝おうか?」

無「気持ちは嬉しいけど……重いぞ」

白「私だって……これ、ぐ、らいっ……お、もいっ。だめ、だぁ……はぁ」

無「ほら、白。貸してみ?」

白「むーっ……はい」

無「ん、よっと。ほら、そっちの手に持ってるのも」

白「これぐらいは私でも運べるっ!」

無「ほら、無理しない。そっちの手だってぷるぷる震えてるぞ?」

白「でも、ちょっとぐらい、力になりたかったんだもん……」

無「外は寒いし、まだ少し氷が残ってるからな。怪我させたり、少しでも白には無理させたくないんだ」

白「むーーーーっ……あ、そうだ!じゃあ、はいこれ」

無「これ、白のマフラー?」

白「うん、寒いなら必要でしょ?それに、色無くんもちょっと薄着みたいだし」

無「俺は……これから動くから、そんなに寒くは——」

白「風邪ひいたら、こまるもん……せめて、これだけでも……お願い……」

無「……ん、わかった。ありがたく使わせてもらう」

白「ほんとっ?よかったぁ。じゃあ、巻いてあげるね」

無「……なんか、照れるな」

白「ふふ、そう?はい、できました。それじゃあ、いってらっしゃい!気をつけてねー!」

無「おう、行ってきます」


『寂しいときには』

白「色無くん、おはよー。起きてる?……あれ、まだ寝てる。早く起きないと、間に合わないよ?」

無「う、あたま、痛いんだ。朝、気付いたら毛布とかベッドの下に落ちてて、寒くて、風邪かも……」

白「だ、大丈夫?熱は測ったの?」

無「まだ。つーか体温計、どこにあったかな……」

白「むむ……ちょっと待ってね。鞄の中に入ってるから……あった。これ、わきで挟んで」

無「白、俺のことは気にしないでいいから、学校が」

白「いいの。色無くんがこんな様子じゃ気になって、授業どころじゃないもん」

無「……それでも、迷惑掛けたくない」

白「先週、私がちょっと体調崩したからって、昼休み中ずーーっと保健室に付添ってくれたのは、誰かなー?」

無「それは」

白「その後、保健室から寮の部屋まで私をおぶって運んでくれたのは……」

無「……わかった。その代わり、風邪が治ったら一緒に、説明して謝りに行く」

白「うん。だから早く治そ?」

 ピピッ

白「ん、ちょっと熱があるかな。おでこ、熱い?」

無「……白の手、冷たくて気持ちいい」

白「もう……どうせ私は体温、低いもん」

無「でも、丁度いいから。悪いんだけど……もう少し、このままで……」

白「はいはい……ふふ、もうちょっと、だけだよ?」

無「ん、ありがとう」

白「いーの、これくらい。それにね、たまには甘えてくれた方が——」

無「……zzz」

白「……かわいいんだけどね。ふふっ、疲れちゃったかな?」

 なでなで

白「タオル、持ってこなきゃ……それと、着替えも……」

無「……ん、んんー……zzz……」

白「早く、元気になってね。じゃないと……嫌だよ。寂しいよ。独りに、しないでよ……」

無「……し、ろ……」

白「えっ!?……ね、てる?何だ、寝言か……う、ん。ありがと、色無くん……」


白「んー、どれにしようかな……」

無「あれ、白じゃん。こんなところで何してるんだ?」

白「あ、色無くん。こんにちわ。えっと、新しい日記帳買おうと思って、それで」

無「へー、白って日記つけてたんだ。確かにこまめに書いてそうだ」

白「色無くんは日記……しなさそうだね」

無「ん、まぁ、面倒そうだしな。白はどれくらい書いてる?」

白「えーっと……小学生のときから、かな」

無「すごっ!もう何十冊目とか、それぐらいじゃないか……」

白「えへへ、そうかな……て、照れるよ」

無「毎日続けるのも大変だけどさ、そんなに書くことあるのか?」

白「大変じゃ、ないよ……それに、書きたいこともいっぱいあるんだ」

無「なるほど。で、その書きたいことってどういうこと?」

白「えっ、それは、そのぅ……えと、な、内緒」

無「そう言われると、余計に気になるって」

白「むぅ……だめ」

無「む、むくれるなって。ごめん、日記の内容聞くなんてどうかしてた」

白「そんなに謝らなくても……じゃ、じゃあ、せっかくだし、どんな日記帳がいいか選んで?」

無「それは……自分で選んだほうがいいんじゃないのか?白のなんだし」

白「いいの。色無くんが選んで」

無「んー、それじゃあ……これ、かな。白はどう?」

白「……うん、私もこれがいい。絶対、大切にするから」

無「そっか。じゃあ、これは俺からのプレゼントってことで。すいませーん、プレゼント用に包んでもらえますか?」

白「え、えーっ!?」

 今まで何十冊もの日記帳があったけど、きっとこの一冊はどの日記帳より大切なものになる。

 それは、忘れられない、いつまでも覚えていたい大切。

 だから私は、その瞬間をいつでも思い出せるように、書き留める。

 思い出を「ありがとう」、と。


白「今日はお出かけ日和だねー。んー、まぶしー」

無「確かに。でも、気温が上がりきってないから少し寒いけど」

白「うん。春も、そろそろかな?」

無「花見にはまだ早そうだけどな」

白「そーだねー……あれ、シャボン玉が浮かんでる……」

無「ほら、あそこで子供が飛ばしてる」

白「え、どこ?……あー、ホントだ。ふふ、なんか懐かしいね」

無「俺はそんなにやったことなかったけど、やっぱ綺麗だな」

白「うん。ちっちゃな頃は、割れるたびに泣きそうになってたっけ……」

無「泣いてた?」

白「えと、恥ずかしながら。だから、割れちゃうと悔しくて、何度も作って……」

無「その度に泣いてた、って?」

白「むむむ……どーせ泣き虫でしたよ、私は」

無「作って、泣いて、作って、って……もしかして、白って意外といじっぱり?」

白「だって悔しかったんだもん!シャボン玉が、なんか、可哀想で……」

無「いや、それだけ白が優しかったってことだろ?」

白「そう、かな……シャボン玉の歌、覚えてる?」

無「あー。『シャボン玉飛んだ、屋根まで飛んだ』ってやつか?」

白「そうそう。あの歌って、すごく悲しい歌だと思ってたの。せっかく屋根まで飛んだのに、割れちゃって」

無「メロディーもちょっと悲しげだな」

白「うん。でもね、最後に『かーぜかーぜふくな』ってあるでしょ?応援してるみたいに。だから頑張ろうって思えるの」

無「それで、何度も飛ばそうとしてたのか」

白「結局、全部割れちゃって、無駄になっちゃったけどね……」

無「無駄じゃない。そう思えた白の気持ちは、絶対無駄になってないよ」

白「……うん、ありがと」

無「んー、じゃあシャボン玉でも買いに行くか。久しぶりにやってみない?」

白「うん!行こっ!……ふふ、しゃーぼんだま とんだ♪ やーねーまーで とんだ♪」

 どこまでも飛ばそう、決して無駄なんかじゃないから。そう、何度だって——。


白「あかりをつけましょ、ぼんぼりにー」

無「……どうしてオンナノコは、雛祭りにこんな怖い顔した人形を飾るんでしょうか」

白「色無くん、それは言いすぎだよ」

無「ごめん。でもなぁ、ほら、アレ見て」

白「えーっと、桃ちゃんと紫ちゃんがお雛様を飾る役の取り合いしてる、のかな?」

無「そんなに、これが大切かねぇ」

白「こら!そんなに乱暴に持っちゃダメだよ。人形は大切に扱ってあげなきゃ」

無「……ちょっと頭つかんだだけなのに」

白「いろなしくーん?なにか言ったかなー?」

無「いえ、何も!」

白「んー……やっぱり男には分からないかなぁ?」

無「まぁ、正直に言えばそうだけど。白はどうなんだ?お内裏様とかお雛様とか」

白「え、私?んと……特別にどうとは思わないけど。綺麗な着物とかは、うらやましいと思うよ」

無「そっか。でも、あんな高いところでみんなを見下ろしてて、疲れそうじゃんか」

白「そ、そうかな……?」

無「どっちかって言うと、俺は下で騒いだり、飲み食いしてる方が楽しそうだな」

白「男の子らしい考えだね……うん、私もそっちの方が、楽しそう」

無「やっぱり、祭りっていうぐらいなら騒がないと」

白「そだね。でも……二人っきりで並んで、ちょっとうらやましいなぁ……」

無「実は、白も雛壇にお雛様を飾りたかったとか?」

白「私は、いいの。そういうお雛様とか似合わなそうだし……」

無「……雛壇のお雛様はないけどさ、雛祭りはおんなのこのお祭りなんだろ?だったら、白も立派なお雛様だよ」

白「色無くん、そんな、気を遣わなくていいって……はずかしいよ」

無「いいや、白こそ遠慮しすぎだ。お祭りは騒がないとな。ほら、飲め飲め」

白「うん……熱っ!これ、甘酒?」

無「ごめん、まだ熱かったか……っ、確かに、熱い」

白「んもぅ、色無くんのバカ……ふふっ。でも、ありがとう。嬉しかったよ」

無「お、おう。ま、元気が出てなによりってことで。さて、お祭りを始めましょうか、『お雛様』?」

 たった一人の五人囃子と、お内裏様のいないお雛様の、慎ましやかな雛祭りが始まる。


無「はぁ……」

白「いきなり溜息なんて、どうしたの? 色無くんにしては珍しいね」

無「いや、先輩達の大学とかの進路が決まるとさ……自分もそろそろかな、って」

白「進路かぁ……色無くんはどこを受けるって決まってるの?」

無「うーん、まだはっきりとは。白はどうなんだ?」

白「私? えーっと、うーんと……幼稚園の先生、とか……」

無「似合ってると思うよ」

白「でも、看護婦さんも憧れるなぁ……」

無「白は患者さんの気持ち、ちゃんと分かってやれそうだな」

白「うー、でもあれも……」

無「え、まだあるのか!?」

白「だって、面白そうなこと、まだまだいっぱいあるよ?」

無「そうかな……なんか白がうらやましいよ」

白「私は、小さい頃からあんまり外には出られなくて……知らないことの方が多いから」

無「知識としては知ってるんだろ?」

白「うん。でも、みんなみたいに体験したことはないから。幼稚園の先生がどんなふうに子供に触れ合うのかは知らないんだ」

無「……そっか」

白「だから、いろんな事に興味はあるけど、それができるかは心配かなぁ」

無「……出来るといいな、いろんなこと。俺でよければ、いつでも力になるから」

白「ありがと。色無くんがそう言ってくれると、なんでもできそうだよ……えへへ」

無「おう、任せとけ」

白「うん、でもね……やっぱり、私が一番なりたいものはね——だよ」

無「ん?何か言ったか?」

白「……ううん、なんでもない。ほら、早く行こうよ!」

無「うわ、腕ひっぱるなって! 白、おいっ!」 

 いつか、そう遠くない未来、生涯あなたの隣を歩む人が、どうか私でありますように。


 コロコロコロ……

白「あ、ボールだよ」

子供「すみませーん、ボールとってください」

無「俺に渡して、よっしゃ投げるぞーっと」

 ビューーーン

子供「(キャッチ)ありがとうございまーす」

白「すごい、ど真ん中ストライクだね」

無「昔は野球少年だったからね」

白「私は外で遊べなかったから……」

無「(あ、そうか)よし、今からやってみない?」

白「え?でもやったことないから」

無「大丈夫、俺がちゃんと教えるからさ」

白「えーと、それじゃお願いします色無コーチ」


無「あ、暑い! つーかあったかい!」

白「だから、出掛ける前にちょっと着替えれば? って言ったのに……」

無「まさか、こんなに天気がいいとは……セーター脱ぐか」

白「えっ、ここで?」

無「ちょっとこれ、持ってて。すぐ終わるから」

白「もう、仕方ないなぁ……終わった?」

無「ああ……ふぅ、あっつ。急に春っぽくなってきたな」

白「日差しはね。まだ空気は少し冷たい気がする。ほら、風が……」

無「おー、涼しい……」

白「なんか、微妙な感じだね。ぬるいってわけじゃないけど」

無「ほんとにな……うー、目、かゆい……」

白「あー、そんなにこすっちゃダメだよ! ほら、目がまっかだよ」

無「だって、かゆいし……うー、目薬あったっけ……」

白「色無くんって、花粉症だったっけ?」

無「いや……去年までは、普通だった……かゆ」

白「目薬あった?」

無「ないみたいだ……ぐぁ、もう、限界……」

白「だめだめ!んー、ほら、色無くん。こっち向いて」

無「どうしたんだ?」

白「いいから。もっと頭下げて、届かないから……よし。目、開けたままでね」

無「その……恥ずかしいんだけど……顔近いし——」

白「ふーっ」

無「うわっ! 白、今、息が!」

白「どう、すっきりした? ひんやりしたでしょ」

無「その、すっきりっつーか、かゆいどころの話じゃないっつーか……」

白「かゆいときの裏技なんだって。効いたかな?」

無「それはもう……すごく」

白「よかったぁ。でも、一応目薬は買いに行こ? 私だって、すっごく恥ずかしいんだから……もぅ」


橙「これなんかどう?」

白「あ、かわいいー」

橙「ちょっと合わせてみて」

白「こ、こうかな?」

橙「うんうん、すっごく似合うよ」

白「そ、そうかなぁ?」

橙「色無もこういうの好きそうだし」

白「え、そんな、色無君は関係ないもん……」

橙「まぁまぁ、ちょっと試着しといでよ」

白「うん、ちょっと行って来るね」

 パタパタパタ

白「ど、どうかな?」

橙「うん、やっぱり白には似合うね、すごくかわいいよ」

白「なんかちょっと恥ずかしいけど」

橙「明日のデートはそれ着て行きなよ」

白「だ、だから色無くんは……」

橙「え? 色無とデートなんて言ってないけど?」

白「うぅぅ……」

橙(あたしも負けないように気合入れて服を探さないと)


白「はぁ、すっかり暗くなっちゃった。もっと早く帰ればよかったなぁ……」

 ガサガサッ

白「え、今の音……そこの茂み?」

 にゃー

白「なんだ、猫かぁ……びっくりした。まだ小さいのかな……こんな遅くにどうしたの?」

 にー

白「ほーら、お母さん心配してるよ?おうちに帰ろう、ね?」

 にーにー

白「この子、独りになっちゃったのかな……独りぼっちに……」

 んなぁー

白「あれ、大きい猫だ……もしかして、あなたのお母さん?」

 にゃー

白「そっかぁ……ちゃんと、帰る場所があるんだ……よかったね……」

 んなぁー にー

白「うん、ばいばい。もう、はぐれちゃダメだよー?……ほんとに、よかった……」

 

 残された私は、結局、独りぼっちのまま。なら、私の帰る場所は、どこに——

無「見つけた。あんまり遅いから、心配して探したぞ?」

白「……いろ、なしくん?」

無「他に誰に見えるって言うんだよ。さ、帰ろう。みんなも待ってる」

白「うん、ありがと。それと、余計な心配かけてごめんなさい。連絡すればよかったね……」

無「無事で何よりってことで。それに、みんなは迷惑だなんて思ってないよ。絶対に」

白「そうかな……」

無「そうだよ。あー、それと……おかえり、白」

白「え、あ、えと……」

 なんだ、私にもあったんだ。こんなにも近い場所に。それはたった一言の、小さな魔法。

白「……うん、ただいま」


 ざわ……ざわ……

白「わあっ、すごい人の数……みんな、緊張した顔してるね」

無「そりゃあ、今日は受験の合格発表の日だからな。うちの学校にもこれだけ受験者がいたのか」

白「あ、合格者の掲示されたみたいだよ」

女1「……やった、わたし合格してる!」

女2「わ、私も! 来年も一緒だね!」

女1「よかったぁ……でもでも、知ってる? この学校の寮のうわさのこと」

女2「え? 知らないけど……やだ、せっかく合格したのに。それってなんなの?」

無「寮のうわさ……なんだか嫌な予感がするな」

白「ちょっと、立ち聞きなんてよくないよ。でも気になるなぁ……」

女1「実は、ここの寮には一人だけ男子生徒がいるんだって。彼は何人もの寮生の女の子たちを従えてるって……」

女2「こ、怖いよ……他には?」

女1「えっと……寮母さんにも息がかかっていて、やりたい放題とか」

女2「それってもう無敵だよね?」

女1「なんと、中には美人OLとかもわざわざ寮にやって来るんだって!」

女2「なんでOLさんなんだろう……それって本当のことなの? だんだん嘘っぽくなってるし」

女1「ほんとほんと! だってわたし、ここの先輩に聞いたんだもん。確か髪が灰がかってる……」

女2「えー……じゃあ私が違う人に聞いてみるから。あのー、すいません」

白「は、はいっ!? あのあの、私ですか?」

女2「はい。ここの学生さんですよね? あの、ここの寮のうわさについてなんですけど——」

白(なんか、すごいことになってるね……)

色(灰のヤツ、余計なことを……後でなんとかしないと……)

女2「——というわけで、これってホントのことなんですか?」

白「あ、えーっと……」

女1「……」

女2「……」

無「……」

白「……うん、実はそうなんだ。すごーい人なんです、これが」

無「んなっ、ちょっと……もがもがっ!」

白「(ちょっと静かにしてて)……だからね、あんまり寮はおすすめしないかな?」

女2「や、やっぱりホントだったんだ。み、みんなにも知らせないと!」

女1「だから言ったでしょ? あ、ありがとうございました。ちょっと、待ってってばー!」

白「ふぅ……」

無「……しーろー? どういうことかなー?」

白「あは、ははは……怒った?」

無「理由が、あったんだと信じてるけど」

白「えと、いや、って思ったの。きっと、あの寮に入れば、誰だって色無くんのことを……」

無「俺?」

白「わ、ちがっ……ふんだ。どうせ、色無くんは新入生の子たちのことばっかりになるもん」

無「だって、新入生なら誰かがいろいろ教えてやらないとだろ?」

白「そうなんだけど、違うの! じゃなくて……私のそばに、少しでもいてほしい、から……」

無「白のことがどうでもよくなんかならないよ。絶対に」

白「わがままって、わかってる……でも」

無「うん、気持ちは伝わってるから。大丈夫」

 なでなで

白「う、ん……」

無「よし、一段落着いたところで、灰のヤツを止めに行くか。このままじゃ新入生は全滅だ」

白「ふふっ、そうだったね。このままじゃ、色無くんのおそろしい正体がばれちゃう」

無「こらこら……さ、行くぞ。白も話をややこしくした一因だからな。付き合ってもらうぞ?」

白「はいっ!」


使いかけで、かなり短くなった色鉛筆がある。

それは、12色入りのセットで箱に入れられているわけでもなく、ただ珍しい色というわけでもない。たった一本の、白の色鉛筆。

大抵の人は、ふと疑問に思うだろう。なぜ、『白』が短くなるほど使われているのか。

けれど、別におかしいことじゃない、と彼女は言った。それに——

『色鉛筆にまつわるエトセトラ〜白い不幸の花〜』

一週間ほど前、俺はこの病院に入院することになった。盲腸らしい。腹は痛かったけど、手術自体は予定どおり行われ、経過は順調。

退院も、そうかからずにできるはずだった。にもかかわらず、俺はまだ入院している。

別に、手術が失敗したわけじゃない。併発症状も何もない。ただ、自業自得ってやつだ。いや、怪我の功名かもしれないけど。

入院して八日目、それまでの準備や検査などで暇を持て余していた俺は、退屈しのぎに病棟の外へ出ていた。

一週間近く経ったとしても、病院特有のあの臭いに慣れることはできない。

「すーーーーっ、はーーーーー。外のほうが、幾分かましかな。少し歩こう……何もないけど」

やはり、所詮は病院の領内、娯楽スペースなどあるはずもなく、数分してから人影のなさそうなベンチに座ることにした。

どうやら、庭らしい小さなスペースにたった一つ、ベンチが置かれていた。

しかし、庭というには少し貧相で、申し訳程度に花壇が作られているだけなのが物悲しい。

「誰も来ないし、ちょうどいいや。幸い、日当たりは悪くないし……」

季節はまだ初春といったところ、しかし地域柄もあって、うとうとするには申し分ない気温だ。

加えて連日の検査の疲れ、退屈さも相まって、もうこれは寝るしかない。これで枕があればなぁ……うとうと……

「——あのー、もしもし?こんなところで寝てちゃだめですよ。ちゃんと、ベッドで寝ないと」

「んぁ……また検査ですか?あー、パンツまでは脱がさないでください……自分でできるんで……」

「はひっ!?」

「あれ……ここ、どこだ……あー、寝てたのか……何時だろ……」

「……あ、あのっ!」

「うわっ!あ、なんですか?」

「その、こんなところで寝てたら風邪引きますっ!それと……ぱ、パン……っ!」

「は、はい……ごめんなさい……?」

「えと、あ……そのぅ……失礼しましたっ!」

 スタスタスタ……

「な、なんだったんだ?」

今思えば、相当間抜けな顔してたかもしれない、俺。これが、一番最初に彼女に話しかけられたときのこと。

それから翌日、前日と同じ時間に、あの小さな庭のベンチに通うことにした。

もちろん、彼女が気になったのは言うまでもない。それに、寝起きでちらっとしか見えていなかったが、かわいかったと思う。

しかし、何よりこの病院では同年代の患者を見たことがなかった。おそらく彼女も歳が近いはず。退屈しのぎにはちょうどいい。

「それより、ほんとに来るんだろうか……そこが一番の問題点だ」

名前も患者かすらも聞いていないし、そもそも昨日はなんとなくだが怒られていたように思う。

そんなことがあったというのに、わざわざ翌日も来る人などいるのだろうか?

「このままだと、また寝そうだ——いた」

「あっ……こ、こんにちは」

白いブラウスにカーディガンを羽織い、ロングスカートに身を包んだ彼女は、見事におしとやかなお嬢様のようだった。

長く、よく手入れの行き届いてそうな髪が、太陽の光をうけてきらきらと輝いている。

まさに、淑女。深窓の姫君というのも過言ではないように思えた。

スケッチブックと色鉛筆を両手に抱えていなければの話だが。

「今日は、寝てないんだね。風邪引いてないみたいでよかったぁ」

ずいぶんぼけぼけしたお姫様のようです。えがおがまぶしいっ。

「色無、くんって呼べばいいのかな?」

「おう。一週間くらい前に入院してきた。そっちは?」

「わたしは……白でいいよ。みんなそう呼んでるし。入院生活はけっこう長いです……何年だろ」

「そりゃあ長いな。古株っつーか、御局様?」

「むー、それは嫌味っぽい……」

「わるかった。じゃあ、ベテランってことで」

「うーん、入院生活のベテラン……う、かっこわるい」

「だったら、早く退院しないとな?」

「……うん」

やばい、地雷か……話題変えよう。

「あー、なんだ……そのスケッチブック。何描いてるんだ?」

「……これのこと?」

「そうそう、それ!もしかして、昨日も持ってた?」

「うん」

「よかったら、見せてほしいんだけど」

「……だめ」

「どうしても?」

「だって……上手じゃないし、見せるようなものじゃないよ」

「そっか。ごめん、悪いことした」

「あ、そういうわけじゃなくて……ごめんなさい」

「こっちこそ、勝手なこと言ってすまなかった」

「謝るのは私のほうだよ!ごめんなさい」

「……プッ」

「……ふふっ」

それから、どちらからともなく笑い声があがった。それは、辛気臭い病院生活で、初めて笑った日のこと。

それから翌日、その翌日、と日を重ねては小さなあの庭へと通いつめ、白と気の済むまで話した。

毎日、欠かすことのない日課。そう言えるほどに、白との時間は大切なものになった。

俺と、白と、小さな庭と、申し訳程度の花壇と、そしてベンチ。たったそれだけの世界で、十分に満たされていた。

「ここの花壇って、ほんとに慎ましやかだと思わない?この大きさの病院にしては、だけど」

「えーとね、ここって実は病院の花壇じゃないんだよ」

「んー、どういうことだ?」

「内緒の話なんだけど、ここの病院にはお花がすっごく好きな看護婦さんがいるの」

「ふむふむ、なんとなく先が読めてきた」

「わー!だめだめ!ちゃんと最後まで聞いてくれなきゃ……」

「はいはい、それで?」

「むー、それで、その看護婦さんが内緒で作り始めたのがきっかけなんだけど、院長先生にばれちゃって怒られる、と

 思ったら、以外にも快諾してくれたんだって。それでベンチも寄贈してくれたらしいよ」

「ずいぶんと気前がいいな、その院長……」

「いい人だよねー?でも、こんな目立たないところだからあんまり人も来ないんだって。こんなに綺麗なのになぁ……」

「そうだな」

「この花壇も小さいけどね、季節が変わると花の種類も変わるから、いつ見ても楽しいんだよ?」

「その看護婦さん、ほんとに花が好きなんだな……仕事もあるのに、花の手入れなんて」

「うん、すごいよね……」

「もしかして、白がスケッチブックに描いてるのって——」

「ふふっ、さて、なんでしょう?」

本当に一瞬のことだった。淡い、うっすらとした微笑が、突き刺さる。

「えっ」

キシ、と体のどこかが軋む音がした。

翌日、今日もまた、小さな庭でのひとときが始まった。が、どうやら彼女はしゃべりながら何かを描いているらしい。

ただ、俺が覗こうとすると、決して見せようとはせず、一部分ですら描きかけを見せてはくれないけれど。

しかし、どうもおかしい。いや、絵を描くことについては、おそらく以前から続けていたはずだ。でも、何で急に……?

の前に、もっと先に突っ込むべき部分を発見してしまった。

しょ、正気か?

「な、なぁ、白。さっきから何か描いてるみたいだけど……ほんとに描けてるのか?」

「えと、どうして?」

「そりゃあ、だって、なぁ?」

「んー?変な色無くん。どうしたの?」

「変なのは白の方だって。さっきから白い色鉛筆しか使ってないじゃんか」

「んー、これのこと?そんなに変かな……?」

「変、っていうか……画用紙に白い色で描いたって、見えないだろ」

「そうかな?」

「そうだろ、普通。全く、これで大丈夫なのかよ……ちょっと見せ」

「だーめ、まだ完成してないもん。できてからのお楽しみだよ」

「?俺がおかしいのか?それとも目の錯覚なのか?うーん、頭がショートしそうだ」

リアルに頭が痛くなってきた。いったい何が起こってるっていうんだ?

「うーん。それじゃあヒントを……」

「ズバリ……?」

「……ふふっ、やっぱり内緒」

なんじゃそりゃ。結局、この日、頭痛が消えることはなかった。

「あらあら、37.3℃……今日は安静にしててくださいね」

「は?えーと、今なんて……?」

「動くな寝てろ、ってことです。いったい昨日まで何をしてたんですか?」

「何って、外で」

「今日から外出禁止です♪というか、病室から出ちゃだめですよ」

「なっ、そんな……」

「はい、おしゃべりも終わりです。しっかり寝てれば治りますから。それでは」

ちょ、ちょっと待てって。37℃ってたいしたことないって。おれは、あの庭で、しろと……あ、ちから入らないや……

心臓の音が、体中の血の流れがはっきりと聞こえる。ドッドッドッドッ……止まらない。

ふと、窓から外を眺めると、あいにくの曇天だった。

白は、どうしたんだろ……

「36.2℃ですか……ちょっとがんばりましたね、うふふ」

「別に、何にもしてないですから」

「あら、そんなに外に出たかったんですか?」

「そんなんじゃあ……ないです」

「うーん、でも今日は雨みたいですよ?最近こんな天気ばっかで困ります」

「……そうですね」

あれから、もう三日は過ぎている。俺は結局、白には会えずじまいだった。

さすがにこんな天気じゃ、外に出れないことも分かってる。白もきっと自分の病室にいるんだろう。

ただ、この三日間は退屈以上に、何か物足りなさを痛感せずにはいられなかった。

あるはずのものが、ない。探したいのに、探せない。届かない。

あぁ、俺は、彼女の病室がどこにあるかも知らなかったんだ——悔しい。

どしゃぶりの四日目は、流れるように過ぎてゆく。

「はっ、はっ、はっ——」

朝の検温をパスし、朝食と診察もそこそこに、急いであの庭へ向かった。やっと会える。

話したいことはベッドの中で散々考えた気がするけど、今になってはもう思い出せない。

とにかく、まずはおはようって声をかけて、それから……

「それから、久しぶりって……言って、それから……」

いや、ほら、まだいつもの時間よりは早かったわけだし、少し待ってればすぐ来るって。

「待ってる、か」

ひとり、ベンチに腰を下ろす。昨日の雨で、座った部分が濡れていた。最悪だ。

それでも、ひたすらじっと待つ。白が来たら、「濡れた所に座っちゃったよ」とか言って、笑ってしまえばいい。

「まだかな……」

「そろそろだよな……」

「なに、まだまだ……」

「早く、会いたいな……」

「しろ……」

気がつけば、あと少しで日が傾こうとするところだった。

「色無さん、あなた、まだ熱が下がったばっかりってこと忘れてませんか?」

「そんなこと……ないです」

「私の目を見て、同じことが言えますか?」

「えと、すいませんごめんなさい」

「全く、これで色無さんが倒れちゃうようなことでもあったら、担当のわたしの評判、がた落ちですからね」

「はぁ、すいません」

「ふふっ、真剣さが足りてないみたいですね。私が言っている意味、分かってますか?」

「サー、イエッサー!」

「うふふ、よろしい。それより、そんな風になってもいいほど行きたい場所なんてあるんですか?まさか、脱走……」

「してませんから、注射器をしまってください。ぴゅーって薬液を出さないでください……その、庭です」

「あら、そんなところがあったんですか?」

「普段は見えにくいんですけど、小さな花壇とベンチのあるところです」

「……」

「あぁ、それと、どこの病棟かは分からないんですけど、白って子の病室がどこだか知ってます?」

「……」

「あの、どうかしました?」

「ねぇ、色無さん。その子、色無さんの知り合いですか?」

「んまぁ、友達みたいなもんです。いつもさっき話した花壇で」

「いないです」

「え?まさか、だって確かにこの前まで」

「いません、この病院内には。いないんです」

「な、なんで、黄緑さん……泣いて……」

「いないん、ですよ……それじゃあ……失礼します……」

なんで、どういうことだ?意味が分からない。

ただ、さっきから続いている体の軋みは、もうどうしようもないほどに激しさを増すばかりだった。

「黄緑さんのところに行ってみるか。理由を、話してくれるかはわからないけど」

嫌な予感を早く払おうと、俺の病室と同じ階にある、ナースセンターに足を進めた。

正直、顔見知り程度の看護婦は少ないので、黄緑さんがいてくれると助かるのだが。とりあえず、受付の人に話しかける。

「あのー、ちょっとお尋ねしたいんですが。色無といいます。こちらに黄緑さん、いらっしゃいますか?」

「黄緑、といいますと、ナースの黄緑ですか?」

「ええ、少しお話がありまして、こちらにいればと。えと、私用ですので、いなければそれで結構です」

「分かりました。少々お待ちください」

な、なんか緊張するな、あの人。目がするどいっていうか、氷みたいな……

「お待たせしました」

「おおうっ!……あ、すいません。失礼しました。それで」

「?えぇ、黄緑はまだ戻っていません。しばらくはかかるでしょうが……」

「いえ、ありがとうございました。それじゃあ……」

(ねね、聞いた?三号棟の女の子の話。雨の中に何時間もいたって)

(水さんが見つけたっていうベンチに座ってた子でしょ?確か昨日、)

(そう、うちじゃ忙しくて診きれないからって、B病院に搬送された)

「あなたたち、私語は慎んで——」

「なん、だって……?」

おい、なんだよこれ、どういうことだよ、白が、搬送?しかも雨の中って、なんで……

「早く持ち場に戻りなさい。って、え、ちょっと、君!大丈夫!?しっかり!」

キシ、キシ、何かが軋む音がしていた。

ギシ、ギシ、何かが歪む音がしていた。

この音は酷く不愉快だ。早く止めてくれ。もう、聞きたくない。

振り子が振れるように、規則的に体に響く。キシ、ギシ、キシ、ギシ、キシ、ギシ、キシ、ギシ、キシ、ギシ、キシ、ギシ

「……もう、嫌だ」

「色無さん、気がつきました?」

「あれ……何してるんですか、黄緑さん……まだ忙しかったんじゃ……」

「御指名されたまま倒れられたとあっては、側を離れるわけにはいかないですから」

「そう、ですか……すいません、迷惑かけて」

「いえ、謝るのはこっちのほうです。黙っていて、ごめんなさい」

「いいんです……もう。気を遣ってくれたんですよね?きっと白は、俺のことを待ってた、ずっと、雨でも構わずに」

「……」

「白は、無事なんですか?入院は長いって聞いたんですけど、病状までは聞かなくて、それで」

「ごめんなさい、言えないんです。でも、きっと無事なはずです。悪い知らせは、届いてませんから……」

「そうですか……」

「……色無さん、彼女の入院先のことですけど」

「いいんです、今更。会わせる顔、ないですから……こんな、最悪な男と」

そう、今更なんと言って会えばいいのだろう。迷惑をかけた、そんな言葉で片付けられる問題ではない。

俺のせいで、人一人の命があやうく失われるところだった。俺、最低だ……

「色無さん、ひとつ、お渡しするものがあります」

「……何ですか?」

「彼女、ベンチで倒れていた子ですけど、あの子から色無さんに」

「なっ、白、が?俺に?」

「雨の中、彼女はうずくまって何かを必死に守ろうとしてたらしいんです。雨に濡れないようにって」

「ま、さか……」

「これがその、スケッチブックと色鉛筆です。一言、色無さんに、って呟いたみたいです」

そういって手渡されたものは、少し表紙がふやけたあのスケッチブックと、短くなった白い色鉛筆だった。

幸い、中身までは濡れていなかった。これが、必死になってまで白が守りたかった、大切なもの。

俺は、ついにその領域に足を踏み入れる。白が、残したもの。

ページを、開く。

そこには、様々な色で飾られた、様々な花が描かれていた。

大半は俺の知らない花だったが、ページを段々とめくると、あの花壇で見慣れた花があることが分かった。

そして、スケッチブックの最後の1ページに、それより一回り小さいサイズの画用紙が、四隅をセロテープで固定して張られていた。

それは黒地の画用紙だった。そこには、白い線で美しく描かれた花と、その下に添えられた「Lilac」が見える。

最後に見た、白鉛筆。てっきり、白い画用紙に白で描いているのかと思っていたが、違ったようだ。

確かに、黒い画用紙の上に、白鉛筆ははっきりとその軌跡を残していた。

「なんだよ、これ……」

スケッチブックを持つ手が震える。黒い画用紙に描かれた白いライラックが、悲しげに揺れていた。

「なんだよ……めちゃくちゃ、綺麗じゃねえか……」

「知り合いの看護婦に聞きました、その花のこと。

 ライラック、不吉の象徴なんて言われることもあるんですけど、その花言葉は、初恋——」

きっといつまで経っても、忘れることのできない、あの日々。忘れてはいけない過ちを犯した、あの日。

本当は来るべきではなかったのかもしれない。けれど、あれから退院をしても、謝罪を含めて伝えたいことが山ほどできた。

一月の時間が流れ、季節は春をまたごうとしている。気持ちの整理は、まだ終わっていない。できないのかもしれない。

後悔や懺悔で己を武装し、ようやく彼女の前に出ることができるのだろう。

それでも会ってしまえば、彼女の言葉は、俺の鎧を紙同然にも吹き飛ばした。

「もう、会えないかと思ったよ……」

「あっ、その……」

いきなり丸裸になった俺は、以前から入念に用意してきた言葉を失った。俺は、何のためにここに来たんだ?

のどがやけに渇く、ぱくぱくする口が塞がらない。おそらく、これから先、こんなに情けない顔はできないだろう。

「色無くん」

きっと、二度と呼ばれることなどないと思っていた言葉が聞こえてくる。体が、軋みをあげている。

何を言うことが正しいのか、分からないけれど、気がつくと思わぬことを聞いていた。

「どうして、白い色鉛筆なんか使ったんだ?……他にも色はいっぱいあるのに」

一番最初に浮かんだ、あの時の疑問。それがふと、口から出てしまった。謝るべきことはたくさんあるのに。それでも、

「だって、一番好きな絵には、一番好きな色を使いたかったんだもん。えへへー」

きっと、彼女の前では意味なんてない。そう、笑顔が伝えてくる気がする。

償いとか堅苦しいことよりまず先に、この気持ちを伝えよう。それが、誠意ってやつではないだろうか。

さぁっと、吹き抜ける風が、彼女と木々と花々を揺らす。太陽も、彼女たちを輝かせるように光っている。

また、始めることができるのだろうか。彼女との暖かい日々を、続けることはできるのだろうか。

不確かなものばかりだけれど、まぁなんとかなるんだろう、今ならそう思える。

彼女の輝く笑顔がある限り、俺を導いてくれると信じているから。







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 02:52:08