青メインSS

青「♪〜♪〜♪♪〜」

無「おー。すげー」

青「それほどでも」

無「青ってバイオリンも弾けるんだな」

青「別に、特技と言うほどでもないわ。親から習わされていただけだし、上手い人と比べたらどうしても劣るし」

無「いやいや、それでもすごいよ」

青「ありがと」

無「青って何でも出来ちゃうんだな。料理も上手いし、勉強もできるし、おまけに美人だし。才色兼備ってやつだ」

青「……それで?」

無「宿題を……見せて下さい……」

青「そんなことだろうと思ったわ。答えを見せるのは嫌よ。本人のためにならないから。でも、勉強する気があるんだったら教えてあげる」

無「ああ、神様仏様青様ぁ〜」

青「泣き付かないで、鬱陶しい」

空「ああ見えてベタ惚れなんだよね」

白「ねー」


無「まさか一旦しまったコタツにまたお世話になるとはな……」

青「そうね。2月は暖かかったものね」

無「……あれ、青か?てっきり灰か紫辺りかと……」

青「こう見えて冷え性なのよ」

無「でもなんで俺の部屋にいるんだよ?」

青「べ、別に色無と一緒に居たいとかじゃなくて、私の部屋もコタツしまったからしょうがなくここに来たのよ!」

無「あーあ、素直に前者の理由だって言ってくれれば追い出したりしなかったんだけどなぁ。それっ!(バサッ)」

青「ち、ちょっと、やめてよ!寒いじゃない!」

無「自分の部屋にコタツを出して自分の部屋で暖まって下さい」

青「ぅ……い、色無のいじわるぅ……」

無「……へ?」

青「わ……私だって……色無と一緒にコタツ入りたいもん!……こ、コレでいいんでしょっ?!」

無「……は、破壊力抜群だ。」

青「ね、ねぇ……隣いってもいい……?」

無「あ、あぁ(ドキドキ)」

青「……色無、暖かい……」

無「あ、青も暖かい……な(ヤバイ、灰とか紫にはありえない大人の色気が……しかも髪からいい香りが……俺もうだめぽ……)」

青「二人っきり……だね」

無「う、うん……」

青「色無……」

無「青……」

灰「カットぉー!!カットカットぉ!!」

無・青『(ビクッ!!)』

灰「空気?なにそれ美味しい?ていうかあたしの神聖なるコタツでお二人さんは何をおっぱじめる気だったんですかい?(ニヤニヤ)」

青「なななな何にもしてないわよ!!!」

無「そそそそうだぞ!!まだ何にも……」

灰「ほう、“まだ”何にも……ねぇ(ガシッ!)—っ?!」

黒「色無、青。この子はお仕置きしておくから続きはゆっくりしていいわよ(ズルズルズル)」

無「……ふぅ(いろんな意味で少し助かったかもしれない)」

青「……はぁ……(せっかくのチャンスだったのに……)」


『てれかくし』

——弓道場

青「っ……今日はダメね」

無「青、迎えにきたぞ」

青「色無、どうしてここに?」

無「……忘れたのかよ」

青「え? ……あ!」

無「帰りに食材買ってきてくれって朱色さんに頼まれただろ?」

青「忘れてたわ、ごめんなさい」

無「珍しく素直だな」

青「普段は素直じゃないと言いたいのかしら?」

無「いや、よく考えてみたら青は普段失敗とかうっかりミスとかしないもんな」

青「……一応気をつけてはいるわ」

無「だからちょっと新鮮に感じたのかもな」

青「なっ! ……外で待ってなさい、今着替えるから」

無「その格好の青も久しぶりにみた気がするな」

青「……今からでも入部したら? 今なら直接指導してあげるわよ」

無「いや、やめとくわ」

青「……どうして?」

無「青に見とれて怪我しそうだし」

青「……」

ギリギリギリ

無「待て、怒るな、謝るからこっちに向けるな!」

青「……怒ってない」

無「わかった! 俺、外で待ってるから。じゃあな!」

青「……照れ隠しに決まってるじゃない……ばか」


無「……きれいだ」

青「え!?ほ、褒めたって、な、何にも出ないんだからね!」

無「?何言ってんだよ『桜』のことだよ、さ・く・ら。青、お前さっきから変だぞ。何だか上の空って感じで。具合でも悪いのか?」

青「だ、大丈夫よ(なんだ、桜かぁ……)」

無「ほんとに大丈夫か?俺が突然、花見に行こうなんて言い出したから無理してるんじゃ」

青「ほ、ほんとに大丈夫だから。っていうかもっと前に私から誘おうと思ったんだけど恥ずかしくてできなくて……だから誘ってくれて寧ろ嬉しかったし」

無「青……」

青「わ、私ったら何言ってんのかしら。い、今、聞いたことは忘れて」

無「忘れろったって……」

青「いいから!」

無「……じゃあ俺が今から言うことも忘れろよ。いいな?」

青「?」

無「初めのアレ、さっきは『桜』のことだって言ったけど、本当は桜をバックにした『青』のことだったんだ」

青「!?」

無「ハイッ!!今、言ったことは忘れて」

青「……ばか(忘れられるわけないでしょ〜!!)」

無「……ごめん」

青(なんで謝るのよぉ〜!っていうか何で「ありがとう」が言えないのよぉ〜私!)

無「……じ、じゃあ行こうか」

青「う、うん……」


—カリカリ

青「どう、気持ち良い?」

無「あぁ……膝枕してもらってるうえに耳掻きまでしてもらえるなんて……」

青「ふふ、たまにはいいでしょう?」

無「俺は毎日でもいいけど……—っ!!」

青「きゃっ!だ、大丈夫?!」

無「少し痛かったかな」

青「ご、ゴメンなさい……」

無「ん、なんかやけに素直じゃないか?」

青「そ、そうかしら?」

無「なんか隠してる?」

青「べ、別にゴールデンウィーク中に二人っきりでディズニーランドに行きたいとかそんなこと期待してないわよっ!」

無「……こういう時青って凄い分かりやすいよな」

青「えっ?……あ、あぅ」

無「まぁ、そんなとこが好きなんだけど」

青「(カァー)」

無「おーい、青さん?大丈夫?」

青「は、反対の耳掃除するわよ!」

無「あー、はいはい」

青「ほら、早く反対向いて!」

無「あんまり焦って耳掻き失敗するなよー。病院送りにでもなったらディズニーランド行けないんだからな」

青「!!」

無「ほらほらそんなに嬉しがってると失敗するぞ」

青「ぅー……色無のばかぁ」

無「ちょっ……痛いっ!痛いって青さん!鼓膜が破れちゃう!」


 二人でお留守番。〜青とお留守番〜

無「青ー」

青「なに?」

無「呼んだだけー」

青「よ、用事もないのに人の名前呼ばないでよっ!」

無「でもなんか二人っきりで会話もないとちょっと気まずいじゃん?」

青「そ、それはそうだけど……」

無「ほら、俺が青の名前呼んだだけでこんなに会話しちゃったし」

青「うーん……じゃあこうしましょ?5分くらい何も話すことがなかったらお互いの名前を呼び合うの」

無「なるほど。やってみるか」

青「じゃあさっきは色無が私の名前呼んだから今度は私が色無の名前呼ぶわね」

無「分かった」

—5分後

青「……(そ、そろっと5分経ったかしら?)」

無「……」

青「……(改めて人の名前を呼ぶのも……け、結構緊張するわね……)」

無「……」

青「(よ、よし!呼ぶわよ!)……い、色無……?」

無「……」

青「(あれ?反応がない?)……色無?色無ー?」

無「……すー……」

青「寝てる……わね」

無「……」

青「……もう、しょうがないわね。(バサッ)……寝顔に免じて毛布くらいは掛けてあげるわ」


『掃除』

青「色無、そうじサボってどこいくつもり?」

無「そうじ? 今日当番だったっけ?」

青「今日、遅刻したでしょ」

無「……そうだった」

青「校庭のそうじだからね」

無「わかったよ」

無「……あー、めんどくさいなー」

青「……やっぱりね」

無「青!」

青「適当にやって帰ろうなんてだめなんだからね」

無「わかったよ」

青「ほら、半分やってあげるわよ」

無「いいの?」

青「早く終わらせないと学級委員の私が怒られるから、仕方ないから手伝ってあげるわよ」

無「ありがと、青」

青「っ……、口よりも手を動かしなさいよね」

無「うん」

青「……」

無「青? 顔赤いよ、かぜでもひいたの?」

青「ひ、ひいてないわよ!」

無「だって」

ぴた

青「!!」

無「ほらおでこ熱いよ、耳も真っ赤だし」

青「い、いいから早くそうじしなさいよ(……手伝いにきて良かったかも)」


灰「ちょいとそこのお嬢さん」

青「何よ?」

灰「色無の旦那のことなんですがね」

青「い、色無がどうしたっていうのよ?」

灰「いやね、このままだとちょっとマズいことになるんじゃないかと思いましてね」

青「どういうことよ?」

灰「男の旦那と侍黒が付き合い始めたことは知っていますね?」

青「もちろんよ」

灰「それでも初めは誰も信じなくて、悔しくなった男の旦那が寮まで乗り込んできましたよね」

青「そういえば、そんなこともあったわね。あれにはさすがに驚いたわ」

灰「驚いただけですか?」

青「な、何よ、他に何かあるっていうの?」

灰「『うらやましい』と思ったんじゃないですかい?」

青「!?」

灰「自分も色無の旦那とあんな風になりたいと思ったんじゃないですか?」

青「そ、そんなこと……」

灰「そう思ったのは自分ひとりだけだと?」

青「ど、どういうこと?」

灰「深い意味はありませんよ。でも、そろそろ動き出す輩がいてもおかしくない頃なんじゃないですかい?」

青「……・」

水「色無くん、ちょっといい?」

無「ん?どうした水?」

青「!!!!!」

 

青「……」

無「お、青。どうした?浮かない顔して」

青「……さっき水と何話してたの?」

無「あぁ、あれか。何でもないことだよ」

青「色無にとっては何でもないことかもしれないけど、私にとってはそうじゃないかもしれない」

無「ど、どうしたんだ一体?」

青「教えて!水と何を話してたの?」

無「う〜ん……」

青「お願い」

無「いやな、水が今度『付き合って欲しい』らしくてな」

青「……やっぱり」

無「え?」

青「で、色無は何て答えたの?」

無「オーケーしたよ。別に断る理由もないしな」

青「……そう」

無「?」

青「お幸せに……」

無「お、おい!どこ行くんだよ!」

 

 これでよかったのだ——そう自分に言い聞かせる。彼には自分よりも水のような子のほうが合っているのだ。

 でも……。

青「でも、やっぱり嫌だよぅ……」

無「はぁはぁ……青」

青「色無……何しにきたの?」

無「『何しに』って、青のことが心配で追いかけてきたんだ」

青「わたしのことなら大丈夫だから」

無「そんな顔して言われてもな」(グイ

青「あっ」

無「全然、大丈夫そうに見えないんだよ」

青「は、離して!」

無「離さない」

青「いいから!ほんとに大丈夫なんだから!ほっといてよ」

無「ほっとけない。いまの青はほっとけないよ」

青「わ、わたしにかまってる暇があるなら、水のところに行ってあげなさいよ」

無「何で水の話が出てくるんだ?」

青「だ、だってあなた達『お付き合い』するんでしょ?」

無「何、言ってるんだ?」

 

無「アッハッハッハッー!!」

青「むぅ〜そ、そんなに笑わなくてもいいじゃない」

無「ご、ごめん。で、でもまさかそんな勘違いするなんて。青らしいといえば青らしいw」

青「だって、色無がまぎらわしい言い方するんだもん」

無「それにしても、俺と水が付き合うかぁ……またすごい勘違いだな。ぷっ」

青「もぉ〜それ以上言うと今度は怒るわよ!」

無「わかったwわかったw」

青「……」

無「あれ?ほんとに怒っちゃった?」

青「知らない」(プイッ

無「機嫌直してよ〜。青〜」

青「……」

無「ねぇってば〜。あーおちゃん♪」

青「……」

無「……悪かったよ。おわびに青の言うこと何でも聞くからさ」

青「……」

無「ね?」

青「……じゃあ、ひざまくら」

無「それくらいならお安い御用」

青(ポンポン)

無「え?」

青「あんたが私のひざをまくらにするの」

無「?」

青「ほら、はやく!」

無「あ、ああ……」

青「……」

無「何か変な感じだな」

青「何が?」

無「男が女の子に『ひざまくらしてぇ〜』って頼むのはわかるんだが……」

青「色無もしてほしいんだ。ひざまくら」

無「ま、まぁ、してほしいか・してほしくないかって言われれば、して……ほしいかな」

青「……それくらいだったら私がいくらでもしてあげるわよ」(ボソ

無「何か言った?」

青「な、何でもない」

無「そっか。……それにしてもさ」

青「何?まだ何かあるの?」

無「俺が水と付き合うって聞いてあんな風になるってことは、青……」

青「か、勘違いしないでよねわ、わたしはあんたなんかと付き合うことになる水が心配だっただけで」

無「へぇ〜(゚∀゚)ニヤニヤ」

青「も、もう知らない!」

無「いてぇ!いきなり立ち上がるなよ」

青「ふ〜んだ」(スタスタ

無「あ、待ってったら。青〜」

灰「……何だか敵に塩を送ってしまったらしい」

黒「策士、策に溺れる。ね」

灰「お、お姉さま!」

黒「男女の色恋沙汰は公式通りになんていかないものよ」

灰「勉強になりました」

黒「ところで灰……」

灰「?」

黒「私にも色無を落とすためのとっておきの策を教えてくれない?」


青「はぁ……」

無「どうした?」

青「最近色無がかまってくれないのよ……前はたくさんかまってくれたのに……」

無「んー、なんか青が嫌そうな反応してたからさ……」

青「やっぱりそうなのかな?本音は嬉しいんだけど、なんていうか……照れ隠しでついつい悪態ついた言葉が出ちゃうのよね……」

無「照れ隠しだったのか、あれ」

青「うん」

無「そっか……じゃあこれからはかまってもいいんだな?」

青「うん。……あれ?今日の空なんか声低く……な……い……?」

無「ん、どうした?」

青「???!!!」

無「ちょ、変な声あげるなよ!」

青「い、色無?!な、なんで色無……も、もしかして……今の全部色無が……」

無「なんだ、空ちゃんだと思って俺と話してたのか?」

青「ぁ……ばかあぁぁぁ!!色無なら色無だって言いなさいよっ!!」

無「普通声で分かるだろ……常識的に考えて……」

空「そんなことも頭に浮かばない程悩んでたんじゃないんですか?」

無「空ちゃん?」

青「そ、空っ?!」

空「良かったね、お姉ちゃん。これで毎日色無先輩にかまってもらえるね♪」

青「ぅ……」

無「まぁ、機嫌を損ねない程度にな」

青「(ぼそっ)……色無にならいくらかまってもらってもいいのに」

無「なんか言ったか?」

青「はっ?!な、何にも言ってないわよ!ばか!」

空「べ、別に羨ましくなんてないもん!……ぐすん」


『前略——』

馬鹿みたいにセミがミンミンと合唱していた。

田舎とはいえ、当然のように道はアスファルトで、都会ほどではないにしろ、跳ね返ってくる熱が気温と一緒に俺を襲ってきた。

家に着くと、郵便物がいくつか届いていた。

『元気ですか?』

汗を吸い込んだワイシャツを脱ぎ、シャワーを浴びる。

軽く汗だけ流して、服を着替えた。ようやくさっぱりした感じだ。

『私のほうは変わらず元気です』

時間で言えば充分夜なのだが、夏の日の長さがまだ夕方だと主張している。

さっきの郵便物のなかに、よく見知った字で綴られた封筒を見付け、少し驚いた。

『 あなたはそっちでもあなたらしく過ごせていますか』

整った綺麗な字。アイツらしさがあまりににじみ出ている字で、懐かしくて笑みが零れてくる。

———三年、経ったのかな。

『私は最近ヘンに忙しくて、あなたのことをふと思い出したりしています』

楽しかった日々っていうのは、まさに一瞬で過ぎ去っていく感じがしていた。

けれど最近、べつにどうってことない毎日の流れすら早くて、時の流れは残酷だなぁなんてありがちな思いを持たざるを得なかった。

『こちらは最近、綺麗に晴れる気持ちいい日が続いています』

たった三年。長いようで、一瞬だったその時間を、アイツの手紙で通り越しているように、アイツの表情が、アイツとの思い出がとどまる事無く彩られていく——。

『そっちの空は晴れていますか——』

 

放課後、音楽室、バイオリン。

午後の日差し、窓際、夏の風。

そのなかに、彼女はいた。

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「……誰?」

……気付かれた。

「いや、お構いなく。忘れ物を取りにきただけだから。……続けてていいよ」

「……」

彼女———青は、俺を疑わしそうな目で見ていた。

しかし目線をまたバイオリンに戻し、演奏に取り掛かった。

俺はその間、音楽室での俺の席から消しゴムを回収した。

……それにしても———綺麗だ。

青といえば、俺たちの学年の入試トップ。おまけにバイオリンがとんでもなく上手くて、その上……素晴らしく美人だった。

バイオリンの音の綺麗さにも驚いたが、青のその姿ががあまりにも綺麗で……こういうのを神々しいって言うのかもな、とにかく、俺は思わず見惚れてた。

「……」

名も知らないような、おそらくクラシックの曲。

普段なら興味など絶対惹かれない曲も、青のバイオリンから流れてくるなら、いくらでも聞いていたいと思えた。

「……あんた、いつまでそこにいる気?」

気付けば、青の演奏を一曲まるまる聞いていた。ん?二曲かも……いや三曲?

青はその綺麗な顔をやはり不審そうにしながら、そこまで長居をしてしまったらしい俺に呆れの目線を向けていた。

「つ、つい。あんまり綺麗だったから……」

やべぇ。本心を包み隠さず言っちまった。

「……よく飽きなかったわね。あんな長い曲を二曲も聞いてるなんて」

どうやら俺の滞在期間は二曲分だったらしい。

正直曲の長さにも気付かないほど見惚れてたんだけど、どうやら青はさっきの綺麗を曲が、ってとったらしい。助かった。

「いや全然。すげぇ上手かったし」

流れ上、わかったような顔をして曲を誉める。まぁ、上手いと思ったのは確かだし。

「あ、ありがと……」

……意外だった。俺は当然、当たり前でしょ、みたいな態度を返されるもんだと思っていた。青がバイオリン上手いだなんて、そんなに青と親しくない俺でも知ってるようなことなんだから。

それが、違った。

彼女は少し照れたように、恥ずかしそうにしながらそう言った。

「——っ!」

ヤバい。可愛い。

今まで高嶺の花のような存在だった青が見せた、俺や皆と同じような自然な表情。

青のソレは、普段の青の整った綺麗さとまた違った魅力に溢れていた。

……危ねぇ、オチるとこだった。

「……ねぇ、せっかくだし、もう一曲聞いていかない?」

俺がそんな葛藤をしているとき、青の小さな声が聞こえた。

「え、いいの?」

「せ、先生がなかなか来ないから、時間をつぶしてるのよ!」

青の顔は赤くなっていた。たぶん照れているんだろう。

……俺、もうオチてもいいや。ホント可愛い。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

せっかくの機会だ。俺は今度は青の近くの席に座った。

近くで見ると、余計に青はりりしかった。

「今からの曲は、少し自信あるの」

青は軽く笑って言った。……今日はホントにラッキーだな。

「そりゃあ楽しみだな」

響く音、りりしい彼女、聞き入る自分。

浮かんでる雲、柔らかくなった日の光、向き合う二人。

俺たちは、ここから始まった。

 

「なぁ、知ってるか?」

夏の終わりの、青い空。

そこに一筋の軌跡を描く雲を見て、彼が言った。

「飛行機雲には二つ種類があるんだって」

「へえ、そうなんだ。知らなかったわ」

私たちは二年生になった。

とはいえ、たった一年で急に大人になれるわけもなく、私にいたっては身長もあまり伸びず、何が変わったといえばバイオリンが去年よりは上手くなったことだろうか。

そして……

「そのうち俺たちが見てるのは一つだけなんだってさ」

私の隣に、彼がいることが多くなった。……ううん、逆、かな。

「色無って、そういうことばっかり知ってるよね」

色無はたまに突然、こういう話をしたりする。宇宙の星のことだったり、こういった、すぐそこにある自然のことなんかだ。

その言い方が、物知り顔なわけじゃなく、ふと何かを気付いたように柔らかな口調でそんな話を教えてくれる。

この時の色無の話し方が私は結構好きだった。

彼の見ている世界は、私が見ているそれよりも美しい気がした。

そして、そんな彼の近くにいれば、その世界が少しでも見える気がしていたんだ。

「失礼なやつだな。それしか知らないみたいに」

私の言い方が悪かったらしく、彼は少し拗ねたようにこちらを見た。

……思ったことと違うことを言ってしまうのは私の小さい頃からの性分だ。直したいとは思ってるんだけど……。

「そういうことのほうが知ってそう、とは思ったわ」

「む……反論できねぇ……」

私たちの影は、まだ高い位置にある太陽によって小ぢんまりとしながら並んでいた。

うなだれたくなるような暑さだったけれど、色無が教えてくれた飛行機雲がまた気になって、空を見上げた。

飛行機雲は少し広がって、ぼやけてきていた。雲が綺麗に軌跡を描いている時間は意外と短い。

「見えない飛行機雲があるんだ……」

色無が言っていた、もう一つの飛行機雲。その雲も、綺麗な軌跡を描いてるのかな。

「……なぁ青、今度の日曜日、暇か?」

彼も、私につられて空を見ていた。同じぼやけた飛行機雲を見上げたまま、彼が尋ねてきた。

「今週は……大丈夫」

私はその姿勢のまま、質問に答えた。

……ホントはちょっと、ドキドキしてたんだけど、ばれないようにしてたんだ。

「じゃあさ、どっか遊びに行こうぜ。せっかく夏休みなんだしさ」

彼も普段通りにしようとはしているんだろうが、その声からはちょっぴり緊張している感じがにじみ出ていた。

……私と、同じだ。

そう思えたことが何だかとても嬉しかった。

「———うん」

目には見えない飛行機雲。確かにあるかもって、なんとなく思えた。

 

なんとなくだけど、七夕の日って晴れない日が多い気がする。

……俺だけかな?

まあいいや。とにかく今年の七夕も、晴れなかった。それどころか、しとしとと雨が降る日だったんだ。

「七夕、今年も晴れねぇな」

ちょうどその時期は三者面談の時期であり、俺たちは普段よりは早く学校の拘束からは放たれていた。

俺は隣の、青い傘をさしている彼女を気にしながら、一人で歩くときよりはややゆっくりとした速さで歩いていた。

「そういう時期なのよ、たぶん」

道に貯まっている雨水に気を付けるように下を見ながら彼女は歩いている。ローファーは濡れると大変そうだしな。

「そんなもんか」

まだバイウゼンセンがどうこうっていうことなんだろうか。

くわしくはわからない。

「青は面談いつ?」

俺たちはもう三年生になってしまった。教師も親も進学のことで日に日にやかましくなってきていた。

三年になってからの三者面談は今まで感じたことのないような緊張感があるという。

「明日」

青はそっけなくそう返した。

ん?そっけなく?

「青、なんかあった?」

今の対応は、そっけなく、ってものじゃない。

青がいつもとは違う感じなんだなってなんとなく思った。

「……」

当たり。

青が何かを伝えようとするときは、こんな風に少し間を置くんだ。

それを俺は急かさないし、青のタイミングで伝えてくれればいいと思ってる。

「……あのさ」

うん。自分から伝えてくれた。

誰かとコミュニケーションをとるとき、相手から自分のことを開いてきてくれるってことはとても嬉しいことだと思う。

それを俺は、正面から受けとってやるんだ。それがいつでもできることが理想なんだろうな。

「……私、やっぱり……音大に行きたい」

雨音はたいして大きくはなかったが、その音で消えてしまいそうな声で彼女は言った。

「そっか」

彼女のバイオリンの腕はどんどん上達していった。

素人の俺でもその差がわかるのだから、その道の人にとって見ればよっぽどなんだろう。

彼女がそういう道を選びたくなるのも当然だと思えた。

「いいと思うよ。青なら、きっとそういうところでもやっていけるだろうし」

俺は青がやりたいと思ってることは全部応援してあげるつもりでいた。

「……でも」

しかし困っているのはむしろ彼女のほうだった。

「でも?」

彼女が何を言いたいのかは大体わかってる。それでも聞いてしまったのは、まあ、欲ってやつだろう。

「……それだと、色無と……」

そう、俺の志望校は地元の公立大だった。

そして彼女の志望の大学は東京にある。

単純だ。青が音大を選べば、俺たちは離れ離れになる。

青は最近まで本気で進学先を悩んでいたようだった。

彼女のなかにも、音楽では食べていけないかも、という不安もあったんだろう。それで余計に、地元校への志望替えの可能性を探っていたんだ。

……でも彼女は、やはりバイオリンをとった。

「仕方ねえよ」

隣の傘が小さくなっていくように感じた。

今すぐにでも震えだしそうな彼女が愛しかった。

「——あのさ、青。俺、決めたんだ」

突然の俺の言葉に、青の傘が揺れた。

「これからさ、会う回数減らさないか?」

「——な、なんで?」

彼女は明らかに、動揺していた。でも俺は言葉を続ける。

「お互いやるべきことがあるだろ?」

青だってバイオリンの練習が、俺にも受験勉強がある。

「で、でも……っ」

もう彼女は泣きそうだった。

彼女としてみれば、春には離れ離れになってしまうのだから、少しでも一緒にいたいと思っているのだろう。

「俺も勉強しなきゃなんないしさ。……ごめんな」

「……」

傘で隠したようだったけど、彼女の表情なんてすぐわかった。

その表情を想像するだけで、胸が張り裂けそうだった。

……もう、ダメだ。

「——東京の国立受かるには、今の俺じゃ無理なんだよ」

「——ッ?!」

我慢し切れなくなって、俺は青の傘の下から、青の顔を覗きこんだ。

もちろん、笑顔でだ。

「え、え……?」

「俺も行くよ、東京。親が国立じゃねえとダメだっつーからめっちゃ勉強しねえとダメだけどな」

本当に、彼女は泣く一歩手前な顔をしていた。

自分でそんな顔にさせたくせに、なんだか堪え切れなくなって、俺は彼女の唇を俺のそれで軽く撫でた。

「一人になんかさせるかよ。絶対、一緒にいてやるから」

……ここがあんまり人気のない河川敷で助かった。

俺は傘を放り投げ、青の体を抱き締めた。

こんなに大切な恋人と、離れるなんてできるわけがない。

「バカ……バカ色無!」

今度は間違いなく、彼女は泣いていた。

きっとさっきまで我慢していたものが流れ出てきたんだろう。彼女はぽろぽろと涙を零しながら、しかし拭こうともせずに俺の背に手を回し、きつく抱き返してくる。

「安心した?」

自分でも性格悪いと思うが、あえてその言葉を彼女の耳元で尋ねた。

青は無言で、ひたすら頷いた。

「大好きだよ、青」

いつか言った言葉をまた繰り返す。

けれど想いは間違いなく今のほうが強くなってる。

彼女のぬくもりが腕のなかにあることが何よりも幸せだった。

急に、青がその手を離した。

そして次の瞬間……

「……」

彼女は少し背伸びして、俺にキスをした。

——彼女からしてくるのは、これが初めてだった。

やりすぎたかな、なんて今更な思いを抱きながらも、彼女の愛しさがさらに膨らんでいくことも感じてた。

「だい、好き」

彼女の声も、表情も、温もりもずっと近くで守ってくんだ。

短冊もなにもないけど、七夕が何か願いを叶えてくれるなら、どうかいつまでも——。

 

カーテンのわずかな隙間から、朝の日の光が差し込んできていた。

私はそれで目が覚めた。今日もいい天気だ。

「うぅん……」

ベッドのなかで目を擦る。目は覚めるけど、太陽の光は少し強い。

「……ふふっ」

隣に眠る、大好きな人の横顔。

ただそれがこんなにも近くにあるということが、これ以上もなく嬉しかった。

寝ている隙に、というわけじゃないけど、私は色無の頬に軽く口付けた。

トーストを焼きている間に卵を焼いてオムレツを作る。

コーヒーも入れたし、軽くだけどサラダも作った。

……準備は万端。

「おはよ、青」

ここまで準備をしていると、たいがい色無も起きてくる。

まだ少し眠そうな目をしてる彼になんだか笑みがこぼれてきた。

「おはよう」

その笑顔のままで、私は色無に挨拶を返した。

「ありがとな」

色無は、私がこういう風にご飯を作ったり、掃除をしたりと、まあ普通なことをすると、こうやってねぎらいの言葉をかけてくれる。

私がやりたいからやってることが大半だから別に、と思うときもあるけど、でもどこかこの言葉を掛けてもらうために頑張っちゃう自分がいることも否定できない。

やっぱり、嬉しいんだもん。

「ううん」

私はまた笑顔でそう返した。

「色無、ご飯にしよ」

今日の大学の講義は二人とも少しゆっくりできる時間からだった。

わずかなことかもしれないけど、朝ご飯をゆっくり食べれることは小さな幸せだと思う。

「今日も泊まってく?」

「ん、今日は帰るよ。譜面も見たいし」

「そっか。……演奏会、いつだっけ?」

「九月の中頃。……来て、くれる?」

「もちろん。最前列の真ん中に陣取って聴くさ」

色無は、私のバイオリンを本気で応援してくれる。

親にさえ、家に帰ればぐちぐちと反発の小言を言われる私の夢を、色無はいつでも励ましてくれる。

「もう、大袈裟」

「ははは。でも、絶対行くよ」

色無は、モーツァルトだってろくに知らないくせに私のバイオリンが好きだって言う。

……でもそれが、先生に誉められるときより嬉しかったりするんだ。

「そうだ。色無、今年は夏休みどこ行く?」

行く、って言葉で思い出した。

「練習はいいのかよ」

バイオリンの話から急に話題が変わって、色無が可笑しそうにする。

「や、休みの日ぐらい見つけるわよっ」

毎日毎日バイオリン漬けになるわけじゃない。

なら、そうじゃない日は目一杯楽しみたいじゃないか。

「わかってるって。どこがいい?」

まだ笑ってる。そんなに可笑しかったかな?

「うーん……海、なんてどう?」

まさに夏の定番だ。

それでもやっぱり、海には惹かれる何かがあると思う。

「海か……。うーん」

珍しく、色無が難色を示した。

「あれ、色無、泳げなかったっけ?」

「いや、泳げっけどさ」

「じゃあ、磯の匂いがキライとか?」

意外とこういう人がいるらしい。

あの匂いがあってこその海だと思うけど。

「それも問題ない」

「じゃあ何で?」

私としては自然な質問をしたつもりだ。

色無はどこか気まずそうに頭をかいていた。

「……海ってことは、水着になるじゃん」

「まあそうね」

至極当然だ。

「なんだ……その……他の奴らに、お前の水着姿とか見せたくねえし」

赤面した顔を誤魔化すように、やや下を見ながらボソボソと色無は言った。

「バーカ」

そんな彼を見てにやけそうになりながらも、こらえながら私は色無のほうを見た。

「そんな奴がいても大丈夫なように、色無がいるんでしょ?」

私の台詞に一瞬呆気をとられたような色無だったが、だんだんとその顔が笑顔になっていく。

「そうだな。———行こうか、海」

もう一度二人で笑いあう。

海、楽しみだな。

 

暑かった夏は、だんだんと、終わりに近づいていった。

夏の終わりの夜、彼女が見たいと言った花火を見るために、俺は少し前に初心者マークの外れた車に乗って、隣にもちろん彼女を乗せて、その会場まで走らせた。

助手席にはほとんど彼女が座るので、彼女もそこが指定席だと言わんばかりに席の前に一体ぬいぐるみを置いた。

あまり大きくない、一体のぬいぐるみ。

それは俺が高校のときのデートで、青にせがまれてUFOキャッチャーで勝ち取ったやつだ。

もともと可愛いキャラではあるが、青が大切そうにそのぬいぐるみを見ているのを見ると、俺もそのぬいぐるみに愛着が沸いてくるものだった。

「人、多いね」

会場となっている場所は大勢の人でごった返していた。

これじゃあ風流も何もあったもんじゃないとは思ったが、所詮は俺たちもその一部なので文句も言えなかった。

「……もう少し、人がいないとこにしようか?」

「え、あるの?そんなところ」

「ここら出身のやつに穴場を教えてもらった」

穴場とはいえ、地元の人がそっちに行くので会場よりはマシ、ってレベルらしいが。

「用意周到〜」

「まあな。じゃ、そっちに行くぞ」

あまり得意じゃないバックをどうにかこうにか使い、車の向きを変えた。

確か、ここから五分くらいだ。

「この前のコンクール、評価してくれた人がいたんだって」

車の中で、青がぽつりとそう言った。

「マジか?!すごくねえか?」

先月、青はバイオリンの比較的大きい規模(らしい)のコンクールに出場した。

審査員もその道の人がたくさん来たという。その人たちから評価を得たってことは……。

「でも先生が言ってただけだし」

「んなことないだろ!すげえよ!」

プロ、っていう文字が頭をよぎった。

青は本当に、バイオリニストとして生きていくのかもしれない。

俺たちはもう、大学生として最後の一年を迎えていた。

青の道がだんだんとはっきり「そう」だ、と決まっていくのを見ていると焦りが出てこないわけではない。

でもまあ、俺は俺さ。

「そうかな……」

彼女は意外と、こういった自分が名声を得ることに関しては謙虚だったし、がつがつもしていなかった。

その裏にある努力を知ってる俺としては、飛び上がるほど嬉しいんだけど。

「そうだよ、すげえよ青……」

俺の隣でまた照れた彼女を横目で見やり、なんだか頬が緩みそうになった。

教えられた穴場は、なるほどさっきよりは人がおらず、ゆっくりと花火を楽しめそうな場所だった。

移動してきた分もあり、時間的にあまり余裕はなかったが、まあ花火を見るだけだから準備も特にない。

「さっきの場所はマシだな」

俺たちは車を降り、手を繋いだ。

絡まる指が、やや涼しい今日の空気のなか、じんわりと熱を持っていた。

「晴れててよかったわね」

まったくだ。花火の時に曇りだしたら興醒めもいいとこだ。

「俺の普段の行いの賜物だな」

「何偉そうにしてんのよ」

冗談を言いながら、自分達なりのスポットを見つける。

見事に、綺麗に晴れた夜だった。

その時、青は何かに気付いたようだった。

「ねえ、アレ、飛行機雲じゃない?」

青は、花火が上がる予定のほうとは逆の空を指差した。

「え、どこ?」

「ほら、ちょっと広がってるけど」

空は当然ながらもう暗くて、そのなかで飛行機雲は少し見つけづらかった。

「よく見えな———」

ヒュルルルルルル……ドォーン……

「お、始まった」

「ホントだ」

後ろから、花火には付き物の大きな音が聞こえ、俺たちは振り返った。

そこには大きく、様々な色で彩られた、見るものを圧倒せんとばかりする大きな華が咲いていた。

俺も、青も、惚けたように花火に見入っていた。

「すごいね……」

「ああ……」

俺たちの前には、美しい花火を浮かべる、茫漠とした夜空が果てしなく広がっていた。

「……すーすー」

帰りの車の中で、青は眠ってしまっていた。

色々疲れてるとは言ってたし、今日のデートが気晴らしくらいになってくれてればいいと思う。

……正直青の寝顔を見ていたい気もしたけど、間違いなく事故るのでやめた。またの機会にとっておこう。

すると、突然俺のケータイが鳴った。

その音で青が起きてしまわないかで驚いたが、大丈夫なようだった。

俺は鳴っているケータイを忌々しく一瞥したあと、やや悪態をつきながら電話に出た。

「はいもしもし———」

 

全て、順調だと思ってた。

風が流れるように季節は流れ、卒業まではまもなくとなっていた。

私たちは何事もなく卒業が予定されていたし、大学生活に悔いを残したつもりはなかった。

私は今度、本格的なオーケストラに参加してみないかと誘われていたし、色無も就職は決まったと言っていた。

何より、私たちが一緒にいれていた。それだけで、十分だった。

全ては順調だと思っていた。なのに……

それは、突然だった———。

「俺たち、別れよう」

二月の末、本当に卒業式まであとわずかだった。

いきなり食事に誘われ、私としてはいつものデート気分で約束の場所に行った。

いつものように話をして、いつものように笑いあったつもりだった。

色無はいつものように私の言い分を無視してお金を一人で払い、いつものように私を送ってくれた。

その、別れ際だった。

「な、何……冗談?」

「いや、本気だ」

色無の顔は至って真剣だった。

「な、なんで……?」

力ない言葉が口から零れてきた。

「合わないんだよ、お前とさ」

……何を言っているの?

「いや、合わなくなった、か?お前とは何年も一緒にいるもんな。まあ、飽きたちゃあそうなのかもしんねえけど」

……ナニヲイッテイルノ?

「俺さ、地元にもう一人彼女いるんだ。そいつと、結婚を前提に付き合いたいと思ってる」

イロナシハナニヲハナシテイルンダロウ?

「お前には言ってなかったけどさ、俺の就職先、あっちなんだよね。だから結局、東京からは離れるし。まあ、そういうことだ」

目の前の青年は、淡々と私に向かって何かを話し続けた。

その言葉が、機械的に頭のなかで変換されていく。

———ただ、悲しかった。

「だからさ、別れよう、俺た———」

バチッ!

「———バカ」

私はそれだけ言って、足早にその場を去った。

それしか、できなかった。

「———ごめんな」

小さなその声を聞くものはいない。

結局、その翌日は一日泣いてしまった。

涙なんてもう一生出ないんじゃないかってくらい泣いた。

しかしそれでもすっきりすることなんてまるでなかったけど、学校には行かなきゃならなかった。

まだ腫れぼったい目をどうにか隠して、学校へ向かった。

……足取りが重い。

バイオリンなんて、どうでもよかった。

なんで、どうして……そんな想いが吹き出して、また涙ぐみそうになるのを、私は必死に抑えていた。

 

祝、って文字が今日ほど白々しく思えた日はないと思う。

卒業式だからと着た振り袖が無駄なようにしか思えなかった。

———すごく似合うよ、綺麗だ。

そんな声を掛けてもらいたがっている自分が恥ずかしくなった。

……何が祝だ。私の隣には、大切な人がもういないのに。

友達との感動的なはずの別れも、私がうわの空だったせいか、どこかウソ臭かった。

……なんで、どうして———。

「青さんだよね?」

やはりそんなことを考えながら帰路についていると、男の人に話し掛けられた。

「……男くん、だっけ?」

……色無と同じ学校・学部に通う、色無の友達だったはずだ。

「ああ。そっちも今日卒業式?」

「……うん」

正直、今は色無と関係する人とは話したくなかった。ほんの些細なことでも、堪えきれなくなりそうだったから。

「色無どうよ?忙しそうか?」

ほら、色無の話題が出た。やめて、お願いだから———

「アイツも大変だよな。親御さんがあんなことになるなんて可哀相に……」

「———え?」

ピンポーン……

聞き慣れたベルを鳴らした。

初めてだな、このドアがこんなに厚く感じるのは。

鼓動がどんどん速くなっていくのを抑えられない。

「はーい……。今忙しいんスけ———あ、青……」

色無は心底驚いたようだった。

しかしすぐその表情を厳しいものに変えた。

「何の用だよ。俺、引っ越しの準備で忙しいんだけど」

「———っ」

つい、俯いてしまいそうになる。

……ダメだ、私はここに泣きに来たんじゃない。

「用がないなら帰っ———」

「なんで、ウソついたの?」

「なっ……」

彼の顔がまた、焦りの表情を浮かべた。

「何言ってんだよ、俺は———」

「男くんから話を聞いたの」

色無の表情が完全に固まった。

そしてまもなく、私がみたこともないくらい悲しそうな目をした。

「……何で話すかな、あの馬鹿……」

その顔はなぜか私まで悲しくさせるもので、色無には、諦めの色さえ浮かんでいるようだった。

「……入れよ」

入室を許可するその声は、小さく弱かった。

花火を見に行った帰り、色無のケータイに連絡が入った。

交通事故に、両親が巻き込まれたということだった。

父親は死亡、母親も大怪我を負い、寝たきりの生活を強いられた。

大学を卒業するまでは、という約束で今は親戚に面倒を見てもらっているが、もう半年ぐらいも負担を掛けてしまっている。

その親戚のツテで就職先も確保できたし、明日にでも地元に帰らなくてはならない———。

「———そういうことだ。明日、ここを出る」

淡々と彼は言った。

大変だということは十分わかったし、今すぐ帰らなくてはいけない理由も理解できた。

でも……

「それとは……別じゃない……?」

何故、ウソをついたのか。そんなものを取り繕って最後の言葉を紡いだのか。

「それに、別れる必要だって———」

「あるさ」

色無の言葉は平淡で、しかししっかりとしたものだった。

「俺とお前は、離れるんだ。地元と東京、交通機関を乗り継ぎゃ三時間ちょいで着くさ。でもな、遠距離恋愛なんて俺らには無理なんだ」

「なん、で……?」

「俺たちが『いつか』一緒に、いや近くにいることができる日が来る可能性がないからさ」

色無がいれてくれた紅茶を、飲む気にはなれなかった。

湯気の向こうの彼は、やはり平淡な声で続ける。

「俺が地元から出ることはたぶんもうない。……一緒になる可能性のない遠距離恋愛なら、解消したほうがお互いの為だよ」

そう一段落つけると、色無は紅茶に口を付けた。色無が煎れるそれはおいしいはずなのに、そんな素振りはまったく見せなかった。

色無の意見はその通りだろう。

……でも。一つの可能性が、私の頭をかすめた。

「……私が地元に———」

「ざけんな!!」

急に、色無が声を荒げた。

「———っ?!」

「バイオリンが好きなんだろ?だからあんなに練習して、努力して……今度からオーケストラに参加するんだろ?!」

色無は必死だった。

「ようやく夢が叶うチャンスじゃねえか。……それを、他人の為にダメにすんなよ」

もしかして———。

「色無、……別れようって言った理由って、それ?」

いつだって色無は、私の夢を応援してくれた。無理だって諦めそうになった日も、親と喧嘩して落ち込んでいる日も。

そうだ、この前だって、バイオリンのことには絶対触れなかったじゃないか。

色無は、気まずそうに頭をかいていた。

私の、ために———。

「なあ」

色無は頭をかいたまま、こっちを向いた。

その顔は———いつもの、色無だった。

「やっぱさ、無理なんだよ。俺はお前にはバイオリンを選んでほしいんだ。そのために、……今の感情じゃそうじゃなくても、いつか俺が足枷になるのなら……俺は諦めるよ」

優しくて、自分のことより誰かのことを優先して考えちゃう、……私の大好きな人。

そして……選ぶのは私。

「ねぇ、色無」

だから、私は———この道を選ぶよ。

「じゃあ……今日はまだ私、色無の『カノジョ』なんだよね?」

彼の頬に触れる。

彼の感触が、確かにあった。

「青……」

彼の声。聞き慣れた、優しい声。

それを発する唇に触れる。

少しずつ少しずつ……何かが溜まっていく。

「色、無……」

その唇にそっと口付ける。柔らかで愛しい、彼の感触。

二度、三度と繰り返す。でも、足りない。

「色無……」

あと何度、口付けることができるんだろう。

「青……ッ!」

色無が動いた。

急に、私にキスを求めた。

「んっ……」

今まで一度だってしたことがないくらい、強引で、無理矢理で、押しつけるようなキスだった。

「んっ……はぁ……っ……んっ……」

深く深く、互いが互いを求めるように。

ただ……彼が愛しかった。

「色……無ぃ……」

涙ぐんでしまうのを抑えられなかった。

こんなに、近くにいるのに。相手の想いがどこにあるのか、わかりそうなくらい傍にいたのに。

「青……っ!」

彼は私を掻き抱いた。痛いくらいに抱き締められた。

私も全力で抱き締めた。私が彼にへし折られても、彼を私が壊しても、どちらでも構わなかった。

「好き……っ」

体が軋みそうなくらい抱き締められても、伝えたかった。

涙が止められなくなってきていた。

彼の肩を濡らしながら、ひたすら抱き締め合った。

「ああ……ああ……ッ」

きっと、色無も同じなんだ。

少し冷たい肩も、零れてくる息も、私たちの証明に思えた。

再び、キスをかわす。

なんでなんだろう、つながってるのに、満たされるほどキスをかわし、抱き締め合っているのに、ひたすら、切なかった。

「色無……っ」

「青……青……っ」

もう、名前も呼べなくなる。

声を聞くことも、彼の温度を確かめることもできなくなる。

放課後、音楽室。夏の風、バイオリン。

ふざけあった帰り道、コンビニのアイス。

飛行機雲、七夕、突然の雨。入道雲、照り射す日差し、蝉の声。

海の匂い、潮騒、輝く砂浜。夏祭り、綿飴、浴衣姿。いつもの助手席、お喋り、花火大会。

いつだって、隣には色無がいてくれた。

それらが夢じゃないんだって、確かに二人で見てきたんだって確かめるように私はまた力を込める。

もう涙なんか止まらなかった。一生出ないと思ったはずなのに、次々と溢れてきた。

———ねえ、色無。私、頑張る。バイオリンでやれるところまでやってみるよ。

頑張るから。貴方が繋げてくれた私の夢は、絶対叶えてみせるから。

だから、もっと抱き締めて。一秒でも、一瞬でも永く抱き締めていて。

———もう、貴方を呼ばないと、約束するから。もう泣かないって誓うから。だから———

 

彼女の文字は、懐かしくて暖かくて、そして切なかった。

彼女はたまに音楽雑誌に名前が乗るくらい有名になった。

そんな記事を見るたびに、嬉しいようで、やはりどこか淋しいような気持ちに襲われることもあった。

———彼女が幸せであるようにと何度願ったことだろう。

夏の空を見上げると、いつでもそこに彼女との思い出があるようで、そのたびにまた願うのだった。

『いつか、そっちの近くでコンサートができればいいな、とも画策しています』

ふとテレビの天気予報に目をやる。

明日も晴れるらしい。

『とにかく、今年の夏も暑いですが、あなたが健やかに過ごせられることを願っています  草々』

明日の空には飛行機雲がかかるだろうか。あの二つの軌道を描く雲は。

そんなことを思いながら、彼女の手紙の最後の一行に目を落とす。

——自然と、頬が緩んだ。

『PS. そちらの空にも飛行機雲はかかりますか———』

   「夏の空、あの時の飛行機雲」〜〜


—コンコン

無「ん、どうぞ?」

青「(カチャ)こ、コホンっ!」

無「どうした?」

青「こ、これ……あげるわ!」

無「これ……クッキー?もしかして青の手作りか?」

青「べ、別に色無のために作ったんじゃないからねっ!作り過ぎちゃっただけなんだからねっ!」

無「ふーん」

青「あ、あれ?ちょっと、もう少し喜びなさいよ!」

無「だって青の心がこもってないんだろ、このクッキー。そんなのもらっても嬉しくないなぁ……(ニヤニヤ)」

青「なっ?!」

無「本当に余り物なんだよな、これは?」

青「ぅ……」

無「青が俺のためだけに作ってくれたクッキーなら凄い嬉しかったのになぁ……(ニヤニヤ)」

青「もぅ……本当は分かってるんでしょ!」

無「何のことでしょうか?(ニヤニヤ)」

青「知ってるくせに……!」

無「青の口から聞かなきゃ分かんないなぁ。(ニヤニヤ)」

青「ぅぅー……意地悪ぅ……ひっぐ……」

無「ちょ?!なんで泣くんだよ!」

青「知らないっ!色無のバカ!!」

無「……あー、俺が悪かったって。ほら、この通りだから……」

青「……ごめんなさい、私も悪かったわ」

無「いいや、青は悪くない」

青「私が悪いのよ」

無「俺が悪いんだって!」

青「私のせいよ!」

無「……ぷっ」

青「……ふふ……あははは……」

無「もっかい最初から仕切り直ししようか?」

青「うん」

青「……はい、このクッキー色無のために焼いたの。食べてくれる?」

無「うん、ありがとう」

橙「ねぇ空ちゃん、あのバカップルは一体何がしたかったの?」

空「さぁ?私もわかりません」

橙「……ツンデレって大変ね」

空「でも扱い方を心得れば割と楽ですよ?」

橙(実の姉を手玉に取るなんて……空ちゃん、恐ろしい子……)


『朝の風景』

青「おはよう色無」

無「……おはよう青、あ」

青「……何?」

無「暑いのに全然変わらないなと思って」

青「気を張ってればこれくらい大したことないわよ」

無「あー、そっかー」

青「な、なによ!」

ピタ

無「……やっぱり変わらないか」

青「ど、どういうつもり!」

無「……触ったら冷たいかなと思って……うわっ! スマン」

青「目が覚めた?」

無「ほんとに悪い、暑くて少しどうかしてた」

青「別にいいわよ」

無「ほんとスマン」

青「……それ以上謝ったら怒るから」

無「あ、ああ」

青「じゃあ行きましょう」

無「……なあ青、食堂行くのに手をつながなくても」

青「人のおでこに触っておいて文句言わない」

無「……なあ青」

青「なによ、まだ文句あるの?」

無「耳赤いけど暑いのか?」

青「……ばか」


無「あーおーさん」

青「宿題なら見せてあげないわよ」

無「え?ま、まさかそ、そ、そんなこと言うわけないじゃないか」

青「そうよねー。で、何の用かしら?」

無「え、えーっと……いい天気だよな」

青「そうね」

無「こんな日誰かに宿題を見せてあげたくなったり……」

青「しないわね」

無「ですよね〜」

青「そんなことしたってあんたの為にならないでしょ」

無「それはごもっとも」

青「だから……」

無「だから?」

青「わ、わたしが教えてあげてもいいけど」

無「え?」

青「一緒に宿題やってあげるって言ってるの!」

無「いいの?」

青「いいも何もこのままじゃどうせやらないでしょ?」

無「うっ……よくわかってらっしゃる」

青「ほーら。早く持ってきなさい」

無「りょ、了解しました。隊長」

青「さっさと終わらせちゃうわよ」

わたしは知っています。

お姉ちゃんが先輩の為に誰よりも早く宿題を終わらせることを

空「素直に見せてあげればいいのに」


—コンコン

空「あ、どうぞ」

無「(ガチャ)お邪魔しま……」

空「しーっ!です、先輩」

無「……青は昼寝中?」

青「うぅ……ん……」

空「先輩が宿題教えてもらいに来るって言うんで、午前中部屋を綺麗にして疲れちゃったみたいで……」

無「そんなに気使ってもらわなくていいのに……」

空「あ、私これからバイトなんでそろそろ行きますね!」

無「え?あ、ちょっと空ちゃん?」

空「お姉ちゃんのことちゃんと見ててあげて下さいね!部屋の中のものはどれでもご自由に使ってもらって構わないです」

無「空ちゃんがいなくなるなら俺も……」

空「ダメです!先輩はちゃんと宿題教えてもらって下さい!ついでにお姉ちゃんもよろしくお願いします。じゃあ行って来ますね!」

無「ぉ……あー……行っちゃった……」

青「……」

無「面倒見ろって言われてもなぁ……」

青「……んぅ……(コロン)」

無「!!(ね、寝返りをうってこっちに寄ってきた?!ていうか気のせいかなんか顔赤いような……)」

青「……」

無「(……こいつ起きてるな。ちょっとからかって遊ぶか。)それにしても青って可愛いよなー」

青「!!」

無「寝顔とかホント……って、本当に可愛いな」

青「……」

無「あれ、なんか顔が赤くなってきてるなー?気のせいかなー?」

青「っ!!お、起きてるの知ってるなら起こしなさいよ!!」

無「あれ?青起きてたの?もしかして狸寝入り?」

青「……もう、バカ!宿題教えてあげないわよ!」

無「ちょっ……わ、悪かった!」


無「なぁ、青?」

青「なぁに?」

無「空ちゃんにこの部屋のものはなんでも自由に使ってくれって言われたんだが……」

青「まぁ、限度はあるけど別に構わないわよ。何がほしいの?」

無「なんだと思う?」

青「……なによ?」

無「青」

青「なに?」

無「だから、青。……青がほしい」

青「んなっ!!」

無「空ちゃんから許可もでてるしな」

青「ば、バカなこと言ってないで宿題早く終わらせちゃうわよ!」

無「うるさい、このツンデレめ!(ガバッ)」

青「きゃっ!!ち、ちょっと……」

無「青……」

青「……色無……」

青「……」

無「青ー、この問題なんだけど……」

青「(ぼ〜)」

無「おい、青?」

青「へ?ぁ……な、なぁに?」

無「……顔赤いぞ?大丈夫か?」

青「だ、大丈夫よ!なんでもないわ!」

無「ぼーっとしてるし、なんか熱でもあるのか?」

青「だいじょぶだってば!ほ、ほらどこの問題よ?早く見せなさい!」

無「本当に大丈夫か?……まぁいっか。それでここの問題なんだけど……」

青「あぁ、この問題は……(私ったら何てことを考えてたのかしら……)」


『とつぜんの雨』

青「色無、これ。いきなり雨が降ってきたから入れておいたわよ」

無「すまん、洗濯して忘れてた。うわー、やっぱりずぶ濡れだな」

青「不用心よ」

無「不用心て……男物のシャツとジーパンなんて誰も持って行かないだろ」

青「……いろんな意味で不用心ね」

無「ん? あっ!」

青「な、なによ!?」

無「青も服とか髪とか濡れてるじゃないか、ほらこれで拭けよ」

青「い、色無のタオルなんか借りなくても自分のが」

無「あー、もう、俺のシャツなんかより青が風邪でもひいたら大変だろ」

青「だっ、だから、別に……」

無「……よし、大体拭けたとおもうけど」

青「……」

無「……青?」

青「……」

無「耳まで赤いぞ、ひょっとして風邪ひいたか?」

青「色無の……」

無「青?」

青「……ふぅ」

無「あ、青! 空ちゃん、青が、青が倒れた!」

空「お姉ちゃんいいなー」


ピピピ ピピピ ピピピ

青「……ふぁぁ、もう朝か〜……。ん、もう黄緑さん朝ごはん作っちゃってるかな?手伝おうと思ってたんだけど……」

青「……何か静かだなぁ……みんなもう行っちゃったのかn——」

『9:20』

青「……あぁぁぁぁあ!!」

無「お、やっと来たか。青が遅刻するなんて珍しいな」

青「なんで起こしてくれなかったのよ!」

無「いや、まさか青がまだ寝てて部屋にいるなんて思わなくてさ。とっくに先に行ったのかと……」

青「玄関の靴見ればわかるでしょ靴を!」

無「そんな……みんなローファーじゃないk」

青「もう……遅刻だなんて本当に恥ずかしいわ」

無「どうせ初めてだろ?別に一回ぐらいどうってことないんじゃ……」

青「あんたは遅刻が多すぎるの!」

無「そんなに怒るなって……ほら、目やについてるぞ」

青「え……ちょ、ちょっと!自分でとるってば!」

無「いいから!動くなよー……よしとれた」

青(……色無の顔が……近すぎる……)

無「……おーい、どしたー?」

青「……はっ!な……なんでもないって言ってるでしょ!」

無「いや言ってねぇよ!」

黄「こんなことがあるなら……た、たまには寝坊もいいかもしれないわね」

黒「……読むな青の心を」


無「今日も月が綺麗だなぁ……」

青「なに一人でカッコつけてんのよ?」

無「あ、青!?」

青「もう……私も誘ってくれてもいいじゃない……」

無「ご、ごめ……えぇっ!?」

青「べ、別に深い意味はないわよ!ただ……ひ、独り占めするのはズルイ!」

無「ぷっ……なんだよそれ」

青「う、うるさいわね!静かに月が見れないの!?」

無「騒いでるのは青の方だろ」

青「〜っ!……ばか」

無「はいはい悪かったよ。それより、こっち来て一緒に月見ようぜ」

青「……うん。(スッ)」

無「綺麗だよなぁ……」

青「……そうね」

無「……青」

青「なに?」

無「……やっぱなんでもない」

青「気になるじゃない。言いなさいよ」

無「いや、止めとく。なんか青に怒られそうだから」

青「そ、そんなに私は沸点低くないわよ!」

無「でもなぁ……(月よりも月を見てる青の方が綺麗だ……なんて言ったらどうなることか……)」

青「……いいわ、今日は月に免じて許してあげる」

無「……どうも」

青「……か、肩……貸してもらっても……いい?」

無「いいよ。……ついでに青の肩に腕回してもいいか?」

青「……特別に許してあげるわ」

無「ありがと」

——次の日

青「っくしゅん!!」

空「お姉ちゃん、先輩を独り占めした罰が当たったんだね」


『呼び方と心構え』

無「ただいまー」

青「おかえりなさい……」

無「ん?」

青「あ……色無」

無「青?」

青「ごめんなさい」

無「無理しなくていいよ、確かに『あなた』って呼ばれたいって言ったけどさ」

青「わ、私だってそう呼んでみたくて今日1日練習してたんだから!」

無「そうか……じゃあどうぞ」

青「あ、あ、アナタ!」

無「なんか怒られてるように聞こえる」

青「あ……ご、ごめんなさい」

無「いいよ、無理しなくて」

青「無理じゃないもん! 私だって呼びたいんだから!」

無「……なんというかその表情だけでおなかいっぱいですよ、青さん」

青「き、今日中に呼んでみせるからね!」

無「あ、うん。がんばってください」

青「どうして敬語なのよ」

無「……なんとなく」


『むごん』

無「Zzzzzzzzz」

(ガチャリ)

青「ー。 ……!」

無「Zzzzzzzzz」

青「……。 ー!」

無「Zzzzzzzzz」

青「……。 !」

無「Zzzzzzz」

青「……」

(チュッ)

青「……♪」

(ガチャ バタン)


無「青?」

青「なによ?」

無「お手」

青「……私をバカにしてるの?」

無「いや、そういうわけじゃ……ほら、青が犬の真似とかしたら可愛いかなぁって思って……」

青「……さ、さっきのもう一回言ってみなさいよ!」

無「お手!」

青「ぅ……ゎ、わん。(ペタ)」

無「おー、よしよし。(なでなで)」

青「……(う、嬉しいけどなんだか私のプライドがズタズタにされた気が……)」


青「……ばか」

無「なんだよ、いきなり?」

青「別に。言ってみたかっただけ」

無「……バカ」

青「なによ」

無「言ってみたかっただけ」

青「……(ぼそ)はぁ、こんなやり取りだけで幸せになれるなんて、私も末期ね」

無「なんか言ったか?」

青「ううん。……ねぇ、ちょっと寄り掛かってもいい?」

無「いいけど、寝るなよ?」

青「そう言われると寝ちゃいたくなるわね」

無「寝たら何するか分からんぞ?」

青「いいわよ。色無にそんなことする勇気ないもの」

無「とか言って何かされるのを期待してるのか?」

青「!べ、別にそんなんじゃないわよ……」

無「そうか。じゃあ素直に寝たふりでもしといてくれ」

青「……うん」


青「朝ご飯できたわよ」

無「……んぅ……」

青「ほら、起きて?」

無「……目覚めのキス」

青「なっ!」

無「早くしてくれないと会社遅れる」

青「あ、朝からそんな……」

無「……青」

青「……ん」

無「……ありがとう、これでまた夢の世界に……」

青「また寝るの?……私も一緒に寝ちゃうわよ?」

無「いいよ、おいで青」

青「……うん」

?「起きてー!」

青「ぅ……」

空「お姉ちゃん、朝だよ!遅刻しちゃうよ!」

青「……毎度毎度の夢落ちですかそうですか(´・ω・`)」

空「(お姉ちゃんが幸せそうな顔で寝てる時って、きっと色無先輩の夢見てるんだろうなぁ」


青「ね、ねえ色無。今日は何の日か知ってる?」

無「んー?11月11日……はて、誰かの誕生日だったっけ?」

青「違うわよ」

無「じゃあなんかの記念日?暦のうえでは特になんもないけどなぁ……」

青「しょうがないわね。教えてあげるわ。今日は……その……ポッキー・プリッツの日よ」

無「あー、そういえばそんなのもあったような気がする……って、顔真っ赤だぞ?大丈夫か、青?」

青「へ、平気よ!でね……せっかくだからポ……ポッキーゲームを……」

無「ポッキーゲーム……って例のアレか!?お、俺と??」

青「……うん」

無「い、いいのか?」

青「べ、別に色無のためにやるんじゃないんだからね!ポッキーの日だからやるんだからね!」

無「いや、その理屈はよく分からないけど」

青「ほ、ほら……早くポッキー咥えなさいよ……」

無「分かった」

青「い、いくわよ」

無「ほら、いいぞ」

青「(パク)ん」

黄「(ガチャ)色無ー!カレープリッツ作ったよ」

無「ん?(クル)」

 ポキ

青「あ」

無「あ」


青「寒いわねぇ」

空「うん……」

青「冷たい風が吹いてるわねぇ」

空「うん……」

青「ま、雨が降ってないだけマシか」

空「……ねぇお姉ちゃん、もう諦めて朱色さんに酔っ払ってポエム読み出して酔いが醒めた後にあまりの恥ずかしさに悶絶してついうっかり窓ガラス割ったこと言おうよ」

青「……色無のところにでも行かない?」

空「そんな餌に私が釣られ——行く行くー♪」

青「よーし、パジャマと歯ブラシ持って突撃よー!」

空「おー♪」

無「(ブルルッ)な、何だか急に寒気が……」


『学力の秘訣』

無「……なぁ、青。ここはどうやるんだ?」

青「そこは、ここの値からここの値までを纏めて、平均値を出すの。そうすれば、答えは出せるでしょう?」

無「あ、そうか。なるほど、サンキュー」

青「まったく、普段から勉強してないから分からないのよ」

無「そう言うなよ。教えてもらうかわりに明日は買い物に付き合うんだから、さ」

青「そうでもないと割りにあわないわよ。さ、続きをやるわよ、色無」

無「……ん、終わった」

青「お疲れ様。紅茶入れるけど、飲む?」

無「いや、今日は疲れたからこのまま寝るよ」

青「そ、そう……それじゃ、お休みなさい。明日、忘れないでよね」

無「分かってる。……青」

青「な、何よ?」

無「ありがとな、助かった」

青「ー! ……どういたしまして」

無「それじゃ、おやすみ、青」

青「うん、おやすみなさい」

青「……さてと」

空「お姉ちゃん、お勉強?」

青「うん。多分、次はこの範囲を聞いて……!」

空「(ニヤニヤ)お姉ちゃん、一途だね」

青「うるさい。もう寝なさい」

空「はーい」

青(これが私のできることだもの)


『脱衣所にて』

無「あ、もう風呂の時間だな」

 ガラッ

青「!」

無「あ、青?」

青「い、い、色無!?」

無「……」

青「……」

無「み、水着似合ってるな」

青「あ、ありがと」

無「でも、どうして脱衣所で水着姿?」

青「せ、背中を」

無「背中?」

青「背中がちょっと痛かったから、大きい鏡があるのはここだけだし」

無「な! 大丈夫なのか? ほら見せてみろ」

青「え!? い、いいわよ、自分で見るから……」

無「いいから」

 ガチャ

水「お帰りなさい、お姉ちゃん」

青「色無に、水着見せようと思ったら……色無が私の背中を……」

水「……お姉ちゃん?」

青「……背中、キレイだって言って触って……」

水「お姉ちゃーん」

青「……プールに行く約束まで……」

水「プール行くの? 私も行っていい?」

青「ええいいわよ……色無とプール……」

水「じゃあ準備しておくね」

青「……あら? いま誰かいたかしら?」


「あら? どうしましょう、これじゃ足りないわね。困ったわ……」

 リズミカルに響いていた包丁の音が途切れたかと思うと、台所から黄緑の独り言が聞こえてきた。

「どうしたの、黄緑?」

「あ、色無さん。いえ、ちょっとうっかりしてて、お醤油を切らしちゃったんです」

 『失敗しちゃった』みたいな顔で黄緑がペットボトルを振ると、少しだけ残った中身がちゃぷちゃぷと音を立てた。しかし、何をしても若奥様っぽいな。どうでもいいけど。

「それじゃ俺がちょっと買ってくるよ。料理用なら薄口醤油だよね?」

「え? でも悪いですよ、外寒いのに。私が行ってきますから、色無さんはお鍋を見ててもらえれば……」

「いいっていいって。どうせ暇だったし、こういうときくらい唯一の男手を頼ってくれよ」

 まあ、男手が必要ってほどの大荷物でもないけど。寮の家事を一手に引き受けてる黄緑を手伝う機会は逃したくない。

「そんじゃ行ってくる。ちょっと立ち読みしてくるけど、十五分くらいで戻るから」

 そう言って玄関に向かうと、あとをついてきた黄緑がびっくりした声を上げた。

「立ち読み? どこに行くつもりですか?」

「どこって、すぐそこのコンビニだけど」

「あ……その、色無さん。寮で使ってるお醤油はコンビニじゃ売ってないんです。風味もよくてお値段も安いので、駅前のスーパーのがいいんですけど」

「……え?」

 醤油なんてみんな一緒だと思ってたけど、どうやら黄緑にはこだわりがあるらしい。しかし駅前までは自転車で往復三十分。外の気温は今冬最低を記録している。

「あの、やっぱり私が自分で行きますから……」

「いやいや、男に二言はないよ。それじゃフル装備で行ってきますか」

 近場のコンビニまでならまだしも、駅前まで部屋着で行ったら凍死しかねない。申し訳なさそうな黄緑に軽く手を振り、俺はコートにマフラー、手袋を取りに部屋へと戻った。

 

「さ、寒い……自分から言い出したこととはいえ、男はつらいぜ」

 目当ての醤油をゲットし、店内で少し暖まっていきたいという耐えがたい誘惑を振り払って帰り道を急ぐ。一心不乱にペダルを漕いでいると、反対の歩道を歩く見知った顔に気づいた。

「青ー、部活帰りかー? おーい青ー、こっちこっちー!!」

 通行人の視線を一身に受けた青はおもしろいくらいにあたふたして、普段なら絶対横断歩道を使うくせに、ガードレールを越えて一直線に横切ってきた。

「ちょっと、大声で呼ばないでよ! 恥ずかしいでしょ!」

「だってお前、耳あてしてるから聞こえないんじゃないかと思って」

「ちゃんと聞こえるわよ! それに耳当てじゃなくて、イヤーマフラーよ!」

「どっちでも同じじゃん……」

 そう言うと青は大げさな溜息をつき、『女の子のオシャレにおける呼び名の重要性』について講釈を垂れはじめた。うん、これは逃げるが勝ちだな。

「じゃ、俺急ぐから。またあとでな」

 かごに入った買い物袋を持ち上げて意思表示すると、俺はいち早く退散すべくペダルに体重をかけた——が、自転車はいっこうに進まない。

「……あの、青さん? 荷台に手をかけて踏ん張られると進めないんですけど」

「自分から声かけといて、私一人置いていく気? どうせ同じところに帰るんだからつき合いなさいよ」

「いや、でも早く醤油を持って帰らないと黄緑が……」

「黄緑なら、ちょっと遅れたくらい腕でカバーしてくれるわよ。それともなに? こんな寒空に女の子ほったらかしにしても良心が痛まないんだ。ふーん、へー」

 『別に俺がいても寒いのは変わらないだろ』とか『寒いならその短いスカート何とかしろよ』とか言いたかったが、言うとまた怒られるのでやめておく。

「しょーがねえなあ……あ、そんなら後ろに乗れよ。そしたら青も早く帰れるし、俺も予定通りに醤油持って帰れるし、文句ないだろ?」

「え? ふ、二人乗り!? だめよそんなの。二人乗りは法律で禁止——」

「はい、鞄載せてー。乗らないなら置いてくからなー」

「あ、ちょっと! もう、分かったわよ!」

 さっと学生鞄を奪い取り、かごに放りこんでちょっと先に進んでみせる。青は慌てて追いすがってきて、荷台にちょこんと横座りした。

「ねえ、クッションとかないの? お尻痛いんだけど」

「ぜいたく言うな。それに、そんだけ肉ついてたらたいして痛くも——痛たたたたた!!!!!!」

「今度セクハラ発言したら、脇腹の肉を引きちぎるわよ」

「き、肝に銘じます……」

 力一杯つねられたところをさすりながら、ようやく発進する。が、段差にひっかかるたびに後ろで青が大きく動くので、乗りにくいことこの上ない。

「おい、もうちょっとちゃんとつかまれよ。ぐらぐらされると危ないだろ。腕を回してしがみつけって」

「そ、そんなことできるわけないでしょ! すぐそういうこと言うんだから、やらしいわね!」

 それでも青はおずおずと、俺の背中に身体を預けてきた。

「変なこと考えたらぶっ飛ばすからね!」

「へいへい」

 正直、コート越しでは青の薄い胸の感触なんか分からなかったけど、それを口にしないだけの防衛本能は残っていたので黙っておく。

 さて、これでようやくスピードが出せる。そう思った瞬間、拡声器を通した大きな声が背後から鳴り響いた。

『はい、そこの自転車に二人乗りしてるカップルー、危ないので降りて手をつないで歩きなさーい』

 ばっと青が飛び降りる。自転車を止めて振り返ると、パトカーに乗ったお巡りがニヤニヤしながら車道を走りすぎていった。

 何しろ駅前、人通りは多い。道行く人たちはみな一様に俺と青を一瞥し、笑っていた。

「……!! 色無の……馬鹿ーーーーーーーっ!!」

 みるみるうちに真っ赤になった青は、耳をつんざくような大声で俺に罵声を浴びせると、赤と張り合えるんじゃないかってくらいの速さで全力疾走していった。

 

 とぼとぼと歩いていた青に追いつき、自転車を押しながら隣を歩く。

「なあ、もう機嫌直せよ。明日にはみんな忘れてるって」

「もう駅前で買い物できない……学校行くときも遠回りしなきゃ……全部色無のせいだからね! 私は嫌だって言ったのに!」

「反省してるって。だからこうして降りて歩いてるだろ? やっぱりお巡りさんの言うことはちゃんと聞かないとな」

 よほど恥ずかしかったんだろう。照れ隠しにぎゃんぎゃんと吠え続ける青の怒りを、俺ははいはいと聞き流した。

 やがて、さすがに疲れてきたのかおとなしくなる。これで一息つけると思ったのもつかの間、今度は青がなにやら不振な振る舞いをし始めた。

「……なにやってんの?」

「! べ、別になんでもないわよ!」

「なんでもないって言われてもなあ……」

 さっきからこっちをちらちら見ては、俺のそばに近づいたり離れたり、手を伸ばしたり引っこめたりを繰り返している。なんでもないわけがない。

「ねえ……色無は、お巡りさんの言うことはちゃんと聞こうって思ってるのよね」

「ん? ああ、もちろん。これからの俺は清く正しく、官憲の言うことには忠実に従って生きるつもりだ」

「じゃあ、さ……さっき言われたことも守らなきゃ駄目なんじゃないの?」

「? だからこうして、二人乗りやめて歩いてるだろ?」

「そうじゃなくて……それだけじゃなかったでしょ……」

 なんだ? 他になんか言われたっけ? 確か『危ないので降りて——』。あ。あー、そういうことか。片手で自転車を支えるのはつらいが、ご要望とあらば仕方ない。

「……なにニヤニヤしてんのよ?」

「べっつにー。青はやっぱり可愛いなーって思ってさ」

「わ、私はただお巡りさんの言うことは守らなきゃって思っただけで、別にそうしたいとかそういうことじゃ……」

「分かってるって」

 言い訳を続ける青に手を伸ばすと、おずおずと指先で触れてくる。俺はその手を取ってぎゅっと握りしめた。

「ちょっと、痛いわよ」

「もう青が逃げたりしないように、しっかり捕まえておかないとな」

「逃げたりしないわよ……馬鹿……」

 黄緑や腹ぺこのみんなに怒られるだろうなーと思いながら、俺と青はゆっくりゆっくりと寮への帰り道を歩いた。


無「ほら青、朝だよ。起きな〜」

青「む〜っ。や〜あ〜、もっと寝るの〜」

無「わがまま言ってないでさっさと起きる」

青「王子様がキスしてくれないと起きませ〜ん」

無「後でしてあげるから」

青「今じゃないとイヤなの〜。色無がキスしてくれないとずっと起きないもん」

無「ほらほら、青。みんな見てるから」

青「みんなって?」

赤(ニヤニヤ)

橙「へ〜、青って結構朝が弱いのね」

黄「普段はあんなにもしっかり者なのにねぇ」

空「お姉ちゃんはお兄ちゃんの前ではいつもああですよ」

青「……へ?」

無「目、覚めた?」

青「うん……え?」

赤「私も色無みたいな恋人がいればねぇ……」

黄「『私王子様のキスがないと起きないも〜ん』だって。くくくくく」

橙「たぶん『一回じゃ足りませ〜ん。もっとしないと駄目で〜す』とか続けるんだよきっと。ぷっ」

空「お休みの日なんか昼過ぎまでやってることも珍しくないんですよ」

青「え?……ええ?」

無「おはよう、青。今日も可愛いよ」

四色(ニヤニヤニヤニヤ)

青「み……み……みんな出て行け〜!!!」


 ちゅ

青「な、なにするのよいきなり!」

無「嫌だった?」

青「い、嫌とかそういうことじゃなくて!」

無「じゃあ何?」

青「いきなりするのが問題なの!場所とかも考えてそういうことは——」

無「青」

青「何よ?」

無「顔真っ赤にしながら言っても説得力ないぞ?」

青「誰のせいだと思ってんのよ!!」


『お茶』

青「はい、飲み物」

無「サンキュ。ってお茶か」

青「嫌い?」

無「そんなことないけど。なんか青がお茶って珍しい気がしたから」

青「お昼なんだしいいかなと思ってね。ほら、お茶ってご飯に合うでしょ」

無「ふーん(ニヤニヤ)」

青「な、何にやけてんのよ」

無「つまり俺にお前が作ったお弁当を味わって食べてもらいたいんだろ?」

青「そ、そんなこと言ってないでしょ!!」

無「じゃあそんなに照れなくてもいいじゃん」

青「……バカ 」


『平行線』

青「……平行って寂しいわよね」

無「え、なんで?」

青「だってどこまで行っても、永遠に交わらないのよ?それって寂しいじゃない」

空(……出た、お姉ちゃんのポエム脳)

無「……バカだなー」

青「な、何よ!」

無「だから人はいつかわかりあうために努力をし続けるんだよ」

青「……色無」

無「俺だって、最初は青のこと全然知らなかったけど、分かり合おうと話をしたり、遊んだりしたわけだ」

青「……うん」

無「それで俺、けっこう青に近づけたと思うんだけど。どう?」

青「な、な……」

空(……なんでだろう、言ってる台詞のレベルはお姉ちゃんと同じなのに……羨ましい)


『罰?』

無「よっ、青」

 ピト

青「! っひゃああああ!」

青「……それで?」

無「いやホントにすまん、まさかあんなに驚くなんて思わなかったんだ」

青「……首筋に氷を押し当てられれば誰だって驚くわよ」

無「つららを見つけたから何となく嬉しくなって……すまん」

青「……罰として今日一日私に付き合うこと」

無「荷物持ちか?」

青「……そうよ」

無「……まだ買うのかよ」

青「そうよ、おでんの材料なんだからしっかり持ちなさいよ」

無「……大根だけで何本買ったんだよ」

青「まだまだあるわよ」

無「少し休もうぜ」

青「だめ、真面目に働いたら良いものあげるから頑張りなさい」

無「……良い物って」

青「はいクレープ」

無「二人で一つかよ、朱色さんももう少し予算を奮発してくれればいいのにな。あと手がふさがってるから食えないんだが」

青「……はい」

無「良いのか?」

青「……はい」

無「じゃあ……いただきます」

空「お帰り、お姉ちゃん……どうしたの?」

青「……最高だったわ」


青「ただいま」

空「あっ、お姉ちゃんおか……その髪型どうしたの!?」

青「ちょっとイメチェンしょうと思ってショートにしたのよ」

空「思い切ったね。イメチェンどころか誰かわからないかも」

青「そ、そう?駄目かな?」

空「そんなことないよ!意外と似合ってるよ!」

青「ありがとう。(よーし、自信がついたわ!)」

青「おはよう、色無」

無「おはよ……もしかして青?」

青「そうよ。よくわかったわね」

無「思い切ったなー。いやあ、でもショートの青もなかなかいけてるよ」

青「べ、別にそんなつもりできったんじゃないから!」

無「そんなつもり?なんのつもりだよ?」

青「なんでもないわ。ほら、遅刻するわよ!」

無「わ!おい、ちょっとまてよ!」


『嫁に愛してるといってみた〜青の場合〜』

青「色無ー、そろそろ出ないと会社遅れるわよ」

無「ん? あーそうだな。じゃ行ってくるわ」

青「いってらっしゃい、気をつけてね」

無「あっと、そうだ。青」

青「なにかしら」

無「愛してるぞ」

青「なっ……ばバカじゃないの!? さっさと行きなさいよ!!」

無「何もそこまで……いやそうだな。変な言っちまったな。すまん、行ってくる」

青「……」

無「ただいまーって、うぉ!? なにこのご馳走!」

青「別に。ちょっと材料が余っちゃってせっかくだから作ろうかなーって思っただけ」

無「そっか。じゃちょっと着替えてくるから」

青「色無。その、なんていうか……ありがと」

無「ん? 何がだ?」

青「だから今朝、その……『愛してる』って言ってくれて嬉しかった」

無「俺もなんというか、日ごろの感謝も含めてというかさ、付き合いだしてからもこういうことあまり言わなかっただろ、俺」

 確かに色無が『愛してる』なんてことを口にすることはほとんどない。

 そして多分これからもそう滅多に言わないだろう。

 でもね、色無。あたしはちゃんと分かってるから。

 ──あなたが誰よりもあたしを想ってくれているということを。

青「ほら、いつまでそこに突っ立てるの。早く着替えてきたら」

無「っと、そうだったな。もう少し待っててくれな」


青「おはよう色無」

無「おはよう青。ふぁー」

青「春休みボケ? まったくだらしないわね」

無「そういうなよ、春休みは宿題もないんだしさぁ」

青「はぁ、でも今日から新学期なんだから、シャンとしてよね」

無「へいへい、ご飯食べて学校へ行くとしますかね」

 学校へ到着。張り出されたクラス編成表と群がる生徒達。

青「これじゃ編成表が全然見えないじゃない」

無「よし、ちょっと突進して見てくるよ」

無「おーい、青はC組だぞー」

青「そ、そんな所から大きな声で言わなくっても聞こえてるわよ!」

無「いや、早く知らせたほうがいいのかなって」

青「で、い、色無は何組なのよ?」

無「その、それが……」

青(まさか、別のクラスになっちゃったの?)

無「同じC組だ」

青「もう、びっくりさせないでよ!」

無「ハハ、スマン」

青「今年も同じクラスになったみたいね……」

無「そうだな」

青「また一年間寮でも教室でも毎日顔あわせると思うと」

青「いーかげんその顔にも飽きてきそうだけど……」

無「まぁそう言わず一年間よろしくな」

青「い、色無がそういうなら、し、仕方がないわね。よろしくね」

無「そろそろ始業式始まるな、行こうぜ」

青(今年も色無と一緒に過ごせる……よかった)

他色「あたし達も同じクラスなんだけどねぇ?」


橙「そういや薄黄ちゃんがこの間風邪ひいて色無に看病してもらったんだって」

黄「いいなー。あたしも風邪ひきたいなー」

橙「バカじゃ無理だって」

黄「なんだとー!!」

青(看病か……うらやましいな。こうゆうこととか──)

無『青。熱はどうだ?』

青『たいしたことはないわ平気』

無『どれどれ』

 ぴと

青『い、色無顔が近いって!!』

無『嫌か?』

青『ううん。嫌じゃない』

青「うふふふ」

橙「……青。さっきからきもい顔して何妄想してんの?」

青「べ、別に妄想なんかしてないわよ!」

黄「きもい顔の方はどうでもいいのー?」

青「顔がきもいって何よ!!」

 ゴン!

黄「いったー!? あたしが言ったんじゃないのに」


 カシャ

男「ん? 今カメラの音しなかった?」

無「そうか? 俺には聞こえなかったけど」

男「ま、どうせ誰か色無さんのこと撮ったんだろうけどな」

無「そんな気持ち悪いこと言うなよ」

青「(カパ)ふふ、よく撮れた」

男「ほぅ。やっぱり青だったんだ、さっきの」

青「み、見たの……!」

男「よく撮れてますねぇ。いい待ち受けじゃないか。色無さんうらやましい」

青「色無には言わないで……! お願い!」

男「どうしようかなぁ」

青「お願い! 何でも言うこと聞くから!」

男「そうそう。なら脱いでくれよ」

青「ぬ、脱げって……?」

男「服を脱ぐんだよ。上も下も」

青「そんな!」

男「何でも言うこと聞くんでしょぉ?」

緑「ここで色無が君を助ける熱血展開とこのまま犯される凌辱展開、どっちがいい?」

青「(ボソ)い、色無が助けにくるほぅ……」

緑「……却下する」

侍「くしゅん!」


 ピロリロリン♪

無「おっと、メールか。知らないアドレスからだな。スパム……ではなさそうだが」

 『件名:けーたいかえました

  本文:こてはれすとめーるです まだつかいかたがよくわからいないです』

無「なんだこりゃ? やっぱスパムか?」

 ピロリロリン♪

無「お、また来た」

 『件名:何で返事くれないの!

  本文:テストメールだって言ってるんだから返信してくれたっていいでしょ! どうせ暇なくせに!』

無「ああ、ケータイ買い替えたのか。しかし名前も入ってないしなあ……いや、このメールで誰かはだいたい分かったけど」

 ピロリロリン♪ ピロリロリン♪ ピロリロリン♪

無「……」

 バタン! ドタドタドタ……バタン!

無「おい青! むやみやたらとメール送ってくるんじゃねー! うっとうしいだろ!」

青「きゃっ! ちょ、ちょっと、ノックくらいしてよね! それにうっとうしいとは何よ!」

無「返信する暇もないほど連続して送ってこられたらうっとうしいに決まってるだろ! メール大好きな橙とか桃とかに送れよ。あいつらなら鬼のような速さで返事してくれるからさ」

青「ふん、分かったわよ! メル友もいない色無がかわいそうだから送ってあげたのに! もういいから出てって!」

 

青「はあ……またやっちゃった。何で素直に『PHSからケータイに変えて番号もメアドも変わっちゃったから登録してね』って言えないんだろう。そうすればきっと……」

青『き、機種も色無と同じやつの色違いにしてみたんだ。よかったら指定割とかしてみない? そうすればそばにいないときでもいっぱい話せるし』

無『……いや、それはできないな』

青『え……? そ、そうだよね。もともとそんなに話すわけでもないし、定額料金もかかるしね。ゴメンね、図々しいこと言っちゃって——』

無『そうじゃないよ、青。指定割じゃ割引率が低いだろう? いい機会だし……俺と、家族割に入らないか?』

青『そ、それってもしかして——』

青「プ、ププププロポー……きゃーーーーー!!! なんちゃってなんちゃって! ダメよ色無、私たちまだ高校生じゃない……でも、愛があれば年齢なんて……ああ、困っちゃう……」

空「ただいまー、お姉ちゃ——あー、またか」

 

黒「ただいま。今日は暑かったわね」

灰「おかえりー」

空「お帰りなさい、黒先輩」

黒「あら、空。いらっしゃい。こんな時間からもうパジャマなの? ということは、今日も灰のベッドで一緒に寝るのかしら?」

空「すみません、またお姉ちゃんがISL5(色無症候群:レベル5の略。レベル5は通常社会復帰不可能な状態を指す)を発症したものですから……」

黒「そう、それじゃしかたないわね。ゆっくりしてらっしゃい」


 よく、大切な人がいなくなったあとの風景を「彩りを失くしたようだ」なんて例えることがあるが、あんなの、嘘っぱちだ。

そんなことは、全然辛くない。

 ホントさ、勘弁してほしんいんだ。何で、こんなに——鮮やかなんだよ。君がいない、この季節が。思い出ばかりが転がっている、夏の全てが。

『飛行機雲の向かい側 第一話』

 彼女からの手紙が来て、もう一年になる。彼女のいない夏だって、もう四回目。六月の空にも夏の気配がひしひしと感じられる。

 月日はあっという間に経っているが、どうやら周りの奴らはちゃんとそれに対応しているらしい。

 テーブルの上には一枚のポストカード。この前届いた、大学時代の友達の新婚旅行先からの絵葉書だ。幼馴染だという美人の奥さんと幸せそうに笑いあっていた。

 俺も二十六。周りが結婚しだしたって何の不思議もないが、まだまだ焦りはじめるような歳でもない。むしろ遊びまわってもまだ許されるだろう。

 でも……俺は、あれから変わっているか?強くなれたのか?

 この間、ふと手を伸ばした音楽の雑誌には、何枚という写真付きで、彼女の記事が書かれていた。

「期待の新星」「若き美人バイオリニスト」……。そこに写る彼女は、美しく、凛としていて、……強かった。その瞳に映る目標が写真からでも感じとれた。

 嬉しかった。喜ばしかった。だって、俺はあの時、言ったんだから。お前は夢を追ってくれ、と。

 なのに……なんなんだよ。なんでまだこんな感情が浮かんでくるんだ。あいつの幸せ、それさえあれば俺はよかったのに。

 

 地元に戻ってきてから、俺は必死になって働いた。

 所詮田舎の中小企業で自分に回ってくる仕事の量などたかが知れていたが、とにかく働いた。それだけを思えるように、余計なことを考えなくてもいいように。

 けれど、そんな思いは夏の到来とともに脆くも崩れ去った。

 風の香りも、照りさす日差しも、……今にも飛行機雲を浮かべそうな澄み渡る青空も、全部全部俺にとっては彼女とのものだった。

 鮮やか過ぎる、青がいない夏は俺を弱くした。彼女が好きだったアイスをコンビニで買って食べるだけで、バカみたいな懐かしさが襲ってきた。

 全部を過去のものにしたくて、他の女の子とも付き合った。気立てのいい、優しい子だった。

 一緒にいれば楽しかったし、その子は可愛かった。そして何より……笑顔が、似てたんだ。

 それを気付いたのは次の夏だった。ああ、俺はこの子の「青に似た笑顔」に惹かれたんだと。

 分かった瞬間、全てが虚しくなった。俺はこの子に、青に似ていることを望んでいると。俺の言葉に、青のように言葉を返してくれることを期待していると。

 どうしても、重ね合わせてしまうんだ、大好きだった青の表情を。

 それから、その子と気まずくなっていまい、奇しくも夏の終わり、その年最後の夕立の日に俺たちは別れた。

 そして、三年目、青からの手紙を見て、確信した。

 ——俺はまだ、青が好きなんだと。


青「ただいま」

無「お帰りなさいませ、お嬢様」

青「……」

無「……えっと、何か言って下さると助かるのですが」

青「……はぁ」

無「いや、まて、何故ため息?」

青「今度は誰と賭けしたのよ」

無「今日は、緑かな?」

青「この気温なのによくそんな暑そうな格好できるわね」

無「執事の正装らしい」

青「夏の祭りとか言ってちょっとはしゃいでたかと思ったら、そんなものまで用意してたのね」

無「創作意欲がー、とか言ってたけどな」

青「今は?」

無「俺がこの服着たとたん、急に表情が変わって机に向かいだして」

青「……」

無「なに言っても反応なくなったから」

青「それで、その姿のままうろついてたの?」

無「こういうの、めったに着ないからな」

青「着るのはいいけど、汗くらい拭きなさいよ」

無「仕方ないだろ、今日も暑いんだし」

青「あ、待ちなさい。服でぬぐったら緑怒るわよ」

無「あ、そうか、じゃあタオルでも探すか」

青「待ちなさい、仕方ないから私の貸してあげるわよ」

無「お、サンキュー。代わりに何かこの格好でしてやろうか?」

青「……」

無「いや、怒るな冗談だか——」

青「冷たいコーヒーを部屋までお願い、それじゃ」

空「おかえりなさいお姉ちゃん、なにかいいことあったの?」

青「……これからあるのよ」


無「あ〜、オリンピック終わっちまったなー」

青「競泳の北島は貫禄の金メダルだったわねー」

無「やっぱり青もあの舞台に憧れたりすんのか? アーチェリーとか」

青「アーチェリーと弓道はちょっと違うというか、なんというか……」

無「そんなもんか。……あー、けど五輪終わったら見るテレビ無くなって暇だなー」

青「ひ、暇なんだ……そっか……」

無「なんかああいうの見てたら体動かしたくなってきたな」

青「じゃ、じゃあ……!」

赤「色無! 一緒に走りに行くよ! ボク、走りたくて体がうずうずしてるんだ!」

無「お! ちょうどいい、その話ノったぜ! 青、行って来るわ!!」(ぴゅー!)

青「……一緒に出かけよっかー……行っちゃった」


青「バカ!!!」

青「はぁ、またやっちゃった……私、何でこんなに素直になれないんだろ……」

(無『俺は、お前のためにと思って……!』)

青「いやだよ……嬉しいのに……好き、なのに……」

(無『お前が笑ってくれると、俺も嬉しいな……』)

青「いやだよぅ……ひぐっ! ……ずっと一緒にいたいのに……!」

無『青、いるか……?』

青「え!? 色無!?」

無『青、ゴメン。お前が喜んでくれると思ってやったのに、お前を怒らせちまって……俺、最低だな』

青「(そんなこと、ないよ……悪いのは全部私……素直になれない、私が悪いの……!)」

無『お前が一緒にいて欲しくないって言うなら、俺はいなくなるからさ……ホントに、ゴメンな』

青「待って色無!!」

無「青?」

青「私が、悪いの……謝るから……いなくならないで……ずっと、そばにいて……」

無「青……俺はずっと傍にいるよ。青に何を言われても、俺はずっと傍にいてあげるから」

青「バカ……色無……」

無「うん」

青「ホントにバカ……こんな私の傍になんて、いなくたっていいんだから……!」

無「うん」

青「こんなに涙が出てくるのも、あんたのせいなんだから……!」

無「うん」

青「バカ色無……大好き、です……」

無「……うん」







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 03:18:42