赤メインSS

『赤の一日』

7:00

起床。いつものように寝相が悪くパジャマがはだけていた。とりあえず起きたあとはお気に入りのライオンのぬいぐるみを抱き締める。うん、今日も頑張れそう。

7:30

朝御飯を食堂で食べる。朱色さん、また朝帰りですか?いい加減ご飯をつくってください。

8:00

登校途中に黒と白を見掛ける。あいかわらず仲が良い。白が黒になにかしているようだったが気にしない。

8:30

教室で青とはなしていると色無が紫と一緒に登校してきた。くそ……あんなちっこい女にすら胸のサイズで負けるなんて……まったく、むかつく……

9:00

居眠りしてた。夢の中で色無と遊園地をデート。いっそのこと夢の世界に行きたい。

11:00

今日は身体測定の日だったらしく身体測定があった。桃がまた体重が増えたといっていた。はいはい、おっぱいおっぱい。いつかサンドバッグにしてやる。

12:00

今日は翠緑とお昼ご飯を食べた。どうやら黄緑対策の必殺技を編み出したらしい。ドラゴンなんたら〜という技だったかな?覚えてない

13:00

また居眠り。次は色無とご飯を食べてる夢だった。あ〜んさせてるところで先生に起こされた。私の夢を返せ。

15:00

部活に行く途中黄緑が翠緑にアイアンクローを決めていた。翠緑がMPが足りないと叫んでいた気がする。

17:00

部活

18:00

部活終了

19:00

晩御飯を食べようとしたらまた朱色さんがいない。仕方なく部屋に戻ろうとしたら色無がご飯をつくってくれた。最高にハイってやつになった。あ〜んまではなかったけど十分幸せ。

20:00

お風呂に入る。青も一緒入っていた。裸を見られたあと鼻で笑われた。いつか叩き潰す。

21:00

CDを聴く。ヘヴィ・メタルの疾走感が堪らない。

23:00

ライオンのぬいぐるみをだき枕にして就寝。

おやすみなさい


赤「よっ……ほっ……」

紫「何やってんの、赤?」

赤「ん、紫?……ふぅ……これのこと?」

紫「うん。なになに?びりーず……ぼーと……ちゃんぷ?」

赤「ビリーズ・ブート・キャンプ。だよ。今ちょっと部の中で流行ってるんだ♪」

紫「へぇー」

赤「7日間の集中エクササイズで魅惑のボディーを手に入れろ!ってね」

紫「ふーん」

赤「ちょっとキツかったけど、まぁ楽しく出来たって感じかな」

紫「それで、効果は?」

赤「うーん、あったんじゃない?」

紫「次あたしに貸して!!」

赤「え、いいけど……あんまり無理してやっちゃダメだよ?」

紫「うんっ!」

——1週間後

紫「いたたたたた痛い痛い痛い」

赤「だから無理してやっちゃダメだっていったのに……」

無「赤のちょっとキツイって言うのは当てにしちゃいけないんだぞ?」

紫「ぅ〜……色無おんぶしてぇ〜……」

無「はいはい。——よっこらせっと」

赤「!!!!(こ、こういう使い方もあったなんて……)」


『元気な笑顔』

無「ただいまー」

赤「おかえりっ!」

無「赤は元気だなー」

赤「……笑顔が好きだって言ってくれたの色無じゃない」

無「ああ、赤の笑顔を見れば1日の疲れも吹き飛ぶよ」

赤「……ありがと」

無「……ところで」

赤「なに?」

無「なんでTシャツに短パン姿なんだ?」

赤「ちょっと走ってこようと思って」

無「昼間に走らなかったのか?」

赤「うん、ちょっと忙しかったから」

無「あ……すごい料理だな」

赤「でもせっかくの記念日なんだから、ちょっとがんばってみた」

無「そっか、そうだ久々に俺も一緒に走ろうか?」

赤「うれしいけど大丈夫? 今日はすぐに寝たりしたら、やだよ?」

無「……頑張ります」


赤「はぁ……はぁ……」

黄緑「38.6度。今日はお休みですね」

赤「いや、でも……」

黄緑「ダメですよ無理しちゃ」

無「そうだぞ、今日はゆっくり寝てろ。最近の頑張りすぎてたツケが回ったみたいだしな」

黄緑「学校には朱色さんが連絡してくれますし」

赤「仕方ないなぁ……今日は二人に免じて休んであげるよ」

灰「学校休める赤先輩が羨ましいなぁ」

空「灰ちゃん、不謹慎ですよ」

黄「赤が風邪を引くなんて!馬鹿の風上にも置けないわ!」

橙「馬鹿は黙ってなさい」

先生「赤ー!……無断欠席か?」

茶「せんせー!赤ちゃんは風邪でお休みですー」

先生「そうなのか、でも連絡貰ってないぞ?」

朱「あ、電話するの忘れてた……まあいいか」

朱「赤、入るぞ」

赤「どうぞ」

ガチャ

朱「調子はどうだ?」

赤「朝よりは大分マシにはなりました」

朱「そりゃよかった。とりあえず飯作ったから食うか?」

赤「えっ、朱色さんが作ったんですか?」

朱「失礼なヤツだな。これでも私は病人には優しいんだぞ」

赤「あはは、ごめんなさい。丁度お腹空いたところだし頂きます」

朱「おう、たんと食え食え。といってもお粥だけどな」

無「赤はちゃんと昼飯食べてるかな……」

青「朱色さんが一緒だし大丈夫でしょ」

無「でも、あの朱色さんだよ?」

青「あー……。でも得体の知れない特殊能力とかが働いて(ry」

黄「やぁー、調子はどうだい?」

赤「お陰さまで」

無「静かにしろよ黄。これでも病人なんだから」

赤「ひどいなぁ。朝との態度の違いに吃驚だね」

無「そりゃあ……、病人には優しくしないとだなー」

赤「一応今も病人だけど?」

無「……ああもう、元気そうだし俺はお暇するよ」

黒「赤面しながら逃げるとは滑稽ね」

無「く、黒!?」

黒「桃色空間を展開するのはいいけれど、後が支えてるんだから早くしてね」

無「……別にそんな」

赤「……」

桃「呼んだ?」

紫「誰も呼んでない」

黄「なんという蚊帳の外」

黄緑「さあさあ掃けてくださいよー、熱を計りますからねー」

青「じゃあね赤。もう暫くは安静にしてなさいよ」

赤「わかってるよ」

空「お大事に」

茶「お大事にね」

赤「はいよー……って前見て!」

茶「わきゃあ!?」

黄緑「うーん、少し熱が残っていますね。お見舞いで無理しすぎたかしら?」

赤「朱色さんのお手伝いしてたからかなー……」

黄緑「へぇ?」

赤「え?あ、いやなんでもないよっ!?」

黄緑「うふふふ、ちょっと用事を済ませてきますね……」

赤「(ガタガタガタ)」

黄緑「で、どういうことなのです?」

朱「掃除やら洗濯をしてたらな、赤が」

赤「いっつも動き回ってるから、動かないと落ち着かないというか」

朱「という訳でついつい手伝ってもらったんだ」

黄緑「はぁ、わかりました。でも止められたはずですよね?」

朱「反論の余地がありません……」

赤「僕が頼んだんだから、朱色さんは悪くないよ!」

朱「赤……」

黄緑「仕方ありませんね。今回は赤さんに免じて大目に見ます」

赤「ありがとう黄緑!」

黄緑「そのかわり、早く元気になってから家事を手伝ってくださいね?働きたいのならいくらでも仕事はありますから♪」

赤「了解!」

朱「助かった……」

青「そういえば、どうして風邪を引いたの?」

赤「朝起きたらパジャマのボタンが全部外れてたんだよ、ははは……」

黄「寝相が悪いってレベルじゃねーっすよ」

赤「それに、急に寒くなるとは思わなかったからね」

青「だからボタンは1つ留めじゃなくて2つ以上にしなさいって前から言ってるでしょ」


無「うぅ……なんか最近一気に寒くなったよなぁ」

赤「そうゆう時こそ体を動かして暖かくなんなきゃ!」

無「げっ、赤がいる時にこんなこと言うんじゃ——」

赤「さーまずは腹筋から!!」

無「うわぁぁぁ……」

無「よんじゅはっち……よんじゅ……きゅっ……ごじゅっ……う!!」

赤「おー、なかなかやるじゃん」

無「……もう限界。体も暖まったよ」

赤「でも僕は毎日最低100回はやってるよ」

無「まぁ……アスリートだもんな。でもそんだけやってりゃ腹も凄い割れてたりするんだろ?」

赤「見てみる?」

無「い、いいのか?(ドキドキ)」

赤「うん……ほら(ペロン)」

無「……あれ? 割れてない……ていうか細っ!」

赤「力入れてきゃ割れないよ」

無「じゃあ力入れてみて?」

赤「や、やだよっ!!」

無「なんで?」

赤「な、なんでって……そんなの……色無には見られたくないもん」

無「そんなに嫌?」

赤「……うん。恥ずかしいもん」

無「ていうかいつまで腹出してんだ?冷えるぞ?」

赤「ぁ……は、早く言ってよバカぁ!」


走る。風を切って、地面を蹴って。

空は遥か広がる。世界はどこまでも続いてる気がする。あたしはどこまで行けるだろう——。

『Feel wind』

「あんたさー、なんでそんな頑張れるわけ?」

熱が塊になってそこにありそうな陸上トラック。その端で、人よりも多めのメニューを終え、ストレッチをしているあたしにチームメートが聞いた。

「だって、走るの好きだし」

理由なんか聞かれてもこう答えるしかないじゃないか。だから陸上部に入ったんだし。

「そうじゃなくて。そこまで頑張んなくてもいいんじゃない?キツくないわけじゃないでしょ?」

そうだけどさ。でも……

「んー、ご褒美の為、かな」

「ご褒美?」

「そ」

あたしが頑張れる、最大の理由。

それがもらえないのなら、あたしは楽しくなんか走れない。

「おーい、赤ー、いるかー?」

急に、大きな声で名前が呼ばれた。

あたしはその聞き慣れた声にすぐ反応する。

「はい!ここにいます!!」

「ちょっと来てくんねー?」

「はーい!」

すっとその場から立ち上がり、やや駆け足で呼ばれたほうへと向かう。足取りは、確かに疲れてるけど軽かった。

「なるほどねぇ……色無先輩とはまたストイックだね赤は」

「ふくらはぎのキネシオってどう貼ればいいんだっけか?」

「ここに一本と、ここに一本です」

色無さんはあたしの二つ上の先輩で、同じ100メートルのランナーだった。

「わり、よく覚えらんなくてさ」

「自分でもできたほうがいいですよ」

結構速くて、地方大会ぐらいには出れる選手なのに、色無さんは体のケアについての知識は拙かった。

だからそれについてはそれなりに詳しいあたしが、色無さんのそういうことを教えてあげることがあるのだ。

「赤がいてくれるならいいかなって思ってさ」

——色無さんは笑顔で、どきっとするようなことをさらっと言う。……今のだって殺し文句なんですよ?

あたしはそんな不意打ちに顔が赤くなりそうだったけど必死に耐えた。

「何甘えてるんですか、インハイだって狙えるランナーが」

「ちぇ。仕方ない、少しは覚えるか」

……ホントは色無さんには、テーピングの仕方なんて覚えてほしくなかった。いつまでだって、あたしが色無さんの体のケアをしていたかった。……少しでも、色無さんと一緒にいたかった。

「あ、色無さん。あたし、今日自己新出したんですよ!」

「お、すげーじゃん。もうちょいで地方も見えてくるな」

「えっへへぇ。最近タイム伸びてるんです」

「赤はフォームが綺麗だもんな。たぶんまだ伸びるよ」

「ホントですか!」

たわいない会話。その一つ一つが大切で、色無さんから返ってくる言葉が何よりも嬉しかった。

「ホントホント。ま、まだ赤はあと二年もあるんだし、焦らず頑張れ」

そう言うと、色無さんはあたしの髪をくしゃくしゃにしながら頭を撫でた。

「はい!!」

これが楽しみで、あたしは毎日頑張っちゃうんだ。

「あ、陸上選手の『ご褒美』を大切にな」

「はい!」

それは、あたしの初恋だった。

格好良くて、優しくて、そして誰より綺麗なフォームで走る100メートルランナー。

一目見て憧れ、ずっとその姿を追い掛けてた。さっき誉められたフォームだって、ただの色無さんの真似なんだ。

——初めてだった。誰かを見て、走ったあとのように胸がドキドキすることが。走ってるときにさえ、あの人の姿が頭を掠めることが。会えないとき、走ったあとのように胸が苦しくなることが。

……でも、その全てが「好きだ」って思えた。

頑張って頑張って頑張れば、あの人がいるところまで届く気がしていたんだ。

「カノジョさん、ですか……?」

「ああ、大学の陸上部のマネなんだけど」

「初めまして。青っていいます」

あたしが三年生になる春休み、色無さんが顔を出してくれたとき、色無さんの隣には綺麗な女の人がいた。

「どうしても一緒に行く、って言うから仕方なく連れてきた」

「何よ、その言い方」

青さんは綺麗で、髪はさらさらで、しっかりした人だと一目でわかる魅力的な人だった。……あたしなんかとは正反対だ。

「いつから付き合ってるんですか?」

あたしは最高に楽しそうに笑いながら尋ねた。その質問がなんの意味もないことなんてわかっていたんだけど。

「んー、去年の秋ぐらいだっけ?」

「うん。十月」

仲睦まじい色無さんたちを見ながら、あたしはそうなんですかー、とかありがちな相づちを笑顔でし続ける。

「そうだ、赤、最近お前タイム伸びてる?」

「まあ……そこそこ、ですね」

「ならいいけどさ。最後の年なんだし、頑張れよ。できれば応援行くから」

「はい。頑張ります」

あたしはこんな応答をしながらも、色無さんのある部分に目がいっていた。——ふくらはぎには綺麗にキネシオが張ってあった。

青さんがやったのかもしれないし、色無さんが自分でやり方を覚えてやったのかもしれない。どっちにしたって、あたしは……。

「赤、『ご褒美』を忘れないで頑張れよ」

「わかってます。待っててください」

笑顔のまま、あたしは強気を気取ってみせた。

あたしに残された、最後の走る理由——『ご褒美』を求めて、あたしは走り続けた。

一瞬のくせに、永遠を思わせる100メートル。永遠のくせに、追い掛けるものはいつだって刹那。刹那のためにあたしたちは腕を降り、大地を蹴って、ひたすらに駆けていく。

——それでもその先に、「刹那」を追い求めた者だけのための「風」が待ってるんだ

ゴールした瞬間の、風。それは色無さんが言っていた、ランナーにとっての最高の「ご褒美」。あたしはいつだってそれを感じて、そのために走ってきた。

……なのに、風は止んだ。

あたしはあの日以来、走ることに気持ち良さを感じることができなくなっていた。

走ることが楽しくない。風を感じられない。……あたしが目指す先に、色無さんはもう立っていない。

それでも、あたしは走った。ひたむきに、ひたすらに、……少しでも色無さんのことを考えなくてもいいように。

でも、そんなランニングが楽しいわけはなかった。逃げるために走ってる、って自覚もあった。ただ辛い。苦しい。タイムも伸びない。そして何より……考えちゃうんだ、色無さんのこと。心のどこかに、色無さんが走りきった先にいることを期待している自分が必ずいるんだ。

それに気付いてしまうとき、あたしは悔しくて涙が浮かびそうになる。……何してんだろ。

あたしの向かう先に「風」はあるんだろうか。本気でそう思うことすらあった。……色無さん、こんなとき、どうすればいいんですか?

「はぁ……はぁ……」

最後の大会まであと僅かに迫ったある日。あたしはいまだモヤモヤしたものからは抜け出せずにいた。

ただ辛いだけのゴールラインを超えて、膝に手をあて休んでいるあたしに突然、声がかかった。

——僅かに風が吹いた、気がした。

「よぉ」

その声で素直に喜べる、可愛いあたしはもうどこかに行ってしまったけど、それでも胸が高鳴ってしまう、あの人の声。

その声に、あたしは餌を与えられた犬のように反応した。

「い、色無さん?」

「おっす」

高校のときと変わらない笑顔を浮かべ、色無さんはその場にどかっと座り込んだ。

「暇だったんで、ちらっと顔出しにきた」

「暇って……バイトとかないんですか?それに……青さんとデートとか……」

……馬鹿かあたしは。なんでわざわざそんな話題を持ち出すんだ。色無さんが来てくれたことを素直に喜べばいいのに。

「デートは大丈夫だし、バイトは風邪につき欠席、ってことで」

あたしの馬鹿な質問に、色無さんは特に意識もせずにさらっと答える。

「え、風邪ですか?」

「どこからどうみても風邪だろ。こんなに元気いっぱいなんだから」

平然とサボってきたと言い放つ色無さんにあたしは思わず吹き出してしまう。……変わってないなぁ。

「というわけで、『忙しい』時間の合間を縫って遊びに来たのさ。さあ喜んでくれ!」

「大会前に遊びに来たとはいい度胸ですね」

「そ、そんなこと言うなよ」

「あはは」

懐かしいなあ。こんな会話をしてると、ホントに二年前に戻ったみたいだ。

……本当に、戻れればいいのに。

「なあ、赤。お前さ、最近どうだ?」

それまでの会話と同じようで僅かに違う、そんな空気を含ませながら、色無さんがあたしにそう問い掛けた。……もしかして、気付かれてる?

「正直……あんまり調子よくないです……」

「だと思った」

隠しても無駄だったらしい。春の強がりはとっくに見抜かれていたようだった。

「んー!いい天気だなぁー」

急に色無さんがグラウンドに寝そべった。ほら、赤もやってみろと誘われ、練習中ということで少しためらいはしたが、色無さんに従った。

空はバカみたいに蒼かった。バカみたいに遠くて、バカみたいに透き通っていた。

さらさらと弱い風が流れていた。寝そべったすぐ近くで虫が飛んでいったのがわかった。

どれくらいだろう。あたしはぼんやりと、雲が流れるのは見ていた。

「俺さ、大学では陸上する気、なかったんだ」

色無さんはゆっくりと語りだした。

「え?」

「だからスポーツ推薦は使わないでわざわざ一般を受けたんだ」

確かに色無さんは当時、勉強漬けで頭がおかしくなりそうだと愚痴をこぼしていた。色無さんなら陸上でいけるはずなのに、とは思ったものだった。

「でもさ、赤を見てて思ったんだ。もう一回、走りてえなって」

色無さんがこっちを向いた。ついドキッとしてしまう。

「赤のフォーム、俺のと近いよな」

「……気付いてました?」

「ああ。……だから余計に、かな。だってお前、俺とおんなじようなフォームですっげぇ楽しそうに走るんだもん」

あのとき、確かにあたしは走ることが楽しくて仕方なかった。風を探して、どこまでだって行ける気がしてた。

「あんなキラキラしてるの見せ付けられたら、そりゃこっちだって走りたくもなる」

違うよ、色無さん。あたしはずっと色無さんを追い掛けてたんだ。現に今、あたしの走りは少しだって輝いていないのだから。

「……あたしは、そんな走り、できてるとはとても……」

「本人からすればそんなもんだろ」

色無さんはまたあっけらかんとした声を出す。そして一伸びしたあと、むくっと起き上がった。

「赤、今から一緒に走んないか?100を一本」

「しょ、勝負ですか?あ、あたしじゃ色無さんの相手なんか……」

今でもやっぱり色無さんはあたしにとっては手の届かないスプリンターで、そんな色無さんとレースするなんて、恐れ多いことのような気すらしていた。

それに、練習をしていたとあって多少の疲れが脚にある。惨めなくらい差がついてしまうと思った。

「速さなんて関係ねえよ。俺は『赤と一緒に走りたい』って言ったんだ」

……この人はホントに、なんでこんなにドキドキするようなことを平然と言ってくるんだろう。不覚にも赤くなりそうになる顔を抑えて、

「……それならいいです」

と返事だけする。

……あたしはこれから、色無さんと一緒に走るんだ。

「レースじゃねえから、俺が声掛けるな」

100mのスタートラインに二人で並んで立つ。なんでだろう、いつもと違う、不思議なドキドキがしてる。

「位置に着いて」

腰を上げ、前を見据える。

「用意」

再び目線を下に落とし、脚に力を込める。

「ドン!」

力を爆発させる。永遠の刹那が始まった。

前傾姿勢から中間疾走、そしてあたしの自然なフォームに入っていく。これまででもう、四分の一は走ってしまった。

——そのとき、隣に色無さんを感じた。

あたしのスピードに合わせてくれているんだろうか。あたしの真横にぴったりとついている。

そうだ、あたしのフォームは色無さんのフォームなんだ。同じフォームのあたし達、まさにそれは『一緒に』走っているようで。

——そうそう、いい感じだ。

まるで色無さんがあたしにそう語りかけているみたいだった。

ああ、この100mがどこまでも続けばいいのに。終わっていく刹那のなか、そんなことを思った。

でも、その先には——

「はぁっ……はぁっ……!」

「ふぅー……どうだ、赤。風、感じたか」

まだ心臓がバクバクしてるのが収まっていってない。息も苦しい。けど、確かに。

「——はい!」

久々に笑えた気がした。走ることが気持ち良かった。風が、『ご褒美』があたしを待っててくれた。

「よかった」

色無さんは笑った。

「赤は、俺の希望で、そして夢なんだ。……きっと、赤ならどこへだって行けるよ」

100m、決勝。これに勝てば、あたしはインターハイという大舞台に参加することができる。色無さんですら、行ったことのない夢のような場所だ。

……頑張れー……

騒がしい会場のなかで、僅かにあたしへの応援が聞こえる。心強い限りだ。

色無さんも来ている。あたしのことを応援してくれている。

……もしかしたら、青さんも一緒かもしれない。でも、そんなことはもう関係なかった。

——色無さんの『夢』になれるのはあたしだけだ。青さんにも、他の誰かにも決してゆずれない唯一のもの。

どこかで色無さんが待っていなくたって構わない。だってあたしは色無さんと『一緒』に走っているんだから。

スタートが近づく。鼓動が高鳴る。永遠の刹那がもうすぐやってくる。

でも、でも色無さん。あたし、決めました。

もし、この先で風を感じられたなら。

あたしは、逃げません。きっと、貴方に言ってみせます。……できれば、凜として。

「あたし、ずっと色無さんが——」


赤「あー気持ちよかったぁ。さってと、頭乾かさないとね」

無「へぇ。赤ってこう、風呂上りにグイッと牛乳飲むぞー! みたいなイメージだったけど」

赤「それもいいけど、きちんと乾かさないとカゼ引いちゃうし。健康管理は基本でしょ?」

無「おー。意外としっかりしてるんだな、赤」

赤「意外とは失礼だなぁ、もう」

赤「〜♪」

無「……」

赤「……どうしたの? さっきから、ボクのことじーっと見て」

無「あーいや、別に」

赤「べつに?」

無「すっげえ丁寧に髪乾かしてるのが、なんか新鮮だったっつーか」

赤「そんなに変かなぁ」

無「変って意味じゃなくて。キレイだなとか、ちょっと思っただけ」

赤「え、ホントに? えへへ、ありがとっ」


『朝のあいさつ』

赤「色無、おはよう」

無「ああ、赤、おは……」

赤「どう? 似合う?」

無「……それは?」

赤「え? 色無ってカチューシャ好きなんでしょ?」

無「……まさか」

赤「さっき橙と灰が教えてくれたよ?」

無「昨日のあれを見てたのか、あの2人」

赤「で、どう?」

無「えっと犬の耳だよな? 似合ってると思うぞ」

赤「えー、それだけー?」

無「それだけ、ってなんだよ」

赤「あ! ご飯粒」

無「は?」

赤「ぺろ、ごちそうさまー」

無「!!」

赤「色無、どうして固まってるの?」

無「ななな、なめ」

赤「斜め?」

無「く、口の横を舐めるな!」

赤「だって、もったいないじゃん」

無「しかもなんでカチューシャの耳が動いてるんだよ」

赤「嬉しいと動くみたい」

無「う、嬉しいのか?」

赤「嬉しいに決まってるじゃない、さてと走って来ようっと」

無「走る前から顔赤いぞ」

赤「あ、あはははは……行ってきます!」


『風呂上がり?』

無「ただいまー」

赤「おかえりー」

無「ただいま赤……って! お前その格好!」

赤「ん? ちゃんとバスタオル巻いてるじゃん」

無「バスタオルだけだろ!」

赤「なに? バスタオルはキライ?」

無「そうじゃなくて恥ずかしくないのかよ」

赤「んー」

無「……」

赤「この寮、男子は色無しかいないから」

無「……は?」

赤「むしろ好都合というか……なんというか」

無「なに小声でしゃべりながら赤くなってるんだよ」

赤「な、なんでもない! それじゃ!」

無「あ」

赤「せっかくビキニ着てからかおうと思ったのに、恥ずかしがらないんだもんな……色無のばか」


赤「ねぇねぇ、何する?走る?」

無「……んー、そうだなぁー」

赤「あ、サッカー!サッカーしよう!高校サッカー見てたら無性にやりたくなっちゃってさー」

無「……」

赤「あ……あれ?嫌だった?じゃあほら、野球!」

無「……ふぅ」

赤「……じゃあハンデとして、色無の得意な卓球で勝負だ!」

無「……赤」

赤「……な、なに?」

無「落ち着けよ。今日は……一緒に、ゆっくりしよう」

赤「……も、もう、僕のキャラに合わないじゃんかー!」

無「ほら、おいで。恥ずかしがることはないよ。だって俺ら……恋人同士、なんだろ?まぁ、ちょっとは、恥ずかしい、けど」

赤「……色無」

無「……赤。もう絶対に、離さないから」

赤「……うん」


『スポーツドリンク』

赤「(ごくごくごくごく)……ぷは!やっぱり運動の後のスポーツドリンクはおいしいなあ」

無「水分がないと運動できないもんな」

赤「まあね。でもボクはアレのほうがいいなあ」

無「アレ?」

赤「色無、頑張れって言って」

無「? 別にいいけどさ。『頑張れ!』」

赤「えへへ、よし、もう一頑張りしてきまーす!!」

無「え、おい、赤?……行っちゃった」


『冬の遊び』

赤「いーろーなーしー、えいっ!」

無「うわっ!」

赤「油断大敵だよ、色無」

無「油断つーか不意打ちだろ」

赤「ほら、次行くよ」

無「うわっ! っと」

赤「うまく避けたね」

無「そう簡単にくらうか、よっ!」

赤「わっ!」

無「油断大敵だぞ赤」

赤「……」

無「……赤?」

赤「……ふふふ」

無「……あ、赤?」

赤「やっぱり手加減なしで相手してくれるのは色無だけだもんね」

無「……遊びでも手加減するのは失礼だろ」

赤「女の子同士で雪合戦なんかしないし、男子に混じったら浮いちゃうし」

無「これ位ならいつでも相手するぞ」

赤「そう? ありがと。やっぱり色無じゃないとだめ、ねっ!」

無「……とか言いながら雪玉投げるのはありかよ」

赤「しっかり避けといて何言ってるのよ、少しくらい当たりなさい、よっ!」

青「お帰り……って2人とも汗だくじゃない!」

赤「いやー、色無相手だとついねー」

無「少しは容赦しろっての、こっちまで息が上がったぞ」

赤「私にあれだけ悲鳴をあげさせといてよく言うわよ」

空「お姉ちゃん?」

青「な、な、何てうらやましい事を」

空「?」


赤「ねぇねぇ、色無これに参加しよ」

無「なになに? 東京マラソン?」

赤「僕たちマラソンの部は参加できないからこっちになるんだけど」

無「こっちって……10km!? しかも一時間半で完走できる人なんて赤はともかく俺はむりだろ」

赤「大丈夫だよ。だって僕と毎朝ランニングしてるじゃん」

無「たしかにそうだけど、10kmはむりだって! ランニングも赤についていくのに精一杯だし」

赤「色無と一緒に参加できると思ったのに……」

無「そんな悲しそうな顔するなよ、こっちの東京マラソンEXPO2008なら付き合ってやるから」

赤「本当!?」

無「ああ」

 EXPO3日目

赤「色無ー、はやくはやく」

無「はいはい。なあ、あっちの人だかりは何だ?」

赤「んー? なにかやってるみたいだね、ちょっとパンフレットもらってくる」

無「んで、なにやってるんだって?」

赤「えーと、八王子囃子だって」

無「囃子? そんなのマラソンと何の関係があるんだ?」

赤「パンフレットには詳しい説明書いてあるんだけどよくわからないや。読む?」

無「読まない。どうせ俺にもわからないだろうし」

赤「あはは。ここにいても見えないし中に入ろうよ」

無「あいよ」

無「さすがマラソンのイベントだけあってスポーツ用品がたくさんあるな」

赤「うん、僕の使ってるメーカーもあったよ。あ! 色無あれ買いなよ」

無「Tシャツっておまえ、どこであんなの着るんだよ」

赤「寮の中」

無「あっさり言うな。じゃあ赤が買って着なよ」

赤「え……遠慮するよ」

無「遠慮するようなものを人に買わせようとするな。ん? おい赤これ見ろこれ」

赤「なあに? クリアファイルがどうしたの?」

無「こうゆうのってここで使うかもって買ったとしても実際にはあまり使わないよな」

赤「あはは、そうだね。ねぇ、せっかく来たんだから何か買っていこうよ」

無「そうだな……このタオルでどうだ? ランニングの時に使えばいいだろ」

赤「じゃ色無も同じの買っておそろいの使おう」

無「マジかよ!? うーん……別にいいか」

赤「お! 珍しいね」

無「タオルぐらいおそろいでもいいかなと思ってさ、買ってくるわ」

赤「うん、僕もうちょっと他の商品見てる」

赤「楽しかったぁ」

無「よかったな」

赤「これでマラソンに出られたらよかったんだけど今年はこれで満足」

無「あー……そのことなんだけど赤」

赤「なあに?」

無「来年は参加できるように頑張るよ」

赤「本当に!? 絶対だよ!!」

無「ああ、約束な」

赤「うん! よーし、さっそく寮に着いたら明日からの特訓メニュー作らなきゃ」

無「はは、お手柔らかにな」

赤「だめだめ! やるからには厳しくいくから、頑張ろうね色無」

無「お、おう(体が持ちますように)」


無「ゔー、鼻水が止まらん……」

赤「あはは。ボクは花粉症じゃないからなんともないや」

青「羨ましいわ、ホント……あぁもう、鼻の下が擦れて痛い……」

無「あー、それわかるわかる。いてーよなぁ……ってやべぇ、ティッシュの予備がなくなっちまった」

赤「あ。ティッシュなら鞄に——」

青「はい、私のあげる」

赤(っ!)

無「いいのか? お前も使うだろ?」

青「予備なら山ほどあるから平気よ。ほら、ポケットにまだこれだけあるし」

無「うわすっげえ。でもそれくらいあっても足りないんだよなー。とりあえず青、ありがとな」

青「い、いいのよ別に。ついでなんだから」

赤「……」

水「っくしゅん!」

赤「あ、水ちゃんも花粉症なんだ……」

水「は、はい……春はこれさえなければ大好きなんですけど……」

赤「……いいなぁ」

水「えっ!?」


『言い逃げ』

赤「ねー色無」

無「なんだ?」

赤「最近ボクね、色無のことを見かけると走ったときみたいに胸がばくばくする」

無「……はい?」

赤「走ってもいないのに変だよね。夜とかも突然そうなったりするし」

無「……そ、それは、なんだ、あの、その」

赤「なんなのかよくわかんないんだよね。走れば治るかな? ちょっと走ってくるね」

無「え、おい! ちょっと待てよ! ……え、え、えええええええ!?」


赤「おかえりー」

無「ただいま、ってわざわざ玄関で待ってたのかよ」

赤「いいじゃん、たまには言ってみたかったんだから」

無「まあ、確かにいつもは学校から寮まで一緒だからな」

赤「でしょー、じゃ、行ってくるね」

無「ちょっと待て」

赤「ん?」

無「その格好でどこに行くんだ?」

赤「どこって……河原を走ってこようかと」

無「……赤センセー」

赤「……なんだね、色無君」

無「露出が多いってレベルじゃないだろ」

赤「いや、だって、暑いし……ね?」

無「……ね? じゃないだろ、お前はもっと周りの目をだな」

赤「えー、誰が見るのよ」

無「……自覚ないって怖いよな」

赤「字画? 漢字の話? 宿題は帰ってきてからするわよ」

無「せめてもうちょっと何かを、ほら、コレでいいから羽織っていけ」

赤「え! いやいいよー」

無「ちゃんと洗ってあるから大丈夫だっての、ほら着てかないとここを通さんぞ」

赤「……洗ったって、においするし」

無「洗剤のにおいしかしないから、いいから着てけって」

赤「……鈍感」

青「本人のにおいって、自分ではわからないものよねー」

黄「え、あたし、カレーのにおい好きだよ?」


 たったったっ……

赤「やっぱり朝のランニングは気持ちいいねえ」

無「そうだなー。俺もなんだかんだで夏休み中、赤のランニングに付き合っちまったな」

赤「あはは、いい運動でしょ?」

無「まーな。俺もけっこう楽しくなってきたよ」

赤「でしょー! それに、一人で走るより誰かと走るほうが楽しいしね」

無「そうだな、こういう風に話とかもできるからな」

赤「うん。ありがとね、色無」

無「どういたしまして。俺だって楽しんでるんだから、むしろ礼をいうのは俺のほうなんだけどさ」

赤「あはは、色無は優しいね。ボク、キミのこと大好きだよ」

無「……は?」

赤「ほら、もうちょっとで着くよ。ペースあげよ?」

無(さっきのはランニングに付き合ってくれる友達としてってことか? それとも……)

赤(ぼ、ボクさっきなんてことを……い、色無のほうなんか向けないよう……)

朱「お前ら朝っぱらからそんな顔が真っ赤になるくらい走ってきたのか?」

無・赤「!!」


白「赤い羽根募金にご協力お願いしまーす」

青「あ、ありがとうございまーす」

 ブチッ

赤「痛っ!」

青「どうぞ赤い羽根です、ご協力ありがとうございました」

白「あ、ありがとうございます」

 ブチッ

赤「いっ!」

赤「ねぇおかしくない? 募金してくれた人に私の髪を1本プレゼントっておかしくない? おかしいよね? ね?」

 ブチンッ!

赤「いったぁぁい!」

黒「ありがとうございます……」

赤「ちょっと黒っち今5本は抜いたでしょ!」

黒「さぁ?」

赤「なんだその目はー!」

 赤い羽根募金? ご協力お願いします


赤「色無! 今日は体育の日だよ! ボクの言いたいこと、わかるよね!?」

無「わかっているからこそ、丁重に断らせてもらおう」

赤「えー? 今日という日は運動するためにあるんだよ? 動かないと怒られちゃうよ?」

無「誰にだよ……とにかく、今日はゴロ寝させてもらう。じゃあな」

赤「そっか……色無はボクと一緒にいるのがイヤなのか……」

無「別にそこまで言ってないが……」

赤「久しぶりに色無とたくさん遊べると思って楽しみにしてたのにな……」

無「うぅ」

赤(ちらっ)

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無(そんな涙目の上目使いで見ないで!)

赤「……色無が嫌がってるならボクも諦めるよ。じゃあね、色無……(ぐすっ)」

無「ふぅ……赤、つき合ってやるよ。どこに行こっか?」

赤「さっすが色無! きっとつき合ってくれると思ってたよ!」

無「あっ! てめえ、嘘泣きか!?」

赤「ふふ、涙は女の武器ってね」

無「ったく、こいつはいつのまにそんな技を」

赤「色無! 早く来ないとおいてっちゃうよ!(にぱっ♪)」

無「……別にこの笑顔が見れるならどうなってもいいやなんて、思ってないんだからね!」


『赤と野球』

「あぁ〜っ!? ど、同点になってる! お昼ご飯食べてる場合じゃなかったよ〜!」

 テレビをつけた瞬間に映し出された衝撃映像に、赤が奇声を上げる。ここのところ赤は野球の国際大会にご執心だ。

 今日は見やすい時間にテレビ放送があって、赤は遠足の日の小学生のようにうきうきしていた。

「うわあ、ホームランで同点かぁ。もうマーくんしっかりしなきゃ! ねえ色無くん」

「うん、そうだな。でもそれより気になるのは、なんでお前は許可なく俺の部屋に入り込んで、当然のように野球なんか見てるのか

ってことなんだけどな」

「だって私の部屋のテレビしょぼいんだもん。色無くんの部屋のテレビは大きいし液晶だし、スポーツ見るにはベストだからね。ほんとなんでこんないいテレビ持ってるのかな、ってこれ全部前にも言った気がするよ」

「テレビ買いに行ったら安くてでかい液晶があったからこれにしただけだよ。前にも言った気がするけど。そういうことじゃなくて、勝手に侵入して見てるのは人としてどうかと思うぞってことだよ」

 10時頃、俺がトイレに行って戻ってくると、赤は何食わぬ顔をしてテレビの前に鎮座していた。いや、鎮座していたというのは正確じゃないか。放送が始まったばかりだっていうのにすでにテンションマックスでキャッキャッと騒ぎたてていたんだから。そして今、黄緑のお昼ご飯よコールに渋々席を立って帰ってくると、我らがモノノフジャパンは見事に同点にされていたらしい。正直俺は興味がないから日本が勝っていたことも知らなかったけど。

「頭固いなあ色無くんは。男臭くてむさ苦しい部屋に女の子がいるっていうだけで嬉しいって思わなきゃ」

「むさ苦しい、だと? お前、爽やかさではクラス随一といわれるこの俺に向かって……」

「お!? ひゃっはーっやったやったー! 勝ち越し勝ち越し! さっすが小笠原! 頼りになるよやっぱり!」

「……まあいつものことなんだけどな、やっぱり傷つくなこんなにすがすがしく無視されると」

 自身がスポーツ万能でなんでもやりたがる赤は、それと同じぐらいスポーツを観戦するほうも好きらしく、度々俺の部屋にきてテレビで観戦している。だからそれ自体は珍しいことじゃないんだけど、勝手に侵入してきて勝手にテレビをつけていたことはこれが初めてだった。まあそれだけこの試合が楽しみだったんだろう。それは隣で見てるだけでも伝わってくる。もともとテンション高めな赤が、今日はいつにもまして盛り上がっているから。

「3点リードがあれば、もう大丈夫だよ。サムライジャパンは強いんだから!」

「ふーんそうなの。よかったよかった。で、どこと試合やってんだっけ? ブラジル?」

「か、韓国だよ! ブラジルなんて出てないし! 寝言は寝てから言いなよ!」

「お前手厳しいのな。そのセリフヤクザみたいだぞ……ってでも、青がよく言ってたっけそれ」

「うん、青のマネしてみた。後で青に言っとくよ、ヤクザみたいだって」

 悪戯っぽい笑顔を浮かべながら、赤は俺をビビらせるようなことを言う。青に言えば間違いなく平手が飛んでくるような発言も、赤に対してなら問題なくできる、そういう俺の性格を見越した上での、一種の誘導尋問。スポーツバカに見えて、実は頭も切れるのがこの赤という少女だ。

「勘弁してください。下手したら顔の形が変わってしまう」

「あははっ、そうかもね。安心して、手加減してあげてって言っとくよ」

「いや、勘弁してください。お願いですから言わないでください」

「うわ、手加減してあげてって言わなくていいんだ。さすが色無くん男、いや漢だねー」

 日本勝ち越しで気が抜けたのか、今赤は野球を見るのもそこそこに、俺いじりを楽しみだしたようだ。まったくモノノフジャパンめ、肝心なところで役に立たん。橙や黄のいじりもたいがい鬱陶しいけど、実は赤もタチが悪い。俺が橙や黄にするような強い態度に出ると、本気で傷ついたりしてしまうから、やんわりとかわし続けるしかないのだ。過去にそれで赤を逆にヘコませて、それを知った青にビンタを6往復ぐらい食らったことがある。でも実は最近俺、おもしろい返し技があることに気がついたんだよな。

「そ、そうだろ? 漢らしいだろ? じゃあせっかくだから漢らしい漢が持つ漢の証を見せてやろう!」

「え? 漢の証って……っ!! ダダダダメだよ! 何するつもり!?」

「何ってほら、漢の証っつったらひとつしかないだろ」

 究極の返し技、下ネタ。橙や黄にやったら「そんな勇気ないくせに」とか言われて結局こっちが困る展開になるこの方法も、赤にやれば効果は抜群だ。赤は下ネタに滅法弱い。未だにドラマのキスシーンやラブシーンを直視できないぐらいらしいし、お笑いを見ていてエロ短歌とかが始まると、どこか居づらそうにそわそわし出す。実を言うと俺も下ネタは苦手で、ほとんどヤケクソなんだけど、赤の俺いじりは2人きりの時にしか行われないことをいいことに、この禁じ手を考え付いたのだ。

「あ、あぁ〜! また日本点取ってる! これでもう間違いないね! やっと韓国に勝てるんだ」

「それ結構前に点入ってたぞ。でそれより俺の漢の証」

「も、もういいからそれ! ヤクザの件は青には言わないよ!」

 私はもともと野球に集中してたんだよみたいな空気を出そうとする赤に、俺は追い打ちをかける。よし、言質は取った。赤にはもう俺をいじる意思も残ってはいまい。俺はもう目的を達したわけだけど、せっかく放った究極の返し技だ、もう少し赤に付き合ってもらおう。何より、こんな風に頬を赤くして居心地悪そうにもじもじしている赤はこんな時でなければ見られない。普段は普段で、陸上部の少々露出多めのユニフォームをその小麦色の素肌に纏って、健康的な色気を見せつけてくれているんだけど。

「いやそんなことはどうでもよくてだな、赤に俺の漢の」

「しつこい! あんまりしつこいと、このことも青に言っちゃうぞ!」

 調子に乗り過ぎて、むしろ最悪の状況を生み出しそうになっていることに気づいてなかった。なんて浅はかな俺。こんなことが青に知られたらビンタを20往復もらうぐらいは覚悟しなきゃなるまい。それならヤクザ発言のほうが間違いなく被害が少なくてすむ。

「ごめん、調子に乗りすぎた。下ネタに対処できなくて困ってる赤ってかわいくてさ、ついつい」

「えぇっ!? あーもう、ほんと色無くんってずるいよね。それが計算じゃないってところが余計に」

「計算? なんのことだ?」

「ううん、なんでもないよ。だから余計にずるいけど、その分嬉しくなっちゃうんだよねー」

 赤が何を言ってるのか、俺にはさっぱりわからない。計算だとか、嬉しいとか。かわいいって発言のことか? かわいいもんはかわいいからな。まあ女の子だから、俺みたいなやつにでもかわいいって言われれば嬉しいのかもしれないけど。

 はは、そうなのかな、そんな自惚れるなよ俺。でも今の赤は、どこか幸せそうに笑っている。希望のお菓子を買ってもらった子どものように、ささやかな幸せを噛みしめるように。もはや野球を見ているでも、どこを見ているというわけでもなく、ただそのささやかな幸せを見つめるように。

「あ、試合終わってる。よかったな赤、宿敵ブラジルに勝ったみたいだぞ。強いなモノノフジャパンは」

「だから宿敵は韓国だよ。それに、モノノフじゃなくてサムライだよ。わざとやってる?」

 宿敵ブラジル発言はわざとだったが、モノノフジャパンは本気でそう思っていた。まあサムライもモノノフも俺の中では同じだ。俺の中では俺がルールだ。で、試合は終わったんだし、さっさと赤は引き揚げるかと思ったけど、なんで居座ってるんだこいつ。

「お前、帰らないのか? テレビが目的で不法侵入してきてるんだろ?」

「う、た、確かに野球見にきたんだけど……はあ、冷たいなあ色無くん。計算なく女の子を喜ばせて、自覚なく女の子を落ち込ませてさ。用がないと出てかなきゃダメなの?」

「いや、そういうわけじゃないけどさ。なんでいるのかと」

「うーんそうだな、それなら色無くんに野球を教えてあげよう! 男のくせに野球を全然知らないなんてイケてないぞ! じゃあまずはね……」

 そう言って、赤は俺に野球のルールを解説し始める。はっきり言って野球に興味はやっぱりないんだけど、熱っぽく語る赤がかわいくて、俺はそれなりに聞いてるふりをしてやる。頼んでもいないのに無理やりな理由をつけてまで彼女がここにいようとする理由がわからなかったけど、正直なところ喜んでる自分がいる。いつもは男女関係なく多くの友達に囲まれていて、寮のメンツの中では少し遠い存在のこの少女が、今は俺一人のために笑ってくれる。努めて意識しないようにしていたその事実が、今更ながら嬉しくて。

 本当は理由なんてなくたっていい。赤がいてくれれば俺だって嬉しい。なぜだか、そんな気持ちになった。


『スポーツの春?』

赤「いい季節になったねー」

無「多少暖かくなったから、いい季節といえばいい季節だな」

赤「冬は、あんまり動けなかったからねー」

無「あんまり? スキーだ、スケートだ、温水プールだと散々連れまわされた記憶しかないんだが」

赤「やっぱり、自分の足で走らないと動いたって言う気分にならないんだよ」

無「俺はお前に付き合って、全身筋肉痛になったくらいなんだが」

赤「えー、ボクはぜんぜん平気だったのに。色無は鍛え方がたりないね」

無「鍛え方っていうか、俺はこれでも運動は得意なほうだと思ってたんだがな」

赤「ボクから見たら、まぁまぁレベルだね」

無「まぁまぁ、ってお前が満足するってどういうレベルなんだよ」

赤「うーん、そうだなー。でもまあ、色無は充分満足させてくれてるよ?」

無「疑問形かよ」

赤「あはははは」

無「みてろよ、今に「参りました」って言わせてやるからな」

赤「……そういうことなら大丈夫だよ」

無「大丈夫?」

赤「なんでもなーい、ほらマラソンに付き合うって約束でしょ」」

無「確かに約束したけど、って赤。お前なんでそんなに顔赤いんだ?」

赤「あ、あかくなんてないよ! じゃ、いくよ! ついて来れなかったらジュースおごりね!」

無「あ、おい。待てよ赤!」

赤(もう参ってるのに……色無のバカ)


赤「♪ 〜♪」

無「やけにご機嫌じゃん?」

赤「お風呂上がりにストレッチしてたらすごくいい汗かいたから、シャワー浴びてくるよ」

無「お前、何のために風呂入ったの?」

赤「あッ……」

無「シャワー浴びた後は水分補給だけして大人しく寝ろよ」

赤「う、うん……」


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無「あれ、赤?」

赤「やほー。いやぁ遅かったね色無。相変わらず追いかけっこ?」

無「相変わらずワケも分からず鬼役だよ。なんでまたあそこまで躍起になって……」

赤「色無のその逃げ足の速さはもったいないなー。陸上部でその脚力を活かせばいいのに」

無「無理無理。あれは火事場の馬鹿力なだけで普段は鈍足だから」

赤「単純にやる気がないだけだろー」

無「そうともいう。それより寒くないのか、そんな格好で」

赤「マフラー着けてるから平気だよー」

無「いや、上じゃなくて下が……」

赤「気合で大丈夫っ!」

無「なにその根性論。見た目どう考えても寒いだろそれじゃ。もうちょっと暖かい格好しろよ」

赤「うるさいなぁ。なら——えいっ!」

無「なっ、ななななななにいきなり抱きついてきてるんだよ赤!?」

赤「……に、人間カイロー、とか?」

無「顔まで真っ赤にしてなに言ってるんだよ。ったく」

赤「そ、そういう色無だって真っ赤じゃないかぁ!」

無「う、うるさいわ! ああぁもう、さっさと帰るぞ畜生!」

赤「わああ、走らないで色無! 引きずられてる、引きずられてるってば!」


赤「あのさー」

無「んー?」

赤「色無って好きな娘とか気になる娘っていないの?」

無「好きな娘ねぇ……好きな娘好きな娘」

赤「考えてる振りして何も考えてないでしょ」

無(じー)

赤「あによ?」

無「んや、なんでもない。まだそういうのよくわかんねーし」

赤「ふーん、そっか」

無「なにニヤついてんだよ。そういう赤はどうなのさ」

赤「私も特には。恋人作ったら友達と遊ぶ時間とか減るんでしょ? だったら色無とこうしてる方が楽しいし」

無「だよなー」

橙「アレ、どう思うよ?」

黄「うらやましいです」

桃「妬ましいDeath」


赤「今日も寒いね」

無「あぁ、マフラーしてきて正解だったぜ」

赤「ボクも髪の毛伸ばそっかなぁ? 冬は寒くて」

無「ショートは首が寒そうだよな。マフラー貸そっか?」

赤「いや、持ってるよ」

無「でも何でマフラーしないの?」

赤「それが……その」

無「ん? 何かあったのか?」

赤「その……笑わない?」

無「あぁ」

赤「これ、今日間違って持ってきちゃって(やたらファンシーなマフラー)」

無(ニコニコニヤニヤ)

赤「やっぱり笑った……」

無「いや、その」

赤「……そうだよね、ボクにはこんな可愛いマフラーに合わないよね……」

無「そうじゃなくってさ、赤も可愛いトコロあるんだなって」

赤「お世辞はいらないよ、もうマフラーしない(スタスタ)」

無「ちょ、ちょっと待ってって!」

赤(クチッ)

無「ほら、くしゃみしてんじゃん、マフラーしろって」

赤「色無が笑うからしない」

無「そうかい、じゃ俺のマフラーでも巻いてろ(まきまき)」

赤「別にいいってば」

無「いいから、ほら、帰るぞ」

赤「うん(あ、でもマフラーから色無君の匂いが……)」

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『シャンプーの貸し借りは禁止です』

赤「色無ー、シャンプーなくなったー。貸せー」

無「何で俺のシャンプーなんだよ……ほら」

赤「色無のシャンプーが一番安くて気がひけないから。サンキュ」

無「だって万年金欠なんだもん……」

 次の日

橙「おはよ、赤」

赤「おはよー」

橙「ん? 何か赤から……ちょっと赤、ココに立って」

赤「ん? ほら」

橙「やっぱり! 赤から色無の匂いがする!!」

全『えええええ!!!!!!』

青「本当だ……色無の……匂いッ」

灰「私が一緒に寝てもそこまで匂いがつかなかったのに、こんなにハッキリと……!」

緑「昨日一晩という短期間のうちに……何が……」

黒「つまりは……色無の体液がついたとしか思えないわ」

白「うっ……抜け駆けだよう」

桃「色無が貧乳好きだったなんて……」

水「ひっくひっく……」

茶「そんな……いつの間に……」

黄「もう一生カレー食べさせてあげないんだからッ」

黄緑「are you ready?」

赤「えっえっ!? 何で皆そんな顔してんの〜?」

全『ボッコボコにしてやんんよ!!!!!!!』

赤「ちょっまっ! アッーー!!!!!」


桃「いーろなーしくぅん(はぁと)」ぽよん♪

無「うわっ! 桃っ、急に抱きついてくるなって!」



橙「どう色無? この服似合うかな?」

無「似合うと思うけど……スカート短すぎじゃね……」



赤「ねー猫くん、どう思う?」

猫「にゃー」

赤「確かにさー、うちの寮には可愛い女の子がいっぱいいるけどさ、アイツでれでれしすぎだよね」

猫「なー」

赤「あはは、そうだよね。……あたしなんかさ、胸はちっちゃいし、脚にも筋肉ついちゃってるし、全然女の子らしくないんだぁ」

無「そんなことないだろ」

赤「ううん。しかも性格もガサツでさ。青とか水ちゃんとか、優しくて女の子らしい子もいっぱいいるし……きっと色無はあたしのこと、女の子としてなんかみてなんだろうなぁ……」

無「赤は充分可愛いと思うけどなぁ」

赤「励ましてくれるねぇ。……今度、橙に女の子っぽい服選んでもらおうかなぁ」

無「おお、それは楽しみだな」

赤「楽しみにしてて……って、色無!?」

無「……よ!」

赤「よ! じゃない!! どこから聞いてた!?」

無「赤が座り込んで猫さんに挨拶をするあたり」

赤「こぉの、バカ色無ぃ〜!!!」

無「ちょ、蹴りは駄目だって蹴りは!」

赤「うっさい!!」



橙「あたしらにからかわれてるときより、あっちのほうがずっと色無が楽しそうにしてるって気づいてないんだろうなぁ」

桃「羨ましいのはこっちよね」


赤「ただいまー! あー疲れたぁ」

無「おかえり。赤、ずいぶん焼けたな」

赤「一日中外にいるからね。日焼け止めなんて全然意味ないよ」

無「もう真っ黒だなw」

赤「む。これでもボクの地肌は白いんだぞ」

無「そうだっけ?」

赤「ほら!」

 ぺろん

無「な!」

赤「どーだ! けっこう白いだろ?」

無「お前、そんなたくしあげなくても……」

赤「なーに赤くなってんのさ。あ、もしかしてドキドキしてるの?」

無「してない!」

赤「わーエロ無が怒った〜」

無「エロ無言うな!」







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 03:09:36