色鉛筆男×女

 まあ最近、あたしの周りでは恋にうつつを抜かしてる人間が多いわけだ。青とか水とか、あの桃まで。

 いや、悪いとは思わないよ? それはそれでうらやましいのは事実だけどさ、どーもあたしはそういうのに興味が持てなかったわけ。それより女友達といろいろ遊んだりするほうが楽しかったからさ。

 ……まあだから、今の自分の状況はちょっと信じられなかったりもするわけだ……後悔とか、そういうのは一切ないけど。

「ど、どいてーっ!!!」

「へ? うわぁっ!?」

 どさどさどさ……。

「……え? え? 何? 何が起きたの?」

 えーっと……確か階段上から本が降ってきて……ってなんか誰か下敷きになってるし!?

「お、おーい、生きてるかー?」

「いたたた……」

「おお、生きてた」

「あはは……お怪我は?」

「ないけど……ってかアンタは他人の心配する前に自分の心配しなさいな」

「あ、大丈夫です。慣れてますから」

「いやいや、答えになってないし」

「ああ、それより本を拾わないと……」

「なんなら手伝おうか?」

「いいんですか?」

「というか、こんな盛大にばら撒かれちゃほっとけないし」

「あ、ありがとうございます」

「本当にありがとうございました」

「そんなたいそうにお礼言うことじゃないわよ」

「そうですか?」

「そーよ。ってかアンタ急いでたんじゃなかったの?」

「あ、そうだった。それではこれで」

「ん、じゃね……ん? ありゃ、生徒手帳落としてってる。ってもういないし……どーしよこれ」

 まあなんとも味気も色気も面白みもないファーストコンタクト。そりゃロマンチックな出会いなんてそうそう転がってませんて。

でもまあ……これが一つのきっかけではあったわけだ。

「さーて、どうしたもんかな……返そうにも名前わかんないし」

 でも本抱えてたってことはひょっとして……。

「いや、今日は特にそういった作業があるとは聞いてないが」

「そっか、ありがと」

 図書室の主の緑が知らないってことはここじゃないわね……どうしよ……。

「何かその彼と問題が?」

「ああ、いや、生徒手帳落としてたからさ、返したいんだけど名前わかんなくて」

「なるほどな。手帳に名前は?」

「ぱっと見じゃ書いてるようには見えないのよねー、中見るのはさすがにヤバそうだし」

「ふむ……」

「どしたの、二人とも」

「あ、桃。いや実はね……」

「ふーん……じゃあ群青さん呼んでこよっか?」

「群青さんに? しかしあの人に聞いても分かるかどうか……」

「まあとりあえず聞くだけ聞いてみようよ、ちょうど戻ってきたところみたいだし」

「大量の本……? そういう話は聞いてないわね」

「そうですか。むー、八方塞りかあ」

「ひょっとしたら逆なんじゃない? こっちから本を運び出したとか」

「あ、なるほど」

「となると社会化準備室だと思うわ。行ってみたら?」

「ありがとうございました」

 さて、急がないと……

「うわっ!?」

「ととっ?」

「すいませ……あ、さっきの」

「ああ、探してたのよ。はいこれ」

「え? あっ、生徒手帳!? よかったあ……ちょうど探し回ってたんですよ」

「そりゃよかった。もう落とさないよう気をつけなさいよー」

「あはは……もう今月に入ってから5回目なんですけどね」

「多っ」

「どうもありがとうございました。えーっと……」

「あ、そういえば名前言ってなかったわね。あたしは橙」

「僕は茶っていいます」

「同学年……でいいんだよね?ネクタイ色同じだし」

「あ、そうですね」

 しっかしなんてゆーか……地味ねえ、前髪長くてビン底眼鏡だからまともに顔わかんないし。
「……? あの、何か?」

「へ? あ、ごめん、よく顔が見えなかったからつい」

「あ、すいません」

「ま、これからは落とさないように気をつけなさいよ」

「はい。それではってうわあ!?」

 うわ……ボール踏んづけてすっ転んだ……。

「あたたた……」

「だ、大丈夫あんた? そそっかしいわねえ」

「あはは……」

 むー、どうしよう……いや別にほっといていいんだろうけどさ……なんかほっとけないっつーか……あー、もう!

「ほらさっさと立って。なんかほっとけないし家まで送ったげるから」

「え、ええっ!?」

 で……

「……あんたも虹色寮の寮生だったんだ」

「橙さんもなんですか」

「まあね。実家遠いし。あんたも?」

「まあ遠いと言えば遠いんですが……通えない距離でもないんです」

「へえ。んじゃなんでまた?」

「姉さんが寮母なんですよ」

「へ?」

 ちょっと待って、寮母ってことは……。

「……アンタ焦茶さんの弟だったの?」

「あ、はい」

 うわー……いろんな意味で全然似てない……。

「……似てません、よね」

「えっ、あぁ、いや、そんなことは」

「いいんです。慣れてますから」

「……ごめん」

「いえ、本当全然いいんですよ」

 あちゃー……地雷踏んじゃったかな……。

「ん? 茶じゃねーか。珍しいな、女連れなんて」

「あ、しゅー兄ちゃん。ただいま」

「違うわよ、しゅー兄。たまたま一緒になっただけ」

「んだよ、橙か。じゃ色気のある話じゃねーわな」

「ちょっとそれどういう意味ですかー」

「あ、あれ? 二人とも知り合いなの?」

「おお、はとこでな」

「まあそういう縁もあってここにいるのよあたしも」

「そうだったんですか」

「しかしまた面白い組み合わせだな」

「はいはい、管理人さんはこんなとこでだべってないで仕事に戻った戻った」

「まーったく失礼しちゃうわねー」

「あはは……」

「でも同じ寮に住んでるのにわかんないもんねー」

「そうですね、でも案外何処かで会った事があったのかも」

「ま、いいわ。んじゃ今後ともよろしく」

「はい」


「あれ、橙さん、こんにちは」

「ふぇ? あ、茶じゃん。おはよ。ってどしたのその荷物」

「なんかみんなに買出し頼まれちゃいまして……」

「それにしたって荷物の量おかしいでしょーに。手伝おうか?」

「だ、駄目ですよ。女性の方にそんなことさせるなんて」

 む、なかなかにジェントルメンじゃないの。まあそんなこと気にするようなあたしじゃないけど。

「いーからいーから。お姉さんに任せなさい」

「いや、橙さん僕と同い年ってうわわっ」

「よっと」

 け、結構重いわね……前に本運んでたって話聞いたときにも思ったけど、意外と力あるのねー。

「だ、大丈夫ですか?」

「ま、まあなんとかね。それで誰に渡すの?」

「あ、えーっと主に黄緑さんに頼まれてた食料品とかなんですよね」

「んじゃまずはそれを台所に置きますか」

「わざわざありがとうね、茶君」

「いえ、いいんですよ」

「ところでどうして橙ちゃんも?」

「いやさ、なんかほっとけなくなっちゃって」

「ふふ、結構橙ちゃんもお人よしよね」

「う、うるさいなー。そんで茶、次は?」

「次は確か……」

「えーっと、テーピングとスプレーとスポーツドリンク、それから……ん、サンキューな、茶」

「最後に自分で確認取るんなら最初から自分でいきなさいよねー」

「そりゃ俺だっていつもは自分で行くけどよ……」

「駄目。どうせ赤のことだから途中でランニングとかするんだもん。しばらく自主トレは禁止です」

「そんなー。後生だよ水ー」

「だーめ。部活も大切だけどちゃんと勉強もしないと。またテストで赤点取っちゃうよ?」

「くっそー……」

「なーるほど。いやあ、大変ですなあ赤君は♪」

「うっせー」

「あ、それと水さん、頼まれてた土、菜園のほうに置いときましたから」

「ありがとう、茶君」

「これで終わりね。あー、肩こった……って何してんの」

「え? 何って……買出しですよ?」

「は? 今さっき終わったじゃない」

「いや、あれはまだ半分くらいで……」

「はあ!? そんであんた今からもう半分買いに行くの?」

「ええ」

「……あんたちょっとそれはさすがにお人よしすぎ」

「そ、そうですか? いつもこんな感じですけど……」

うっ! そ、そーいえばあたしもなんか結構頼んだことがあるような……

「……あー、もう、しょーがないわね」

「へ、あの、橙さん?」

「乗りかかった船だし、最後まで手伝ったげるわよ。ほら、行くわよ」

「……すいません」

「こーら、こういうときは『ありがとう』でしょうが」

「……そうですね、ありがとうございます」

「あとその丁寧語もやめなさい。同い年なんだからもっとふつーに」

「い、いえ、それは……」

「いーからほらっ、やるっ」

「あ、え、えと、う、うん、よろしく、橙……ちゃん?」

「……な、なんで疑問系なのよ。しかもちゃん付けて」

「い、いや、その……」

「……まあいいわ。さあちゃっちゃと終わらそう」

「う、うん」

まーったく我ながらお人よしだわ……。


橙「やぁ、赤さん!」

赤「げっ、こんにちわ」

橙「奇遇だね、運命を感じるよ! 丁度君に渡したい物があったんだ。この花束……受け取ってくれるかな? 僕の気持ちさ(キリッ)」

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「ただいまー……」

「ああ桃、おかえ——と、ズブ濡れじゃないか。大丈夫か?」

「な、なんとか大じょ——くしゅんっ!」

「……少しそこで待っていてくれ。何か取ってくる」

「ほら、これを使うといい」

「あ、ありがと」

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「まったく。そんなに濡れて帰ってこなくても、電話してくれれば迎えに行ったぞ?」

「そうしようと思ったんだけど……携帯部屋に忘れちゃって」

「なるほど……しかしこのまだと風邪をひくな。風呂の準備をしてくるか」

「い、いいよ、そこまでしてくれなくても!」

「そうは言うが、浴場が使えるようになるまでかなり時間があるだろう。気にするな、彼氏なんだからこれくらいはさせてくれ」

「う、うん……」

「うー、緊張するよぅ……」

 緑君の部屋のお風呂なんて初めてだし……自分の部屋のでよかったのに……。

「桃、湯加減はどうだ?」

「え、あ、うん、大丈夫だよ」

「そうか、着替えはここに置いておく」

「うん、ありがと……へ?」

き、着替えってまさか……。

「少し大きすぎないか心配だったんだが……なんとかなったか」

「う、うん……」

 みみみ緑君の服着ちゃってるよ私!? うあー、顔が熱い……。

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「……すまない、嫌だろう? いきなり男の服を手渡されて。本当は誰かに借りられればよかったんだが、あいにく皆出かけていてな……」

「い、いいよそんな……本当にありがとう、緑君」

「そう言ってくれるとこちらも助かる。ああ、その服はいつ返してくれても構わないから。なんならもらってくれてもいい」

「ほ、本当!?」

「……冗談のつもりだったんだが」

「えっ!?」

「まあ本当にそれでも構わないんだが……もらって嬉しいものなのか、それは?」

「え、えと……その……ち、ちょっとだけ……」

 うわー、うわー、変な女だって思われたよ、どうしよ……。

「……そんなものか。まあ桃が嬉しいならそれでいいさ。好きに使ってくれ」

「あ、ありがとうございます……」

 ……部屋着に、しちゃおっかな……楽だし、それに……緑君の匂い、するし……。


「橙ちゃんは要領いいね」

「は? いきなりどしたの」

「えと、いろいろ手伝ってもらってるじゃない、最近」

「あー、うん、まあそうね」

「それでさ、やっぱり僕なんかよりずっと要領よくこなすじゃない」

「そーお?」

「そうだよ。だからさ……羨ましいなって」

「……あたしは茶もすごいと思うよ」

「へ?」

「だってさ、普通そこまで出来ないわよ。つーかなんでそこまで出来るの?」

「……多分姉さんがそういう人だったから、かな」

「焦茶さん」

「うん。といっても姉さんは本当になんでも出来る人だったから。だからそれに憧れて……かな」

「ふーん」

「……なかなか姉さんのようにはいかないんだけどね」

「……それでも、さ。皆なんだかんだで茶のこと頼りにしてんのよ?」

「……まさか」

「本当だって。まあそりゃ確かに空回ってたり、どんくさかったりもするけどさ……でも茶は、一度引き受けたら絶対投げ出さないし、期限までには必ずやり遂げるじゃない。それこそ徹夜までしてさ」

「それは……でもそんなの当たり前なんじゃないの?」

「それを『当たり前』だと言えるだけで十分すごいわよ。普通はそこまで出来ないわよ。ましてや他人事なら尚更」

「そうかなあ……」

「……茶、あんたは理想が高すぎるのよ。あんたは焦茶さんじゃないんだから、あんたに出来る範囲で頑張ればいいのよ」

「……姉さんにも同じこと言われたな」

「んだったらそれを守ってればいいのよ。無理して背伸びしない」

「……でもやっぱり無理しちゃうんだよね、最近はそうでもないけど」

「へ、なんで?」

「なんでって……橙ちゃんのおかげだよ?」

「へ?」

「橙ちゃんが最近手伝ってくれるようになったからだよ。文句言いながらもちゃんと最後まで手伝ってくれるじゃない」

「あ……」

そういえば……最近はずっとそうだったわね……なんで?なんであたしそこまでしてんの?

「だから本当に感謝してるんだ。ありがとう、橙ちゃん」

「あ……うん……」

ああ……そうか……『なんとなくほっとけないから』で済ませてた……確かに最初はそれだけだった……でも今は違う……そっか、あたし……茶のことが好きだから……だからこんな一緒にいるんだ……

「……橙ちゃん?」

「はえ!?」

「大丈夫?なんか急にぼーっとして」

「あ、ああ、だいじょぶだいじょぶ。ち、ちょっと疲れただけだから」

「ええっ!?ほ、本当に大丈夫?具合悪くなったりとか……」

「だ、大丈夫だって。ほら、とっとと片付けて帰ろ」

「ならいいんだけど……本当に無理してないよね?」

「だから平気だってのに」

ああああああもう……なんであたしこんな……そりゃ今まで別に意識とかしてなかったけどさ、自覚し始めたらいきなりぽけーって、一昔前の少女マンガかっつーの。あー恥ず……平常心平常心……

「よしっ、終わりっと」

「なんとか下校時刻までには終わったね。よかった」

「ま、あたしにかかればこんなもんよ」

「はは。それじゃ教官室にこれ提出して帰ろっか」

「あー、右手が痛い。もーちょっと続けてたらペンだこ出来てたわね」

「流石にそれはないと思うけど……でも本当にありがとうね、橙ちゃん」

「あっ……だ、だから別に何度も言わなくていいって……」

うわーうわーなんか心臓バクバクいってるし……たかがお礼一つでなんなのよもー。落ち着け心臓!昨日まで普通だっただろっ

「そうだ、橙ちゃん今度の日曜日暇?」

「へ?あー、まー別に予定ないけど」

「じゃあお礼に何か奢らせてよ。最近は随分忙しかったからさ」

「……へ?」

え、ええええええっ!?ここここれはアレか?デートの誘い!?

「い、いいいいきなり何言い出してんのよ!?」

「え、だって……元々橙ちゃんが……」

「あー、疲れたー」

「お疲れ様。いつもありがとうね」

「うー、なんか奢れー。感謝の気持ちをモノにこめろー」

「うえ!?い、今ちょっと持ち合わせが……」

「いやいやただの冗談だって。何真に受けてんの」

「あ、なんだ冗談か……まあでも、いつか余裕が出来たらお礼するよ。流石にしてもらいっぱなしっていうのもまずいしさ」

「真面目クンねー。まーくれるって言うなら、ありがたくもらっておきますか」

「……って」

そーだったー!何言っちゃってんだ過去のあたしー!?

「で、文化祭とかも終わって一段落しそうだからさ」

「あ、ああ、そう……ま、まあ、それならそれでいいわ、うん」

「?」

うわー、マジ余計なこと言ったわ……どーしよ……いやいや、嫌ってわけじゃないんだけどさ。むしろ大歓迎ってゆーか。ってなんであたしこんなドキドキしてんだ……向こうは下心も何も一切ないってのに……いや、だから余計タチが悪いとゆーか……

ま、まあとりあえず……今はそのこと考えんのやめよ、うん。余計に頭ん中ぐるぐるしそうだし……


桃「わ、緑君、どうしたの? 息切らして」

緑「怪我したって聞いて、はぁ、大丈夫か」

桃「大丈夫だよ、ちょっと突き指しただけだから」

緑「……そうか。まぁ、何か不便なことあったら、言ってくれ」

赤「お、やっと追いついた。廊下走っちゃいけねーんだぜ、優等生」

緑「誰のせいだと思っているんだ……お前が大袈裟に言うから」

赤「そうそう、聞いてくれって桃ちゃん」

緑「あついからひっつかないでくれないか。……あぁ、聞いちゃいないな」

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赤「こいつ桃ちゃんが怪我したって聞いて、血相変えて走ってたんだよ。俺、あんな緑初めて見たぜ」

緑「何を言い出すかと思えば。そんなこと報告しなくてもいいだろう」

赤「事実だろ。ほら、桃ちゃん嬉しそうだぜ。なぁ」

桃「えっへへへ……分かっちゃう? すっごい嬉しいよー」

緑「……そうか」

赤「照れてんのか?」

緑「やかましいな、お前は」


「んー……あー……っー……」

「……どったの? 赤」

「んあ、黄か。いやな、ちょっとこれ見てくれ」

「へ? 何、映画の招待券?」

「おう。なんか緑が『桃と一緒に行こうと思ったんだが、偶然向こうも同じものがあったらしい』つってくれたんだよ」

「へー。そいでなんでそんな唸ってんの?」

「いや、どーやって水誘おうかってな」

「どーやってって……別に普通でいいんじゃないの?」

「なんか柄じゃねーっつーか……照れくさいってーか……」

「いやいや、日ごろあんな態度取ってる人がそんなこと言っても説得力ないから」

「うっせぇ」

「いーじゃん、普通に映画行こうぜーって」

「なんかこー、改まって誘うのって緊張すんだよ……」

「幼なじみでもそーゆーもんなんだ」

「いや、だから余計にな……まあ、お前も好きな女子デートに誘うようになったらわかるって」

「ふーん……んでも、ずっとそーしてるわけにもいかないでしょ?」

「そーなんだよなぁ……いよっし、いってくる」

「いってらっしゃーい」

「あー、み、水、ちょっといいか?」

「あ、赤……どうしたの?」

「い、いやな、その……あー……こ、今度の日曜なんかあるか?」

「……? 用事とかはないけど……どうして?」

「あー、その……アレだ、緑がな、映画の招待券くれたわけだ。で、一緒にどーかと思ったんだが……」

「え……」

「……行くか?」

「う、うん……えと……よろしくお願いします……」

「お、おう」

「……楽しみ、だね。えへへ……」

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「最近君はよく茶と一緒にいるな」

「は、はい?」

 な、なんか焦茶さんの雰囲気が険悪なんですけど? なんで? あたしなんかした?

「おい、何寮生いびってるんだ管理人」

「む、朱か」

「しゅー兄」

「あー、すまんな。コイツ茶のことになると大抵こうなんだよ。過保護っつーか」

「何を言う。たった一人の可愛い可愛い弟だぞ。心配するのは当然だ」

「だからって交友関係にまで口出しすんな。茶だっていつまでも子供じゃねーんだぞ」

「…えーっと」

「まあ要するに女の子と仲良くしてるのが若干面白くないんだろ」

「あ、なるほど…」

「それで君は茶のことをどう思ってる?」

「え、いや、あの、どうと言われても…」

「最近茶を見る君の目がなんだか好きな人間を見る目になっているんだが」

「!?」

「ふむ図星か…」

「ちちち違いますよ! そ、そりゃー結構優しいし面倒見もよかったりするけどでもだからってそんな…だいたいどんくさいし、別に特別カッコいいわけでも…」

「…何?」

「特別カッコいいわけでも…?」

 え、も、もしかして私地雷踏んだ?

「…すまないが君の茶の容姿に対する評価は?」

「い、いや、えと?」

「あー、正直に言ってみろ。別に怒ってるとかじゃねーからよ」

「え、いや、評価も何も…あれ? そういえば…あの瓶底眼鏡とうっとおしい前髪のせいでまともに茶の顔見た覚えが…」

「…はは、マジかそれ。信じらんねー」

「…まさかそれで茶のことを好きになるとは…言ってはなんだが物好きだな、君は」

 うえっ!? い、いや、あたし自身なんで好きになったかよくわからないってゆーか…うん、物好きだわあたし。ホントなんで惚れちゃったんだろ…。

 ていうかなんでしゅー兄はこんな笑ってて焦茶さんは怪訝顔なんだろ…。

 

「…いつになくボロボロね、茶」

「あ、あはは…」

「だーからいつも言ってるでしょうに。無理して荷物全部持つなって。あーあー、眼鏡落ちてるし」

「え、ど、どこ? よく見えない…」

「いいわよ、あたしが拾うから」

 全くコイツはほっとけないんだから…まあでも最近はそういうとこも結構…って何考えてる自分。あら、眼鏡ひび入ってる。

「茶ー、眼鏡ひび入っちゃってるけどどうする?」

「ええっ!? ど、どうしよう…」

「スペアとかないの?」

「一応コンタクトがあるんだけど…苦手なんだよなあ…」

「でも直るか新しいの出来るまではしょーがないでしょ。まあ部屋までは案内してあげるわよ」

「ありがと橙ちゃん…」

 

「うー、やっぱりなんか違和感があるなあ…」

「………」

 …よく漫画なんかでは野暮ったい眼鏡キャラが、それを外すと実は美形なんて展開がある。そんなのお話の中だけの話だと思ってたのに…。

「…? どうしたの橙ちゃんぼーっとして」

「へ!? あ、ああいや、なんでもありませんデスヨ!?」

「?」

 うわー、うわー、ちょっとかなりカッコいいんですけど…いや確かに姉の焦茶さんはかなりハイレベルな美人だし、そう考えると普通なんだけど、しかしこれは…。

「…そんなに見てて面白い顔かな?」

「ま、まあ、結構カッコいいほうだとは思うわよ?」

「そんなこと言って…僕なんかより赤や緑のほうがカッコいいじゃない」

 コイツ本気か!? 遜色ないどころか普通に人によっては茶のほうが好みってレベルなのに!?

 あー、こうして見るといつもはうっとおしく見えてた前髪もなんかカッコよく見えてきた…。

「でも眼鏡どうしようかなあ…とりあえず姉さんに相談しないと…」

 ハッ!? そうよ、このままだとまたあの瓶底眼鏡の野暮ったいキャラに逆戻りじゃない!? それだけはなんとしても阻止しないと…。

 

「茶、大丈夫か?どこにも怪我はないか?」

「ちょ、ちょっと姉さん大丈夫だってば…」

「そうか、それならいいんだが…眼鏡のことは心配するな」

「ありがとう」

「しかし茶よ、正直あの眼鏡はどうかと思うぞ? 買い替えたほうが…」

「そんなにひどいかなあ、結構気に入ってるんだけど…それに僕にはこれくらいがちょうどいいって」

「むう…」

 …自虐思考ここに極まれりね。やっぱ焦茶さんももったいないって思ってたのか…よし!

「いいじゃないの、買い替えたら。あたしもそのほうがいいと思うわよ」

「だ、橙ちゃん?」

「だいたいその前髪もうっとおしいのよ。ついでに散髪行ってきなさい。少しは見れるようになるから」

「! うむ、それがいいな。よし、善は急げだ。ほら散髪代だ、行ってこい」

「え、ええ?」

 

「どうだ、以前の質問の意味が分かったかな?」

「よくわかりました。というか茶はアレ本気で言ってるんですか?」

「うむ、どうも本人的には『女っぽい顔』という評価であまりよくは思ってないようでな」

「あー、まあ確かに中性的と言えばそうかも…でも普通に美形ですよね」

「それも全部あの眼鏡一つで台無しだがな。なんとかしないと、とは思うんだが…」

「ただいまー」

「あ、おかえ…り…」

「ああ、帰ったか。早かったな」

「まあすぐ終わったから、はいこれお釣り。ってどうしたの橙ちゃん?」

「はえっ!?」

 ちょ、何この変わりよう!? ヤバ、髪切っただけなのに印象が全然違う…。

「…惚れ直したかな?」

「!!!」

「…ねえ、やっぱり眼鏡使うよ。なんかみんな変な顔で見るし…」

「わ、割れた眼鏡なんてかけているほうが余計そんな顔されるでしょうに」

「でもやっぱりコンタクトにも慣れないし…とりあえず眼鏡なんとかしないとなあ」

「…それなら橙君に見繕ってもらえばいいんじゃないか?」

「あ、あたしがですか!?」

「聞けば橙君はかなりセンスがいいらしいじゃないか。もっと茶に似合う眼鏡を選んでもらえばいい」

「うーん…」

「ま、まあ別にそれくらいならやったげるわよ。ほら、さっさと行くわよ」

「色々とごめんね…」

「い、いいからいいから」


「あ、あの、茶君手伝ってくれてありがと……」

「あ、うん、どういたしまして……でもここまででいいの?」

「だ、大丈夫! 本当にありがと!」

「……うん」

 ……茶が髪切って眼鏡を変えてから……なんていうか回りの反応が変わった。

 そりゃあさ、カッコいい男子に親切にされたらさ、舞い上がるのもわかるさ。現にあたしだって慣れるまでアレだったし……。

 だからってそうなる前までは無関心どころか、バカにしてたような人間までなーんか舞い上がってるの見るのは腹立つ……。

 茶は茶でそういう悪口言われてるのわかってるのに手伝いとか自分から言い出してるし……。

 ……ホントはこんなこと考えてるあたしだって、そんな大差ないんだけどさ……でもやっぱり、なんかなあ……いいトコ、他にもいっぱいあるのに。

 ……あー、やめやめ! らしくないったらありゃしない、いつも通りいつも通り……。

「こーら」

「あいたっ? あ、橙ちゃん……」

「あんたねぇ、一人じゃ持ちきれないくせに安請け合いするんじゃないの」

「い、いや、大丈夫だって」

「どーやってその大荷物で階段降りるってゆーの。また階段で眼鏡割る気?」

「あはは……ごめん」

「あたしに謝ってもしょーがないでしょ。ほら、手伝ったげるから」

「いつもごめんね」

「そこも謝らないの。あたしが好きでやってるんだから」

「……ありがとう」

「よろしい」


「ん、桃。髪型変えたのか」

「うん、そだよ、イメチェン。変かな?」

「いや、よく似合っていて可愛らしいと思う」

「えへへ…ありがと」

「…ただ」

「?ただ…何?」

「ああ、いや、あくまで個人的な好みなんだが…ただ僕は前の髪型のほうが好きだな、と」

「え…」

「…気を悪くさせたかな、やはり」

「う、ううん、全然!むしろ嬉しいな」

「嬉しい?」

「うん。だって緑君初めてだよ?そんなこと言ってくれたの」

「…そういえばそうか」

「いつも誉めてくれるのは嬉しいけど、やっぱりちょっと物足りないなあって。わがままも言ってほしいって思ってたもん」

「わがまま、か」

「うん。だからさ、緑君、これからもどんどんわがまま言ってね」

「…それなら僕も桃のわがままに答えてあげないとな」

「ほんと!?」

「答えられる範囲で、だがな」

「じゃ、じゃあねじゃあね、えーっと…」


桃「保健委員ー。手当てしてー」

緑「どうしたの?」

桃「こけて足をひねっちゃった」

緑「またカッコいい男の人見つけて、こけたんだろ」

桃「あれー。何でばれちゃったのさ」

緑「桃のすることは大抵分かる」

緑「はい、手当て終了」

桃「おお、早いねえ」

緑「俺が何年間保健委員やってると思ってるんだよ。じゃあ今度は怪我しないようにこけなよ」

桃「えー。やだ」

緑「何で?」

桃「だって怪我したら、緑に手当てしてもらえるじゃん」

緑「ばか」


 お昼過ぎ。私は彼の部屋をそっと開ける。

「みーどり君!!」

「うわっ!! ……なんだ、桃か」

 私の不意の抱きつきに驚きながら、彼は読んでいた本に栞をはせ、こちらを向く。

 他の皆が緑君の読書中に話しかけたりしても、緑君はたいてい無視(というより気づかない)けど、私のときは読書を中断してくれる。彼女の特権だ。

「……で、どうしたの?」

「ん〜、えへへ〜〜」

「?」

「ギューとかチュッとか、いわゆるラブラブをしてもらいに来ました〜」

「はい?」

 呆けた声を出し、後ずさりする緑君。案外私よりもウブなのだ。

「はい、じゃーギュー」

「わわわわわーーーーーーーーーー」

 真正面からの抱きつきに緑君は耳まで赤くした。まあ胸も当たってるしね。

「じゃあ次は緑君の番だよー。チュッってしてー」

「いやいやいやいやいや」

「何でー? 前はしてくれたのに」

「いつの話をしてんだッ!」

 つき合い始めてすぐのころ、緑君とキスをした。彼の唇は意外と柔らかくて、暖かくて、優しくて。

 だから今日、怖い夢を見た私はその唇で慰めてもらいにきたのだ。

「えー、だめなの?」

「……」

 緑君は私の背中に手を回し、強く強く抱きしめた。

「えっ。み、緑君?」

「キスは駄目。理性がぶっ飛ぶ」

 彼曰く、この前赤君にそういう話をされて、少し不安になったらしい。自分の理性が保つか、とか、桃を傷付けてしまわないか、とか。

 緑君は無愛想だけどすごく優しい人だから。

「緑君となら、別に私はいいのに……」

 私はそう呟いて、緑君の頬にキスをした。


「水は部活何に入るの?」

「部活? まだ決めてないなあ……青ちゃんは?」

「私は弓道部。前から興味あったからね」

「そうなんだ。私は……どうしようかな」

「まあ私からあれこれ言うことじゃないか。いいとこ見つかるといいね」

「うん」

 でも部活かあ……どうしようかな。

「はー……」

 なんだか最近赤落ちこんでるな……何かあったのかな。

「赤、大丈夫?」

「んあ? 水か……」

「元気ないみたいだけど……何かあったの?」

「……なんでもねえ」

「でも——」

「なんでもねえっつってるだろっ!」

「……っ」

「……とにかく、ほっといてくれ」

「……ごめん」

 学校ではあんな風に怒鳴られたけど……やっぱり気になるな……

「赤、いる……?」

「……水?」

「入ってもいい、かな」

「……ん。昼は、ごめんな。怒鳴ったりして」

「いいよ、大丈夫。でも珍しいね、赤が私に怒鳴るなんて」

「……いろいろあって、気が立ってた」

「……部活のこと、とか?」

「ん、まあ、な……世の中広いんだなあって思ってさ……」

「どうして?」

「うちさ、結構有名どころだろ? まあだからいろんなとこからこの学校来てるやついてさ、んでその中には当然俺より上手いやつなんかも普通にいるわけだ」

「そうなんだ……」

 赤より上手い人かあ……あんまり想像つかないなあ……。

「まあそれが先輩だったらまだいいんだけどさ、普通に学年一緒なわけで」

「うん」

「まあつまり現実を思い知ってヘコんでるんだよ……んなの、わかっちゃいたのにな。そんでも、どっか甘く見てた」

「……そっか」

「愚痴ったところでなーんも変わんねーんだけどさ……はあ……」

「……赤も、そういうことで悩んだりするんだね」

「む、どういう意味だよ。俺だって人並みに悩んだりするんだよ」

「あ、え、えと、そうじゃなくて……私の知ってる赤は、そういうの気にしないって思ってた」

「?」

「赤はそんなこと気にするより、とにかく走ってるような、そんなイメージだったから……私と違って」

「……」

「そんな風にがむしゃらなのが赤だって、ずっとそう思ってたな」

「……幻滅したか?」

「しないよ、そんなの」

「……そっか……」

「……とりあえず走ってみたら? 赤はいつも私に言ってたよ、とりあえず動いてみろって」

「んなこと言ったか?」

「しょっちゅう」

「うへー、まるっきり単純バカのセリフじゃねえか、カッコ悪……」

「……そんなこと、ないよ」

「そうかあ?」

「うん。そんなこと、ない」

「……ありがとな」

「こちらこそ」

「……そだな。悩んでうじうじしてるよか、走ってるほうがいいか! いってくる!」

「え、もう夕方だよ」

「いや、ここんとこ思いっきり走ってねーからさ、やる気んなってきた!」

「……やっぱり赤はそういう顔してるほうがいいね。楽しそう」

「ああ、すっげーわくわくしてる。見てろよー、絶対追い越してやっからなー!」

 本当に赤は走るのが好きなんだな……。

「……そーいや水、お前部活何やるか決めたのか?」

「え? まだだけど」

「んじゃさ、陸上部のマネージャーやらないか」

「えっ!? わ、私が!?」

「なんか今陸上部マネージャーいないみたいでさー、先輩が勧誘してこいってな」

「で、で、で、でも私そういう経験ないし……」

「中学んときは実質そんな感じだったじゃん」

「あ、あれはだって赤が無茶ばっかりするから……」

「んじゃ水がいてくれないとまた俺無茶するかもなー」

「あうぅ……」

 うう、卑怯だよぉ……そんなこと言うと断れないの知ってるくせに……。

「彼女が新しいマネージャーの水君だ」

「よ、よろしくお願いします……」

 うぅ、緊張するよぅ……当たり前だけど、知らない人ばっかりだし……。

「か、可愛い……」

「ああ、今までウチにはいなかったタイプの女の子だ……」

「み、水ちゃん! 趣味はなんですか!?」

「異性のタイプは!?」

「スリーサイズを——ぐほぉっ!?」

「……何聞いてんスか」

「おお、赤、先輩に手をあげるとはやるなぁ」

「はっはっは、赤くーん? 抜け駆けは死刑だぞ?」

「ああああのえっと……」

「でぇいお前らやめんか! 水君が怖がっとるだろうがっ!」

「あー、部長自分一人だけいいカッコしようとせんでくださいよ!」

「やかましい!」

「あうぅ……赤ぁ〜」

「わ、ちょ、い、いきなりくっつくな!?」

「赤貴様アアアアアアアア!!! 水ちゃんとひっつこうとはいい度胸だなゴルァッ!?」

「ちょまっ、これは水からッスよ!?」

「やかましい! とっとと走ってこんかーっ!」

「横暴だーっ!」


「……よし、完成っ」

 これでバレンタインの準備は完了っと……生チョコって結構簡単に作れるんだなあ。

「さっそく緑君に渡しにいこっと。部屋にいるかなあ」

「失礼しまーす」

「ん、桃? どうかしたのか」

「んーっとね、これ。チョコレート」

「チョコ……? ああ、今日はバレンタインか」

「あー、やっぱり忘れてた」

「どうもこういうことはな……」

「まあ私から渡す日だからいいんだけどね。はい、どうぞ」

「ありがとう。これは……生チョコ、だったか?」

「うん。調べてみたら結構作り方簡単だったから。あ、そうだ」

「ん?」

「はい、あーん」

「……」

 ぱくっ。

「!?」

「うん、美味いな。好みの甘さだ……どうした、桃?」

「……えっち」

「待て、どうしてそうなる」

「だ、だって……指ごと、食べた」

「器用にチョコだけくわえるのは無理そうだったからな」

「うー……」

 なんか最近やられっぱなしだなあ……よし。

「じゃ、じゃあこれなら!?」

「む……」

 ふふん、さすがに口にくわえたら緑君だって……ふむっ!?

「……心なしかさっきのより甘いな」

pencil2_0439.jpg

 え、え、え、い、今緑君……。

「……こっちもやられっぱなしはさすがに悔しいからな」

「……いぢわる」

「……気にさわったなら謝る」

「うー……」

 気にさわったなら、なんて。そんなわけないのになあ……そりゃちょっとは恥ずかしかったけど。







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 13:14:57