黄緑メインSS

黄緑「どうでしょうか?お口に合いますか?」

色無「うん、かなり美味しい。朱色さんに負けぬとも劣らぬ味…さすが黄緑って感じだよ」

黄緑「ふふ、ありがとうございます。よかったらおかわりをどうぞ」

色無「あ、ありがとう。だけど、ホントにいいのか?晩飯なんてご馳走になってさ」

黄緑「うふふ……お茶碗を出しながら聞く質問ですか?それ」

色無「う。まぁ、そうなんだけど……なんか、せめて礼ぐらいはするから」

黄緑「あら?お礼ならもう頂きましたよ?」

色無「は?い、いつ?」

黄緑「美味しいって言ってくれたじゃないですか。私にとってその一言は、もう十分すぎるお礼なんですよ」

色無「———」

黄緑「特に。相手が貴方だってところが、ね……はい、おかわりです」

色無「ッ………あ、ぅ」

黄緑「でも、もしそれでも何かお礼をしてくれるというのなら、少しだけ甘えてもいいですか?」

色無「え?……あ、うん。もちろん」

黄緑「でしたら……その、お風呂で背中を流してくれませんか?」

色無「はいは—————なんですと?」

黄緑「ご馳走様でした。では、少し準備をしてきますねー」(パタン



色無「……………これは、二度美味しい……の、か、なぁ……?」


「体育の時間にサッカーをした色無」



色無「はぁ・・疲れた、やっぱりMFは一番動くからなぁ・・・」

黄緑「あら、色無君。どうしたの?疲れてるみたいだけど」

色無「あ、黄緑・・・ちょっと疲れたから寝ようとしてたんだよ」

黄緑「そう・・・じゃあ私の膝を貸してあげましょうか?」

色無「え?い・いや、いいよ別に・・・」

黄緑「遠慮しなくてもいいのよ?(黒笑)」

色無「・・・・じゃあ頼むよ」



3分後



黄緑「ふふ・・・よっぽど疲れていたのね・・・」

黄緑「それにしても、可愛い寝顔・・・」

橙「ああーーーー!!!黄緑ちゃん、色無に膝枕してるーーー!!」

黄緑「大声だしちゃダメよ橙ちゃん。色無君が寝てるんだから。」

橙「うっ・・・(くっそーー!!あたしも色無に膝枕したいーーー!!)」

黄緑「ふふふ・・・」


1学期も終わり、夏休みに入った。

寮にいる大半は家に帰るらしいが俺は帰るのが面倒なので寮に残ることにした。

赤に青、それと黄色に橙に桃に紫に茶色に水色に黒に白に灰色に緑といったいつもの面々もみんな実家に帰るみたいだ。

「みんなが居ないとやっぱり寂しいな……夏休みに寮に残っているのは俺ぐらいか……」

朱色さんが(群青さんに言われてイヤイヤ)作った朝食を食べ終えて部屋に戻る。

「明日も朱色さん朝飯作ってくれるんだろうか?」

もし作ってくれなかったら……それに朱色さんと2人っきりは……

そんな最悪の状況想像をしていると部屋をノックする音

—誰だろう?今は寮にいるのは俺ぐらいのはずだけど……

そう思いながら部屋のドアを開けた。

「はい~どちら様で……」

「やっぱり色無くんは残ってましたかw」

そこにいたのは黄緑だった

「あれ?黄緑は帰らなかったのか?まあいいや、立ち話もなんだし部屋に上がれよ」

「おじゃましますね」

「なんで黄緑は帰らなかったんだ?」

「私はめんどくさかったからですwそれに……」

「それに?」

「アナタがいるから……」

「えっ?」

「いっ、いやこれはその……そういう意味では……なくてですね……」

—黄緑が言うには朱色さんが料理しないと俺の食事が無いし洗濯物を洗う人もいないからってことらしい

「でもホント助かったよ~飯抜きになったらどうしようかと思ってたから」

「いいえw」

「ってことは1ヶ月間黄緑と2人っきりってことか」

「はいwそうですねw」とニコニコ微笑む黄緑

—その顔を見て胸がドキッとした

「えーと……その……これから1ヶ月よろしくお願いします」

—そして黄緑はこれまで以上にニッコリほほえんで「はいw」と言った

  ~ソレカラ(・∀・)ソレカラ

『♪〜♪〜』「…………」

何故か黄緑は楽しそうに色無の背中を流している。

『お湯かけますよ〜(ザバー』「ーあ、ありがとう」『いいえ。じゃあ前をあr』「だだだだ大丈夫だから」『そうですか?では、夕飯温め直してきますね?』

ーガラガラガラ、ピシャン

「はぁ…しかし驚いたよな。髪洗ってる途中で『背中流しにきました』だもんな…」

色無は湯船に浸かって考える。でも答えが出る訳でもなく、のぼせそうになったので上がる事にした。

『はい、あーん』「パクッ、モグモグ、ゴクン)き、黄緑s」『美味しいですか?』「…はい」

ー色無は混乱している。黄緑のターン。

『あーん』「き、きみd」『あーん』

結局、食事は黄緑のあーん攻撃のみで終わってしまった。

『美味しかったですか?』「うん。でも…」『色無くんには…話しておきたい事が…あります』

食器を洗い終わって色無にカフェオレを、自分用に緑茶を持って向かい合いに座っていた黄緑は、普段の優しい笑顔から初めて見せる真剣な表情に変わった。

『わたしの家は普通ではありませんでした…』

こんな切り口で黄緑は自身の過去を話し始めた。ー父親が仕事人間だった事。それを支えていた母親が病に倒れ死別した事。その結果、当時小学生にも関わらず、小さかった弟妹達の為に家事全てをやっていた事。

『…必然的に家事が得意で年齢より落ち着いている、お母さんみたいなわたしが、いるんです…』「…………」

色無は静かに、時には軽く相づちを打ちつつ、だが真剣に聞いていた。

『そして、この学校に入学が決まった時弟妹達は、口を揃えて言ってくれたんです』

[お姉ちゃんは《お姉ちゃん》だけど僕達の《お母さん》なんだよ。でも僕も妹も協力して、出来るからお姉ちゃんは《お母さん》を卒業してね?]

多分弟妹達は自分達が表現出来る言葉で《最大級のありがとう》を伝えたのだろう。黄緑は目を潤ませて思い出している。

『そして、父はこう言ってくれました』

[俺は再婚する気はない。チビ達に接する時間も取れる様になった。でもおまえには何もしてやれなかったが、せめてやりたい事を俺は全面的に応援させてくれ]

『だからわたしはこの学校に入学してからも《みんなのお母さん》でいるんです…って、みんな…』

目を閉じて話していた黄緑が周りを見ると、他の色達が聞き入っていた。みんな、泣いていた。

黄緑『みんな、寝てたんじゃ…』

侍『黄緑すまぬ。水飲みに来たら聞こえてしまって…』

橙『そこに後からきたアタシがみんなを起こして、みんなで話を聞いていたって訳』

黄緑はちょっとバツが悪そうにしていたが

「この寮で生活している間、黄緑に家事や他の事でお世話になるかもしれないけどー」

と、前置きして色無が喋り始める。

「黄緑の夢、俺達も協力させてくれないか?」

その言葉はみんなの気持ちを代弁していた。その言葉を聞いた直後、黄緑は人目もはばからず涙を流していた。

『ありがとう…ありがとう…』

としか言えなかったが、みんなの気持ちは十二分に伝わっていた…

黄緑のその日の日記には、こう記されている

『わたしの夢は決まっている。でも独りでは叶わない。誰かの協力があって初めて叶う夢。卒業したら叶えるつもり…それまでもう少し黙っていよう…』

日記帳に挟まれた色無の写真に

『おやすみなさい。未来の旦那様』

と言いながらキスして眠りについた。

数年後

ーリンゴーン、リンゴーン、

『おめでとー』『幸せにねー』[色無!幸せにしないと呪い殺すwwwwww]

色々な祝福の言葉で二人を包む。

『うふふ、夢の第1歩です』「必ず、幸せな毎日を約束するよ」『はい…不束者ですが、宜しくお願いします』

純白のウェディングドレスに黄緑色の女性が少しはにかみながら、夢を歩き始めた。


黄緑「で、今はどんな勉強をしてるの?」

無「今は英単語と古典単語と英文法をやってます」

黄緑「どのくらい?」

無「2〜3時間くらい……」

黄緑「う〜ん……夏休みの勉強の予定は?」

無「まだ全然……」

黄緑「受験生なら夏休み中最低でも8時間はやらないと」

無「8時間……………('A`)」

黄緑「でもやってみると簡単よ」

無「でも8時間って……」

黄緑「1日は24時間あるんだから、睡眠8時間・勉強8時間・自由自由8時間って感じならできそうじゃない?」

無「それなら出来そうな気がする……かも……頑張ってやってみます」

黄緑「うんその意気よ」

無「ありがとうございました」

黄緑「頑張ってね」


黄緑「おはようございます。ご主人様」

無「いやさ、なんで?なんでメイド服?」

黄緑「なんでってそれは私がメイドだからですよ」

無「……成程」

黄緑「おかしなご主人様。フフ」

朝食

無「ご馳走でした」

黄緑「お粗末様です。あと正装の用意ができておりますので」

無「ありがとう。それじゃ……補習行ってきます」



無「ふぅ、疲れた」

黄緑「でしたらお風呂の用意ができております」

ジャバァァァァァァ  ガラッ黄緑「ご主人様、お背中を流しに参りました」

無「ああすまない。頼むよ」

黄緑「では。(ゴシゴシ)痛くないですか?(ゴシゴシゴシ)」

無「ん。ちょうどいいよ」

黄緑「では次は前を」

無「いやいいです!前は自分でします!できます!」

黄緑「左様ですか?では私はここで」

無「……あれっ?」

無「よし、寝るか。黄緑さんおやすみ」

黄緑「ご主人様、添い寝なんかは」

無「暑いからいいです!」

黄緑「では私の今日の業務はこれまでとさせて頂きます。おやすみなさいませご主人様」

翌日

無「てめぇら黄緑さん見習えコラァ!」

赤青緑橙黄黒桃紫灰朱「はぁ?」


 ハッ、クシュン!!

黄緑「夏風邪ですか?」

無「たぶん……」

黄緑「部屋に戻って休んだ方がいいかもしれないですよ」

無「ん、大丈夫だろぉ……」

黄緑「色無さんがそういうならかまいませんが……」

無「よし!! 学校にいくかなぁ……」

バタッ……

黄緑「あ!!色無さん!!」

色無の部屋

無「……ん」

黄緑「目が覚めましたか?」

無「あれ?俺の部屋……」

黄緑「あんまり無茶したら駄目ですよ」

無「はい……」

黄緑「風邪引いたらやっぱり休まないと」

無「気合いでなんとか……」

黄緑「なりません!!」

無「ごめんなさい(´・ω・`)」

黄緑「いま熱測りますね……」

無「体温計ないけど」

黄緑「体温計がないならおでこで測ればいいです」

無「それなんてマリーアントワネット?」

黄緑「じゃあ測りますねぇ……」

無(顔近いって!!唇急接近!!)

チュっ……

無「いま体温測るついでになにかしませんでした?」

黄緑「これが私流のサプライズですよ」

無「お次は亀田ですか?」

黄緑「さて熱もまだあるので寝ましょうね」

無「いや、もう大丈夫……」

黄緑「寝ましょうね?」

無「はい……」

黄緑「ふふふ……」

3時間後

無(なんで俺に抱きつきながら寝てるんだよぉ!!!!!眠れねぇよぉぉぉ!!!!!)

黄緑「すぅー……すぅー……」


朱「おーい、色無ぃ」

無「なんですかぁ?」

朱「寮の食糧がなくなったから買ってきてくれ」

無「俺っすか?」

朱「YOUっす」

無「はぁ……わかりました」

朱「なんなら好きな女の子を連れていっていいぞ?」

無「な!?そんな……」

朱「ハッハッハッ!!照れるな若者よ!!」

無「はぁ……じゃあ誰かと一緒に行きますね」

朱「いってらっしゃーい」

寮のロビー

無(かなり買いこまないと駄目だから誰か連れていかないとなぁ……)

黄緑「あら財布片手にどうしたんですか?」

無「ん?これから買い物に出かけようかとね」

黄緑「朱色さんに食糧の買い出しを頼まれたんですね?」

無「鋭いね」

黄緑「私も一緒に行っていいですか?」

無「いいけど外かなり暑いよ?」

黄緑「それぐらい大丈夫ですよ」

 寮の外

無「なんか腕も組んできて偉い機嫌がいいですね。なにかあった?」

黄緑「それは私の口から答えられません♪」

無「むぅ……気になる……」

黄緑(鈍感だなぁ……)

デパートの中

無「よし、あとはあれとあれとあれかな」

黄緑「なんかこうして一緒に買い物してると夫婦みたいですねぇ」

無「若すぎる気もするけどなぁ」

黄緑「ふふっ、そうですね」

 寮にて

無「はぁ〜疲れたぁ」

黄緑「そうですね」

無「一緒に買い物に行ってくれてありがとな。疲れたろ?」

黄緑「いえいえ」

朱「おぉ、お疲れぇ」

無「あ、朱色さん」

朱「好きな子と一緒に買い物に行けとは言ったけど本当にやるとは。やるじゃねぇか」

黄緑「好きな子っていっても私から誘ったんですけどね」

朱「誘われてOKしたってことは色無も黄緑のことが好きってことじゃないのか?」

黄緑&無「!!??」

朱「かぁ〜若いっていいねぇ!!」

無「茶化さないでくださいよ!!」

黄緑(色無さんも私のことが好きなのかなぁ……そうだとうれしいんだけど……)


ザー……ゴロ……ゴロ……ドォーン!!

無「ッ!?」

黄緑「雷ですね」

無「……」

黄緑「?」

ピカッ!!

無「うっ!!」

黄緑「もしかして雷が怖いんですか?」

無「い、いやこ、怖くないぞ!?」

黄緑「ならいいですけど……」

ドォーン!!!!

無「うわっ!!」

ガバっ!!

黄緑「……」

無「あ、抱きついたりなんかしてごめん……」

黄緑「ふふ……別に気にしてませんよ」

カッ!!ゴロ……ゴロ……

無「(((;゚Д゚)))」

黄緑「抱きついてもいいんですよ?」

無「すんません……」

黄緑「よしよし……」

橙「あの女ぁ……」

紫(嫉妬の波動が見える……)


黄緑「色無さん……」

無「なに?」

黄緑「最近夜中に不自然な物音がして怖いんですよ……」

無「でもここは寮だから簡単に人は入れないはず……」

黄緑「……」

無「よし!!俺が調べてみよう!!」

黄緑「ありがとうございます!!」

 深夜1時

バシン!!ドゴォ!!

無「なんだこの音……」

黄緑「なにかを叩いてる音みたいですね……」

ドカっ!!ゴスッ!!

無「念のために木刀を持ってきたけど大丈夫だろうか……」

黄緑「気を付けてくださいね……」

無「わかってる……」

黄緑「音は赤さんの部屋から聞こえてきますね」

無「よし赤の部屋の近くまでいこう」

黄緑「はい……」

 赤の部屋の前

ドスッ!!ガスッ!!

無「どうやら赤の部屋から音がでてるみたいだ」

黄緑「ノックしてみましょうか」

コンコン……し〜ん……

黄緑「反応がありません……」

無「よし入ってみよう」

ギィ……

無「おーい赤ぁ……」

赤「はぁっ!!てぇやぁっ!!くれてやる!!」

ドスッ!!ゴスッ!!ドォーン!!

無&黄緑「(゚Д゚)」

赤「お?二人してどうした?」

黄緑「赤さんこそなにを……」

赤「いやぁ、サンドバッグを買ったからトレーニングをな」

無「なぜトレーニング?」

赤「亀田に勝つために決まってんだろ」

無「さいですか……」

朱「うぉぉぉい……」

無&黄緑&赤「朱色さん!?」

朱「夜中騒がしくて眠れないから調べたらまさかこんなことが原因とはねぇ……」

無(本気で怒ってるな……)

赤「ちょ、ちょっと待った!!」

朱「言い訳はゆっくり聞いてやるからこっちにこい……」

赤「痛い!!お願いだから耳をひっぱらないでください!!あっー……」

無「部屋に戻って寝るか……」

黄緑「そうですね……」

 色無の部屋

無「で、なんで俺に抱きついてるんですか?」

黄緑「たまにはいいじゃないですか」

無「いやいや、倫理的にちょっと」

黄緑「いいじゃないですか」

無「はい……」

黄緑「すぅ……」

無(眠るの速ぇ!!)


黄緑「色無君の、ちょっといいかしら?」

無「ちょっ、黄緑さん!そこはダメですよっ!」

黄緑「あらあら……うふふw色無君のもうこんなになっちゃったわよw」

無「だ、だからダメですってば!」

—ドア越しに紫

紫「(ふ、二人とも何やってるの?!もしかして……あんなことやこんなこと……。)うわぁん!色無のばかぁー!!」

無「! む、紫?!やっぱり勘違いされた……orz」

黄緑「おいしいわね〜、このソフトクリームw」

無「コーンの下から食べないで下さいよ。穴が開いてアイスが垂れるじゃないですか……。しかも俺のまで食べちゃって……」

黄緑「あら?これが普通の食べ方じゃないのかしら……?」

無「どこで習ったんですか、そんな食べ方……orz」


『黄緑さん相談所』

「ふぅ……」

私は朱色さんに頼まれて食堂の掃除をしていました。

それも一段落ついて、お茶でも飲もうとしていたときのことです。

「……」

青ちゃんが無言で食堂に入ってきました。コップを取ると、水を注ぎ、一気に飲み干しました。

「どうかしたの?」

「……何でもない」

嘘でしょう。今の青ちゃんは怒っているように見えます。

「……色無くん、かしら?」

「……」

当たり、でしょう。青ちゃんは俯いてしまいました。

「どうしたの?話してくれない?」

「……あいつ、約束……」

「約束?」

私は彼女にお茶を煎れます。落ち着いてほしい、と意思表示も込めて。

「私、日曜日に映画に誘ってもらったの……」

「嬉しかったんだ?」

「……うん。なのに、あいつ、昼休みにオレンジにせがまれて買い物付き合う、って……」

……色無くんもさすがです。

「そこを見ちゃった、ってことね……色無くんとは会った?」

「オレンジがいなくなった後に……。おもいっきり平手をかまして来ちゃった」

青ちゃんは自嘲気味に笑います。こんな笑い方、私は好きではありません。

「あんなやつ……バカで、デリカシーなくて、優柔不断なくせに女たらしで、変態で、節操無しなんて最低よ……色無なんて、だいっきr」

私は彼女の口に、私の人差し指を当て、彼女の言葉を遮りました。

「嘘はダメ。本当に色無くんのこと、嫌いなの?あなたの心は、なんて言ってるかしら?」

あなたが前に進むには、素直にならなきゃ。———ここまで言いはしないけど、彼女ならわかってくれるでしょう。

「……好き。色無が好き。バカで、女たらしで、どうしようもないけど、底無しに優しいあいつが……好きだよ……」

顔を真っ赤にして、ようやくホントの気持ちを見せてくれました。

「それを伝える相手は、私じゃないでしょう?」

最後にもう一言、彼女の背中を押せるように。私はウインクしてサインを送ります。———いってらっしゃい。

「うん。私、頑張ってくる。……黄緑、ありがと」

「頑張ってね、青ちゃん」

歩きだした背中は、可愛らしくも燐としていて、彼女らしいと感じました。

私のお茶はどうやら冷めてしまったようです。それでもいいか、と口をつけます。

先程の青ちゃんの背中と、これからの彼女と彼の顔を想像してみます。

それは、温かいお茶よりも、私の心を暖かくしてくれました。


『しあわせ』

——洗濯物を干す黄緑

黄緑「〜〜♪」

無「黄緑さん、何か手伝いたいんですけど」

黄緑「じゃあ、草むしりをお願い出来ますか?」

無「はい」

黄緑「お願いしますね」

無「……ふぅ、疲れた」

黄緑「お疲れ様、色無さん」

無「これ、普段は黄緑さんがやってるんですよね?」

黄緑「ええ、でも今日は色無さんにしていただけて助かりました」

無「黄緑さん一人でやり過ぎですよ、これからは手伝いますから何でも言って下さいね」

黄緑「お世話するのは楽しいですから……でも、何かあったらお願いしますね」

無「ちゃんと言って下さいね。……好きな人が倒れたら悲しいですから」

黄緑「! ……本当ですか?」

無「ええ、って黄緑さ——」

だきっ

黄緑「嬉しい! 今日は頑張って晩御飯作りますね」


無「あ、猫だ」

黄緑「ほんと、猫ですね。ふふ、可愛い……」

無「猫好きですか?」

黄緑「好きかどうかと問われると……、微妙ですね」

無「? 何でです?」

黄緑「前に、七輪でサンマを焼いたことがあるんです。その時に野良猫にサンマを取られまして」

無「え、本当ですか」

黄緑「はい。追いかけたんですが、道行く人にくすくす笑われて……少し、恥ずかしかったです」

無「それは、また……」

黄緑「それ以来、猫にはあんまり良い印象がなくて。……って色無さんまで笑わないで下さいよ」

無「あ、ごめんなさいごめんなさい。でも、黄緑さんってサザエさんみたいだなって思って」

黄緑「あら、そうですか? 靴はきちんと履いてましたけど」

無「いや、そういう意味じゃなくて……黄緑さん、良いお母さんになりそうですよね」

黄緑「ん、ありがとうございます。私がサザエさんなら、色無さんはマスオさんかしらね?」

無「え? それってどういう……」

黄緑「あ、でもタマちゃんもいないといけませんね。またサンマ取られたらどうしましょうか」

無「あ、そういう意味ですか……」

黄緑「え? どうかしました?」

無「いや、何でもないです。あはは……」

黄緑「?」

首を傾げる黄緑。

ある日の、下校風景。


相手を許すことによって過去を変えることは絶対にできないが、未来を変えることなら確実にできる。

無「この前は俺が悪かった。すまない」

黄緑「いえ、もう済んだことですから」

怒り、反感、憎しみ、そんなネガティブな感情を捨て自分を解き放つ力。

無「もうあんなことは二度と言わない」

黄緑「ええ、信用していますよ」

誰かを許すことができないと前の出来事に捕われて結果的に自分が傷付いてしまう。

無「お詫びに今夜は夕御飯でもおごるよ」

黄緑「あら、それはうれしいですね」

相手を許すことによって自分を守るなんて打算的で悪どい行為かもしれないけど私はそんな自分を許している。

無「じゃあ今夜の6時に公園で待っとくよ」

黄緑「ええ、わかりました」

自分を許せない人間が誰を許せるというの?……こんなことを考えても時間の無駄ね。いまは彼との楽しい食事を待つことにしましょう。


無「なぁ、水色」

水「なぁに?」

無「花壇でなんか変な植物を見付けたんだけど……」

水「もしかしてあの気味が悪いあれ?」

無「たぶんそれだ」

水「実はだいぶ前からあったんだけど気持悪いから放置してたんだ……なんの植物かわからないし、なんかうめき声みたいのも聞こえるし……」

無「緑だったらなにかしってるかもな」

水「じゃあ放課後に緑さんを花壇によんでもらっていい?」

無「ああ」

 放課後

緑「これはマンドラゴラね……」

無&水「マンドラゴラ?」

緑「地面から抜き取った者の命を奪うという植物よ」

無「なんでそんなおっかないもんが……」

水「でもマンドラゴラって空想上の植物じゃ?」

緑「空想だろうがなんだろうがいま目の前には危険なものが存在しているのは事実よ」

無「そうだな。しかしだれかが引き抜かないようにしないとまずいな」

水「フェンスとかしてもだれかが掃除のときに……」

緑「こまったわね……」

黄緑「あら、みなさん一緒に植物を見つめてなにしてるの?」

無「いやな、この植物を……」

黄緑「その植物を撤去すればいいんですね」

水「いや、そうじゃなくて……」

黄緑「よっと」

緑「あ、駄目!!」

マンドラゴラ(やっと人の命を吸えるときが来たぜぇ!!うひょひょー!!)

無「くそっ……とめられなかったか……」

マンドラゴラ「いただきまぁ……」

黄緑「滅殺……」

ズバァ!!

マンドラゴラ「ぎゃぁぁぁ!!」

無「手刀でぶった斬った!?」

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黄緑「はぁ……」

無「どうしたんだ?」

黄緑「ベランダに干しといた私の下着が盗られたみたいなんです……」

無「下着泥棒か……最近近所で噂になってるらしいな」

黄緑「新しいの買いに行かないと……あ、色無さんも一緒に下着買いに行きます?」

無「断る」

黄緑「ふふ……そんな顔を赤くして拒否しなくてもいいですよ」

無「ふぅ……黄緑には敵わねぇな……いろいろな意味で……」

黄緑「色々ってどんな意味ですか?」

無「なんでもない。とりあえず下着泥棒対策考えないとな」

黄緑「それについてはいま考えましたよ。今夜早速してみようかなと」

無「ほぉ〜」

 その日の夜

泥棒(ぐへへ、この家に住んでる色っぽい姉ちゃんの下着がたまんねぇからまたきちまったぜ。さて下着に手を伸ばして……)

バリバリバリバリ!!!!!!!

泥棒「ぎょぁぁぁぁぁぁ!!」

黄緑「浄化完了……」

 次の日

無「昨日下着泥棒が捕まったらしいぞ」

黄緑「あら、そうなんですか」

無「黒焦げになるまで感電したのに手にはなぜか黄緑色のパンツが掴まされてたらしい」

黄緑「怖いですねぇ(電流を流すのはやりすぎたかしら?)」


黄緑「今日は敬語と私の事を『黄緑さん』って言うの一切禁止」

無「えぇっと、黄緑さん?」

黄緑「違いますぅ。黄緑。はい、呼んでみて下さい」

無「うぅぇ?え、その」

黄緑「ほらほら早くぅ〜呼んで下さいぃ」

無「き、黄緑?」

黄緑「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

橙「あのおんなぁぁぁぁぁぁ」


『おむかえ』

無「お帰りなさい黄緑さん」

黄緑「色無さん……迎えに来てくれたんですか?」

無「ええ、最近物騒ですし」

黄緑「でも、何時に帰って来る、って言ってましたっけ?」

無「……今日は暇でしたから」

黄緑「まさか夕方からずっと……」

ぎゅっ

黄緑「やっぱり……物凄く冷えてるじゃないですか!」

無「黄緑さんの顔が早く見たくて、ほかの事はあんまり気にならなかったんですけど」

黄緑「早く帰りましょう!」

無「……普段は黄緑さんの方が体温低いのに、今日は温かいですね」

黄緑「まったく。風邪でもひいたらどうするんですか!」

無「……ごめんなさい」

黄緑「……罰として、これから24時間私の言うことを聞いてもらいますからね」

無「……はい」

黄緑「じゃあ、まず腕を組んで帰りましょう。それからお風呂に入って背中を流しますよ。その後は添い寝です」

無「……それって罰になってないような……」

黄緑「夜遅くまで待ってくれて、私だって嬉しかったんですから、感謝の気持ちです」

無(理性持つかな……僕)


『石焼芋?』

無「はふはふ……どうして焼き芋ってうまいんだろなー?」

黄緑「あら、色無君」

無「あ、黄緑。お買い物?」

黄緑「ええ、少し食材を……あら、焼き芋ですか?」

無「少しお腹がすいたから。 そうだ、黄緑もどう?」

黄緑「え? そうですねぇ……それじゃ、少しだけ♪」

無「はふはふ……あー、うまい」

黄緑「そうですね、石焼芋って、お家では出来ませんからね」

無「そうだね……落ち葉とか無いと、焼き芋って出来ないからなぁ……」

黄緑「……そうだ、色無君。今度家で大学芋でも食べませんか?」

無「え? 大学芋?」

黄緑「ええ。色無君、さつまいも好きでしょう?」

無「うん、この季節のさつまいもはとてもおいしいからね」

黄緑「なら私の家で、大学芋作ってあげますので来て下さい」

無「いいの? 黄緑」

黄緑「はい、もちろんです」

無「それじゃ、楽しみにさせてもらうよ」

黄緑「はい、楽しみにしててくださいね♪」


黄「色無風邪引いたの!?」

無「ああ、まあ……」

黄「あたしが看病してあげるー!」

無「いや、いいよ……」

黄「遠慮しないで! 私にかかれば風邪なんて……」

無「遠慮してないから……」

橙「なに色無、風邪引いたの!」

無「ああ、どうもそうらしい」

橙「寝てなきゃだめよ寝てなきゃ、さぁこっちに来て早く!」

無「……寝るのは良いがなんでお前の部屋に引っ張っていこうとするんだ?」

橙「ばれた?」

無「あのなあ……」

赤「色無運動しないから風邪引くんだよ。ボクのように鍛えていれば風邪なんて……」

茶「ふぇ! 色無くん大丈夫!?」

水「心配……です……」

白「大丈夫? 色無くん……」

緑「色無でも風邪引くのね……」

黒「ほんとね、珍しいものが見れたわ」

紫「だ、大丈夫色無!?」

無「(なんかたくさん集まってきたな……)あのさ、大丈夫だから。取り敢えずみんな離れて……廊下狭いからさ……」

桃「……(ぎゅー)」

無「も、桃!?」

桃「風邪ってよく人にうつすと治るって言うから……」

無「だからって密着しなくても……ちょ、当たってるから!」

 じー。

無(やばい……視線を感じる……すごく感じる……)

紫「ずるーい! わたしも!」

橙「ちょっと待った! ここは私が!」

黄「私のほかに誰がいようか!」

水「わ、私にもうつして下さいっ!」

黒「みんなにばかり任せてはおけないわ」

 わらわらわらわら。

無「お、お前等何をするやめっ……。アッー!」

無「(ガバッ)はぅああっ!!!?」

黄緑「(びくっ!)め、目が覚めましたか?」

無「何か……酷い夢を見ていたような……」

黄緑「随分うなされてましたから……」

無「もう夜か……みんなはどうしました?」

黄緑「みんな疲れて寝ちゃったみたいです」

無「そうですか……なんか余計に疲れたような……」

黄緑「ふふ、でもあれでみんな心配しているんですよ?」

無「そうなんですけど……」

黄緑「あの、だいぶ汗をかいたようですから、着替えここに置いておきますね。それからお熱も計ってください」

無「あ、はい……」

黄緑「それじゃ、計り終わった頃にまた来ますね」

 ガチャッ。

無(黄緑さんは優しいなぁ……。もしかしてあれからずっと看病してくれていたのかな……)

 カチャリ。

黄緑「お熱どうですか?」

無「だいぶいいみたいです」

黄緑「……まだちょっとだけありますね……」

無「ええ、でも黄緑さんのおかげでだいぶ良くなりました」

黄緑「そんな、私は何もしてませんから。まだ何も……」

無「え? でも……。ちょっと黄緑さん!? 何やってるんですか!!?」

黄緑「風邪はうつすと良くなるって言いますから」

無「え、あ? ちょ!? アッー!!!!!!!!」


灰「オリンピックといえば連想するのは?」

赤「長野オリンピックだね! 日の丸飛行隊の活躍、サイコーだったよね!」

黄緑「東京五輪かしら。東洋の魔女、あこがれたわ〜。あ、ベルリンもよかったかも。前畑ガンバレ、前畑ガンバレって」

灰「……」

灰「万博といえば連想するのは?」

緑「愛知万博ね。『自然の叡智』というテーマはすばらしかったけど、そのために森を切り開いたのは本末転倒ね。モリゾーとキッコロのデザインもいまいちだったし」

黄緑「やっぱり大阪万博よね。高度経済成長の象徴だったし。でも学生さんの反対でもとかもあって、けっこう大変だったのよ」

灰「……」

灰「お笑い芸人で好きなのは誰?」

黄「ん〜、爆笑問題かな。とんねるずとかウンナンはもう芸人というよりタレントよね。若手だとオリエンタルラジオが一押しね!」

黄緑「クレージーキャッツとか大好きよ。本当はジャズバンドなんだけど。漫才ならエンタツアチャコがいいわね」

灰「……」

灰「あの……黄緑さんは、色無とかお姉ちゃんとかと同じ学校に通ってる、高校二年生なんですよね?」

黄緑「? もちろんそうよ? どうしてそんな当たり前のことを聞くの?」

灰「いえ……なんでもないです……」


紫「ごちそうさまー! 今日も黄緑のご飯、おいしかった!」

黄緑「おそまつさまでした。うふふ、紫ちゃんはおいしそうに食べてくれるから作り甲斐があるわ」

紫「えへへ。黄緑ってさ、寮のお母さんみたいだよね」

朱「ホントにな」

無「いや、朱色さんが同意しないで下さいよ。それに黄緑はお母さんって言うよりは——」

黄緑「お母さんって言うよりは……なんですか?」

無「あ、いや……ちょ、ちょっと頼りがいのあるお姉さんて感じかな。群青さんみたいな、さ」

黄緑「あら、うれしい。群青さんは私のあこがれの女性なんですよ。うふふ」

無「そうなんだ、あはは……」

黄緑「どっこいしょ。洗い物も終わったし、一休み一休み……あ、いけない、明日の朝のご飯を仕込まなくちゃ。よっこいしょ」

青(どっこいしょ……よっこいしょ……)

黄緑「ん〜。はあ……なかなか針に糸が通らないわあ。最近近くがよく見えないのよねえ。新聞も読みにくいし……緑ちゃん、悪いけど糸通ししてくれるかしら」

緑「……ええ、いいわよ」

黄緑「あら、きれいな夕焼け。明日は晴れね」

桃「そうなの?」

黄緑「昔からそう言われてるのよ。でも冷えるといけないから、みんなの靴に唐辛子を入れておきましょう。これでしもやけ知らずね」

桃「……」

青(お婆ちゃんだ……)

緑(お婆ちゃんね……)

桃(お婆ちゃんだわ……)


「おはようございます」

寮の中で一番の早起きの私は誰もいない居間に向かって挨拶をします。

これは毎朝やっていること。

炊飯器のタイマー作動を確認して、キッチンに火を入れます。朝ごはんの支度です。

程なくして赤ちゃんが起きてきます。

「おはようございます」

「おっはよう黄緑!じゃ、いってくるね」

と、言い残して早々と出て行ってしまいます。早朝ランニングだそうで。大変です。

「いってらっしゃ〜い」

赤ちゃん台風が通り過ぎるのと同時に緑ちゃんが起きてきました。

「……おはよう」

「はい、おはようございます」

緑ちゃんはいそいそと自分の席に着席して本を読み始めます。

それからしばらくして水ちゃんが起きてきます。

「おはようございます」

「あ……おはようございます。花壇の方にいってきますね」

「はい、いってらっしゃい」

丁寧にお辞儀したあと、ひらりと踵を返して玄関に向かって行きました。

朝ごはんが半分くらいの過程に差し掛かった頃、青ちゃんが起きてきました。

「おはよう黄緑。なにか、手伝える事ある?」

「はい、おはようございます。そうですね……もうすぐ赤ちゃんが戻ってくると思うので、お風呂場温めておいてください」

「たっだいまー!」

私が言い終わると同時に、赤ちゃんの快声が響きました。それを聞きつけると青ちゃんは、わかったわ、と半ば呆れたように返してくれました。

そのまま朝ごはんを作っていると、上の階から途端に賑やかになってきました。黒ちゃんの声です。

その喧騒はずっと続いていましたが、しばらくして白ちゃんと紫ちゃんが降りてきました。

「う〜……黒たちの部屋がうるさくて起きちゃったよ〜」

「あはは。あれはね灰ちゃんが中々起きないから黒ちゃんが怒っちゃったんだよ」

「おはようございます二人とも」

「「おはようございます」」

とても丁寧に返してくれました。

「黄緑、朝ごはんは?」

「もうすぐできますから、もう少しまってくださいね」

暫くして、赤ちゃんがお風呂からあがって、水ちゃんがお庭から帰ってきました。

朝ごはんも既に出来ていて、いつでも食べられる状態なのですが……

「また寝坊組ね……」

お寝坊組……黄ちゃん、橙ちゃん、桃ちゃん、茶ちゃん、色無君。黒ちゃんは灰ちゃんと格闘中……

「「「お腹すいた」」」

訴えてくる紫ちゃん、赤ちゃん、緑ちゃん。特に赤ちゃんと緑ちゃんは早かったから本当につらそう。

どうしましょうか……

「もう食べちゃっていいんじゃない。あたしたちまで遅刻しちゃうわ」

本当は皆で食べたかったんだけど……待たせる訳には行きませんからね。

「それでは、頂きます」

「「「「「「いただきます」」」」」」

時は流れて、そろそろ遅刻の時間が見え始める頃、バタバタと大きな音を立てて残りの皆が起きてきました。

「「「「「おはよう(ございますぅ)黄緑!朝ごはんは(ぁ)?」」」」」

「ねむ……あ、おはよ黄緑」

「はい、おはようございます。もうみんなの分はありますよ」

「「「「「いただきます!」」」」」

「いただきま〜す」

着席して挨拶するなり、物凄い勢いで食べ始める5人。あくまでマイペースな灰ちゃん。

でもよかったこれなら何とか間に合いそうですね。

「「「「「ごちそうさま!いってきます!」」」」」

「みんなはえ〜。良く味わって食えよな」

「ありがとう、灰ちゃん。私はもう行くけど、遅刻しないようにね」

「わかってるって、いってらっしゃい」

「いってきます」

少し、後ろ髪を引かれつつも、私は寮の玄関扉を閉めました。

「……あら?」

そこでふと、何か忘れてるような気がしました。

しかし、何度考えてみても思い浮かびません。

「気のせい……ですよね」

わたしはそう思い込んで、学校へ向かいました。

空を見上げると、そこには清々しい朝の青空が広がっていました。

「みんな見事に忘れてってるよねぇ。薄情な人達だ。ま、私もなんだけどね。じゃ、いってきま〜す、茶センパイ」

「おはよ〜って誰もいないっ!?今日って学校あったっけ?振り替え休日じゃないのぉ?!?!」


 ピリリリリ……カチッ

「ん……んぅ……」

まだ明るくない時間。いつもの時間に目覚ましが鳴る。しかし意外な事に彼女は低血圧なので……

 ピリリリリ……カチッ

二つ目の目覚ましが用意されていた。

「ふ……ふぁ……ぁ……」

まだ眠たい目を擦り、ゆっくりベッドから出て、机の上に置いている二つの写真に挨拶をする。

「おはようございます」

一つは離れて暮らす家族。もう一つは好きな男性の物。夏に寮のみんなで海に行った時の物だ。

「まだまだ寒いわね……」

パジャマから制服に着替える。

「……っと、その前に」

−パタン

男性の写真を倒す。

「写真とはいえ、恥ずかしいですからね」

着替えが終わり、今日の時間割りを確認しながら鞄に教科書を入れていく。時計を見るとそろそろランニングの時間が近い。

「そろそろ準備しなきゃ」

そう言って扉へ

「あ……おまじない……」

机に小走りで駆け寄り写真の男性の唇にキスをする。

「今日も良い日になりますように……」

そう呟いて扉の横に掛けていたエプロンを取り黄緑は朝食を作りに食堂へ向かう。


橙「次黄緑さんだよー」

黄緑「あら?じゃあマイク誰か貸して」

青「黄緑さん、ダイヤモンド歌うの?」

黄「(ボソ)一体いくつなのよこの人」

黄緑「ダイヤモンドだねぇ〜(ギリギリギリギリギリギリ ギュ)」

黄「アッー!!!!!」

黄緑「あぁ いくつかの場面(ギリギリギリギリギリギリギリ ギュ)」

黄「アッー!!!!!!!!!!」

黄緑「あぁ うまく言えなぁいけれど宝物だよー」

今黄色が禁句を呟き反応するまでの速度はおよそコンマ0.000006秒。

黄色が発した声は約0.5デシベル(?)にも満たない。

黄色から5m離れた所から反応した黄緑は一体どこまで歳に関する中傷を察知できるのか。

我々意を決して挑戦してみた。

2時限目中 保健室にて

灰「黄緑さんのとーしーまー。……確か今英語の時間だっけ。せんせー眠気治まったから帰るー」

先「はぃよ」

灰「(カラカラカラ)次の私の授業は——」

 ガシ

灰「なんですかせんせー頭に何か……」

黄緑(ニコニコ)

灰「あ……あははは」

黄緑「うふふふ」

灰「はっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!」

前回の調査で黄緑は半径30m以内なら歳に関する中傷には察知できることがわかった。

現在黄緑は調理実習中、私は校庭で体育の真っ最中だ。

騒がしい体育の時間の呟きを200m離れた黄緑に聞こえるか試してみた。

灰「サザエさん=黄緑さん」

空「灰ちゃーん!」

灰「だが断る」

空「まだ何も言ってないよ」

灰「だって体育でサッカーで灰ちゃーんって言ったら次が想像つくもん」

空「例えば?」

灰「はいパース」

空「確かに今パスしようとしたけどさ」

灰「まぁこの完全無欠の灰ちゃんにまかせなさい」

空「じゃあパスするよー。それっ!」

シュ      ストン

何故でしょう。私にめがけて飛んできたボールがいきなり横っ飛びし、桜の木に止まりました。

そのボールを見ると包丁が刺さっていました。


無「ウチも気をつけなきゃなぁ……」

黄緑「どうかしたんですか?」

無「最近、近所でイノシシの被害が続出してるらしいんですよ」

黄緑「このあたりはまだまだ田舎ですからね」

無「それにウチは黄色のカレー用自家菜園と水色の花壇があるから」

黄緑「イノシシさんの絶好の餌場になりかねませんね」

無「オマケに生ゴミも黄色が『有機栽培』にこだわって畑に埋めてるし」

黄緑「割と深い穴に埋めてるんですけどね」

無「2人ともすごい情熱燃やしてるから荒らされたら……」

黄緑「可哀想ですよね」

無「高圧電流流すと電気代がかかるし」

黄緑「落とし穴は茶色ちゃんがいるから……」

無「灰色に猪の嫌いそうな匂いでも調合させようか?」

黄緑「そうですねぇ〜」

赤「あ〜、寒かった!お腹空いた!今夜は何?」

青「うわぁ、ボタン鍋!朱色さん、予算は大丈夫なんですか!?」

朱「まぁな……」

赤「それじゃ、いっただきま〜す!うわぁ美味しい!!!」

青「ほんと、白味噌仕立で上品に仕上がってる。黄緑が作ったの?」

黄緑「ええ、たんと召し上がれ!」ニコニコ

青「でも、イノシシの肉って高級品でしょ?100g2000円くらいするはずよ」

赤「へぇ〜、そうなんだ。あれ、みんなは食べないの?美味しいよ!」

無「まぁ、その、ちょっとな……」

青「空、こんなときこそしっかり食べておきなさいよ」

空「うん……」

青「みんなお通夜みたいに静かだけど、何かあったの?」

空「お姉ちゃん、実はお通夜と言えばお通夜なんだ」

青「え、誰が亡くなったの?」

空「お姉ちゃんたちが食べてるイノシシさん」

赤・青 ??? 
空「1時間ほど前、黄色先輩の自家菜園に大きなイノシシが来たの」

無「そこへたまたま通りががった黄緑さんがパイルドライバーで気絶させて……」

灰「アイアンクローであの世逝き……」

黒「イノシシの断末魔はまだ耳に残ってるわ」

緑「あとは、皮を剥いで、肉を捌いて、盛り付けて……」

朱「そういうことで肉代は只だ……」

黄緑「ちょっとお転婆しちゃったかしら? うふふふ」


橙「ごちそうさまー」

黄緑「お粗末。じゃあ片付けましょうか。よっこいしょ」

橙(突っ込みたい!すごい突っ込みたい!)

TV「続いてのメンバーはー!モーニング娘。のみなさんでーす!」

茶「一体何人入れ替わるんですかね〜?」

黄緑「ほんと、おにゃんこクラブを思い出すわね〜」

紫(言いたい言いたい言いたい言いたい言いたい言いたい言いたい言いたい言いたい)

灰「ここでチェーンソー買い溜めしておけば、と」

黄緑「灰ちゃーん、もうピコピコやめて寝なさい」

灰(ちくちくちくちくちくちくちくちくちくしょぉーーーーーー!!!!!!!!!!!)

「どうしたんです?最近機嫌いいですね」

黄緑「最近新しく趣味を見つけたんですよ。フフフ♪」


黄緑「はーいお注射しますよ〜」

女の子「ふぇーん! やだぁー!」

母親「こら、暴れないで、看護婦さんの言うこと聞きなさい」

女の子「だって、だって……」

黄緑「大丈夫、痛くないから、ね?(なでなで)」

女の子「あう……」

 チクッ

女の子「——ッ」

黄緑「……これでよしっと。ね、痛くなかったでしょ?」

女の子「あう……(コクッ)」

母親「ありがとうございます。ほら、銀色ちゃんも」

女の子「ありがとー」

黄緑「ふふ、お大事にね」

無「さすがだね」

黄緑「ふふ、子供は好きですから」

無「そうだったね」

黄緑「先生も子供が好きだったから、お医者さんになったんでしょう?」

無「でも、黄緑みたいにはいかないよ」

黄「そうそう、すごいよ黄緑は!」

無「お前はもうちょっと上手くなろうな。この前五回も失敗しただろ? あの子、泣いてたぞ?」

黄「あう……精進します……」

空「黄ちゃんふぁいとー」

無「空もだろ?」

空「えへへー、そうでしたー」


『お菓子』

黄緑「色無さん」

無「……どうですか?」

黄緑「ひどいです」

無「え! そんなにひどいですか?」

黄緑「隠してたなんてひどいです……こんなに美味しいのに」

無「……良かった、何か材料間違えたかと思いましたよ」

黄緑「良くないですよ」

無「え?」

黄緑「一緒にお料理して、お互いに味見したりとか、楽しい事がたくさん出来るのに」

無「すいません。バイトもしてるし、黄緑さんの料理好きですし、きっかけも無かったですから」

黄緑「……私の料理が好きって、ホントですか?」

無「はい」

黄緑「……なら、許してあげます。そのかわり時々でいいですから手伝って下さいね」

無「わかりました……でもあんまり期待しないで下さいよ」

黄緑「こんなに美味しいケーキを作れる人が何言ってるんですか……ほら」

無「あむ……って同じフォークじゃ間接——」

黄緑「あむ……とっても美味しいですよ。色無さん」


TV『男子100m平泳ぎ決勝では、北島康介(日本コカ・コーラ)が59秒96で銀メダルを獲得し、ブレンダン・ハンセン(米国)が59秒80で2連覇を果たし——』

赤「色無、ハンセンってすごいね!」

無「ああ、北島でも勝てないんじゃどうしようもないな」

赤「それにしても59秒86かぁ……」

無「1分かからないんだよね。俺と同じ人間だと思えないよ」

黄緑「あらあら、ハンセンってスタン・ハンセンのことかしら?」

赤&無(誰、それ?)

黄緑「あの人、リングに上がる前、テンガロンハット被って入場してくるのよねぇ」

赤&無(はぁ、リングに上がる?)

黄緑「キメ技はウエスタン・ラリアット? エルボードロップ、それとも逆エビ固め?」

赤&無(『ラリアット』って、何の話してるんだ?)

黄緑「さすがスタン・ハンセン。1分かからずに料理しちゃったのね(うっとり)」


黄緑「……」

灰「どったの、元気ないね」

黄緑「あら、灰色ちゃん。元気なさそうに見える?」

灰「そりゃもう」

黄緑「ふぅ……そうね、灰色ちゃん、ちょっと聞いてもらってもいいかな?」

灰「どーぞどーぞ」

黄緑「あのね……色無くんがね……『黄緑さんは俺のお母さんと話が合いそう』って……」

灰「ふむふむ……」

黄緑「ちょっと酷いと思いません?私だって……ちゃんと最近の音楽とかも聞いたりしますし。ただそれ以上に昭和好きってだけで……」

灰「なるほど……でも、ちょいと黄緑さん、あんたは勘違いしてるよー」

黄緑「……?勘違い?」

灰「そ。『お母さんと話が合いそう』ってことは、黄緑さんとお母さんをご対面させなきゃいけないでしょ?」

黄緑「まあそうなりますけど……」

灰「つまり、いつかはご対面させる。言い換えれば、女の子をお母さんに紹介する。これはつまり……もうそういう関係だってことさね」

黄緑「!!」

灰「行ってやりな。だんなさんが待ってるぜぃ」

黄緑「ありがとうね、灰色ちゃん!」

黄緑「色無さんっ!」

男「き、黄緑さん……あの、まだ怒ってる?」

黄緑「これからもっともっと花嫁修業して、良き妻になれるように頑張りますね!」

男「……え?あ、うん……ありがとう……?」

黄緑「あと……あの、えと、子供は……三人欲しいんで、頑張りましょうねっ!」

男「うん……え?いや、あれっ?」


赤「ただいまー。ふ〜、疲れた〜」

無「おかえり。っておまえ、走って帰ってきたのか? 部活で走ったあとだろ? よくやるよ」

赤「まあクールダウンをかねてゆっくりとね……あ、悪いんだけどこっち来ないでくれる? 汗くさいと思うからさ」

無「ん? 別にそんなことないけどな。女の子っていつでもいい匂いするし。ん〜……赤は日なたの匂いだな」

赤「わー!! ちょっとやめてよ!」

黄「……聞きました奥さん? あの男匂いフェチみたいですわよ」

橙「ええ聞きましたとも。『女の子っていつでもいい匂いするし』……ですって! 真顔で自分の変態趣味を告白するあたり、真性ですわね!」

無「フェチとか変態とか言うな! ほんとにそう思うんだからしょうがないだろ! ほら、黄はレモンの匂いがするし、橙はオレンジの匂いがするし……」

黄「きゃー、匂い嗅がれたー!」

橙「匂いフェチが来るぞー、みんな逃げろー!」

黄緑「ほらほら、廊下であんまりはしゃがないの。二人とも、お夕飯できたからお皿出してちょうだい。赤ちゃんは先にシャワー浴びてらっしゃい」

三人『はーい』

無「やれやれ……ありがと、助かったよ黄緑さん。それにしても、そんな変なこと言ったつもりはないんだけどなあ」

黄緑「女の子は繊細なんですから、色無さんはもっとデリカシーを持たないと駄目ですよ」

無「肝に銘じます……」

黄緑「……ところで。私はどんな匂いですか?」

無「え?」

黄緑「女の子はみんないい匂いがするんでしょう? 私はどんな匂いですか? ほら、もっと近くで嗅いでもいいですよ」

無「え、え〜と……石けんと卵焼きの匂い……かな? なんか優しい匂いがするよ」

黄緑「あら、ふふふ。なんだか嬉しいですね。さあ、もうみんな待ちくたびれてるでしょうから、急いでお夕飯にしましょうか。色無さんも手を洗ってきて下さいね」

無(言えない……『ぬかみそと線香の匂い』とはとても言えない……)


黄緑「コホッ、コホッ!」

無「大丈夫ですか?!あんまり無茶しないで休んで……」

黄緑「いえ、このくらい……平気ですから。それに、私がご飯作らないと誰も作る人がいないでしょう?」

無「とは言っても、熱もあるみたいだし……そうだ!俺が料理はするから黄緑さんはそこに掛けて指示をくれれば……」

黄緑「でも……」

無「いいからいいから!さぁ座って!」

赤「……で、できたのがコレ?」

青「お世辞にも見た目はいいとは言えないわね」

無「うっ……これでも頑張ったんだけどな……」

紫「色無が料理作るなんて意外だね。ちょっと見直しちゃったかな?」

橙「これを口に含むのかぁ……ちょっと気合が必要かもね」

黒「でも、色無が一生懸命作ったんだから食べないわけにはいかないわね。……いただきます(パクッ)」

無「……ど、どうだ?(ドキドキ)」

黒「……うん。見た目程じゃない、美味しいわ」

無「よ、良かった……黒にそう言ってもらえるのなら間違いないな」

灰「お姉ちゃんの舌を納得させた?!なら私も食べようかな」

空「先輩、このミートボール美味しいですね!」

無「あ、それ一応ハンバーグ」

空「ぁぅ……」

無「でも味付けは黄緑さん直伝だからそんなに外れてはないと思うんだよな」

水「どの料理も……美味しいです」

黄緑「うふふ、今度から夕飯は色無君に任せちゃおうかしら」

無「黄緑さんも大変そうだし、たまには代わりますよ。その時は指南よろしくおねがいしますね」


『よびかた』

黄緑「色無さん」

無「黄緑さん、さん付けで呼ぶなんて変だよ」

黄緑「色無さんだって、私のことさん付けで呼んでるじゃないですか」

無「なんでだろ? なぜかつけちゃうんだよなー」

黄緑「じゃあ黄緑って呼んでみて下さい」

無「え」

黄緑「だめですか?」

無「いや、だめじゃないけど、急に言われても」

黄緑「結婚してもそう呼ぶんですか?」

無「け、結婚?」

黄緑「私とじゃイヤですか?」

無「だって結婚出来るようになるまで、まだずいぶんあると思うけど」

黄緑「いっぱい勉強して、いい奥さんになれるようにがんばりますから」

無「あ、うん」

黄緑「じゃあ呼んでみて下さい」

無「えっと……黄緑」

黄緑「はい、あなた」

無「! あなたって」

黄緑「ふふっ、顔が赤いですよ」


無「すごい雨ですね」

黄緑「梅雨を甘く見ちゃってましたね」

無「傘持ってくれば良かった……」

黄緑「仕方ありませんよ。後悔先に立たずです」

無「ビショ濡れになって帰るしかないですかね」

黄緑「そうですね。……色無さんどうかしました?」

無「いや、その……服が透けて……」

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黄緑「……! あらあら、ふふふ」

無「ごごめんなさい、見てないですから、俺!」

黄緑「大丈夫ですよ。誰も見てる人はいませんし」

無「俺がいるじゃないですか!」

黄緑「色無さんなら良いんですよ。どれだけみられても」

無「いや、それは……」

黄緑「あら? ちょっと小降りになってきましたね。今のうちに走って帰りましょうか」

無「は、はい」


無「ふぅ……もうこんな時間かぁ」

コンコン

無「?どうぞ〜」

黄緑「失礼します」

無「あ、黄緑さん。どうしたんですか?こんな時間に?」

黄緑「あの、お夜食作ったんですけど、どうかなぁ〜と思って」

無「あ、ありがとうございます。ちょうど小腹が空いてきたところだったんですよ」

黄緑「よかった〜。どうぞ」

無「おぉ!おいしそう。いただきま〜す」

モグモグ

黄緑「……どうですか?」

無「いやぁメチャクチャおいしいです。さすが黄緑さん」

黄緑「それほどでも」

無「黄緑さん、きっと良いお嫁さんになりますよ」

黄緑「えっ!?」

無「黄緑さんの旦那になる人は幸せ者ですよ」

黄緑「じ、じゃあ……」

無「?」

黄緑「色無さんがもらってくださいます?」

無「え……えぇーーーーーっ!!!!!?」

黄緑「なぁ〜んて冗談ですよ♪それじゃお勉強頑張ってくださいね」

バタン

無「……こりゃテスト勉強どころじゃないな」


黄緑「あら、群青さん?」

群青「黄緑ちゃん?こんな街中で偶然ね。今日は何しにきたの?」

黄緑「今日はちょっとお洋服を見に……群青さんは何をされてたんですか?」

群青「私?私は仕事中よ。取引先の営業さんと待ち合わせなの」

黄緑「まぁ、大変ですね。お邪魔にならないうちに私はおいとましますね」

群青「え、あ……まだ時間あるから、黄緑ちゃんが良ければちょっとお茶でもどう?」

黄緑「いいんですか?ではお言葉に甘えて……」

—カランカラーン

?「いらっしゃいませ」

群青「二人で」

?「かしこまりm……って、群青さん?!に黄緑ちゃんまで?!」

黄緑「あら、橙さん?」

橙「ほぇ〜……なんだか珍しい組み合わせですね」

群青「さっきそこで偶然会ったのよ」

橙「そうなんですか?……って、仕事しなきゃ!こちらにどうぞ〜♪」

黄緑「なんか、皆さんがお仕事を頑張ってされてる時にお買い物なんかしてるとちょっと罪悪感を感じてしまいますね」

群青「そんなことないわよ。黄緑ちゃんはいつも寮のことを色々とやってくれてるじゃない」

黄緑「あれは……なんというか、もう習慣になってしまいまして……」

群青「はぁ〜、誰かさんに黄緑ちゃんの爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいわ」

橙「お待たせいたしました。ホットコーヒー二つと、あとこのケーキは私からのおごりね!」

黄緑「えっ?そ、そんな……」

橙「いつも黄緑ちゃんにはお世話になってるしね!こんなことぐらいでしか恩返しできないけど、良かったら食べて!」

黄緑「あ、ありがとうございます!」

橙「群青さんもどうぞ♪」

群青「あら、私にまでそんな気を使わなくていいのに……」

橙「いえいえ、お仕事頑張ってくださいね!」

橙「お会計640円になります」

黄緑「あ、すいませんが別々で……」

群青「640円ね。ごめんなさい、1000円でいいかしら?」

橙「はい、1000円お預かりいたします」

黄緑「ぐ、群青さん?!私も払いますから!」

群青「いいのよ。いつも朱色も世話になってることだし、私が誘ったんだし……ね?」

黄緑「はい、ではすみませんがお言葉に甘えさせて頂きます……」

橙「ありがとうございましたー♪」

—カランカラーン

群青「じゃあ、私はそろっと仕事に戻るわね」

黄緑「えぇ、お仕事頑張ってください」

群青「黄緑ちゃんもゆっくり休んでね。あ、あと今日はもう何一つ寮のことはしなくていいわ」

黄緑「えっ?」

群青「一日くらいゆっくり休んで?」

黄緑「で、でも……」

群青「いいからいいから!あ、営業さんが見えたみたいだから……また今度機会があったら一緒にゆっくりお茶しましょ」

黄緑「あ、はい」

—ガチャ

黄緑「ふぅ、夕飯の支度しなくちゃ……」

朱「よっ」

黄緑「朱色さん?台所でなにやってるんですか?」

朱「いや、まぁ……その……今日はゆっくり休め。な?」

黄緑「え、ええ?」

朱「私の命がかかってるんだ。頼むから休んでてくれ」

黄緑「?~は、はぁ……」

群青「さて、あの子はちゃんと仕事してるかしらね?」


無「ごちそうさまでした……」

黄緑「あら、色無さん。妙に声が低いですけど、お口に合わなかったのですか?」

無「いえ、別に。そうじゃなくって……」

黄緑「そうじゃなくって?」

無「なんとなく、寮の料理って微妙に甘さが外のお店なんかのと違うような気がしたもので……」

黄緑「ああ、それはお砂糖が違うせいですよ」

無「砂糖?」

黄緑「ええ。今日も野菜の煮物には三温糖、豚の角煮には黒砂糖って使い分けてますから」

無「普通の白い砂糖は使わないの?」

黄緑「ええ。どうしても味が尖ってしまって、素材の甘さを殺しちゃいますから」

無「へぇ。さすが黄緑さん。旦那さんになる人が羨ましいな」

黄緑「あらあら、うふふふ(これで1ポイントリードね!)」

他色(それで、『黄緑用』って書いてある砂糖の缶には全部鍵が……)


黄緑「……よし。ヘタも取ったし、瓶の消毒もすんだし、と。あとは梅とお砂糖を交互に詰めて、シロップの方はおしまい。こっちには日本酒と焼酎をゆっくり注いで……」

黄「黄緑、何してんの? うわ、お酒くさい! まさか……」

黄緑「違うわよ、飲んだりしてないからね。梅酒を作ってるの。最近朱色さんの飲む量が増えてるみたいだから、少しでも体にいいものを、と思って」

橙「あー、毎晩遅くまで飲んでるみたいだよねー。それで平日休日関係なしに昼まで寝てるんだから、ほんっと寮母っていい仕事——」

朱「聞こえてるぞ」

橙「あ、あはは……朱色さん起きてたんですか。今日は早いですね」

朱「そんな毎日昼まで寝てねーっての。お、梅酒か! いいねー、それじゃさっそく……」

黄緑「あっ! だめですよ、まだ漬けたばっかりなんですから!」

朱「なんだよ、じゃあどれくらいで飲めるようになるんだ?」

黄緑「えーと、半年もすれば飲めるようになりますけど、飲み頃は一年経ってからくらいですね」

朱「一年!? そんな先の話かよ!?」

黄緑「そう言うと思って、こっちの瓶は日本酒で漬けてみました。アルコール度数が低いので痛みやすいんですけど、一ヶ月くらいで飲めるようになりますよ」

朱「それでも一ヶ月か……」

黄「ちぇっ、黄緑がまたなんかおいしいもの作ってるのかって期待してたのに、お酒じゃあたしら飲めないじゃん。つまんないのー」

黄緑「うふふ、ちゃーんとみんなが飲める梅シロップも作ってるわよ。こっちは十日くらいでできるし、残った梅でジャムも作れるのよ」

橙「やった! 楽しみー!」

 一日目

朱「黄緑ー、梅酒はどうなった? ……なんだよ、全然変わってねーじゃん」

黄緑「だから日本酒の方でも一ヶ月かかるって言ったじゃないですか……そんな一日くらいで様子が変わったりしませんよ」

 二日目

朱「うーん、氷砂糖が全部底の方にたまってるな……これ溶かしたらもっと早くできるんじゃないか? ちょっとかき混ぜて——」

黄緑「あーっ! そんな瓶を振り回しちゃダメですよ! 梅の実が傷んじゃうじゃないですか!」

朱「いや、氷砂糖を溶かそうと思って……」

黄緑「梅にお酒がよく染みこむように、氷砂糖はゆっくり溶けた方がいいんです! できたら一番に朱色さんに教えますから、もう瓶にさわるの禁止です!」

 一週間後

朱「なあ黄緑、梅酒——」

黄緑(ギンッ!)

朱「……なんでもないです」

 十日後

黄緑「はい、どうぞ。梅シロップのソーダ割りよ」

紫「いただきまーす……ん〜、すっぱーい! でも甘い! おいしい!」

無「ん、こりゃうまい! なんか夏の暑さを吹き飛ばす味だね」

黄緑「うふふ、ありがとうございます。もっと暑くなったらかき氷にかけてもおいしいですし、冬にお湯割りにしてもいいんですよ」

黄「黄緑、おかわりちょうだい!」

橙「あ、わたしも!」

黄緑「ごめんなさい、シロップは梅酒ほどたくさんは作れなかったから、一日一杯ずつね。大事に飲みましょう」

黄・橙「「ちぇー」」

朱「……」

 その夜

朱「……よし、誰もいないな……シロップがあるなら、それを焼酎で割れば梅酒のできあがりじゃん。我ながらすばらしい思いつき——」

 ギイィ

朱「! 誰だ!」

黄「……朱色、さん?」

朱「黄色か……それに橙も?」

橙「えへへ、こんばんは……」

朱「こんな夜中にお前らいったい……まさか、お前らもシロップ狙いか?」

黄「いや〜、一日一杯と言われるとどうしても飲みたくなっちゃって」

橙「お前らも、ってことは朱色さんも?」

朱「ま、まあ細かいことは気にするな。よし、こうなったら一蓮托生だ。今用意してやるからな……よし、できたぞ」

黄「ありがとうございまーす。それじゃ遠慮なく……」

橙「いただきまーす!」

黄緑「……それで、二人にシロップの焼酎割りを飲ませて酔いつぶしたあげく、残りのシロップと日本酒と焼酎を全部飲んじゃった、と」

黄「うう、頭が割れる……」

橙「気持ち悪い〜」

朱「あ、あはは……けっこう大変だったんだぞ? 瓶底に砂糖がたまってたから、最後の方は甘ったるいのなんのって……」

黄緑「他に何か言うことは?」

朱「す、すみませんでした……」

紫「ひどいよ、今日も飲もうと思って楽しみにしてたのに……」

黄緑「ふう……仕方ないですね。もう一回作り直しますから、お酒と青梅、買ってきてください」

朱「ええ!? 酒はともかく、もう七月だぞ? 梅はいくらなんでも売ってないんじゃ——」

黄緑「買ってきなさい!」

朱「は、はいいぃ!!」

無「やっぱ黄緑は怒らせると怖いな……しかし思うんだが、梅の実は残ってるんだから、あれを使って漬け直せばいいんじゃないか?」

黒「罪には罰が必要ってことじゃないかしら。それとも、怒れる黄緑にそう意見してみる?」

無「……いや、やめとくよ」

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無「黄緑さん、ちょっと付き合ってくれませんか?」

黄緑「えっ、こんなふつつかな私で良ければ、どうか末永く——」

無「(何言ってんだろう?)時間があれば買い物に付き合って欲しいんですけど……」

黄緑「あら、私ったら……」

無「敬老の日に爺ちゃんと婆ちゃんにプレゼントしようと思って」

黄緑「ええ、それで……」

無「家庭的な黄緑さんなら、きっといい発想も湧くだろうなぁと思って……」

黄緑「それって、『ぬかみそ臭い』って意味ですか?(ピキピキ)」

無「あ、いや。黄緑さん優しいし、よく気がつくからって意味なんですけど」

黄緑「それじゃ、そのプレゼントは来年でもいいですか?」

無「え、来年?(えらく先の話になっちゃったな……)」

黄緑「今年はもう無理ですけど、来年の敬老の日になら、ひ孫の顔を……」


空「黄緑先輩は石けんは何使ってるんですか?」

黄緑「糠袋よ」

空「糠って、あのお米を精米したときに出る糠ですか?」

黄緑「そうよ。無添加だからお肌にとっても優しいのよ」

空「シャンプーとリンスは何を使ってるんですか?」

黄緑「シャンプーは無添加石けんを泡立てて使ってるの。リンスはツバキ油」

空「ツバキ油って、お相撲さんが鬢付けに使っているあれですよね?」

黄緑「ええ。私は大島椿を愛用してるのよ」

空「でも、黄緑先輩の髪って別にテカテカしてませんけど……」

黄緑「お風呂に入る30分くらい前に髪に薄く塗って、それから洗髪してるから」

空「なるほど、地球にも体にも優しい無添加生活ですね」

黄緑「さて、お風呂上りはヘチマ水塗らなきゃ!」

無「黄緑さんって、いつでも優しい匂いがするなぁ……」


黄緑「色無さん、ちょっといいですか?」

無「ええ、何か?」

黄緑「色無さんは地味な女の子って嫌いですか?」

無「俺はあんまり派手なのは苦手だけど……」

黄緑「それじゃ、ヌカミソ臭い女の子ってどう思います?」

無「家庭的な女性のどこが悪いんです!?」

黄緑「あと、平成よりも昭和の歌が好きな子ってどう思います?」

無「嗜好なんてものは個人の自由でしょ?」

黄緑「あらあら、うふふふ。そうですよね!そうですよね!」

桃「黄緑ちゃん、今日は珍しく大胆ね」

橙「それよりも色無の鈍さの方が問題よ!」


『かわらないもの、かわるもの』

無「ただいまー」

黄緑「おかえりなさい色無さん……んっ」

無「……黄緑さん、ただいま」

黄緑「お疲れでしょう? まずはお風呂にしましょう」

無「わかりました入ってきます」

黄緑「だめですよ、2人で入るんですから」

無「えっ!?」

黄緑「どうしたんですか色無さん。顔が赤いですよ」

無「なんか照れますね」

黄緑「夫婦なんですから照れなくてもいいんですよ」

無「それはそうなんですけどね。黄緑さん、学生の頃とあんまり変わらないから」

黄緑「イケナイ事をしてる気分になります? でも色無さんも変わってないですよ」

無「そうですか?」

黄緑「ええ、あの頃と変わりなく、いいえもっと素敵になってますよ。旦那様」

無「……」

黄緑「どうしました?」

無「なんというか……そう呼ばれるとよりいっそう破壊力が増しますね」

黄緑「そうですか? 本で勉強した甲斐がありました」


無「ただいま〜♪ 今日の夕飯、何?」

黄「いま黄緑ちゃんが裏庭でさばいてる」

無「捌くって、まさかまたイノシシ捕まえたの?」

黄「イノシシだって馬鹿じゃないから、最近は近寄らないよ」

無「それじゃ、何を捌いてるんだろう?」

空「黄緑先輩、鮟鱇(アンコウ)鉄棒にぶら下げましたよ〜」

橙「黄緑ちゃん、素人が鮟鱇さばくなんて無理よ!」

黄緑「魚屋さんがそのままなら半額でいいって言うから……!」

朱「黄緑もやりくりに必死だな」

無「誰のせいだと思ってるんです、朱色さん?」


コンコン

黄緑「はい、どうぞ」

無「お邪魔します。良かったら黄緑さん、これ食べて」

黄緑「まぁ美味しそうな鍋焼きうどん!」

無「うどんも汁も市販ので申し訳ないんだけど」

黄緑「いえいえ。でも、どうして色無さんが?」

無「いつも黄緑さん、頑張ってくれてるから」

黄緑「?」

無「食事にしても赤にはタンパク質とカロリー摂取させなきゃいけないし。

黄緑「ええ」

無「白は脂っこいもの苦手だし。紫は野菜嫌いで、黄色はあの通りのカレー狂だし」

黄緑「うふふ、そうですね」

無「それ献立考えて、みんなに少しずつ違ったオカズ作ってくれて」

黄緑「いえいえ。そんなこと……」

無「ほんとは栄養士と調理師の資格持ってる寮母の朱色さんの仕事なんだけどね」

黄緑「私が好きでお手伝いしてるだけですよ」

無「だからたまには俺にも何かさせてよ。黄緑さんみたいには上手に作れないけど」

黄緑「色無さん……」

無「それじゃ、冷めないうちに食べてね。あとこれ唐辛子。はい」


黄緑「灰ちゃん」

灰「何?」

黄緑「ロボット漫画のピコピコはほどほどにしておいた方がいいわよ」

灰「?」

黄(ロボットはモビルスーツ、漫画はアニメ、ピコピコはファミコン……)

橙(あんた先週も黄緑に絞め落とされたでしょ!)

黄(だから2度と言わないわよ!)

橙(でも灰色ちゃん、全く気がつかないみたいよ。どうしよう?)

空「灰色ちゃん、黒先輩が呼んでたわよ」

灰「ほ〜い。それじゃ、セーブして……」

全(空色ちゃん、ナイスフォロー!)


 朝、カーテンの隙間から射し込む光で目が覚めた色無は、時計を見てベッドから跳ね起きた。

「寝過ぎたぁぁぁ!」

 乱雑に寝間着を脱ぎ散らかして制服を着込むと食堂へと駆け込み、そして黄緑と目が合うと大声で叫ぶ。

「かーさん、なんで起こしてくれなかったんだよっ」

 その瞬間、食堂にいた面々の目が丸くなり、トーストをくわえた色無と台所から出てくる黄緑とを行き来したあとで盛大に黄色と橙が吹き出した。

「いやー、先生をお母さんって呼ぶ子はいたけど、同級生相手のは初めてだわ」

「いひゃひゃひゃひゃ! いろなしっ、サイッコー!」

「んだよ、そんなに笑うなよー!」

 色無は耳まで真っ赤にしながらトーストを食べ終え、オレンジジュースで喉の奥へと流し込んだ。そうして立ち上がると目の前に困り顔の黄緑の姿があった。

「色無さん」

「は、はいっ」

 呼び止められて身をすくめる色無に、黄緑は左手を腰に当て、右手の人差し指をぴんとたてて「めっ!」と一声。

「私は“寮母”のお手伝いはさせてもらってますけど、まだ学生ですよ?」

「ご、ごめん黄緑。今度からは気を付けるよ」

「んー、お嫁にもらってくれたらどれだけ呼ばれたっていいんですけどね」

 だらしなくゆるめられた制服のネクタイを正しながら、色無にしか聞こえないように黄緑は言い、その一言で耳まで色無は真っ赤に染め上げられた。

 その直後、色無から余韻が抜けきらないうちに小さな影が食堂に飛び込んできた。

「わわわわわ、遅刻するー!」

「紫ちゃん、おにぎり握っておいたから食べてね」

「ありがと、ママ!」

「ハンカチとちり紙は持った? 教科書の忘れ物はない?」

「ばっちり!」

「はい、いってらっしゃい。車に気をつけるのよー!」

 流れるような動きで紫の身支度を整えた黄緑は、玄関に出て紫に手を振っていた。

(ありゃ母と子だよなぁ)

 今度は心に止めておけた色無であった。


 ジャー……キュッ

黄緑「ふう、これで洗い物は終わりね」

無「お疲れ様です、黄緑さん。コーヒー淹れてきましたよ」

黄緑「あら、ありがとうございます」

無「はい、どうぞ……って、黄緑さん手が冷たいですよ!?」

黄緑「えぇ、冬は水が冷たくて大変なんですよ。もう慣れちゃいましたけどね」

無「慣れたって……ちょっとコーヒー置いて下さい」

黄緑「はい?」

無「ちょっとお手を拝借。(ギュッ)」

黄緑「い、色無さん?色無さんまで冷えちゃいます!!離して——」

無「離しません。こんなことしか俺には出来ないですけど……」

黄緑「色無さん……」

無「……黄緑さんの手って意外と小さいんですね」

黄緑「ふふ、そういう色無さんの手は意外と大きいですね。……それに……暖かいです」

無「あ、暖かくなってきましたね。そろそろ……」

黄緑「まだ冷たいです」

無「え?……えーと……」

黄緑「まだ冷たいんです。だからもう少し……ね?」


「寒い日はおでんだよなぁ」

「色無さん♪」

「ん?あー黄緑か」

「いまお帰りですか?」

「まあな。黄緑も?」

「ついでに今晩のお夕飯の買い物もしてきちゃいました」

「今日の献立は何?」

「今日は色無さんの好きなハンバーグですよ」

「何っ!? あ゛〜。そうと知っていれば帰りにコンビニで買い食いなんかしなかったのに……」

 俺は自分の手の中のおでんの容器に目をやる。健全な成長期の男子はナニもしなくてもおなかが減るのだ。

 献立のことで凹んでいる俺を見て黄緑が、

「色無さんが私の料理をこんなに楽しみにしていてくれたなんて嬉しいです」

「当たり前じゃないか。黄緑の作る料理はどれもすごくおいしいし」

「でも、いつも食事のときはそんなこと一言も言ってくれないじゃないですか」

「うぅ……そうか何だか悪いことしちゃったな」

「言葉にしないと伝わらないことって『色々』ありますからね」

「俺、まだ他にも何かやらかしてた?」

「うふふ。ご自分で考えてくださいな♪」

「うーん……」

「私、負けませんから」

「おぅ!こんなおでんに『負けない』おいしいハンバーグ作ってくれよ」

「そうですね。それに『も』負けるつもりはありませんから」

「???」

「さぁ。早く帰らないとみんなおなかを空かして待ってますよ」

「そうだな」


桃「あ! 橙ちゃんの爪可愛いね〜! どうしたの?」

橙「えへへ、ちょっと奮発してネイルサロン行ってきたんだー。かわいいっしょ、このラインストーン」

桃「うんうん! いいなー、私も行こっかなー」

橙「駅前のお見せ、お勧めだよー。でも桃だってつけ爪して可愛くしてるじゃん」

桃「これね、ネットで見つけたショップで通販したやつなんだ。安かったけど気に入ってるから超お買い得ー」

黄緑「あらあら、二人ともきれいね。でも大丈夫なの、そんなに爪伸ばして? 危なくない?」

橙「桃のはつけ爪だから引っかけちゃっても剥がれるだけだし、私は普段から気をつけてるから大丈夫」

桃「黄緑ちゃんもやってみない? 使わなくなったネイルチップあげるわよ」

黄緑「え、私も? わ、私はいいわ……似合わないし……」

橙「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃん。ちょっと手ぇ出してみて。派手なのが嫌なら磨くだけでも——あ……」

桃「!! ど、どうしたの黄緑ちゃん!? ガッサガサに荒れちゃってるし、ヒビまでできて血がにじんでるじゃない!」

黄緑「やだ、恥ずかしいな……いちおうハンドクリーム塗ってはいるんだけど、水仕事してると、冬場はどうしてもね」

橙「……なんで……なんでもっと早く言わないのよ! こんな……きれいな手がこんなになるまで一人で……桃!」

桃「うん、分かってるよ。これからは私たちも洗い物とかお洗濯とか、もっと手伝うようにするからね。みんなにも言っておくから」

黄緑「い、いいのよ、そんな大げさにしなくても。私が好きでやってることなんだから。せっかく爪をきれいにしてるのに……」

橙「こんなのいつだってできるもん。黄緑に負担かけておいて、自分たちのオシャレばっかりできないよ」

黄緑「橙ちゃん……桃ちゃん……ありがとう」

朱「自分の欲を捨て、友と苦しみを分かち合う……いいねえ。青春だねえ。お姉さんちょっと泣けて来ちゃったよ」

無(つっこみたい……『あんたが率先して分かち合えよ!』とつっこみたい……)


無「黄緑さん。その手、無茶苦茶荒れてるじゃん!」

黄緑「うふふ。もう慣れましたよ」

無「いつも俺たちの為に……」

黄緑「いえいえ。好きでやってるだけですから」

無「洗い物とかお湯でやってる?」

黄緑「お湯で洗い物をすると手の脂が抜けちゃって、逆効果なんです」

無「そ、そうなんだ……。ちょっと待っててね」

黄緑「???」

無「このハンドクリームすごく良く効くから! 塗ってあげるよ」

黄緑「あ、ありがとうございます!(こ、これって!?)」

無「黄緑さん(塗り塗り)」

黄緑「は、はい」

無「俺たち、卒業して(塗り塗り)」

黄緑「はい!?(卒業したら、一緒に暮らそう?えっ、そんな……)」

無「この寮出たら……(塗り塗り)」

黄緑「ええ……(でも、卒業するときは色無さんも18歳だし)」

無「朱色さんも少しは真面目に仕事をしなきゃいけなくなるね」

黄緑「そ、そうですね(忘れていたわ! 色無さんて超鈍感だってことを……)」

無「はい、お仕舞い。残りもあげるから使ってね!」

黄緑「色無さん。毎晩寝る前に塗って下さいます?」

無「? 別にいいけど……」

黄緑「うふふふ。ありがとうございます!(嗚呼、生きてて良かったわ!!!!)」

黄「黄緑ちゃんって、ほんと見かけによらず策士ね」

桃「それじゃ、私は胸で色無君のお茶碗洗ってあげようかしら?」

橙「桃ちゃん。黄色みたいなこと言うと、馬鹿だと思われるわよ」

黄「そ、それ、どういう意味!?」


TV「本日、秋田県男鹿市ではなまはげ柴灯(せど)まつりを開催──」

無「なまはげか。これって家に来たりして子供が泣いてたりするのがあるよな」

紫「それがどうしたの?」

無「家に来るってわかってればいいけど、道とかでばったり会ったら結構恐いよな」

紫「そうだけどこの辺にはなまはげの風習ないから平気で──」

なまはげ「悪い子はここかー!!!!」

紫「きゃー!!」

無「おわっ!!」

黄「あはははは。どうどう? びっくりした?」

紫「ばばば、ばかじゃないのっ!」

無「お前……普通びびるって、しかもそれなんだ? よく見ればぶっさいくだし」

黄「失礼だなー。一生懸命つくったのに」

無「もっと他のことに労力つかえよ」

黄「みんな楽しんでくれると思ってさ。さて、次は水ちゃんあたりがいい反応をしてくれるだろうなー」

紫「だんだんムカついてきた。黄色! まちなさーい!!」

黄「待てと言われて待つやつなんかいなよーだ!」

ドタドタ

無「やれやれ、走り回って騒いでるとうちの寮のなまはげがくるぞ」

黄緑「色無さん、それは誰のことですか?」

無「!? そ、それは黄緑さんなわけないですよ。は、ははは」

黄緑「そうですね。うふふ」

無「ま、待って!! 包丁はシャレにならないから——アッー!」


黄「はっくしゅん!」

無「おいおい、こっちに飛ばすなよ」

黄「ごめんごめん、花粉症かな?(チーン)」

無「とりあえず、病院行って検査受けて来いよ」

黄「うんそうする。病院かぁ、何年ぶりだったけな」

無(ばかは風邪を引かないとやらで無縁そうだしな)

黄「ぶぇっくしょーい!!」

無「うわっきたねぇ!! 今かかったぞ!!」

黄「何か失礼なこと考えてそうだったからかけてやったの」

無「お前──」

黄「病院行ってくるから! じゃね!」

無「待て! 一言あやまってから行け!!」

黄「やーだー」

無「このっ!」

黄緑「きゃっ!(ドン)」

黄「おわっ!(ドテ)」

無「よっしゃ、追い詰めた……やべっ! 逃げ──」

黄「あー、待ってずるいずるい」

無「こ、こらはなせ」

黄緑「うふふ、二人ともどうして逃げようとするんですか?」

黄「に、逃げるわけないじゃん。ねぇ色無」

無「お、おう」

黄緑「そう、よかった。なら私の話を聞いてくれますよね? 正座で」

黄・無「はい」

黄緑「あれほど寮の中を走ってはいけないと言ったじゃないですか。ぶつかったのが私だったからよかったけど、これが体の弱い白ちゃんとか、さらに被害が大きくなりそうな茶色ちゃんだったら大変でしょう」

無「ごめんなさい」

黄「おっしゃるとおりです」

黄緑「本当に分かってるんですか? だいたい二人はいつもいつも──」

 その後、黄緑の説教は2時間続いた——。


「えーっと、買い物のメモは……ちょっと、多かったかしら」

 食品の買出し、特にうちの寮は大所帯ですから、とにかくその、量が多いんです。

 いつもはこまめに買い物をしてるんですけど、えーっと……カレー用の具材が時々なくなってしまうことがあって。

 それで、急な買出しが必要になったりするんです。

「ふぅ、次は……野菜っと」

 買い物は、いつも近所の商店街で済ませています。昔からのなじみのお店ばかりで、おまけもよくしてくれますし。

 ここの八百屋のご主人も、すっかり常連になった私によく声を掛けてくれます。

「おう、いらっしゃい! 今日も大変だねぇ、黄緑ちゃん」

「いえ、いつもお世話になっています」

「なーに、お世話になってるのはこっちの方さ。さ、今日は何にするんだい?」

「えっと、玉葱と、人参と、あとじゃがいもを」

「ん、今日はまたカレーかい?」

「いえ、今日は肉じゃがにします」

 その、カレーを作ったのは私じゃないんですけどね。

「そうかい。でもよ、これじゃあ結構重くないかい? 持ちきれるかねぇ……」

「大丈夫です、これくらいなら」

 基本的に買出しはほとんど私がしているので、実は重い荷物にも慣れているんです。

 それでも、学校帰りに少しずつ買っているので、こんなに大きいものはあまり持ったことはないですけど。

「うーん、でもなぁ……あー、なるほど。失礼したよ。こんな頼りになる人がいたんじゃなぁ」

「え?どうしたんですか、いきなり……」

「なに、黄緑ちゃんも隅に置けないねぇ、ってことさ。ほら、後ろ」

「後ろって……あっ」

 そこには、商店街の八百屋にはまるで場違いで、そのことに少し困っているような顔をしたひとがいました。

「あー、手伝いに、きました。その、荷物運びでもしようと思って」

「色、無さん?」

「お邪魔でしたか?」

「いえ、そんな……」

「……おーい、お会計、黄緑ちゃーん?」

「ご、ごめんなさい! 色無さん、ちょっと待っててください!」

「あ、はい」

 ひとまず、お会計を済ませてから。それにしても、いきなりどうしたんでしょうか……。

「黄緑ちゃーん、コレかい?コレ」

「……小指を立てないで下さい。はい、代金です」 

「まいどっ。それにしても、わざわざ荷物もちに来る男なんて珍しいねぇ」

「ええ、まぁ……そういうところがとても彼らしいんですけど」

「ほう、いい旦那様じゃないか。大切にしてやれよ」

「茶化さないで下さい! もう……あれ、私、こんなに買ってませんよ?」

「気にすんな、健気な旦那のためだ。今日はいっぱい作ってやんな」

「……ふふっ、ありがとうございます。それでは」

「おう、今度は俺にも紹介してくれよ!」

 にぎやかな八百屋を後にして、今度は色無さんのところへ。なんだか、ドキドキしてます。ご主人のせいで。

「お待たせしました。えーと、今日はどうしたんですか? 確か出掛けてたんじゃ……」

「ええ。それで、帰る途中で黄緑さんを見かけたんで、手伝おうかと」

「……たったそれだけのために?」

「だって、いつも任せっきりですから。ほら、そっちの袋、持ちますよ……わ、重い。いつもこんなのを?」

「え、たまにですけど……大丈夫ですか?」

「平気です。それより、荷物が大変なときはいつでも言ってください。買い物、付き合いますから」

 それは、ひどく真剣で、たくましくて、頼もしい男の人の顔でした。

「……はい。じゃあ、次の買い物は、一緒に行きましょうね?」

「任せてください。あ、そっちの荷物も持ちます」

「あっ」

 荷物を渡すときにちょっと触れた指が、何だかとてもあたたかくて、心地よくて、

「どうかしました?」

「……なんでもないです。さぁ、帰りましょうか」

 からっぽになった手に、なにか大切なものが満たされた、そんな気がしました。

「色無さん、今日の夕ご飯、楽しみにしててくださいね」

 腕によりをかけて、頑張りますから。旦那様——。


無「……ん、朝か。って、まだ暗い……しかも5時かよ!?これじゃ寝れないな……水、飲むか」

 カチャカチャ

無「あれ、電気ついてる……あ、黄緑さん」

黄緑「おはようございます、色無さん。こんな早くにどうしたんですか?」

無「いや、何か目が覚めちゃって……あ、おはようございます」

黄緑「はい、おはようございます。ごめんなさい、まだ朝食の用意はできていなくて」

無「いえ、こっちこそ急に押しかけたみたいで……いつもこの時間に?」

黄緑「ええ。ここは結構な人数がいますし、お弁当も作ってますから」

無「そうなんですか……でも、今日って日曜日ですよね?」

黄緑「ふふっ。実は、私も目が覚めちゃったんです。あ、紅茶飲みますか?用意できてますし」

無「ぜひ、お願いします」

黄緑「はい、ちょっと待っててくださいね……どうぞ、粗茶ですが」

無「ありがとうございます……うん、おいしい」

黄緑「ええ、がんばりましたから。では、私も……ふぅ」

無「こんなにおいしい紅茶は初めてですよ。やっぱり、淹れ方が違うんですか?」

黄緑「いえ、特には……毎日続けてるからかもしれませんね。自分ばかりで、他の人には飲ませたことないんですけど」

無「もったいないですよ。こんなにおいしいのに……」

黄緑「そう言ってもらえると、淹れた甲斐があります。おかわり、要りますか?」

無「あ、どうも」

黄緑「お気になさらずに……静かですね。こんな朝は、久しぶりです」

無「俺もです。いつもは、やっぱり忙しいですか?」

黄緑「そうですね。こんなにゆっくりしたこともなくて……いえ、皆さんの所為ではないですよ?」

無「はは、頭があがりませんね……では、寮生を代表して。いつもありがとうございます」

黄緑「どういたしまして。でも、私が好きでしていることですから」

無「何かできることがあればいいんですが……あ、これからお手伝いしましょうか?」

黄緑「そんな、私は大丈夫ですから。でも、そうですね……こうやって、たまに朝の暇な時に付き合ってもらえれば」

無「そんなことでいいなら……よろこんで」

黄緑「ふふっ、暇な時でいいですからね?」

 いらっしゃいませ、お客様。ここには紅茶しかありませんが、どうかごゆっくりしていって下さいね?


 ザーッ

無「すみません、せっかくの休みを台無しにしてしまって……」

黄緑「気にしないでください。ちょっと天気予報が外れただけじゃないですか」

無「でも……すいません」

黄緑「私、折り畳み傘を持ってましたし。一本しかなくて……ちょっとせまいですけどね」

無「……」

黄緑「たまには、いいじゃないですか。こんなのも」

無「え?」

黄緑「雨だからってなんです? 雨が降ったのは色無さんのせいですか?」

無「あ、いや、違うかと……」

黄緑「だったら、色無さんが落ち込む必要はありません。それに、雨だからって悪いことばかりでもないですから」

無「雨……好きなんですか?」

黄緑「いいえ。洗濯物は乾かないし、髪はまとまりませんし……」

無「ハハッ、嫌なことばっかりじゃないですか」

黄緑「ふふ、そうかもしれません……でも、こんな機会もほとんどありませんし、ね?」

 ぎゅっ

無「あ、ちょっと黄緑さん!?」

黄緑「なんですか? この傘もせまいんですから、もっとくっつかないと」

無「お、俺は大丈夫ですから!」

黄緑「さっきから……私が濡れないように傘を私側に持っていてくれたんでしょう? 肩、びしょびしょです」

無「そんな、俺は……」

黄緑「今日のお詫びだとか、そんなことはいいんです。こうして二人でいられて、私はそれだけで嬉しいんですから」

無「今日は本当にすみま——えと、ありがとうございます。そう言ってくれて……助かります」

黄緑「はい、どういたしまして。ふふっ、よくできました。今の返事なら合格です」

無「ハハ、危なかった……あ、雨、止んでますね。いつの間に……」

黄緑「色無さん、時間はまだいっぱいありますよ。期待、してもいいんですか?」

無「……えーと、あー、ごほん。もしよろしければ、これからエスコートさせていただけませんか?」

黄緑「ふふっ。はい、よろこんで」


無「暖かいですね」

黄緑「そうですねー」

無「春はもうすぐそこって感じですね」

黄緑「そうですねー」

無「あのー黄緑さん?」

黄緑「そうで——えっ? な、何ですか?」

無「俺の話聞いてます?」

黄緑「も、もちろんですよ」

無「本当ですかぁ? 何だかさっきから心ここにあらずって感じなんですけど……」

黄緑「そ、そんなこと……ない……ですよ……多分」

無「いま多分って言いました?」

黄緑「黄緑わかんなーい」

無「急にぶりっこしないでくださいよ。だいたい自分の歳を考えて——ごふっ!」

黄緑「なーんか言いましたー?(ニコニコ)」

無「い……いいえ……何でもありましぇん……」

黄緑「もう。そんなこと言う子にはお弁当あげませんよ」

無「そ、そんなぁ〜」

黄緑「うふふ。うーそ♪ さぁ、たーんと召し上がれ」

無「いっただきまーす! うわぁ豪華だな」

黄緑「腕によりをかけて作ったんですよ。お口に合うかしら?」

無「いやぁーどれもすっごくおいしいですよ」

黄緑「まだまだたくさんありますから」

無「はふはふ。むしゃむしゃ」

無「ふぅー満腹。満腹。ごちそうさまでした」

黄緑「お粗末さまでした。温かいお茶飲みますか?」

無「いただきます。いやぁ至れり尽くせりで何だか悪いな」

黄緑「いいんですよ。これくらい」

無「でも……。何か俺にできることあります?」

黄緑「そうですねぇ。そうだ」

無「何です?」

黄緑「桜の季節になったらまた今日みたいに二人でピクニックに行きましょう」

無「それくらいなら喜んで」

黄緑「約束ですよ? はい」

無「?」

黄緑「ゆびきり」

無「そういうことですか。はい。ゆびきり」

黄緑「じゃあ帰りましょうか」

無「そうですね」

 春がまた一段と待ち遠しくなる。そんな一日でした。(黄緑の日記より)


『たんぽぽ』

黄緑「色無さん、たんぽぽがきれいに咲いてますよ」

無「黄緑、たしかにたんぽぽもきれいだけど、せっかく桜が咲いてるんだから桜を見ようぜ」

黄緑「桜はきれいですけど、なんだか落ち着かないんですよね。みなさん一瞬のものを急いて楽しんでいるようで」

無「……でも、なんかわかるな」

黄緑「私はゆっくり、たんぽぽを見るのが好きですね。とてもあたたかい、おひさまの色をしていますし」

無「つき合うよ。俺もたんぽぽを見たくなってきた」

黄緑「ふふ、じゃあお茶をいれてきますね」


『そして明日の色鉛筆より——?』

無「黄緑さんは、もし地球が明日でなくなるとしたら、最後に何をしますか?」

黄緑「そうですね……あ、そうそう。色無さん、今日の夕食は何が食べたいですか?」

無「俺ですか? えーっと、んー、里芋を煮たやつがいいです。先月食べたあれ、すごくおいしかったですし」

黄緑「わかりました。じゃあ、私は里芋の煮物を作ります」

無「本当ですか? わ、楽しみです」

黄緑「はい。じゃあ、ちょっと里芋を買ってきますね」

無「あ、俺も買い物手伝います……あれ、今のって最後に何をするかって質問でしたよね?」

黄緑「ええ、そうですけど。私は、地球最後の日に里芋の煮物を作ります。あ、今日の夕食ももちろん里芋ですよ?」

無「えと、質問の意味、分かってますよね?」

黄緑「もちろんですよ。ふふ、ちょっと説明不足でした。私が最後にすることは、色無さんが食べたいものを作ることです」

無「それ、本気で言ってるんですか? だって、最後なんですよ?」

黄緑「あら、そんなこと言って。最後の晩餐なんですから、最後はとびきりおいしいものを食べてもらいたいですし」

無「だったら……黄緑さんの一番の得意料理の方が、きっとおいしいですよ」

黄緑「ふふっ、ありがとうございます。でも、それじゃあダメなんです」

無「どういうことですか?」

黄緑「色無さんが、その時に一番食べたい料理、それじゃないとダメなんです」

無「じゃあ、さっき言ってた里芋っていうのは……」

黄緑「はい。もしあの時点で本当に地球が明日消えてしまうなら、という意味でした」

無「なるほど」

黄緑「もちろん、今までで一番時間をかけて、丁寧に作らせてもらいますから。うふふ」

無「こ、光栄です。むしろ恐縮です……」

黄緑「かしこまる必要なんてないんですよ? 私は、私がやりたいことをやらせてもらうだけですから。あ、ご迷惑でしたか……?」

無「や、そんなことないですっ! ただ、せっかくの大事な時間が、と思って……」

黄緑「色無さん。私は、いちばん大切な人にいちばんおいしい料理を食べさせたいだけなんです……それでは、いけませんか?」

無「そんなこと……いえ、是非、お願いします。楽しみにしてますよ」

黄緑「はい、その時までに腕を磨いておきますから」

無「ハハ、でも、そのためには地球が滅ばなきゃいけないなんて……夢のまた夢ですかね?」

黄緑「ふふっ、早く地球が滅亡しないかしら」

無「げ」

黄緑「うふ、冗談です。そんなことがなくても、色無さんにはいつでも食べさせてあげますから。ね、あなた?」


『黄緑にこれって間接キスだよなって言ったら』

 ちょっとびっくりしました。だって、色無さんが私にそんなこと言うなんて、あまりないことだったから。

「そうですね。ふふふ」

 内心ドキッとしたけれど、なるべく平静を装って答えます。すると色無さんは、ちょっとつまらなそうな顔をしました。

「全然動揺しないんだな」

「そうですねえ。私、弟や妹が大勢いるんです。その子たちが小さいころは同じスプーンでご飯を食べさせてあげたりしてましたから、慣れてるんです」

「ちぇっ、俺はちっちゃい子供扱いかよ。同い年じゃん」

 ふふ、機嫌が悪いときにほんの少し言葉遣いが悪くなるところが、三番目の弟にそっくりです。こんなこと言ったら、また怒っちゃうでしょうけどね。

「子供扱いが嫌なら、明日からはちゃんと朝一人で起きて下さいね。それと、洗濯物は裏返しのまま洗濯機に入れないで、靴もちゃんと揃えて——」

「うわっと、やぶへびやぶへび。明日から前向きに検討して誠心誠意善処いたしまーっす、っと」

 ことさらお姉さんぶって、おどけてお説教を始めると、色無さんは肩をすくめて苦笑いしながら逃げていっちゃいました。

「あれは全然改める気ないですねえ……もう」

 私も苦笑すると、残されたカップにそっと口をつけ、少しぬるくなったマスカットジュースを飲み干しました。

 

 次の日の朝。やっぱり色無さんは朝食の時間になっても起きてくる気配がありません。

「黄緑ー、あんな奴ほっときなよ。毎朝毎朝寝坊してさ。いっぺん遅刻して痛い目見ないと、ずーっとねぼすけのまんまだよ、きっと」

 紫ちゃんが一人憤慨して、他のみんなも大なり小なり同意見、といった雰囲気の食堂に曖昧な笑みを残して、私は今日も色無さんを起こしに階段を上ります。

「色無さん、朝ですよ。起きて下さい。……入りますよ」

 鍵のかけられていないドアをそっと開けると、色無さんはベッドの上で赤ちゃんみたいに丸くなって熟睡しています。

「もう、ちっとも善処してくれてないじゃないですか」

 色無さんが起きてしまわないよう、小声でつぶやきます——起きてもらうのはもうちょっとあとじゃないと困るんです。

 これが、昨日私があまり動揺しなかった本当の理由。慣れているのは、弟たちの相手をしてたからじゃないんですよ。

「今日も一日、頑張って下さいね、色無さん」

 念のためドアの方を一度振り向き、誰もいないことを確認してから、私は色無さんの頬にそっとキスをしました。

「……ふふふ。紫ちゃんが怒ってますから、もう起きて下さい。そーっれ!」

 勢いよく毛布を引きはがすと、情けないうめき声を上げながらも、ようやく色無さんが目を覚まします。うーん、やっぱりちょっと手が焼けるかも。

 もう少し頼れる男の子になってくれるまで、本当のキスはまだまだお預けですね。

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Last-modified: 2012-10-21 (日) 04:45:05