黄緑さんちの平穏な日々

 パァン! パパン!

「はっぴぃばぁすで〜、色無さーん!」

「遅いよ! 今日は用があるから早く帰ってきてって朝言ったのに!」

 玄関を開けると、クラッカーの弾ける音が俺を出迎えた。誰の仕業かは言うまでもない。黄緑さんと紫ちゃんだ。

「へ? なに? ハッピーバースデー? あ、あーあーあー! そういや今日は俺の誕生日だっけ」

 頭にかかった紙テープをはがしながら、俺は懸命に思い出した。実家を出てから数年、誕生日を祝ってもらうのなんて久しぶりだから忘れてた。

「別に色無の誕生日なんか祝ったってしょうがないけど、お母さんがおいしいもの作ってくれるって言うから」

「も〜、またそんなこと言って〜。『絶対パーティーする!』ってはりきってたくせに〜」

「お、お母さん! 余計なこと言わないでよ!」

「はいはい、ナイショなのよね〜。さあ色無さん、キッチンで待ってるから早く着替えてきてね」

「早く早く!」

 俺はまだ混乱していたが、二人に促されるまま、服を着替えてキッチンへ向かった。

「ふ〜、食った食った。ごちそうさま。いやあすごいご馳走だった。また腕を上げましたね、黄緑さん」

 晩餐は素晴らしいものだった。黄緑さんの料理の腕はちょっとしたもので、定食屋くらいなら開けるんじゃないか……と思ってしまうのはひいきししすぎか。

「今日は紫ちゃんも手伝ってくれたんですよ。これとか、こっちのお皿とか」

「そうだったんだ。うん、これもうまかったよ。パーティーに餃子と雑炊なんてちょっと斬新だよね」

「……ラビオリとリゾットだもん……」

 しまった。なんだか不機嫌そうな紫ちゃんをほめたつもりが、ますます不機嫌になってしまった。

「えーっと、それじゃあ最後にプレゼントで〜す。わ〜ぱちぱちぱち〜」

 冷えかけた空気を黄緑さんが懸命に盛り上げる。紫ちゃんも今の件は忘れてくれるらしく、足下の紙袋から何かを取り出して後ろ手に隠し持っていた。

「じゃ〜ん! はい、私からはマフラーです! これから寒さも本番だから、温かくして風邪引かないでね」

 黄緑さんが俺の首にふわりとマフラーを巻きつけた。編み目の一つ一つから愛情を感じるのは気のせいではないだろう。

「これ手編みじゃないですか……ありがとう、大切に使います。それにしてもうまいもんだ……市販のものよりずっといいですよ」

 手放しで褒めると、黄緑さんは嬉しそうに目を細めた。

「うふふ、家事の合間にちょっとずつ編んだんですよ。さあ、次は紫ちゃんの番よ〜」

「あ、紫ちゃんもプレゼントくれるんだ。それは楽しみ……紫ちゃん? どうしたの?」

「……色無なんかにプレゼントあげるわけないでしょ! なにさ、お母さんお母さんって! そんなにお母さんが好きなら二人でどっかいっちゃえ!」

 紫ちゃんは勢いよく立ち上がると、二階への階段を音高く駆け上がっていった。声が震えていたような……泣いてる?

「紫ちゃん! 待って!」

 慌てて追うと、紫ちゃんが手に持っていたものが一瞬だけ見えた。

「あれはまさか……」

「あら、かぶっちゃったみたいね……お互い秘密にしてたのが裏目に出ちゃった」

 顔を見合わせる俺たち。黄緑さんは苦笑すると、俺の首からマフラーを取り上げた。

「行ってあげて、色無さん。こっちは手袋に編み直しますから」

「……黄緑さんにはいつも苦労ばっかりかけて本当にすみません……」

「苦労なんて思ったことありませんよ。私は色無さんも紫ちゃんも大好きなんですから」

 俺は黄緑さんを強く抱きしめてから、紫ちゃんのあとを追って階段を上った。

「紫ちゃん、入るよ」

 いくらノックしても返事をしないので、やむなくドアノブを回した。幸い鍵はかかってなかった。

「……勝手に、入って、こないでよ……ばかぁ……」

 しゃくり上げながらも悪態をつく紫ちゃん。真っ暗な部屋の中、俺は手探りで灯りのスイッチを押した。

「……何の用? もう寝るとこなんだけど」

「黄緑さんのマフラー、温かかったけどちょっと派手だから、会社にはつけていけないんだよ。手袋に編み直してくれるって言うから、マフラーは紫ちゃんのをくれないかな?」

「! こ、これはプレゼントってわけじゃなくて……欲しいならあげてもいいけど、お母さんみたいにうまくできなくて、目が飛んじゃってるしでこぼこだし……」

 俺は紫ちゃんに近づくと、その手からマフラーを取り上げ、首に巻いた。

「うん、温かい。紫ちゃんはまだちっちゃいのに編み物ができるんだね。勉強したの? 本当にありがとう」

「色無……ちっちゃいって、言うな……バカ……」

 紫ちゃんの頭を撫でてやると、上気した顔で見上げてきた。先ほどまで泣いていた目は潤んでおり、子供なのにちょっと色っぽい。ドキドキした俺は目を反らし、ついでに話も逸らしてみた。

「しかし、紫ちゃんの部屋に入るのは初めてだなあ。何か女の子っぽい、いい匂いがするね。くんかくんか」

「!! 色無のバカ、エッチ、変態!!! 出てけーーー!!!」

 女の子は本当に難しい。


ビュウ

紫「きゃあ!」

水「ッ!」

紫「……水ぅ!」

黄緑「何もそれぐらいで怒ることないじゃない」

紫「乙女のパンツが見られたんだよ! 怒るに決まってるじゃない!」

無「わざとじゃないんだから許してあげようよ」

紫「わざとじゃないとかじゃなくて見たか見ないかなのよ!」

無「まぁ紫ちゃんも恥ずかしかったんだもんな」

黄緑「そうねぇ。なら水色君には責任をとってもらわないとねぇ(パキパキ)」

無「そうだね。じゃあ行こうか黄緑さん」

紫「ど、どこいくの?」

色無黄緑「水色君の家」

紫「そんなことしなくても……」

無「だって紫ちゃんが許せないって言うんじゃねぇ?」

黄緑「ねぇ」

紫「わかったよ! 許せばいいんでしょ!」

黄緑「紫ちゃん、水色君だってわざとじゃないのよ。水色君謝っていたでしょ?」

紫「……確かにそうだよね。水はわざとじゃないんだもん。悪いことしちゃったかも」

黄緑「なら明日ちゃんと謝ること。いい?」

紫「うん」


黄緑「ふぅ、色無さんも会社行ったし、紫ちゃんも学校行ったし」

黄緑「あ、おはようございます」

白「おはようございます。ッ! ビールの缶凄いですね」

黄緑「……あはっ。そうそううちの紫が迷惑かけてません?」

白「大丈夫ですって、いつも水色がお世話になっててすいません」

黄緑「そんなことないですって!」

紫「くちっ!ふぇ」

水「くつん!」

橙「お前ら風邪ひいてんなら俺にだけはうつすなよ!」

黄緑「そうなの! うちのもトイレの時便座上げっぱなしなのよ!」

白「やっぱりどこもそうなんですかねぇ」

黄緑「それに色無さんなんて靴下裏返しのまま洗濯機に入れるんですよ!」

白「青さんなんてシャツと上着一緒に脱いで洗濯機に入れるからいちいち別けるの面倒なんですよ」

青「ぶっくしゅ!」

無「いっきし! おぅ寒っ!」

黄「どぅーしたんだい色無君? 風邪なら僕が特製」

無「あ、もうカレーはいいです」

黄「そうかぃ……」


 ある日のママゴト

紫「そぅねぇ……でもうちはそんなんじゃないわよ? あ、水色さん、ビール持ってきてぇ」

水「はーい」

群「そうなの! うちの旦那はそういうのちょっとねぇ」

橙「悪いねアハハハハ」

紫「ま、どこもそうよねぇ。水色さん、ビール持ってきてぇ」

水「はーい」

群「そう? やっぱり景気よくないからねぇ」

橙「すまないねぇアハハハハ」

紫「そんなことないですってぇ。水色さん、ビール持ってきてぇ」

水「はーい」

無「黄緑さん、これおいしいね。ピロシキだっけ?」

黄緑「そうよ。けっこう悩んだけど、そう言ってもらえてよかったぁ」

紫「私毎日これでもいいなぁ」

黄緑「もぅ、紫ちゃんったらぁ。あ、色無さん、ビール持ってきてもらえる?」

無「今日は飲まないってさっき言ったじゃん!」


無「ぐぅ」

黄緑「あら、色無さん寝ちゃった」

紫「えっ、私行きたいところあったのにぃ」

黄緑「んー。よし、ならお母さんと行こうか」

黄緑「今日は何しにここに来たの?」

紫「今日は服見にきたの」

黄緑「へぇ、今はこういうのが流行ってるんだ。あ! これ紫ちゃんに似合うんじゃない?」

紫「いや……ちょっと……趣味に合わないかなぁ」

黄緑「じゃあ、こっちなんかは……」

紫「んー……」

黄緑「これなんかも……」

紫「やっぱなんか……感覚が古い」

黄緑「(ピシッ)ふっ……古い……!」

紫「ち、違うよ! お母さんが年増とかバブルとか言ってるわけじゃないよ!」

黄緑「わざと……?」

紫「だから違うよ!」

黄緑「紫ちゃん、そろそろブラつけなくちゃダメじゃない? いくつ?」

紫「はぅ!」

無「おかえり……どうしたの、二人とも?」

黄緑「飲むわよ! 今日を忘れるまで飲むわよ!」

紫「私も飲むよ!」

無「わけわかんないけど紫ちゃんはダメ。ったく、何があったの?」

黄緑「ライバルがこんなに近くにいるなんて思わなかったわ!」

無「?」


紫「ねぇねぇ、今日は豆撒きだよね」

黄緑「あら? そうねえ。大丈夫よ、豆は買ってきてあるから」

紫「今どき鬼っているの?」

黄緑「紫ちゃん、鬼って言うのは不幸とかの象徴で、実際にはいないのよ」

紫「へぇー、そうなんだ」

無「ただいま。豆買ってきたよ」

黄緑「……」

紫「ごめん。調子乗っちゃって……」

無「紫ちゃん、俺の買った豆も気を使ってくれたんだもんね。ね?」

黄緑「ちょっとこれは撒き過ぎじゃなくて?」

無「まぁまぁ。落花生なんだから食べれるし、あとでおつまみにでもしません?」

黄緑「おつまみ……さぁ紫ちゃん、歳の数だけの豆を食べようか」

無「変わり身早すぎだよ」

黄緑「色無さん、お酒持ってきて♪」

紫「えっと、私は十個かぁ。色無は何個食べるの?」

無「俺は三十一個だな」

紫「うぉ、多いな! お母さんは確か二十——」

黄緑「十八個よ」

無「二十——」

黄緑「十八個よ!」

無「紫ちゃん、十八個用意してあげて」

紫「本当は……個なのに——」

黄緑「紫ちゃん? 十八個よね?」

紫「ひゃっ! はいぃ!」


紫「ただいまー」

黄緑「あら? 綺麗な薔薇ね。どうしたの?」

紫「今日緑さんの家に行ったら咲いてて、綺麗だねって言ったらくれたの」

黄緑「これはモダンローズね」

紫「もだんろーず?」

黄緑「薔薇にもいくつもの種類があるよ。今花瓶持ってくるね」

紫「でも薔薇って色もいっぱいあるよね?」

黄緑「そうね。でも薔薇って青色はないのよ」

紫「そうなの?」

黄緑「ほかの色は化学で作れるんだけど、青色は難しいんだって」

紫「あれ? でも緑さんの家にあったような……」

黄緑「彼は特別なのよ、きっと」

無「それにしても綺麗な薔薇だなぁ。緑がくれたんでしょ?」

黄緑「あとでお礼言ってくださいね」

無「でもこの薔薇いつからこの花瓶にあるんでしたっけ?」

黄緑「確か……一ヶ月前……」

無「……紫ちゃんこの薔薇もらったとき変な話聞かなかった!?」

紫「えっ? 何も聞いてないよ?」

無「ほんと!? なんか変な細胞とかなんとかないよね!?」

紫「わからないけど……たぶん」

薄「あなた、どう? 成功した?」

緑「うん、一ヶ月前に切り取ったところから、また同じ枝が生えてきたよ」

薄黄「逆に切り取った枝から先が生えることはあるんですか?」

緑「ないと思うよ……たぶん」


紫「ねぇ、あとはここにココアパウダー振るの?」

黄緑「そうそう。その上からチョコを転がす感じで粉をつけるのよ」

無「あの〜」

黄緑(ギンっ!)

無「ひっ! ……失礼しました〜」

紫「(ベチャ)あっ! やばっ!」

黄緑「あわわわ! 早く! 固まらないうちに転がしちゃって!」

無「あの〜」

黄緑「なぁに〜?」

無「あ、終わった? よかったよかった」

黄緑「もう、あれほど男子禁制って言ったじゃないですか!」

無「寂しくて、つい。紫ちゃん、どう?」

黄緑「最初はあたふたしてましたけど、ちゃぁんとできました。ま、私の教え方がいいからかしら。ふふっ」

無「なんかやけに上機嫌じゃないですか? えぇ?」

黄緑「だって紫ちゃん、一人分しか作らなかったんですよ? 学校の人にあげるんですって」

無(えっ? 普通小学校女児ってたくさん作ってみんなに配るもんじゃん? でも一人分しか作らないって明らかに特定の人を意識してない? えっ? まだ十歳だよ? そんな早くから決めちゃうの? 空気読もうよ。嫁? 嫁? 嫁? 嫁! 嫁! よ——)

黄緑「何一人で呟いてるんです?」

無「はっ!」

黄緑「成長って、早いわぁ」

無「黄緑さん! 飲もう! あの焼酎開けよう!」

黄緑「了解♪」


無「おっ、水色君おかえりなさい。……あれ、その箱は?」

水「これ……紫ちゃんからもらいました。あ、ありがとうございます」

無「あ、ははは……」

無「だってぇあのぉヒック……あのチョコがぁあの特別な一個がぁ……」

黄緑「別にいいじゃない。水色君いい子じゃん。それに紫ちゃんが認めた相手なんだし……」

無「(ゴクゴク)ぷぁ。認めた相手とか言わないで! まだ早いよ!」

黄緑「あの、色無さん? これって私が言えた義理じゃないんですけど、何本飲みました?」

無「あー、わかんない」

黄緑「あまり酔っちゃうとチョコあげませんからね」

無「……あんの!?」

黄緑「ちゃぁんと用意してありますよ。はい。開けてみて」

無「あぁ、なんかこうプレゼントみたいなの貰うの久しぶりだから、すごい嬉しいんですけど」

黄緑「大袈裟ですよ。さ、食べてください」

無「……うまい(グスン)」

黄緑「うふふふ、おいしい?」

無「すごくおいしいです……けど何でそんな黒いオーラ出すんです?」

黄緑「来月楽しみにしちゃうんだから……ククク」

無「……そうだった」


無「ただいまー」

黄緑「おかえり、あ・な・た♪」

無「えーと、給料はまだですけど……」

黄緑「違いますぅ!」

無「まさか保険金!」

黄緑「だぁかぁらぁ!」

紫「こらぁ! お母さんをいじめるなぁ!」

無「いじめてるわけじゃないんだけれども……」

黄緑「今日は色無さんの誕生日でしょ!」

無「……だっけ?」

紫「お母さんケーキ作ったんだよ! あと私も少し……」

黄緑「さぁ、早くぅ! ご飯冷めちゃいますよ!」

無「ごちそうさま」

黄緑「じゃあ次はお待ちかねのプレゼントでーす」

紫「は……はいっ!」

無「ありがとう、紫ちゃん」

紫「誕生日お……おめでとう……」

無「ありがとう(ナデナデ)」

紫「んっ」

黄緑「これ、新しいネクタイだからね」

無「ありがとう」

黄緑「これからもよろしくね」

無「こちらこそよろしく」

紫「むー」

無「紫ちゃんも(ギュ)」

紫「んっ」


紫「お母さーん、ちびまるこちゃん見せてー」

黄緑「はいはーい。じゃあ私、夕食つくりますか」

無「今日はなんですか?」

黄緑「んー。よし! じゃあトンカツにしましょう!」

紫「ごちそうさまー! おいしかったよ!」

無「うん。トンカツ柔らかかった」

黄緑「うふふ、二人ともありがと」

紫「ねぇ色無、お風呂入ろ!」

無「うん。黄緑さん、お風呂沸いてる?」

黄緑「今日は柚のバブありますよ」

紫「バブあるの? 色無! 早く入ろ!」

無「うん、わかったわかった」

黄緑「ふぃ、いい湯だった」

無「はい黄緑さん、ビール飲もう」

紫「ねぇ、お母さんは毎日ビール飲んでるけど、ビールって美味しいの?」

黄緑「ちょっと飲んでみる?」

紫「うん! (チョロ)うゎあ苦っ!」

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無「紫ちゃんにはまだ早いなぁ」

紫「私絶対大人になっても飲まないよ!」

 ガチャ

紫「色無ー。今日ここで寝ていーい?」

黄緑「あら? どうしたの?」

紫「私も映画見ながら寝たいからさぁ」

無「そう。じゃあ俺と黄緑さんの間に寝る?」

紫「うん。んー、色無の足温かい」

黄緑「もう。私にも色無さんの足貸してよぉ」


無「くしゅん!あ゛ー!!!」

黄緑「色無さん……オッサンみたい」

無「花粉症なんだもん」

紫「オッサン……」

無「紫ちゃんもそんな……はくしゅ! あ゛ーちくしょう!」

黄緑「私の知る色無さんはオッサンになっちゃったのね……」

紫「このスカート、今日初めてはくんだぁ」

無「紫ちゃんはかわいいからなに着ても似合うよ」

黄緑「私が選んだんだから私のセンスも——」

 ひゅう

紫「きゃあ! ……色無、今パンツ見たでしょ!」

無「見てない」

黄緑「色無さぁん……!」

 びゅう

黄緑「きゃ! 色無さぁん……!」

無「えっと……オー! モーレツ!」

黄緑「モーレツぅ! じゃなくてですねぇ」

紫「猛烈? なにそれ?」

無「……」

黄緑「……」

 (これがジェネレーションギャプ……)


黄緑「うん。立派立派」

無「ごめん。うちはアパートだから小さいのしか買えなくて」

黄緑「充分ですよ。紫ちゃん、見て見てぇ」

紫「おぉ」

無「なんか小さ——むぐっ」

黄緑「すごいでしょ! 色無さんが買ってくれたのよ」

紫「可愛いい……」

黄緑「気に入った?」

紫「うん! 色無、ありがとう!」

無「あはは……いやぁ……」

黄緑「よし! 今日はちらし寿司つくるわよ!」

紫「私も手伝うー!」

黄緑「色無さん、自分にとっては小さくても紫ちゃんには輝いて見えるんだから、過小評価しないの」

無「すいません」

黄緑「紫ちゃんには毎年、今年こそ雛人形買ってあげる、って言ってたから……」

無「ごめん……」

黄緑「そんな謝ることはないですよっ! 嬉しいですよっ!」

無「ならよかった」

黄緑「ほんと嬉しい——ヒック、嬉しいですよ」

無「白酒控えません?」


水「紫ちゃん……!」

紫「なっ、何よ……!」

水「……その……」

紫「は、早く言いなさいよ!」

水「これ……ホワイトデーだから……」

紫「あ、ありがとう!」

紫「〜♪」

黄緑「あら紫ちゃん、機嫌よさそう……あらあら、もしかしてこの箱……」

紫「お母さんは中見みちゃダメ!」

黄緑「えっと……『水色より』。キャ♪」

紫「こらぁ! もう! 部屋で開ける!(バタン)」

紫『うわぁクッキーだ。でもまだ夕食前だからなぁ』

黄緑「なるほどぉ」

無「何してるんですか?」

黄緑「しっ! 『壁に耳あり障子に目あり』ってね」

紫 『「バレンタインデーにはチョコありがとう。美味しかったです。水色より」あいつ……!』

黄緑「若いっていいわぁ。今絶対紫ちゃんニヤニヤして——」

 ガチャ

紫「ニヤニヤなんかしてない! お母さんの馬鹿ッ!」

無「まぁ紫ちゃん、はい。俺からのホワイトデーのお返し」

紫「これは?」

無「これをこうして(ギリギリギリギリ)」

 ♪〜♪〜〜〜♪〜♪〜♪〜〜♪

紫「オルゴールだ!」

無「そして黄緑さんにはこれ。ネックレス」

黄緑「これって……」

無「ホワイトデーだからパール。なんっつて、ははは。一粒しかないけど」

黄緑「色無さん、ありがとう! よし! 晩御飯作るわよ! ちょっと少な目に。クッキーが食べられないからね!」

紫「お母さんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」


無「卒業式か……」

紫「どうしたの、色無?」

無「今紫ちゃんは2年生だよね。卒業はあと3年後かぁ」

黄緑「3年なんてあっと言う間ですよ。お茶です」

無「子供の成長は早いって、親から何度も聞かされたからなぁ」

黄緑「そうですよぉ。紫ちゃんだってすぐ大きくなるんですから」

紫「ちっちゃいっていうな!」

無「すぐ大きくなるか、あははは……」

紫「に、似合うかなぁ?」

黄緑「うんうん、中学生らしいよ」

黄緑「今何時だと思ってるの! 心配したのよッ!」

紫「ちょっとぐらいいいじゃん! 子供扱いするなぁ!」

無「紫ちゃん、大学合格おめでとう!」

紫「ありがとう、色無」

紫「じゃあ仕事行ってくるねー。ちょっと遅くなるかもしれないよ」

黄緑「気をつけてねぇ」

水「紫さんを僕に下さい! お願いします!」

紫「私! 絶対結婚するからね!」

紫「お母さん、私妊娠——」

無「だぁめだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

紫「……」

黄緑「何してんですか?」

無「ごめん、ちょっとエキサイトしすぎた」


紫「お母さんお母さん。今日のご飯何?」

黄緑「今日はー、何にしよっか?」

紫「今日はカレーにしようよ!」

黄緑「あらら? 何でかな?」

紫「今日はお母さんにカレーの作り方教えてもらいたいの! お願い!」

黄緑「そうねぇ。そろそろ紫ちゃんもお料理覚えなくちゃね。よし! 気合い入れていくわよ!」

紫「オスッ!」

無「いただきまーす」

黄緑「フフっ、今日のカレーはどうかしら?」

無「なんかいつもと味が若干違う気がする」

黄緑「そうかしら? それって不味いってこと?」

無「いや、美味しいんだけどなんだろう……黄緑さんじゃない……他の人が作ったカレーって感じ?」

黄緑「結論! 美味しい? 美味しくない?」

無「美味しいかな?」

黄緑「聞いた、紫ちゃん? 美味しいだって」

紫「ぐー。反応がイマイチだったー」

無「それはね、紫ちゃん。味にも個人差があってね。黄緑の味を基準に判断しちゃったからからさ」

紫「言い訳だー。つまりお母さんのカレーより美味しくなかったんだ」

黄緑「そんなに卑屈にならないの」

紫「だってー」

黄緑「お母さんがいるうちはお母さんのカレーが一番なの」

紫「じゃあお母さんがいなかったら私のカレーが一番?」

黄緑「そういうことになるわね」

紫「じゃあ私、ずっと二番でいい。お母さんいないのやだもん」

黄緑「……ありがとう、紫ちゃん」


紫「お母さんお母さん! あれを見て! UFO!」

黄緑「……甘いわね。今日がエイプリルフールってことを考えればお見通しよ」

紫「チッ」

黄緑「いい紫ちゃん。嘘っていうのはこうするのよ」

無「あれ? 黄緑さん元気ないよ? 食べないの?」

黄緑「色無さん、紫ちゃん。落ち着いて聞いてね」

紫「なになに?」

無「今日がエイプリルフールってことぐらい、俺だってわかってますからね?」

黄緑「できちゃったみたい」

無「……」

黄緑「明らかにその目は疑ってますね! もう三ヶ月なんですよ!」

無「ソースうp」

黄緑「これ……母子手帳……」

紫「うわぁ、こんな手帳もらえるんだぁ」

無「えっ? マジなの嘘なの? ハッキリ言って下さいよぉ!」

黄緑「嘘よ嘘。これは紫ちゃんの母子手帳よ」

紫「引っ掛かった引っ掛かった」

無「もう、嬉しいような悲しいような……」

黄緑「紫ちゃん、嘘っていうのはどのように騙すかじゃなくて、どのようにプレッシャーをかけられるかなのよ」

紫「はぁーい」

無「変なこと教えないの」

黄緑「はぁーい」

 翌日

紫「水ー、私赤ちゃんできた!」

水「えぇ! 僕何もしてないよ!」


黄緑「いいんですか? 会社の花見なんて来ちゃって」

無「いいんですよ。みんなも家族連れて来てるし」

紫「私花見初めてだから、どんなものだか早く知りたいよ」

黄「おぉい色無くぅん、こっちこっち。おぅ、奥さんと娘さんも一緒かぃ」

黄緑「黄色さんですよね。おはようございます」

黄「ありゃぁ、なぁんでわかったかなぁ」

黄緑「だって花見でカレー煮込んでる人って……。ほら、紫ちゃんも挨拶して」

紫「えっと……カレーの人ですよね。お、おはようございます」

黄「カレーの人……」

黄緑「ちょっと紫ちゃん! カレーの人って……」

黄「なぁんていい響きだ! さぁお嬢ちゃん、僕の特製のカレーをたべないかぃ?」

無「黄色さん、今花見してんだよね?」

金「この娘色無さんの娘さんですか? 可愛い! ねぇお団子食べる? 食べる?」

紫「ありがとう、お姉さん(モチモチ)」

銀「可愛いぃ! お姉さんの膝の上乗ってみて! みて!」

黄緑「紫ちゃん人気ねぇ」

無「連れてきたかいあったよ。あと、桜どう? 綺麗でしょ?」

黄緑「うん、綺麗だわ。満開ね」

無「この桜の木には毎年お世話になってるからねぇ。来年も見れたらいいなぁ」

黄緑「色無さんは」

無「はい?」

黄緑「色無さんは長生きしますよね?」

無「……うん、ずっと黄緑さんと毎年こうして桜を眺めることが生き甲斐ですから」

黄緑「もう、なんかちょっと涙出てきちゃいました。ごめんなさいね」

無「いいんですよ、たまには」


黄緑「困ったわ……」

無「どうしたんです?」

黄緑「どうしましょう、色無さん。我が家のピンチですよ、これは」

無「いったい何が起こったんですか!」

黄緑「今日の献立が決まらないんですよ!」

無「なっ! なんだってー!!!!」

紫 「じゃあラーメンでも食べに行こうよ」

黄緑「じゃあ私は塩ラーメンで」

無「紫ちゃんは何にする?」

紫「私はお子様セット!」

無「(お子様なんだ……)じゃ、じゃあ俺は味噌ラーメンで」

黄緑「紫ちゃんはまだお子様セット食べるの?」

紫「甘いよ、お母さん。お子様セットはラーメンにミニチャーハンとジュースとお菓子がついて500円以内ですむんだから!」

黄緑「そうなの! ならお母さんもお子様セットにすれば……」

紫「お母さんの歳じゃ無理だよ……」

 パキィン

黄緑「あ……」

無「紫ちゃん、駄目だよ! 黄緑さん、しっかりして! 麺が延びちゃうよ!」


 カリカリカリカリ

黄緑「あら? 紫ちゃん、ずいぶん熱心ね。なに書いてるの?」

紫「あっ、お母さんは見ちゃだめ! 色無が帰ってきたら見せるんだから、まだナイショなの!」

黄緑「あらあら……お母さん寂しい……」

無「ただいま〜。ふう……ゴールデンウィーク進行もようやく今日で終わりか」

紫「色無、おかえり! ねえねえ、これ見て——」

無「ただいま、紫ちゃん。いや〜、今日まで目が回るくらい忙しかったけど、明日からなんと八連休だよ」

紫「うん、知ってる。でね、これを——」

無「連休はごろごろするぞ〜。もう指一本動かしたくないくらいクタクタだよ。紫ちゃんも一緒にお昼寝しような」

紫「……」

無「? どうしたの紫ちゃん?」

紫「色無の馬鹿!! そんなに寝たかったら目ん玉溶けるまで一人で寝てればいいでしょ!」

無「紫ちゃん!?」

 コンコン

黄緑「紫ちゃん、夕ご飯できたわよ。何があったか知らないけど、いつまでも拗ねてないで出てきなさい。……紫ちゃん? 入るわよ?」

 ソワソワ

無「いったい何が気に入らなかったんだろう……あ、黄緑さん! どうでした? 紫ちゃんの様子」

黄緑「色無さん、一緒に紫ちゃんの部屋に来ていただけます?」

 ソーッ

紫「色無の馬鹿ぁ……グス……」

無「……寝てる」

黄緑「泣き疲れて眠っちゃったみたいですね。それより、これ見て下さい」

無「これって、さっき紫ちゃんが見せてくれようとしたやつ? 何だろう。……これは……」

黄緑「ゴールデンウィークの予定表ですね。色無さん、ここ一ヶ月ほどずいぶん忙しくて、紫ちゃんが起きる前に出勤して、寝ちゃったあとで帰ってきてましたよね」

無「ええ」

黄緑「休日出勤も多くて、たまに家にいるときはずっと寝ていて……紫ちゃん、きっと寂しかったんですよ。だからゴールデンウィークに色無さんとお出かけしたかったんですね」

無「それでさっき、『連休はごろごろする』って言ったら怒ったのか……悪いことしちゃったな」

黄緑「お仕事大変でお疲れだと思いますけど……紫ちゃんの夢、できるだけ叶えてあげて下さい」

無「もちろんですよ。紫ちゃんは大事な一人娘ですからね。できるだけなんてとんでもない。全部叶えて見せますよ」

黄緑「あらあら。……お願いを叶えてあげるのは紫ちゃんだけでいいんですか?」

無「え?」

黄緑「寂しい思いをしてたのは紫ちゃんだけじゃありませんよ? 大事な奥さんのこともかまってあげて下さいね」

無「あ……はい、善処します……」

黄緑「ふふふ。頑張って下さいね、お父さん」

無(ハウステンボス、札幌時計台、USJ、鳥取砂丘、ディズニーランドとディズニーシー、後楽園のヒーローショーにアニメ映画四本……全部は無理だろ……常識的に考えて……)


無「ふぁ……3連休かぁ」

黄緑「あら? 有給とらなかったんです?」

無「いちおうまだ中堅社員なもので。すんません」

黄緑「たまには色無さんも休まないと——」

紫「色無! どっか行こー!」

黄緑「紫ちゃん、色無さんは——」

紫「ねぇねぇどこ行く? どこ行く?」

黄緑「紫ちゃ——」

紫「ディズニーランド行きたいなぁ! 私まだ行ったことないし! あとはね——」

黄緑「むぅらぁさぁきぃちゃぁん!」

紫「(ビク)……はい?」

黄緑「色無さんは仕事で疲れてるから休ませてあげないと」

無「いいよ紫ちゃん。月曜日に行こうか?」

黄緑「えっ? 休まなくていいの?」

無「最近仕事にかまけてどこも行かなかったし、どこかパーっと」

紫「あ……やっぱいいかなぁ、あとで」

無「あれ?」

紫「そうだよ、色無も疲れてるんだよね。たまには休まないと」

無「いいの? 紫ちゃん」

紫「私は我慢できるもん」

無「なら紫ちゃんに甘えようかな?(ナデナデ)」

紫「んっ……ちっちゃいって……言うな……」

無「何か、紫ちゃんに救われましたね」

黄緑「大人になったでしょ? 紫ちゃん」

無「ホント、少し背が伸びましたし。はぁ、次の連休はどこか連れて行ってあげないとなぁ」

黄緑「そうだ! 一泊二日で熱海の温泉なんてどうですか?」

無「それは黄緑さんの行きたいところでしょう。だけど、いずれは行きたいですね。家族三人で」

黄緑「そうですねぇ……」


紫「あはははは! コ○ンもクレ○ンしんちゃんもおもしろかったー!」

黄緑「走ると危ないわよー」

無「そりゃよかった……それにしても、紫ちゃんはまだ元気余ってるんだね……若いっていいなあ」

黄緑「なにジジ臭いこと言ってるんですか。でも、お疲れ様でした。もう明日からお仕事ですけど、身体大丈夫ですか?」

無「あはは……まあ紫ちゃんが学校行ってた二日間は休めたしね。それにしても、結局紫ちゃんの希望を半分も叶えられなかったなあ。面目ない」

黄緑「もともと無理なのは分かりきってたじゃないですか。それでも泊まりでディズニーランド行って、ヒーローショー見て、映画も二本見て……充分ですよ」

無「紫ちゃんもそう思ってくれればいいんですけどねえ」

紫「二人とも遅いよー! レストランでご飯食べるんでしょ? はやくはやくー!」

黄緑「はいはい。ねえ紫ちゃん、ゴールデンウィーク、楽しかった?」

紫「うん! すっごい楽しかった!」

無「それはよかった。何が一番楽しかった?」

紫「……秘密」

無「え?」

紫「秘密! 色無には教えない!」

無「そんなあ……」

黄緑「あらあら」

無「ふは〜、いいお湯でした」

黄緑「はい、ビール冷えてますよ。改めて、連休お疲れ様でした」

無「はは、休みなのにお疲れ様でした、も変ですけどね。紫ちゃんはもう寝ちゃいました?」

黄緑「ええ、お風呂から上がったらすぐ。さっき様子見に言ったら、寝ながら笑ってました。きっといい夢見てるんですよ」

無「そうですか。はあ……でもなんで、何が一番楽しかったか教えてくれないんだろう」

黄緑「ふふふ、私はさっきこっそり聞いちゃいましたけど」

無「え!? なんだったんですか!?」

黄緑「ん〜、どうしようかな〜」

無「意地悪しないで教えて下さいよ」

黄緑「……紫ちゃんね、こう言ったんですよ。『ディズニーランドもヒーローショーも、映画も面白かったけど……色無とお母さんと、ずっと三人一緒にいられたのが一番楽しかった』って」

無「……なんかもう、その一言だけで疲れが全部吹っ飛んだ気がしますよ。明日からは全力で早く帰ってきますね」

黄緑「そうしてあげて下さい。ところで、疲れが吹き飛んじゃったなら……今夜は大人のゴールデンウィークってことですか?」

無「え? あ、いやーその……明日も早いんで……」

黄緑「ふふふ、冗談ですよ。じゃあビール飲んだら休みましょうか。私も一杯いただきますね。楽しかった連休に……」

無「明日からの三人の幸せに」

『乾杯』


紫「……198、199、200!」

無「紫ちゃんありがとう。はい、100円!」

紫「毎度あり〜♪ それじゃ行ってくる!」

黄緑「色無さん、肩叩きでお金上げてるんですか?」

無「ええ、いつもはタダなんですけどね」

黄緑「いつもは?????」

紫「ただいま! はい、これお母さん。カーネーション。半分は色無から」

無「自分で稼いだお金で買いたかったそうです」

黄緑「あらあら、うふふふ。ありがとう紫ちゃん。グスン……」


紫「色無! ちょっと来て!」

無「どうしたの? 紫ちゃん」

紫「いいから! 早く!」

紫「今日は母の日だから、私が晩ご飯作るから!」

黄緑「あら。確か今日だったわね。お母さん、すっかり忘れちゃってた」

無「ほんと今日は黄緑さんゆっくりしててください。俺と紫ちゃんでやりますから」

黄緑「ふふ。ならそうしちゃおうかなぁ」

紫「色無! ご飯よそってきて!」

黄緑「まぁ。紫ちゃん手際いいわね」

紫「へへ」

無「紫ちゃん! 火ぃ! 火ぃ!」

黄緑「今日はカレーですか」

無「やっぱりこれが定番かな」

紫「ねぇねぇ味は? お母さん」

黄緑「美味しいよ、紫ちゃん」

無「よかった。それじゃあ紫ちゃん、持ってこようか?」

紫「うん」

黄緑「?」

紫「はい。カーネーション」

黄緑「まぁまぁ、綺麗」

紫「あと、いつも……ありがとう」

黄緑「こちらこそ、いつもありがとう」

紫「私はいつも……そんな……」

黄緑「紫ちゃんはお母さんの支えになってくれてるからね。お母さんこれからも頑張るからね(ナデナデ)」

紫「うん。私も頑張る」

無「じゃあ、続き食べようか」


「紫、聞いたわよ〜。アンタまた告って来た男子振ったんだって?」

「あ、アタシも聞いた! しかも相手はバスケ部キャプテン、二組の阿部君だって!」

「マジ!? アタシだったらもう速攻でOKしちゃうのに! いったいどこが気に入らないわけ?」

 お昼休み、窓際でぼーっと箸を動かしてると、いつも一緒にお弁当を食べてる子たちが机ごとにじり寄ってきた。

「……さっきの休み時間の話なのに、ホント耳が早いわね……」

「そんなことはどうでもいいのよ! ほらほら、さっさとゴメンナサイした理由を吐きなさい!」

「理由って言われてもねえ……つきあうとかそういう対象として見れなかったから、かな? 阿部君……だったっけ? 彼ちょっと頼りなさそうだったし」

 言えって言うから正直に答えたのに、二人は納得するどころかますますヒートアップして詰め寄ってきた。

「何それ!? キャプテンやってるくらいリーダーシップがある阿部君がダメで、いったい誰なら頼れるって言うのよ?」

「うーん、同級生はちょっとねえ……三年生もまだまだかな。やっぱり責任感と包容力のある大人の男じゃないとね」

「まったく……紫は理想高すぎ! 学年中のイケメンから告られてるくせにこれだもん。この贅沢者! 一人でいいからこっちによこせ!」

「ほんとほんと。あ〜あ、アタシも紫くらいに、もうちょっと背があって胸もおっきかったらなあ……」

「二人とも、去年はさんざん『ちんくしゃ』だの『マニア受け』だの『成績悪いのに飛び級してきた小学生』だの言ってくれたくせに……」

 そう。ずっとコンプレックスだった低い背も小さい胸も去年の後半から急成長し、わたしはかなりのナイスバディになっちゃった——自分で言うのも何だけど。

「そんなこと言ったっけ? まあいいじゃん、姿形がどんだけ変わっても私たちの友情は永遠ってことよ」

「そうそう。ちょっとキレイになったからって言い寄ってくる男子たちとはわけが違うんだから。そんな連中は振って正解よね」

「さっきと言ってることが違う!」

 わたしの適切で鋭いツッコミを、二人はぱたぱたと手を振ってさらっと流した。まったく、めげない奴ら。

「まあでも、適当なところで妥協しないと、残りの高校生活も寂しいことになっちゃうよ。そんな理想通りの男なんてまずいないんだからさ」

「でもアンタの彼氏は妥協しすぎだけどねー」

「なっ! アンタの彼氏よりましでしょ! なにあのイガグリ頭、しんじらんない!」

「野球部なんだからしょうがないじゃん! チャラいだけの男よりましですよーだ!」

 突然始まった彼氏自慢(ていうか相手の彼氏こきおろし大会)に、あたしはため息ついてお弁当の残りを片づけた。

 本当は、わたしだって分かってる。理想の男なんてそうはいないってことも——いたとしても、相手が自分を選んでくれるとは限らないってことも。

 

「ただいまー。あれ?」

 放課後、しつこく寄り道しようと誘ってくる二人を振りきって、買い物してからうちに帰る。そしたら、こんな時間には珍しい靴が玄関に並んでた。

「おかえり、紫ちゃん」

「ただいま。色無、今日は早いね。お母さんは?」

「明日に備えて半休取ったんだ。てか、ほんとは週休二日なはずなんだけどね……。黄緑さんはお墓参りにいるものをそろえに買いもの行ったよ」

 着替えもしないでまっすぐ居間に行くと、ソファーでくつろいでた色無がこっちを向いた。

「そっか。明日は父の日だもんね」

 冷蔵庫から麦茶を出して飲む。ふと浮かんできた疑問を口にしてみた。

「色無はさ、嫌じゃないの? 普通父の日までお墓参りしたりしないでしょ?」

「ん? 嫌なことなんか全然ないよ。紫宛さんがいたから今の黄緑さんや紫ちゃんがいるんだし。三人仲良くやってますって、ちゃんと報告しないとね」

 振り返ると、もう色無は新聞に目を戻してて、その背中がなんだかずいぶん大きく見えた。

「そんなもんかな……えいっ!」

「わっ! な、何、どうしたの紫ちゃん!?」

 そーっと忍び寄って後ろから首根っこに抱きつくと、色無は素っ頓狂な声を上げた。

「明日はお父さんのお墓参りで忙しいから、今日は前倒しで色無にサービスしてあげる。どう? うれしい?」

「……そりゃどうも。でもちょっと甘えられたくらいでサービスって言われてもなー。体はずいぶんと大きくなったのに、やることはまだまだ子供——」

「調子にのんな!」

「いたたたた、ごめんごめん、ギブアップギブアップ!」

 セクハラオヤジみたいなことを言う色無のこめかみにウメボシをお見舞いしながら、それでもわたしはその背中から離れなかった。

「……ホントいうとさ、わたしがちっちゃいころに死んじゃったから、もうあんまりお父さんのこと思い出せないんだよね」

「……そっか」

「でもお父さんのおっきな背中が大好きで、よくおんぶしてもらってたから、こうすれば思い出せるかと思って。ごめんね、勝手に背中借りちゃって」

 すっと身を引こうとしたわたしの手に、色無の大きな手のひらがそっと重なった。

「こんな背中でよければいつでも貸すよ。背中だけじゃなくて、紫ちゃんのためなら何だってしてあげる。今は俺が……俺も、紫ちゃんの父親なんだからさ」

「色無……」

 ——ここで素直に『ありがとう……お父さん』なんて言えれば可愛げもあるんだろうけど。あいにくとわたしはそういうのが大の苦手だった。

「……な、何言ってんのよ! わたしのお父さんを名乗るなら、まずはその出っ張ってきたお腹と薄くなってきた髪を何とかしてからにしてよね!」

「え!? お、お腹はともかく、髪!? 俺薄くなってんの!?」

 照れ隠しのでたらめが予想外にダメージを与えちゃったみたいだけど、一度口にした言葉はもう元には戻せない。

「少なくともお父さんはもっとスマートだったし、頭もフサフサだったわよ!」

「さっきはもうあんまり思い出せないって言ってたのに……いや、今はそんなことより、俺の髪——」

「あーもううるさいうるさい! とにかく、色無はお父さんじゃないの! 色無は色無なの!」

 一気にまくし立てて居間を飛び出す。階段を上る途中で玄関のドアが開いてお母さんが帰ってきたけど、挨拶もしないで駆け上がり、部屋に飛び込んだ。

 下からびっくりしているお母さんの声と、『黄緑さん、俺ハゲてる!? ハゲてないよね!?』って繰り返す色無の悲痛な叫びが聞こえる。

 わたしは自己嫌悪と恥ずかしさで、制服をあっという間に脱ぎ捨てると、下着のままベッドに飛び込んで頭から布団をかぶった。

 

『——色無は紫と結婚するから』

『ハハ、まいったな』

『でも紫ちゃんと結婚するころは、色無さんもお母さんもおじいちゃんとおばあちゃんだよ?』

『うぅ……それはイヤかも』

『お母さんと色無さんが結婚すれば、紫ちゃんも一緒に色無さんと毎日いられるわよ?』

『……ならいいかも』

「……ずいぶんと懐かしい夢ね。……あのときもっとわがまま言ってたら、今ごろ何か変わってたのかな……なんてね」

 息苦しくなってもぞもぞと布団の中から這い出す。時計を見ると、そろそろお母さんが夕飯の支度をしてるころだった。

「これは小さい女の子が『おおきくなったらパパとけっこんする!』って言うのと同じようなもんよね。普通は小学校あがるくらいで自然に消えちゃうもんなのよ、この気持ちは」

 ゴロゴロ転がって、そのままベッドからどすんと落っこちる。床にぶつけてひりひりするおでこをそのままにして、独り言を続ける。

「でも、お父さん小さいときに死んじゃったし、お母さんの再婚相手はちょっとかっこよかったしで、ぐちゃぐちゃになっちゃってるだけなのよ」

 下からお母さんの呼ぶ声がする。わたしのことで何か心配事があると、料理を手伝わせながら気遣ってくれるのがお母さんのやり方。

「はーい、今行くー」

 この気持ちはきっと幻。わたしがまだ子供なだけ。いつかお母さんよりきれいになって、色無よりいい男を見つけたら消えてくれる気持ち。何の問題もない。

「そのときになったら、色無もお母さんもうんとびっくりさせて、うらやましがらせてやるんだから」

 部屋着に着替え、下に降りようとしたところで思い出し、引き返して鞄の中からきれいにラッピングされた包みを取り出す。

「『いつもありがとう、お父さん』って言って渡したら……色無、喜んでくれるかな?」

 またお母さんの呼ぶ声が聞こえた。なかなか降りてこないから、よけいに心配かけちゃったかな?

「今行くってばー!」

 わたしは念入りに選んで買ってきたネクタイを引き出しにしまいこみ、部屋を飛び出して階段を駆け下りた。


トン トン トン

黄緑「紫ちゃん、その切方だと指切っちゃうよ」

紫「え?」

黄緑「玉葱を切る時は右手の指を少し曲げてそれで押さえるのよ」

紫「こ、こう?」

黄緑「そうそう。あとね、ゆっくりやるのよ。早くやろうとして紫ちゃんの綺麗な指に傷つけたくないもの」

紫「わかったよ」

無「今日はロールキャベツなんだ」

黄緑「どうぞ食べて下さい」

無「……あーん」

紫「どう色無? ねぇ?」

無「うん。普通においしいと思うよ」

黄緑「ねー。言ったでしょ、紫ちゃん。おいしいって。お世辞じゃないのよ」

無「これ、紫ちゃん作ったの? おいしいよ」

紫「よかったぁ。形あんまりよくなかったし、味つけも自信なかったんだぁ」

黄緑「ほら、今日は父の日でしょ? だから紫ちゃんがご飯作りたいって」

無「父の日って……今日か。ははっ、ありがとう紫ちゃん」

無「正直なこと言うとさ。わかってたんだよね。今日のご飯紫ちゃん作ったの」

黄緑「あら? 何でですか?」

無「紫ちゃん、指切ったでしょ?」

黄緑「あら? わかってたの?」

無「だけどあそこで指の話したら気使ったって思われそうだから言わなかったけど」

黄緑「ふふ、じゃあ実際紫ちゃんの料理、どうだった?」

無「うまくなきゃうまいなんて言いません」

黄緑「なら紫ちゃん、よかったのね」

無「ときどき、父親になったのかなぁって思うときあるんだけど。こういうことあるとよかったって思うよ」

黄緑「ふふ、そうねぇ」


黄緑「はぁ」

無「日曜まで雨が降っていると確かに気が滅入るね」

黄緑「洗濯物も乾かないし布団も干せないんだもん。がっかりしちゃう」

無「干ばつの起こっている地域もあるのに。少しわけてやりたいよ」

黄緑「新聞なんてその辺置いてるだけで湿っちゃいますからね」

紫「ねぇお母さん。宿題終わったからおやつ食べたいんだけど」

黄緑「あら。終わった?じゃあちょっと待っててね。この前のカステラ出すから」

無「それにしてもジメジメするなぁ」

黄緑「……ごめん紫ちゃん」

紫「え?」

黄緑「カステラカビてた」

紫「そんなぁ。楽しみにしてたのぃ」

無「今の季節食べ物の管理はキチッとしないと」

黄緑「そうですね。私としたことが不覚だったわ」

紫「文明堂……」


紫「かーゆーいーっ!!」

黄緑「あらあら……色無さん、アレ持ってきてもらえます?」

無「えーと、確か戸棚の中に……はい、ウナコーワクール」

黄緑「ありがとうございます。さ、紫ちゃんどこがかゆいの?」

紫「えっとね、後ろの首の辺り!」

黄緑「はいはい(ぬりぬり)」

紫「んくぅ〜っ……」

黄緑「どう?」

紫「すーすーするよ〜」

無「(ちょっと悪戯しちゃおうか)紫ちゃん?」

紫「ん?」

無「ふ〜」

紫「ひゃぁぁぅぅ!!! な、何すんのぉ?!」

無「いや、もっと涼しくしてあげようかと思って」

黄緑「顔がニヤけてますよ、色無さん?」

紫「むぅ……いいもん! 今度色無にもしてやるんだから!」

無「ははは……(それはそれでちょっと楽しみだよな)」

黄緑「色無さん!」

無「は、はいぃ!?(やば、怒らせちゃったかな……)」

黄緑「私も首筋のところがかゆいんです。ウナを塗ってふーふーして下さい」

無「わ、分かりました。ここらへんですか?」

黄緑「あ、もう少し左……その辺です」

無「(ぬりぬり)これでよしっと。じゃあふーふーしますね。(ふー)」

黄緑「ふぁ……っ!」

紫「……ねー、仲がいいのはいいんだけど、あたしの前で見せつけないでよー」


紫「ん〜……」

無「紫ちゃん?」

紫「い、色無!?」

無「あー……残念だなぁ、もう少し身長があれば上まで届くのにね」

紫「ち、ちっちゃいゆーなっ!!」

無「俺が代わりに上に短冊飾ってあげるよ。貸してごらん」

紫「ダメー!!」

無「なんで?」

紫「そ、それは……」

無「……うん、わかった。じゃあこうすればいいかな?(ヒョイ)」

紫「ひゃっ!? い、いきなり持ち上げるなぁ!」

無「ほら、早く飾りなよ」

紫「え? ……う、うん」

無「まだ?」

紫「ん……もうちょっと……」

無「いい?」

紫「……いいよ」

無「ほいっと(ストン)」

紫「見ないでね! 絶対見ちゃダメなんだからね!!」

無「はいはい」

無「ぅぅ……ひっぐ……」

黄緑「色無さん、あんまり泣くと目が腫れちゃいますよ」

無「す、すいませ……ぅぐ……あんまり嬉しくて……」

黄緑「ふふふ、よかったですね。今どき『色無が仕事しすぎて病気になりませんように』なんて書く子はそうそういませんよね」

無「……お、俺……紫ちゃんを絶対幸せにしますから……」

黄緑「あら、私は幸せにしてくれないんですか?」

無「そ、そんなことないです! 黄緑さんももちろん幸せに——」

黄緑「なんて、からかってみただけですよ。でも私と紫ちゃんが幸せになるためには色無さんが健康なのが一番なんですからね」

無「はい、体に気をつけて頑張ります」


紫「あーっ、色無あれ買って!」

無「どれ?」

紫「ほら! あの帽子! 可愛いと思わない?」

無「うぇ……なんかちょっと高そう……って待って待って、店の中に歩を進めない!!」

紫「早く早くーっ!」

黄緑「紫ちゃん、あんまり急ぐと転んじゃいますよ」

紫「だーいじょーぶだよっ! ほら、お母さんもなんかおねだりしちゃいなよ!」

無「む、紫ちゃん!?」

黄緑「あらあら、私の分まで買って頂けるんですか? ありがとうございます、色無さん」

無「こ、今月の小遣いが……まぁ二人に喜んでもらえるならいっか」

紫「色無、これなんかどうかな?」

無「うん、可愛いよ」

紫「本当? じゃああたしこれにしよっかな♪ お母さんは決まった?」

黄緑「うーん、紫ちゃんが持ってるのが可愛いかと思ったんだけど……紫ちゃんが先に目つけちゃったみたいだから……」

紫「じゃあお揃いのにしようよ!」

黄緑「えっ?」

紫「……んしょ(ぱさ)。ほら、お母さんも似合ってるもん!」

黄緑「まぁ……」

無「いいんじゃないですか? 似合ってますよ、黄緑さん」

黄緑「……じゃあ、私もこれで」

紫「えへへ、お揃いだねっ!」

黄緑「ありがとう、紫ちゃん。それに色無さんもありがとうございます」

紫「色無、ありがと!」

無「どういたしまして。さて、お会計お会計……」

紫「先に外行ってるね!」

無「……帽子二つで諭吉さんが2枚も飛んでいくなんてなぁ……」


紫「来週から夏休みだよっ♪」

黄緑「あらあら、いいわねぇ」

無「なんてうらやましい……」

紫「ね、夏休みどっか連れて行ってよ!」

無「うーん、そうだなぁ……あ、お盆に墓参り(ゴス)ぐぶっ!」

黄緑「そ、そうね! せっかくの夏休みだものね! 色無さん、今から計画立てましょうか?(色無さん、空気読んで下さい!)」

無「うぅぅ……あぁ……そ、そうですね……(みぞおちクリティカルヒットktkr……)」

紫「ホントっ!? ……じ、じゃあさっ……!」

黄緑「なぁに?」

紫「その……水色君も連れて……海……とか……」

黄緑「あらまぁ……」

紫「べ、別に水色君に水着見てもらいたいとか、水色君と一緒に海で遊びたいわけじゃないんだから!」

無「み、水色君に水着を見てもらいたいだなんて……そ、そんなの絶対ダメ(ゴス)かはっ!」

黄緑「うふふ、分かったわ。お母さんと色無さんと水色君のお母さんとお父さんで相談してみるわね。ね、色無さん?(ニコ)」

無「……わ……わかりまし……た……」

紫「やたぁ♪ ありがとうお母さん、色無!」

黄緑「そうと決まれば紫ちゃんの新しい水着も買ってこなくちゃいけないわね」

紫「水着も買ってくれるの!?」

黄緑「見せたいんでしょ?」

紫「ぅ……うん」

黄緑「ふふ、水色君がビックリしちゃうようなの買ってきちゃおうか?」

紫「えっ、それってどんなの?!」

無「そ、それだけはダメだぁ!!」

黄緑「……なんて、冗談です。紫ちゃんに似合う可愛いの買ってきましょ♪」

紫「あ、ついでにお母さんも色無に買ってもらいなよ! お小遣いのボーナスもらったんだよね?」

無「な、なんで紫ちゃんがそのことを!?」

黄緑「色無さん、ありがとうございます♪」

紫「ありがと、色無♪」

無「せっかくのボーナスが……」


黄緑「お祭りなんて久しぶり。にぎやかですね、色無さん」

無「夏休み入ってすぐですからね。子供たちも待ちかねてたんじゃないかな」

紫「二人とも、はやくー! 色無、綿飴とかたこ焼きとかいっぱい買ってね! 金魚すくいとか射的もやろーね!」

無「ちゃんとお小遣い上げたでしょ。その範囲内で計画的に使うんだよ」

紫「あれっぽっちじゃ全然足りないよ! お母さんからも何とか言ってよ!」

黄緑「紫ちゃん、色無さんの言う通りよ。大事に使ってね」

紫「ぶー」

綿菓子屋「お、ちょっとそこのお兄さん! 両手に花とは隅に置けないねえ! 彼女たちに綿飴買ってあげていいとこ見せなよ!」

無「いや、けっこうです。もう結婚してるんで、いいとこ見せる必要ありませんから」

綿菓子屋「へー、そいつはうらやましい! 女子大生と結婚できるなんて、見かけによらず女殺しだね、旦那!」

黄緑「あら、女子大生だなんて……いやだわ、うふふ。色無さん、綿菓子買ってくださいな。私と紫ちゃんの分、二つずつ!」

無「黄緑さん、紫ちゃんの教育上、そういうことは……」

紫「私にはお小遣い大事に使えって言ったのにー! あんな見え見えのお世辞にのせられちゃってさ」

アクセ屋「ほー、そっちのお姉さんが旦那の奥さんかい? じゃあそっちの子は妹さんかな? ずいぶん大人っぽいねえ、高校生? この指輪とかぴったりだよ!」

紫「色無! 指輪買って! あとこのネックレスとイヤリング……ううん、ピアスも!」

無(この祭りのテキ屋……手ごわい!)


無「紫ちゃん」

紫「なにー?」

無「折り入って頼みがあるんですが、少しよろしいですか?」

紫「べ、別にいいけど……」

無「では……コホン……今日からお父さんと呼んでください」

紫「嫌です」

黄緑「あらあら、はっきりと断られちゃいましたね」

無「うぅ……黄緑さぁん……」

紫「色無は色無でしょ? 今さら呼び方なんて変えられないんだから!」

無「でも、俺たちはみんな家族なわけで……」

紫「色無はさっきお母さんのことなんて呼んだ?」

無「え? ……黄緑さんがどうか……はっ!?」

紫「でしょ? 色無だってお母さんのこと、そうやって呼んでるんじゃん!」

無「そ、それは……」

紫「お母さんだって色無のこと『色無さん』って呼んでるんだし」

無「じ、じゃあお父さんが嫌なら……お兄ちゃ……」

黄緑「お兄……なんですか?(ニッコリ)」

無「や、やっぱり色無でいいよ。うん」


紫「うぁー……」

黄緑「んぅ……」

無「……くかー」

紫「……ねぇ……色無、起きて」

無「……ん……紫ちゃん?」

紫「暑いよぅ」

黄緑「色無さん……私も少し暑くて寝れないです……」

無「黄緑さんまで……じゃあエアコンつけますか」

 ピ

紫「ふぃー……」

黄緑「身体によくないのは分かってるんですけど、つけちゃいますよね」

無「俺は平気ですけど、紫ちゃんと黄緑さんは身体に気をつけないと……冷えは女性の大敵ですから」

紫「そうなの?」

黄緑「あんまりよくはないわね。でも紫ちゃんはまだ大丈夫かな」

無「黄緑さんは冷え性だからね」

紫「じゃあ色無、温めてあげなよ」

無「へっ?」

紫「ほらほら、ぎゅーって抱きしめてさ」

黄緑「む、紫ちゃん!」

無「……分かった。でも……」

紫「でも?」

無「紫ちゃんもおいで」

紫「あ、あたしは別に……」

無「いいからいいから。ほら」

紫「……ん」

黄緑「ふふふ、せっかくエアコンつけたのに、これじゃあ意味がないですね」

無「俺は両手に花で嬉しいですよ」


黄緑「ただいま」

紫「たっだいまー!」

黄緑「やっぱりウチが一番ねぇ」

無「それにしても紫苑さんのところは暑かったね」

黄緑「そうねぇ、汗だくになっちゃう」

紫「……お父さん、暑いだろうなぁ」

黄緑「大丈夫よ、紫ちゃん。紫苑さん我慢強いから。それにちゃんとお墓に水かけて来たじゃない」

紫「うん……」

無「紫ちゃん、確かに紫苑さんは暑かったかもしれないけど、紫ちゃんにお墓を洗ってもらって喜んでると思うよ」

紫「……ほんと?」

無「だって俺と紫苑さんの立場が逆だったら嬉しいもん」

紫「そうかな。そうかもね」

無「今度また行こうね」

紫「うんうん!」

無「ぁあ、眠い」

黄緑「あの……色無さん」

無「あ、はいはい」

黄緑「できれば、もうああいうこと言わないでください」

無「どゆこと?」

黄緑「紫苑さんと逆だったらとか……私、もう嫌ですよ」

無「……ごめん」

黄緑「約束、ですよ」

無「約束、ですね。んっ(チュ)」


紫「お母さーん。水達とプール行ってくるー」

黄緑「行ってらっしゃい。車に気をつけるのよー」

無「元気だなぁ」

黄緑「ねぇ色無さん。今日何の日だか覚えてる?」

無「……?」

黄緑「ひっどい、色無さん!」

無「嘘嘘嘘! 結婚記念日でしょ!」

黄緑「もう!」

無「忘れるわけないでしょう。ちょっと後ろ向いてて」

黄緑「なになに? 期待しちゃうな」

無「期待されると自信ないんだけど。いいよ」

黄緑「あら。綺麗じゃない。これは?」

無「胡蝶蘭っていうらしいよ。部屋に色がないからさ」

黄緑「玄関に置きましょうか」

無「しっかし一年早いなぁ」

黄緑「早いわよ。紫ちゃんももう三年生だし」

無「今日は紫ちゃんにもプレゼントあるんだ」

黄緑「何あげるのかな?」

無「秘密ですっ」

黄緑「んー」

無「駄目なものは駄目ー」

黄緑「紫ちゃん早く帰ってこないかなー」


紫「ねぇ色無! なになに、特別な日って?」

黄緑「今日はお母さんと色無さんの結婚した日よ」

紫「結婚記念日だね!」

黄緑「そうそう。それでね、紫ちゃん。色無さんから紫ちゃんにプレゼントがあるそうよ」

無「この日は黄緑さんが妻になっただけじゃなくて、紫ちゃんも俺の娘になった特別な日だからね」

紫「うんうん」

無「それで紫ちゃん。これ」

紫「え? 何この箱? 開けていい?」

無「いいよ」

紫「うそ! 指輪だよ!」

黄緑「綺麗な指輪ねぇ」

紫「ん? でもこれブカブカだよ?」

無「紫ちゃんがもう少し大人になってからつけてくれたらいいな」

紫「色無ぃ! 大好きぃ!」

黄緑「色無さんったら……紫ちゃんにはまだ早いわよ」

無「紫ちゃん喜んでいたからいいじゃないですか」

黄緑「紫ちゃんには指輪……いいなー。うらやましい」

無「うらやましい?」

黄緑「ちょっと、ね」

無「じゃあ右手を出してください」

黄緑「え? まさか……」

無「はい、黄緑さんの。紫ちゃんとお揃いだからね」

黄緑「えぇ! うそぉ……!」

無「紫ちゃんのも黄緑さんの指のサイズに合わせてあるんだ。紫ちゃんが黄緑さんみたくなれるように、って意味でさ」

黄緑「ありがとう……」

無「こちらこそありがとうございます。これからもよろしく」

黄緑「色無さん、大好きー!(ギュ)」

無「おわぁあ!」


紫「色無ぃ!花火しよっ!」

無「花火かぁ、どっかに買ってあったっけ?」

黄緑「ちょっと探してきてみますね」

紫「……これだけ?」

黄緑「そうみたいね……」

無「まぁ、来年までとっておいても湿気るだけだし、やろっか」

紫「うん!」

紫「あー、二つ持ちは反則っ!」

無「残念、もう火ついちゃった」

紫「むー……ならあたしももう一本! 火点けて!」

無「よし……(シュゥゥゥ)点いた!」

紫「へへ、二つ持t(シュ……)あ、一本消えた……」

無「黄緑さん、紫ちゃんにもう一本あげてもらえます?」

黄緑「残念ながらもう手持ち花火は終わりみたいです」

紫「そんなぁ……」

無「(シュゥ)あ、俺のも終わった」

黄緑「後は線香花火だけですね」

紫「……(ジジジ)」

無「ふぅ……なんだか線香花火を見ると夏の終わりを感じちゃうなぁ」

黄緑「長いようで終わってみると短いんですよね」

無「紫ちゃん、夏休み楽しかった?」

紫「……(ジジ……ポトッ)あー、落ちちゃったぁ! ね、次は色無とお母さんとあたし、誰が一番落とさないでいられるか勝負しようよ!」

無「……聞くまでもない……か」

黄緑「ふふふ、そうみたいですね」

無「……よっし、線香花火でも手加減しないからな!」


紫「色無ー、これなんのビデオー?」

無「!! な、なんでもない。ただの空ビデオだ」

紫「ふーん。じゃあちょっと再生……」

無「らめぇ!! それだけはらめぇ!!」

紫「ふふふ……お・こ・ず・か・い?」

無「……ぅー」

紫「お母さーん! 色無がねー……」

無「だーっ!! 分かった! ……黄緑さんには黙ってるんだぞ?」

紫「ありがと♪ これっきりにするから安心してね! あ、あとそのテープの中身もう一回確認したほうがいいよ〜」

無「……?」

無「……紫ちゃんにあんなこと言われた手前、確認するしかないよな(ピ)」

 ザー

無「……あれ? これ本当に空のビデオ? ……紫ちゃんにやられたっ!!」

黄緑「なにをやられたんですか?」

無「!! き、黄緑さん!?」

黄緑「うふふ、もしかして……コレのことですか?(ニコリ)」

無「ぁ……あぁぁぁぁぁぁああ!!」

黄緑「私がいるのにこんなもの要りませんよねー(バキッ! ガシャッ!)」

無「ぅあ……ぁぁあ……」

黄緑「色無さん?」

無「(ビクッ)は、はいっ!」

黄緑「今夜は寝かせませんよ♪」

無「ちょっ、明日仕事が——」

無「……ぅぁっ!」

黄緑「ご、ごめんなさい……痛かったですか?」

無「だ、大丈夫です」

黄緑「じゃあ……もう少し……」

無「……っ! そ、そこは……」

黄緑「あら、ここですか?」

無「……えぇ、そこらへん……です」

黄緑「うふふ……じゃあ……」

無「……はぁ……気持ちいいです」

黄緑「……今度は色無さんも……私の……してもらえますか?」

無「……どうですか?」

黄緑「……っん! そ、そこ……」

無「ここがいいんですね?」

黄緑「ぁ……ひぁっ!!」

無「気持ちいいですか?」

黄緑「……は、はい」

紫「(パタパタ)ぅー……トイレトイレ……ん、居間の明かりが点いてる? ……って、お母さんと色無、こんな夜中に何やってんの!?」

黄緑「あ、紫ちゃん? 今色無さんに耳掻きしてもらってたの。さっきまでは私がしてあげてたのよ」

無「紫ちゃんもしてあげようか?」

紫「あ、あたしはいいよ。ていうかなんでこんな夜中に耳掻きやってんのよ……」


水「む、紫ちゃんのお父さん……」

無「ん、なんだい?」

水「な、なんで僕と一緒にお風呂……」

無「(ガシッ)いいか、水君。漢のあいだには隠しごとはなしなんだ。そして、漢同士が腹を割って話をするためにまず初めに裸の付き合いというものから始めなければ……」

黄緑『タオル置いておきますねー』

無「はーい。……であるからして……何言ってたんだっけ? まぁいいや」

水「せ、背中……ながしましょうか?」

無「お、頼んでいいかな」

水「(ゴシゴシ)んっ……しょ……」

無「……ときに水君、ウチの紫のことをどう思っているんだい?」

水「えっ? む、紫ちゃんのこと……ですか?」

無「素直に答えてくれないか?」

水「え、えーっと……か、可愛い幼馴染で……怒るとコワいけど、優しいときもあって……」

無「ふむふむ、それで?」

水「こ、これからも仲良くしていきたいなー……って」

紫『水くーん、お風呂上りは牛乳にする? それとも牛乳? やっぱり牛乳?』

水「……あ、僕麦茶で——」

紫『分かったー! 牛乳用意しとくねー!』

無「……いつもあんな調子なのかい?」

水「……はい」

無「キミも前途多難だなぁ……でも尻に敷かれるのも慣れれば悪くは……」

黄緑『お尻がどうかしましたかー、色無さーん?』

無「……な、なんでもないですよー!」

水「……大変なんですね」

無「分かってくれるか、水君!」

水「は、はい……なんとなくですけど……」

無「水君!(ガシッ)」

水「い、色無さん!(ガシッ)」

黄緑『早くあがってくださいねー。お夕飯冷めちゃいますから!』

無「は、はいすいませんーっ!!」


黄緑「ほら、紫ちゃん。通信簿も鞄に入れて」

紫「はーい」

無「紫ちゃん明日から学校か。早いなぁ」

紫「言わないでよ、はぁ……疲れるなぁ」

無「今のうちから休み明けの学校嫌がっていたら、仕事できないぞ?」

紫「どうして?」

無「俺みたいな社会人になったら夏休みなんてのはないんだから」

紫「でも色無が子供のころは夏休みあったんでしょ?」

無「そういえばあったなぁ。そうだ、紫ちゃん。朝顔の観察日記は?」

紫「入れたよ。ねぇ、色無の夏休みってどんなのだったの?」

無「んー。俺ねー。俺の夏休みは……忘れたわ」

紫「そんだけ歳くってんだね」

黄緑「私が小学生のときは、毎日夏休みの友やって友達とプール行ったかなぁ」

無「俺もその程度しか覚えてないなぁ」

黄緑「ねぇ紫ちゃん。夏休み、楽しかった?」

紫「楽しかったよ! 群青ちゃんとプール行ったり、水と花火したり」

黄緑「ならよかったじゃない。いいなぁ、紫ちゃん」

黄緑「ねぇ色無さん、夏休みどんな感じだった?」

無「高校のころしか覚えてないぁ」

黄緑「じゃあ高校の夏休みどうだったの?」

無「……言えない! 絶対言えない!」

黄緑「何か顔色わるいですよぉ〜?」

無「言ったら黄緑さんに怒られちゃいますから」

黄緑「あー! 絶対女の人関係ですねー! もう、色無さん知らない!」

無「まだ何も言ってないじゃないですかぁ〜」


黄緑「いきなり誘っちゃってすいません」

白「いいんですよ。青さん寝ちゃって二人とも退屈してましたから、ね?」

水「うん」

黄緑「じゃ紫ちゃん、ドリンクバー行って白さんと私の分のコーヒー持ってきてくれない?」

紫「水も行こ!」

水「あ、待って!」

白「色無さんは今何してるんです?」

黄緑「そっちと同じです。寝てますよ」

白「ははは、どこも同じなんですね」

紫「持ってきたよー。じゃ水、置いて」

黄緑「ご、ごめんね水色君」

白「いいのよ。紫ちゃん、バンバン水のこと使ってあげてちょうだいね」

紫「じゃあ水、カルピス持ってきて」

水「え……」

白「持ってきてあげなさいよ」

黄緑「水色君悪いわね。紫ちゃん、ちゃんとありがとう言うのよ」

紫「ありがと水っ!」

黄緑「あら?そろそろ時間ね。払ってきま」

白「いいんですよ!うちの分はうちで払いますから!」

黄緑「いや私から誘ったんだから払うのは当ぜ」

白「そんな律義にならなくていいですよ!」

水・紫(早くしてよ……)


紫「でーんでんむーしむしかーたつむり」

黄緑「紫ちゃん、あまり水溜まりではしゃがないの」

紫「お母さん、見てこれ!」

黄緑「あら、綺麗な紫陽花ねぇ」

紫「たくさん色あるねぇ」

黄緑「そうね——!」

紫「どうしたの?」

黄緑「ううん、なんでもないの。気にしないで行きましょ。ね? ね?」

紫「綺麗なのにぃ」

黄緑「それでその紫陽花にすごくでっかいカタツムリがついていたんですよ!」

無「カタツムリ、可愛いじゃないですか」

黄緑「ダメなんです! 生理的に受け付けないっていうかなんていうか」

無「そのあと紫ちゃんは?」

黄緑「また同じように水溜まりの上を跳ねて帰りました。買い物袋がビチャビチャ」

無「服もビチャビチャでしたもんね」

黄緑「これから梅雨って考えると嫌ですぅ」

無「昔は雨の時は楽しいイメージがあったけど、今は……」

黄緑「やっぱり仕事が絡むと雨って嫌ですものね」

無「紫ちゃんもいつか雨が嫌いになるのかなぁ」


無「はあはあ……うわ、もう十二時回ってるよ! 黄緑さん怒ってるかなあ」

紫「色無、はやくはやく! もー、色無のせいで買い物する時間なくなっちゃうよ!」

無「紫ちゃんが特急に飛び乗ったりしなかったら、充分間に合ったんだけどね……」

紫「い、色無が止めなかったのが悪いんだよ!」

無「まあいいけど……とにかく急ごう!」

イケメソ「ハーイ、そこのプリティなカーノジョー。よかったらクールでニヒルなナイスガイの俺とサテンでお茶しばかナ〜イ?」

黄緑「あら、どうしましょう……あ、色無さーん、紫ちゃーん、ここここ〜!」

無「あ、黄緑さん! 待たせちゃってごめん!」

紫「お母さーん!」

イケメソ「お母さん!? 子持ちカヨ!? こっちからノーサンキュー、グッバイ!」

無「……どちらさん?」

黄緑「さあ? 『お暇ならお茶でもどうですか?』って誘ってくださってたみたいですけど」

紫「それってナンパじゃん!」

無「……念のため聞きますけど、まさかついていこうなんて思ってませんでしたよね?」

黄緑「さあ、どうでしょう? 立って待ってるのも疲れたし、休憩したいなーと思ってたとこだったんですよねー」

無「……黄緑さん、今日は手つないでいきましょう。それと、次からは野暮用でも何でも、黄緑さんを先に一人で行かせたりしませんからね」

黄緑「うふふ、冗談ですよ。でも色無さんが優しくしてくれるから、たまにはこういうのもいいかも」

無「勘弁してくださいよ……」

紫「むー、お母さんと色無ばっかりずるい! 私も手つなぐー!」

黄緑「はいはい、じゃあ紫ちゃんもお母さんとつなぎましょ」

紫「え〜、真ん中がいいのにぃ」

黄緑「今日はお母さんに真ん中ゆずってね。それじゃお買い物行きましょうか。……色無さん」

無「はい?」

黄緑「手、離さないでくださいね」

無「……はい」


 深夜2時

無「(パチ)……うぅん」

 ジャー

無「はぁ」

黄緑「んっ……どうしたの色無さん?」

無「あぁ、起こしちゃいました? ちょっとトイレに」

黄緑「そう」

無「タオルケットじゃ寒くないですか?」

黄緑「ちょっと足冷えますぅ」

無「今日だけ我慢しよう」

 クシッ

紫「お母さん……」

黄緑「どうしたの、紫ちゃん?」

紫「寒い……」

無「ここ入りなよ。真ん中だから暖かいよ」

紫「うん……暖かい」

黄緑「(ナデナデ)おやすみ紫ちゃん」

紫「む……」

無「(ナデナデ)……」

紫「(バシッ)……んー」

無「……」

黄緑「色無さん……」

紫「くくぅ……」


紫「ねーお母さん! そろそろコタツだそうよ!」

黄緑「そうねぇ……でもまだ10月よ?」

無「紫ちゃんはコタツ大好きだもんね」

紫「色無ぃー、コタツ出してぇ!」

無「でも黄緑さんの許可が……」

紫「お・ね・が・い♪」

無「……よし、俺に任せなさい」

黄緑「あらあら……まぁ、いっか」

無「よーし、スイッチ入れるぞ!」

紫「わくわく♪」

無「スイッチオーン!(カチ)」

紫「わぁ、点いた点いた!!」

無「これであとは蜜柑でもあれば……」

黄緑「蜜柑はまだちょっと早いわよ。あ、代わりに今夜はコタツを囲んでお鍋にでもしましょうか?」

無「いいですね」

紫「白滝! 豆腐! 白菜!」

無「お肉も食べなきゃおっきくならないぞー」

紫「お肉は太るもん!」

黄緑「あら、紫ちゃんはお胸もぺったんこでいいのかな?」

無「そうだよ。いくら黄緑さんの血を引いてるからって大きくなるとは限らないよ?」

紫「ぅぅ……お母さんも色無も酷い……」

黄緑「大丈夫よ。いっぱい食べていっぱい遊んでいっぱい寝ればお母さんみたいになれるわよ」

紫「……本当?」

黄緑「うん。だからお肉も食べてね」

紫「……分かった!」


無「あー、髪伸びたなぁ」

紫「あたしが切ってあげよっか?」

無「お、紫ちゃんは将来美容師にでもなるの?」

紫「うーん……美容師もカッコイイかもね」

無「紫ちゃんは保母さんとか向いてるかもね。結構世話妬きだし」

紫「保母さんかぁー」

無「紫ちゃんは何になりたいの?」

紫「えへへ……あたしはねぇ……お、お嫁さん……かな?」

無「!! ……(どさっ)」

紫「ぇ? えっ!? ち、ちょっと! 色無ぃ! おかーさーん! 色無がーっ!」

無「ぅーん……い、行っちゃダメだ……紫ちゃ……」

紫「ねぇ、うなされてるよ。色無大丈夫?」

黄緑「うふふ、色無さんは紫ちゃんにメロメロみたいね。お母さん、ちょっと妬いちゃうわ」

無「……ん……ぁ、あれ? ……ここは?」

紫「あ、気づいた!」

黄緑「紫ちゃんの将来の夢を聞いて気絶しちゃうなんて失礼ですよ、色無さん」

無「ぅ……す、すいません」

紫「あ、あたしはね……その……色無とお母さんがすごい幸せそうで……だからあたしもそうなりたいなぁって思ったの」

無「紫ちゃん……」

黄緑「ふふ、大丈夫。紫ちゃんならきっといい人が見つかるわよ」

紫「……うん!」

無「む、紫ちゃん……(ぐすっ)」

黄緑「あらあら、今から泣いてたんじゃ結婚式までに干乾びちゃいますよ」


紫「ねー、お母さん」

黄緑「なぁに?」

紫「可愛い妹か弟が欲しい!」

黄緑「ぶっ!!」

紫「だ、だいじょうぶ!?」

黄緑「ごほごほ……う、うん。も、もう大丈夫だから……」

紫「ダメ?」

黄緑「う、うーん……が、頑張ってみるわね」

黄緑「っていうやりとりが昼間に……」

無「……あ、あの……俺ちょっと今日は仕事で疲れて——」

黄緑「紫ちゃんのためにも頑張って下さい」

無「……えーっ、と……そ、そうだ! 今日は見たい番組が——」

黄緑「私じゃイヤなんですか?」

無「と、とんでもない! むしろ望むところっていうか、明日も仕事が——」

黄緑「リポ○タンA買っておきましたから♪」

無「……はい」

黄緑「とりあえず十日分はありますから♪」

無「……あの、俺死んじゃいます」


キィ……~

紫「お母さぁん……」

黄緑「あらあら、どうしたの、紫ちゃん。寝付けない?」

紫「……うん。なんだか、寂しくて……」

黄緑「うふふ、そういう時もあるわよね。いいよ、こっちおいで。あ、色無さん寝ちゃってるから静かにね」

紫「うん、ありがとう」

紫「……久しぶりだね、一緒に寝るの」

黄緑「そうね。もう紫ちゃん、私と一緒に寝てくれないのかと思ってた」

紫「そ、そんなことっ……!」

黄緑「ふふ、冗談よ。色無さんと結婚するまではずっと一緒に寝てたのにね」

紫「……うん」

黄緑「あら、色無さんに私を取られて妬いてる?」

紫「……ち、ちょっと……だけ……」

黄緑「!!」

紫「で、でも平気だよ。色無とお母さんが仲良くしてるとこ見てるとあたしも幸せになれるし」

黄緑「……もう、紫ちゃん可愛すぎ(ギュ)」

紫「ん……」

黄緑「お母さんも色無さんもどこにも行かないから大丈夫よ」

紫「うん」

無「……俺もそっち行っていいかな?」

黄緑「あら、色無さん起きてたんですか?」

紫「ダメぇー。今日は私がお母さん独り占めするんだから」

黄緑「うふふ、そういうことみたいですよ」

無「うー……じゃあ明日は俺も混ぜてくださいね」


紫「ねぇ、どんなのがいいかな、お母さん」

黄緑「うーん……」

無「何悩んでるの?」

黄緑「今度ね、学校でお楽しみ会があるの」

紫「それでテーマがハロウィンなんだ」

無「今衣装を決めてるの?」

紫「魔女がいいんだけどドラキュラなんてのもいいな、って」

無「他に候補はないの? 座敷童子とバックベアードとか」

黄緑「バックベアードって……」

無「だけど俺からしたら、紫ちゃんは魔女って言うより座敷童子かな」

紫「なんで?」

無「だって俺紫ちゃんと暮らせて幸せなんだもん」

黄緑「ふふっ、もう色無さん」

紫「よし! 私決めた!」

無「なになに?」

紫「私狼女になる!」

無「……そうでガンスか」

黄緑「それ、紫ちゃんにはわからないわよ」

紫「よぉし! さっそくお菓子買いにいかないと! みんなにイタズラされちゃうからね!」

無「……何……だと……!」

黄緑「今の死神の真似ですか? 色無さん」


無『ごめん! ちょっと急に会議入っちゃってさ! 帰るの遅れるかも!』

黄緑「そう、わかった。頑張ってね!」

紫「色無ぃ?」

黄緑「うん。今日会議あって帰るの遅れるんだって」

紫「そうなんだー」

黄緑「どう? おいしい?」

紫「うん。この魚なんていうの?」

黄緑「これはイシモチっていうのよ」

紫「ふぅーん……」

黄緑「ね、ねぇ、紫ちゃん! 学校どうだった?」

紫「なんか今日はあまり面白いこともなくて普通だったよ。なんで?」

黄緑「え? いやぁ、ただ聞いてみただけよ。あ、そうだ紫ちゃん——」

紫「なんかお父さんが死んだときみたいだね」

黄緑「あぅ……」

紫(ジワァ)

無「(ガチャ)ただいまぁ! ご飯間にあった!?」

紫「おかえりぃ色無ぃ!(ギュゥ)」

無「ななな! どうした紫ちゃん!」

黄緑「おかえり色無さん!(ギュウ)」

無「え? え?」


紫「おかーさーん! 髪切ってー!」

黄緑「はいはい。いつもみたいでいい?」

紫「んーと……今日はこの雑誌の(ペラペラ)……こんな感じで!」

黄緑「あら……こ、こういう髪型はお母さんの技術じゃちょっと無理かな……」

紫「えー?」

無「紫ちゃん、美容室行ってみる?」

黄緑「い、色無さん?」

無「紫ちゃんももうお年頃だし、いいんじゃないかな? お金は俺が出すから」

紫「いいの!? あたし美容室行きたい!」

黄緑「紫ちゃん……そうね。美容室に行って思いっきり可愛くしてきてもらおっか」

紫「やった♪ ありがと、色無!」

黄緑「ふふ、じゃあ準備しましょっか!」

紫「ただいまぁ!」

無「おかえり紫ちゃ——」

紫「ど、どうしたの色無!? な、なんか変……かな?」

無「ぁ……ご、ごめん。なんか別人みたいに可愛くなってるから……」

黄緑「あら、私が美容室に行ってもそんなこと言ってくれないのに」

紫「えへへ……色無にそう言ってもらえるなら大丈夫だね」

無「あぁ……紫ちゃんがこんなに可愛くなって……変な男共が群がってきたらどうしよう……」

黄緑「心配しすぎよ……」


 ♪〜〜♪〜〜♪

黄緑「あら、色無さんからメール? 『今日は早く帰ります』……あら、どうしましょう。まだ何にもやってないわ……」

紫「ただいまー!」

黄緑「おかえりなさい……あ、ちょうどいいわ」

紫「どうしたの?」

黄緑「今日は色無さん、早く帰ってこれるみたいなんだけど、まだ家事が全然終わってなくて……悪いんだけど、紫ちゃん手伝ってくれる?」

紫「いいよ!」

黄緑「ふふ、ありがとう。紫ちゃんがいてくれると心強いわ(シュル)」

紫「あ、エプロン……あたしもする!」

黄緑「え? ……どうしましょう、私のしかないけど、これじゃ大きいよね?」

紫「大丈夫!」

黄緑「そう?」

紫「うん!」

黄緑「じゃあ……(シュル)ギリギリ引きずらないから大丈夫かな? 足元気をつけてね」

紫「はーい!」

黄緑「よし、じゃあまずは洗濯物から……」

 
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紫「(パサ)ふぅ、これで終わり!」

黄緑「ありがとう。次はご飯の支度ね」

黄緑「……って感じで、今日は一緒に頑張ってくれたの」

無「そうだったんだ。いつも感謝はしてるつもりだけど、改めて黄緑さんにも紫ちゃんにも感謝します。ありがとう」

黄緑「どういたしまして。色無さんこそ、いつも頑張って私たちのために働いてくれてありがとうございます」

無「紫ちゃんに今度エプロン買ってきてあげようかな」

黄緑「ふふ、紫ちゃん喜ぶと思うから、是非」


紫「ねーっ! ねーっ!! 起きて!! お母さんに色無、起きてー!!」

黄緑「……ん」

無「……紫ちゃん……今日は日曜日だからゆっくり寝たい——」

紫「うるさーい! 早く起きろー!(ガバッ)」

黄緑「ひゃんっ!」

無「さ、寒い……」

紫「ねぇ、外見て外! 真っ白だよ! 雪が積もってるよ!!」

無「……雪?」

黄緑「昨日から随分冷え込んでましたからね」

無「でもまさか雪が降るなんて……」

黄緑「そうですね。(コト)はい、コーヒー淹れましたよ」

無「ありがとうございます……あぁ、温かい」

紫『ほらほら水君、もっと頑張って大きくしてよ!』

水『む、無理だよぉ……』

紫『じゃあちっちゃいけどこのくらいで……ちっ……ちゃい……?』

水『わぁぁ! ゆ、雪だるまがちっちゃいって意味でしょ! 紫ちゃんがちっちゃいだなんて誰も言ってないよ!』

紫『ちっちゃいゆーなぁ!!』

無「子どもたちは元気ですねぇ」

黄緑「あら、色無さんも混ざりたいんですか?」

無「な、なんで俺が……」

黄緑「ふふふ、そわそわしてるのが見てて分かるくらいですもん。一緒に遊んできてあげたらどうですか?」

無「……黄緑さんにはかなわないなぁ。よし、ちょっと行ってきます」

黄緑「はい、あんまりはしゃぎ過ぎて風邪引かないでくださいねー」


無「やばッ!」

黄緑「むにゅ……どしたの、色無さん?」

無「寝坊した! 会社いかないと!」

黄緑「(ギュ)今日は休みですよ」

無「……嘘?」

黄緑「今日は勤労感謝の日、ですよ。もう少し寝て」

紫「(ガチャ)お母さん! なんで起こしてくれないの!」

無「すっかり忘れてたよ、今朝は。どうなるかと思った」

黄緑「ふふ、二人とも忘れてるんだから、もう」

紫「お母さん、このお皿ここに置けばいいの?」

黄緑「うん、ありがとう、紫ちゃん。じゃあご飯にしよっか」

紫「いただきまーす」

無「いただきます」

黄緑「色無さん、いつもありがとう」

紫「(モグモグ)あふぃあふぉ」

無「こちらこそ。あと紫ちゃん、あとでちょっといいかな?」

紫「ふぇ?」

黄緑「色無さん。バスタオル置いておきますね」

無『ありがとう』

黄緑「ふぅ」

紫「お母さん」

黄緑「なぁに?」

紫「肩揉んであげる。疲れているんでしょ」

黄緑「うーん、じゃあお願いしよっか」

紫「(モミュモミュ)……お母さん、いつもありがと」

黄緑「(ナデナデ)お母さん、これから頑張るからね」

紫「んー」


黄緑「〜♪」

紫「あー! 私これがいいー!」

黄緑「こっちのチョコとかどうかな?」

紫「それ甘そう。でもいいかも……」

無「何それ? ケーキのカタログ?」

黄緑「ねぇねぇ、色無さんも決めてくださいよ〜」

無「このアイスケーキとか」

紫「……」

黄緑「……」

無「い、今の時期、これは冷たすぎるかな? じゃ、じゃあこの生チョコでコーティングした……」

紫「……」

黄緑「……」

無「ご、ごめん」

紫「そうだお母さん!作ろうよ!私達でケーキ作ろうよ!」

黄緑「そうね!市販のケーキ買わなくても作ればいいのよ!」

紫「よーし!10段重ねのケーキ作るよー!」


黄緑「紫ちゃん、あれ取ってくれない?」

紫「あれじゃ分かんないよ」

黄緑「あれって言ったら、ほら、あれよあれ……えーっと、なんて言ったっけ」

無「はい、黄緑さん。これですよね」

黄緑「そうそう、これよ! ふふふ、やっぱり色無さんには分かっちゃうんですよね」

紫「むー。ちゃんと言ってくれれば私だって取ってあげたのにぃ。お母さん、歳のせいでぼけちゃったんじゃないの?」

黄緑「そ、そんなことないもん! お母さんまだ若いもん!」

無(このしゃべり方は、もしかして若者だって主張してるつもりなんだろうか……)

紫「そうかなー。このあいだだって座るときに『どっこいしょ』って言ってたし、お風呂で『ふー、極楽極楽』って言ってたし」

黄緑「そ、それは……自然に出ちゃうんです! 歳は関係ないの!」

紫「色無は言わないじゃん」

無「まあ、人それぞれ、かな」

紫「それに機械に弱いし、はやりのアイドルとか全然知らないし。もうおばちゃんだよ」

黄緑「ビデオの予約ができないだけで、テレビのリモコンも電卓も使えます! アイドルだっていっぱい知ってます!」

紫「じゃあモー娘。の今のメンバー全部言える?」

黄緑「モー……蒸す……?」

無(それは若い子でもよほどのマニアじゃないと言えないんじゃ……)

紫「ほら、やっぱり無理じゃん」

黄緑「い、言えるわよ、そのくらい」

紫「じゃあ言ってみてよ!」

黄緑「えーっと……国生さゆりでしょ、工藤静香でしょ、渡辺満里奈でしょ……」

紫「? 全然違うよ?」

無「黄緑さん、もうそのへんで……」


黄緑「色無さん……そっと……」

無「う、うん……いくよ」

 ポンッ シュゥ

紫「うぅ。びっくりしたぁ」

黄緑「やっぱりシャンパンがないと始まりませんからねぇ」

無「次は紫ちゃんのノンアルシャンパンあけるよ」

紫「怖いから早く開けてよぉ」

無「いくよ! (ポンッ)はい、紫ちゃん(トクトクトク)」

黄緑「それじゃ、メリークリスマス!(カチン)」

紫「メリークリスマス!(カチン)」

無「メリークリスマス(カチン)」

黄緑「ぷはぁ。んー、おいしい」

無「き、黄緑さん……?」

黄緑「これぐらいじゃ酔いませんよ。さて、お料理お料理」

紫「いただきまーす」

無「いただきます」

黄緑「やっぱりクリスマスっていったらチキンよねぇ」

無「定番ですね」

紫「ムグムグ……」

黄緑「紫ちゃん、野菜も食べないとケーキあげないわよ」

無「そういえば紫ちゃん。橙君の家でやったクリスマスパーティー、楽しかった?」

紫「うん、私の他にも水と群青ちゃんと灰ちゃんが来てね。プレゼント交換で水のプレゼントもらったよ」

無「水色君に何をあげたの?」

紫「来年用の手帳」

黄緑「ふぅん。それで紫ちゃんは水君に何をもらったの?」

紫「それは……」

無「どうしたの、紫ちゃん? ねぇ?」

紫「ほ、ほらお母さん! 野菜食べたよ! ケーキ! ケーキにしようよ!」

無「紫ちゃん? 紫ちゃん! ねぇってば!」

黄緑「あらあら、ふふふ♪」


紫「あけましておめでとうございます」

無「あけましておめでとう、紫ちゃん。振り袖似合ってるよ」

紫「本当?えへへっ、ありがと!」

黄緑「あけましておめでとうございます、色無さん」

無「あけまして……おめでとうございます(ポッ)」

黄緑「あら、どうしたの?」

無「いや、その……黄緑さんが綺麗で……」

黄緑「ふふ、惚れ直してもらえました?」

無「……ええ」

紫「はいはい、朝からごちそーさま! 色無ってば顔真っ赤だよ」

 ピンポーン

黄緑「はーい……あら、水君」

水「あ、あけましておめでとうございます。む、紫ちゃんはいますか? は、初詣に一緒に——」

黄緑「はいはい、それは紫ちゃんに言ってあげてね。ちょっと待ってて。紫ちゃーん、水君が来たわよー」

紫「(トタトタ)はーいっ!」

水「む、紫ちゃんっ! あけましておめで……とう……」

紫「あけましておめでとう、水君。……水君? どうしたの?」

水「はぅっ! ……あ……そ、その……振り袖似合ってて……可愛いなぁって」

紫「や、やだ水君ってば!!」

黄緑「あらあら、こっちもごちそうさまね」


黄緑「やっぱり多いわねぇ」

紫「寒いー」

無「あと少しだから」

黄緑「次ね。はい紫ちゃん、お賽銭」

紫「(チャリン)……(ゴニョゴニョゴニョ)」

黄緑「今年もよい一年になりますように」

無「よし、じゃあ帰ろうか」

黄緑「帰って隠し芸大会見ないと」

紫「待って!(ギュ)」

無「どうしたの?」

紫「おみくじ……」

黄緑「そうね、みんなで引きましょうか」

紫「小吉だ」

無「俺は末吉。黄緑さんは?」

黄緑「うふふふ……だ・い・き・ち♪ 幸先いいわねぇ」

紫「お母さん、ずるーい」

黄緑「さて、帰りましょ♪」

無「紫ちゃんは何てお願いしたのかな?」

紫「い、言わない」

黄緑「色無さんは?」

無「紫ちゃんが事故とか病気にあわずに、無事一年を過ごせますように、って」

黄緑「紫ちゃん、大吉なんか当たらなくても、色無さんが紫ちゃんのこと守ってくれるんだから。ね?」

紫「んな! もぅ……早く帰ろ!」

黄緑「ふふふ、はいはい」


黄緑「もう少し待ってね」

紫「うんうん」

無「何編んでるの? セーター?」

黄緑「ううん、マフラー。この前紫ちゃんと毛糸買いにいって。ねっ」

紫「赤と緑の毛玉買ってきたの」

黄緑「最近一段と寒くなってきたからね。紫ちゃんも学校大変だろうし」

無「よかったね、紫ちゃん」

黄緑「あと少しでできるからね。それで、ここはこうくぐらせて……」

紫「うんうん」

数日後

無「ただいまー」

紫「おかえり、色無。寒かった?」

無「そりゃ寒かったよ。風が刺さった感じ」

紫「な、なら色無……はい」

無「何これ?」

紫「いいから開けてよ!」

無「(ガサ)お、マフラー!」

紫「その……私が編んだんだから……」

無「ありがとう、紫ちゃん」

紫「この前お母さんに教えてもらったから、その……」

無「(ナデナデ)大事に使うね」

紫「ち、ちっちゃいってゆーな!」


無「ただいまー」

黄緑「おかえりなさい」

紫「おかえりー!」

黄緑「どうする? ご飯? お風呂?」

無「そうだね。ご飯が先かな」

無(ソワソワ)

黄緑「あらあらどうしたのかしら? うふふ」

無「だって今日バレンタインでしょ? そりゃあねぇ」

黄緑「大丈夫よぉ。ねー、紫ちゃん」

紫「ご飯食べたらね」

黄緑「今日学校で水色君にもあげたんでしょ?」

無「(ピクン)なんですと?」

紫「お母ーさん! もう!」

無「黄緑さん! ビール!」

黄緑「うふふふ」

紫「はい、私の手作りだからね」

無「ありがとう。いただきます」

紫「おいしい?」

無「……あーん」

紫「あーんっ。んー! 甘い!」

無「おいしいでしょ?」

紫「うん!」

黄緑「色無さん。あーん」

無「はいはい。あーん」

黄緑「うん、おいしい! さすが紫ちゃんね。これなら水色君も……」

紫「だからお母さん!」

無「黄緑さん! ビール!」


黄緑「色無さ〜ん。明後日、何の日だかわかります?」

無「明後日? えっと……」

黄緑「ヒント! 女の子の日……!」

無「えぇっ! あ……あぁ、そっちか」

黄緑「どっちだと思ったんですか? そうです! ひな祭りなんですから!」

無「ごめんごめん」

黄緑「男の人には関係ないからって忘れちゃ駄目ですよ。今から紫ちゃん期待してるんですからぁ」

無「明日ちょうど日曜日だから、去年買ったの飾ろうか」

日曜

紫「(ガチャ ユッサユッサ)色無〜!起きて〜!」

無「あぅ……おはよう、紫ちゃん。いつもより起きるの早いんじゃない?」

紫「早くお雛様かざろうよ! ねぇ!」

黄緑「う〜ん! おはよう、紫ちゃん。飾るのもいいけど、先にご飯食べましょ?」

紫「じゃあ私も手伝う! お母さん、早く起きて!」

黄緑「急がなくてもお雛様は逃げないわよぉ。あたた」

 朝食後

紫「色無、早くぅ!」

無「はいはい。(ガコッ)おぉ! 綺麗綺麗。状態よし」

紫「早くかざろう!」

無「まずは台と屏風を置いてから、っと(コト)」

紫「はい、ぼんぼり」

無「ありがとう。あとはぼんぼりのコンセント差し込んで……どうかな? 紫ちゃん」

紫「いい感じいい感じ。やっぱり綺麗だなぁ」

黄緑「綺麗ねぇ。あと続きは明日ね」

紫「うん!」


紫「たっだいまー!」

黄緑「どうしたの、紫ちゃん? やけに張り切ってるじゃない」

紫「ふふふ……じゃーん! 今日学校の道徳の時間に折り紙でお雛様を作ったの!」

黄緑「あらら、可愛いわねぇ」

紫「あとはあのお雛様の周りに飾るだけよ!」

無「ただいま。お、これ折り紙で折ったの? 紫ちゃん」

紫「うん……どうかなぁ?」

無「可愛いなぁ。紫ちゃんらしいよ(ナデナデ)」

紫「ふふっ」

黄緑「おかえり、色無さん。ご飯にしますね」

無「今日は散らし寿司か。こういうのも久々だね」

紫「いただきまーす」

 食後

紫「ご馳走さま」

黄緑「はい、甘酒と雛あられ」

無「(ポリポリ)これも久し振りだなぁ。ぷは」

黄緑「色無さん、それは一気飲みするもんじゃないですよ」

紫「うーん、甘いね」

黄緑「ふぅ、今年も紫ちゃんが元気で女らしくなりますように」

無「だね」

紫「女らしくかぁ……(ジー)」

黄緑「ん? どうしたのかしら?」

紫「私、お母さんみたいになりたいなぁ」

黄緑「……まぁ、紫ちゃんったらぁ」


 紫ちゃん24歳

 109にて

紫「次あそこ見にいこー!」

水「ちょっと紫ちゃん! そこって……!」

紫「どう? 似合う?」

水「あ、いや……その……」

紫「あ、でもちょっとDじゃ小さいなぁ。やっぱりEかぁ」

水「ねぇちょっと……ねぇ」

紫「水! こっちとこっち! どっち?」

水「え! あ……ぇや……こっち……かな」

無『けしからん! 全くけしからん!』

黄緑『もう紫ちゃんのあと追うのやめましょうよ……』

紫「むにゃ……ん。ふふ……」

無「笑って寝てるよ」

黄緑「ねぇ色無さん。こっちとこっち、どっちがいいかしら?」

無「……左で」


無「ただいま。紫ちゃーん、お土産だよー」

紫「えー! 何なに!」

無「今日はホワイトデーだからね。駅前のケーキ屋で買ってきたよ」

黄緑「あらあら? また立派なケーキねぇ。じゃ、ご飯食べたらにしようか?」

紫「うん!」

 夕食後

黄緑「はい、紅茶」

紫「私ティラミスー!」

無「はい。黄緑さんは?」

黄緑「んー……。色無さんは?」

無「俺はあまったのでいいですよ。今日はホワイトデーなんですから、黄緑さんが先に」

黄緑「いいですよぉ。色無さんはが先でぇ」

紫「むー。じゃあ私が決める! お母さんがチーズケーキで色無がショートケーキ!」

黄緑「……いいんですか? 私はいいですけど……」

無「俺もいいですよ、これで」

紫「じゃあ食べるよぉ! 色無いただきます!」

黄緑「いただきますね、色無さん」

無「もうどうぞ遠慮なく」

紫「んむ、美味しい!」

黄緑「あら美味しい。さすがに評判のケーキ屋ねぇ」

無「この前テレビでも紹介してましたからね」

黄緑「そうそう、紫ちゃん。水色君からはもらったの?」

紫「ブッ! お、お母さんには関係ないでしょ!」

黄緑「ちゃんとお礼言うのよぉ」

無「……なんか、目から涙が……花粉症かな……」

紫「水はホワイトチョコかぁ♪」


紫「お母さん……歯ぁグラグラする」

黄緑「あら、紫ちゃん? まだ乳歯あったの?」

紫「前の方だから取れたら目立っちゃうよぉ」

無「いただきます」

黄緑「召し上がれ」

紫「ぃ、ぃただきます」

無「どうしたの、紫ちゃん? 調子悪いの?」

紫「ベ、別に……」

黄緑「紫ちゃんねぇ、今日歯が抜けたのよねぇ」

紫「ぅん……」

無「それでか。どこの歯が取れたの?」

紫「前の右へん」

黄緑「紫ちゃん、いーってやったら? いーって」

紫「……いー」

無「ほ……ほぅ……」

紫「何よ色無! はっきり言いなさいよ!」

無「可愛いじゃないか、それ……」

紫「え? ……あ! お、お世辞はいいんだから! もぅ!」

黄緑「……早く食べなさい、二人とも!」

無「黄緑さん? 怒ることはないんじゃない?」

黄緑「二人だけ楽しそうでずるいです! お母さんも交ぜてください!」

無「じゃあ黄緑さんも……」

黄緑「いー……」


無「ただいまー」

黄緑「おかえりなさい。んむっ、お酒臭いですよぉ」

無「ご、ごめんなさい。ちょっと飲み過ぎた。紫ちゃんは寝たの?」

黄緑「10時までは待っててくれたけど、コタツで寝ちゃったからベットに運びました」

無「それじゃお土産は明日ですね」

黄緑「どうします? お風呂にします? ご飯にします? そ・れ・と・も……ふふっ♪」

無「ちょと、黄緑さぁん!」

黄緑「言いたかっただーけ♪ それで、どうします?」

無「お茶漬けぐらいで」

黄緑「はぁーい。ちょっと待っててくださいね」

無「ふぅー。やっと腹の足しになるものが食える」

黄緑「はいどうぞ。あとはお風呂の準備しておきますね」

無「ありがとう。いただきます」

黄緑「あと……私の準備もしておきますか?」

無「ブッ! ……冗談じゃなかったんですか?」

黄緑「さぁどうでしょう? 私、お風呂の準備したら部屋にいますから♪」

無「……い、いただきます」

黄緑「寝てたらごめんなさいね」


水「は、ハメ技はなしだよー」

紫「負け犬の言い訳は聞きませーん」

白「今日は黄緑さんと色無さんはいつ帰ってくるのかしら?」

紫「6時頃みたいです」

白「そう。なら黄緑さん帰ってくるまでうちにいていいからね」

紫「いえ! 大丈夫ですよ! そんな迷惑かけちゃおばさん達に駄目ですし……!」

白「あら、別にいいのに」

紫「じゃあ5時だから私帰るね! じゃーねー水ー!」

水「じゃーね。また明日ー」

紫「(ガチャ)ただいまー。って誰もいないか」

 17:30

紫「あと少しでお母さんと色無帰ってくるからテーブル綺麗にしとかなきゃ!(フキフキ)」

 18:00

紫「ちょっと遅れてるだけだよね……。そうだ! 掃除機かけよう!」

 18:40

紫「遅いなぁ……! 何してるのかなぁ……!」

 19:00

紫「遅いよぉ……! 早くきてよぉ……!」

黄緑「(ガチャ)ただいまぁ、紫ちゃん」

紫「(ギュ)お母さぁん!」

黄緑「どうしたのぉ、紫ちゃん?」

紫「遅いよぉ……!」

無「ごめんね。渋滞しちゃってさ。なるべく急いだんだけど」

黄緑「あら? お部屋掃除してくれたの? ありがとう紫ちゃん。(ナデナデ)」

紫「これからは早く帰ってきてよぉ?」







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 12:06:18