紫メインSS

—ちゃぷん

紫「っはぁ〜♪やっぱお風呂はきもちぃ〜なぁ♪」

—こんこん

紫「はぁい?」

桃「紫ちゃん、私も入っていいかしら?」

紫「(来たな、でかメロンめっ!でも今日は負けないんだからっ!)う、うん。いいよ〜!」

—がちゃっ

桃「お邪魔しま〜す。……って、あれ?紫ちゃんおっぱい大きくなってない!?」

紫「えへへw一応Fカップだよ!」

桃「え、Fカップ!?私よりも大きいなんて……そんな……」

紫「やった!ついに桃ちゃんに勝った!!これであたしも—」

?「お〜い?」

紫「……ん、誰?」

?「お風呂で寝たら風邪引いちゃうよ?」

紫「!!~で、でかメr……じゃなくって、桃ちゃん!?」

桃「紫ちゃん上がってこないから入ってきちゃった!ゴメンね?」

紫「う、うぅん。起こしてくれてありが……はっ!そういえば!(ぺたぺた)……やっぱり夢、かぁ」

桃「?~どうしたの、おっぱいなんか触って……」

紫「な、なんでもないっ!///」


—もぞもぞ

無「ん、誰か隠し通路通って来たな……」

紫「(ひょこっ)~来たよっ!」

無「紫か!」

紫「えへへ〜、来ちゃった♪」

無「来ちゃった♪って……風呂は入ったのか?」

紫「え?……う、うん」

無「歯はちゃんと磨いたか?」

紫「うんっ!」

無「牛乳飲んだか?」

紫「ぁ……まだ飲んでない……」

無「明日の時間割はちゃんと合わせたな?」

紫「うん!」

無「宿題もやったな?」

紫「うん!」

無「体操着も準備したな?」

紫「うん!」

無「よーし、お子様はもう寝る時間だから帰ろうな?」

紫「うんっ!……って、ちっちゃいゆーなっ!」

無「なるほど、やっぱり紫はそこに突っ込むか」


紫「……〜〜〜♪」

無(ん、紫?何歌ってるんだろ)

紫「……れいぷみー♪」

無「ちょ、何歌ってるんだ!」

紫「ふぇ?……うーんと、にるばーなの『れいぷみー』」

無「そうじゃなくて」

紫「ん?」

無(……って歌の意味わかってないのかな)

 「そんな歌どこで覚えてきたんだ?」

紫「朱色さんが歌ってたの」

無「やっぱりあの人か……」

紫「何ため息ついてんの?……ところで『れいp——』」

無「じゃあ、俺勉強あるから!」

 (意味を聞かれる前にスタコラサッサだぜぃ)

紫「あ、うん。ばいばい」

朱「姉さんもいいかげん彼氏……」

群「うるさいわね……」

紫「れいぷみー♪」

朱(げっ、まずい)

群「紫、その歌どこで覚えたの?」

紫「ん、朱(ry」

群「覚悟はいいわね、朱色……って待ちなさいッ!!!」

紫「れいぷみー♪」


紫「お月見お月見〜♪」

無「お前の目当ては団子だろ?」

紫「む、そんなことないもんっ!」

無「じゃあこれみんな俺が食うぞ?」

紫「それはダメぇ!」

無「冗談だって。ま、たくさん食べて背ぇ伸ばせよ」

紫「ちっちゃいゆーなっ!」

無「あ、でも横にも伸びちゃうか」

紫「ぁうっ……や、やっぱり……お団子やめとこかな……」

無「……紫弄るのは面白いなぁ」

紫「!~い、色無のばかぁっ!///」

無「はは、悪い悪い。さ、一緒に団子食べようぜ?」

紫「うん♪」


—コク、コク、コク

紫「……ぷはぁっ!やっぱりお風呂上りの牛乳は最高だねっ!」

無「お前はオヤジか!」

紫「いーじゃん、別に!」

無「まぁ、せいぜい頑張って背ぇ伸ばせよ」

紫「ちっちゃいゆーなっ!」

無「ところで、髪濡れっぱなしだけどそのまま寝る気か?」

紫「あっ、乾かすの忘れてた。……そうだ、色無乾かして♪」

無「えー、なんで俺が……」

紫「おねがい♪」

無「……しゃーねぇなぁ///」

—ブオォォォ

紫「あー、人に髪乾かしてもらうのってやっぱり気持ちいいね!」

無「うん。(紫の髪からいい匂いが……)」

紫「あ、耳の裏あたりもうちょっと乾かして?」

無「うん。(このサラサラの指触りもいいなぁ……)」

紫「……ねぇ、そこは襟足だよ?」

無「うん。(あと10分はこうしててもいいや……)」

紫「……あたしの話、聞いてないでしょ?」

無「うん。(しかし、なんで女の子の髪ってこんな柔らかいんだろうなぁ……)」

紫「そーだっ♪~……じゃあ、あたしのこと好き?(ドキドキ)」

無「うん。(あー、もうなんも考えらんね……)」

紫「……言わせてはみたけど、なんか嬉しいような嬉しくないような……」


紫「……」

無「……」

紫「……」

無「……ぷっ……くくく……あっははは!」

紫「ぷはぁ!にらめっこ、あたしの勝ちぃっ♪」

無「負けた……はぁ。……あー、くそ!寄り目は反則だって……」

紫「えへへ、すごいでしょ!」

無「あぁ。どうやったらそんなこと出来るんだよ?」

紫「さぁ?いつの間にかできるようになってたよ?」

無「へぇ〜」

紫「さってと、罰ゲームやろっか!」

無「げっ、憶えてたのかよ!?上手く話逸らせたと思ったのに」

紫「甘ぁい!ちゃんとあたしの言うこと何でも一つ聞いてもらうからね?」

無「あぁ、分かってるよ」

紫「じゃあねぇ……寄りかかる」

無「は?」

紫「今日は寝るまで色無にあたしが寄りかかってるから!はい、決定!罰ゲーム決行〜♪(とん)」

無「ちょっ……これ、罰ゲームか?」

紫「……いーのっ!罰ゲームなのっ!///」

—20分後

紫「すー……すー……」

無「……寝るまで寄りかかるって、もう寝てるし……」

紫「……すー……ぅにゃぁ……にゃぁ……」

無「……どんな夢見てんだよ」


『どりょく』

紫「色無、今帰り?」

無「ああ、紫は?」

紫「……買い物」

無「スーパーの袋?~なに買ったんだ?」

紫「……なんでもいいでしょ」

無「なんでもいいって……ビニール透けて中身見えてるけどな」

紫「!!~みーるーなー」

無「牛乳と、煮干しか」

紫「見るなって言ってるでしょ!」

げしっ

無「痛ッ」

紫「見てなさいよ。スタイルよくなって見返してやるんだから」

無「なに言ってるんだか」

紫「むー」

無「……むしろ小さい方が可愛くていいんだけどな」

紫「!」

無「……どうした、紫?」

紫「へへー」

無「……急に機嫌が良くなったな」

紫「これあげる」

無「……牛乳は体にいいから一緒に飲もうな」

紫「うんっ」


—びゅぅぅぅぅぅ

紫「っきゃぁ!!」

無「だ、大丈夫か紫!?」

紫「う、うん!何とか……」

無「風が凄いなぁ……」

紫「か、傘が飛ばされるぅ……!」

無「おいおい、傘は飛ばされてもいいけど……なんか紫まで飛ばされそうだな」

紫「だ、大丈夫だもんっ!ちっちゃくないもんっ!」

無「ちっちゃいなんて一言も言ってねぇ……」

紫「う、うるさ(びゅううぅっ)—きゃぁぁぁっ!」

無「! (がしっ)……ほら、言わんこっちゃないだろ?」

紫「……ぁぅぅっ……こ、怖かったよぉ〜……!(ギュッ)」

無「お、おい。抱きつくn……いや、しっかり掴まってろよ?」

紫「ぅ、ぅん……。///


紫「あわあわ〜あわあわ〜♪」

 ガララララ。

紫「ひゃうっ」

黄緑「紫ちゃん。一緒に入ってもいい?」

紫「いいけど、どうしたの?」

黄緑「ふふ、ちょっとね」

 寮の風呂は広いので2〜3人くらいなら一緒に入れるのだ。

黄緑「はーっ」

紫「なんかあったのなら聞くよ……?」

黄緑「うん……」

 ガララララ。

桃「私も、一緒に入ってもいいかな……?」

紫「いいけど……」

黄緑「はぁ〜」

桃「はぁ〜」

紫「ど、どうしたの二人とも?」

桃「なかなか振り向いてくれないのよね〜」

黄緑「私も、いい雰囲気だとは思うんですけど……なかなか向こうから話しかけて来ることは……」

紫「……何のこと?」

黄緑「色無君のこと」

桃「私、体張ってるんだけどな〜」

紫「なんでよ、色無なんてうるさいだけじゃん。だいたい今日も……」

黄緑「うーんわからなかったわね〜」

桃「なんであんなちんちくりんがいいのかしら……」

紫「へくちっ! ぐず……風邪引いたかな……?」


無「あ、猫だ」

紫「お、ほんとだー。ねこねこー♪」

駆け寄って猫を撫でる紫。

猫、ごろごろと気持ち良さそうに喉を鳴らす。

無「紫猫好きなんだな……」

紫「だってちっちゃいしかわいーじゃん。猫は世界を救うんだよっ」

満面の笑みで猫を撫でる紫。

非常に気持ち良さそうな猫。

無「世界を救うかどうかは知らんが……紫って、何か猫に似てるよな」

紫「? それ、どーゆー意味?」

無「え? あ、いや、その……」

紫「……まさか、私がちっちゃいってことを言ってるのかなぁ〜?」

無「や、違うけどその」

紫「……覚悟決めて、歯ぁ食い縛りなさい〜」

ドロップキックの準備をする紫。

無「いや、だから違うって! その、紫、猫みたいに可愛いから……」

ちょっと赤くなりつつ色無。

飛び掛ろうとしていた紫、動きを止める。

紫「……は? 今、何と」

無「だから、可愛い、と」

紫「……ッ」

瞬く間に真っ赤になる紫。

赤い顔が二つ並ぶ。

猫が能天気ににゃあ、と鳴いた。


—ピコピコ

紫「むぅー……」

無「ちょっ、違っ……そこは……あぁ、もう……」

紫「色無はちょっと黙ってて!……あー、ほら死んじゃったじゃんっ!」

無「だって紫があまりにも下手で」

紫「ぅぐぅ……じゃあ色無やってよ」

無「おし、任せろ!」

—ピコピコ

紫「わっ……うまっ……すごっ……」

無「……ちょっとストップ。なぁ、そこに居られると影になって画面が見づらいんだけど……」

紫「だって、こうしないと見えないよ?」

無「それはそうだけどさぁ……」

紫「んー……そうだ!(ぐいっ)」

無「お、おい、何する……って!」

紫「(ちょこん)えへへ、色無に抱っこしてもらえばいいんだ♪」

無「///……ま、まぁ紫はちっちゃいから画面も見えるしな」

紫「ちっちゃいゆーなっ!」

無「よし、じゃあ俺のテクニックしっかり見とけよ?」

紫「うんっ!」

—数日後

紫「わっ、すっごいね灰!!色無なんか比べ物になんないよ!」

灰「こんな単純なゲーム寝てたってクリアできるよ」

無「……そういえばコイツがいたなorz」


紫「う〜ん!気持ちぃーなぁ♪」

無「こんな天気が良い日は散歩に限るな」

紫「えへへ、連れて来てくれてありがとうね、色無♪」

無「べ、別にアンタのために散歩連れてったわけじゃないんだからねっ!」

紫「……それなんてツンデレ?」

無「うっ……ま、まぁ今のは軽いジョークだ。そんなちっちゃいこと気にすんなよ!」

紫「(わしゃわしゃ)きゃっ!い、いきなり頭撫でないでよぉっ!///」

無「いいじゃん、別に。それに……まんざらでもないって顔してるけど?」

紫「う、うるさいっ!///」

—その二人の後ろでは……

青「(ピー ガガガ ピー)……こちら青、本部応答願います」

赤『こちら本部赤、ただいまの色無と紫の状況を説明されたし。どぞ!』

青「(ピー ガガガ)ただいま○○町2丁目において色無が紫の頭をわしゃわしゃと撫でていいふいんき(←ry)な模様。どぞ!」

赤『了解した。引き続き追跡中継を頼む。……それと、ふいんきじゃなくて、雰囲気だと思うんだけど?どぞ!』

青「(ピー~ガッガ)!!……ま、マジレスするなんてカッコ悪いわよ!!///……でも、赤にそんなこと突っ込まれるなんて……orz」

青「……って、あれ?色無と紫がいない!落ち込んでる間に逃げられたか……orz」


紫「はぁ〜、晴れてて気持ち良いなぁ!」

無「そうだな。こんな日は……」

紫「昼寝に限るねっ♪ってコトで、ちょっと膝枕して!」

無「マテ!そこは普通逆じゃないか?」

紫「いーから黙って枕になれぇ!(ぽすっ)」

無「……俺も昼寝したいんだけど」

紫「あたしの昼寝が終わったらね♪」

無「……紫が膝枕してくれるのか?」

紫「さぁ、どうでしょう?」

無「じゃあピンクにでも頼もうk」

紫「そ  れ  は  ダ  メ!!」

無「なんでだよ?お前やってくんないんだろ?」

紫「だって、ピンクが膝枕なんかしたら……その……いろいろと……あぁ、もう分かった!あたしがやってあげるね!」

無「よしよし、いい子いい子。最初から素直にそう言えばいいんだよ。(なでなで)」

紫「子供扱いするなぁっ!///」

無「あぁ、ゴメン」

紫「……でも、頭なでるのは続けてもいいよ?///」

無「はいはい。(なでなで)」

紫「色無……ありがとね」

無「……ところで、男の膝枕って気持ちいいか?」

紫「……正直、あんまり」


『みため』

紫「ふぅ……」

無「ため息なんてついてどうした?」

紫「伸びないかなーって」

無「……背が?」

紫「……」

ゲシッ

無「痛いって、無言で蹴るなよ」

紫「……」

無「だからなんなんだよ」

紫「……」

がしっ

無「今度は抱き付きか……つむじが見えるな」

紫「ぅー」

無「……どうしたんだよ」

紫「……妹に見られた」

無「……は?」

紫「この前一緒に買い物に行った時、店の人にカッコイイお兄さんね、って言われた」

無「……あー、あの時ね」

紫「もっとスタイル良かったら、あんなこと言われないのに」

無「……でも兄妹に見られるくらい仲良く見えたんだから、それはそれでいいんじゃないか?」

紫「!」

無「……そのうち背も伸びるかもしれないしな」

紫「……協力してよね」

無「はいはい」


紫「うぅー、寒い……」

無「そろっとストーブ欲しいなぁ」

紫「そーだね。……あ、でもやっぱいらない!」

無「なんでだよ?」

紫「それはー……こーゆうことできるからっ♪(抱きっ)」

無「ちょっ、抱きつくなっ!」

紫「いーじゃん、けち!」

無「良くねぇ!……(ぼそ)抱きつかれるこっちの身にもなってみろよ」

紫「そうだなぁ……じゃあ、色無抱っこしてよ!」

無「なんでそーなるっ!?」

紫「だって抱きつくなって言ったじゃん」

無「そりゃそうだけど……」

紫「うー、寒い寒いー。このままじゃ凍え死んじゃうー。あたしが死んじゃったら色無のせいだからねー!」

無「……しょうがないな、こっち来いよ」

紫「わっ、ホント!?ありがと色無ぃー♪(ぎゅぅっ)」

無「今日だけだからな(って言葉を使うのは一体何回目だろうか……)」


男「そろそろ帰りなさいよ」

紫「だって色無の部屋あったかいんだもーん」

男「ホットカーペットごときで何を……」

紫「う〜あっだが〜い」(ごろごろ

男「紫の部屋にもこたつあるだろ」

紫「こたつじゃん!!」

男「何が不服なんだよ!むしろこたつのがいいだろ!」

紫「こたつなんてどこの家庭にもあるし!敢えてホットカーペットというこう大人な雰囲気が大切なの!」

男「背伸びするなよ……」

紫「ちっちゃいゆーな!」

男「ほらほら、わかったから帰った帰った」

紫「え……えと、もう少しいちゃだめ?」

男「いつまでもだらだらするなって。電気代もったいないし布団入ったほうがあったかいぞ」

紫「……ん……そうじゃなくてぇ……」

男「?」

紫「色無と同じ部屋にいたいっていうか……その……ごにょごにょ」

男「?いまなんて言ったの?」

紫「//////」

男「あ、赤くなった」

紫「い、いいから!もう絶対帰らないからね!ずっと枕元に立って夢に出てやるんだから!」

男「いやいまなんて言ったんだよ!?」

紫「うるさい!あーホットカーペッドいいなぁ〜」

男「逸らすなって!」

灰「やっぱ時代はハロゲンだよな姉者」

黒「部屋真っ暗にして使わないの。あんたの顔が浮かび上がって怖いって」


——バタンッ! 
紫「色無ぃ!!」

無「うおっ!!(ドンッ)ったぁ〜……なんだよ朝から……」

紫「ねぇねぇ!外見て、外!」

無「外?……なるほど。通りで寒いわけだよなぁ」

紫「雪だよ雪っ!早く着替えて外出ようよ!」

無「やだよ!こんな寒いのに外にでるバカがどこにいるんだよ」

紫「いーじゃん!ね、雪だるま作ろ♪作ろ♪」

無「(なんかテンション高すぎじゃないか?)だからやd——」

紫「ほらほら早くっ!もう、しょうがないなぁ。あたしが着替えさせてあげるから♪」

無「ちょっ、分かった!分かったから!」

紫「早く♪早く♪」

無「とりあえず出てけ!着替えられないだろ!」

紫「あ、うん。じゃあ準備できたらちゃんと外来てね?」

無「あぁ、分かったよ。……ふぅ、なんで子供って雪が降るとあんなに元気になるんだよ」

紫「ちっちゃいゆーなっ!」

無「うわっ!まだいた!」

紫「早く着替えてねっ♪」

無「……ま、たまにははしゃいで遊ぶのも悪くないかもな」


『石焼芋?』

無「はふはふ……どうして焼き芋ってうまいんだろなー?」

紫「あっ、色無! 焼き芋食べてるなんてずるいー!」

無「自分の金で買ったからいいだろ。なんなら食うか?」

紫「えっ、いいの!?」

ボフッ

無「ほい」

紫「ありがと、色無! はふっ、あっ、あつっ」

無「別に逃げないんだから、ゆっくり食えよ」(紫の頭をなでる)

紫「子供じゃないんだからそういうことするなー!」

無「はいはい、冷めるぞ」

紫「むー、色無のくせにー……あむっ」

無「(食べてるところが可愛いとか言ったら怒るんだろうけどな。ま、いいか)」

紫「(焼き芋おいしー♪)」


紫「うぅ……寒ぅ……そうだ!こんな時はあそこに行けば暖かいよね!」

無「ベッドに潜って色鉛筆スレを見る……寝る前の至福の時だなぁ(モゾモゾ)……ん?」

紫「(モゾモゾ)っぷはぁ!やっぱり色無のベッド暖かい♪」

無「うおっ、冷たっ!!(ペタペタ)ちょっ、触るなよ!冷たいって!」

紫「えへへ、色無も暖かいー♪」

無「俺は寒ぃんだよ!……って、お前冷えすぎだろ!?大丈夫か?」

紫「ふぇ?そりゃ寒かったけど……」

無「ったく……ほら、こっち来いよ」

紫「えっ?」

無「暖めてやるって言ってるんだよ。ほら……」

紫「……///」

無「人のベッドにぬけぬけ入ってきといて今更そんなことで恥ずかしがるなよな……」

紫「だ、だって……」

無「なんもしないから安心しろっての!(ギュウ)」

紫「ひぁっ!///」

無「……ホントに体の芯から冷たくなってるな」

紫「……色無、暖かいね。///」

無「お前が冷たすぎるんだよ……」

紫「……でも冷えてたおかげで色無にギュウってしてもらえてるし♪」

無「……。///」

紫「ありがとね、色無♪」

紫「……すー……すー……」

無「(自分からやっといてアレだけど、こんなに密着した状態で寝れるわけねー!!///)」


無「駅前にラーメンの屋台があるとは……食べてみるか」

店主「へいらっしゃい!」

紫「あっ、色無!」

無「紫? こんなところで何してんだ?」

紫「ちょっとお腹がすいたから、ラーメンを食べよっかな〜って」

無「夕飯食べられなくなるぞ……あ、おやっさん。醤油で」

店主「へい毎度あり!」

紫「なにー! 色無だって食べに来てるじゃないかー!」

無「俺とお前とでは大きさが違うだろうが」

紫「ちっちゃいって言うなー!」

店主「へいおまち!」

無「あ、ども……とりあえず、ちゃんと家に帰っても食べろよ?」

紫「うん、分かってる! 黄緑のご飯はおいしいもん!」

無「……まぁ、それなら心配ないか。んじゃ、いただきます」

紫「いただきまーす!」


紫「むー……。お腹が空いて寝れない……」

 パタン。ガサゴソ

紫「冷蔵庫の中、なんかないかなぁー……ん、プリン見っけ♪ でも誰のだろ? ま、いっか! ……あ、そうだ! ついでに牛乳も飲まなきゃ! (パクッ)あー、美味し♪なんか夜食って何食べてもいつもより美味しく食べれるよね。なんでだろ?(コクコクコク)……っぷはー!うん、牛乳もやっぱり美味しい♪」

無「夜食ー夜食ー、俺のプリンー♪……あれれ〜、プリンの容器が空っぽだよ〜?」

紫「あ……」

無「プリン……俺のプリンになにするだーっ!?」

紫「これ色無のプリンだったの?」

無「な、なんてこったい!俺の楽しみが……」

紫「今ならまだあたしの口の中にプリンちょっと残ってるかもよ?」

無「そ、そんなことできるかっ!///」

紫「冗談に決まってるじゃん。何本気にしてんの?」

無「……こ、このガキぃ!」

紫「じゃあたし寝るね、おやすみ!プリン美味しかったよ!また買っといてね♪」

無「……」


無「んー、明日は休みだし、今日は遊べるなー」

その一言が、放課後に残っていた生徒達の空気を一変させた。

ざわ……ざわ……ざわ……。

生徒A(先週は黄緑さん対黒さんの戦略対決により、残っていたクラスメイトがやられたという結果……!)

生徒B(その前は赤さんの逃亡劇に黄さん、橙さんの学校追走劇があってとても凄いことになった……)

生徒C(さぁ、今日はどうなる……?)

某麻雀漫画のような雰囲気を漂わせているクラス。そこへ

紫「やっほ〜色無〜。帰ろう〜?」

ザワ……ザワ……!

生徒A(紫ちゃん……! あいつはいったいどれくらいの人間に好かれているのか!?)

生徒B(落ちつけ生徒A。やつはきっと天性の女たらしなんだ。間違いない)

生徒C(だが、きっとあいつは一緒に帰らない。帰ればロ○コン認定なはず……!)

無「ああ、いいぜ。どこかによるのか?」

紫「ん〜、アイスでも食べにいこう!」

無「はいはい、分かったよ」

ガラガラ(扉が閉まる音)

ZAWA……ZAWA……

生徒A(な、なんだと……! 周りの視線、雰囲気などものともせず一緒に帰っただと……!?)

生徒B(しかもあの自然さ……あれは最早ロリとは思わせない、仲の良さ……!)

生徒C(負けた……俺らには一生届かない領域……!)

黒「……なにこの雰囲気」


「色無さん、ついに来ました! 女神降臨です!」

「マジで!? うおお手が震えるぜ……ギャーーーーース!!」

「ま、またグロ画像でしたね……」

「ああ……いったい本物の女神はいつになったら現れるんだ……」

 用事を済ませて職員室から戻ってくると、色無が携帯をいじりながら大騒ぎしていた。相手は……なんて名前だったっけ? 侍黒ちゃんとよく一緒にいるけど、忘れちゃった。

「何見てるの?」

「ん? ああ、2ちゃんのスレで、ときどき有志の女の子が自分のおっぱいをうpしてくれるところがあって……げえっ、紫!」

「……最低!! ついてこないで! 犯される!!」

「人聞き悪いこと言うな!! じゃあ俺ら帰るわ。侍黒によろしくな!」

「……幸運をお祈りしますよ」

 色無がずっとあとをついてくる。ほんとにうっとうしい……まあ同じ寮に住んでるんだから当然なんだけど。“男の性”について延々と言い訳しててうるさい。

「……」

「……」

 ずっと無視してたらさすがに言うこともなくなったのか、ようやく静かになった。赤信号に引っかかる。間がもたないのできょろきょろしていると、腹立たしいことに巨乳アイドルの水着ポスターが目にとまった。

「……はあ……」

 横で信号を見つめている色無に気づかれないよう、小さくため息をつく。私だって牛乳飲んだりバストアップ体操したり、日夜努力してるんだけどな。このアイドルみたいに、胸を強調したポーズを取れば私だって少しは……。

「紫? なにしてんの?」

「!! な、なんでもない!」

 不覚! 自分でも気づかないうちに胸を寄せて上げていた……大して変わらなかったけど。いや、問題はそこじゃない。それをよりによって色無に見られるなんて……何とかごまかさなきゃ。

「……ねえ……男ってみんな大きな胸が好きなの……?」

「え、あ〜いやどうかな? まあ視覚的にインパクトあるから、世間的には大きい方が人気みたいだけど……」

 ようやく私に相手をしてもらって嬉しい半分、質問の意図がつかめなくて困惑半分といった複雑な表情をして、色無が答えた。

「じゃあ……色無は大きな胸の女の子が好き? 桃とか……黄緑とか……」

 私は何を言っているんだろう? しかし一度出してしまった言葉を引っ込めることはできない。しばらく耐え難いほどの沈黙が続いた。

「……俺が好きなのはさ……背がちっこくて、まあ胸もそんなになくて、毒舌だけどホントは優しくて、他にもいいところがたくさんあって、とにかく全てが愛おしい……そんな女の子がタイプかな」

「……そんな女の子、めったにいないよ」

「ははっ、そうだな。でも一人いれば充分だよ」

「……馬鹿……」

 今日はいいことがあったから、牛乳も体操もお休みにしよう。今日だけね。


 ピピピピッ ピピピピッ カチャ。

 ……ピーーッ ピーーッ ピーーッ カチャッ!

 ……ビビビビビビビビビビビビッ ガチャーーン!!

「あーもーうるせー!! たまの日曜くらいゆっくり寝かせろ馬鹿野郎!」

 目覚ましを壁に投げつけると、色無は頭から布団をかぶって再び惰眠をむさぼった。

「しかし何だって俺は目覚ましなんかかけたんだっけ? ……!! あーーーーーーーっ!!」

 色無はバネ仕掛けのおもちゃのように跳ね起きた。

「今日は十時に紫と待ち合わせしてたんだ……げっ、十時半!? まだ目覚まし鳴ってからいくらも経ってないのに……ぐあ〜、十時にセットしてある……アホか俺は!」

 もう一刻の猶予もない。洗顔もせず、髪もボサボサのまま、色無は脱ぎ捨ててあった昨日の服に袖を通して家を飛び出した。

「ぜえぜえ……紫はどこだ……」

 たまたま今日は遠出で、色無が駅に着いたときは各駅停車しか走っておらず、その他さまざまな偶然の悪意が重なって、待ち合わせ場所に着いたときはすでに十二時を少し越えていた。

「! 紫! おーい!」

 人混みの向こう、よく待ち合わせの目印に使われる大きなオブジェの前に紫は立っていた。見たことのない軽薄そうな男と楽しげに談笑していたが、色無に気づくと紫は男に手を振り、背を向けて歩き出した。

 男は名残惜しそうに手を伸ばしたが、すぐに別の女の子に声をかけ始めた。

「すまん、遅くなった! 許してくれ!」

 目をぎゅっと閉じて両手を合わせ、地面につけとばかりに頭を下げる。紫からの返事はない。そーっと伺うと、にこにこ笑う紫の姿があった。どうやらそう怒ってはいないらしい。色無はほっと安堵のため息をつき、頭を上げた。

「その、ホントごめんな。寝坊しちまって……ところでさっきの男、誰?」

「さあ? なんかねー、ビデオのモデル探してるんだって。服着たままでいいって言うから、どうしようか迷ってたとこ」

 色無は驚愕に目を見開いた。

「な、お前馬鹿か! そんなの嘘っぱちに決まってるだろ! 危ねーなあ、絶対ついてったりすんなよ!」

「そんなこと、たまたま偶然駅前で出会っただけの色無に関係ないじゃない」

「たまたまって……今日買い物するから荷物持ちについてこいって誘ってきたのはお前じゃ……」

「そうだねー。私もじゅ・う・じ・に待ち合わせした覚えならあるんだけど。ところで今何時? なんか私の腕時計も駅の大時計も狂ってるみたいでさ、みんなそろって十二時を差してるんだよね〜。色無のは何時?」

 紫の表情に変化はなく、にこにこしたままだったが、ようやく色無は悟った——紫は、激怒している。

「えーと、俺の時計も十二時、いや十二時過ぎです……ごめんなさい。……怒ってる?」

「当たり前でしょ、この馬鹿! どんだけ待ったか分かってんの!? 二時間だよ、二時間! どんだけ寝ればこんなに遅刻すんのさ!」

「すみません……」

「だいたい遅れるなら遅れるでメールくらいしろ!」

「そうしようと思ったんだけど、携帯の電池が切れてて……ホントごめんなさい」

 色無はひたすら水飲み人形のように頭を下げ続けた。正直回りの視線が痛かったが、悪いのは自分なのでひたすら紫の怒りが収まるのを待つ。

「寒い中立ちっぱなしで足は痛くなるし、お腹は空いてくるし、お手洗いにも行けないし! ……グスッ、三回もナンパされるし……

手引っ張られて強引に連れてかれそうになったし……」

 紫の様子が突然変わり、顔を上げた色無はぎょっとした。紫は唇をぎゅっとかみしめ、こぼれそうな涙を必死にこらえていた。

「紫……ごめんな。いくら謝っても謝り足りないけど……怖い思いさせちゃって、本当にすまなかった」

「そんなことどうでもいいよ! 人がどれだけ、どれだけ心配したと思ってんのさ! 何回かけても携帯繋がんないし、車に轢かれたんじゃないかとか、何か厄介事に巻き込まれたんじゃないかとか……悪い想像ばっかり浮かんで……ずっと不安だったんだからぁ! ……うう、うわーーーん!!!」

 ついに紫は子供のように号泣した。

「そっか。ごめん、ごめんな。……心配かけてごめん、そして、ありがとう……」

 紫が泣きやむまでずっと、色無は優しく抱きしめ続けた。もう回りの視線は気にならなかった。

「一つ提案があるんだが」

「なによ」

「同じ寮に住んでるんだから、外で待ち合わせるのやめにしないか? 一緒に出掛ければ、万が一俺が寝坊したら起こしてくれればいいんだし」

 荷物の陰に隠れて見えない色無に背を向け、紫は呟く。

「……外で待ち合わせた方が、いかにもデートって感じがするんだもん……」

「うおっとと。あぶね、またひっくり返すとこだった……。紫、今なんて?」

「色無みたいな荷物持ちと、寮から一緒に出掛けるなんてまっぴらだって言ったの! もたもたするな、次いくよ!」

「まだ買うのかよ……」

「なにか不満でも? 遅刻魔さん?」

「……いえ、ありません……」

 紫は足取り軽く次の店に向かった。


紫「あったか〜い。ね、色無、みかん取って」

無「自分で取れよ」

紫「イヤ」

無「なんで?」

紫「めんどくさい」

無「じゃ、俺もめんどくさい」

紫「うー」

 ごろん。

無「何してんの?」

紫「もうなんでもいいやーって思って」

無「……」

紫「あったかいしねー」

無「コタツって気力奪うよな……」


紫「コタツはいいな〜♪」

無「わざわざ俺の部屋まで来るなよ。自分の部屋にないのか?」

紫「ないよ。それにエアコンだと乾燥するんだもん。」

無「ふーん。」

紫「コタツ〜♪(こつん)……ん、これ色無の足?」

無「そうだけど?」

紫「狭いんだからもうちょっとそっちやってよー!」

無「……人のコタツに入っといて生意気な事言う口はどの口だ?そういう奴は……こうだっ!(こちょこちょ)」

紫「ひっ!!ひぁっ……あははっ……ゃっ……って、止めろーっ!!///」

無「なんだよ、これからが面白いのに……。」

紫「お、面白い!?このド変態っ!!///」

無「こういう事すんのもコタツの醍醐味だろ?」

紫「そ、そんなの知らないっ!///」

無「しょうがないな……。じゃあこれはどうだ?」

紫「ん?(ぴとっ)!!—ひゃうっ!い、いきなりなにすんのっ!?」

無「みかん。」

紫「……。」

無「なんだ、いらないのか?」

紫「……い、いるよっ!食べるっ!!」

無「じゃ早く取れよ。」

紫「……色無が剥いてくれたら……食べる。///」

無「……ふぅ。まったく世話かかるなぁ。」

紫「……(ぼそ)色無がお世話してくれるからいっつもここに来ちゃうんだよ……。」

無「ん?なんか言ったか?」

紫「!!な、なんも言ってないっ!///」


 つるつるぺたぺた

紫「うーん、なかなか大きくなんないなぁ……」

紫「みんな大人っぽくなっていくのに私だけ……」

 次の日

紫「ねぇ、黄緑」

黄緑「なぁに? 紫ちゃん」

紫「黄緑は胸どうやって大きくしたの?」

黄緑「む、胸? 私の場合はこれといって……。自然にこうなったから……」

紫「……(しゅん)」

黄緑「ああ! 落ち込まないで! ……そうだ、桃ちゃんなら何か知っているかも」

紫「桃かぁ……。……うん、桃なら何か知っているかも!」

黄緑「そういうわけなんだけど……」

桃「胸を大きくする方法かぁ……」

紫(わくわくどきどき)

桃「キャベツを食べるとか……」

紫「ふんふん……キャベツ、キャベツと」

桃「それから……豆乳がいいって良く聞くかなぁ……」

紫「豆乳かぁ……」

桃「あと」

紫「?」

桃「異性に揉まれると大きくなるって誰か……」

紫「い、異性!?」

黄緑「桃ちゃんそれは……」

紫(い、異性ってことは色無? でもでも、そんなこと頼めないよぅ……。ああでもやっぱり色無も胸はおっきな子の方がいいのかなぁ……あああ)

 ぷしゅ〜っ

紫(バタリ)

黄緑「!! 紫ちゃん!?」

紫「ち、ち、ちっちゃいゆうなぁ……(ぐるぐる)」

黄緑「大変! 目が回っているわ!」

紫(むしゃむしゃ)

橙「何食べてんの……?」

紫「キャベツ」

橙「それ、山盛り全部!?」

紫「そう」

橙「あはは……頑張って……」

紫「うん、頑張る」

 数年後

紫「見てー色無こんなにナイスバディに!」

無「おお! すげえ! すげえよ紫! お前に惚れた! 結婚してくれ!」

紫「え、ほんと!? やったー嬉しいー!」

紫「っていう夢を見たの」

黄緑「ぐす……紫ちゃん可愛そう……」

紫「うわぁ〜ん! ちっちゃいのやだぁ〜!!!」

桃「色無く〜ん」

 むにゅん

無「わ!? 桃!? 後ろから抱きつくなよ!///」

桃「///えへへ〜だって〜////」

紫「(ムカムカ)なによ! あんなにデレデレしちゃって! 私だって……」

紫「色無〜」

 ドガッ!!!

無「うぐぅ!!!!」

紫「そんな……どうして……?」

黒「衝撃を吸収できなかったのね……」


紫「色無お年玉ちょーだいっ!」

無「……あれ?お前俺と同じ歳——」

紫「こーゆー時はいいの!」

無「確かにちっちゃくて性格も見た目も子供っぽいけど……」

紫「でしょでしょ?ほらほら早くー♪」

無(なんて都合のいいやつなんだ……いつもなら確実に怒り出すのに)

紫「お・ね・が・い♪」

無「しょうがない、奮発して……ほら」

紫「やたー!……って、あれ?なんか丸くて硬いんだけど」

無「貴重なバイト代の中から500円も出してやったんだぞ?」

紫「むー、紙のお金がよかったのに……ま、いいや。ありがとね♪」

無「……なんだろう、良い事したはずなのに胸がもやもやするこの気持ちは……」

 次の日

橙「色無お年玉くれー!」

黄「あたしにもー!」

青「ど、どうしてもくれるってゆーんならもらってあげるわよ?」

赤「ボクのはー?」

無「……/(^o^)\」


紫「お、おかえりなさいませご主人さま……」

男「ただい……うん。まず、事情の説明を要求する」

橙「おかえり色無。えーとね、ついさっきまで徹夜で人生ゲームやってたんだけどさ」

朱「もう売る物は身体しかない! ってくらいまで負けてね、この子」

男「てことはまさか、お金賭けてたんですか?」

黄「まぁねー。で、見事に負けた紫ちゃんだったんだけどさー」

朱「『せっかくのお年玉だもん、やっぱりやだー!』と駄々こねてね」

橙「まぁ私たちも鬼じゃなし、身体で払ってもらおうということでこうなりました。以上!」

男「……あぁそう。しかし、どこのメイド喫茶だってくらいの衣装だな」

黄「今日一日限定のメイドさんだからねー。どうぞご自由になさってください。くふふ」

紫「よ、よろしくお願いします……ご主人、さま……」

男「まぁなんだ、災難だったな」

紫「うるさいッ! そ、それより私はどうすればいいのよ!」

男「そこで逆切れされてもなぁ。 まぁそれよりさ、オマエ寝てないんだろ?」

紫「え? まぁ、徹夜でやってたから……」

男「なら寝ろよ。部屋に戻るとアイツらがやかましいだろうから、俺のベッド貸してやる」

紫「なッ——い、いいわよそんなのッ! す、少しくらい寝なくたって大丈夫だから!」

男「じゃあ、ご主人様の命令ってことで。それなら聞かないワケにはいかないよな?」

紫「う……しょ、しょうがないわね。 じゃあ……し、失礼します、ご主人さま……」

男「ああ、おやすみ。しかし俺も徹夜だからなぁ寝ないとヤバイんだよなぁ。まぁいいや、床で寝よ」

紫「あ……あの、ご主人、さま。で、でしたらその……」

橙「朱色さーん」

朱「おー。どうどう?なんか面白い展開になったー?」

橙「いや、後でからかう分には面白いんですけど、ぶっちゃけ最悪な展開です。えーと……」

朱「……あ、朝っぱらからでしかも速攻とはいい度胸だなあのガキども! えぇい、私も混ぜろー!」

橙「え、えぇー!?ちょ、ちょっと朱色さん待って落ち着いてーッ!」


紫「あー、なんかヒマだなー……今なら誰もいないよね?」

紫「コタツに入って、スイッチ入れて……灰ちゃんの真似ー! あぅーぅー」

無「……」

紫「ぅーぁーーー」

無「……」

紫「なんかコレ慣れてくるとちょっと楽しいかも……」

無「……お前、何やってんだ?」

紫「!! い、色無っ!?いつからそこにいたの!?」

無「変な声出してるあたり」

紫「い、いるならいるって言ってよバカ!///」

無「だってあまりにも楽しそうだったから……」

紫「べ、別に楽しくなんかないもんっ!」

無「……で、何やってたんだ?」

紫「うるさぁい!!もう見なかったことにしといて!!///」

無「はいはい分かった分かった。隣もうちょっと空けてくれよ、入れない」

紫「4面もあるんだから他のとこに座ればいいじゃん!」

無「だって隣じゃないと足伸ばせないし」

紫「ぅぐ……へ、変なことしちゃダメだからね!」

無「おう、サンキュ」

黄緑「紫ちゃんに色無君、ご飯よぉ?」

無・紫「……すー……すー……」

黄緑「あらあら、うふふ……」


紫「ん〜、しょっ……えいッ! も、もうちょっとぉ……くぅッ……・」

男「はいはい危ないから(ヒョイッ)」

紫「あーッ!? ば、バカ色無!人がせっかく苦労して取ろうとしたのに!」

男「いや、見ててかなり危なそうだったから。戸棚の上はいろいろ重たいものもあるし。はいこれ」

紫「うぅ……ふんだ!」

男「拗ねない拗ねない。別にいいじゃん、助け合いってことでさ。こういうことは俺に任せとけよ」

紫「色無に、任せる……?」

男「どう考えたって俺のが大きいんだし。それにあんなことで紫にケガでもされたら、みんな悲しむぞ?」

紫「……むー。でも、でも」

男「でもじゃないの。それよりさ、昼ご飯の続き頼むよ。青がいないからやってくれてるんだろ?」

紫「ちち、違うッ!青ちゃんに頼まれただけだから!誰も色無の為なんて言ってないでしょ!?」

男「俺も言ってないぞ。いやー、楽しみだ。紫の料理はどんな味かなー」

紫「……い、いいから大人しくしてなさいよ!」

男「——こいつはびっくり。なにこの豪華さ?晩ご飯じゃないよね?」

紫「ちょ、ちょっと作りすぎちゃった……」

男「それじゃいただきまーす。……おぉ。なんていうか、作り慣れてないからこその新鮮さと言いますか」

紫「どーいう意味よそれ!」

男「青とはまた違った意味でおいしいってこと。うん、正直ちょっとびっくりした。すごいな紫」

紫「ふふん♪すごいでしょすごいでしょ?」

男「あぁ。これなら紫にもご飯係を任せられるな」

紫「そ、そう? ……しょ、しょーがないなぁ。青ちゃんがいないときは、アタシが色無の面倒を見てあげよっか?」

男「ははは。うん、それじゃお願いします。……なんかさ、こうやってお互いに助け合えるのって、やっぱいいよな」

紫「うん♪」

群(……紫ちゃんは紫ちゃんで、なんか新婚さんっぽいムードじゃない。奥様は○学生、か……恐るべし、色無くん)


(うう、眠い……五時間目の授業をまじめに受けられるやつはどっかおかしいよね……あー暖房あったかい……)

 お腹いっぱいお弁当を食べた昼休み。みんなとわいわい騒いでるうちはよかったが、授業が始まったとたんに意識がもうろうとしてきた。

(……はっ! ヤバイヤバイ、ちゃんと起きてないと……このあいだも怒られたばっかだし……ところで今なんの授業だったっけ……羊が一匹、二匹……)

 もう自分がどこで何をしているのかも曖昧になってくる。いよいよ夢の世界へ旅立とうとした瞬間、教師が板書を終えて口を開いた。

「——とまあ、こうなるわけだ。分かったな? ではこの次を……紫!」

「……ふぁい? あ、ひゃ、ひゃい!」

 たっぷりまばたき三回分の時が過ぎたあと、ようやく覚醒した紫はあわてて立ち上がった。教師が眉をひそめてにらんでくる。

「なんだ? 寝てたのか?」

「そ、そんなことありません! 寝てないです!」

 あわてて否定するが、口元のよだれを拭いながらでは説得力に乏しかった。そもそも机の上に教科書すら出していない。

「まあいい。次の段落を読んで訳せ」

 幸い目の悪い教師には、紫が授業の準備をしていないことには気づかなかったようだ。だが『次の段落』と言われても、どうにもしようがない。

「あ、はい……えーと……」

 冷たい汗が背中を伝う。もう観念して頭を下げようかと思ったとき、隣の席に座る色無がそっと教科書を差し出した。

「85ページ、1行目から」

「え? あ、ありがと……」

 紫の方を見ず、黒板に目を向けたまま色無が呟く。紫は少し驚いたが、ひとまず小声で礼を言って教科書を手に取った。

「えーと、『春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明りて、紫だちたる雲の、細くたなびきたる』。訳は——」

「いや、けっこう。清少納言の枕草子か。古典の名作だな。読みも大変すばらしかった。ところで……私は誰で、今はなんの授業だ?」

「はい? えと、先生は田中先生で……今は、リーダーの……授業です……」

 徐々に大きくなっていくクラスメイトの忍び笑いとともに、紫の顔はみるみる赤く染まっていった。

「寝ぼけて教科書から間違えるとは、そんなに先生の授業はつまらないか? じゃあ一人で勉強できるように宿題を出してやろう。放課後取りに来るように」

「はい……」

 出席簿で頭をぺしぺし叩かれながら、紫は隣で笑いをこらえている色無を射殺さんばかりの勢いでにらみつけた。

「いーろーなーしー!!!!!! 覚悟はできてるんでしょうね!!」

「うお、あぶね! ほうき振り回すな! 当たったらどうすんだ! よかったじゃん、目も覚めたし、宿題で授業の遅れも取り戻せるし。一石二鳥だろ?」

「うるさい! 貴重な放課後にねちねち説教されるあたしの身にもなれ!」

「わっ、と。ストップストップ! 分かったって。宿題半分手伝ってやるから。それで勘弁してくれよ」

「む〜〜〜。絶対だからね! ばっくれたら今度こそぶっ飛ばすからね!」

 教室中を駆け回って追いかけっこをする二人を、同じ寮の住人たちがさまざまな思いを込めて見つめていた。

「ぐー」

「すやすや」

「えと……ムニャムニャ……」

「もう食べられないよう」

 六時間目。数学教師がこめかみに青筋を立ててチョークをへし折る音と、寮生のやけにはっきりした寝言が教室に響いた。

「……色無君。貴方の周りに座ってる子たちを全員起こしなさい」

「え、俺がですか? というか、こいつら全員狸寝入り——」

「いいから起こしなさい! 黒さんも隣の白さんを起こして! まったく、なんの悪ふざけか知りませんけど、虹色寮生はたるんでますね!」

「いや、俺は別に……」

 色無の至極まっとうな主張は、ヒステリックな教師の声にかき消された。

「いーえ、連帯責任です! 放課後全員先生のところに来なさい! 罰として宿題を出しますからね!」

「ええ、俺も!?」

 愕然とする色無。憮然とした表情の黒。思惑通りとほくそ笑む他の寮生。

「……一緒に宿題やったって、いいことなんか一つもないのに……ほんと、馬鹿ばっかり」

 紫はあきれたように呟いた。


男「思ったんだけどさ」

紫「なに?」

男「オマエって、大きくなりたいんだよな」

紫「……なに?もしかして、ケンカ売ってるの?」

男「いやいや聞けって。 でさ、仮に理想の身長になったとしよう」

紫「?……うん」

男「想像してみて、どう?」

紫「えーと……どうって」

男「俺はさ、すごい違和感を感じてしょうがない。紫が俺より大きいとか、正直笑える」

紫「……」

男「だから大きくなりたいって頑張るのはいいんだけど、なんていうかその……俺は、その身長もオマエらしさだと思うからさ」

紫「……私の理想は、そんなんじゃないよ」

男「え?」

紫「ッ——な、なんでもないッ!」

男「あ、おーい……行っちゃった」

紫「ふぅ……——だって、キスするときに背伸びしなくちゃなんないなんて、カッコ悪いでしょ……バカ」

橙「ふむふむ。紫ちゃんはそのバカと背伸びしないキスをしたいんだ」

紫「ッお、おおオレンジッ!? ち、違う!私は別に、色無とそんなことしたいなんて——」

橙「あれれ?私、別に色無とは言ってないよー?」

紫「ぁ……」


「よいしょっと。いつもありがとうね、黄緑。じゃ、いってきまーす!」

「はい、いってらっしゃい。寒いから早く帰ってきてね」

 黄緑が作ってくれたおにぎりをラップに包んでかごに入れ、私は玄関の扉を開けた。冷たい木枯らしが頬を斬りつけ、一瞬足が止まる。

「た、確かに寒いかも……でもいいお天気だし、部屋でじっとしてなんかいられないよね!」

 吹きつける北風に飛ばされないよう、私は全力で走り出した。

「はあ、はあ……とうちゃーっく!」

 息を切らしてたどり着いたのは、近くの森林公園にある丘のてっぺん。最近見つけたここは、私のお気に入りの場所。

「う〜っ、やっぱり高台はいちだんと風が強いなあ……でも空気も澄んでていい眺め!」

 ダッフルコートの襟を寄せて、私は近くにいくつか並んでる円柱状の石に腰かけた。偉い芸術家の作品らしいけど、私にとってはちょうどいい椅子でしかない。

「おにぎり……よし。お茶……よし。いただきまーす」

 隣の石の上にハンカチを敷いておにぎりとお茶を並べたら、ちょっとしたピクニック気分。

 ここからは私の住む町を一望できる。日ごろ背が低いことでいろいろ不自由してるけど、ここに来ると背が高くなった気がしてちょっとだけ気が晴れる。

「ふっふっふ、何かちまちま動いてる。みーんなちっちゃいちっちゃい」

「……そういう危ない独り言は、周りに誰もいないことを確認してから言った方がいいぞ」

「むぐっ! げほ、げほっ!! い、色無!?」

 悦に入って呟いてたら、突然後ろから声をかけられた。喉に詰まったおにぎりをなんとか飲み下し、涙目で声の主をにらみつける。

「いきなり声かけないでよ、びっくりしたでしょ! なんであんたがここにいるのよ!」

「悪い悪い。特に理由はないけど、黄緑に聞いたら紫がここにいるって言うからさ、何してんのかと思って来てみた」

 黄緑め、しゃべったな……まあ口止めしてなかった私も悪いんだけど、よりによって色無に知られるとは……。

「ふーん。ここが紫のお気に入りの場所ってわけか」

 感心したように言うと、色無はこっちに背を向けて、私の目の前の石にどっかりと腰を下ろした。

「ちょっと、居座る気? 用がないなら帰んなさいよ! 私一人でいたいんだから!」

「まあいいじゃん。俺もここまで登ってくるのに疲れちゃったから、ちょっと一服させてくれよ。あ、俺コンビニでパン買ってきたんだけど、おにぎりと交換しない?」

 首だけ私の方を向いて、色無はビニール袋からクリームパンを取り出した。こっち向いて座ればいいのに……なんか意識してる? 自意識過剰、バッカみたい。

「しょうがないなあ……一個だけだからね!」

 私はひったくるようにパンを受け取ると、その手におにぎりを押しつけた。

 学校や寮での他愛のない話をしながら、パンとおにぎりをお腹に収めてお茶を飲む。色無も缶コーヒーをちびちびとすすっていた。

「……それにしても、いいところだな。眺めもいいし」

「無駄にでかいあんたがそこに座ってると、背中と後ろ頭しか見えないんだけど」

「はは、そりゃそうか。紫ちっちゃいからな」

 人の欠点を鼻で笑いながら、その場をどこうともしない。色無のデリカシーのなさに一言もの申してやろうと立ち上がったとき、その身体が小刻みに震えているのに気づいた。

 そういえば、さっきまで吹いてた風を感じなくなって、寒さが少し和らいだ気がする……こいつ、風よけのつもりでそこに座ったの!?

「……」

「あれ? どうした、今日は突っかかってこないんだな」

「ふん。毎度毎度あんたの相手をしても疲れるだけだし。それに……この背中も、それはそれでいい眺めだし」

 ぽふっと、色無の背中に頭を預けてみた。一瞬びくっとしたけど、色無はなんにも言わず、そのままじっとしてた。

 あったかい。くっついてるとその大きさがいっそうよく分かる。口には出さないけど、そのさりげない優しさとかが伝わってくる気がする。なんだか安心……ん?

「……くさい」

「え? そんなはずは……昨日の夜だってちゃんと風呂入ったし、ジャケットも先週買ったばかりだぞ?」

「香水の匂いがする。これは……桃が使ってるやつね。あと、橙のも混じってる」

「あ! ああ、そういえば出てくるとき、二人に抱きつかれちゃってさ……ほんと困ったもんだよな、ふざけてばっかりで」

 急にそわそわしだした色無の様子に、なぜか猛烈に胸がムカムカしてきた。

「う〜、がうっ!」

「いってーーー!!! おい離れろ、耳を噛むな! 痛い痛いちぎれるちぎれる!!」

 結局こいつは、女と見れば誰にでも優しくするだけなのよ。それだけのこと! さっき感じた温もりとかは全部気の迷い!

 やっぱり色無なんて大嫌い!


肌寒い日が続く一月末。紫はショッピング街の道端で立ち尽くしていた。

「う〜……」

いや、迷子では決してない。ただ、

「買うべきか……だけど、お金が……」

こうゆうこと。

しばらく、道行く人が心配そうな、大きいお友達が劣情の視線を向ける中、サイフを片手に悩み続ける。

やがて、決心がついた様だ、大きく息を吸い込んで俯きがちだった顔をきっ、と前に向ける。

「よし!やっぱり買っ」

「おい、紫じゃないか、どうした?」

「うわぁ!」

不意打ち。

あまりに唐突過ぎる声かけにバラバラとサイフの中身をばら撒いてしまう。

「あ〜あ〜、悪い。大丈夫か?」

声をかけた人物がばら撒かれた小銭やら札束やらを拾い始める。

その人物とは

「急に声をかけるなぁ色無!びっくりしたじゃんか!」

紫の級友にして同僚に住む男子、色無その人であった。

「さっきは悪かったな」

あのあと、道行く人まで小銭拾いに参加してくれて、なんとなくいたたまれなくなった紫達はそそくさと外れの公園まで退散してしまった。

お詫びのつもりなのか色無は付近の自販機でジュースを買って来る。

「でも、良かったのか?まだ買うものあったんじゃないのか?また戻ってくるのが恥ずかしいなら一緒にいってやろうか?」

気遣いの台詞と共にミルクティーの缶を渡す色無。

ありがと、の一言も告げずに無言でミルクティーを受け取る紫。表情はむくれて、ぶすっとしている。

「いいよもう……買うかどうか迷ってたから」

本当はどうするか決まっていたわけだが。それを邪魔されたからだろうか、不機嫌そうに答える紫。

「ふーん、どうでもいいけど熱いぞそれ。火傷すんなよ。気をつけろよ」

「うっさいなぁ!わかってるよ!」

更に不機嫌になる紫。要するに子ども扱いされるのが嫌らしい。

そんな紫の態度に特別気を悪くするわけでもなく色無は買ってきたジュースをすする。

隣でも紫がミルクティーの缶を開けて、口につけた。

「熱っ!」

猫舌だったらしい紫が熱さによる反射行動で口から缶を話す。

その時に勢いが強すぎたのか、缶の口からミルクティーがこぼれて、紫のスカートを汚してしまう。

「あ!おい大丈夫か?」

「うあぁ……べとべと……」

咄嗟に色無は、常備しているのか、ポケットからハンカチをとりだして、

「失礼」

とスカートに付いたミルクティーをふき取りにかかった。

「……ゴメン色無」

「いいって。それより舌、大丈夫か?火傷は?」

「少し……そんなにひどくは無いよ」

「そうか、よかった」

しゅん、とする紫と、テキパキとミルクティーの処理を続ける色無。

この状況に、別の意味で肩を落とす。

(結局は子ども扱い……ってゆうか子どもっぽいんだろうなぁ、私)

紫は、いまなお真剣な表情でいる色無を見つめる。

その表情は、些細な事で動揺し、逆上する自分とは同い年に思えないくらいに、落ち着いていて大人っぽい。

「はぁ……」

自然と溜息が漏れてしまう。

(バカみたいだ……)

「一応やれるだけやったけど、これ以上はヘタに悪化させるだけだな」

そういって立ち上がり、ハンカチをもとのポケットにしまう色無。

スカートは、一部分だけが黒っぽく変色しており、お漏らしをしたかのように見える。その上、ミルクティーによる異臭までが漂ってきた。

「はぁ……」

「ゴメンな。気に入ってたのか?そのスカート」

「へ?」

「いや、溜息ばっかりついてるから……」

溜息をついたのはそれだけではないのだが、しかしやはり心配してくる色無に劣等の感情を覚えてしまう紫。

「いや……大丈夫。気にしてないよ」

ここは自分も落ち着かなくては……紫は、案外に冷静になってきていた。

「それよりどうしよう?これじゃあ帰ることもできないよ」

自分の格好を改めて確認する。とてもではないが、この格好で街を歩くのは紫にははばかられた。

そうして途方に暮れていると、色無が急に振り返り、しゃがみ込む。

「ほら」

そして、後ろ手を差し出してくる。

「おぶってってやるから」

(な、な、な)

いつもの紫ならばここで猛り狂って色無のがら空きの背中に蹴りを入れるのであろうが、今日の紫は違った。

「わかった……よろしく……」

そう言って、大人しく色無の背中に収まる。

「なんだ?今日はやけに素直だな……」

そんな紫の様子に色無は違和感を覚えたが、深く追求するといつもの紫に戻ってしまいそうなのでやめる。

「まあ、いいか」

よ、という掛け声共に腰を勢いで持ち上げる。予想外に軽かった紫の身体は大きく跳ねた。

帰り道。二人の間に会話は無かった。

(色無の背、広くて、あったかいな……)

ただ、色無の背中には紫の軽さと濡れたスカートの感触が、紫には色無の背中の広さと暖かさだけが二人を支配していたのだった。


男「……はっ。やべ、ソファに沈むと寝そうになる」

紫「あ、色無みっけ。それっ」

男「おわっ!?あ、あのな紫、いきなり膝の上に乗るな。びっくりするだろ」

紫「眠そうにしてたし、びっくりするぐらいがちょうどいいでしょ?」

男「あのな……まぁいいか。 にしてもオマエ、相変わらず軽いな。片足でも全然痛くない」

紫「えへへ♪ こうしてる時は、ちっちゃくてもいいかなって思うの」

男「え?」

紫「だって他の子はこんなことできないでしょ?色無の膝の上なんて」

男(できない……というより、しないだけかもしれんけど)

紫「だから、ここは私だけの特等席なの」

男「……ぅ。オマエ、よくそんなこと言えるね」

紫「……えへへ♪」

白「……私も膝の上なら乗れるはず」

水「わ、わたしも、たぶん」

橙(第一次小さい子戦争勃発の予感ね……にしても紫ちゃん、大胆なようで意外と奥手というか)

桃(単に子どもなだけじゃないかな?)

橙(あぁ、なるほど……ピンクが言うと説得力あるなぁ)

桃(ふふふ)


紫「んー♪やっぱりケーキは最高!」

男「あのー、俺の誕生日なのになんでオマエががっついてんのかな?」

橙「まぁまぁ細かいことはいいじゃない。みんなで楽しめばいいんだから」

桃「そうだよね。ほら、色無くん。あーん」

男「やった。あむっ」

紫「なっ!」

桃「誕生日だし、これくらいしてあげないと♪」

紫「うぅ……」

橙「あっはっは!さすがピンク、さりげないね」

男「それにしてもこのケーキ、美味いなぁ。誰が作ったの?買って来たヤツじゃないだろ?」

紫「!」

橙「へー。違いがわかるんだ」

男「見た目はさすがに売り物のほうがいいけどさ、味はこっちのが俺好み。美味しい」

紫「……♪」

橙「なるほど。それで夢中になるあまり、ほっぺにクリームつけてるワケか」

男「へ?うそ、どこ?」

桃「あー、バラしちゃうんだ。んーとねぇ、右の……」

橙「ここ♪」

ペロッ

男「わぁ!?」

紫「!!」

桃「むっ」

橙「誕生日だし、これぐらいしてあげてもいいんじゃない?なんてね」

男「それ誕生日関係ないと思う……」

紫「ううぅ……デレデレするなばかーっ!」

ギリギリ

男「ひででででッ!!いひゃい、いひゃいッ!!」

橙「紫も素直じゃないねぇ、けけけ」

紫「うう、うるさいッ!」


紫「えいっ!(ゲシ)」

無「痛っ!!い、いきなり何すんだよ?!」

紫「今、目であたしのことチビって言った」

無「なんだそりゃ!そんなこと微塵も思ってねぇよ!」

紫「そう? じゃ、いっか。ゴメンね」

無「あ、うん。……って納得できるかぁっ!!」

紫「今日の夕飯は何かな〜♪」

無「シカトすんな!」

紫「何よもう……ちゃんと謝ったじゃん」

無「そ、それはそうだけど……なんか腹の虫が収まらないんだよ」

紫「……あたしに何かして欲しいの?」

無「えっ……?」

紫「あー! 今!! 今!!」

無「は?」

紫「えっちな目であたしのこと見たでしょ! 今のは分かったもん!」

無「んなっ……!」

紫「ほら、否定しないし」

無「……そっか、そんなに俺に構ってもらいたいのか、紫は」

紫「!! ち、違っ……」

無「顔、赤いけど?(あれ、冗談だったんだけど……まぁいいや、形勢逆転だ)」

紫「〜っ」

無「はは、可愛いな〜。よしよし(ナデナデ)」

紫「むー……」

無「膨れっ面してるくせにまんざらじゃなさそうだな」

紫「……うん。」

無「あ、あれ……否定しないのか?」

紫「……だって、撫でてもらえて嬉しいもん」

無「!!」

紫「? どうしたの? もう撫でてくれないの?」

無「あ、あぁいや……撫でてやるよ。いくらでも撫でてやる、うん(紫って、素直なところもあるんだなぁ……)」


『やすらぎ』

紫「はぁ……」

無「なんだよ、ため息なんて珍しい」

紫「色無……」

無「悩み事か?」

紫「いろなしー」

だきっ

無「ど、どうしたんだよ」

紫「わかんないけど、なんか急に……」

ぎゅっ

無「紫……」

ナデナデ

紫「なんか安心する……もっと」

無「……ああ」

無「落ち着いたか?」

紫「ありがと、ねぇ色無?」

無「なんだ?」

紫「……やっぱりなんでもない」

無「変なヤツだな」

紫(……やっぱりここが一番安心できる。ずっとここにいたいな)


紫「はー、喉渇いた!ん、こんなとこに水があるけど……誰か飲むのかな……いいや、飲んじゃえっ!(ゴクゴク)」

無「おーい、紫、風呂空いたぞ」

紫「いろらしぃ……」

無「ん?か、顔真っ赤だぞ紫?!どうしたんだ?」

紫「えへへー……なんかアタマあったかくていい気持ちらよー?」

無「……なんか微妙に酒の匂いがするな。まさか、酔っ払ってんのか?!」

紫「ねー、一緒にお風呂入ろぉー。(ギュゥ)」

無「ちょ……こら、やめろ!」

紫「やらぁ……離さないもん……」

無「……こんなデレデレな紫も可愛くていいかもな……って、今はそんなこと考えてる場合じゃねー!」

紫「らによぉー!あらしとお風呂入りたくないのぉ?!」

無「……いや、そりゃ入っていいんなら……その……ゴニョゴニョ」

紫「おっぱい小さいからヤなのぉー?やっぱり桃みたいに大きい方がいいのー?」

無「そういう訳じゃ……って、完璧に紫のペース……落ち着け俺、相手は酔っ払いだ。素数を数えろ……(ブツブツ)」

紫「んもぉー、早く入るよー。ほらほら脱がしてあげちゃうからぁー……」

無「うわっ!!こらっ!!」

紫「ふにゃ……はれ……なんかいろなひがぐるぐる回って……」

無「……ん?」

紫「……くー……くー……」

無「ね、寝てくれた……ここに放置しとく訳にもいかないし、しょうがない、部屋まで連れてってやるか」

紫「ぅー、頭痛いよぉ……それになんか昨日の記憶が無い……」

無「昨日お前酒飲んで酔っ払ってたんだぞ?」

紫「え?そうなの?」

無「あぁ、俺に“一緒に風呂入れ”って言ってきたんだぜ?」

紫「!! そ、それで……一緒に入った……の?」

無「入るわけねーだろ」

紫「よ、良かったぁ……(一緒に入るなら……記憶がちゃんとある時の方がいいもんね……)」

無(もう少し粘られたら入ってたかもしれないんだけどな……)


紫「最近なんか胸の辺りに違和感が……はっ、もしかしてっ……!! や、やっぱり! ちょっと大きくなってる! やったぁ♪ 何が効いたんだろう? やっぱり牛乳かな?」

無「牛乳がどうしたって?」

紫「い、色無?!」

無「身長でも伸びたか?」

紫「ち、ちっちゃいゆーなっ! あ、でももう小さいとは言わせないからね!」

無「なんだ?やっぱり身長伸びたのか?あんまり変わったようには見えないけど……」

紫「違うもん!!そりゃ身長だって伸びて欲しいけど……でもやっぱり女の子なら身長よりも大きくなって欲しいとこが……って、何言わせてんのバカ色無!!」

無「どう見ても紫が勝手に喋ってるだけじゃないか?」

紫「ぁうっ……」

無「で、身長じゃないとこが大きくなったって、どこが?」

紫「わ、分かんないの?!」

無「うーん……パッと見、目につくようなとこは無いけど……」

紫「……そっか(シュン)」

無「わわ、そんなに気落とすなよ!」

紫「気付かない色無が悪い!」

無「そんなこと言われたってなぁ……」

紫「……ば……罰として……お、大きくするの……手伝って!」

無「別に手伝ってもいいけど何をすればいいんだ?」

紫「そ、その……お……男の人に……も、揉んでもらうのが一番良いって聞いたのっ!」

無「で、何を揉むんだ?」

紫「そ、そんなの女の子に言わせる気?!」

無「いや、だって何すればいいか分かんないし」

紫「……や、やっぱりダメ!!バカ!!エロ無のバカぁ!!(ダッ)」

無「???」


「(パラパラ)はー、なんかこの雑誌あんまり面白く……ん、なになに?『ダンベルを使って胸を大きくしよう!』? ……でもダンベル持ってそうなのって赤しかいないよね。……赤ってそんなに胸大きくないよね。……むしろあたしと同じくらいだよね。……でも、物は試しだし……借りてきてみようかな……」

「……借りてきたけど、これ思ってたよりも重たいね……んっ……しょ! ぅ〜……! くぅ……っはぅ!はぁはぁ……これ、絶対無理だよぉ……半分も上がんないもん……やっぱり地道に牛乳飲み続けようかなぁ……」

赤「紫ちゃん、一番重いのが良いって言って10キロのダンベル持っていったけど……何に使うんだろ?お漬物でもするのかな?」


「色無ぃー♪」

「ん?ど、どした?」

妙に機嫌の良さそうな声に軽くビビリつつ、部屋に紫を通す。

するとコイツは迷うことなくベッドへ向かい、我が物顔でそこに飛び込んだ。

「んー♪やっぱり干したお布団は気持ちいいー!」

「……あぁ、そういうこと」

陽気と陽光をいっぱいに吸い込んだ布団。それが紫の狙いだったらしい。

すりすりと頬擦りをして、身体いっぱいにその心地良さを満喫している。

「というワケで、今日はここで寝るからよろしくっ!」

「へいへい。別に止めやしないよ」

そろそろ眠くなってきたので、俺も同じように布団に転がる。

隣にいるのがピンクあたりだったらともかく、紫ならまだ平気。たぶんだけど。

「へへー、おやすみ♪」

「あいよ。おやすみ」

とても暖かな夢うつつの最中、この為だけに布団を干すのも悪くないなと思った気がした。


む『どーだぁ!まだわたしのほうがおっきいよ!』

い『うぅ……こ、これからおっきくなるんだ!』

む『いろなしくんはおよめさんよりちっちゃいおむこさん。あーぁ、かっこわるいなぁ』

い『み、みてろー!ぜったいにむらさきよりもおっきくなるからな!』

紫「ふふっ」

男「ん?なんだよ急に」

紫「懐かしいことを思い出してたの。たぶん、幼稚園くらいだったと思うけど」

男「幼稚園? ……どろんこ遊びの後、お母さんに怒られてボロ泣きしてるオマエなら覚えてるけど」

紫「そ、そんなことじゃなくて!背比べしてたでしょ?私の方がまだ大きかった頃」

男「……あー、あったな。それでかっこ悪いって言われた覚えがある」

紫「そうそう。 でも良かったでしょ?あの時私がああ言ったから、今のアンタがいるって考えればさ」

男「そりゃまた強引っつーか。 でもま、少なくとも『大きくなりたい!』ってずっと頑張ってた記憶は確かにある」

紫「でしょ?」

男「とりあえず、幼稚園のオマエに笑われることはなくなったかな。今じゃ比べるまでもない」

紫「そうだね。 かっこいいよ、おむこさん」

男「ッ……。 ありがとな、かわいいおよめさん」

紫「♪ ただ、そのね。背伸びしても届かないくらいに大きくならないでほしかったなぁ」

男「そりゃまた難しい注文っすね」

紫「女の子ってそういうものだよ?ま、アンタにゃ一生わかんないかな」

男「むぅ」

紫「それより早くだっこしてよー。でないとできないでしょー?」

男「……やれやれ。はいはい、ただいま」


 ビュウゥゥゥゥ……ガタンッ!ガタンッ!

紫「ひっ!な、何今の……?か、風……?」

無「……で、俺の部屋に来た……と」

紫「な、何よぅ……」

無「他の奴らのところに行こうと思わなかったのか?」

紫「うっ……だ、だって……一応……色無も男だから、頼りになるかと思ったの……」

無「“男”で連想されるのが頼りになるってことだけなのかよ……」

紫「……怖かった……もん……」

無「は?」

紫「こ、怖かったから一番安心できる色無のところに来たのっ!」

無「……そこまで言われちゃ流石に追い返せないな」

紫「い、いいのっ?!」

無「あぁ。ベッドは自由に使えよ。俺は床で寝るから」

紫「……う、うん」

 ビュゥゥゥ!ガタッ!ガタッ!

紫「きゃぁっ!(ギュッ)」

無「お、おい抱きつく……」

紫「こ、怖いよぉ……(ブルブルブル)」

無「……よしよし、大丈夫だから。(なでなで)」

紫「い、一緒に……ベッドで寝て……?」

無「!!」

紫「一人じゃ……怖い……ずっと……ギュッて……してて……」

無「……分かったよ」

紫「ありがと、色無……」

紫「……ん、ここどこ……って、なんで色無が隣で寝てるの?!ばかぁ!変態っ!!」

無「うん?……ぐぇっ!!ちょっ……やめっ……!!お、俺は……悪くなっ!!……ぐぶっ!」


 去年
無「紫、ちょっといいか?」

紫「なに?」

無「その……バレンタインのお返しなんだが……」

紫「えっ?!」

無「ここに3つの袋がある。どれか一つ選んでくれ」

紫「ひ、一つしか選べないの?」

無「あぁ。」

紫「……じ、じゃあ……一番右の!」

無「これでいいんだな?」

紫「う、うん……(ドキドキ)」

無「よし、決まり。はい」

紫「あ、開けてもいい?(ドキドキ)」

無「いいよ。」

紫「(ガサゴソ)……こ、これ……」

無「あんまり気の利いた物じゃないかもしれないけど、紫に似合うと思ってさ。赤と青の鉛筆がついた髪留めゴム」

紫「可愛い……」

無「そうか?どうせならそれつけたところも見せてくれよ」

紫「うん……」

無「……」

紫「ど、どうかな……?」

無「……(やべぇ……これはツボだ……)」

紫「ね、ねぇ!何か言ってよ!」

無「あ、あぁ。予想以上に可愛いし似合ってる」

紫「本当?!良かった……ありがと!大切にするね♪」

紫「……今年は色無何くれるかなぁ?」

無「紫、ちょっといいか?」

紫「!! な、なぁに?」


「色無ー、お返しちょうだい!」

 三月十四日、食堂に降りた色無を出迎えたのは橙の明るい声だった。

「……お前はおはようの挨拶もせずに何を——」

「おはよう! 実にすがすがしいホワイトデー日和だね! はい、お返しお返し!」

「はあ……もういいや、何言っても無駄な気がしてきた。ほらよ、ありがたく受け取れ」

 もとよりそのつもりで持ってきていたトートバッグの中から、色無は小さな包みを一つ取り出し、橙に手渡した。

「えへへ、いやー悪いわね、なんか催促したみたいで」

「思いっきりしてただろうが! ほれ、みんなにもやるから全員集合!」

「えー、何そのやる気のなさ」

「もうちょっとムードを大切にして欲しいわね」

 不満たらたらで集まってきた女の子たちに、色無は有無を言わせず包みを押しつけていく。

「何いってんだ、俺にくれたチョコより友チョコの方が何倍も豪華だったの知ってるんだぞ。そんな見え見えの義理チョコのお返しにムードもへったくれもねえよ」

 全員心当たりがあるのだろう。苦笑いしたり、なぜか頬を染めたりしながら、それぞれお返しを受け取っていく。

 最後の一つを手にした色無の足が、この喧噪の中で一人黙々と朝食をとり続けていた女の子の背後で止まった。

「そういえば、そんな義理チョコすらくれなかったやつもいたなー。まあでも一人だけあげないのもなんだし、このクッキーがどうしても欲しいと言うなら——」

 最後まで聞かず、紫は乱暴に席を立った。騒がしかった食堂が静まりかえる。

「欲しいわけないでしょ、そんなの! ふん、なんだかんだ言ったって、みんなといちゃつく口実ができて嬉しかったくせに! この女たらし、色魔! あっちいけ!」

 まだいくらか食べ残しのある食器を流しに置き、足音高く出て行った紫を、色無と女の子たちはあっけにとられて見送った。

 

『食堂で待つ』

 その日も余すところあと一時間というころ、紫からの素っ気ないメールを受信した色無は、静まりかえった廊下を忍び足で食堂へ向かった。

「……紫? どうした、こんな時間に」

 灯りのついた食堂の扉をそっと開けると、定位置に座った紫がぶすっとした顔をしていた。声をかけても身動き一つしない。

「えーと……今朝のこと、まだ怒ってるのか? ごめんな、ちょっとからかっただけなんだけど。別にチョコくれなかったのを責めたわけじゃないんだぞ」

「今日は何月何日?」

 しどろもどろのいいわけには反応せず、紫はあさっての方向を向いたままぼそりと問いかけた。

「へ? 何日って、そりゃ三月十四日だけど」

「ホントに? ちゃんとカレンダーで確認して言って」

「いや、確認も何も三月十四日で間違い……あれ? 二月十四日になってる?」

 その日一番早く起きた者がめくっている、食堂の大きな日めくり。今朝は確かに三月十四日だったが、今は二月十四日の日付がテープで留めてあった。

「あの、紫? これはいったい……」

「いったいも何も、今日は二月十四日ってことでしょ。はいこれ。いちおう手作りなんだから、心して食べなさいよね」

 突き出された手を、色無は呆然と見つめた。催促するように繰り返し突き出され、慌てて受け取る。

「何回も作り直したから、包装とかリボンとかぐちゃぐちゃになっちゃったけど……中身は昨日作ったやつだから痛んだりはしてないよ」

「……バカだな。こんな回りくどいことするくらいなら、当日くれればよかったのに……」

「あんたのせいでしょ! 休み時間も昼休みも放課後も、それに寮でも! 四六時中誰かからチョコもらってて、あげる隙なんかなかったじゃん!」

 大声を出す紫を静かにするよう制しながら、色無は日めくりに近づいた。

「そりゃすまなかった。さて……」

 テープで留められた二月十四日を勢いよくはがす。

「さっそくですが、三月十四日になりました。どうぞこれをお受け取り下さい」

 大仰な口ぶりと仕草で、色無は隠し持っていたホワイトデーのお返しを差し出した。

「別にいいよ。あんな事務的に配ってたのなんて、もらっても嬉しくないし……」

「じゃあ、これならどうだ?」

「? あ、ちょっとなにすんの! 勝手に外さないで!」

 抵抗する紫の頭を押さえつけ、いつもつけている青と赤の髪留めを外した色無は、代わりにポケットから取り出したものをつけた。

「……え?」

「うん、いいんじゃないか。紫の好きそうな色だと思ったんだけど、やっぱ似合うな」

 鏡を見て、おそるおそる手で触れてみる。そこには、やはり赤と青のツートンカラーでまとめられ、少し大人びたデザインの髪留めがあった。

「……なんでこんなの用意してるのよ……チョコあげてないのに……」

「さっきくれたじゃん。それに、どうせお菓子業界の陰謀なんだから、チョコもらってなくてもホワイトデーにプレゼント用意したっていいだろ?」

「……ふん、色無ってホント女たらしだよね」

「む。その女たらしに一ヶ月遅れで手作りチョコくれたのは誰かなー? あー楽しみだ、俺にメロメロな紫の手作りだし、きっと甘い——いてーーー!!」

 弁慶の泣きどころを紫に容赦なく蹴り上げられ、悲鳴を上げて色無は悶絶した。

「調子に乗るな、このバカ!」

 そのまま紫はドスドスと食堂を出ていき、扉のところでくるりと振り返る。

「わたしもチョコも、そんなに甘くないですよーだ!」

 紫はべーっと舌を突きだした。


紫「うぅ〜……今日はバイトの面接かぁ……ドキドキする……」

紫「っぐ……ひっぐ……えっぐ……」

無「ん?ど、どうしたんだ紫?!」

紫「い、いろなしぃ……バイトの面接……落ちちゃったぁ……」

無「!! ……そ、その……なんだ……俺は紫のいいところたくさん知ってるし、きっと面接官の見る目が無かったんだよ、うん!そうだよ!」

紫「ち……違うのぉ……ぐすっ……面接行ったら……小学生はバイトできません、って……」

無(……流石に俺もこれはフォローできる気がしない……)


紫「もう……色無のばか!」

男「そんなに怒るなって!」

紫「何が『えぇ、まぁ』よ!人が気にしてるの知ってるくせに!!」

灰「どったの?」

黄「なんか兄妹に間違えられたらしいよー。そんで色無が否定しなかったんだって」

灰「ふーん……」

紫「どうせ私はちっちゃいですよーだ!もういいもん!」

男「ちょ……ちっちゃいなんて言ってないだろ!」

紫「ちっちゃいゆーなっ!」

男「えぇっ!?」

紫「ふん……バカ……」

灰「紫の姐さん、ちょいと」

紫「……灰色ちゃん?」

灰「ごにょごにょ……」

紫「……」

灰「ごにょごにょ……ね?」

紫「……確かに……でも……」

灰「大丈夫。いけますぜ姐さんなら」

紫「色無!」

男「あ、紫。だからさっきから謝ってるだろ——」

紫「違うの!色無……えっと、色無おに……おに……」

男「鬼?……そこまで酷いこと言っちゃったのか俺!?ごめんな紫!」

紫「だから違うの!色無おに……ぃ……あぁもうやっぱり無理だよぉ!」

男「紫っ!?」


紫「うわぁっ!すごーい!」

男「本当だなー。この辺の木って桜の木だったのか。こないだまで全く咲いてなかったのに……」

紫「きれー……」

男「これは……うん」

ピロリーン

紫「……ん?あ、色無いま撮ったの?見せて見せてー」

男「やーだよ。自分で撮ればいいじゃん」

紫「携帯持ってきてないの!」

男「知るか!」

紫「なんでそういう意地悪すんの!?もー……ちゃんと後で送っといてね」

男「いやだねー」

紫「色無のドケチ!」

男「ケチと言うなケチと!」

送れるわけがない。俺だけのものにしておきたい。

桜の花びらが舞う中、とてもよく映えた紫の後ろ姿。

紫「うーん……これくらいあったらな……」

男「お前、木と身長比べるなよ……こんなにあったら怖いから!」

紫「絶対色無踏み潰してやるんだからね!」

男「それだけのためにここまで大きくなるのか!?」


無「りんご飴食うか?」

紫「子供扱いするなぁ!」

無「してな……痛ぇ!こ、こら蹴るな」

紫「ぶぅ〜」

無「機嫌直せよ。花見に行こうって言い出したのは、お前のほうだろ?ほら、りんご飴やるから」

紫「ふん!」(パシッ)

色(何だかんだ言ってやっぱり食べるんじゃないか……)

紫「(ペロペロ)……だって」

無「ん?」

紫「色無、私から誘わないとどこにも連れてってくれないんだもん」

無「……ごめん。あ、ほら、あそこに射的がある。お前の欲しいもの取ってやるからさ」

紫「……じゃあアレ」

無「把握した。よ〜し!まかしとけ!」

〜数分後〜

屋台のおやじ「おみごと。ハイこれお嬢ちゃん。やさしい『兄ちゃん』を大事にしろよ」

〜さらに数分後〜

無「おい!待てよ。待てってば」

紫「……(スタスタ)」

無「おいってば!」

紫「……」

無「さっきのこと気にしてんのか?だったらあんなのほっとけよ」

紫「……」

無「他人からどう見えようが関係ないだろ。俺たちのことは俺たちが一番わかってるんだから」

紫「……」

無「それに他人から何と言われようと、俺の気持ちは変わらない」

紫「……プッ」

無「?」

紫「アハハハ!!!何ひとりで真剣になっちゃってんの?聞いてるコッチが恥ずかしくなるよ」

無「なっ!?お前……」

紫「あっはっはっは!!!あ〜おかしい。でも、ありがとう」

無「え?なに?」

紫「な〜んでもな〜い♪」

無「あ、こら!待て!俺はまだお前の気持ちのほうを聞いてないぞ〜」

紫「おしえな〜い♪」


男「でさぁ、あの数学の先生さぁ……」

紫「何喋ってるのかわかんないよね!」

男「そうそう!俺なんて結構前の席にいるのに聞き取れないもん!あ、でも紫のがもっと前にいるか。聞き取れないよねやっぱり?」

紫「……」

男「……?むらさき?」

TV『牛〜乳に相談だ♪』

紫「……」(じー)

男「……あのー」

紫「……え?あ、そうそう!古文眠いんだよねぇ!」

男「今数学の話してたんだけど……」

紫「あ、えと、そうだったそうだった!ほんと何喋ってるかわかんない!」

男「えぇ〜、ここはこの定理を使えば簡単にもごもごできるわけであってもごもご……」

紫「あっはっは!それ似てる似てる!みんなにも見せてあげなよぉ!」

男「もごもごでもごもごだからもごもご〜」

紫「それやりすぎ! ちょ、やめてよ、お腹痛い〜!!やめてってば——」

男「……?どうした?」

TV『プチダノン食べれば?』

紫「……」(じー)

男「あのー……」

紫「はっ!?ご、ごめん!」

男「さっきからそういうCMやる度に見入ってる気が……」

紫「ち、ちっちゃいゆ——」

TV『ケロッグ!コーンフロスティ!』

紫「……」(じー)

男「……ほら」

紫「あっ!?ち、違……うぅ、ちっちゃいゆーなぁっ!」


紫「おっふっろー♪おっふっろー♪たまには早風呂しちゃお♪」

—ガラッ

紫「……ん?この下着は……」

桃「はぁー、やっぱり一番風呂は気持ち良いー♪」

紫「も、桃?!」

桃「あれ、紫ちゃんもお風呂?お姉さんと一緒に入るぅ?(ニヤニヤ)」

紫「うぐっ……ち、ちっさいゆーな!!」

桃「小さいなんてお姉さん一言も言ってないよ?(ニヤニヤ)」

紫「ぅぅ……」

朱「ほらほら、その辺にしておけ」

紫「朱色さん……(って、この人も大きいっ……!)」

群「なんか今日はみんな早風呂なのね。私もお邪魔させてもらうわ」

紫「(ジー)……あ、仲間だ」

群「ん?私の体に何かついてる?」

桃「朱色さん、お背中流しましょうか?」

朱「お、気が利くじゃないか。頼む」

紫「あ……あたしも群青さんの背中流しますよ!」

群「そう?じゃあお言葉に甘えようかしら」

桃(ゴシゴシゴシゴシ)

紫(ゴシゴシゴシゴシ)

桃「流しますねー(ザバァ)」

紫「流しまーす(ザバァ)」

桃「朱色さん、仲良くしましょうね♪(ニコニコ)」

朱「ん?あ、あぁ……」

紫「群青さん、一緒に頑張りましょう!」

群青「え?は、はぁ……」

朱・群青(いつの間にか変な仲間意識が芽生えているような……)


『つま先立ちで……』

紫「むー」

無「紫、どうして怒ってるんだよ」

紫「ちゃんと牛乳も飲んだのに」

無「?」

紫「運動もたくさんしたのに」

無「??」

紫「どうして色無の方がのびてるのよ!」

無「そんなこと言われても」

紫「明日からまたがんばらなきゃ」

無「どうしてそんなに背が高くなりたいの?」

紫「だって色無にとどかないんだもん」

無「え? おんなじくらいになりたいの?」

紫「違うの! だって、今は背のびしても届かないんだもん」

無「何に?」

紫「……とどくようになったら教えてあげる」


 二人でお留守番。〜紫とお留守番〜

紫「ひーまー」

無「あぁ、暇だな」

紫「大体なんであたしが色無なんかと一緒に留守番なんかしなきゃなんないの?」

無「しょうがないだろ」

紫「むー……」

無「なんかゲームでもするか?」

紫「なんの?」

無「しりとりとか?」

紫「子どもじゃないんだし、今更そんなの……」

無「りんご」

紫「って、勝手に始めるなぁっ!」

無「10、9、8……」

紫「ご……ごま!」

無「まり」

紫「り……りす」

無「スリ」

紫「り……リクエスト!」

無「鳥」

紫「り〜……り〜……あー、もう! 色無の意地悪っ! 『り』で回さないでよ!」

無「10、9、8……」

紫「カウント始めるなぁ!」

無「5、4、3……」

紫「だ、ダメ! もうちょっと待って!!」

無「2、1……終了ー」

紫「ぅ〜……色無に負けたぁ……」

無「なんだかんだでノリノリでやってくれたな。ありがと、紫」

紫「!! う、うるさい! 色無のばか!」


紫「うつら……うつら……はっ!」

無「紫、なんか最近物凄く眠そうだな」

紫「春の日差しが気持ち良くてさ〜」

無「猫みたいだな」

紫「もうあたし猫でもいいや〜」

無「そっか。じゃあ喉のあたりとか……(こちょこちょ)」

紫「ひぁっ?!く、くすぐったいよバカ!!」

無「うーん、これじゃあ猫にはなれないな」

紫「んー……じゃあどうすればいい?」

無「傍に擦り寄ってきて甘えるとか?」

紫「……にゃー。(すりすり)」

無「!!(ほ、本当にやっちゃったよこの子……)」

紫「いろなひのにほひがするー」

無「……」

紫「にゃーにゃー」

無「……(こ、このままだと理性が!)」

紫「うにー……」

無「……ん?」

紫「……すー……」

無「あれ、寝ちゃったのか?」

紫「……んくぅー……」

無「寝てもらって良かったような、悪かったような……」


紫「あ、にゃんこ発見!」

猫「にゃー」

紫「にゃにゃ?にゃーにゃにゃ?」

猫「うー」

紫「んー……にゃにゃ?」

猫「にゃ」

紫「にゃにゃー♪にゃにゃにゃ?」

猫「うにゃー!」

紫「にゃぁにゃぁ!」

猫「にゃぁ!」

無「……」

紫「に……はっ?!な、何見てんのよ!!」

無「紫、猫と喋れんのか?」

紫「そ、そんなわけないじゃn……」

猫「にゃ?(スリスリ)」

紫「に……にゃぁ……?」

猫「?……(プイッ)」

無「あーあ、行っちゃった」

紫「ほ、ほらね!あたしが猫と喋れるなんて、そんなわけないじゃん!」

無「そうだな」

紫「うん、そうそう!」

紫「ぅっ……せっかく久しぶりにゆっくりにゃんこと話できると思ったのにぃ……色無のばかぁ……」


無「えーっと……これは……ナニ?」

紫「ん?クラ○キーだよ。この新しい味凄い美味しいの♪」

無「いや、なんか目が疲れてるのかな……凄い何個もあるように見えるんだけど……」

紫「うん、とりあえず10個買ってみた」

無「(ぼそっ)こんなんばっか食ってるから身長伸びないんじゃ……」

紫「なんか言った?今ちっちゃいって言ったでしょ?!」

無「き、気のせいだ!」

紫「今日はとりあえず一つ食べてー、明日からは一日二つずつ食べても4日半は食べてられる!」

無「太r……」

紫「  何  か  言  っ  た  ?」

無「……や、自棄食いはカラダに良くないんじゃないかな〜……って」

紫「……別に自棄てなんかないもん」

無「本当か?」

紫「……」

無「頭、撫でてやろうか?」

紫「……うん」

無「よしよし。(なでなで)」

紫「……色無に頭撫でてもらうの久しぶりな気がするなぁ……」

無「最近あんまりかまってやってなかったもんな」

紫「べ、別に寂しくなんかなかったもん!」

無「はいはい」

紫「でも一日二個は食べるからね?」

無「だから太r……」

紫「  な  ぁ  に  ?」

無「うん、まぁ……お好きにどうぞ」


『紫を怒らせてしまった時の対処法』

皆さんは紫を怒らせてしまったときどうしていますか?

今日は私、色無が、体験してきたことをレポートしたいと思います。

1

紫「ち、ちっちゃいゆーな!」

謝ってみる

無「ご、ごめん、そんなつもりじゃ……」

紫「え、あ……ううん、気にしてないから。えへへ、じょーだんじょーだん♪」

意外と気を遣う娘みたいです。

2

紫「ち、ちっちゃいゆーな!」

撫でてみる

無「……(なでりなでり)」

紫「ん……ば、ばか、こんなことで許すと思って……あぅ……」

撫でられるのに弱いみたいです。あと、くすぐったがりです。

3

紫「ち、ちっちゃいゆーな!」

煽ってみる

パターン1

無「だってちっちゃいじゃん」

紫「な、なんだとこらぁ!」

 ポカスカポカスカ!

無「いてて、ごめん、冗談だって!」

紫「まったく……」

殴ってきます。でも、あんまり痛くないです。

パターン2

無「いや、だってちっちゃいし」

紫「そっか……」

無「……紫?」

紫「やっぱりそうだよね……私、胸もちっちゃいし……女としても魅力ないし……」

無「そ、そんなことないって!」

紫「……(ジロリ)」

無「う……」

紫「……はぁ……」

無「しまったな……」

一旦落ち込むと、とことん落ち込むようです。

まだまだ実験中ですが、そのたびに反応が違って面白いです。

皆さんも実験してみてください。

面白い反応が返ってきたら教えてくださいね。


無・紫「「ただいまー」」

黄緑「おかえりなさい。二人一緒だったんですか?」

無「うん、昇降口でばったり会ったから、そのままね。でも失敗したよ……こいつ『暑い暑い』ってそれしか言わないの。もううっとうしいのなんの」

紫「暑いから暑いって言っただけでしょ! こんな可愛い女の子と一緒に下校できたんだから、それだけでありがたいと思いなさいよね!」

無「まあ確かに紫は可愛いよなあ……子供っぽくて」

紫「何よー!」

黄緑「はいはい、暑いんだからケンカしないの。昨日の夜作ったプリンが冷蔵庫に冷やしてあるから、おやつに召し上がれ」

紫「ほんと!? やったー!」

無「いいねえ。おお、あるある……よく冷えててうまそう。それじゃ、いただきまーす」

紫「ごちそうさまー! すっごいおいしかった!」

無「はやっ! 食べるのはやっ!」

紫(ジー)

無「な、なんだよ。そんな物欲しそうな目で見たってやらねえぞ。これは俺のだ」

紫(ジー)

無「……しょうがねえなあ。一口だけだぞ。ほれ、あーんしろ」

紫「え? い、いいよ、自分のスプーンで食べるから」

無「あーんしないならやらない」

紫「……分かったよ……あ、あーん……はむっ」

 ひょい がちん!

紫「はぐっ! ちょっと、何でスプーン引っこめるのさ!」

無「いや、悪い悪い。ちょっとした出来心だ。ほら、今度はちゃんとやるから、もう一回あーんしろ」

紫「ほんとにぃ……? あーん……はむっ」

 ひょい がちん!

紫「はぐっ! もー、色無のいーじーわーるー!! プリンちょうだいちょうだいちょうだい!」

無「(やばい、おもしろい……)分かった分かった。今度こそ、今度こそちゃんとやるから、ほら、あーん——」

黄緑「うふふ。色無さん、仲がいいのはけっこうですけど、あんまり紫ちゃんをいじめちゃ……ダメですよ?」

無「や、やだなあ。いじめたりなんかしてないって……ほら、あーん」

紫「あーん……はむっ。んー、やっぱりおいしー! ね、もう一口! あーん」

無「ええ? 一口だけって言ったのに……ああもう! ほんとにこれっきりだからな!」


無「あちぃなぁー」

紫「色無アイス買って!!」

無「何で俺が……ってまぁいっか。俺も食いたくなった」

紫「2個いりにしよ!でね半分個しよ!」

無「そうだな、もうじき昼飯だし」

紫「えっと……雪見だいふくくださーい」

無(コンビニで……テンション上がりまくりだな。みんな見てるよ恥ず……)

 公園

無「俺手で食うよ、フォーク使って」

紫「まっ、使ってやってもいいか!いただきまー……」

無「なんで上から目線……あ」

紫「ーーー!!」

無「……落ちたな」

紫(涙目)

無「……手でつかんだけどこっち食う?」

紫「……ウン」


紫「さて、ここにメロンパンが一つあります」

無「うん」

紫「では問題です。ここにはあたしと色無の二人がいます。でもメロンパンは一つしかありません」

無「うん」

紫「どうすればあたしが喜んでくれるでしょ〜か?」

無「……あの、それ俺のメロンパン」

紫「知ってるよ」

無「俺が楽しみにとっておいたんだけど……」

紫「うん、それも知ってる」

無「紫はいい子だよな?」

紫「そうだよ」

無「じゃあいただき——」

紫「……一人で食べちゃうの……?」

無「……」

紫「半分こ?」

無「……3分の1なら……」

紫「……泣いちゃうよ?」

無「……これ、一つ210円もするんだぞ?」

紫「うん、おいしそうだもんねっ♪」

無(だ、ダメだ……この笑顔には勝てねぇ……でもここで負けたら俺のメロンパンが……)

紫「(もう一押しかな?) 半分……ダメ?」

無「……負けたよ。ほら、半分」

紫「やた♪色無ありがと♪」


紫「歯磨き歯磨き〜♪」

紫「(シャコシャコ)ん、なんか今日の歯みがき粉……味が違う……?」

灰「(キラーン)かかったな?!」

紫「えっ?!」

灰「その歯みがき粉の中には歯に良いキシリトールとかフッ素とかなんたらかんたらを色々いれてさらに歯が丈夫になるように改良したのさ!」

紫「な、なんてことを……」

灰「ふふふ、歯みがき粉が美味しいからっていつまでもシャコシャコやってるような紫ちゃんには少し酷なことをしたかな?」

紫「くっ……あたしの美味しい歯みがき粉を返せーっ!」

灰「せいぜいその改良した歯みがき粉で健康な歯になるがいい!ふはははは!」

紫「こんな不味い歯みがき粉いらなーい!」

灰「ふぅ、今日もまたつまらぬ悪事を働いてしまった」

黒「どうみても今回のは悪事じゃないわよ?」


『はんぶんこ』

無「おーい、大丈夫か?」

紫「だ、大丈夫よこれくらい」

無「やっぱりアスファルトに近い方が大変だよな」

紫「ちっちゃいいうな」

無「いつもより元気ないな」

紫「焼き鳥な気分よ」

無「じゃあ焼き鳥さんにプレゼントをやろう」

紫「……なによ、変なこと言ったらかむからね」

無「公園でアイス」

紫「なにしてるの色無! 早く行くわよ!」

無「……いきなり元気になったな」

紫「じー」

無「なんだよ」

紫「レモンも美味しそう」

無「さんざん悩んでミントにしたのにそれかよ、わかった半分食ったら交換な」

紫「し、しかたないわね。それで手をうってあげる」

無「うれしそうだな、そんなにレモンが食いたいなら今取り替えるか?」

紫「い、色無が半分食べてからでいいよ」

無「……なんでそんなにニコニコしてるんだよ」

紫「……鈍感な色無君には教えてあげません」

pencil_1925.jpg

紫「♪〜♪〜」

無「……お? なぁ、紫の奴あんなに朝早くからどこ行くんだ? 夏休みだってのに」

黄緑「あら、紫ちゃんならラジオ体操ですよ? 毎朝行ってるみたいです。……知りませんでした?」

無「な……(どんだけちっちゃいんだ……)」

紫「見てー色無! スタンプこんなに溜まったよー!」

無「ああ、よかったな……(なでなで)」

紫「な、なぁに? 優しくしても何もないよ?」


紫「うんしょ、うんしょ……」

無「お? なんだ紫、取れないのか? よしよし、お兄さんが取ってやろう」

紫「……」

無「よっと……ほれ」

紫「……ありがとう」

無「(……お?)はは、あんなところの物が取れないなんて、紫は本当にちっちゃくてかわいいな」

紫「ちっ……!」

無(くるぞくるぞ……)

紫「……(プルプルプルプル)」

無(……我慢している? あの紫が?)

紫「……色無、ありがとね」

無「え? あ、ああ……(なんだ? ……絶対何かあるはず)」

紫「ふう、言いたくなったから100円っと……(チャリン)」

紫の『大人の貯金箱』(命名紫)の説明

ちっちゃいゆーなと言いたくなったら100円、言ってしまったら500円入れなければなりません。

今日は言いたくなってしまったから100円。でも、我慢できました。少しずつ大人になれてる気がします。

大人の女性はきっとムキにならないのです。クールに決めるはずなのです。

でも、先週から始めたというのに貯金箱にはもう3000円。気を引き締めなければいけません。このままでは今月のお小遣いが無くなってしまいます。

大人の女性になる道は長く険しいのです。貯金の使い道? それはもちろん大人の女性になるために色々と(ry


 夕方、魔の時間帯。お腹が減る時間である。

「……」

 もぐもぐ。なにやらパイのような物を食べている紫。目の前には空の包みがいくつも置かれている。

 育ち盛りだから仕方がない。ちっちゃいから。で、そこに来るのは色無。

「お前……ちっちゃい子供みたいだな」

 軽くジャブ。とはいえ本当に子供みたいなのだ、紫は。口にリスのようにお菓子を詰め込みながらこちらを見ている。

 しかし……前までならここら辺ですぐに「ちっちゃいゆーな」と子ども扱いしたことを顔を真っ赤にして抗議していたはずであったが、最近は何故か乗ってこない。

 何かが変わってしまったようで。

 当然色無は訝しがる。そして前のような遣り取りが恋しくなり、前以上に頻繁に紫に突っかかるのだが……。

「……」

 紫は揺るがない。「何よ、文句あるの?」とでも言いたげに色無の方を見ている。そして……。

 ビリビリビリ。

「お、おい、まだ食べるのか?」

 色無が驚くのも無理はない。先程のパイを食べ尽くしたかと思うと今度はポッキーのパッケージを開け始めた。

 いくら紫が普段ちょこまかと動き、豊富な運動量を誇っていたとしてもこれでは——

「……太るぞ?」

 ピクッと紫の眉根が動く。続いて——

「う……」

 プクッと頬を膨らます。どうやら抗議の意を示しているらしい。不満げで、どこか拗ねたような顔。その顔を色無の方に向ける。上目遣いで。

 色無はたじろぐ。滑稽で、でもどこか愛らしくて。小動物然としている仕草。その無条件で可愛いといってしまいそうな顔をこちらに向けてくるのだ。

 と、そこへ黄緑が来る。

「あらあら、こんなに食べたらお夕飯食べられなくなっちゃいますよ?」

「……はーい」

 黄緑に言われてしぶしぶ紫は片付け始める。封を開けてしまったポッキーは湿気ないように小さなビニール袋に入れ、口を縛る。

 紫にしてみても黄緑の作る美味しい夕飯をフイにするのは本意ではないのだ。ただちょっと魔が差しただけ。

 その紫は片付け終えると勝ち誇ったように余裕の笑みをこちらへ向けてくる。

「……フフッ」

「な……」

 ひょっとすると、先程の色無の心境を見抜いてしまったのかもしれない。思わず見とれていたことに、気付かれてしまったのかもしれない。

 いや、もしかすると既に——

 結局その日、言いようのない気持ちを色無はどこへ向けることもできなかった。

 いつまでも子供のようでいて——

 少女は少年よりも先に大人になっていたのだった。


紫「お、お兄ちゃん……」

無「もっと大きな声で」

紫「……お兄ちゃん」

無「もっとはっきり!」

紫「お兄ちゃん!」

無「あー、やっぱ紫は間違いなく妹キャラだな」

紫「ち、ちっちゃいゆーなっ!」

無「可愛いなー、よしよし(なでなで)」

紫「ぅぅ……ちっちゃいのをバカにしてー……」

無「あー、俺にこんな妹がいたらなー」

紫「……本気で言ってる?」

無「ん、願望だけどな」

紫「……じ、じゃああたしが色無の妹に——」

焦「(バン)話は聞かせてもらった! 色無、今日から私は君の妹だ。よろしくな、お兄ちゃん!」

無「え、焦茶さんはどう見ても俺より年上じゃないですか……」

焦「ふむ、やはり見た目にこだわるのだな。そうか、色無は面食いか。私みたいなブスではダメなのだな?」

無「いやいや、焦茶さんは美人ですよ! けど妹って感じじゃ……」

焦「ならお姉さんでもいいぞ。今日から私のことは焦茶お姉さんと……」

無「……はぁ」

 後日

紫「お兄ちゃん♪」

無「ん、なんだ紫?」

橙「(ヒソヒソ)ねぇ、アレどういうこと?」

黄「(ヒソヒソ)良く分かんないけど、色無は妹萌えらしいよ」

橙「(ヒソヒソ)紫は何か弱みでも握られたの?」

黄「(ヒソヒソ)いや、なんか自分からやりだしたみたい」

橙「(ヒソヒソ)デレ期に入ったのかしら……あぁなると私たちには勝ち目がなさそうね……」







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 04:00:15