青メインSS

 普通じゃない日々とは突然やってくるのだ。それがまさか今日だとは・・・。

 そう、今日も楽しくVIPを満喫していた。その時あのスレに出会ったために・・・。



男「ん?色鉛筆を擬人化・・・か」

 見つけたのはVIPで落ちては咲き、そしてまた落ちては咲く、そんな弱々しいスレだった。



色ごとにいろんな設定もあるんだな。俺も何か書いてみるか。

そういや俺色鉛筆持ってたっけ?確か小学校の低学年の頃に持ってたような・・・。

 押入れのダンボールをあさってみる。

 (ゴソゴソ)

男「あった!これだ!」

 F1の写真が表面に印刷された色鉛筆の入れ物を見つけた。

男「懐かしいなぁ・・・・・・ん?なんだっけコレ?」

 ダンボールの中、色鉛筆の入れ物の下に丁寧にたたまれた紙が何枚も入っていた。

  見てみるとどれも少女の絵だ。走り書きのように描きなぐった絵もあれば

 ずいぶんと丁寧に描こうとしたような絵もある。

 そしてどの絵もおなじ少女みたいだ。綺麗な青い髪をした・・・。

男「そういえば昔、俺って絵描くの好きだったよなぁ。何で描かなくなったんだっけ・・・?」

 そんなことを考えながらも擬人化絵を描くことにした。

どの色にしようか・・・。

 色鉛筆の蓋を開けてみる。すぐ目にとまったのは他の色より短くて、歯形がついた青色だった。

そういや俺って噛み癖あったんだっけ。減りが多いってことは青色・・・好きだったのかなぁ?



 青の色鉛筆を手に取り、女の子を描き始めた。思った以上にスラスラと描けた。

 歳は自分とおなじくらい、長くて綺麗な髪で、弓道の袴を着た女の子。



 せっかく描いたのに、なぜかうpする気になれず、ボーっと物思いにふける。

 何か思い出せそうだった。気がつくと青の色鉛筆を昔のように口にくわえていた。

最後に鉛筆をくわえたのっていつだろう。

 そんなことを考えながら絵に目を落とした。



男「?!」

 確か横顔を描いたはずなのに、女の子がこちらを向いているように見えた。

 反射的に目をこすり、もう一度見る。

男「・・・消えてる・・・・・・。」

 机の上にはただ白い紙あった。どう目を凝らしても女の子の絵はない。

そういえば口にくわえていた色鉛筆もない。どういうことだ?

 混乱が頂点に達していた時、後ろからどこか懐かしい澄んだ声が聞こえた。



?「久しぶりだね。」

 慌てて振り返ると、女の子がそこに立っていた。

男「青い・・・髪・・・・・・。」

 同い年くらい、弓道の袴姿に、長くて青い髪。そう。自分の書いた絵にそっくりな女の子だった。

 違ったのは自分の絵の10割り増しでも足りないくらい綺麗で可愛かったことだろう。

?「約束・・・守ってもらうからね・・・。」



 あまりに突然で混乱MAX状態に加え、心拍数の増加。

男「あんた・・・誰・・・・・・(バタッ)」

 そう言った直後の薄れゆく意識の中、俺は眉間にしわを寄せた彼女の顔を見た気がした。


男「やっほー青」

青『何だアンタか。今話しかけないで』

男「素っ気ないな。で、何やってんの?」

青『話しかけるなって…まあいいわ。見ての通り裁縫よ』

男「……」

青『…なにその珍しいモノを見るような目は』

男「意外だな…と思って。青ってあんま裁縫とかするイメージないし」

青『あのねぇ…私女の子よ。裁縫くらいするわよ』

男「そういえばそうだったような気がしないでもない」

青『刺すわよ。針で。目を』

男「ゴメンナサイ、それだけはご勘弁をorz」

青『はぁ…わかったから黙ってて』

男「りょーかい」



青『…っ!痛ぁ…』

男「おい!どうした!?」

青『なんでもないわよ。ただ…ちょっと指刺しちゃっただけ』

男「ちょっといいか」ちうー

青『!?!?!?なななななななな、なにやってんのよ!!(////)』

男「消毒。舐めるのが一番良いってばっちゃが言ってた」

青『それは…そうだけど…(////)』

男「あとは絆創膏張って…はい処置終了」

青『………(////)』

男「ん、どした?顔真っ赤だぞ。もしかして照れてる?ww」

青『な、何言ってるのよ!照れる訳ないじゃない!アンタ見たいな奴なんて異性として見てないもん!(////)』

男「ヒドスwwwwww」

青『……でね…その…えっと…あの…なんていうか……指の怪我の処置してくれて…………ありがと…(////)』

男「(・∀・)」

青『に、ニヤニヤするなこのバカぁ!!(/////)』





青「———あれだけ勉強して、この点数?」

男「面目ない……」

青「……まぁでも、なんだかんだで頑張ったんだし。それだけは褒めてあげる」

男「あ、ありがとう。つーかゴメンな、俺の勉強の面倒なんか見させて」

青「い、いいわよ別に。たいしたことじゃないもの」

男「いやでも、本当にありがとう。なんかお礼するから、何でも言ってくれ」

青「な、何でもって……—————じゃあ、そうね。ちょっと自販機で缶コーヒー買ってきてよ」

男「はい?そ、そんなのでいいのか?」

青「いいから!ほら、早く行ってきて」

男「わ、わかった。じゃあ」



青「……本当に、何でも言ったら………色々困るのよ。私も、アンタも、ね……」





(だから今は)





青「お疲れさま。んくっ—————ふぅ、やっぱり市販は甘いなぁ。あ、アンタも飲む?」

男「え、いいのか?それじゃ少しだけ—————……おい、コレのどこが甘い」

青「甘いじゃない、十分。……、アンタって本当にバカね」

男「え?」

青「なんでもない。ホラ、早く帰るわよ!」





(この苦くて甘ったるい報酬で、いいんだよね……)

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男「……うーん」

青「ん?珍しく真剣な顔で悩んでるわね。何かあったなら相談に乗るわよ?」

男「あ、青か……いやまぁ、確かに悩んでるんだけど」

青「? 歯切れが悪いわね。いったいどういう……」

男「悪い!これはお前には話せないんだ」

青「——え?」

橙「ごめーん、待たせた男!さて、あまり時間もないし早く行こう!」

男「あ、うん……じゃな、青———っておい、こら、引っ張るな!」

青「え、え、え……………どういう、コト、なの……?ねぇ……」

ーーーーー

橙「——しかし、青ちゃんに誕生日プレゼントとは粋なことしますね旦那。いひひ」

男「いや、だってなぁ。アイツにはいっぱい借りがあるし」

橙「借りねぇ……じゃあ、今回アンタは私にも借りを作ったってことでいいのかな?」

男「……まぁそうなるな。俺じゃアイツの好みは分からないから……」

橙「………アンタからなら、きっと、青ちゃんは何でも喜ぶだろうけどね」

男「? 何か言った?」

橙「いいえ何も。じゃあ、私の誕生日には期待しておくのでよろしくねー」

男「うぐ……まぁ、しょうがない」

ーーーー
青『——黄緑ぃ…、わたし、なにか、したのかなぁ……』
黄緑「そんなに落ち込まないで。大丈夫だから。彼はあなたを嫌ったりなんてしないわよ」
  (青ちゃん……まさか、酔ってないわよね?こんな涙声、初めて聞いたわ……)




赤「———ねぇ、今日って確か青ちゃんの誕生日だったよね?」

黄「うん!だからちゃんとプレゼントも、ほら」

緑「でも……その本人が居なきゃ、どうしようもないわ」

水「大丈夫かな……青ちゃん」

白「青ちゃんが欠席だなんて、心配ですね……」

黒「……私は白のほうが心配だけどな」



橙「青ちゃん……ちょっと当てつけただけなのになぁ……」

黄緑「………」







「———う……ん、……アタマ、いったぁい……」



ガンガンするアタマを押さえて、枕元に置きっ放しだった携帯を見る。

PM5:37。窓の外は橙色で、私が今日という日を棒に振ったことを思い知らせる。

「とりあえず、起きよう……」

ベッドから身体を起こして立ち上がると、ぐらついた。

それでも歩くと、昨日空にしたチューハイの缶を危うく踏みそうになった。

「いけない、隠さないと……」

ベッドの下に空き缶を転がして、とりあえず喉の渇きを潤すべく、リビングへ向かうことにした。

母「大丈夫?」

青「あ、うん……まだアタマいたいけど、だいじょぶだから……」

母「そう、よかった。 あのね青、あなたが寝てる間にお客さんが来たわよ」

青「お客さん……?だれ?」

母「男の子だったわ。クラスメイトだって言ってたけど、心当たりある?」

青「———!!うそ……!ねぇ、それっていつ!?」

母「その様子だと、知り合いみたいね。

  つい15分くらい前かしら。『もしよければ、彼女に渡してください』って言って、すぐに帰っちゃったの」

青「え……」

母「ほら、その机の上にあるでしょ?たぶん、あなたへの誕生日プレゼントだと思うんだけど」

青「あ……っ!」



“ピンポーン”



母「あら、またお客さんね。ちょっと行ってくるわ」

青「………」

ーーーー

机に置かれた水色の袋を手にとって、丁寧に開ける。

「……………」

出てきたのは、銀のアクセ。

これからの時期にはぴったりの、わりとシンプルなネックレス。

「これを……アイツが、私に………?」



「そういうこと」

「!!?」

橙「や。調子はどう?」

黄緑「こんにちは、青ちゃん。大丈夫?」

青「お、オレンジ!?黄緑!?なな、なんでいきなり……!」

橙「友達のお見舞いに来てなにが悪いのよー。ねぇ黄緑?」

黄緑「いきなりごめんね、青ちゃん。具合はどう?」

青「あ……うん、とりあえず大丈夫だけど…」

橙「それはなにより。で、その手に持ってるのは男からのバースデープレゼントなワケですが」

青「ッ!?」

橙「バラしちゃうとね、アイツは青へのプレゼントで悩んでたの。どういうモノなら気に入ってくれるかって」~

青「え……?」
橙「それで私にアドバイスを求めたの。それが昨日の帰り、あなたが“寂しそうに”見つめていた光景の実情」

青「………」

橙「———ついでにバラすとね。結局、アイツは私の意見なんて聞かなかったのよ」

青「え?」

橙「全部、自分だけで決めたの。だからそのプレゼントは、純粋にアイツ『だけ』からの贈り物」

青「———」

黄緑「つまり、昨日の青ちゃんの悩みはぜんぶ勘違いだったのよ。すれ違いっていうのかな」

橙「そういうこと。昨日は飲んだくれて泣いてたらしいけど、これですっきりしたかな?」

青「ッ!? な、なんでそんなことを知って———」

黄緑「……やっぱり、お酒飲んでたんだね。あの青ちゃんが泣くなんて、わたし信じられなかったもの」

橙「ああー。その電話、聞きたかったなー。あとで再現してよ、黄緑」

青「……あ、あ………アンタらーッ!!」







その日の夜。



男「——ん?電話……あれ、青から?———もしもし、青?」

青『も、もしもし?』

男「どうしたんだ、いきなり。てか、体調は大丈夫なのか?」

青『うん、もう大丈夫……そんなことより、あの、さ』

男「ん?」

青『……プレゼント、ありがと』

男「———あ。あ、うん」

青『……………嬉しかった』

男「そ、そか。大したもんじゃないけど、うん」(なんか、いつもとぜんっぜん違う……?)

青『……だいじに、するから』

男「……そう言ってもらえると、俺も嬉しい」

青『ありがと………、っ、ひくっ……』

男「え?あ、青?」

青『昨日、アンタに、嫌われたって、思ってたから…………でも、そうじゃ、なくって……』

男「お、おい。まさか、泣いて……」

青『ホントに、嬉しかった。嬉しかった、ん、だよ……?』

男「青……」

青『——、————、——』

男「っ!?」



『ブツッ。 ツー、ツー、ツー』



男「……………?」

「……充電、切れ?」

ぴーぴーぴー、と、えさを求めて鳴く電話をぼーぜんと見つめる。

「………はは……こんな、オチかぁ」

ぼすん、と、仰向けでベッドに沈む。右手の電話は枕元に捨てる。

「やっぱり私は、ずっとこんな調子なのかなぁ……」

左手に握りしめていた銀色を眺めて、呟いた。



目を閉じる。

まぶたの裏には、アイツの顔が浮かんでしまって。

なんだか、無性に、泣きたくなった。



「………ッ……!」



布団を頭から被って、私はむりやり眠ることにした。



明日になれば、またいつもの私。

強気な姉御の私が、朝になればやってくるから。



だから、今から眠るまでの夜の間。

銀色を握りしめたまま、アイツの顔を思い浮かべていることにした。



ゆめのなかでもいい。

アイツに、いえなかったひとことを、つたえたかったから—————。



青「——ッ、たく、フツー逆じゃないの!?」

男「Zzz……」

青「なんでッ、わたしが、コイツをおぶって帰らなきゃならないのよッ!?」

黒「それはもう、家が近いからよね」

青「……ていうか、なんでコイツはチューハイなんかでツブれてるのよッ!?しかも一本よ!?」

黒「それはもう、相当な下戸ってことよね。 あ、じゃあ私はここで。また明日」

青「くッ……やっぱりドライよね、黒って……——あぁ、もうッ!!」

男「ぐー………」

青「……ねぇ、いつまで寝てるつもりなの?この馬鹿……」

男「ぅー……」

青「逆でしょ?私がツブれてるところを、アンタがおぶって帰るのが普通でしょ?」

男「……」

青「それとも、アンタにそんなのを期待した私が馬鹿だったのかな……?」

男「………ぅ。あ……ん、ぐぅ……」

青「……そうね、私が馬鹿だったわ。こんなかわいい寝顔で眠るヤツが、狼になんてなれるワケないわよね……」

男「………」

青「——さて、あと5分くらいで色無の家に着けるかな。 よッ、と……」

男(……俺は、どうして、青におぶられているんだろう……?でも、眠いから、そのままでいいや……)


黄緑の作る朝ごはんはいつも同じ。

白いお米に、お味噌汁。

たまに、卵焼きや、焼き魚や、サラダがあるけど、

でも基本はやっぱり、白いご飯にお味噌汁。

青(特別な日ぐらい豪勢にしてくれたっていいのにな・・・)

例えば誕生日、ケーキを焼く一方で、お味噌汁を作っている。

例えばクリスマス、晩御飯はあんなに豪華なのに、朝はいつもと同じ。



何度も聞いた、どうして?と。

彼女曰く、

「これが私の唯一のこだわりですから・・・」



今日はとても特別な日。

でも、今日もいつもと変わらず白いご飯とお味噌汁。

こんな日ぐらい豪勢にしてもいいのに。

今日ほどのとっておきはないって、わかってるのかな。



私がとうとうこの寮をでて、北海道の実家に帰るっていうのに、

せめて派手にいこうって気にはならなかったのか!

寮のテーブルには、少し手を伸ばせば箸立てがある。

黄緑の箸に、青の箸。

微妙に違う感触。

この2年間ずっと使い続けたものだ。

・・・・あれ・・前がみえないや・・・・

まあ、こんなもの目つぶってても選べるわ!

・・・ぽた・・・・



どうせ食器の位置もいつもとおなじでしょ。

茶わんがあって、その斜め前にお味噌汁のおわん。

こんなもの、目ぇつぶってても食べれるわ!

・・・ぽた・・・ぽた・・・



あーもう、せっかくこの寮で最後の食事なんだから、

もう少しすごいのを作っといてよね!

今度は!・・・次は・・・いつかは・・・

・・ぽた・・ぽたぽたぽた・・・



目がにじんで、味などほとんどわからなかった。

でも、ただひたすらあたたかたった。

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橙「アンタが色無を意識するようになったきっかけは?」

青「なっ、何よいきなり!!」

橙「最近、暇さえあれば色無を見てるから」

青「みっ、見てないわよ!!」

橙「あっれ〜顔が真っ赤だよ」

青「……」

橙「教えてくれないと青がこないだ寝てる色無にしようとしてた事言っちゃうよ〜」

青「わっ、わかった言うわよ!!」

——あれは私が転校してきた初日のこと——

青「お母さんなんで起こしてくれないの!! 転校初日から遅刻なんて!! 不覚だわ!!」

無「あ〜今日も遅刻だな〜かったり……」

青「遅刻だー!!」

無「あ〜サボろうかなぁ……」

青「遅刻ぅー!!」

 ドンッ!!!!

青「きゃっ!!」

無「うぼぁぁぁぁぁ!!」

青「ちょっとアンタどこ見て……って……しっ、死んでる!?」

無「うぅ……」

青「生きてた!! あれこの制服……私と一緒の学校だ……学校まであと少しだし、とりあえず保健室まで……」

無(あれ? 俺なんで女の子におぶられてるんだ? ダメだ……頭がガンガンする……意識が……)

無「う……」

白「目が覚めた?」

無「白か……俺はなんで保健室にいるんだ?」

白「さっき私が休んでたら、初めて見る子が色無くんのことを背負ってきたんだけど……覚えてない?」

無「そういえば……覚えているような……痛っ……」

白「大丈夫? 教室行ける?」

無「あぁ。もう大丈夫だし教室いこうか」

——教室——

黄「色無遅いなー。せっかく転校生が来たっていうのに」

青「色無くんってどんな人なの?」

黄「バカで面白くてバカなヤツだよ〜」

橙「バカがバカって言わないの」

黄「(゚д゚)」

橙「コッチ見るなw」

無「オハヨー」

黄「おっ、噂をすればw青ちゃんアイツが色無だよw」

青「どうも初めまし…………あっ!! 朝の!!」

無「朝の? ………あぁ!! ひょっとして俺を運んでくれたのアナタですか?」

青「そっ!! そうだけど………」

無「いやー助かったよw青さんっていうの? 俺は色無よろしく!」

青「よっ……よろしく」

無「それにしても青さんって優しいんだね」

青「えっ?」

無「見ず知らずの他人を助けるなんてさ」

青「そっ、そんなことないわよ(////)」

青「って訳なの(////)」

橙「………(ベタだなぁ……っていうかあん時の怪我…原因はアンタか……)」

深緑「あれ〜〜こんな所に抱き枕が〜〜」

無「ふっ、深緑先輩!!俺です色無です!!てか胸が………」

青「!!」

深緑「ふふっw」

青「何イチャついてんのぉ—!!!」

無「うぼぁぁぁぁぁ!!!!オマエはなんですぐ殴るんだぁぁぁ!!」

青「さぁ?何ででしょうね?」

無「オマエも少しは白とか黄緑さんを見習って優しくなりやがれぇぇぇ!!!」

青「イ ヤ よ♪」

黄緑「青春ねぇw」

橙「やれやれw」

深緑「……(青さんはライバル〜?)」


「—?!」

ゴロゴロ…

「いっ…痛ーい!」

私は現状を理解するために辺りを見回した。

「ハァ。最悪」

どうやら、夢を見てベッドから転がり落ちたようだ。

「また…。よりによってあいつの夢なんて…」

色無。夢に出てきたアイツ。仲はあまり良くないが、ふと気が付くといつも目で追っているアイツ。

「はぁ〜あ。どうしたんだろあたし」

そう言って、ベッドの上に倒れこむ。色無の夢を見るのは、何も今日が初めての事じゃない。

こんな夢を見るから、学校でもアイツを避けてしまう。『夢なんだ』って、頭では何度も言い聞かせてるけど、体は言うことを聞かない。

この夢を見出してから一週間。アイツとはろくに話していない…。

話し掛けられても、何も答えられずに結局無視する。そうやって逃げる度に胸が締め付けられそうになった。

「好き…なのかな…」

なんだか今日も眠れそうにない。

苦笑いしつつ、青はそう思った。


「あ……」

 思わず声が漏れる。下校途中の青の足は何かに捕らわれたかのように歩みを止めた。その視線の先には。

「あ、色無君と緑ちゃんだね」

「うひゃあああぁぁあ!! も、桃、いつからそこに! 急に声かけないでよ!」

「え〜? 青ちゃんが『一緒に帰ろう』って学校で誘ってきたんじゃない。もうかれこれ20分は歩いてるけど……」

 そのとき前方から小さな、けれど本当に楽しそうな笑い声が響いてきて、2人は同時に目をそちらに向けた。学校ではほとんど表情を変えない緑の可愛らしい笑顔がそこにはあった。

「緑ちゃん、可愛くなったよね。最初の頃は色無君にも冷たい態度だったけど、結局緑ちゃんの方から告白したんだって」

「そ、そうなんだ。まあどーでもいいけど」

 青は180度向きを変え、すたすたと足早にその場を立ち去った。そのあとを慌てて桃が追いすがる。

「ちょっとどこ行くの? バス停はあっちだよ?」

「ちょっと寄り道しよう! 全く、学校帰りにデレデレしちゃって見苦しい! 近所に住んでて直前までそれを見せつけられる身にもなって欲しいわよね!」

 大股で肩を怒らせて歩く青だったが、徐々に歩幅が狭くなっていき、やがてトボトボといった感じになってしまう。

「……ねえ青ちゃん。もしかして、青ちゃんも色無君のことが好きだったんじゃ……」

「何いってんのよ! そんなわけないでしょ! あんながさつで不潔でスケベで優柔不断で八方美人で頭悪くてスポーツも苦手でそのくせ嫌みったらしい奴を好きになるわけないでしょ!」

「……うん、そうだね」

「あいつのことは子供の頃から知ってるのよ! 小学校6年の時までおねしょしてたし、給食のにんじんはいっつも残して先生に怒られてたし」

「……うん」

「捨て犬拾って親に怒られて橋の下で一晩過ごしたこともあったし、駅前で不良に絡まれたときに助けてくれたし、でもそのあと逃げ遅れてお巡りさんに1人で怒られてたし、それから……それから……」

 青の声は、もう涙でかすれて聞き取れなくなっていた。彼女の頭をそっと桃が抱きしめる。青の嗚咽が小さくなるまで、どれくらいそうしていただろうか。

「うん。しょーがないよね。色無君は1人しかいないから。素直になるのが少しだけ早かった緑ちゃんの勝ちかな」

 とたんに青はばっと身を引きはがした。

「だ、だからあいつのことなんか何とも思ってないって言ってるでしょ! さあ、今日はあの新しい喫茶店の甘味メニュー全制覇するよ!」

「えー、太るよ〜」

「ごちゃごちゃ言わない! 置いてくよ!」

 青は駆けだした。後ろで桃の呼ぶ声がするが、構わず全力疾走する。見上げるとそこには、ここ数日の曇天が嘘のような晴天の空があった。先日梅雨が明け、これからかーっと暑くなるのだろう。

「止まない雨はない、ってね。あはははは! あ〜あ、いい男見つけるぞー!」

 青は十数年に渡る気持ちを笑い飛ばした。


男「——おふぁよーっす……あれ?青、オマエ一人しかいねーの?」

青「……」

男「ぅ……あ、青さん?朝からどす黒いオーラを出してる理由、聞いていい?」

青「——アンタのせいに決まってんでしょうがッ!!こんのバカッ!!大バカッ!!!」

男「え、ええッ!?お、俺がなにしたっていうんだ!?」

青「アンタが一晩中誰かとしゃべってたせいで、こっちは寝れなかったのよ!!部屋、隣でしょ!?だから丸聞こえなの!!」

男「げ……そ、ソレ、マジっすか?」

青「あったりまえでしょ!!もう、うるさいったらありゃしないんだから!」

男「すす、すいませんでしたッだからちょっと殺気を抑えてッ!」

青「今回は見逃してあげるけど、次やったら……」

男「わわ、わかったわかった!!肝に銘じておく!二度とやらんと約束する!」

青「……よし。それじゃ許してあげようかな。 さてと、朝ごはん作ってあるからちゃんと食べなさいよ」

男「あ、悪い。ありがとう……ってか、青の手料理って久々だな」

青「今回みたいに貧乏クジを引かない限りは作らないもの。だから久しぶりだけど、味は落ちてないハズ」

男「うーん。貧乏クジとか言うわりに頑張ったっぽいじゃん、青。いつもの食卓よりちょっと色がついてるぞ?」

青「そ、それは……久しぶりだから、ついつい張り切っちゃっただけよ。我ながら凡ミスよね」

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男「(モグモグ、ゴクン)凡ミスねぇ。味は完璧だから文句ないけどさ。うん、美味い。さすがは青」

青「……ふん。感謝して食べなさいよ。 私はちょっと部屋に戻るわ。後片付けは適当にやっておいてくれる?」

男「はいよー、りょーかい」

青「ふー……」(……ダメね。昨日のコト、どうしても考えちゃう……いったい色無は、誰と、何を……)

黒「何を廊下で立ち止まってるの、青。考え事?」

青「あ、黒……。まぁ、そんなところかもね」

黒「……ふーん。 ちなみに言っておくと、昨日の色無の部屋からは喘ぎ声とかベッドの軋む音とか、そういうのは一切なかったわよ」

青「!!!? ちょ、ちょっと黒!?なんでそんなコトがわかるの!?」

黒「まぁ……ほら。ベッドとベッドを移動する不思議な生き物がいるでしょ?あの子に、ちょっとね」

青「それってもしかして、妹?……っていうか、黒ッ!!なんでそんなコトをわざわざ言うワケ!?」

黒「(クスクス)別に深い意味はないわよ。だからそんなに顔を赤くすることもないんじゃない?ナニを想像してたのか知らないけど……ねぇ?」(ニヤニヤ)

青「ッ!!!!!」(ボンッ)


青「色無。これ、お弁当」

男「いつも悪いな青」

クラスメート「ひゅーひゅーっ。お熱いねぇ御二人さんwwwwww」

青「ちっ違うわよ!! こいつがちゃんとした物食べてないから心配してあげてるだけで……」

男「そうだよ! 何勘違いしてんだよ! こいつとはただの幼馴染みだって!」

青「あ……」

男「あっち行こうぜ青!」(グイッ

青「うっうん」

場所:屋上

男「ここなら人もあんまり来ないだろ」

青「うん……」

男「なぁ、どうしたんだ? さっきから元気がないけど……」

青「なっなんでもないわよ!」

青「はぁ〜」

男「やっぱり変だ。どした? なんかあったら言ってみ」

青「うっ……」

男「ほれほれ、どうした? 言わぬのか?」

青「なによ! 嫌味ったらしい! 言おうと思ったけどもう言わない!!」

男「さっきの事か?」

青「う……」

男「あんなの本心じゃないよ」

青「えっ?」

男「あれは青が困ってるって思ったから……」

青「そう……なの……?」

男「うん」

青「……私はあなたを……特別な人として見てもいいのかな?」

男「うん」

青「そっか……」

男「それにしても」

青「?」

男「本当に美味いよなあ。青の作る弁当は」

青「そう?」

男「うん」

青「えへへ(頑張ったかいがあったなぁ////)」


青「……お、おかえりなさいませ……ご、ご主人さま」

男「ただい——あ、青?いや、えと、なに、してんの?」

青「ッ……ぅぅ」

黒「はいはい、慣れないことしてトマトちゃんになってる青に代わって私が説明してあげる」

青「ちょッ、黒ッ!?」

黒「そのいち。青は色無くんが大好きです。

  ~そのに。灰色が昨日、色無の部屋からメイド特集の雑誌を発見。

  ~そのさん。橙が友達とコスプレした時のメイド服をまだ持っていた。 以上」

青「……」(パクパク

男「……」(パクパク

黒「弁明があればどうぞ?」

青「……ぅ、ぅぅ」

男「ある。 その雑誌は確かにメイド喫茶の特集をやってたけど、メインはストリート系の服だっただろ」

黒「ほうほう」

男「だから、そういうこと。俺は別に……」

黒「じゃあ聞こうか。 今、こうして貴方の為にわざわざメイドになりきってる青を見て、なんとも思わない?」

青「ちょ、ちょっと黒ってば……!」

男「ぅ……そ、それは……」

黒「はい。貴方の負けね、ご主人様。 さて、邪魔者は部屋に引きこもってようかな。たまには灰色と遊んであげましょう」

男「あ、おいこらちょッ——……」

青「……」(ぁぅぅ……な、なんにも言葉が、出てこない……は、恥ずかしくて死にそうッ……!)

男「……あ、青」

青「ひゃぃッ!? ……ぁ。 な、なによッ……こんなことするの、今日だけだからね?」

男「あ、うん。いやその、えっと、そうじゃなくて」

青「……な、なによ?」

男「あー、えっとだな、その……似合ってる。正直言って、ホント、可愛い……、うん」

青「ッ———!!」(ボンッ!!


青「ッとに、もう!お金を稼ぐのは立派なことだけど、アンタはまだ学生でしょ!?その本分を疎かにしてどうするのよ!?」

男「ぅぅ……」

青「だいたいアンタは——」

黒「——やかましいぞ、教育ママ。いや、教育彼女っていうべきか?……ふむ、なにやら卑猥な響きに聞こえるのは気のせいだろうか」

青「黒!?あ、貴女、いきなり出てきて何バカなコト言ってるのよ!」

黒「気にするな。 それよりな、とりあえずやかましいんだ。叱るのならもうちょっと静かにやってくれ。こっちもこの暑さで気分がよくないんだ」

青「ぅ……」(黒が男口調なのはそのせいだったのね……)

黒「それにな、何も怒鳴りつけることだけが方法ではないだろう。伝えたいなら、もっと方法があるんじゃないのか?」

青「な、なによ。どういうコト?」

黒「オマエは『勉強を頑張ってほしい』ということを色無に伝えたいんだろう?バイトだけに専念せず、学業も忘れずにと」

青「ぅ……まぁ、そうなるけど」

黒「いいか、少し考えろ。ただ言って聞かせる為に怒鳴ることは『叱る』ことではない。それは『怒っている』だけだ」

青「——」

黒「まぁ、オマエなら分かるだろうけどな……それにしても、オマエは果報者だな、色無。こうして道を見直す機会を与えてくれる人が、きちんと傍にいるのだから」

男「……なんか、よくわかんないけど。とりあえず、ありがとう。ふたりとも」

青「わ、私はなにも言ってないッ!」

黒「礼か。ありがたく受け取っておくよ。では、少し寝なおすかな……おやすみ、なさい」(バタン

青「……」

男「ふぅ。なんつーか、さすが黒って感じだったな」

青「……あのね、色無」

男「ん?」

青「そ、その……————わっ、私は、……すごく、心配なの」

男「あ、青?」

青「だって……だって!お金なんて私でもどうにかできるけど、知識は自分が頑張らないと、どうにもならないじゃない!」

男「——」

青「勉強、できなきゃ……今の世の中は、ダメなんだよ……?行くところ、なくなっちゃう……同じ、学校に、通えなく……ッ!」

男「————ごめん。 ……本気で、心配、してくれてたんだな」

青「ぅ、ぅぅ……ヒック、そう、よッ……わる、い……?」

男「そんなワケあるか。 ありがとな、青。ごめんな、心配かけて」(ナデナデ

青「……ぅ、ぅわぁぁんッ……!」


『スウィンギングブルー』

「疲れた」

 呟いて、右手の荷物を見た。少し大きめのケースに入っているもののことを考えると、自然に溜息が溢れてくる。県大会用が近いからという理由で持ち帰ってきたものの、寮がもう目と鼻の先だというのに練習する気が全く起きてこない。原因は分かっている、最近はスランプというものに陥っていて、どうにも楽しくないからだ。そうなれば自然と技術も伸び悩んでくるし、それがまたつまらなくなり悪循環を引き起こす。

「辞めようかな」

 碌でもない考えが思い浮かんだけれど、すぐにそれを否定した。そんなことをすれば、今頑張っている部員の皆に迷惑がかかるし、何よりも申し訳がたたない。それは自分だけでなく、他人の努力をも踏みにじることになる。

「あー、いかんいかん」

 後ろ向きになりかけた思考を振り払うかのように軽く頭を振ると、その動きに着いてくるようにポニーにしている髪が揺れた。それが首筋に当たることすらうっとおしいと思えてきて、自分のことながら末期だなと思ってしまう。

 本当に、どうしたものか。

 始めたばかりの頃は吹くこと自体が楽しかったし、以前までは上達していく度に達成感というものを味わっていた気がする。最近つまらないのは、そうしたものがないからなのかもしれない。

 どうしよう。

 ただ道に立っているのも迷惑なので、再び寮に足を進め始めた。

「あ、青」

「何よ」

 声のした方向を振り向けば、色無が自転車で後ろから寄ってきた。あたしも同じような状態なんだろうから人のことをあまり言えないけれど、汗だくでとても辛そうだった。

「どうした? 何か浮かない顔をして、何かあったか?」

「このクソ熱い中、暑苦しいものを見たら誰でもこうなるわよ」

「悪うござんしたね」

 本当はこんなことを言いたくないのに、見栄っ張りな部分や強がりな部分がついキツい態度を取らせてしまう。あたしは自分のこんな部分が少しだけ嫌い。

「本当に大丈夫か?」

「大丈夫、さっきも言ったけど熱いだけよ」

 数秒。

 色無は少し考えるようにしていたが、顔を上げるとあたしの荷物を掴み、

「涼みに行くぞ、後ろに乗れ」

「は? 嫌よ」

 気遣ってくれたのは分かるけれど、意味が分からない。

 それに、

「今は、汗臭いし」

 最後の方は尻すぼみになってしまったけれども多分聞かれてしまっただろう、自分でも顔が赤くなっているのが分かる。自爆したようなものとはいえ、恥ずかしいことには変わりない。今日は本当に厄日だ。

 しかし色無は気にした様子もなく、真面目な顔で、

「気にするな、俺は臭いフェチだ。それだけじゃなくポニーも眼鏡も好きだし、おまけに二人乗りだと背中に乳が当たって、最強コンボの完成ですよ!?」

「何言ってんのよ馬鹿ァ」

 気が付いたら殴り倒してしまっていたけれど、これはきっと許容範囲の中だろう。

「まぁそれは冗談だが」

 色無は脇腹を押さえながら立ち上がると、

「あまりにも背っ羽詰まってるみたいだからな、少しは休め」

 最初からそう言えば良いのに、何故いつもこいつはふざけるんだろう。

 あたしは軽く溜息を吐いて荷台に腰掛けた。

「ん? 二人乗りは注意しないんだな?」

「そんな元気すら無いだけよ」

 色無の小さな笑い声と共にペダルが回り始めた。

 十数分。

 連れてこられたのは、寮からさほど離れていない浜だった。小さい上に回りに何もないのでわざわざ来ている人は少ない。小さな男の子と女の子が一組遊んでいるだけだった。しかしそんな雰囲気が心地良く、少し心が楽になった気がした。

「どうだ?」

「うん、良い感じ」

 海の青と、磯の香りを乗せて吹く風邪が気持ち良い。

 暫くそれを堪能していると、子供たちが寄ってきた。

「おねーちゃん、これなーに?」

 女の子がこれ、と指差したのはあたしが持ってきた荷物のことだろう。中身が予想できない大きめの箱は子供心を擽ったらしく、二人とも好奇心に満ちた目で見ている。あたしも小さい頃、始めてこの箱を見たときに同じ感想を持ったことを思い出し、思わず笑みが溢れてきた。

「何だと思う?」

「見せてやれよ、ついでに聞かせてやれ」

 あたしの心を後押しするように色無の声が告げた。それに応えるように箱の、正確にはケースの中からアルトサックスを取り出した。管楽器、特に金管楽器は潮風に弱いけれどそんなもの後で手入れをすれば良いと心が言っている。今は、この子供たちの笑顔の方が大切に思えた。

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 丁寧にゆっくりと、サックスを吹き始めた。演奏するナンバーは、誰でも知っているような簡単なもの。それだけが理由ではないけれど、とても調子が良い。さっきまでの不調が嘘のように滑らかに音が流れ出てくる。

「すっげー」

「すごーい」

 少しして、あたしの演奏に合わせるように色無が歌い始めた。子供たちも自分が知っている曲だと分かったのか、それに続くように口ずさみ始めた。

 楽しい。

 今はその一言だけが心の中にある。

 久し振りに、心の底から演奏している気がする。

 数分。

 一曲目を吹き終えると笑顔を浮かべ、次の曲のリクエストをした。


『リトル バイ リトル』

アイツはいつも側にいた

物心ついた頃から側にいて高校生になった今もアイツは私の側にいる

いつのまにか私はアイツの事が好きになっていた

でも今も幼なじみのままなのは素直になれない私のせいで

高校を卒業すればこのままお別れだろう

まるで道路の両端の歩道を別々に歩いているように一定の距離を保ち近づくことのないように

別れ道が来たらお互い逆方向にサヨナラ

だから、後少しでお別れなら下手に仲をこじらせて別れが早くなるより

今のままの関係でもお別れの時まではずっと一緒にいたかった

だから私はいつまで経ってもアイツに好きと言えなかった

でも、言わないと私は絶対に後悔する

でも好きなんて言えない私は

隣を歩く色無の手をそっと握った

色無が驚いて立ち止まりこっちを見る

「ゴメン……嫌……だよね……」

私が手を離そうとしたとき色無は私の手を強く握った

「嫌なわけない……」

それだけ言うと色無は私の手を引いた

そのまま家に着くまで私たちは手をつないで帰った

私はやっと一歩踏み出せた

だからこれから少しずつ前に進もう

本当の終わりまで彼と一緒に歩けるように


『In other words,I love you』

満月。

それはそれは丸い満月。

白く、ゆったりとした光があたりを薄く照らし出す。

「それにしても……きれいな月ね」

公園のベンチに体を預けたまま、見上げながら青は言った。

静かな光が青の横顔を照らし出す。

整った目鼻立ち。凛とした瞳。艶やかな青髪。

色無は、そんな青の横顔に見惚れる。

「花火もきれいだったけど、」

見上げたまま。

「こっちのほうが私は好きだな」

そう言って息をつく青に、

「うん……そうだな」

生返事しかできない色無。

完璧に青に見惚れていた。

(こういう時、)

色無は思う。

(でもお前もきれいだ、とか言うんだよな)

クサいことを考え、そしてそんなクサい台詞は決して色無の口から出てこない。

「ねぇ色無」

月から目を外し、青が言う。

「何だ?」

「こんな歌、知ってる?」

そう言って青、目を瞑り、ゆっくりと歌いだす。

英語の歌。ゆっくりした、切なげなメロディー。

一音一音、丁寧に青は歌い上げる。

色無は聞き入る。

青、歌い終わる。余韻を残して、辺りが再び静寂に包まれる。

「……ご静聴、ありがとうございました」

改まった口調で、やや恥ずかしげな様子で青は言う。

「……青って、歌上手いな」

ぽつり、色無が言う。心の底からそう思っているようだ。

青は、ありがと、と小さく呟くと、

「で、知ってるかな?」

再度聞く。

「え、と。『Fly Me To The Moon』って曲だよな?」

「正解」

続けて、

「意味、わかる?」

青は問う。

「えーと……『私を月へ連れてって』まではわかるけど、そんだけしか」

自信なさげな様子で色無。

青は、えーとね、と前置きすると、

「私を月へ連れてって。そして、星々の間で遊ばせて。木星や火星の春がどんな風になっているのか、私に見せて」

やや気取った口調で言う。

「って意味」

色無は、ふーん、なるほどと相槌を打ち、空を見上げる。白く、静かに月が輝いている。

「でね」

青が続ける。

「これって、言い換えれば、どういう意味かわかる?」

色無を見つめながら。

「え……、何か他に意味あるのか?」

青の視線に気づき、きょとんとした様子で。

「一種の比喩みたいなものなの。ね、わかる?」

「うーん……よくわからないな」

ぽりぽりと頭をかきながら色無。

青はにこりと笑い、

「月で連れてって、とか、木星や火星の春を見せて、ってのはね」

そっと、青の手が色無の手へ近付く。

「こういうことをして欲しいってことなの」

ぎゅっと、色無の手を握る青。色無は、え、と軽く驚き、

「えーと……、青。つまり、手を握って欲しいって意味か?」

手を握ったまま、青はこくん、と頷く。少し顔が赤い。

「そういう意味の歌なの」

照れくさそうに言う。女心は複雑なのよ、と付け足す。

「そうなんだ……」

空いた方の手で色無は頭をかく。こちらも少し顔が赤い。

「でね、色無」

やや強い口調で、青。

「もう一つの意味があるんだけど、知りたい?」

尋ねる。

色無は、ん、と小さく頷く。

青はにこり、とまた笑顔を浮かべ、

「もう一つの意味はね、」

色無の目をまっすぐ見ながら、顔を少しずつ近づけていく。

「こういう意味なの」

青の真っ赤な顔が色無の顔に近づいていく。

やがて鼻と鼻が触れ合うくらいまで近付き、青は目を閉じ、そして——

満月。

それはそれは丸い満月。

白く、ゆったりとした光があたりを薄く照らし出す。

白く、ゆったりとした光が二人を薄く照らし出す。


無「しまった……ズボンがない……」

連日の雨のせいで洗濯物が乾かず俺の愛するデニムたちが全滅したようだ。どうしよう……パジャマから着替えられない……とりあえずパジャマ姿で一階に行くか。

無「おいすー」

一階に行くと青と出くわした。私服姿がなぜか羨ましく見える。

青「あら、パジャマ姿でどうしたの?」

無「雨でズボンが全滅してなぁ。下に着るものがないんだ」

青「なら私がなんとかしてあげるわ……ふふふ……」

青はそういうと2階に走りだした。あの含み笑いはなんだろう?嫌な予感がとまりません。

 数分後

青「お待たせ〜」

2階から戻ってきた青は手になにか持っていた。それは男の俺がこの世で一番身に付けてらならないもの。その名も『スカート』!!

無「あのぉ、青さん」

青「なんでしょう?」

無「もしかしてそれを俺に着せるんですか?」

青「オフコース!!」

無「うわっ!?やめ……あっー!!」

 数分後

無「ちくしょう……ちくしょう……青に犯されたぁ……」

青「男の子なんだから泣き言言わないの!!」

青によって無理矢理スカートをはかされもうなくしかない。

赤「さっきから騒がしいぞ……って色無」

無「みるなぁ!!俺をみるなぁ!!」

赤「みんなよんでくる……ぷっ」

無「あ!!お前いま笑っただろ!!」

青「まあまあ減るもんじゃないし」

無「俺のプライドがすり減ってるんだよぉぉぉ!!!!!」


「あーだるい。学校行く気しないな〜。始業式ぐらいフケてもいいよね……」

 登校するにはギリギリの時間に、橙は部屋で一人ゴロゴロしていた。制服に着替え、万事準備を整えてはみたものの、どうにも気力が湧いてこない。

「よし、決めた! やっぱきょうはサボろう!」

「そうはいかないわよ! まったく、新学期初日から何馬鹿なこと言ってんの!」

「うわっ、青! いきなり入ってこないでよ!」

 橙が自主休校を高らかに宣言した途端、ノックもなしに部屋の扉が勢いよく開き、青が肩を怒らせてのしのしと侵入してきた。

「寮長として、かつクラス委員として、始業式をサボろうとする不届き者を出さないための緊急処置よ。何よ、もう準備できてるんじゃない。行くわよ!」

「いいじゃん別に始業式くらい……って痛い痛い痛い! 耳引っ張らないで〜!」

 青はさわやかな笑顔で橙の耳たぶをつまみ上げると、そのまま玄関まで引きずっていった。

「う〜まだヒリヒリする……耳だって顔の一部なんだよ? 女の子の顔に普通こういうことする?」

「緊急処置よ。あんた1学期の始業式サボってたから見張ってたのよ。そしたら案の定だもの、同情の余地なしよね」

 恨めしそうな顔で耳をさする橙を、青はばっさりと切って捨てた。何を言っても無駄だと思ったのか、橙は長いため息をついた。

「はあ〜。まあここまで来たらしかたない、退屈な校長の演説を聴きに行きますかぁ。それにしても、青はいつも気合い充分だよね。落ち込んだりとか、やる気のでないときとかないの?」

「そりゃああるわよ。私だって人間だもの。でも私にはこれが……」

 そこで青は口をつぐみ、無意識に髪を触っていた手を下ろした。橙の目が青の頭に向けられる。そこには髪を高く留めている髪ゴムがあった。

「なになに? そのリボンになんかあるの? そーいえばさ、青って結構オシャレなのに、その髪ゴムだけずいぶん古ぼけてるよね? 他にも持ってるのになんで捨てないの?」

「べ、別にいいでしょ。特に何にもないわよ。ほら、そんなことより急がないと……」

「え〜、いいじゃん教えてよ〜。ね〜教えて教えて! 教えてくんなきゃ学校行かない〜!」

「ちょ、ちょっと! こんな往来でだだこねないでよ! 恥ずかしいわね!」

 歩道の真ん中にしゃがみ込み、ブンブンと腕を振り回す橙を青は慌てて止めた。

「ほら立ちなさい! 話してあげるから!」

「ほんと? やったー!」

「もう、しょうがないなあ……」

 がっくりと肩を落とすと、幼いころの思い出に心をはせた。

 

「グス……ヒック……」

 青は泥だらけになってトボトボと歩いていた。大事そうに抱えた熊のぬいぐるみは、腕が片方取れかけている。

「なんだよ、またいじめられたのか?」

 不意に頭上から声がして、青はびくっと震えた。その目の前に、木の上から男の子が飛び降りてきて着地した。

「あ〜あ、泥だらけじゃん。うちの方が近いから、風呂入って行けよ。そっちのぬいぐるみはねーちゃんに直してもらおうぜ」

「うう……わーーーーん!!!」

「うわっ、くっつくなよ! 俺まで汚れるだろ!」

「あ、あの……ありがとう……」

「……別に対したことじゃねーよ」

 風呂から上がり、服を借りた青は男の子に礼を言った。湯上がりで上気した顔と洗い髪にドキリとして、男の子はぷいと顔を背けた。

「ほら、これ。ねーちゃんが速攻で直してくれた。その服は妹のだから、今度洗って返せよ」

「うん……」

「お前さあ。前も言ったけど、そうやってうじうじしてるからいじめられるんだよ。引っ越してきたばっかで友達いないのは分かるけど、だったら余計に元気出さなきゃダメだろ?」

「……でも……」

「あーもう、しょうがねえなあ……そうだ! ちょっと待ってろよ。確かねーちゃんが……」

 煮え切らない態度の青に業を煮やした男の子は、やがて何かを思いついたように声を上げ、リビングを出て行った。

「ほら、これやるよ! ねーちゃんがもう古くなって捨てるって言ってたから、もらってきた」

「……髪ゴム?」

 男の子が差しだした手には、ずいぶん使い古されたゴムの髪止めが乗っていた。青いゴムに小さな花飾りがついている。

「これでこうやって……」

「きゃ……」

「動くなよ。あれ、結構難しいな……こうかな……よし、できた!」

 しばらくもみ合ったあと、男の子は体を離すと誇らしげに手鏡を差しだした。

「あ、髪が……」

「いいだろ。それは魔法の髪型なんだぞ」

「魔法……?」

 青は結わえられた髪の房におそるおそる手を伸ばした。

「昨日テレビでやってた。きれいなお姫様が、城を抜け出すときにその髪型にすると元気でかっこよくなって、町の人たちもお姫様だって分からなくなるんだ」

「へえ……」

「だからお前も、またいじめられそうになったらそれで髪をくくれ。そしたら泣き虫はいなくなって、元気でカッコイイ女になるんだからな!」

 

「——とまあ、それ以来私は、つらいことや悲しいことがあったり、気分が落ち込み気味だったりするときには、この髪ゴムでポニーテールにしてるの。そうすると不思議と元気が出るのよ」

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「へえ〜、なるほどねえ」

 恥じらいながらも楽しげに過去を語る青に、橙は大げさに頷いて見せた。

「ん? じゃあ今そのゴム使ってるってことは、なんかあったってこと?」

「う……まあ正直、私だって夏休み明けの始業式なんて、気合い入れなきゃやってられないわけで……」

「ちょっと! じゃあわたしと同じじゃないの! さんざん耳引っ張っておいて何それ!」

「同じじゃないわよ! いやいやでも学校行くのと、実際に学校サボるのとじゃ天地の差でしょ!」

 二人が大騒ぎをしていると、後方から誰かが駆けてきた。

「お〜い……はあ、はあ……ふう、やっと追いついた……お前らひでえな、一声かけてくれたっていいだろ!」

「い、色無!? なんであんたがここに……まだ寮にいたの?」

 不意に現れた色無に、青は必要以上に取り乱した。ぴんと来た橙は邪悪な笑みを浮かべて青に問いただす。

「はは〜ん……ねぇ青? さっきの話って、青がこの町に引っ越してきたときの話よねえ?」

「橙! しーっ、しーっ!」

「男の子って言ってたけどさ、それって誰のことかなあ? そういえば色無もこのへんの出だよねえ? 偶然ねえ〜」

 ニヤニヤする橙と、あたふたする青。事情が飲み込めない色無は怪訝な顔をするばかりだった。

「なあ、朝から何の話だ? さっぱりわからんのだが」

「何でもない! あんたが気にするようなことは何もないのよ!」

「そうそう、色無が魔法使いだってだけの話〜」

「ちょっと橙、やめてよ!」

「なっ、魔法使いとは失敬な! 確かにまだ受験資格は持ってるが、免許取得にはあと十数年はかかるんだぞ!」

 大騒ぎをする三人のもとに、遠くで始業を告げる鐘の音が届いた。


無「どうして今日はずっと俺の部屋にいるんだ?」

青「……」

無「もしかしてしばらく俺がいなかったから寂しかったとかw?」

青「そんなわけ……うん……寂しかった……」

無「だよなーwお前が俺がいなかったぐらいで寂しが……えぇ!?」

青「寂しかったよぉ……」

無「なっ、なんで泣きそうなんだよ!?」

青「なんかわからないけど……自分でもびっくりするくらい寂しくなっちゃって……」

無「どうしたんだよ大丈夫か?」

青「うぅ……色無ぃ……慰めてよぉ……」

無「慰めるって言ったって何すれば……」

青「ギュッとして……ギュッ〜て」

無「えぇ!?……じゃあ失礼します……」

青「ん……色無ぃ……」

空「あんな姉さん初めて見た……」


青「うぅ……風邪ひいちゃったよ……」

無「大丈夫か?」

青「大丈夫に決まってるじゃない……あっ」

無「おい、何が大丈夫だよ」

青「ちょっと目眩がしただけよ……」

無「部屋までおぶってってやるよ」

青「べ、別に……そんなことしなくても……あっ」

無「ほら、しっかりつかまってろよ」

青「うん……」

無「今すぐ氷枕作ってくるから待ってろよ」

青「いいわよ……そこまでしなくても……それに色無にうつっしゃうよ……」

無「えっ?」

青「か、勘違いしないでよね!色無に借りを作りたくないだけなんだからっ!」

無「……」

青「早く帰りなさいよ……」

無「無理するなって~こういう時くらい甘えてもいいんだよ」

青「……」

青「うん……お願い色無……側にいて……」

無「わかった~なんなら隣で寝ようか?」

青「……」

無(あれ?いつもの「何バカなこと言ってるのよ!」が来ないな……)

青「うん、お願い……」

無(えぇぇぇぇぇぇ!!!!)

青「どうしたの?」

無「な、なんでもない!!えーと……じゃあ……失礼します」

ぎゅっ

青「えへへ、色無あったかい」


『ほうかご』

——教室に入ってくる青。

青「……やっと終わったわ」

無「ふぅ……やっと終わった」

青「色無、今まで何してたの?」

無「ゲッ、青……」

青「……人の顔を見るなりずいぶんなご挨拶ね」

無「い、いや。宿題忘れて居残りを……」

青「……課題を忘れるなんて弛んでる証拠ね」

無「ゴメンナサイ」

青「……今日も課題出たでしょ?~きちんとやりなさいよ」

無「……頑張ります」

青「……やる気無いでしょ……」

無「……あんまり寝てないんだ」

青「寝てない? 課題もやらないで何を……」

無「……zzz」

青「……しょうがないわね」

無「……あれ?」

青「起きた?」

無「寝ちゃってたのか」

青「寝てる間に女の子が来たわよ」

無「え……」

青「迷子の子猫を夜まで捜してたなんて、良い所あるじゃない」

無「バレたのか」

青「その優しさに免じて、課題をやるの付き合ってあげる。私は終わったし」

無「じゃあ写し……」

青「自分でやるの! ……最後まで付き合ってあげるから」


空「お姉ちゃん、やっぱり休もうよ」

青「何言ってるのよ、このくらい大丈夫よ」

空「衣替えも終わったのに夏服なんて着て、どこが大丈夫なのよ〜」

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青「……逆境に自らを置いてるのよ」

空「馬鹿なこと言ってないで寝てよ」

青「風邪なんかで休んでどうするのよ!」

空「……む〜」

ぴっぴっぴ

空「もしもし、おはよう〜ごにょごにょ」

青「誰に電話してたの?」

空「聞き分けのないお姉ちゃんには」

プシュッ

灰「こうよ」

青「むきゅ〜……」

空「朝からありがとね、灰ちゃん」

灰「私もこういうのには慣れてるからね」


青「あ、色無じゃない」

無「ん、よう……」

青「まだ夕方なのに覇気がないわねぇ」

無「いつもこんなのだろ……あ〜、綺麗な夕日だ……」

青「あんまりよそ見して歩いてると転ぶわよ……」

無「うぉっ!?」

ごすっ

青「あ〜あ……言ったそばから……」

無「いってぇ……」

青「膝すりむいてるじゃない。血も出てるし」

無「そのうち治るだろ」

青「ちょっと見せなさい」

無「?」

青「絆創膏があるからこれを貼ってと……よし、いいわ」

無「そこまでしなくてもいいんじゃないか?」

青「なにいってるのよ。傷口が化膿したらどうするの?」

無「それもそうか。ありがとな」

青「どういたしまして。それにあんた見てるとほっとけないしね」

無「なんだそりゃ。姉貴でもあるまいし」

青「色々な理由があってほっとけないの!!」

無「ふぅ〜ん」

青「ほら、家までついて行ってあげるから帰るわよ」

無「ああ」


『さんもんのとく』

無「おはよ。早いな、青」

青「おはよう、色無……知らなくて当然ね、私はいつもこの時間よ」

無「そうなのか、でも人の少ない教室ってなんか変な気分だな」

青「そう?~私はこの空気も好きだけど」

無「うん、まあ、オレも嫌いじゃないかな?」

青「……だったら毎朝早く来なさい。勉強なら教えてあげるわよ」

無「そうだな……考えとくよ」

——翌朝

青「……」

青「……来る訳ないか——」

ガラッ

無「スマン遅れた」

青「……別に約束なんてしてないと思ったけど」

無「まあ、そうなんだけどな」

青「いつまで突っ立ってるのよ」

無「ああ、今座る(ぐぅ)……ぅ」

青「……呆れた、朝も食べないで来たの?」

無「……ちょうど買い置きのパンを切らせたんだよ」

青「はい、これ」

無「……サンドイッチ?」

青「練習中なのよ、男の人の感想を聞かせて欲しいから、協力してくれない?」

無「そういうことなら喜んで……うまい」

青「そう。……勉強を始めるわよ」

無「……なんで笑ってるんだ?~良いことでもあったのか?」

青「……鈍感」


青「もうっ!そこは違うでしょ!」

無「なんだよ!ここであってるだろ?」

青「違うわよ、ほら!」

無「ここにはめて入れればいいんじゃないのか?」

青「そこじゃないってば!」

無「無理矢理ねじ込めばなんとかなるだろ?」

青「だ、ダメっ!そんなことしたら壊れちゃうわよ!」

無「いいじゃん。こうやってはめた方が気持ちいいだろ?」

黄緑『(あらあら、うふふ。昼間から元気ねぇ二人とも)』

青「(ん、今なんか部屋の外から声がしたような……ま、いっか。)気持ちよくないわよ!形が全然あってないしピースが合わなくなるでしょ!」

無「色は同じなんだからいーじゃねぇかよ、別に」

青「よくないのっ!もう、色無はジグソーパズルのなんたるかを全然知らないのね」

無「そりゃ初めてだしな、こんなもん。ていうかなんで俺に手伝わせるんだ?こういうのだったら空ちゃんとかに手伝わせれば……」

青「う、うるさいわねっ!///色無がヒマそうだったから声かけたのよ! 悪い!?」

無「悪いなんて……そこまで言ってないだろ」

青「じゃあつべこべ言わずに言うとおりに手伝って!」

無「はいはい……」

青「だからそこは違うって言ってるでしょー!!」

無(こんな調子じゃいつまでも終わらないなぁ……)


【朝焼けのなかで】

今、私は修学旅行で沖縄にいる。

普段見ることのできない景色、モノ、すべてが新鮮で心から楽しいと思えていた。

——だけど、あと一つ……私は願いがあった。

修学旅行最終日の前夜。3日間何もなかったことを残念なようなホッとしたような心境で今日を迎えていたんだけど……

「ねー、色無。今夜……空いてる?」

ついにきた!紫からのいきなりの大胆発言だ。だが今日はもう……

「あ、ずるい紫ちゃん!色無君は今夜わたしと熱い一夜を過ごすのよ!」

「うるさぁい!おっぱいピンクは黙っててっ!」

桃まできたか!だけど今日はもう先客がいたんだ。

「あの……盛り上がってるところ悪いけど、二人ともゴメン!今日は他に用事があるんだ」

一瞬、場がシーンと静まり返る。

しかし次の瞬間には二人の表情は豹変して……

『な、なんだってー!?』

なんて、どこかで聞いたことあるような台詞とともに二人はこっちを見る。

「あぅ……そ、そんな目で見るなよ二人とも……」

紫は瞳にうっすらと涙を浮かべているようだが、桃はそれとは正反対になぜだか笑みがこぼれている。

「ふ、ふん!べ、別に寂しくなんか……ないもん!……ぅぐっ……うわぁぁん黄緑ちゃぁん!!」

あぁ……行っちゃった。黄緑さんごめんよ、折角の修学旅行最後の夜なのに俺のせいで紫が寝るまで面倒見ることになるんだろうなぁ。

「そっか。先客がいるならしょうがないわね!お楽しみなのはあんまり邪魔しちゃいけないわね♪」

こっちはこっちでまた厄介だなぁ……

「そ、そんなんじゃないって!」

「うふふ、照れなくてもいいよ。今度はわたしの相手してね♪」

「あー、はいはい」

ま、最後は軽く流すしかないんだよな、こういう時は。

「——さて、あとちょっとで時間になるな」

午前2時まであと5分。さすがに最終日の深夜だけあって1日目、2日目のようなバカ騒ぎをしてる連中はいなく、先生達も疲れて寝ているようだ。

静かに自室のドアを開け、俺は約束の場所へと向かった。

胸に手を当てる……鼓動が早い。

大丈夫、彼はきっと来てくれる。

なんだかんだ言いつつ、いつも真面目に私の言葉を受け止めてくれる。

そんな彼にいつの間にか私の心は……

「——おはよ、青」

「ひぁっ!!び、びっくりするじゃない!!いきなり声かけないでよ!!」

あぁ、もう!本当にびっくりしたじゃない! 
よりにもよって色無のことを考えてる時に声をかけられるなんて……。

「ん、どうした?一人で待ってるの怖かったのか?」

「そんなんじゃないわよっ!///」

怖いなんて、緊張しすぎてそんなこと考える余裕も無かった。

「ていうかおはようなんて、まだ朝じゃないわよ?」

「そうか?俺は日が変わればもう挨拶はおはようで良いと思うんだけどなぁ?」

「まだ真っ暗なんだから、こんばんはでしょ、普通」

「まぁ青がそういうならそうなんだろうな」

「なによ、それ」

「別に。そのままの意味だぞ」

「……そ」

「つーか暗すぎだろ。いくらなんでも2時から朝焼け見るために海岸でる馬鹿なんていねーだろ」

「ここにそんな馬鹿が2人いるじゃない」

「学年一の学力を持ってしても朝日が上る時間は分からないのかよ?」

「私に皮肉を言うなんていい度胸ね」

「まぁまぁそう怒るなって」

「別に怒ってなんかないわよ」

「どう考えたって怒ってるだろ、お前」

「怒ってないってば!」

しばらくそんな他愛もない会話が続いた。

どれくらい時間が経っただろう。

空がもううっすらと色付き始めていた。

ふと、気付いた。

違う……私はこんな話をするために色無をここに呼んだんじゃない。

「——で結局朱色さんと群青さんへのお土産はちんすこうに……」

「ねぇ、ちょっと話聞いてくれるかしら?」

「ん?いいけど……」

鼓動が早くなってきた。体が熱くなる……。

この場から逃げ出したくなるような衝動に駆られるけど、話を切り出した手前そんなことはできない。

頑張れ、そう心の中で何回もつぶやく。

「あ、あのね……私、自分の気持ちに気付いた時から、いつか伝えたいと思ってたの」

「……うん」

色無も何か覚悟を決めたかのように表情が強張ってる……。

あと少し……あと少し頑張れ、私! 
「私……色無のことが……」

「——好きだ」

「……えっ?」

突然の出来事に驚いた。

あれ?私の口からまだ出てないわよね、その単語。

「青のこと、前から好きだった。修学旅行中に伝えようと思ったけど、機会が無くて……いや、勇気が無かったのかな」

「色……無……?」

「小心者だからさ、俺。ここまでしてもらわないと伝えられないんだよ」

えーと、色無が私のこと好きだってことは分かったわ。

でも私の本来の目的は……ん? 
色無が私のこと好き……? 

「さ、今度は青の番だよ」

い、意味が分からないわっ!!なによコレ!! 
私のしようとしてたことが色無に先越されてるじゃない! 
「ほらほら早く!」

しかも何か急かされてるし……あれ、なんか前がぼやけて……

「ど、どうした青!?涙が……もしかして……俺のこと嫌いなのか?」

なんでそうなるのよ!馬鹿! 
「そ、そんなんじゃ……ないわよ。私もなんで泣いてるか……分からないの……!」

「そうなのか?なら良いけど、ホントにどうしたんだ?」

「だ、だから……分からないって言ってるじゃない!」

「まぁ、なんだ。とりあえず俺の気持ちに対する返答だけもらえないか?それから……その、いくらでも、なんでもしてやるからさ」

ホントになんだか分からないけど、涙が止まらない。

でも、色無も待っているから、これだけは伝えなくちゃ……。

「……す、好きよ!……私も……色無のこと好き!!」

はぁ、多分涙で顔ぐちゃぐちゃなんだろうな。

「……ありがとう、青。ゴメンな、先に言っちゃって」

「うぅん……嬉しかったよ……私」

「あー、ヤバイな。泣きながらそんな素直に嬉しいとか言われると……こうしたくなる!」

「むぐっ!」

いきなり目の前が真っ暗になった。

……けど、嫌じゃない。むしろこのぐしゃぐしゃな顔を隠すには好都合だから。

「苦しくないか?」

「……うん」

幸せな時間だった。ほんの数分しかたってないんだろうけど、その時間は永遠にも思えた。

こんなに幸せなのに、未だにさっきの出来事が信じられないのは私だけじゃない……よね? 

数分の沈黙の後、色無が口を開いた。

「そろっと顔上げられるか?お望みのものが見れるぞ」

「……ぅん?」

顔を上げると、そこにはまるで私達の始まりを示しているかのような朝焼けの空と海が広がっていた。


『ふゆのよてい』

青「……もうすぐ冬ね」

無「……そうだな」

青「今年の冬はどうするの?」

無「どうするって……」

青「ほら、里帰りとかどうするの、って事」

無「ああその事か、今年はこっちにいるつもりだよ」

青「!~……どうして?」

無「帰ったら勉強しなさそうだし、こっちでなら毎日勉強出来そうだしね」

青「それって……」

無「青がいればやる気が出るし……あっ、青は帰るんだよな」

青「……しょうがないから付き合ってあげるわよ」

無「あ、いや、ごめん。無理に付き合わなくてもいいよ」

青「……私も最初から残るつもりだったし気にしないで」

空「……言えなかったのね、お姉ちゃん」

青「ぅぅ……」

空「よりによって『なら冬休みの間に私を追い抜いてみなさい』なんて」

青「帰る気なんて無いのにどうしよう」

空「わたしに任せて」

青「ありがとう、空」

空「ただいまー」

青「どうだった?」

空「へへー、冬休みの間に遊ぶ約束しちゃった」

青「……私の事は?」

空「あっ!~忘れてた……待ってお姉ちゃん、ウメボシは止めて——」

無「空ちゃんがこっちに居るって事は、青も帰らないのかな……頑張ろう」


『石焼芋?』

無「はふはふ……どうして焼き芋ってうまいんだろなー?」

青「あれ、色無? どうしたのよ」

無「お、青。ちょっと石焼芋売っていたから、買ったんだよ」

青「ふーん……夕御飯食べられなくても、知らないわよ?」

無「大丈夫だって。そうだ、青も食べるか?」

青「え? ……なら、私も食べよっかな」

無「はい、どうぞ」

青「あ、ありがと……(パクッ)あ、おいしい……」

無「だろ? たまに見かけるんだけど、前々から食べたかったんだよな」

青「……そうなんだ」

無「(ハグッ)……ん、やっぱり美味いな」

青「……ね、ねぇ、色無」

無「ん? どうした?(ハグッ)」

青「あ、あのさ、もし良かったら、家にスイートポテト、食べに来ない?」

無「え? でも、いいのか?」

青「れ、練習したいのよ。今度お菓子を作ってこないといけないから」

無「そうなのか? なら、お言葉に甘えようかな」

青「(や、やった……!)それじゃ、今度の日曜日でいい?」

無「ああ、わかった……青、頬に芋が」

青「え? どこ?」

無「ちょっと待ってろ……ん(チュッ)」

青「!!??」

無「よし、これで取れた……青?」

青「あ、あ……色無の馬鹿ぁ!」

無「ちょ、叩くなって、悪ふざけが過ぎた!」

青「(あー、もう、恥ずかしいじゃないのよ!)馬鹿馬鹿馬鹿ぁ!」


青「—コホッ、コホンッ!」

無「……辛そうだな、風邪」

青「へ、平気よこのくら……ゴホッ!」

無「ほらほらいいから寝てろって。ずっと付いててやるから」

青「……うん。でも私が寝たら色無も自分の部屋戻っていいから」

無「……青の可愛い寝顔眺めてるのも楽しいんだけどなぁ」

青「//// び、病人をからかわな……っくしゅん!」

無「あぁ、悪かった。ほら、寝ていいぞ」

青「ね、寝れるわけないじゃない!バカっ!///」

青「すー、すー……」

無「ぐっすりおやすみしてるじゃねぇか……(ギュッ)青の手、まだかなり熱いな……なんか俺も眠くなってきたなぁ」

青「……ぅん……ん?私の手握ってるこの手は……」

無「くかー……くかー……」

青「部屋に帰ってって言ったのに……バカ」

青「でも……嬉しいよ。ありがと、色無」

 次の日

無「へっくしゅん!!……うぅ……青の風邪がうつったぁ……(ズズッ)」

青「はぁ……自業自得でしょ」


『練習/スケート』

青「……」

無「ほら……手を出してゆっくりこっちに」

青「……」

無「ほら」

青「ぇぃ」

無「ほら立てた」

青「……氷の上に立てるなんて信じられないわ」

無「じゃあ滑ってみよう?」

青「やっぱり無理よ、いろな——きゃあ」

バタン

無「……」

青「……」

無「まぁ、手を繋いだまま倒れればこうなるよね。青が下じきにならなくてよかったよ」

青「ごめんなさい色無、今すぐどくか——きゃあ」

無「焦らなくていいよ」

青「そういうわけには——」

無(倒れるたびに色々押し付けられて……困るんだけどなぁ)

青(色無に何かを教えて貰うなんてめったにないんだから、早く起きないと)

空「それで全身に青あざをつくってきたの?」

青「……そうよ」

空「痛そうなのに、なんでそんなに嬉しそうなの?」

青「……それは空にも秘密」

空「えー、お姉ちゃん教えてよー」


青「そらー、おーいそらー……いないどこにいったんだろう……」

 コンコン

青「もう、空どこに……黒……どうしたの?」

黒「空なら色無の部屋にいるわ」

青「え……?」

黒「大丈夫、灰も一緒だから2人きりではないわ」

青「そう……」

黒「不安?」

青「……不安じゃないって言ったら嘘になるかな……」

黒「……青、変わったわね」

青「え?……そうかな?」

黒「うん、素直になったよ」

青「……違うよ、ただ一生懸命なだけ……自分の気持ちを伝えなきゃって」

黒「そういう所が変わったのよ」

青「……そうかな?」

黒「今の青なら大丈夫よ」

青「……うん、ありがとう」


青「朝ごはんできたよー」

無「本当に?」

青「はい、ご飯とお味噌汁と……」

空「卵焼きと焼き魚です」

無「すげー!うまそうだな」

青「……」

無「……青、そんなに見られたら食べにくいって」

青「べ、別に色無なんて見てないわ!」

無「ならいいけど……ん!この味噌汁すげーおいしい」

青「そ、そう?」

空「愛情一杯詰まってるからねー」

無「え?」

青「ち、違うわよ!色無相手にそんなもの入れるわけないでしょ!」

現在

無「やっぱり、青の味噌汁はうまいな」

青「そう……かな?」

無「うん」

青「……愛情が入ってるから……かな///」

無「え?」

青「えへへ///」

無(これはこれでいいかも……)

でも、ちょぴり昔が懐かしい色無でした


無「……眠い」

青「あ、おはよう色無。今朝はちゃんと起きれたみたいね」

無「ん……まぁ」

青「ただ、その寝癖はどうにかしたほうがいいわね。ご飯ももう少しでできるから、先に直してきなさい」

無「ふぁーい」

青「——やれやれ。さてと、後は目玉焼きくらいでいいかなぁ」

群「おはよう青ちゃん。朝からいい夫婦を演じてるわね」

青「ふ、夫婦ってちょっと群青さん! か、からかわないでくださいッ!」

群「ふふ、ごめんね。でもいいなぁ。冗談じゃなく、夫婦みたいに見えるもの。貴女と彼」

青「だ、だからッ……」

群「ねぇ、その目玉焼きはどういうふうに作るの?」

青「え? あ、コレはアイツのなんで半熟です。アイツ、変なところでこだわりがあって。目玉焼きは半熟で塩コショウじゃないとダメとか」

群「へぇー」

青「ついでにベーコンが2枚くらいないと駄々こねたりとか、洋食でも和食でも毎日同じだと飽きるとか……まったく、作る側の身にもなれって感じです」

群「それでも、ちゃんとリクエスト通りに作ってあげてるのよね?」

青「そ、それは。だって……そ、そういうのをいい加減にするとロクな人間に育たないじゃないですか。だから、しょうがなく」

群「ふぅーん……」

青「……あぅ」

無「——ふー。顔洗ったら少しは目ぇ覚めたかな……おー、ご飯できてる。さすがは青の料理、今日もうまそうだ」

青「あ……ほ、褒めたってなにも出ないんだからね。いいからさっさと食べなさい。ほら、目玉焼き」

無「おぉー。言われなくてもいただきます。あ、青アレ取って」

青「はいはい。塩コショウはかけすぎないようにね」

群(……ここまで所帯じみてるとは。これで紫ちゃんくらいの子が『ママー』とか言ったら、もう立派な家庭よね)

無「いやしかし、すげぇよな。やっぱり料理できる人がいい、うん。こういうお母さんの方が、子どもも喜ぶだろうし」

青「こ、子どもってアンタなにバカなことを……わ、私たちまだ学生でしょ? そ、そりゃまぁ、その……ほしい、けど……」

群(……うん。遠くない未来の話だったみたい)


少しそこらをぶらつこうと、色無が玄関で靴紐を結んでいると、ふと後ろから声が投げつけられた。

「色無、出かけるの?」

凛としていて心地よく響くアルト。色無が一桁の頃から聞きなれている声持ち主。

「青。いや、ただの散歩」

「なら丁度良かった。ちょっと付き合って」

特に可愛げも色気も含まない声音でそう言い放つと、青は奥に消えていった。

「さ、いくわよ」

しばらくしてよそ行きのかわいらしい格好をして出てきた青は、着ている服装とはまた真逆の、そっけない態度で玄関を飛び出していった。

見送る形となった色無は、嘆息もつかず黙々とついていく。

2人の日常のことでもあるからだ。

2人は街のデパートの中にいた。

青が先だって歩き、その後ろを色無がついて歩く。

「はい、これもお願い」

青は、物見をする事もなく真っ直ぐ欲しいものを買い溜めして、色無の腕に積んでいく。

「前から欲しかったのよ。でも手持ちじゃ足りなかったからね。それで、お年玉で買おうと思っていたの」

こういう計画的なところが青なのだろう。それにしても買いすぎなのは今まで散財を抑えていたからなのだろうか。

更に次、と青は色無を振り回す。

(まだ買うのか……)

色無は、限界に近づきつつある両の腕を少しでも安らげるように青に問いた。

「でもここで一気に使い込むと後に響くんじゃないか?」

それを聞いた青は、バッグの中から小さめの封筒を取り出して、色無に突きつけた。

「大丈夫よ。今まで使ってたのは誰かさんから貰った雀の涙ほどのお年玉だから。あとあたしのお小遣い。でもお年玉はまだまだ余ってるからね」

「俺のじゃねぇか。雀とは失礼な」

色無は、寮の全員(朱と群青等大人達は除くが)に、世話になっているから、とお年玉を渡していたのだ。

しかし何分まだ学生である。あまり高額とは言えない額であった。しかし、それなりに無理をした額でもあった。

「そ、だからこれが最後」

先ほどから荷物を持ち直す仕草が多くなってきた幼馴染の両腕を心配したのか、本当にこれで最後なのかはわからないが、とにかく青は再び歩を進めた。

(な、長い……)

さっきまでの思い切りのよい買い方はどうしたのだろうか?

先程から店舗の中をグルグルと何週も回る青。

最後と言った割には随分と悩んでいる様だ。

両腕にとうとう痛みが走り出した色無は耐え切れずに言った。

「なあ。まだ決まらないのか?」

「そうね……色無、どこかで休んでて。もうすこしかかりそうだから」

と、色無の方を見向きもせずに早口でまくし立てる青。そこに心配しているような感じは微塵も感じ取れない事が色無には悲しいところ。

なんとなく突き放すような言い方が気になった色無だったが、両腕の事もあるのでさっさと退散することにした。

自販機の近くのベンチでくたびれる色無。

(しかし……)

この状況は一般に言うデートのはずであるのだが、こう、色気が無いのは何故だろうか?

俺と青の間にそんな事を求めるのはもう無理なのであろうか?

そんなことを考えながら、色無は幼馴染の真っ直ぐ伸ばした背筋、学校でのそれよりもかわいらしい髪留めでまとめられたポニーテール。

薄化粧の目元。香りに思いを馳せる。

今日、今までこれを見た事があるのは俺一人のはずだ、という少しばかりの優越感。期待感。今まで青と過ごしてきた時間。

(青……かぁ)

いつの頃からか、色無は青に惹かれていた。幼き頃からの腐れ縁を断ち切って、今すぐにでも、恋人になりたい。そう思い至って早数年。思いのほか腐れた縁は固かった。進むことも引く事も出来ない状態で、ただ、おぼろげな恋人としての2人を夢想していた。今でも。

思考はしつも堂々巡り。答えなんかでやしなかった。

そのまま暫く雑踏を眺めていたが、喉の渇きを覚えてジュースを買う。

「遅いな」

そんなに悩んでいるのだろうか、と思いながらチビチビと缶を傾ける色無。

ゆっくり飲んで飲み干した頃に、やっと青が合流した。

待たせてゴメンの一言もなしに、色無が空き缶を捨てるのを見届けてすぐに、いきましょ、と寮へ歩き出す青。

まったく、これである。

少しばかりの期待感は、あっさりと、無慈悲に、しかしやっぱりね、と打ち砕かれる。

(それにしても)

結局青は何を買ったのだろうか?

色無は疑問符を出したが、さっさと進む青の背がどんどん小さくなっていくので、追いかけるしかなかった。

道すがら、寮近くの公園を通りかかった。

前を歩く青はいつも以上に素っ気無く、固いオーラを放つ。

色無は自分が何か悪い事でもしたかと考えたが思い当たる節が無い。

むぅ……と唸りながら歩いていると、

「色無、ちょっと待って」

と、突然青が振り返った。

待つも何も青が先に歩いていたのだが、と野暮な突っ込みを心打ちながら色無は青の前に立つ。

青は、手に持っていた先程最後に購入した物の紙袋を漁る。

「ハイこれ」

そうして取り出されたものは。

「マフラー……」

青の髪と似たような青色のマフラー。

「俺に?」

「あたしからのお年玉よ」

いつもの凛然とした様子からは想像も出来ないほど、震えて、弱々しい声音。猫背気味に突き出された右手。

俯いた頭と前髪からは顔色は伺えないが、後ろと横とを結んでいるので耳は晒されている。

耳は、真っ赤だ。

「ほら、これからまだまだ寒い日は続くんだし、無いより有った方がいいかなぁとか、そうした方が喜ぶかなぁとか、あの、その、色々……」

声、小さく。

「あ〜もう!巻いてあげるわ!こっち来なさい!」

声、大きく。

色無のほうが背が高いので、自然に寄り添うようにマフラーを色無の首にかける青。

(あ……)

寄った青から香る匂い。

(いいな……)

心、安らぐ。

「ハイ。これでいいでしょ」

仕上げに軽く胸元を叩いて、離れる青。

その顔は、笑顔。

「ん……ありがとう」

照れる色無。青からの不意打ち。これは、色無のある念願にかなり近いものがあった。

突然の事に、対応しきれない色無。

「あと……これ」

追い討ちをかけるように再び袋から取り出したものを色無に渡す青。

「これは、手袋?」

「うん。あたしの。色無からのお年玉で買ったの」

マフラーと同じく、青を基調とした手袋。

「プレゼント交換って奴。あたしからはマフラー。色無からは手袋」

笑顔のまま両手を差し出す青。

「さ、プレゼント交換。頂戴」

(これって……)

色無の念願、そのものであった。

いつしか恋人のように、2人が2人であるものを証明しあう。

プレゼント交換。ええじゃないか……

ならばと、色無は青の後ろにまわって、抱きしめるように両手を取って、左、右、と手袋をはめていく。

「うあ……渡すだけでよかったのに……」

思わぬ不意打ちに茹ダコ状態の青。

「有難う……」

「どういたしまして、姫」

恭しく、ふざける色無。

姫発言にさらに赤くなった青は

「もう……さ、さあ!する事はすんだし、帰りましょう!」

と、赤いままの顔で逃げるように振り返っていってしまった。

色無は、首の暖かさを感じながら、青を追いかけた。

「だけどなんでこんなことを?」

寮の玄関前、色無はふとした疑問を投げかける。

「だって、お金じゃ味気なかったし、あたしもあげたかったし、お金じゃ寂しかったから……」

「え?」

それはそれは小さな声で呟いた青。

聞き取れない色無。

「あ〜もう!あんたにもプレゼントあげたかったの!それだけ!じゃあね!」

全てを投げ出すように大声をあげる青。その勢いのままズカズカと部屋に戻って行ってしまった。

(しかし、まぁ……)

嬉しいことは嬉しい。今度、告白でもしてやろうか、などとたくらむ色無。

どんな反応をするだろうか。想いは通じ合った気がする。あんな態度だが。

幼い頃からの悲願。今までは腐れ縁で付き合ってきたが、恋人として、付き合っていきたい。

叶ったら何をしようか?2人でどこへ行こうか?

その形無い、たくらみは、それはそれは、はっきりくっきりと浮かんできたそうだ。


男「ねむい。尋常じゃなく眠い」

青「寝てるヒマがあるんだったらどうぞ?止めないわよ」

男「うぅ……だいたい直前になってやるってのが間違ってる。覚えられるワケがねーよぉ……」

青「それに気付けたことが今回の収穫ね。ほら、手が止まってる」

男「ふわぁーい……」

青「あーもう、何そのミミズが這ったような字は。しっかりしなさい」

男「ごめ、むり……」

青「……はぁ。 しょうがないなぁ、まったくもう」

男「Zzz……——ッああぢぃ!?」

青「ほら、これ飲みなさい。今淹れてきたとこだから、目が覚めるわよ」

男「ふぇぁ……? あ、コーヒー……ありがとな、青」

青「お礼はアンタの単位でいいわ。さ、もう少し頑張りましょう」

男「——お、おわったぁ……」

青「すー……」

男「青は寝ちゃったか。 ありがとな、青。オマエがいなかったらどうなってたことやら」

青「ん……はれ? いろなひ……?」

男「はは、寝惚けてる寝惚けてる。もう終わったよ、青。だから寝ようぜ?」

青「んー……」(モゾモゾ

男「ってそこ俺のベッドだよ!?」

青「Zzz……」

男「あらま、速攻……とか言ってる俺も、もう限界超えてるな……寝よ。 いよっ、と……もうちょい詰めてほしいけど、まぁなんとかなるか」

青「くぅ……」

男「……おやすみ。それと、ありがとな」(チュッ) (これ……もし青が起きてたら、殺されかねないな。はは……)

男「Zzz……」

青「ん——ふわぁ……あ、色無……おはよう、んっ」(チュッ


無「はー、テスト週間って早く帰れていいよな」

青「だけどその分勉強しなきゃいけないってことでしょ。分かってるの?」

橙「まぁ、分かってて遊ぶのが私たちってことで。ねー?」

無「だよな。だって勉強ばかりしてても……」

青「あ、そ。だったら遊び呆けてなさい。後で泣きついても知らないから」

無「あああ待って待って!ちょっと待って!」

青「何よ?ほら、さっさとオレンジと遊びに行ってくれば?」

橙(おー、夫婦喧嘩が始まりそう。ちょっと見てよっと)

無「ぁー……そのさ、えっと」

青「どうせ私のノートを当てにしてたんでしょ?だったらいいわよ、ノートならいくらでも見せてあげるから」

無「それは違う。必要なのはノートじゃなくて、オマエなの」

青「な……」

無「その、悪かった。がんばってるオマエを蔑ろにするようなこと言って」

青「色無……」

無「だから帰るわ。で、もし青のジャマにならないようだったら勉強教えてくれよ。人助けだと思って」

青「……フン。 わかったわよ。人に説明できるようになることが理解の証明って言うし、その確認のついででなら」

無「うん、ついででいい。ありがとな」

青「れ、礼なんて言われても困るわよ……まぁいいわ。それじゃ帰りましょ——って、あれ?オレンジは?」

桃「どうしたのオレンジちゃん、いきなり一緒に帰ろうなんて」

橙「んー……聞かないでくれると嬉しいんだけど」

桃「?」

橙「はぁ……どこからどう見ても夫婦です。本当にありがとーございました……ごちそうさま」


男「くー……」

青「寝てて乗り過ごしても知らないわよ、バカ」

男「んー、そこは青を信じてるから。でなきゃ居眠りできません」

青「……私は目覚ましってこと?」

男「そうは言ってない。ただ、オマエがいれば安心して寝れるってだけで」

青「な……。 ったく、しょうがない。ちゃんと起こしてあげるから寝てなさい」

男「さすが青。ありがとな」

青「フン……」

男「ん……?」

青「すぅ……」

男「青……人の肩を枕にするとは、ちゃっかりしてんなぁ」

青「んー……」

男(だがしかし、完璧に終点まで寝過ごしたことについてはどうしてくれよう……やれやれ)

青「うぅーん……」

男「うわ!?バ、バカ! 寝ぼけてんじゃねぇ! 俺は抱き枕じゃねーっての!」


朱「……青、どうしたんだ?」

青「……」

朱「とりあえず入んな」

青「……すいません……」

朱「で、何で泣いてんだ?」

青「……色無に嫌われたかもしれません」

朱「なんで?」

青「『すぐ俺につっかかってくんな!』って言われちゃいました……」

朱「……青は色無のこと好きなのか?」

青「……はい」

朱「わからないなぁ……じゃあなんで素直に接しないんだ?」

青「……私が橙とか桃みたいに接したらきっと気持ち悪いって言われますよ……」

朱「そんなことないって、青は可愛いんだから大丈夫だって」

青「……本当に?」

朱「あぁ、本当だって」

青「良かった朱色さんに相談して……安心したら喉乾いちゃった……これもらっていいですか?」

朱「いい……青、それお酒!……イケる口だな……よし!今日は飲み明かすか!」

 朝

青「ん……あ、そっか私あのまま寝ちゃったんだ……あっ……」

朱「起きたか」

青「……昨日は散々迷惑をおかけして……」

朱「……青、私は別に構わないけどね……色無の前では絶対に飲まない方がいいぞ」

青「……肝に銘じます」


無「はー……最近乾燥するなぁ」

青「そうね。唇なんか特に乾燥するからリップクリームは欠かせないわね」

無「青は使ってるのか?」

青「当たり前でしょ」

無「へぇー、ちょっと貸してくんないか?」

青「んなっ!?」

無「いいだろ、減る物でも……って、リップは減るか」

青「い、色無?このリップは私が愛用してるものなのよ?」

無「うん?そんなの分かってるけど……ちょっとだけならいいだろ?」

青「そ、そうじゃなくて……その……私の唇に……」

無「あ、そっか。間接キスになるんだな」

青「……」

無「……どうせなら間接じゃなくて直接がいいかな?」

青「!! ど、どさくさに紛れて変な事言わないでよっ!……もう」

無「あれ?本気だったんだけどな……」

青「えっ!?」

無「青の唇、綺麗だからさ……ついキスしたくなっちゃったんだよ」

青「……こ、今回だけは特別だからねっ!」

無「ん、ありがと青……(チュッ)」

TV『ぷるぷるな唇にあの人も釘付け!この冬は—』

青「このリップを買えばこんな展開に……よし、ちょっとコンビニに買いに行こう!」

灰「青って実は結構単純だよねー」

黒「そこは純情と言ってあげたほうが正解じゃないか?」


青「ほら、さっさと食べなさいよ!」

無「……」

青「ま、不味くったって知らないんだからね!」

無「……あのさ、……」

青「な、何よ」

無「もうちょっと落ち着かない? 昨日の今日で弁当作ってきてくれたのは嬉しいけどさ……」

青「だ、誰も好き好んで作ってるわけじゃないんだからね! あなたが毎日コンビニのお弁当ばかり食べてるから……そう、ほら、目の前で倒れられても迷惑でしょ!」

無「いや、誰もそんな事は聞いてない。じゃ、いただきまーす(ぱく)」

青「うう……どうなのよ……」

無「うん、美味い。さすが青、料理も上手いな」

青「ほ、褒めたって何も出ないんだから!」

黄「おや、美味そうだね〜。どれ、一口(ひょい、ぱく)」

青「ああ、せっかく色無のために作ってきたのに! 何するの!」

黄「おやおや〜色無のためだって、あついね〜このこの(ゴンゴン)」

無「……痛い、肘で頭を小突くな。これ以上馬鹿になったらどうする」

青「はう」

黄「それじゃあ邪魔者は退散しますかねっと」

無「もう行くのか? 何しに来たんだよ?」

黄「へへ、ちょっとね〜。それじゃ、ごゆっくり〜」

青「何よもう!」

黄「というわけよ?」

橙「うん、遠目からでも大体解った……」

黄「付け入る隙は無さそうね〜」

橙「だからって負けない、きっとこれからある数多のイベントがきっと私に勝利を……」

黄「ま、厳しいと思うけどね〜(……私だって諦めたわけじゃないわよ?)」

桃「う〜ん、勝機があるとすれば夏かな〜?」


赤「ただいま〜。トンカツ買ってきたよ〜」

無「おお、ご苦労さん」

赤「それで黄緑と朱色さんの風邪の具合は?」

無「マジでやばい。2人とも38度から熱が下がらない」

赤「本当?」

無「ある意味、お前よりも鍛えてるはずなんだけどね」

赤「ちょっと待て、それじゃ僕がまるで筋肉馬鹿女みたいじゃないか!」

無「え、違ったのか?」

赤「グルグルグル……ガォー!」

青「ほらほら、つまんないこと言ってないでさっさとトンカツ渡しなさい」

無「そうそう、さっさと渡しなさい」

青「あんたも真似しないで。今夜は全員カツ丼だけど、いいわよね!?」

無「そりゃいいんだけど2人は?」

青「さっき私がお粥作って、いま水色と空色が食べさせてます」

無「さすがは青だな。それじゃカツ丼も青が作ってくれるの?」

青「ほ、他に誰が作るのよ!(特にあんたの分は……)」

無「いやぁ、楽しみだなぁ」

青「ほら、これから作るから、どいてどいて」

赤「(まずい、このままじゃ青にいいところみんな取られちゃう)ト、トンカツ買ってきたの、僕なんだからね!!!」


青「ふぅ……」

男「どうしたよ、青。オマエがため息なんて珍しい」

青「うるさいわね。私にだって、たまにはそういう時くらいあるのよ」

男「疲れてるのか?」

青「……そうね。たぶんきっと、そんな感じ」

男「オマエは頑張りすぎるきらいがあるからな。ほら、せっかくソファに沈んでることだし、そのまま寝ちゃえよ」

青「そんなだらしのないことできるワケないでしょ……」

男「いいじゃんよ、たまにはさ。うたた寝って意外と気持ちいいんだぜ? とりあえず、隣ちょっと失礼」

青「わぁッ!?ちょ、ちょっとなんでアンタまで座るのよ!?」

男「カタいこと言うない。 あー、俺なんかこうしてたら10秒で寝れそうだっていうのに」

青「ぅぅ……」

男「——俺さ。オマエのこと、ホントにすごいと思う。いっつも本気で全力で、妥協を許さないっていうその姿勢とかさ」

青「え……?な、なによいきなり」

男「だけど、本気で頑張るってことはすごく疲れるんだよ。だから普通は長続きしないんだけど、オマエはそれすら耐えちゃう」

青「……」

男「ここにいる人たちはみーんなオマエの友達なんだから、そういうの見てるとやっぱり心配する。それをちょっと考えてみてくれないか?」

青「……まさか、アンタにそんなことを言われるとはね。明日は雪でも降るのかしら?」

男「明日はこの冬いちばんの快晴だとさ。残念だったな」

青「あはは。 ————ねぇ、色無。その……ここで休んでも、いい?」

男「! もちろん。少し寝てシャワー浴びればスッキリするぞ」

青「うん。それで、えっと……」

男「ん?どうしたよ、まさか寝付くまで抱っこしててほしいとか?なんて——」

青「……ぅ」

男「……そこでそんなに赤くなるのはずるいと思う」


猫「にゃー」

男「ん?あ、野良……じゃないか、首輪してるし。へぇ、人懐っこいネコだな。よしよし」

猫「んにゃん」

男「やっぱネコはいいなぁ。にゃー」

?「……」

男「ただいまー」

橙「お、来た来た。おかえり色無。ね、早いとこ部屋に行ってみてくれる?」

男「部屋に?いいけどなんで?」

橙「それは自分の目で確かめればいいよ♪」

男「さて、なにが待ってるやら……ただいまっと——」

青「……」

男「……あ、あお、さん?」

青「……」

男(部屋、間違えてないよな?なんで青が俺のベッドで、しかもネコミミなんか着けて……)

橙「おーおー固まってる。色無さ、今日の帰りにネコ可愛がってたっしょ?」

男「へ!? あ、あぁ、うん」

橙「それを私ら偶然見かけちゃってね。それでまぁ、青がネコになれたらなとか言ったもんで、お望みどおりにしてあげたの」

男「……頭なでてほしいってこと?アイツ」

橙「微妙にズレてるけど、おおむねそんなところかな。ま、引っ掻かれないように気をつけてねー」

男「あ、おい……ふぅ。 ——よいしょ、っと」~

青「……うぅ」

男「あー、えーと、ただいま。おるすばん、ありがとな」

 ナデナデ

青「! ……にゃ、にゃぁ」

男(うわー、青がされるがままになってる……でも顔真っ赤だし、やっぱ怒ってるのか? まぁ、もうちょい撫でてやろっと)

青「……にゃあ♪」


子「ねぇ、お母さん」

青「何?」

子「おかあさんは何でおとうさんと結婚したの?」

青「どうしたの?突然……あぁ、テレビ」

 テレビでは週末に結婚式を挙げた芸能人のニュースをやっていた

 二人ともとても幸せそうな顔をしている

(あれからもう5年以上も経つのね、わたしたち)

 数多くのライバル達の中から自分を選んでくれたときは本当に嬉しかった

 ただ、自分なんかで本当にいいのかとも思った

 でも、彼は力強い声で言ってくれた

 ——青じゃなきゃダメなんだ

子「ねぇねぇ、お母さん聞いてる?」

青「え?ああ、何でお父さんと結婚したかよね。う〜ん……」

 結婚した当初はまだまだ恋人気分が抜けず色々と苦労することも多かったが

 彼と一緒ならそれすら苦にならなかった

 毎日が幸せだった

 しかし最近では彼も仕事が忙しくなり

 私も家事に育児に追われる毎日だ

子「ねぇ、お母さんはお父さんから何てプロポーズされたの?」

青「え?」

 テレビに目をやると画面では芸能レポーターが新郎にそんなようなことを聞いている最中だった

青「わ、忘れちゃったわ!そ、そんな昔のこと!!」

子「え〜うそだぁ〜。恥ずかしいんでしょ?いいよ、お父さんが帰ってきたらお父さんに聞くから」

青「お、お父さんだって、わ、忘れちゃってるかもよ?」

子「そんなわけないよ〜プロポーズした『本人』なんだから」

(このままではマズい……)

無「ただいま〜」

青「!?」

子「あ、お父さんだ。おかえりー」(タッタッタ

子「おかえり〜」

無「おう、ただいま」

青「お、おかえりなさい。あなた」

無「うん、ただいま」

子「ねぇ、お父さん」

無「ん?」

青(きた!)

子「お父さんはお母さんに何てプロポーズしたの?」

無「どうしたんだ?突然」

子「テレビでね、やってたの」

無「あぁ〜ついに結婚したんだ、あの二人」

子「それより、プロポーズは〜?」

無「あれ?『お母さん』から聞いてないのか?」

子「お母さん、忘れちゃったんだって」

無「へぇ〜」

青(ッ!こっち見ないでよ!)

無「お父さんがね『僕と結婚してください』ってお母さんに頼んだんだ」

子「へぇ〜意外と普通なんだね」

無「現実はテレビドラマみたいにはいかないんだよ」

子「ふ〜ん」

青(た、たすかった〜)

青「さぁ、二人とも早く中に入って。ご飯冷めちゃうわよ」

無&子「は〜い」

——その日の夜

青「何で本当のこと言わなかったの?」

無「え?言ってもよかったの?」

青「よくはないけど……その……」

無「まさか『プロポーズしようとして呼び出したのに別れ話を切り出されると勘違いして、青に逆プロポーズされた』なんて言えないか」

青「だ、だってあの時は深刻な顔してたから、てっきり別れ話を切り出されるものだと……」

無「……俺が青と別れると思った?」

青「え?あっ」(ぎゅ

無「青は誰にも渡さない。絶対に」

青「……」

無「と、そんなわけで青のかわいらしい顔はまだしばらくは僕だけのものにしておきたいので言いませんでした」


『好み』

青「……」

無(なんか、ものすごく見られてるんですが)

青「はい、これ」

無「……サンドイッチ?」

青「作り過ぎたから食べるの手伝って」

無「珍しいな青が作り過ぎるなんて」

青「……考え事しながら作ってたら、こうなってたのよ」

無「そっか……青」

青「なに?」

無「その、見つめられると食べにくいんだけど」

青「……いいじゃない、作ってあげたんだから大人しく食べなさいよ」

無(……作って? 作り過ぎたとか言ってなかったか?)

青「……なによ」

無「……なんでもないよ、いただきます」

青「……どう?」

無「ちょっと辛めでオレ好みの味だよ。青は食べないのか?」

青「食べるわよ……っ!?」

無「どうした?」

青「……辛い」

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無「泣くほど辛いか?」

青「ぅ—」

無(涙目で上目使いとか反則なんですけど)

青(色無の好みに合わせて辛くしたら予想以上だったわ)

無「……ほら、水」

青「……ありがと」

空「ただいまー、あっ、お姉ちゃんが泣いてる! どうしたの?」

青「色無(の好み)に泣かされたのよ」

無「え?」

空「お姉ちゃんを泣かせるなんてすごいね」


青「おやすみなさい」

無「あぁ、おやすみ」

彼女と結婚して数年

子供にも恵まれ毎日幸せな日々を送っている色無だったが……

無(最近、な〜んか物足りない……。そうだ!)

——朝、寝室にて

青「朝よ、起きて」

無「……ん」

青「ほら、起きて」

無「う〜ん……青、おはよう」

青「『おはよう』じゃないわよ。早くしないと遅刻よ」

無「青、今日もカワイイね」

青「なっ!寝ぼけてないで早く起きてちょうだい!」

無(これだよ、これ)

青「あら、空君おきたの?朝ごはんできてるわよ」

——玄関にて

青「今日のお帰りは?」

無「こんなキレイな奥さんが待っていてくれるんだから、できるだけ早く帰ってくるよ」

青「は、早く行かないと遅刻するわよ!」

無「はいは〜い。いってきま〜す♪」

無(いい感じ、いい感じ)

青「まったく……。あ、空君も用意できた?」

——その日の色無の日記

最近、感じていた物足りなさの正体が判明した。

嬉しいくせに、そんな素振りは一切しない

ほんと素直じゃないんだから。

でも、青のそういうところに惹かれたんだけどね。

一緒にいることが当たり前になりすぎていたからかな。

最近サービスが足りてなかったな。反省。

今度、久しぶりにデートにでも誘ってみようかな。

どんな反応をするか今から楽しみだ。

——その日の青さんの日記

今日、夫(『夫』だって。何か恥ずかしい())の様子が少しおかしかった。

わたしのことを「かわいい」だの「きれい」だのとやたらと褒めてくれたの。

突然のことだったから驚いた。

……けど、嬉しかったな。(もちろん色無の前ではそんなこと言わなかったけど)

だって彼、最近全然かまってくれないんだもの。

そりゃ、仕事が忙しいのもわかるけど……

私たち、その……ふ、夫婦なんだから。

これじゃ、あの寮にいた頃とあんまり変わらないじゃない。

でも、こんなこと言ったら笑われそうだから絶対に言わない。

はぁ……もう少し素直になりたいな。

——その日の空くんの日記

『ぼくのおとうさんとおかあさん』

ぼくのおとうさんとおかあさんはとてもなかよしです。

けんかなんてしません。

ぼくも、そんなおとうさんとおかあさんがだいすきです。

きょうのあさも、おとうさんがおかあさんのことを「きれい」「かわいい」とほめていました。

でも、おかあさんはなぜか、すこしおこっていました。

ほめられてうれしくないのかな?

となりのおばさんや、やおやさん、おさかなやさんにほめられれてもおこらないのに……

どうして、おとうさんにほめられるとおこるのかな?

おとなってよくわかりません。

あした、みどりくんにきいてみよう。


無「ふぁ〜……眠い……ちょっと、昼寝でもするかな……」

青「色無、黄緑がおやつ作ってくれ……」

無「……ぐぅ……」

青「あら?寝てるわね……」

無「すかー……」

青「……起こすのも可哀想だし、このまま寝かせておこうかしら」

無「すぴー……」

青「それにしても気持ち良さそうに寝てるわね……な、なんだか私も眠くなってきたみたい。べ、別に色無と一緒に寝たいとかそういう訳じゃなくてただ単に眠くなっちゃっただけなんだからねっ! と、隣……寝てもいい?」

無「くー……」

青「……へ、返事が無いわね。じゃあ寝るわよ。(ガサガサ)……ち、ちょっとこのベッドじゃ狭いわね……だ、抱きついてもいい?」

無「くかー……」

青「……抱きついちゃえ!」

無「んぅ……なんか苦し……」

青「すぅ……」

無「……これはきっと何かの間違いか夢だよな。うん、そうだよ……そうに違いない」

青「すぅ……」

無「よし、もう一度寝直そう……って、こんな状況で寝れるかぁ!」

青「んっ……ふぁぁ……あ……」

無「え……」

青「……な、何にも言わないでもう一回寝てちょうだい!寝たフリでもいいからっ!!」

無「……その間に逃げるつもりか?」

青「うっ……」

無「寝たフリはしてやるけど、青のこの行動と温もりは忘れないからな」

青「……もう……ばかっ」


人の涙は、とても苦手。

見てるとそれだけで苦しくて、自分のことじゃなくても泣きそうになる。

だから、アイツが泣かないように。

私はアイツに泣いてほしくないから、今まで出来る限りのことをしてきた。

そして、今日。

「やった、やった……!俺、受かったんだ!!ホラ見ろよ青、あそこにあるだろ!俺の受験番号!!」

春から始まる新天地、彼はそれを望んだ場所で過ごす資格を得た。

今まで積み重ねてきた努力が実ったからだろう。彼はかつてないほどに興奮した様子だった。

ふと、見慣れた横顔を伝う、見慣れないもの。

それを見て、私は、どうしようもなくなって——気がついたら、彼を正面から抱き締めていた。

「え、あ、あお……?」

「がんばったね、色無っ。 あぁ、よかった、ホントに、よかったよぉ……ごめ、わたし、自分のことみたいに、嬉しくって」

「オマエ、泣いてんのか……?」

「しょうがないでしょ!もらい泣きだから、アンタの、せいなんだからっ……!」

春の、ある日。

心から喜べる人の涙があることを、私は初めて知った。

それでも自分は泣いちゃったけれど——この涙は、嫌いじゃない。


 カチャ。

無「あれ、先客が居たか?」

青「い、色無?!なんで屋上なんかに……」

無「いやー、晴れてて気持ち良かったから日向ぼっこでもしようかと」

青「ま、真似しないでよっ!」

無「しょうがないだろ。こんなに晴れてるんだから」

青「……そうね。あなたを攻めてもしょうがないわね」

無「うんうん、青にしては中々物分りがいいじゃないか」

青「ば、バカにしないでよ!」

無「いつもなら理不尽な理由つけて俺を追い出すんだけどな。ははは……」

青「あんまり変な事ばっかり言ってると追い出すわよ?」

無「はいはい、悪かったよ。隣、座っていいか?」

青「あ、うん」

無「—っしょ。……久しぶりだな、こうやって青と二人きりになるの」

青「……そ、そうだ……ね。」

無「……緊張してる?」

青「ち、違うわよ!」

無「分かり易過ぎ。でもそこが可愛いんだよな、うん」

青「な、何言って——っくしゅん!」

無「大丈夫か?晴れてるって言ってもまだ3月だしな。これ、掛けろよ。(バサ)」

青「あ、ありがと……。」

無「顔がほんのり赤いのは仕様ですか?」

青「もぅ……さっきからなんなのよ!」

無「いや、久々に青の顔まじまじと見れたからさ。ちょっと青のこと観察してみた」

青「……もういいわ。部屋に戻る」

無「そんなこと言わずにもう少し一緒に居てくれよ。青ともっと話もしたいし」

青「……私と話なんかして楽しい?」

無「うん、ていうか一緒に居るだけで楽しいな」

青「……も、もうちょっとだけだからね。」

無「ありがと、青」







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 03:11:21