紫メインSS
…ああ良く寝た。今日は土曜か。休日に何をしようかと考えていたら、昨日の屈辱を思い出した。
昨日はみんなでトランプしたら俺がボロ負けに負けてビリなんだっけ?
緑や黒にならともかく、まさか水色や茶色、桃色にまでに負けるとは…。
絶対あいつらグルだとしか思えん。そんな事を考えてたら、一通のメールが。
『今日○時に○○持参の上、近所の公園に集合で。」
…そうだ。ビリになった俺はバツゲームで今日一日、
優勝した奴の言う事聞かなきゃいけないんだっけ?優勝した奴は…。
…そっか。優勝したのは紫だっけ。何故かいつも俺にライバル心を燃やして張り合おうとする紫の事だ。一体何をやらされるんだろう…と今から寒気がする。
とりあえず、指定通りコンタクトから家用の眼鏡に変えて指定場所の公園に向かった。
公園に向かうと、紫が普段見ないラベンダー色のワンピースを着ていた。よく見たら髪型もいつもと違うし。
紫「お、男、ちゃんと眼鏡かけてきたな。」
男「まあね。また、何で眼鏡よ。」
紫「べ…別に眼鏡が好きなわけじゃないぞ…。男と歩いてるの見られたら恥ずかしいだろ…。」
男「ああ、変装って意味ね。」
紫「ま、まあ…そんなとこだ。」
何故だか顔を赤くしてもじもじする紫の様子に驚きつつも、早速バツゲームの内容を聞く。
男「で、なにすりゃいいの?」
紫「一緒に…。」
男「一緒に?」
紫「一緒に…買い物につきあってもらう。」
男「え?そんだけ…?」
何をされるのかと思いきや、拍子抜けした。
別に買い物位、バツゲームじゃなくても付き合ってやるのに。
紫「そんだけって…これは別にデートじゃないからなっ!バツゲームだぞ。勘違いすんなよっ!」
男「はいはい、わかってるよ。」
紫「荷物全部持ってもらうからなっ!お茶もおごらせるぞ!」
男「荷物位持つし、お茶くらいはおごるよ。」
紫「なんだったら晩メシもおごれよ!ラーメンでいいからさ。」
男「はいはい。いつものトンコツでいい?」
紫「なんかお前…今日ムカつくな。眼鏡だからって調子乗るなよ。」
男「紫、早く行かないと日が暮れちゃうよ。」
まあ、こんなバツゲームならいつでもやっていいなあと思った。
無「なんだか今日はあいつら騒がしいな、、、みんなで紫を囲んでるみたいだが、、まぁいいか」
キーンコーンカーコーン
無「はぁ〜やっとおわったぁー」
紫「ねぇ無色、一緒に帰るわよ」
無「ん?あぁ、いいけど」
(こいつと帰えるの初めてだな)
紫「ねぇ、アンタなんか私に言う事と渡すものとかないの?」
無「なんでだよ」
紫「えぇ?!アンタ今日は私の誕生日よ?!」
(あ、そういえば今日は紫の誕生日だった)
無「ス、スマン忘れてた」
紫「はぁ、アンタ気の利かないヤツねー」
無「な、なんだと」
紫「か、、、、かわりにうちに泊まりなさい、、」
無「な、、、なんでだよっ!」
紫「いいじゃないプレゼントの埋め合わせよちょっとお母さんに電話しておくわ」
無「ちょっ、、、まてよ」
紫「あ、お母さん?今日無色が泊まるから、うん、、うん、、わかったじゃあ」
無「勝手に電話しやがって、、」
紫「じゃあ今日の6時半にうちにきなさい」
無「わ、、、わかったよ」
無「おーい紫ー」
ガチャ
紫「あら、無色以外に早いわね今晩御飯作ってるから私の部屋でまってて」
無「わかった」
母紫「あら無色くん、こんばんわ」
無「あ、こんばんわ」
母紫「紫が一生懸命作ってるからちゃんと食べてあげてね☆」
紫「ちょっ!お母さん!!もう変なこと言わなくていいの!
アンタも早く私の部屋で待ってて!!階段上って右側のつきあたりにあるから!」
無「お、、おう、、、」
父紫「む、君が無色君かね?」
無「は、、はぁ」
父紫「ふむ、、、いいんじゃないかな」
無「は、、はい?」
父紫「いやいや気にしないでくれ」
無「は、、、はい、、」
・・・なんだったんだろう
紫の部屋は2階か、、、、ここだな
ガチャ
(意外ときれいだな、、、それにしてもやっぱり部屋も紫色だな
まくらもふとんも紫じゃないか、、、
それにしてもなにをしてまってればいいんだ)
紫「晩御飯できたわよ」
無「あ、今行く」
母紫「無色君はここね
母紫、紫、父紫、無色「いただきます」
(肉じゃがと焼き魚と味噌汁とご飯か)
母紫「その肉じゃが食べてみて、どう?
無「おいしいですけど、、、なんで?」
母紫「ふふふ、その肉じゃが紫がつくったのよ」
紫「ちょっ!だからそんなこといわなくていいってば!!」
母紫「ふふふw、、」
母紫、父紫、紫、無色「ごちそうさまでした」
紫「先に私の部屋いってて」
無「わかったよ」
(それにしても紫意外と料理できるんだな、、)
ガチャ
紫「なにしてたー?」
無「テレビ見てたけど」
紫「ふーん、、」
無「な、、なんだよ」
紫「あ、、あんたす、、好きな人とかいるの?」
無「な、、なにをいきなり!」
紫「いいから答えなさい!!」
無「べ、、べつにいねーよ」
紫「そう、、、、」
紫「……何であんたが一緒にいるのよ」
男「紫と帰った事ないから。それにどうせ緑と帰り道は同じだし、気にするな」
紫「わたしは緑だけを誘ったのっ! あんたはついて来んな!!」
男「……ん? 何だこの人だかり?」
紫「無視するなぁっ〜!!」
緑「何かの撮影してるみたいね」
男「それが何かハッキリしないと気になるな——お?(めるめる)これ、月9のドラマ撮影だとさ」
紫「っ!!(ピョンピョン)」
緑「何で急に分かったの?」
男「黄達もここにいるらしい。で、あいつが俺達にも来いってメールしてきた」
紫「(ピョンピョン)うぅ〜っ!!」
緑「で、この人ごみの中から皆を探すのかしら?」
男「いや〜、無理だろ。合流するなら撮影見終わってからでいいんじゃね? どうよ、紫?」
紫「…ふんっ、バカバカしい。帰る」
男「なんだよ、折角だし見ていこうぜ?」
紫「わたしは興味無いって言ってるのっ」
緑「月曜夜9時のドラマの事なら、貴女よく話してるじゃない」
紫「べ、別に好きじゃないっ!! 月9なんて第5話までしか見てないわよっ!!」
男「確か、今週のが第5話だったよな」
紫「……」
男「……紫。気をつけっ! 休めっ!」
紫「な、何よいきなり」
男「いいからいいから。休めっ!」
紫「何なのよ一体……」
男「よーし、動くなよ?(ズボッ)」
紫「うきゃあっ!? 何人の股の間から頭出してるのよ、変態っ!!(ガスガス)」
男「イタイイタイ、やめろって、バランス崩れて肩車できないだろうが!!」
紫「……かた、ぐるま?」
男「そ、肩車。こうすりゃお前も見えるだろ——っと!!」
紫「きゃっ! ……そう言うのは宣言してからやりなさいよ」
男「改まってこんな恥ずかしい事できるか。勢いが大切なんだよ」
紫「……ふんっ、今回だけは月9に免じて許してあげる」
男「そりゃどーも。見えてるか?」
紫「うん」
緑「盛り上がってる所悪いけど」
紫「あ、緑ゴメン。どうかした?」
男「ひょっとして、お前も肩車して欲しいのか?」
緑「違う。……違わないけど。とにかく、紫」
紫「何? あ、黄達の事なら丁度向こうに見えてるわよ?」
緑「貴女のパンツも見えてる」
紫「へ?……ギャ〜ッ!? このバカおろせっ、おろせぇ〜っ!!」
男「暴れんな、バランス崩れるっ!!」
紫「いいからお〜ろ〜せぇ〜っ!!」
黄「あ〜っ、紫!! 何してんの、あれ!?」
白「肩車、かな? ……いいなぁ」
橙「あ」
白「何か、見えなくなっちゃったね……」
黄「……どうしよ」
橙「ん〜、私達は何も見てないって事で」
黄「それ採用っ。きゃ〜っ、こっち向いて〜!!」
白「……」
夕暮れ時。赤く染まった校庭をひた走る影があった。
無色 「あーあ、すっかり遅くなっちまった。ったく…なんで今日に限って補習なんか…バイト遅れちまうよ。」
スカスカの財布を持つ彼にとって、週三日のバイトで得られる報酬こそが数少ない資金源なのである。
それが補習による遅刻で削られるというのは痛い。非常に痛い。むしろ非情に痛い。
無色 「うわ、洒落になんねえ!あと10分だし!…って、あれ?」
腕時計を見て叫んだ直後、彼は思わぬものを見た。
校庭の隅にある物置の裏…そこに、見知った人物がしゃがみ込んでいたのである。
無色 「…(あれ…紫だよな?)」
クラスメートの紫。クラスで一番背が低く、口の悪い生意気少女である。
無色もよく毒舌の対象となっていたが…今しゃがみこんでいる少女は、純粋な笑みを浮かべている。
無色 「…(なにしてんだろ…)」
人間とは、一度興味を持ってしまうとそれを抑えられない生物だ。俺の思い込み!
紫が何をしているのか…無色は覗いてみることにした。
物置の壁に背中を押し付け、気付かれないようにそーっと裏を覗くと、そこには…
紫色 「ふふ。だから、くすぐったいってば。」
一匹の猫と一人の少女がいた。まぶしい笑顔を浮かべ、猫とじゃれているようだ。
無色 「…(へぇ、随分と楽しそうだな…)」
微笑ましい光景に、無色はついつい油断したらしい。突如彼女が顔を上げたのに気付かず、もろに目を合わせてしまった。
紫色 「…あ…!」
無色 「…お…よう。」
間抜けに挨拶を返す無色。それに対し紫は、一瞬驚いた表情を浮かべた後、いつも通り文句を言い出した。
紫色 「な…なに覗いてんのよ!」
無色 「あ、悪い。何してんのかなーって。」
紫色 「べ、別に私が何してようが私の勝手でしょ!」
無色 「そ、そりゃそうだけど…」
紫色 「なんでわざわざ覗きに来るわけ?変態!覗き魔!」
ちょっと待て、何故そこまで言われねばならんのだ!…ま、まあ…とにかく無実を訴えねば!
無色 「決して下心があったからとかじゃないって!」
紫色 「じゃあなんで覗いてたのよ!」
無色 「いや…なんか、すげー可愛い笑顔してたから…何やってんのか気になって…」
…嫌な沈黙が流れた。しまった!めっちゃくちゃ下心あるっぽい言い訳に聞こえたか!?
紫さん、何か反応してくれよ…って、あれ?なんかちょっと赤くなってる?
紫色 「…か、可愛いだなんてあんたに言われてもぜんっぜん嬉しくないっ!」
無色 「�痛っ!」
痛い。転がってた野球ボールを当てられた。直後、紫は脱兎の如く駆け出していってしまった。
無色 「…なんだったんだろう?」
無色は、しばしその場に立ち尽くしていた。彼がバイトのことを思い出すのは、また少し後の話。
いつもよりも少し緩んだ顔で、紫は家路についていた。
紫色 「…(可愛い…か。ふふ、なんか嬉しい。)」
心なしか足取りも軽い彼女が無色への密かな想いを自覚するのは…また少し後の話。
「ねえ色無、暇? 暇に決まってるよね、部活も何にもしてないんだし」
退屈な授業を全て乗り越え、開放感に包まれながら帰り支度をしていた色無に、紫が問いかけた。視線をあさっての方角に逸らし、少し居心地悪そうにしている。
「珍しくそっちから話しかけてきたかと思えば、ずいぶんな言いようだな。確かに暇だけど、何か用か?」
「たまたま私も暇だから、一緒に寮まで帰ってあげよてもいいかな〜って思って」
「はあ? お前いっつも赤とか緑とか、誰かしら捕まえて一緒に帰ってるじゃん。みんなはどうした?」
色無は同じ寮に住む女の子たちを思い浮かべた。帰り道が同じなので、たまに誰かと一緒に帰ることはあったが、紫に誘われるのは初めてだった。
「赤は今日は部活だし、緑は図書委員の仕事があるって言うし……たまたま今日はみんな用事があるみたいなのよ。そーでもなきゃ、私が色無なんかに声かけるわけないでしょ!」
「そうか。事情は分かったが、そこまで言われて一緒に帰ってやる義理はないな。じゃお先に」
「わー!! 嘘、嘘だってば!! 一人で帰ってもつまんないんだもん。ね〜一緒に帰ろうよ。ね? ね?」
「……俺の歩幅についてこれるならな。ほら、行くぞ」
「え? あ、ちょっと! もう、少しはペース合わせてよ!」
どうせ同じ寮に帰るのだから勝手についてくればいいのに、真剣に頼む紫が少し可愛くて、色無の心臓が加速する。動揺を悟られぬように先に立ってスタスタと歩く彼の後を、慌てた紫がチョコチョコと追いかけた。
「……つ、疲れた……少しはペース合わせてくれ……」
「もう、だらしないなあ男のくせに。ちょっと寄り道しただけじゃないの!」
公園のベンチでぐったりとしている色無の泣き言に、紫は腰に手を当て、あきれたように答えた。
「どこがちょっとだ! 何にも買わないくせにさんざん駅前を引きずり回しやがって! あげくになんで公園にいるんだ俺は!? 寮はすぐそこなんだから早く帰ろうぜ」
「ふふん、あのくらいのウィンドウショッピングにつきあえないようじゃ、アンタ一生彼女なんてできないわよ。そしてこの公園に来た訳は、あれよ!」
紫がビシッと指さした先に目をやると、ずらりと女子高生が行列を成している先にクレープ屋の屋台が出ていた。
「あのクレープ屋さんはね、すっごいおいしいって評判なんだけど週に一回しかここに来ないのよ。今日を逃したらまた来週なんだから、気合い入れてよね。あ、私アップルカスタードね」
「……誰があの長蛇の列に並ぶんだ?」
「色無」
「金は誰が出すんだ?」
「色無。だって私今月の仕送りまで大ピンチなんだもん」
「じゃあな紫。今日は初めてお前と一緒に下校できて楽しかったよ。もう二度とないと思うけど」
さわやかな笑顔で立ち去ろうとする色無の制服の裾を、紫はしっかりと掴んだ。
「え〜、いいじゃん。たまにはおごってよ〜」
「なんでお前におごんなきゃなんないんだよ! だいたい、あんな女の子ばっかの所に並べるか!」
「誰も気にしないって。ね〜食べたい食べたい! ね、お願い!」
「ダメなもんはダメだ! 何度も同じ手が通用すると思うなよ!」
二人がもみ合って必死の攻防を繰り広げていると、散歩の途中なのだろうか、一組の老夫婦が目を細めて笑っていた。
「あらあら、仲のいいこと」
「お兄さん、買ってあげたらどうだね。小さい妹さんの頼みじゃないか」
それを聞いた紫が目をむいて吠えかかった。
「だ、誰が小さい妹よ! 私と色無はクラスメ、むぐーーー!!!」
「ぶっ、くくく……いや、これは妹が失礼しました。ちょっと背が低いのを気にしてまして、小さいと言われると怒るんですよ。ほら、お兄ちゃんがクレープ買ってやるから機嫌なおそうな〜」
「むくーーー!!! むむむ、むうーーー!!!」
口を塞ぎ、猫なで声で頭を撫でてやると、紫はいっそう暴れ出した。二人の様子を不審がることもなく老夫婦が立ち去ると、ようやく色無は紫を介抱した。
「ぶはっ! ぜーはー……。アンタねえ、なんてことすんのよ! あの人たち誤解したまま行っちゃったじゃないの!」
「くく、別にいいじゃん、もう会うこともないだろ。しかし、くくく、制服着てるのになあ。あーダメだ我慢できねえ、あーははははは!!」
「むっかーー!! またそうやってちっちゃいのバカにしてーー!!」
「あー腹いてえ……。まあそう怒るなよ。笑わせてくれたお礼にクレープおごってやるから。これだけあれば足りるだろ? さっきも言ったが、さすがに恥ずかしいから並ぶのはお前が行ってこい」
「む〜しょうがないわね……すぐ戻ってくるから、そこのベンチで待ってなさいよ! 絶対に動くんじゃないわよ!」
「俺の分は甘くないやつな」
ふくれっ面で色無からお金を受け取ると、紫は何度も振り返りながら行列に並んだ。
「やれやれ、やっと少し落ち着ける。しかし紫のやつ、やけに念を押してったな。……ちょっとからかってみるか」
紫が屋台前の人だかりに飲み込まれ、姿が見えなくなったところを見計らって、色無はベンチのすぐ後ろの林に潜み、息を殺した。
「はあはあ、おまたせー。も〜お店の前で列が崩れちゃって大変だった〜。だから色無が行ってって言ったのに……色無?」
息を切らし、戻って来るなり文句を言い始める紫。だが色無の姿がないことに気づくと、途端にオロオロしだした。

「ね、ねえ色無、どこ? 隠れてるんでしょ? ふざけてないで出てきてよ……」
(おお、うろたえてるうろたえてる。元気120%の紫があんな不安そうな顔するとはなあ。もうちょっと見ていよう)
そんなつまらない好奇心で出て行くのをためらったことを、色無はすぐに後悔した。
「……あんまり意地悪したり、わがまま言ったりしたから先に帰っちゃったのかな……。う、ぐすっ……ひ、一人は嫌だよう……」
(げっ!! 泣き出した?! マジ泣きかよ! や、やべーなこりゃ……)
クレープを両手に持ち、立ちつくして紫は声もなく涙を流していた。すぐにでも飛び出していきたい気持ちを抑え、色無は林を反対側に抜けて遊歩道を回り込んだ。
「よし。……おーい、紫〜!!」
「!! い、色無!! 先に帰ったんじゃないの!?」
「いや、ちょっとトイレ行ってたんだ。お前がクレープ買いに行ってるのに帰ったりしねえよ。だいたいベンチに鞄だって置きっぱなしじゃん」
「あ、鞄……そっか……」
ほっとした表情を浮かべる紫に、色無の良心が少し痛んだ。だが本当のことを話して詫びを入れても、かえって気まずくなるだろう。
「なんだよ、俺がいなくなったと思って泣いてたのか? 紫ちゃんは寂しがり屋でちゅね〜」
「な! 何いってんのよ、バッカじゃないの!? 私が泣いたりする訳ないでしょ!」
慌てて制服の袖で涙を拭う。その拍子にクレープにのっていたクリームが頬に跳ねた。色無はそれを指で拭うと口に含んだ。
「分かった分かった。ん、確かにうまいな。ほら、もうすぐ晩飯の時間だし、他の奴らに見つかるとうるさいからさっさと食べて帰ろう」
「ちょ、ちょっと、恥ずかしいことしないでよ!」
「はいはい、お詫びに俺の分も一口やるからさ」
「頭撫でるな! 子供扱いすんなって言ってんでしょ!!」
クレープをほおばりながらぎゃんぎゃん騒ぐ紫。どうやらもう元気を取り戻したようだ。ベンチに腰掛けた色無はほっと胸をなで下ろした。
「……すー……すー……」
「寝ちまったよ。全力で走り回って、騒いで、泣いて、食って寝る、か……。ゼンマイおもちゃ、てかチョロQみたいなやつだな」
胸にもたれて小さな寝息を立てる紫の髪を、色無は優しく撫でた。少しむずがったが、目を覚ます様子はない。
「しっかし、今日は失敗したなあ……そーいや、朱色さんが前に言ってたっけ」
以前寮母の朱色から聞いた話を思い出す。
『あいつ、ちょっと家庭に問題があって、一人になるのをすごく怖がるんだ。夜も寝る寸前まで誰かの部屋にいるしな。色無、お前も少しでいいから気を遣ってやってくれ』
「すっかり忘れてたけどマジな話だったんだな……これからはなるべく一緒にいてやるか」
黙っている分には可愛い紫を見ていると、なんだか胸の奥がもやもやしてくる。それは父性愛じみたものなのか、それとも別なものなのか。判断できず、色無は手つかずだったクレープに口をつけた。
「うえ! なんだこりゃ……『カスタードプリン生クリーム』!? この野郎、俺のは甘くないやつって言ったのに……」
口の中に広がる破壊的な甘さに顔をしかめ、色無はすがりつく紫を睨みつけた。
「んん……ふぅんん……」
「……まあ、たまにはこんなだだ甘なのもいいか」
食べ終わっても目が覚めなかったら背負って帰るか、などと考えながら、色無はちびちびと甘ったるいクレープを喉の奥に押し込んだ。
男「——あー、なるほど。こういうワケか、へぇ……」
紫「ったく、授業中にだらしないマネしてるからこうなるのよ……あぁほら、そこ計算間違ってるわよバカ!」
男「え?……あ。あはは。すいませんね、ちっちゃい先生」
紫「んなッ、ちっちゃいは余計よ!!無駄口叩いてないでさっさと解きなさい!」
男「はーいはいわかりました……でもさ、紫。なんでこんな時間まで俺に付き合ってくれんの?」
紫「決まってるでしょ。アンタがあんまりにも情けないから、こうして面倒を見てあげてるの」
男「ふぅん、そっか……………」
紫「ちょ、ちょっと。なんでいきなり黙るのよ?」
男「え?いや、無駄口叩くなって言ったのはそっちじゃん」
紫「え?あ、うん……」
ーーーー
男「———はぁ、出来た」
紫「……ん…」
男「あれ?なんだ、寝てんのか……?」
紫「ぐぅ……」
男「………お疲れ様でした、せんせい」
紫「ぅー……ふふ…」
男「え?わ、笑ってら。なんかいい夢でも見てんのかな」(………しかし。寝顔は素直に可愛いな、コイツ……)
紫「いっしょに、かえろ……いっしょだよ………」
男(……なんか、嬉しそうだな………夢の相手は誰なんだか)
皆様こんばんは、私は無色と言う者です。あ、無色ですけど無職じゃ有りませんよ。しがないサラリーマンです。
私には紫という12歳になる娘が居ます。とても元気で活発で思いやりがあって、なによりとても可愛い娘です。
そんな娘が最近私に対して冷たいのです。さっきも…
紫『お父さん、お風呂湧いた』
「お、そうか。よし、一緒に入るか」
紫『…バカじゃないの』
…とまあ、こんな感じにあしらわれてしまいまして。
年頃になった娘は父親に対して冷たくなる、そのことは重々承知していたのですが…やはり寂しいものです。
小さい頃は私に良く懐いていただけになおさらそう思います。
紫も…そのうち恋人とか作ってくるんだろうな…それで紹介とかされちゃって…そして結婚…………(;ω;)
と、そんなことを考えつつ風呂に浸っていると、戸を叩く音が聞こえました。妻でしょうか?
紫『あ、あの!お、お父さん…』
「ん、紫か。どうした?」
珍しい。いったい何の用でしょう?
『その………………げる』
「ん、なんだって?」
『だから…その……背……して……る』
「すまん、もう少し大きな声で言ってないとお父さん聞こえないぞ」
『だから背中流してあげるっていってんの!(////)』
……これなんてエロゲ?
ゴシゴシ
何年ぶりでしょうか? 紫に背中流されるのなんて。と言うか何故に背中流してくれてるんでしょう?
『その…今日父の日でしょ…?(////)』
ああ、そう言えば。
紫『そ、そのお母さんに言われたからだかんね!仕方なくだかんね!別に私がやりたくてやってるんじゃないんだかんね!(////)』
だかんね三連発。全く関係有りませんがその昔、妻から全く同じような台詞を聞いた気がします。
紫『えっと…あの…その…お父さん…』
「なんだ?」
紫『いつも…ありがとね…(////)』
…正直驚きました。最近やたら冷たい紫からこんな台詞が聞けるとは。正直泣きそうです。
紫『い、言っておくけどねぇ!社交辞令だかんね!(////)』
この台詞も昔、妻から聞きました。
「社交辞令とは、難しい言葉を知ってるな。紫はすごいなぁ」
と妻にしたように褒めてみる。
紫『う、うるさい!(////)』
この反応も妻と全く一緒です。よく似た親子です。
紫『ねえ…』
「ん、まだ何かあるのか?」
紫『今日…一緒に寝ても…いい…かな…?(////)』
( Д ) ゜ ゜
紫『むにゃ…』
まあそんなわけで一緒に寝ている訳です。時折寝言で『お父さん大好き』と言われるたびに泣きそうになります。嬉しくて。
青『珍しいわね。紫がアンタと一緒に寝るなんて』
紹介するの忘れてました。彼女が私の妻である青です。
「まあそんな日もあるさ。ところで青、紫に俺の背中流してやれっていったのか?」
青『え、言ってないわよそんなこと。あれはあの娘が自分でやったのよ』
やっぱりそうでしたか。
青『でさ…』
青『私も一緒に…寝ていい?(////)』
…本当に今日は驚くことが多い日です。そりゃ三点リーダーも増えます。
青『べ、別に紫が羨ましいとかそう言うんじゃないんだからね! あんたが紫に変なコトしないように監視する為だから!(////)』
つくづくよく似た親子です。
まあそんなこんなで狭い布団に3人で寝ながらとても幸せだった父の日は過ぎて行きました。
明日からは一段と頑張れそうです。
男「なんで今日はこんなに暑いんだよ……」
紫「ホントよね。肌が焼けちゃうわ」
男「くっ、ははは。オマエがそれを言うかよ。どっちかっていうと、真っ黒な肌で外を駆けずり回るような……」
紫「私をガキ扱いするなバカッ!!これでも気を遣ってるんだからね!?」
男「ほー、これは意外。黄緑や桃、オレンジあたりならともかく……オマエがねぇ」
紫「アンタはどこまで私をバカにするつもりなの!?いいわ、もうアンタの勉強なんか見てあげない!!」
男「あーあー、ほらほら。そういう怒り方が子どもっぽいんだって。拗ねるのはガキの証拠だぞー」
紫「うるさい馬鹿ッ!もう知らないッ!!」
男「……そんなんじゃ肌の手入れとかに気を遣っても、ずーっとガキのまんまだぞー」
紫「うるさいって言ってるでしょ!」
男「まぁ、それがオマエらしいっちゃオマエらしいんだけどな……」
橙「さっきからやかましいわね、アンタたち。痴話喧嘩なら外でやってきてよ、ただでさえ暑いんだからさぁ」
紫「痴話喧嘩なんてしてない!」
橙「ていうか色無さぁ、なんでわざわざ紫ちゃんを怒らせてるの?『最近なんか綺麗になったよなぁ、紫のヤツ』とか抜かしてたじゃん、この前」
紫「!!?」
男「はぁ!?お、オマエ聞いて……!?」
橙「ていうかアンタ、からかう相手を選びなさいよ?紫ちゃん、本気で怒る手前だったんだから。ねぇ?」
紫「———」(真っ赤)
橙「……水を打ったつもりが、焼け石に水だったか。あーあーおアツイことでちきしょーめーアイスたべたいなー」
男「うるせぇよこのバカッ!!」(真っ赤)
白「お似合いですねー、あの二人。羨ましいです」
緑「お似合いというより、似たもの同士ってとこかしらね。まったくもう……」
男「なぁ紫ぃ〜」
紫「…………」
男「手伝おうか〜?って。なぁ〜」
紫「…………」
男「返事くらいしてくれよ〜」
紫「………うるさい!」
男「あ、やっと喋った」
紫「さっさとどっか行って!」
男「でもその本、本棚の位置高くて届かないんだろ?」
紫「………」
男「さっきから背伸びしてるけど、どう見ても届かな」
紫「うるさい!届くの!!小さい言うな!!!」
男「まだ言ってねぇしw認めちゃってるじゃんwww」
紫「……うー……だいたい届かなくたってあんたには絶対頼らないんだから!」
男「はいはいww…ってかじゃあ取るときは誰に取ってもらったんだ?」
紫「誰だっていいでしょ!」
男「…良くはないかな」
紫「何で!!」
男「………何か俺以外のヤツには紫に近づいてほしくないから」
紫「…な……(////)いきなり何言ってんのよバカ!!」
男「ん……?あ、いやそういう意味じゃねぇよ!?」
紫「じゃぁどういう意味なのよ!」
男「う〜ん…………やっぱそういう意味かも……」
紫「…ッ……!!(////)そ……それって」
緑「お 前 ら 外 で や れ ! !ここは図書室だ!!」
放課後
紫「色無し〜?いっしょに帰ってあげるよ〜?色無し〜?……あ、いた」
男「……zzz」
紫「寝ちゃってる……。赤の自主練で疲れたのかな?」
男「zzz」
紫「………ほっぺた……」
男「ん……う〜ん……」
紫「(やばっ!起きちゃった!?)」
男「う…ん…zzz」
紫「………こうしてると可愛い、のに……」
男「zzz」
紫「……寝てる…よね?」(顔を近づけていく)
男「zzz」
紫「(うわぁ〜近〜!///でも…あと少しで…)」
ガラガラ
橙「色無し〜、いる〜?…………あ」
紫「………」
橙「あぁ〜!!紫ちゃんいま、色無しに」
紫「な、なんにもしてないよっ!!」
橙「うっそだぁ〜!!絶対いまキ
紫「してないったらしてない!!」
男「ん〜……ふぁぁ……あれ、寝ちゃってたか。ん?どうしたん紫にオレンジ?」
橙「あのね〜いま紫ちゃんがね〜!!」
紫「わ〜〜!なんにもしてないのっ!!」
男「……?」
黄緑「こんどばかりはねぇ……」
紫「…なんとかならないかな?」
黄緑「うちはもう無理だし……そうだ、色無し君とこ行ってみたら?」
紫「色無し……?」
黄緑「うん、それがいいよ。ほかならぬ紫ちゃんの頼みなら、きっと聞いてくれるよ!」
紫「そう…かな」
ピンポーン
男「はいはい今出ますよ〜っと。どちらさま〜?」
紫「あ……」
男「お、紫。こんな時間にどうした?」
紫「………」(視線を落とす)
男「…?……あ、まさかその毛布にくるまってるのは……」
紫「飼って…くれない?」
男「だめだだめだ、俺動物アレルギーなんだ。もうなんか鼻がむず痒く……は…ハックション!!あ"〜…。とにかくだめだ」
紫「色無しのけち!!こんなに可愛いんだよ!?また返して来いって言うの!?」
男「なんとでも…は…ハックション!!……言えっての。ろくに面倒も見れないようなやつが、猫なんて拾ってきちゃだめなんだ。愛着が湧いて、なかなか捨てられなくなるだろ?その猫も可哀想だろ?」
紫「……グス…」
男「…………」
紫「…ぐず……」
男「………はぁ…。わかったか?今度からはもう後先考えずに拾ってきちゃだめだからな?」
紫「……?…グス」
男「……今回は俺が飼ってやる」
紫「…本当!?」
男「しょうがないだろ、もう拾っちゃったんだから」
紫「ありがとう色無し!!大好きっ!!」
男「ちょ…お前抱きつくなって……///は・・・ハクション!!猫も近い猫も!!」
「色無。ちょっと色無! 起きなさいよ、いつまで寝てんのよ!」
「……んあ〜?」
ぐらぐらと乱暴に身体を揺さぶられ、色無は突っ伏していた机から顔を上げた。べったりと垂れたよだれが糸を引く。仁王立ちしていた紫が顔をしかめた。
「うわ、汚いわね! 早く拭きなさいよ!」
「あ? あ〜なんだ、もう放課後か……さっき昼飯食い終わったばっかのはずなんだが……」
「先生たちすっごい睨んでたわよ。期末テスト、ちょっとやそっとの点数じゃ補習は免れないわね」
「げ、マジかよ!? はあ〜。まあいいか。どのみち一夜漬けに賭けるだけだし」
長いため息をついて色無は立ち上がり、目にかかった髪を鬱陶しそうにかき上げた。
「……色無、随分髪伸びたんじゃないの? 目悪くなるわよ、散髪行ってくれば?」
「ああ、俺もそうしたいんだけどな。今金欠なんだよ。前にもらった散髪代を使い込んじゃったら、それ以来自腹にされちゃってさ」
「馬鹿ねー。だったら駅前の床屋に行けば? あそこ確かカットのみで1000円でしょ?」
「あそこはダメだ。新しく入った削ちゃんって子が可愛いって評判なんだが、どんな髪型頼んでも切りすぎて、最後には五厘刈りにされちまうらしい」
色無は髪を大事そうに撫でたが、その拍子にまた前髪が垂れてきた。
「あー、しかしさすがにウザイなあ……しばらくはムースで固めてオールバックにでもするか」
「やめなさいよ、そんなオッサンくさい髪型。……あのさ……な、なんなら私が切ってあげよっか?」
「……は? お前が?」
目を丸くし、間の抜けた声を出す色無。紫は俯き加減で、机の脚をこつこつ蹴りながら続けた。
「私さ、毎月ウチで弟の髪切ってやってんのよ。だから今の髪型をなぞって、ちょっと梳いたりするくらいならできるわよ」
「へーえ。お前がねえ……」
「何よ、文句あんの? 別に嫌ならいいわよ。髪が目にかかったままで黒板が見えなくて、悪い頭がますます悪くなって困るのは色無なんだから」
「いやいや、ちょっと意外だったから驚いただけだ。そーだな、まあちょっと切ってもらうだけならそう失敗もないだろ。よろしく頼むよ」
「なんか引っかかる言い方ね……。まあいいわ。見てなさいよ、めちゃめちゃカッコイイ髪型にして吠え面かかせてやるから!」
「頼むから無駄に気合いを入れず、現状維持を心がけてくれよ」
「うるさい! ほら、暗くなる前に終わらせなきゃならないんだから、さっさと帰るわよ!」
教室の入り口からせかす紫に苦笑を返すと、色無は手早く荷物をまとめ、共に紫の家へと向かった。
「ここよ。すぐ準備するから、縁側にでも座って待ってて」
「はいよ。そんな急がなくていいからな」
初めて訪れた紫の家は、ごく普通の一軒家だった。庭が少し広めで、よく手入れされた花壇が目を引く。
「ねーちゃんお帰り〜。俺今から遊び行ってくるから……うお! ねーちゃんが男連れてきた!」
言われたとおり縁側でぼーっとしていると、まだ声変わりしていない男の子の声が背後から聞こえた。
「にーちゃん誰? ねーちゃんの彼氏?」
「あ、ああ、まあなんていうか、仲のいい友達っていうか、それ以上になれればいいなっていうか……」
「すっげー!! よくあんなのとつきあえるなー。にーちゃんロリコン? マゾ? それとも両方?」
「こらーっ!! 何を馬鹿なこと言ってんのよーー!!」
私服に着替え、散髪道具を抱えた紫が血相を変えて突っ込んでくる。しかし彼女が色無のもとへ辿り着く前に、別の人間の拳が容赦なく男の子の頭に振り下ろされた。
「あたっ!! ……いってー……何すんだよ!」
「もう、小学生のくせにませたことばっかり言わないの。ほらほら、お友達が玄関のところで待ってるわよ」
「あっ、いっけねー! じゃーなにーちゃん、ねーちゃんの相手は大変だけど頑張れよ!」
「よ、余計なお世話よ! さっさと行け!」
紫が振り回す腕を慣れた様子で避けると、男の子は玄関の方へ走り去った。げんこつを落とした女性はやれやれといった顔で見送ると、色無に向き直った。
「ごめんなさいね、あの子が失礼なことを言ったみたいで。あなた、色無君ね? 紫ちゃんがよく話してるから、すぐ分かっちゃったわ」
「あ、はい、そうです……」
柄にもなく、色無は赤面した。女性は面立ちが紫に似ていたが、背は二回りほど高く、胸も腰回りも魅力的な曲線を描いていて、正直目のやり場に困る。
「えと、はじめまして。紫さんのお姉さんですか?」
「何赤くなってんの? 母さんにお世辞言ったって何にも出てこないわよ?」
「何!? 母さん? てことは紫のおふくろさん? ママ? え、だってこんな若くて綺麗なのに?」
自分の母親を思い起こし、世の不公平を改めて感じる色無。紫の母は頬を染めてはにかんだ。
「あら嬉しい。でも娘の恋人を魅了しちゃうなんて、私も罪な女よね〜」
「くねくねするな、気持ち悪い! い、色無は恋人なんかじゃなくて、ただ髪を切ってくれって頼まれただけだってば!」
「あらそうなの? でもあなたみたいな難しい子に付き合ってくれる男の子なんて貴重なんだから、この際くっついちゃえば? 色無君もいいわよね?」
「え? はあ、まあ……」
「な……もー! 母さんはあっち行ってよーーーっ!!」
「はいはい、じゃあ買い物行ってくるからね。2時間は帰ってこないから、二人とも頑張ってね〜」
沸騰した薬缶みたいになっている紫を軽くあしらうと、紫の母は手をひらひらと振って外出していった。
「えーと……ははは、ユニークな家族だな、羨ましいよ……」
「……さっさと切って終わりにするわよ。シート敷いて。椅子のせて」
「はい……」
ギクシャクした空気の中、色無は準備を手伝い、椅子に腰掛けた。
チョキ、チョキ、チョキ……ハサミの音が閑静な庭に小さく響いた。多少不安だったが、紫は存外しっかりした手つきでハサミを操っている。
「自分から言うだけあってうまいもんだな。これなら今度から毎回お願いしてもいいかも」
「何言ってんの、今回は特別よ。次からはちゃんと節約するか、頭下げてお金もらうかして床屋に行きなさいよね」
「ちぇっ、小遣いが浮くと思ったのになあ」
「おあいにく様。そんな都合よく使われる私じゃないわよ」
言葉は辛辣だが、どこか楽しげな紫。色無もくつろぎ、安心して髪を梳かされ、切りそろえられているうちに睡魔が襲ってきた。
「……ねえ。さっき弟に言ってたこと……本気なの?」
「……あ〜? ……なんて言ったっけな……」
チョキチョキチョキ……
「……と、『友達以上になりたい』……みたいなこと、言ったじゃない……」
「……」
「いや、別に私はそんなことどうでもいいんだけど、色無がどのくらいの気持ちで言ったのかと思ってさ!」
「……」
「あ、あんたが真剣なら、その……これからも髪くらい切ってあげてもいいかなーって……」
「……」
チョキチョキチョキチョキチョキチョキ
「も、もちろんただじゃないわよ!? 1回につき1日、買い物とか映画とか、街に出かけるのに付き合ってもらうからね! それでよければ——色無、聞いてる?」
「……くかー……」
がくっと力無く倒れる色無の頭。だらしなく口を開いたその顔は、学校で見たものと同じだった。

「ね……寝てる……なによ! 人が精一杯の勇気だして誘ってやってんのに!」
チョキチョキチョキチョキチョキチョキ!
「だいたいこいつは私のこと女と思ってない節があるのよね! そのくせ人の母親に色目使うなんてサイテー! 見てなさいよ、私だってあの遺伝子もらってるんだから、いつかは……」
チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ——
紫の独り言はとどまるところを知らず、それに比例してハサミの音もヒートアップし続けた。
「……なーんか、だいぶ涼しげになっちまった気がするんだが……」
散髪が終わった頭を、色無は複雑な表情で撫でた。坊主頭の野球部よりはちょっと長いかな、くらいのスポーツ刈り風味だ。
「そ、そんなことないよ? ほら、これから暑くなるし、短い方がいいかと思って。うん、よく似合ってる! 朝のセットも楽だしね!」
むしゃくしゃするままハサミを動かしていたら切りすぎていた——などと本当のことを言う訳にもいかず、紫は引きつった笑顔でフォローを試みた。
「ん〜……まあ、それもそうか。よく見りゃけっこうかっこいいかも。ありがとな、紫。じゃあ後片づけするか」
「あ、いいよ、あとは私がやっとくから」
「ん、そうか? じゃあ悪いけど甘えさせてもらうよ。また明日な」
「うん、ばいばい」
手を振って門をくぐった色無は、そこで不意に振り返った。
「あ、それと、明後日の日曜日に今回の分付き合うから、駅前の噴水に10時な。遅れるなよ?」
「え……? あ!! 寝たふりしてたのね! ひ、卑怯者!!」
「うおっ! 馬鹿、お前ハサミ振り回したらあぶねーだろ、やめろって!」
走って逃げる色無、それを真っ赤な顔で追いかける紫。ちょうど一緒に帰ってきた紫の母と弟は、すれ違った二人を呆然と見送り、同時にため息をついた。
昼休み
男「で、アンパン一つしか買えなかったわけだが…」
紫「嫌よ」
男「……まだ何も言ってないんですが」
紫「どうせお弁当分けてって言うんでしょ?」
男「うむ、というわけでぷりーず」
紫「嫌だって言ったじゃない」
男「何故に!?」
紫「私の分が減るからに決まってるでしょ!」
男「(甘えた声で)どうしても?」
紫「(…これはキモイ)嫌」
男(じぃ〜〜〜)
紫「………」
男(じぃ〜〜〜〜〜〜)
紫「そんなに見られると食べ辛いんだけど?」
男「俺はもう食べ終わったぜ?」
紫「………」
男「………」
紫(〜〜〜〜〜〜ぅう)
男「………………」
紫「……はぁ、分かったわよ。少しなら別けてあげる」
男「ぉお!さすが紫!!じゃ、遠慮なく!!!」
ガツガツ
男「うめええええええええ」
紫(少しは遠慮しなさいよ…まぁ、美味しいって言ってくれてるし良いかな)
「私が作ったんだから当たり前でしょ」
紫(ぅう〜熱い〜…やっぱり部屋にもクーラー欲しいなぁ)
そんな事を考えながら、寮で唯一冷房のある食堂に向かう紫。
紫(あ〜涼しぃ〜)
「朱色さ〜ん、何か飲み物くれませんかー?」
朱「ん〜?冷蔵庫から勝手に取っていいよ」
紫「はーい」
ガチャ……、プシュ
朱(あたしもなんか飲むかぁ…って、あの子が飲んでるのってまさか…………)
「紫〜、あたしちょっと買い物行って来るわ^^;」
紫「もうちょっと日が沈んでから行ったほうが良いんじゃないですか?」
朱「アハハ〜、ちょっと急ぎでね^^;;;;;;;;;それじゃ!!!」
逃げるように去る朱。
紫「行ってらっしゃーい、…私はここで涼んでいようかな」
(身体もぽかぽかするしねぇ)
数分後
男「あぢぃいいいいいいいいいいいい、朱さ〜んお茶くれー…って紫しかいないのか?」
紫「あ、色無!」
男が部屋に入ったのを見つけると同時に抱きつく紫。
男「ちょ!!??!?いきなり何だ?!」
紫「にゅ〜、色無遊んで〜」
男「…………はい?」
紫「遊んでよ〜」
男(話が全く見えませんよ!?)
男(良く分からん……良くわからんが、とりあえず逃げたほうがいい気がする)
「あ、後でな^^;;;」
紫「やだ〜今遊んで〜」
男にさらにしがみつく紫。
男(マジでどうなってんですかっ)
「と、とりあえず離れろ、暑い」
紫「…ぅ、紫の事キライになったの?」
途端に今までの笑顔が嘘のように曇り、俄かに雨が降りそうになる。
男「?!?!?!!!なってない、なってない!!嫌いになんかなってないから、ほら、笑って笑って」
紫「……グス、ホント?」
男(やべwwww可愛いぞwwwwwwww)
「あ、あぁ」
紫「じゃあ一緒に遊んでくれる?」
男「…はぁ、わかったよ。でもその前にお茶は飲ませてくれよ?」
紫「うん!」
男(嬉しそうな顔して…てか、まじどうしたんだ)
「………ん?これは………」
(チューハイ………そういうことなのか?)
紫「す〜…す〜…」
男(さて…どうすっかねぇ)
遊びつかれたのかそれとも別の理由か、規則的な寝息を立て始めた紫。
男(このままってのもな…)
「どっこいせっと」
そっと抱き上げソファーに移動した所までは良かったのだが、下ろしたときに目を覚ましたのか、かけるものを探そうと立ち上がりかけると男の裾をしっかりと握り。
紫「…行っちゃやだ」
男(おk、完敗だ)
ガチャ
橙「ただいま〜〜ぁあ涼しい〜、って何やってんのあんた?」
黄緑「どうかしたの?」
無言でチューハイの缶を指差す色無。それだけで二人は大体を理解したようで。
橙「酔わせて襲うなんて…色無サイッテーね」
黄緑「色無君…」
訂正。激しく曲解したようだ。
青「なるほどね〜」
黄「まぁアンタにそんな度胸ないとは思ってたけどねwww」
いつの間にか増えた連中に必死の弁明をし何とか誤解は解けたが、その間もずっと紫に抱きつかれていたせいか皆ニヤニヤして二人を見ていた。
黒「それにしても…紫は酔うとこうなるのね。」
赤「うんww昼休み黄緑に甘えてるのを強化?した感じだねw」
緑(うらやましぃ)
男(すごく、居心地が悪いです。動けないしorz)
この夜、寮に酒を持ち込んでいた朱を群青が説教したのは言うまでもない。
紫「よい、っしょっと……ふう、久しぶりの洗濯日和はいいけど、私の担当日に限ってみんなため込みすぎだよ……」
ヒョイ
紫「あ! い、色無! なにすんのよ!」
色無「何って、洗濯物干してるんだろ? お前じゃ物干し竿に掛けるの大変そうだから手伝ってやるよ」
紫「いいわよ! 選択は当番制でみんなやってるんだから、私だけ手伝ってもらうわけにはいかないの!」
色無「そんなこと言ってもなあ……お前が洗濯終わらせてくんないと俺ができないんだよ。ほらよこせ」
紫「ちょ、ちょっと、ブラとかさわんないでよ、すけべ!」
色無「今さらこんなもん何とも思わねえよ。朱色さんとか赤とか、暑い暑いってパンツにTシャツ一枚でウロウロしてるじゃん。最初はドキドキしたがもう慣れた」
紫「あんながさつの双璧と一緒にしないでよ!」
色無「確かに、みんながそうってわけじゃないけどさ。お、このでっかいのは桃のだな。こっちのタンクトップだかスポーツブラだか区別がつかないのは……」
紫「触るなーーーーーーーーーー!!!!」
ゲシッ
色無「痛えええええええーーーー!!! 何しやがる!!」
紫「手伝うのか邪魔するのかどっちなのよ! 手伝うなら、私が渡したやつだけ干してくれればいいわよ!」
色無「分かった分かった。じゃあほらよこせよ」
色無「こんで全部か。さすがに全員分となると結構大変なもんだな。……そうだ、紫用に踏み台作ってやろうか? そうすりゃ少しは楽に……」
紫「いらない」
色無「? なんで? 竿に手が届くようになれば時間短縮できるし、俺の手を借りなくてすむようになるだろ?」
紫「……だからいらないのよ……」
色無「え? 今なんて?」
紫「何にも言ってない! とにかくいらないったらいらないの!」
紫「さーて、お風呂お風呂♪」
洗面所の鏡を見る
紫「(鏡。……!!さっきやってた金曜ロードショウのリング思い出しちゃった……。いい感じに忘れてたのに……なんか怖くなって…)」
ガラガラ
男「…っ!ごめん紫鍵かかってなかったから誰もいないかと……!風呂はまたあとにするよ…じゃ///(早く逃げないと殺される…!)」
紫「待って」
男「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
紫「一緒にお風呂……入ろ…?」
心霊特集を見た紫
紫「あんなの見るんじゃなかった。一人で寝るなんて嫌だよ・・・・」
色無「やっとW杯終わったな、さて寝るか」
コンコン
色無「誰だ?こんな時間に・・・って紫?何だよ、もう12時だぞ」
紫「ね・・ねえ、もしよかったら一緒に寝てくれない?」
色無「は?何だよいきなり、一人で寝ればいいじゃん。じゃあ明日早いから、おやすみ」
紫「ちょ・・・ちょっと待って・・・お願い、一人にしないで・・・・(色無の服のすそを掴む)」
色無「・・・・仕方ないな、今日だけだからな。ほら、入れよ」
紫「うん・・・」
紫「(あ・・・色無の匂いがする。それに、すごく暖かい・・・)」
紫「(ねえ・・・色無・・・これからも辛いときや悲しいときがあったら、絶対に私を守ってね?
私にとって一番頼れる存在があんたなんだから・・・)」
その後、どこからかこの話が伝わり、色無が他の色達から添い寝を求められたのは別の話である。
男「よーうおちびさん、一緒に帰ろうぜ〜」
紫「別にいいけど……」
男「あれ?珍しいな、紫が『ちび』に反応しないなんて…。どうした?」
紫「……もう気にしないことにしたの!!」
男「へ?」
紫「いちいち嘆いてたって大きくなるわけじゃないし、むしろ嘆けば嘆くほど伸びない気がするから!!」
男「ふ〜ん。紫も成長したなぁ!」
紫「うるさいっ!っていうかあんたには関係ないでしょ!」
男「……でも知ってるか?こんな話」
紫「?」
男「不治の病に犯されてる人がいてな、その人はもう死を待つのみだったんだ。ただ死に怯える日々……それももう嫌になったから、自分は健康だって思い込むことにしたんだ。毎日毎日自分に『今日も調子いいなぁ』とか言い聞かせてな。すると…治らないはずの病気が治ってたんだ!!」
紫「…すご!」
男「だから、紫も思い込んでみたらどうだ?自分は大きいって」
紫「ありがとう色無し!今日から思い込んでみるよ!…よ〜し、みんなちっちゃいなぁ!」
男「すげぇ紫、いつの間にそんな背ぇ伸びたんだ!?」
紫「色無しこそなかなか背、伸びないね。早く寝たら!?」
男「いいなぁそんなに大きくて………って何か飽きてきたな。しかもむかついてきた……」
紫「ち〜びち〜び!」
男「……あの、大きい紫さん、さっきの話全部嘘だから。俺の作り話ね」
紫「……へ?」
男「だいたいそんなうまい話あったらみんな思い込むっつーの…………って紫さん!?」
紫「…う……本当に信じてたのに…グス……ひどいよ色無し…」
男「……(泣き顔も可愛……ってそんな場合じゃねぇか)」
紫「グス……もう…絶対…許、さない、グス、からぁ」
男「………ごめんな紫(ギュ」
紫「……ばかぁ……グス」
『むらさきギャングソウル』
『起きろ、もう放課後』
「…ん、誰かと思えばチビっこギャングか」『チビ言うな』
起き抜けに失礼な発言をかます馬鹿には、教科書でチョップをしてもバチは当たらないと思う。良い音がしたのは、きっと神のおぼしめしだろう。
今の攻撃で目が覚めたのか、若干涙目になりながら色無が睨みつけてきた。表情は、いつものふざけたもの。睨んではいるけれど、怒っていないのは一目で分かる。
「何の用事だ?」
『起こしてやったのに、随分な言い草ね。大体、アンタは寝過ぎ』
まただ。
「お前だって、授業中によく寝てるだろ」
『アタシは良いの、寝る子は育つから』
「横に?」
『縦に!!』
また、これだ。
いつもいつも、こうやってふざけた流れになって謝る機会を逃してしまう。いつかは、と思っているけれど、ついつい甘えて忘れてしまうのはどうしたものか。
「で、何の用事だ?」
『これよ』
鞄の中から、朝にオレンジから貰ったチラシを出す。いつも行っているケーキ屋の広告、そこに大きく赤い文字で書かれているのは、
「お前なぁ。数学苦手なのは知ってたけど、教えを乞うにもそれなりの態度が…」
『忘れろ馬鹿!!』
今日返ってきた小テストのプリントをしまうと、改めてチラシを出した。
そこに書かれているのは、
「カップル半額?」
『来るわよね?』
アタシが浮かべた笑顔とは逆に、色無は複雑な表情を浮かべると、
「こりゃあ無理だ」
『何でよ!?』
「甘いものを食うと具合いが悪くなる上に、この年の差だとどう見ても犯罪になるし」
『同い年でしょ』
嫌われたかもしれないという思いは杞憂に終わったけれど、これはこれでかなりキツいものがある。対象外と暗に言われて、自然に涙が溢れてきた。
『こンの、馬鹿ぁッ』
今までのお詫びが出来るかもしれないし、二人で楽しくケーキを食べるのも楽しそうだ。それに、もしかしたらアタシにも可能性はあるかもしれないと思っていた。そんな、ありきたりだけど楽しみにしていたことが砕かれて、色無の顔すら見られなくて、後ろを向いて走り出そうとする。
「待ちなさい、お嬢ちゃん」
一歩目を踏み出そうとしたとき、不意に腕を捕まれた。
『何よ!? アタシとケーキ食べに行くのが嫌なんでしょ!?』
「行かないとは言ってない」
その言葉に、前に進もうとしていた力が止まり、後ろにバランスを崩してしまう。しかし倒れることはなくて、体が収まったのは色無の腕の中だった。

「甘くないのはあるんだろうな? あと勉強見てやるから何か奢れよ?」
『…残念だけど、全部激甘よ』
本当は嬉しい筈なのに、口から出てきたのはいつもの憎まれ口だった。
「マジかよ」
腕に収まったまま顔だけ上げて見てみれば、色無の顔に浮かんでいるのは暖かみのある苦笑。アタシに一番よく向けられる、アタシの一番好きな表情。
だけど今その顔を向けられるのは少し恥ずかしくて、慌てて顔を背けると強引に手を引っ張って歩き出した。
無「さて掃除も終わった補修も終わった。カエル化……」
無「あれ、紫がなんであんなところにいるんだ?
紫「うーん……どれがいいんだろ……」
とっかえひっかえ眼鏡屋でメガネを選んでる紫
無「おーい、何してんだ?視力落ちたのか?」
紫「!」
紫「そ……うん、まぁそんな感じ……かな」
無「へー、でもお前眼鏡めちゃくちゃにあわねぇなwwwwwww」
紫「……」
無「ちょ!何泣いてんだよ(;゚Д゚)とりあえず外行こうぜ外!!」
in公園
無「さぁ、何で泣いてたんだぜ?まぁイヤならいわなくてもいいけど」
紫「……だって、色無が前に緑とかメガネかけてるとかわいさ5割り増しだよな!とか言ってたから……」
紫「自分もかけたら大人っぽくかわいくなれるかと思ったの!もういい!蛙!!」
in寮
無「まぁ帰るって言っても俺も帰るんだがな」
無「そんな隅ですねてないでこっち来いよ」
紫「イヤ」
無「あのなぁ……まぁメガネは好きだがアレだぞ?向き不向きは結構激しいぞ?」
紫「いいもん、どうせ子供っぽいし胸小さいし背も低いしメガネは似合わないもん」
無「個人差は仕方ないだろう(こいつ……完全に拗ねてやがる(#^ω^)」
無「紫は紫なりにかわいい所あるし、そのちっちゃい背やサイズの小さい胸も俺は好きなんだぜ?」
紫「……ホント?」
無「あぁもちろんだ」
紫「えへへー……ありがと。」
無「まぁ自分なりに自分のいい点を伸ばせって事だ」
赤「えー!色無ロリコンだったのー!!!ねーねーみんな聞いて色無ってロリry」
黒「犯罪者予備軍だな」
桃「胸……小さい方がいいのかぁ……」
男「ったく………餌ならもうやったろ?駄目だ駄目だまとわりつくな」
猫「んな゛〜」
男「そんな声出すなよ……食べたの自分だろ!?わかるだろ!?」
猫「うな゛〜」
男「………いや、今日こそは絶対にやらん!やらんぞぉ!」
猫「な゛〜………な、(スタスタ」
男「?いきなりどこ行……なるほど、紫が来たのか」
ピンポーン
男「開いてるよ」
がちゃ
紫「色無猫……」
猫「にゃ」
男「もうそこにいるぞ。まさかまた餌持ってきたんじゃないだろうな……」
紫「………持ってきたけど?」
男「駄目だ駄目だ、そいつはもう食べたんだ!」
紫「……だってこんなに食べたそうに…」
男「負けちゃだめなんだ!!」
紫「う……」
猫「な〜ご」
男「負けちゃだめなんだ!!!」
紫「うぅ……」
猫「にゃ〜……ごろごろ」
男「負けちゃだめなんだ!!!!」
紫「…うぅ〜………」
猫「にゃ〜…」
紫「……お願い、今日だけいいでしょ?」
男「負けちゃだめなんだぁ!」
紫「……う……色無のばかぁ!!」(がちゃ ばたん)
男「なんで俺が!?」
紫「色無ぃ、あの番組録画しといて」
無「またかよ……っていうかなんで自分でできないかなぁ」
紫「だって、機械なんて何が何だかわかんないもん!!」
無「ビデオじゃなくてHDDなんだから、リモコンで番組表出して決定押すだけだろうが……」
紫「えいちでぃー……? そんなん言われてもわかんないもん!! とにかく録画しといてね!!」
無「はいはい。あれ? ……ってことは、今日どっか出掛けるのか?」
紫「……」
無「どした?」
紫「……色無の……色無のばかぁぁぁ!!」
無「あ、おい!! ……まさか、泣いてた……?」
緑「……最悪ね、あんた」
無「あ、緑。俺何かしたっけ?」
緑「ほんとに覚えてないの? まぁいいわ……あんた、紫がいっつもお弁当作ってくれてるの悪いからって、今度映画でも行こうかって言ってたじゃない」
無「……あ」
緑「それが今日よ。っんとにもう……思い出したならさっさと紫を……ってもういなくなってる。うん、男としてそのくらいしなきゃね」
紫「色無なんて……色無なんて……えぐ……」
無「紫ぃぃぃ!!!」
紫「……色無……!!」
紫「これで・・・よしっと!・・・色無気付いてくれるかなぁ?」
紫「・・・ちょ、ちょっといい・・・かな?」
無「ん、なんだ紫?」
紫「あの・・・その・・・///」
無「?~・・・どした?」
紫「な、なんか・・・気がつかない・・・?」
無「なにが?身長が縮んd」
紫「ちっちゃいゆーな!!」
無「じゃあ、なんだよ?」
紫「え〜っと、ね・・・その・・・髪型・・・とか・・・///」
無「ん?・・・そういえば、今日は髪結ばないで下ろしてるな」
紫「そ、その・・・い、色無がさっ!こ、この前髪下ろした方が好きだって言ってたから!///」
無「・・・俺のために髪下ろしてんのか?」
紫「///(コクン)」
無「え・・・ほ、本当に?///」
紫「///(コクンコクン)」
無「///(ヤ、ヤバイ・・・可愛いすぎるコイツ)」
紫「・・・似合ってる・・・かな?」
無「あ、あぁ!似合ってる!可愛いよ!///」
紫「本当?!良かった♪///」
無「でも身長はちっt」
紫「ちっちゃいゆーなっ!!」
紫「きゃあっ!!」
無「おいおい、今のそんな怖いシーンじゃなかっただろ?」
紫「こ、怖いものは怖いの!・・・ひゃあっ!!(がしっ)」
無「ちょっ、そんなにしがみ付くなよ・・・///」
紫「だ、だって・・・怖い・・・」
無「お前がこの映画見ようって言ったんじゃん」
紫「・・・一人じゃこんな映画みれないもん」
無「・・・。(じゃあ見なきゃいいんじゃ・・・)」
紫「・・・枕、もってくるね」
無「・・・・・・・・・は?」
紫「こんなの見たら一人じゃ寝れないもん」
無「だからじゃあお前はなんでこの映画を見たかったのかという理由を小一時k(ry」
紫「・・・お願い・・・・・・一人じゃ・・・やだ・・・」
無「わ、わかった・・・持って来いよ。///(その顔でモノを頼むのは反則だろ・・・orz)」
紫「ありがと!じゃ、もちょっとこの映画見てからね!」
—10分後
紫「ZZzz・・・むにゃ・・・」
無「・・・結局コイツは何がやりたかったんだ?」
紫「うえー」
男「なんだ?」
紫「このアイス大き過ぎて食べれない……」
男「だからちっちゃいのにしとけっていったのに……」
紫「ちっちゃい言うな!」
紫「あーどうしようこれ……」
男「俺が残り食べようか?」
紫「え? あっうんお願い……」
ぺろっ
紫「あっ////」(こっこれって、間接キス……だよね////)
男「どうした?」
紫「なっなんでもない////」
男「ん〜? どうした? 熱でもあんのか? 顔赤いぞ? ……暑いからって冷たい物ばっかり喰うから……」
紫「こっ子供扱いしないでよっ////!」
男「わっわかった、わかったから叩くなって!」
紫「もう! ////」
紫「起きて色無!!学校行くよ!!」
男「ん〜……紫?とりあえず俺の上から降りてくれ」
紫「早くしないと遅刻しちゃう!」
男「……」
紫「寝るな!(ぺちーん」
男「あ痛、……今日学校あるの?」
紫「文化祭の準備でしょ!!もう、昨日みんなその話題で持ちきりだったじゃん!」
男「あ〜……あ〜?そうだっけ……」
紫「早く起きる!みんな先行っちゃったよ!?」
男「あ、ごめん。……ってあれ、もしかして紫、俺のこと待っててくれたの?」
紫「当たり前じゃん!」
男「なんで?」
紫「なんでって……」
男「……?」
紫「か、係りがいっしょだからに決まってるでしょ!!///」
男「あ、そっか。ありがとな」
紫「……バカ」
男「ん?なんか言った?」
紫「少しは察しろこのバカさっさと着替えろ!!」
ばたんっ
男「……なんで怒ってるんだ?」
男「ふぅ〜。ただいまー」
紫「お帰りなさいませご主人さまぁ〜」
男「わわっ! どうしたんだ!? その格好!」
紫「へへ〜。可愛いでしょ?」
男「可愛いけどさ、なんか違和感……」
紫「桃から借りたんだけど……」
男「どーりで……」
紫「ちっちゃいってことかーーーーーっっっ」
男「うわわっ、まてよ! ……ん?」
紫「ひっく、ひっく」
男「おっおい!」
紫「やっぱり私は何をやっても桃には勝てないんだ……ひっく」
男「なぁ……」
紫「せっかく、ひっく……こういう可愛い服を着れば、色無も喜んでくれるかもと思ったのに……」
男「いや、それ多分サイズの問題だと思う……」
紫「そんなの嘘! 私がちっちゃいからいけないんだもん!」
男「そんなこと無いって……紫には紫の魅力が……」
紫「ううん、そんなの嘘! だってこの前桃の胸誤って触った時、一瞬嬉しそうだったもん!」
男「たっ確かにあの時はちょっとラッキーって思ったけど……」
紫「うわーん! ばか! ばか! 変態! 色無なんか死んじゃえ! ……やっぱ死んじゃいや!」
男「忙しい奴だな……」
紫「うわーん! 胸が欲しいよー! うわーん!」
男「あのさ……」(ポン←肩に手を置く
紫「ひっく、……?」
男「俺、胸なんか無い方が好きだから!」
紫「ひっ! ロリコン! あっちいけばか! 変態!」
男「どうすればいいんだ……orz」
—コンコン、ガチャッ
紫「お、おはようございます。ご、ご主人様」
無「ふぁ・・・おはよおぉ?!お前何やってんだ?」
紫「なんか知らないけど今日はコレを着なくちゃいけないような気がしたの!」
無「?・・・まぁ、似合ってるし可愛いからいいけどさ」
紫「そんなこと言ったって何にもでないよっ!///」
無「おー、紫が照れてるw」
紫「う、うるさい!///」
無「ご主人様にうるさいはないんじゃないか?」
紫「ぐっ・・・」
無「冗談だよ。こっちおいで、紫」
紫「な、なに?」
無「わざわざそんな格好して起こしてくれてありがとな。(紫の頭なでなで)」
紫「!!・・・えへへ、またいつでもやってあげる///」
無「そか、じゃあ毎日頼むな!(可愛いなぁ紫はw)」
紫「うんっ!」
橙「紫のヤツ、なかなかやるわね・・・」
紫「お風呂沸いたよ〜、ご主人様〜!」
無「ありがと。今入るよ。(もうなんかノリノリだな、紫・・・)」
—ガチャッ・・・チャポン
紫「お湯加減はどう?」
無「ああ、気持ち良いよ」
紫「ゆっくり入っててね!」
無「はいはい」
—5分後
無「・・・あの〜」
紫「なに?」
無「なんでずっとドア越しに座ってんの?」
紫「えっ?そりゃメイドさんだもん」
無「いや、意味分からんのですが・・・。まぁ、いいや。ついでだから背中でも流し(ガチャッ)
紫「はいは〜い。じゃ、入るね」
無「(コレを狙ってたのかーッ!!)こら!い、いきなり入ってくんな!」
紫「ぁ・・・あ・・・///・・・や、やっぱり・・・やっぱりダメー!!///(ガチャッ、ダダダ・・・)」
無「・・・・・・今のはいきなり入ってきたお前が悪いぞ」
橙「あたしだったらそのままイケたのにw紫はやっぱり子供ねw」
部屋の片付けをしていたら、子供の頃に書いた絵が出てきた。
画用紙いっぱいの紫。何の絵かは分からないけれど、とにかく紫。
そういや、子供の頃は紫色が大好きで、何を書くのにも紫色の色鉛筆を使ってたっけ。
「しっかし、我ながら下手くそな絵だなぁ……っとと、片付け片付け」
この時は、これでお終いだったんだけど、その日の夜。
(……ん、あれ、ここは?)
気がつくと、白一色に塗りこめられた空間に、俺と、小柄な少女。
(……夢、かな?)俺は思う。
「そうよ、これはあんたの夢」
思っただけなのに、少女が答える。……夢ならテレパシーもありってか。
「テレパシーじゃないわよ。ここはあんたの頭の中、つまり私もあんたの一部。OK?」
「OK分かった。で、君は誰だ?」
「分かんないの? あっきれた、私をこんなに小さくしといて。これが持ち主ってんだから、私も不幸よね……ハァ」
「その盛大なため息はやめぃ。ってか、そもそも持ち主ってどういうことだ? 君は人間じゃないのか?」
「さぁてね、それっくらい自分で考えなさい。私のことを忘れてる罰よ!」
そう言うと、少女は思いっきりアッカンベーをする。そしてその身体がすぅっと透けて行く。
「あ、おいちょっと待てよ! 正体を教えていけ!」
「イヤよ。ちゃんと自力で思い出してもらって、私を小さくした責任を取って貰わなきゃ。……それに」
「それに?」
「…………私ばっかり気にかけてるなんて、不公平じゃない」
「え? それって……」
目が覚める。
(夢……、か。今の夢は、一体なんだったんだろう?)
身体を起こす。ついた手が、ガサリと何かを探り当てる。その下には昨日の絵。
「……あぁ……なるほど、そういうことね」
思い当たればどうということはなく、自然と笑みがこぼれてしまう。
責任云々は別にして、久々に”会って”みるのもいいかもしれない。
「さて、あの色鉛筆は、どこにしまったっけな?」
紫「……ね〜色無?」
無「ん、どした?」
紫「暑い」
無「そりゃ夏だからな。……んで、俺に何を買って欲しいんだ?」
紫「あは、バレた?あのさ、海行きたくない?」
無「(海か……水着美女がたくさんw)……行きたいなぁ」
紫「でしょ!……それでさ、あたし学校の水着しか持ってないんだ」
無「そかそか。まぁ紫の胸なr」
紫「ちっちゃいゆーなっ!!あたしも学校のじゃない水着欲しいの!」
無「う〜ん、どうしよっかな……(今月はあと1万しかないぞ……)」
紫「お願い♪」
無「うっ……そんな目しても……」
紫「お・ね・が・い♪」
無「(こ、コイツなかなかやるな……。まぁ、紫の水着姿も見てみたいしなぁ。)……分かった。今から買いに行くか?」
紫「ホント?やった♪色無大好き♪(ギュッ)」
無「ちょっ、いきなり抱きつくなコラ!胸があた…………らねぇw」
紫「ちっちゃいゆーなっ!!ばかっ!!」
—チュンチュン
無「ふあぁぁ……」
紫「……んぅ」
無「……んぅ?……って……む、紫っ?!」
紫「……あ、おはよ色無」
無「なんでお前が隣で寝てんだよ?!」
紫「えへへ、最高の寝覚めでしょ♪」
無「まぁそりゃ悪くはな……じゃなくって!なんでここに居るのか聞いてるんだって!」
紫「……酷い。昨日の色無はあんなに優しかったのに……」
無「……あれえぇぇ?!俺は一体何をしたんだぜ?!」
紫「何って、ナニをしt」
無「うあぁぁ!それ以上は言わなくて言いです!」
紫「? 色無は平気そうだったのにやっぱりあのホラー映画怖かったんだ?」
無「……へ?」
紫「あたしが灰と見てたら灰が寝ちゃったから、怖くなって隠し通路通って色無のトコまで来て一緒に見てたじゃん」
無「! あ、あぁ!そうだったな……(なんか朝からめちゃくちゃ疲れた……orz)」
紫「なんか、思い出したら怖くなってきたよぅ……(ギュッ)」
無「あー、よしよし。今度は怖い映画なんか見るんじゃないぞ。(ナデナデ)」
—ガチャッ
青「おはよう色なs……いや、なんでもないじゃましてわるかったわたしはなんにもみていないぞうんだがこれh(ブツブツ)」
無「……」
紫「……」
無「……あっー!」
紫「〜♪(ごろごろ)」
無「…………毎日ソファの上でテレビ見てるだけじゃなくて、たまには外で遊んだらどうだ?」
紫「色無だって外に出ないじゃん」
無「うっ、それはそうだけどさ……」
紫「夏休みをどう過ごそうとあたしの勝手なの〜♪(ごろごろ)」
無「(このままでは紫が引きこもりになってしまう……)じ、じゃあ俺と一緒に出かけるか?」
紫「えっ……まぁ、どうせ暇だし行ってあげてもいい……かな?」
無「そか。じゃ、どっか行きたいとこ、あるか?」
紫「んーとね、まずは服見て、そんでCD買って、あとお昼も食べて、デザートにはアイスも食べたい!」
無「(やること満載じゃねぇか……)」
紫「あ、あとねあとね、映画も借りたい!」
無「なんの映画だ?」
紫「怖い映画!」
無「却下。お前一人で見れないだろーが……」
紫「一人じゃないよ?色無が一緒に見てくれるじゃん」
無「……は?いや、俺は見n
紫「あと今日は色無の誘いなんだから全部色無のオゴリね♪」
無「ちょっ、意味がわかr
紫「さー行こー♪」
—たたたた……
無「無視ですかそうですか……もしかして誘ったのは間違っていたのか……orz」
—どたどた、バタンッ!
紫「色無ぃー!見て見てっ!」
無「ん?……ぶっ!!!!げほっ、げほっ……」
紫「ちょっと、何よその反応は!」
無「……はぁ、はぁ。……いきなりそんな格好で部屋に入ってこられたらお茶も吹き出るって!」
紫「どういう意味なの、それ……?」
無「もちろん可愛いってコトもあるけど、それ以上にビックリするから……」
紫「ホント?!似合ってる?」
無「あぁ、似合ってるよ。(もうちょっと胸があればなぁ……まぁ、これはこれでいいけどw)」
紫「えへへ、ありがと♪」
無「ところで、今日はなんでまたそんな格好してるんだ?」
紫「今日は赤の部活の大会があるの!」
無「へぇ〜、そうなのか。じゃあもう一つ聞いていいか?」
紫「うん、なぁに?」
無「家で着替えてそのままの格好で大会会場まで行くのか?」
紫「!! ぁ……///」
無「それとも俺に見せるために着替えてくれたのか?」
紫「……そ、そんなんじゃない……!///」
無「あはは、ありがとなw」
紫「だ、だから違っ—」
無「もう一回言ってあげようか?」
紫「……えっ?」
無「可愛いし、似合ってるよ紫」
紫「〜っ///~も、もう行くっ!!」
無「行ってらっしゃい。気をつけろよ〜。(照れてる紫も可愛いなぁw)」
—コンコン
無「どうぞ。(こんな時間に誰だろ?)」
紫「色無ぃ〜……」
無「どうした紫。珍しいな」
紫「……ぐす……」
無「お、おい!いきなり泣くなよ!?どうしたn」
紫「ふえぇぇん!(ガバッ)」
無「おわっ!いきなり抱きついてきて……ほ、ホントにどうしたんだお前……」
紫「……よかった……色無……ひっく……生きてて……」
無「??? 生きててって……勝手に人を殺すなよ」
紫「あのね、あのね……夢で……色無があたしを守っくれて……それで……」
無「(夢か……。)そかそか。よしよし、怖かったんだな。(なでなで)」
紫「……よかった……ホントによかったよぅ……」
無「(そんなに心配してくれたのか……)ところで、何に襲われてたんだ?」
紫「え?…………貞子に……///」
無「リングかよ!……お前やっぱり怖い映画見るな!」
紫「大丈夫だよ!夢の中でも色無守ってくれるもん♪」
無「俺は紫が怖い夢見るたびに殺されるんですかそうですか……orz」
紫「……こっちの世界でも……ちゃんと守ってよね……///」
無「あぁ、守ってやるよ……」
紫「よかっ……た…………すー……すー……」
無「ここで寝るのかよ!ったく…………でも、寝顔可愛いなw」
紫「ねえ色無、色無の趣味って何?」
男「趣味?まあ探せばいっぱいあるけど、しいて言うなら……」
紫「なにその寝癖ー?色無ばっかだーwあはははww」
紫「もう馬鹿っ!色無なんか知らないっ!」
紫「色無ぃ……グス、怖い映画なんて見なきゃよかった……うう」
紫「ちょっと待ってて、もう少しでお昼ご飯できるから。……あっつっ」
紫「どう?どう?おいしい?(ジー」
紫「えっへへー、すごいでしょーww」
男「俺の趣味は、『お前』だな」
紫「え?」
紫「あ〜!!」
無「どした?」
紫「あたしのアイスが無くなってる!せっかく楽しみにとっておいたのに……」
無「!!(ま、マズイ!紫のアイスって、多分コレのことだよな!?)」
紫「誰だろう……。あたしのアイス〜……」
無「……紫、その…………ゴメンっ!!」
紫「へっ?……まさか、色無が……食べたの?」
無「紫のアイスって、コレのことだよな……?」
紫「あぁ!……ぅっ……ひっく……ヒドイ……ヒドイよぅ……」
無「ご、ゴメン!ホントにゴメン!お詫びに何でも好きなアイス買ってやるからさ!」
紫「(ぴくっ)……ホント?」
無「うん」
紫「ホントにホント??」
無「まかせとけ」
紫「やた〜♪じゃあ早く買い行こっ!」
無「よし、行くか!(よかった、機嫌直ってくれて……)」
—1時間後
紫「〜♪」
無「……はぁ」
紫「ん、どうしたの?」
無「いや、予想外の大ダメージだったなぁ……と」
紫「だって、何でも買えって言ったじゃん」
無「まぁ、ね。(ハーゲンダッツはさすがにキツイよ紫さん……しかもパイントで。)」
紫「えへへ。ありがとね、色無♪」
無「どういたしまして。(まぁ、嬉しそうだからいいか。)」
紫「色無ぃ!」
男「おぉ、りんご飴買ってきたのか。それうまいよなぁ!俺も小さいころよく食べたよ」
紫「ちっちゃいゆーな!!」(げし
男「そういう意味じゃないっつの……痛いから!下駄ですねを蹴るな!!」
紫「ふふん♪」
男「……やけに上機嫌だな。なんかあった?」
紫「何もぉ」
男「……あ、りんご飴が二つ?そっか、屋台のおじさんが子供と間違えておまけしてくれたんだな?」
紫「ちっちゃいゆーな!」(げし
男「言ってない!いやまぁいまのはそういう意味だけど……って痛い、痛いって!」
紫「……はい。あげる」
男「え、いいの?」
紫「色無のために買ってきたんだもん」
男「……俺りんご飴一つで喜ぶほど子供じゃないんだけどなぁ」
紫「ちっちゃいゆーn
男「ごめんなさいごめんなさい!!喜んでいただきます!」
紫「よろしいw」
男「ったく……。ん、やっぱうまいなぁこれ!」
紫「えへへw」(くるくる)
男「?」
紫「ねぇ……この浴衣、どう?」
男「……すっげぇ似合ってるよ」
紫「……む。嘘でしょ。何で目ぇそらすの?」
男「いや……まぁ可愛いから直視しづらいというか///」
紫「へ?あ……う、嘘つくなぁ!!///」
橙「何?あいつら。湧き上がってくるこの黒い感情はなんだろう……」
黄「オレンジ見て〜!カブトのお面!!」
紫「い〜ろ〜な〜しっ♪」
無「ん?呼んだ?(なんか機嫌良いな、紫のやつ……)」
紫「アイスおごって♪」
無「……だが断る!(そういう魂胆かーっ!)」
紫「えへへ、こんなの見つけちゃったんだ♪」
無「—ぶっ!!……おまっ、勝手に人のバイトの給料袋を……」
紫「色無頑張ってるんだね!お疲れ様♪」
無「へっ?……ま、まぁそれなりに頑張ったよ、今月は」
紫「あたしも今月はメイド服着たりチアガールの服着たりして色無に奉仕したと思うんだ〜♪」
無「はっ、そういえばそんな格好もしてたな、お前……」
紫「……アイス……イイよね?(じー)」
無「……///(ちょっ、そんな目で見ないでくだしあ!><)」
紫「……(じー)」
無「……わ、分かったよ!おごってやるから!」
紫「やたっ♪」
無「……ただし」
紫「えっ?」
無「またいろんな服着て俺を楽しませてくれよw」
紫「……恥ずかしいよ?アレ。それに……色無のためにやってるワケじゃないもん///」
無「はいはい。俺のところに来ればたくさん褒めてやるからさw」
紫「ぅ゛〜…………そのうち……ね。///」
無「ん、期待しとくよ!」
—かりぽり
紫「〜♪」
無「何食ってるんだ?」
紫「ポッキー!」
無「なんだ、お子様の食べm」
紫「ちっちゃいゆーなっ!!」
無「はいはい悪かったよ。俺にも一本くれよ」
紫「……どうしよっかな〜?」
無「一本くらいいいだろ、別に」
紫「じゃあねぇ……ん。(口にポッキーはさむ)」
無「……それは何のマネだい紫ちゃん?」
紫「ひひはらはやふはへはよ。(訳:いいから早く食べなよ)」
無「……マジですか?」
紫「(こくん)」
無「……俺が口にはさんだらすぐにお前離せよ?///」
紫「(こくこく)」
無「……じゃあ……///(パク」
—バタンッ!
橙「色無ーっ!!……色無ってロリ……何でもない。見なかったことにしてあげるからどうぞ続きをごゆっくり♪(ニヤリ)」
紫「……///」
無「……俺、オワタ\(^0^)/」
紫「色無ぃ!遊ぼっ♪(ドサッ」
無「ぅぐぉぇっ!……い、いきなり乗っかってくんな!」
紫「いーじゃん!そんなにあたし重い?」
無「そういうわけじゃないけど心の準備ってもんがいるだろ?」
紫「えへへ、じゃ問題ないね♪……ふぁぁ」
無「(このヤロウ……俺の上で欠伸するとはいい度胸じゃないか。)~……ん?!……ちょっと紫、口開けたままにしといて」
紫「……ぁ?別にいいけど……あーん」
無「そのまま口閉じて『いー』ってしてみて?」
紫「?……いー」
無「wwwww」
紫「???……ねぇ、何がそんなに可笑しいの?」
無「いやいや、可笑しかったんじゃないよ。可愛いなぁと思ってさw(まぁちょっと可笑しかったけど。)」
紫「///~でも笑ってるじゃん色無!そんなに『いー』ってやったの可笑しかったの?!」
無「違うよ。紫に八重歯があったからさwなんか猫みたいで可愛くって、つい……w」
紫「!!///」
無「こら、口閉じんなよw」
紫「(ぼそぼそ)だって恥ずかしいもん……///」
無「ん?もっと口開けて喋らないと良く聞こえないんだけど?w」
紫「ぅ〜……わ、笑っちゃダメだよ??」
無「だから可愛いって言ってんじゃん!笑わないからもうちょっと見せてよ!」
紫「ホントに?ホントだよ??」
無「うん、笑わないから」
紫「じゃぁ……いー。///」
無「(可愛いw可愛いんだけど……)……やっぱダメwwwww」
紫「あー、笑った!今色無笑ったぁ!色無のばかぁ!!(だっ」
無「……なんで笑ってんだよ、俺。orz」
紫「色無ぃ……」(ぎゅ
無「どうした?」
ゴロゴロゴロ
無「あっ、カミナリか」
……
無「……なぁ……いつまでこうしてりゃいいんだ? 俺、用があるんだけど……」
……
無「目つぶってるだけじゃわからないよ……。もういいか?」
……
無「行くよ?」
紫「待って」(グイッ
無「うぁ!」
トス
無「紫?」(……こんな近くに顔が////)
紫「もう少し一緒にいて……こわいの……」
無「あっ、ああ……」(子供っぽいと思ってたのに、近くで見る紫の顔って……)
紫「離れないで……」
無「うん……」
雷が鳴り終わるまでいつまでも二人はそうしていた。
それは朝食後、三人がリビングで他愛もない話をしていたときだった。
「そーいえばさ、今日桃がつけてるリップってこの間買ったやつ? いい色出てるよね」
「あ、分かった? もったいなくてなかなかつけられなかったんだけど、今日友達と遊びに行くから、思い切ってつけてみたの」
「明るい感じがよく似合ってるよ。なになに、それでナンパ男を誘おうって魂胆?」
「ち、違うよぉ。橙ちゃんも、そのマニキュア新しい色だよね? それってこのあいだ発売されたばっかりのやつ?」
「そーそー! 朝からショップの前に並んでさあ、買うの大変だったよ! ようやくこの色に合う服も買えたから、初お披露目ってわけ」
その後も化粧品談義を続ける桃と橙のあいだを、紫はいったり来たりと首を振るばかりだった。化粧なんてしたことのない紫には、二人が何を話しているのかさっぱり分からない。
「ね、ねえねえ。お化粧って簡単にできる? わたしもしてみたいな」
なんだか置いてきぼりにされたような気がして、紫は強引に会話に割って入った。途端に二人ともぴたりと口をつぐみ、じっと紫を見る。
「……プッ。紫ちゃんにはまだ早いんじゃないかな〜? もう少し大人になってからにしましょうね〜」
「だ、ダメだよ橙ちゃん、そんなこと言っちゃ。ええと、紫ちゃん。人にはそれぞれ個性があるから、ね? 無理にお化粧しなくても紫ちゃんは充分可愛いし……」
鼻で笑う橙と、言葉を慎重に選んでいる桃。対応は両極端だったが、言っていることは一緒だった。あっという間に紫の頭に血が上る。
「な、何よ、馬鹿にしてーー!! わたしがその気になればお化粧なんかちょちょいのちょいでお色気バーンなんだからね! 見てなさい、ほえづらかかせてやるから!」
半泣きで飛び出す紫の背中を、橙が腹を抱えて笑う声と、桃の心配そうな声が追った。
「朱色さ〜ん、いませんか〜? いませんよね〜? ……よし、大丈夫……」
小声で朱色の不在を確認すると、紫は管理人室のドアをノックもせずにそっと開けた。
「まったく、二人とも人を子供扱いして……。朱色さんならアダルトな化粧品をいっぱい持ってるはず。わたしのことが誰だか分かんなくなるくらい華麗に変身してやるんだから」
部屋に忍び込んだ紫はまっすぐ鏡台に向かい、片っ端から引き出しを開けて似合いそうなものを物色し始めた。
「うーん、たぶんけっこういいものばっかりなんだろうけど、ちょっと色が濃いかなあ。ファンデーションとかはいらないよね、わたしまだお肌つるつるだもん」
なかなか気に入ったものが見つからず、少し焦り気味に突っ込んだ紫の手に、小さな小箱がぶつかった。
「? これは……なんか他のとは格が違う感じ。淡いピンクの口紅とマニキュアのセットか……未開封だけど、いいや、これにしよ!」
きれいにしまって戻しておけばばれないだろう。そう考えた紫は、包装フィルムを一気に剥がし、喜々として鏡に向かった。
「……できた。こんな感じ……かな? うん、けっこういけてるじゃん、わたし!」
初めての化粧に試行錯誤を繰り返し、ようやくできばえに納得した紫は、何度も顔の角度を変えながら鏡に映る自分に見とれた。
「これなら桃も橙もぐうの音も出ないよね! ……い、色無に見せたら、なんて言うかな……かわいいって言ってくれるかな?」
「ああ、大丈夫じゃないか? きっとほめてくれるさ。なあ色無?」
「はあ、まあ、そうですね……かわいくなくはないかと……」
「えへへ、そうかな? そうなら嬉しい……け、ど……」
背後からの声にてれる紫の顔から血の気が引いた。恐ろしくて振り向くことなどできない。ゆっくり頭を上げると、鏡に映る般若のような朱色と、悲しげに首を振る色無の姿が見えた。
「……紫……あんた、あんたよくも……免税店で大枚はたいて買って、まだ一度も使ってない秘蔵のブランド品を、よくもーーーーー!!!」
「きゃーーーーー!!! ごめんなさーい!! 色無、助けてーーーーー!!」
紫の頭を後ろからわしづかみにする朱色。恐怖に叫ぶ紫。そんな二人を置いて、色無は両手にさげた買い物袋を下ろすと、そっと扉を閉じた。
「ひどいよ色無、助けてくれないなんて……」
罰として一ヶ月の洗濯当番を任された紫は、ぶつぶつ言いながら山盛りの洗濯物を物干し竿に掛けていた。その後ろで、食堂の椅子に座った色無が弁解する。
「そうは言ってもなあ。あれはフォローのしようがないだろ。勝手に人の部屋に入って勝手に化粧品使ったんだから。しかも未開封品って、お前も相当なもんだよな」
「だって、あれしかわたしに似合いそうなのがなかったんだもん! はあ……まあいいわ。わたしにだってお化粧できることが分かったんだから、次の仕送りで自分で買って——」
「お前はそのままがいいよ」
紫の意気込みを、色無の言葉が遮った。
「……え?」
「ま、まあ化粧も似合ってたけど、紫はそのままの方がずっと……その、か、可愛いと思うし……」
「……ふ、ふん! どうせあんたもわたしのことお子様だって言いたいんでしょ! いいわよ、分かったわよ! もう化粧なんかしないんだから!」
「いやそうじゃなくて……」
「もうこの話はおしまい! ほら、ぼーっとしてるならシーツとか干すの手伝ってよ!」
「……はいはい」
赤くなった顔を洗濯物で隠す紫に、色無は苦笑して椅子から立ち上がった。
「わたしがこのあいだ同じこと言ったときは全然聞いてくれなかったのに……」
「まあまあ、いいじゃない。紫ちゃんがすっぴんで勝負するなら、私たちは大人の色気で勝負ってことで!」
「わ、わたしは別に色無君がどうとか言ってるんじゃなくて……」
「はいはい」
物陰で肩を落とす桃と、それを励ます橙の声は、洗濯物を干す二人には届かなかった。
紫「ふぁぁ……眠ぃよぅ……」
無「じゃあ寝ればいいんじゃないのか?」
紫「だって、せっかく色無のベッドにいるのにこのまま寝たらつまんないもん」
無「ていうか、なんで俺のベッドにいるんですか紫ちゃん?」
紫「なんかね、灰が『今日は色無貸してあげる』って言って隠し通路教えてくれたの!」
無「(あいつのせいか……orz)~まぁ、この通路はお前らみたいなちっちゃいのしか通れないしな」
紫「ちっちゃいゆーなっ!!」
無「ところで、そろっと俺は寝たいんだけど……?」
紫「え〜、もっとなんかしようよぉ!」
無「……じゃあ何するんだ?」
紫「んっとね……まずは腕枕して♪」
無「なんだよそれ……」
紫「いいからいいから!(ぽふ)……ん、気持ちぃ♪」
無「……///(これは可愛いw)」
紫「あとね、頭なでて!」
無「あ、あぁ。///(なでなで)」
紫「wwwww……じゃあ最後にちょっと目瞑って?」
無「?……これでいいか?」
紫「目開けちゃダメだよ!……んっ(ちゅっ」
無「?!?!?くぁw背drftgyふじこぉlp;p;@:」
紫「えへへ、恋人ごっこ終わりねっ!おやすみっ!!///」
無「ちょっ……///(今のは反則だって……今日はもう寝れねぇよ……orz)」
紫「ねぇ……起きてよぅ色無……」
無「んぁ……もう少し寝かせ……(どすっ)ぐぉぁ!!」
紫「ほらほら起きろ〜!(どすどす)」
無「たっ……のっむっからっ……乗っかんっないでっ!」
紫「起きた?」
無「……うん」
紫「じゃあ散歩行こっ!」
無「いってら(どす)ぐほっ!……わ、わかった行きますからやめて!」
紫「えへへ、早く行こっ!」
—
無「朝の散歩も気持ちいいもんだな」
紫「でしょ?」
無「でも2度寝はもっと気持ちいいんだけどな……」
紫「色無はあたしと散歩するより2度寝の方がいいんだ……ぐすん……」
無「ちょっ、なんで泣いてんだよ!誰もそんな事言ってな—」
紫「嘘泣きでした♪色無のばーかw(だっ」
無「あ、待てこら!」
紫「待たないよ!べー!」
無「……ちくしょう……なんだかとても悔しいのはなぜなんだぜ……?orz」
無「……紫ぃ〜?」
紫「ん、なぁに?」
無「俺はもう寝たいんだけど?」
紫「寝ていいよ。床で」
無「……あの、そーゆう言葉は、人様の部屋のベッドの上で深夜遅くまでマンガ本読んでくつろいでる小娘が言う言葉じゃないと思いますよ?」
紫「ちっちゃいゆーなっ!!」
無「……こうなったら最終手段にでるしかないな!……。(もぞもぞ」
紫「きゃっ!ちょ、ちょっと、いきなりベッドに入ってくるなぁ!」
無「どかない紫が悪い!」
紫「もう……。じゃあ今日はしょうがないから一緒に寝てあげるw」
無「だからそーゆう言葉は、人様(ry」
紫「ちっちゃ(ry」
無「じゃ、俺はもう寝るぞ?」
紫「うん、おやすみ♪(…………ありがとね、色無。)」
—次の朝
橙「色無ぃ〜!おっは…………………………・この前は巨乳のエロ本隠し持ってたくせにホントはロリコンだったのね。もう、色無なんて知らないッ!!」
無「ちょっ、これにはワケg…………また誤解されたかorz」
紫「……ぅ〜ん…………ちっちゃい……ゆーな……むにゃむにゃ」
無「こいつ、夢の中でもちっちゃいワードには反応するのか……」
—ある日の朝
紫「色無ーっ!色無ーっ!」
無「……ん?紫の声がする……?」
紫「ここぉー!ここだよぅー!」
無「あぁ、そんなとこにいたのか。ちっちゃくて見えな……って、ええええぇぇぇぇえぇっ!?」
紫「ちっちゃいゆーな、ばかぁ!(ぴょん、ぴょん)」
無「いつにも増してミニマムサイズだな、紫……」
紫「だからちっちゃいy(ひょい)—っきゃぁ!」
無「おー、手のひらサイズw(これは可愛いなwww)」
紫「い、いきなり持ち上げるなぁっ!」
無「ゴメンゴメン。……で、なんでこうなったの?」
紫「知らない!昨日の夜に灰がクッキー焼いたからって食べて朝起きたら……」
無「どんなクッキー作ったんだよ、灰……orz」
紫「でもクッキーは美味しかったよ?」
無「美味しくてもそのクッキーが原因の可能性は十分あるからな」
紫「でも灰がそんなこと………………するかも。orz」
無「だろ?まぁ、何が目的かは分からんがな……」
紫「……早く元に戻りたいよぉ…………ふぇぇ……」
紫「なんか今日寒くない?」
無「別に?……っていうか最近紫俺のベッドによくいるよな」
紫「えへへw実は灰があたしの部屋にも色無のベッドに行く隠し通路作ってくれたのw」
無「……な、なんだってー!?」
紫「色無が一人じゃ寂しいと思ってきてあげてるんだよ?w」
無「紫が一人じゃ寂しいからだろ?俺は別に一人でも寂しくなんかないぞ」
紫「ちーがーうっ!あたしは別に一人でも寂しくないし、ちゃんと寝れるもんっ!」
無「ふーん。そんなこと言うと部屋に追い返すぞ?」
紫「い、いいもん!あたし一人で寝るから!……色無のばかっ!(ごそごそ)」
無「あれ?……ホントに帰ってったな」
—5分後
無「……ちょっと言い過ぎたかな。(もぞもぞ)……ん?」
紫「(ひょこっ)…………」
無「どした、紫?」
紫「…………一緒に寝よ?」
無「……寂しかったのか?」
紫「(こくん)」
無「正直でよろしいw(なでなで)」
紫「……///」
紫「……ぐーたらしてるのは良くないと思いますっ!」
無「う〜……いいじゃん、俺の日曜日なんだから……」
紫「せっかくあたしが遊びに来てあげてるのにぃ……」
無「(誰も呼んでませんが?)」
紫「ねぇ、なんかして遊ぼうよー。暇だよぅ」
無「じゃあ俺の一週間の疲れを癒す為にマッサージでもしてくれ」
紫「うーん……ま、いっか。やったげる!」
無「え、マジで?」
紫「うん!ほら、早く横になって!」
無「あ、はい。(まさかホントにしてくれるとはw)」
—10分後
紫「(もみもみ)……ねぇ、色無?」
無「なんだ?(なかなか上手いな紫w)」
紫「疲れた」
無「……まだ10分くらいしかたってませんが?」
紫「替わろ♪」
無「え、話が違いません?」
紫「いーから替わって!あたしも疲れたの!」
無「えー」
紫「……うぅ……くすん……」
無「ちょっ、泣くなっ!……分かったよ、替わる」
紫「ホント?やった♪」
無「(日曜日から疲れが溜まっていく……)」
男「……む、紫ぃ?」
紫「どしたの色無?」
男「言いにくいんだけど……」
紫「なに?」
男「あ、あのな?その……」
紫「?」
男「猫が……逃げた」
紫「……へ?」
男「ま、まあ寮内にはいると思うんだけど」
紫「な〜んだ、なら大丈夫じゃん。そのうち帰ってくるよ。色無の部屋が根城なんだし」
男「それがだな……そうも言ってられないんだ」
紫「なんでぇ?」
男「灰色がな……?新しい薬を開発したとかで、『手ごろな動物いないかなぁ〜』とか朝からずっと言ってたんだ……」
紫「……早く探すよ色無!!」
男「わ、ちょ、引っ張るなってちゃんと探すから!!」
紫「お〜いねこ〜!!どこいった〜!!」
男「猫〜!!」
紫「ねぇこぉ〜!!」
男「……あのさ、そういえば名前決めないの?」
紫「……まだ考えてるの」
男「あぁそうなの。でも……呼ぶ名前が猫だとなんだかなぁ……」
紫「ねこぉ!!」
男「ね〜こ〜」
緑「あいつら何してんの?新しい儀式?」
桃「さぁ……?楽しそうだから私も
緑「行かんでよろしい」
桃「……はぁい」
紫「(がさごそ)……あ!!見つけた!!見つけたよ色無ぃ!!」
男「本当か!?よかった……。灰色に見つかってたらどうなることかと……」
紫「もー、今度からはちゃんとこの子見といてよ!?」
男「ごめんごめん」
紫「まったくぅ……。大丈夫?けがしてない?」
男「寮内なんだから怪我するわけがn
猫「……ふぃー、まったくひどい目にあったぜ。正直死ぬかと思ったね」
紫・男「 ! ! ! ! ! 」
猫「あんたの部屋に帰ろうにも扉あけといてくれないと入れないっつーの。それにしてもあの似非科学者、変なもん飲ませやがって……」
紫・男「……」
猫「まずいったらありゃしない。……ん?どうしたんだこいつら?なんで止まってんだ?」
男「しゃ……」
猫「?」
男「喋った……」
猫「……また変なこと言ってるよこのへたれ男……。せっかく紫ちゃんみたいな可愛い子がそばにいるってのに手の一つも繋ぎやしねぇ」
男「へたれ……」
猫「そうそう、こいつマジへたれだよな〜。なんでこんなんがおいらの主人なのか。あんだけ女の子たくさんいるのに誰とも交わってないし……ってあれ?」
紫「な……交わり……って///」
猫「……あれ、何、もしかして本当に言葉通じてる?そうなの?……そうならにゃーとか言ってみ?」
紫「……にゃー……」
猫「やっべwwwマジ!?www通じてるよおいwwwwwww」
紫「喋ってる……」
男「……原因はヤツしかいない……ヤツしか……」
男「灰色ぉ!!」
灰「どうした無色童貞」
男「どどどどどうていちゃうわ!!……いやちゃうことないけど!NEETみたいな言い方すんな!!」
猫「なぁなぁ拾ってくれてありがとねぇ!マジで感謝してる!もう紫ちゃん最高だよ!命の恩人だもん!」
紫「別に私は……///」
猫「またまた照れちゃって〜。こういうときは素直に感謝されとくもんだよ?」
男「こいつを戻せ!!」
猫「いちいち鯖缶とか買ってきてくれなくていいからさ!今月ピンチなんでしょぉ?キャットフードで十分だからさ!」
紫「う……なんで今月ピンチって知ってんの?」
猫「こないだおいらに缶詰くれながらぼやいてたじゃん!」
紫「あぁ、そういえば!」
灰「失敗だったか。本当はこんなはずじゃなかったんだけど……まぁこれはこれで良しとしよう」
男「良しじゃねぇよ!早く戻せ!なんかいらいらするんだ!」
灰「まったく……それはずばり言い当てられてるからじゃないの?」
男「ちげぇよ!っていうかどーでもいいから戻せって!!」
灰「やれやれ……じゃあ戻す薬開発してみるよ。どうなるかはわかんないけどね。……あ、そうだ」
男「なんだよ?」
灰「その猫……メスだよ」
男「……それで?」
灰「……ちっ、さすがに猫には欲情しないか。こんなドSの女の子、Mの色無にはぴったりかと思ったんだけど……」
男「猫に欲情したら人間として最低だよ!!」
猫「欲情されても困る」
男「黙ってろぉ!」
紫「うぅ……疲れたよう……」
無「はいはい、寮まであとちょっとだから頑張って」
紫「……ねぇ色無、お願いがあるんだけどぉ?」
無「さすがにこの年でおぶってくれなんて言わないよな?」
紫「なんだ、分かってるじゃんっ♪」
無「……いや、さすがに街中だしね。それはできn(がばっ)—うわっ!」
紫「えへへ、色無の背中捕まえたw」
無「ちょっ、やめろってば!」
紫「やーだよっ!」
無「……まぁ、そんなに遠くないからいいか」
紫「ありがと!さー寮に向かって頑張れ色無!」
無「……orz」
紫「む〜……」
緑「……早くしてよ」
紫「むむ〜……」
緑「……っていうかオセロで長考って……」
紫「むむむ〜……」
緑「……もう置けるとこのが少ない。負け認めなさいよ」
紫「……っだー!!負けたぁ!!」
緑「10年早いわ。ピンク、何分だった?」
桃「おっ!記録更新、3分40秒!」
紫「むがぁ……タイムなんて計って、バカにすんなぁ!もう今日はいい!絶対にリベンジしてやる!」
緑「いつでもどうぞ〜♪」
桃「……黒28、白36。この勝負、白の勝ち!!」
緑「そんな……」
紫「やったやった勝った〜!!」
緑「勝ったのは灰色じゃない!なんでちゃんと自分で再戦しないのよ!」
紫「勝ちは勝ちだもんね〜だww緑でも負けることがあるんだぁ!」
緑「……うるさいわね……」
灰「……ここんとこ」
緑「え?」
灰「こっちにすればもっと黒有利になったよ」
緑「……なるほど」
紫「10年早いとか言ったのは誰だったかなぁ?」
灰「それとここも……」
紫「誰だったかなぁ?」
緑「そっか、そうすればこっちに誘導出来たんだ」
灰「でもそうだとしてもこうして止めてたけどね」
緑「……やるわね。結局負けてたわ。完敗よ」
紫「……ごめんなさい、謝るから私にもかまってよぉ……!」
—もぞもぞ
無「!誰だ?灰か、紫か?」
紫「(もぞもぞ)ぷはっ!この隠し通路長すぎ……。あ、遊びきたよw」
無「呼んでもないのにわざわざご足労頂いてありがとうございます……orz」
紫「さて、何見ようかな〜♪」
無「あの……俺の部屋にいきなり来て勝手にビデオ漁らないでもらえません?」
紫「いーじゃん。最近暇で暇で……む、これ面白そう!」
無「(そ、それは表向きは「心霊番組特集」と書いてあるが実際の中身は「巨乳女子高生SM物語」のビデオ……)って、アッー!入れちゃらめぇ!!」
—うぃーん、がちゃん。
テレビ『ピーピーピーピー(自主規制)』
紫「……」
無「ぅ……あ……こ、これはその……」
紫「……」
無「(や、やばい。これは相当怒ってるぞ……。)」
紫「……ばか」
無「ご、ごめん」
紫「……あたしだって努力してるのに」
無「……は?」
紫「なんでこんなに大きいのよぅ!ばか!!あほぅ!!おっぱい!!」
無「(怒りの矛先はそっちか?!……ていうか努力してるって、一体何してるんだ紫?!)」
紫「きゃぁっ!熱っ……」
無「! わ、悪い紫」
紫「色無のばか!どうしてそこに出しちゃうの?!」
無「俺だってわざとこうしたんじゃねぇよ!勝手に出たんだよ!」
紫「勝手にって……それ色無のでしょ!あ〜ぁ、白いので汚れちゃった……」
無「ぅっ……ま、まだこういうことには慣れてないんだよ!」
紫「うそ!毎晩使ってるくせに……」
無「う、うるさい!」
紫「なによぅ!」
無「なんだよっ!」
—こんこん、がちゃっ。
黄緑「色無くー……あらあら……うふふw」
紫・色無『!!』
黄緑「あ、お邪魔しちゃったわね。ごめんなさい、ごゆっくり〜w」
—ばたん。
無「……なんか激しく勘違いされたような気がしなくもないんだが……」
紫「……エスプレッソマシンでカプチーノ作ってただけなのにね」
紫「んー……こうかな?違うなぁ……もっと大人っぽく……いやツインテールは違うでしょ……」
男「紫ぃ〜入るよ?」
紫「どーぞ。……おろしたほうがいいのかな?」
男「あれ、髪型変えたの?」
紫「んー、そうなんだけどさ〜、いまいちぴんとくるものがないんだよねぇ……。大人っぽさかぁ……やっぱりおろすのが一番いいのかな?……色無はどう思うんだろ……」
男「え?いや……どれも可愛いと思うよ///」
紫「も〜青ったら、色無のまね下手すぎ!!w色無は絶対そんなこと言わないって。むしろからかって……」
男「……」
紫「……」
男「……あ、その……本当に可愛いとおも
紫「……なんでここにいるの!?出て行ってよこのバカァ!!///」
男「えぇ!?さっき入るよって言ったろぉ!?」
紫「青だと思ってたの!!来る約束だったから!!」
男「声で気付けよ声で!」
紫「うるさい!!さっさと出て行けぇ!!///そして今起きたことを全て忘れろぉ!!」
男「なんで俺が怒られるんだ!?」
—チーン
紫「えへへ、やっと出来た!早く色無のところに行かなきゃ……」
紫「(ち、ちゃんと食べてくれるかな?どきどきする……よし)いぃーろぉーなぁーしぃー!」
無「うるさぁい!耳元でそんなに叫ばなくても聞こえてるっての!!」
紫「(ビクッ)ぁうっ……ご、ゴメン……」
無「(あれ?ちょっと強く言い過ぎたかな……)ところで、なんの用?」
紫「あ、あのねっ!くっ、くクッキー……や、焼いたんだけど……」
無「……俺に?」
紫「み、みんなに食べてもらおうと、おお思ったんだけど、み、みんないないみたいだkぅっ……から色無に食べさせてあげるのっ!!///」
無「ちょっ、とりあえず落ち着け!舌だいじょうぶか?今噛んだだろ?」
紫「か、噛んでないっ!噛んでなんかないもんっ!///」
無「落ち着けって!!」
紫「はぅっ!」
無「ったく……せっかくのクッキーが台無しになったらどうするんだ?」
紫「……え?」
無「一つ貰うぞ。(ひょいっ、さくっ)」
紫「あ……あ、あの……美味し?///」
無「(もぐもぐ)……。うん、いい出来だと思う!美味いよw」
紫「ホント?!よかった……すぅ……(どさっ)」
無「お、おいっ……疲れて寝たみたいだな……」
紫「……すぅ……すぅ……」
無「幸せそうな顔だな。……クッキー、もう一つ貰うよ」
色無の右足と私の左足を、白いロープで固く結ぶ。それにしてもでかい足。サイズを聞いたら28だって。バカの大足とはよく言ったものね。
「まったく、なんで私が色無なんかと二人三脚しなきゃいけないのよ」
「しょーがねーだろ、くじで決まったんだから。俺だって混合二人三脚より、パン食い競走か借り物競走が気楽でよかったぜ」
何度目になるか分からない愚痴に、色無も同じ返事を繰り返した。くっついているとほぼ真上を見上げないと顔が見えない。首が痛くなる。
「あんまりくっつかないでよ、エッチ。それになんか汗くさい」
「二人三脚でくっつかないわけにいかないだろ。汗くさいのはお互い様——いてっ!」
わざとらしく人の頭に鼻を突っ込んで匂いを嗅いできたから、思い切りかちあげてやった。顎を押さえて涙目になる色無。いい気味だ。こっちもつむじのあたりがジンジンするけど。
「おーいて。まったく、冗談の通じない奴だぜ……」
「あんたがデリカシーのないことするからでしょ。ほら、さっさと練習はじめるわよ!」
「へいへい。じゃあ結んだ足から、イチニ、イチニ、くらいのテンポな」
「分かった。じゃあいくわよ。せーの、い——きゃあ!」
ズデン! 色無の足に思いっきり引っ張られる形になって、私はバランスを崩し、二人でもつれるように転んでしまった。
「あいたたた……ちょっと、いきなり大股で踏み出さないでよ!」
「いや、普通に踏み出しただけなんだが……すまん、背が低いぶん足も短いってこと忘れてた」
学習能力のないバカにつける薬はないので、とりあえずもう一回かちあげておく。悶絶する色無。正直、こっちも頭が痛くて泣きそうだ。
「今度はちゃんと私の歩幅に合わせなさいよ。せーの、イチ、ニ、イチ、ニ、イチニ、イチニ、イチニイチニイチニイチニ——ちょ、早い、早すぎるって!」
ズデン! 今度は順調な滑り出しだったけど、どんどん速度を上げる色無についていけず、また転んでしまった。
「く〜……あんたバカじゃないの!? 二人三脚であんなスピード出せるわけないでしょ!」
「好きで出してるわけじゃねーよ! チョコチョコ小股で走ってたらどうしてもピッチが上がっちゃうんだよ!」
「なんとかしなさいよ!」
「なんともならねーよ!」
はあ……最初から分かってはいたけど、身長差20センチでの二人三脚なんて、やっぱり無理がありすぎだった。
「イチ、ニ、イチ、ニ、イチニ、イチニ……ゴール! タイムは……うん、まあまあじゃん!」
「ふい〜。どうにか形になったな……。あとはこの感じを忘れないように、体育祭当日まで練習続ければ大丈夫だろ」
走っては転び、走っては転びを繰り返したものの、慣れるに従って呼吸が合うようになり、最後には結構な速さで走りきれるようになった。
「私が頑張って歩幅を広げて走った成果よね。感謝しなさいよ」
まあ、色無の方も半歩ほど歩幅を狭くしてたみたいだけど。
「へいへい。じゃあ紐ほどくぞ。これ先生に返しといてくれ。俺は先に上がるわ」
「ちょっと何言ってんのよ、まだ授業中……」
またサボる気か、と思ったけど、気づいてしまった。色無が左足を少し引きずってることに。
「何、どっか痛めたの……って、あんたよく見たら傷だらけじゃない!」
「あ〜、まあな。というわけで保健室行ってくるから」
色無は足だけでなく、腕も両方あざと擦り傷だらけだった。あれだけ転べば当然、とも思ったが、私はかすり傷一つない……理由を思いつくのに時間はかからなかった。
「……かっこわるいわね、そんな傷だらけになって。小学生じゃあるまいし、もうちょっとうまく転べなかったの?」
「うるせー。そんな器用な真似ができるか」
「しょうがないなあ。体調管理もパートナーの務めだし、私が保健室に連れてってあげるわ」
「は? いいよ別に。一人でいける——」
「いいから! ほら、肩につかまって。イチ、ニ、イチ、ニ……」
私は強引に色無の腕を取って身体を支え、歩幅を合わせて校舎に向かって歩き出した。
—キーンコーンカーンコーン。
紫「さて、授業も終わったし帰ろっ!」
—ポツ、ポツ……ザァァ……
紫「あ、雨だ。どうしよ、傘ない……」
無「雨降ってきたな……」
紫「色無も傘ないの?」
無「あぁ。展開的には俺が傘持ってて相合傘で帰る展開なのにな」
紫「どんな妄想してんのよ、ばか」
無「……はぁ」
紫「……はぁ」
無「走って帰るか?」
紫「それしかない?」
無「……ほれ。俺のカバン貸してやるよ」
紫「えっ?」
無「とりあえずそれで頭だけは濡れないだろ?」
紫「……あ、ありがと」
無「よし……行くぞ!」
紫「う、うん!」
—ザァァ……
紫「—ッはぁ、はぁ……」
無「ふぅ……大丈夫か?かなり息切れしてるみたいだけど?」
紫「っだって、色っ……無、速い……っんだもん」
無「それはお前がちっty……なんでもない。それにしても、ここまで降るとは予想外だったな」
紫「う、うん。……はぁ、結局寮まで走って行けなかったしね」
無「まぁ、暗くなるまで時間もあるし、夕立だからすぐ止むだろ」
紫「それまでここの公園の木の下で一休み……かぁ」
—ザァァァ
無「……」
紫「……」
無「……疲れたか?」
紫「うぅん、そんなことない」
無「そっか」
紫「……カバン、びしょびしょ……」
無「あぁ、そんなこと気にすんな。中身は弁当箱と筆箱しか入ってないんだ」
紫「だから軽かったんだ。……カバンの中身はその人の頭の中まで分かっちゃうよね?w」
無「む、どういう意味だそれ?」
紫「そのまんまw」
無「……orz」
—ザァァ……
紫「……なかなか止まないね」
無「あぁ。立ってるのも難だし、座るか」
紫「えっ、座るかって……汚いじゃん」
無「お前はカバン敷けよ。俺は別に平気だからさ」
紫「さすがにそれは悪いじゃん」
無「どうせ誰かさんの頭と一緒で何にも入ってないカバンなんだから使えよw」
紫「あは、それもそうだねw」
無「おい、ちょっとくらい否定しろよ」
紫「じゃぁ遠慮なく使わせてもらうね!」
無「聞けよ、おい」
—ザァァ……ポツ……ポツ
無「お、晴れてきた。そろっと行くk(こつん)~……ん?」
紫「……すぅ……すぅ……」
無「……やっぱ疲れたんだな。帰宅部でちっちゃいくせに無茶しやがって……」
紫「……ちっちゃぃ……ゅーな……」
無「うわっ!起きて……ねぇな。寝言か」
紫「……すぅ……」
無「仕方ないな。今日は特別サービス。(ひょいっ)—よっ、と」
無「思ってたよりも軽いな。誰かをおぶるなんて何年ぶりだか……」
紫「……ぁりがと」
無「ん、起きたなら下ろすぞ?w」
紫「///……すぅ……すぅ……」
無「そうそう。寝たふりしとけw」
紫「(色無の背中……こんな大きかったんだ……)」
無「—じゃ、行くぞ」
紫「色無ぃ、猫k」
無「だめ」
紫「……まだなんも言って無いじゃんっ!」
無「じゃあ続き言ってみ?」
紫「猫かっt……じゃなくて、可愛いよね?w」
無「あぁ、可愛いな」
紫「じゃあk」
無「だめ」
紫「なんでなんで!?いいじゃん飼っても!」
無「つーかなんで俺に聞くんだ?朱色さんに聞けよ。俺にそんな権限ないぞ?」
紫「いや、色無の部屋で飼ってもらおうと思ってさw」
無「もっとだめ。絶対だめ。だめ、ゼッタイ」
紫「むぅ……泣くよ?」
無「泣いてもだめ。……俺の部屋なんてただでさえ手間のかかる大きい子猫が来るのに」
紫「へっ?……もしかしてそれ、あたしのこと?」
無「お前以外に誰がいる?まぁ、手間がかかる分だけ可愛さもホンモノの猫とは比べ物になんないけどなw」
紫「……///」
無「……ということで飼っちゃだめだからな?」
紫「う、うんっ!///」
紫「……あ、あれ?なんか上手いこと言いくるめられた気がする……」
紫「はい、色無!一つあげる!」
無「ん、これなんだ?」
紫「見て分かんない?ペロキャンよ、ペロキャン」
無「ペロキャン?」
紫「ペロペロキャンディ。飴だよ!おいしいんだよ?」
無「へぇ〜。……で、それは分かったけどなんで俺にくれるんだ?」
紫「別に、あげたいからあげるだけだよ?要らない?」
無「まぁ、折角だから貰っておこうかな。ありがとう」
紫「えへへ、どういたしまして!」
無「……」
紫「……。(じー)」
無「……あの、なんでしょうか?」
紫「食べないの?ペロキャン」
無「いや、もう歯磨いたし……」
紫「……。(じー)」
無「食べな……」
紫「……。(じー)」
無「はぁ……一緒に食べるか?」
紫「うんっ♪」