黄緑メインSS

黄緑「あら、今日は母の日ねぇ。どうしましょう」

紫「どったの黄緑?」

黄緑「毎年お母さんにカーネーション贈ってるんだけど、今年は忘れちゃったの。今から送っても遅いし……」

赤「だったら今から行ってくればいいじゃん。家まで電車で2時間ぐらいでしょ?」

黄緑「そうしたいのはやまやまだけど、夕食までに間に合わないかもしれないし……」

無「今日は俺たちがやるから行ってきなよ。毎日黄緑さんにお世話になってるしね」

黄緑「……どういうことかしら、それは?」

青「い、いいから早く行かないと間に合わなくなるわよ!」

黄緑「そう? なら御言葉に甘えさせてもらいます(ペコリ)」

無「あ、ありがとう青。さっきのは本当に危なかったぜ……!」

青「気をつけなさいよ」

朱「ねぇ、何で私が洗濯しなきゃ行けないんだ? 母の日なんだから寮『母』の私を——」

緑「権利は義務を果たしてから主張して下さい」

朱「はいはい。うわっ! すんごい量の服だな! うちのお母さんはこれ洗濯してるのかよ!」

青「ちゃんと個人のものを覚えてるんだから、黄緑お母さんは。朱色お母さんも見習って下さい!」

橙「今日の夕飯カレーでいいかなぁ? ほら! 母の日の定番でしょ?」

桃「でもこんなに大勢のご飯作るなんて……さっすがみんなのお母さん!」

黒「私と白は寮内の掃除をするわ」

白「お母さんの代りに頑張りますッ!(ピシッ)」

水「みんなあんまりお母さんって言わないほうが……」

黄「実際私の世話してくれてるんだからお母さんって呼ばれても……ねぇ?」

茶「わ、私なんて先生をお母さんって言う感覚で黄緑さんにお母さん! って言う時ありますよ!」

無「それは自慢にならないぞ」

黄緑「ただいまぁ。あら! 綺麗ねぇ。誰が掃除したの?」

無「おかえり。これは白と黒だよ。飯は桃と橙が作ったし洗濯は緑と朱色さんがやってくれたよ」

黄緑「まぁ。すいません、みんなに迷惑かけちゃって」

無「あとこれは母の日とか抜きにしてのことなんだけど……いつもありがとうございます」

黄緑「もう色無さんってばぁ♪」


黄緑「ふんふんふふーん♪」

橙「黄緑、何かご機嫌だねー。なにしてんの?」

黄緑「あ、あら橙ちゃん。嫌だ、恥ずかしい」

橙「隠さなくたっていいじゃん。何か貼っつけてたような……あっ、プリクラ!?」

黄緑「ち、違——」

橙「わー、見たい見たい! そーいえば黄緑のプリクラって見たことないんだよねー。あんまり一緒に遊びに行くこともないしさ」

黄緑「あの、だから違う——」

橙「誰と取ったやつ? やっぱ紫とか? 黄緑の性格からして一人プリクラってことはないよね? あー、隠すってことは、まさか色無と?」

黄緑「そ、そうじゃなくて——」

橙「隙あり!!」

黄緑「あっ!」

橙「……なに、これ?」

黄緑「……グリーンスタンプです……」

橙「……あんなに楽しそうにしながら、グリーンスタンプ貼ってたの?」

黄緑「……」

橙「いや、なんか……ごめんなさい」

黄緑「うう……だから見せたくなかったんです!」


『ある暑い日の厨房』



 カウンター越しとはいえ、夏場の厨房は客席と違ってとても暑い。

 そんな中、一人延々と調理を続ける黄緑さんはすごい。フライパン片手に、

笑顔を見せる余裕まである。

「あー……やっとお昼時過ぎたねぇ」

 客席のテーブルに突っ伏す桃さんが、弱々しく呟く。

 確かに、今日は客がずいぶんと多かった。部活が休みだった俺も、強制的にかり出される始末だ。

 近所で何か集まりでもあったのだろうか。とにかく、だらしない状態の桃さんに注意する余裕もなく、

俺もカウンターにぐったりともたれかかる。

 客席側のクーラーが、やけに涼しく感じられる。

「こーら、二人ともだらしないわよ」

 そんな俺達を見かねてか、笑顔の黄緑さんが厨房から声をかけてくる。

 カウンター越しに見えるその姿。手にはミートスパゲティが盛られた皿が三つ。

 まかないだろうか……というか、よく持てるなと感心してしまう。

「あー、お昼ご飯ですねぇ。待ってましたっ」

「ええ。今日は頑張ってくれたから、少し奮発したの」

 そう言うと、カウンター脇の出入り口から客席の方へと出てくる黄緑さん。

「いえいえ、一人暮らしの身としては毎日これが楽しみで仕方なく……店長さん、ふらついてません?」

「え? そんなことはないと思うけど……あらら?」

 いつもの笑顔。

 だが、体はゆっくりと左右に揺れ、今にも手に持った皿を落としてしまいそうな……。

「って、黄緑さん!」

 一歩踏み出そうとしたと同時に、大きくふらつく黄緑さん。

 近くにいたおかげで手を差し出すのに間に合ったものの、放っておけば倒れそうな勢いだ。

「色無君っ、お皿は無事だよ!」

 そして、黄緑さんの目の前では3つの皿を持った得意げな表情の桃さん。

「お昼はあたしが何とかするから、お店は私が閉めておくからぁ。

色無君は店長さんとゆーっくりしていってね。んふふ」

「な、何ですかその意味深な笑い方……というか、一人一皿ですよ」



 黄緑さんの部屋。

 一緒に暮らし始めてまだ半年経っていないが、こうして入るのは初めてだ。

 あまり着飾らない性格のためか、比較的シンプルな内装。所々置かれている動物の小物は、

可愛いと言うよりはどこか独特な雰囲気がある。

「夏バテかしら……恥ずかしいところ、見られちゃったわね」

 ベッドから上体を起こした黄緑さんが、苦笑を浮かべながら口を開く。

 こういう状況を目の当たりにしたのは、正直初めてのことだ。連日の猛暑に、

日頃の疲労が重なったせいだろうか。

「仕方ないですよ、あんなに暑かったんですから。それよりよく忙しい時間切り抜けられましたね」

「ふふ、昔は一人で切り盛りしていたんだけどなぁ」

 今よりお客さんも少なかったしと、困ったように言いながら笑う。

 明るい顔。だけど今は、何となく無理をしているのではと思ってしまった。

「それより色無君、桃ちゃんはどうしたの?」

「桃さんですか? 多分店閉めてる最中だと思いますけど」

「そう。あと色無し君、お腹空いてない?」

「え、まぁ……黄緑さんこそ、まかない持ってきましょうか?」

「ううん、ちょっと食欲がないから」

 まだつらいのか、再び体をベッドに横たえる黄緑さん。

 こんな姿、黒に見られたら何といわれるか。

 もっと気を遣えとか、俺には注意力が足りないとか……重々承知しているつもりではあるが。

 ……黒の小言を頭の中で思い浮かべ、何だか不必要なほどに胸が重くなってしまう。

「それより、お腹空いているならお昼済ませてきていいのよ? 私はもう大丈夫だから」

「いや、俺も平気ですから。何かあったら俺に何でも」

 俺の虚勢を象徴するように、腹の虫がその大きな鳴き声を奏でる。

「無理しちゃって」

 可笑しそうに黄緑さんが笑顔を見せるが、今はそれを直視できない。

「気持ちは嬉しいけど、必要以上に気を遣ってくれる必要はないの」

「それは、まぁ分かってますけど……っ」

 いつの間にか俺の額に放たれる、黄緑さんのデコピン。

 口に出すほどの痛みはないが、急のことで驚いてしまった。

「色無君、全然分かってないでしょ」

「そ、そんなこと」

「嘘。顔見ればすぐ分かるもの」

 黄緑さんの言葉に、思わず顔に手を当ててしまう。

「やっぱり……色無君らしいわね。生真面目なんだから」

 こちらに向けられる笑顔。それがどうしても恥ずかしくて、思わず目をそらしてしまう。

「まだこっちに来て日が浅いけど、もっと肩の力を抜いてもいいのよ。居候と大家の関係じゃ、

私も寂しくなっちゃうから。あ、住み込みのアルバイトと店長もダメよ」

 そう一言付け足すと、俺の目を真っ直ぐと見据えてくる黄緑さん。

 俺自身の内側を見守られているような、何だか不思議な眼差し。

「せっかくうちに来たんだから、ここにいる間は私と色無君は家族。それじゃダメかしら?」



          ◇



「……あらあらまぁまぁ」

 ドアの隙間から見える、店長さんと色無君のやりとり。

 昼食を持ってきてあげたけど、何だか暖かいというかいいムードというか。

部外者は顔を出しにくい空気。

 でも、どちらかといえばあの中に混ざりたいような……ううん、

そういう空気の読めない行動は慎みましょう。うん。

 という訳で、このことはさっき来た黒ちゃんには秘密にしておかないと。

さて、どうやって帰ってもらおうかな……さっきから見舞いさせろーって聞かないし。

「……ま、何とかなるよねぇ」


黄緑「……」

無「どうしたんですか?黄緑さん」

黄緑「私、そんなに年相応に見えませんか?」

無「(あっるぇー?珍しく鬱モードですかー?)」

黄緑「みなさんと同じ格好(スク水、ブルマ)していても違和感感じるとか、熟れた熟女がどう

とか言われて、もうどうしたらいいのか……」

無「えーと、黄緑さん?」

黄緑「色無さんでさえ私にだけ敬語使ってきますし……」

無「あ!これは、その……」

黄緑「いいんです、私なんてどうせ年上熟女のバブル黄緑なんです……」

無「……気にすんなよ」

黄緑「え……?」

無「周りに何て言われてても、黄緑がちゃんとした『女の子』だってこと、俺は知ってるから。それに

さっきの格好もめちゃくちゃかわいかったし」

黄緑「色無さん……私の水着姿、のぞき見てたんですかぁ……!?」

無「うお!?やっべ、ばれた!いや、それはその、何というか目に入っちゃったというか……」

黄緑「色無さん……覚悟して下さい?」(にじり)

無「ひっ!許して……!(ちゅっ)え?」

黄緑「嘘、ですよ。私を気にかけてくれたんですよね?すみません、ご心配をおかけして」

無「いや、黄緑が元気になってくれたらそれでいいんだけど、それより……」

黄緑「色無さんのそういう優しい所、好きですよ?」

無「うえぇ!?それってまさか、そういう意味!?」

黄緑「(いつでも、他人の事を第一に考える……だからあなたの事、好きになったんですよ?)」


 じゃっじゃっ……

無「黄緑、落ち葉掃除手伝おうか?」

黄緑「あら色無さん。大丈夫ですよ、もう終わりますし」

無「そっか。少し来るのが遅すぎたかな」

黄緑「ふふ、そうやって気にかけてくれただけで充分ですよ♪」

無「しかし、一人の男として何もしないでいるのもしゃくってものでな」

黄緑「それじゃあ、何をしてもらいましょうかねー♪ ……くしゅん!」

無「大丈夫か、黄緑? 風邪ひいたりしてないよな?」

黄緑「ふふ、最近よく冷えますからね、気をつけないと……」

無「ごめんな、黄緑(ぎゅっ)」

黄緑「え? え!? い、色無さん!? 困ります、こんなところで……」

無「こんな俺には、こうやって黄緑を温めてあげるぐらいしかできないから。だから……」

黄緑「(ぎゅっ)ふふ、色無さん、温かい……」

無「ご満足していただけましたか、お姫様?」

黄緑「ええ、とっても大満足です……私だけの、王子様♪」


灰「黄緑色の動物ってどんなのがいる?」

無「最初に思いつくのはカマキリかな?」

黄緑(カマキリ夫人!? お望みなら、私、あんなことでもこんなことでも……)

灰「次は?」

無「カエル」

黄緑(旦那さまが真っ直ぐお家に帰る! 私もお待ちしてます!)

灰「それじゃ三つ目は?」

無「ワニ」

黄緑(結婚記念日や誕生日には皮製品買って下さるのね。ああ、なんて幸せな私……)


黄緑「おはようございます、色無さん」

無「おはよう黄……緑?」

黄緑「なんですか?」

無「なんでミニスカ? いつもはゆったりとしたロングスカートとかなのに」

黄緑「ええと、今日は『ミニスカートの日』らしいので……やっぱり、似合いませんか?」

無「いや、すっごく似合っててかわいいよ、黄緑」

黄緑「ありがとうございます! そう言ってくれると、すごく嬉しいです♪」

無(似合ってるし、すごくかわいいんだが、何か、何か……!)

灰「なになに? なんだか犯罪の匂いがするって?」

無「人の心読むなーー!」

灰「前見た方がいいと思うよ」

黄緑「色無さん?(ずごごごごごごごごごご……)」

無「はっ!? いや俺はそんなこと思っていませんよ!? 灰がかってに……」

黄緑「色無さん? 今日の晩ご飯、何がいいですか?」

無「(怖っ! 下手に刺激しないほうがいいな)……ええと、食べられれば、何でもいいです」

黄緑「そうですか♪ なら色無さんだけ、今日から一ヶ月麦ご飯だけにしますね♪」

無「ノーーーーーー!?」


黄緑「あなた、おいくつなんですか? ……まあ、もういい歳じゃないですか。いつまでもご両親に甘えてちゃだめだって、本当は自分でも分かってるんでしょう?」

無「なあ、何か深刻そうな話してるけど、いったい誰と電話してるんだ、黄緑は?」

灰「ん〜? さあ。脇できいてただけだからよく分かんないけど、どうもイタズラ電話っぽいよ」

無「イタズラ電話!?」

黄緑「……いいえ、そんなことありません。あなたにもきっと社会のためにできることがあるはずです。今は少しお休みしてるだけですよ」

灰「よくある変態電話だったみたいで、下着の色とか聞かれて最初は黄緑もカンカンに怒ってたけど、だんだん人生相談みたくなってきて、かれこれ三十分は話してるよ」

無「なんとまあ……人がいいというか、黄緑らしいというか……」

黄緑「そう! その意気です! それじゃ、私と約束して下さい。もうこんなイタズラしちゃだめですよ。分かりましたか? ……はい、それじゃあ頑張って下さいね」

 後日

無「ただいまー」

黄緑「……それは確かに彼女さんも悪いと思いますけど……そこを許してあげる懐の広さが求められてるんですよ、きっと」

無「あれ、また電話か」

黄緑「ええ、あなたから折れてあげれば、彼女さんも謝ってくれますよ。何ごとも譲り合いです。……はい、じゃあお幸せに。……ふう」

無「ただいま、黄緑。今日は誰から?」

黄緑「あら、お帰りなさい、色無さん。いえ、それが……またイタズラ電話だったんですけど、途中からおつきあいしている人との仲直りの相談をされて」

無「またイタズラ!? 最近多くないか? 週に数回かかってきてるよね。みんなケータイ持ってるからあんまり使わないし、寮の電話番号変えた方がいいかもな」

黄緑「そうですねえ……人の相談に乗るのは嫌いじゃないので、そんなに困ってはいないんですけど……ちょっと変なんですよね」

無「まあイタズラ電話なんて大なり小なり変なものだろうけど……何が変なんだ?」

黄緑「電話がかかってくるのは、決まって私が暇なときですし……お説教すると、なんだか相手の方は喜んでるみたいなんですよね」

灰「……色無。ちょっと、ちょっと来て」

無「灰? 何か用か?」

灰「いいから。いいからちょっと」

無「お、おい! なんだよ!」

無「なんだよ、無理矢理引っ張ってきて」

灰「これ。これ見て」

無「なんだ? どっかのウェブサイトか……って、なんじゃこりゃあ!! 『非公認ファンクラブサイト 黄緑さんに叱られ隊』!? あっ、寮の電話番号晒されてるじゃねーか!」

灰「私も昨日見つけたんだけどさあ。どうも最初のイタ電かけてきた奴がサイト立ち上げたみたいだね。カウンターすごい回っててびっくりしたよ」

無「こりゃ警察に届けた方がいいか」

灰「ん〜、まあ放置してても大丈夫そうだけどね。私はクラックしたけど、完全会員制だし。ほら、ここ見て。会員規則があるでしょ」

無「『1.リアル突撃しないこと 2.黄緑さんの暇な時間(夕食を作り終えたころが望ましい)に電話すること 3.一人一回、順番を守ること』……なんて紳士的な変態どもだ」

灰「それで笑えるのが、掲示板のこのスレなんだよ。みんなで黄緑さんがどんな人か妄想してるんだけど……」

無「『三十代の未亡人』派と『四十代で三人の未婚の母』派に別れて論争してるのか……灰、絶対このサイト、黄緑本人に見せるなよ」

灰「ねえ色無。うちのお姉ちゃんとか青ちゃんとかで似たようなサイト作ったら、ちょっとした小遣い稼ぎくらいできないかな?」

無「絶対やるなよ! 絶対だぞ! 絶対だめだからな!」


先生「黄緑、そろそろ進路は決まったか?」

黄緑「はい。家政科のある大学に行こうと思ってます」

先生「そうか。そりゃ残念だな……」

黄緑「???」

先生「実はウチの甥っ子が三十半ばになってもまだ独身でなぁ」

黄緑「はい?」

先生「黄緑だったら釣り合いもとれてちょうどいい——はっ!?」

黄緑「先生。私、まだ十七歳なんですけど……シクシク」


無「あれ? 黄緑、今から買い物?」

黄緑「ええ、今日は三時から月に一度のタイムセールがあるので、隣町のスーパーに行くんです」

無「せめて買い物くらい朱色さんが行けばいいのに……てか、隣町って言ってもチャリで十五分くらいだろ? まだ二時だし、ちょっと早くないか?」

黄緑「いえ、あの……歩いて行くので……」

無「歩いて!? いや、さすがに歩くとかなりあるぞ? 荷物だって多くなるだろうし、朱色さんのママチャリ借りてけよ」

黄緑「いいんです、歩くの好きですから」

無「……」

黄緑「な、なんですか?」

無「そういえば黄緑だけ、自分のチャリ持ってないよな。寮の周りにはなんにもないから、どこに行くにも自転車なしじゃ不便だってのに」

黄緑「だ、だから歩くのが好きなんですってば」

無「……もしかして……」

黄緑「うう……」

黄緑「絶対、絶対離さないでくださいね!! 絶対ですよ!!」

無「分かった、分かったからちゃんと前見て! ほら、ハンドルふらふらさせないで!」

赤「うわー……あんなに慌ててる黄緑、初めて見たよ、ボク」

青「意外だったわね。勉強もスポーツも上位クラス、家事全般なら他に並ぶ者のない黄緑が、まさか自転車に乗れないなんて」

紫「ヘルメットに肘当て、膝当てに脛当て……すごいカッコ。どこであんなの揃えてきたんだろ」

黄緑「は、恥ずかしいからあんまり見ないでください!」

朱「おーい、自転車の練習もいいけど、飯はどーすんだよー」

緑「……普通、寮母の朱色さんが作るのが当然かと」

朱「ちぇ、しゃーねえなあ」

無「ほら、もう一回。さすがに高校生にもなってチャリに乗れないなんて、人生の半分くらいは損してるぞ」

黄緑「そ、そんなにウェイト高くないです。それに、私だってほんとは乗れるんですよ……補助輪つきなら」

無「ママチャリに補助輪つきはないから。ほら、頑張れ。乗れるようになったら、みんなでサイクリングにでも行こうぜ」

黄緑「……二人で行ってくれるなら、頑張ります」

無「……分かったよ」

黄緑「ふふ、約束ですよ。そのときはお弁当作りますね。私、この近くで行ってみたいところが——」

無「はいはい、ともかくまずは乗れるようになってから、だろ。はい、次はあの木まで行って帰ってきて!」

黄緑「……ふぇ〜ん……」


無「黄緑さん、焚き火してるんですか? 手伝いますよ」

黄緑「燻製してるんです。スモークサーモンといぶりがっこ」

無「寮のオカズ用?」

黄緑「ええ。買うといいお値段しちゃいますからね」

無「でも大半は朱色さんの酒のツマミにされるのが目に見えてるけど」

黄緑「そうなんですよねぇ。でも、冷蔵庫に鍵かけるような真似はしたくないですし」

無「群青さんに頼んで寮の金庫に入れてもらいます?」

黄緑「それも考えたんですけどね、金庫の中が臭くなっちゃいますよ」


無「すごい脂の匂いがするけど、何作ってるんですか?」

黄緑「ラードですよ」

無「ラード?」

黄緑「ええ。コロッケ揚げたり、野菜炒めを作るときに使う油なんです」

無「うわぁ、本格的だなぁ」

黄緑「そんなたいしたことじゃないですよ」

無「どうやって作るんです?」

黄緑「中華鍋に少量のお水に入れて、沸いたら切った豚の脂身を入れるんです」

無「へぇ〜」

黄緑「きれいに溶けたら焦げ目を網で漉して、あとは冷ますだけです」

無「それでウチで作ったコロッケよりも寮のコロッケの方が美味しいんだ」

黄緑「あらあら、うふふふ。ありがとうございます」


赤「今日の夕飯何かな〜?」

青「鯖の塩焼きと出汁巻き玉子とポテトサラダ」

赤「ふ〜んって、僕と色無の分だけお魚の代わりにコロッケ!?」

無「本当だ! 玉子焼きもサラダもみんな分のより少ないですよ!」

青「全く黄緑の気配りと苦労も知らないで」

黒「だから鈍感って言われるのよ」

赤・無「???」

黄緑「運動量が多い赤ちゃんと、体の大きな色無さんはカロリーの消費量が違いますからね」

無「確かにそうですね」

黄緑「でも、寮費は同額ですから、不公平なのは『めー』でしょ?」

無「そりゃ、そうだ」

黄緑「ほぼ同じ予算になるようにお芋と焼き鯖のコロッケにしてみました」

無「なるほど……」

黄緑「コロッケを作るときに玉子とお芋を使いましたから……」

無「その分だけサラダと玉子焼きは小さいわけですね?」

黄緑「ええ、そうです」

赤「私が男だったら黄緑に即刻プロポーズしちゃうんだけどなぁ〜」

黄緑「好きな人がいるからお断りしちゃいますけどね」

無「へぇ、そうなんぁ。でも、同じ男として実に羨ましい限りですよ!」

黄緑「あらあら、うふふふ」

黒「ほんと、どこまで鈍感な男なのかしら!?」

無「???」


 黄緑が新妻だったら

無「ただいま〜」

黄緑「おかえりなさい。お食事とお風呂、どちらにします?」

無「それじゃ、ご飯を。今日のメニューは?」

黄緑「レバニラ炒めとウナギの肝焼きとスッポンスープですよ」

無「……が、頑張ります」


青「キャー、へ、蛇!」

黄緑「あらあら、これはいい蝮ですねぇ。それじゃ、えい!」(ドス……石を投げて頭を砕く音!)

青「き、き、き、黄緑、何するの?」

黄緑「後で牙抜いてから蝮酒にするの。朱色さ〜ん、まだ焼酎ありましたよね?」

 翌日

青「きゃー、ま、また蛇が!」

黄緑「なぁんだ、青大将かぁ」

青「き、き、き、黄緑。また焼酎に漬けるの?」

黄緑「青大将なんか煮ても焼いても漬けても美味しくないわよ」

青「そ、それじゃ!?」

黄緑「きゃぁ〜! 助けて、色無さぁ〜ん!」


店主「黄緑ちゃん、お願いがあるんだけどさぁ」

黄緑「どうしたんです?」

店主「夕方から葬式行くの忘れててさぁ。残りの豆腐まとめて買ってくれない?」

黄緑「でも〜、30丁くらいありますよ〜」

店主「こっちも無理言ってんだから、税込1000円でいいよ!」

黄緑「それじゃ、頂きます!」

店主「助かったよ〜。毎度あり〜♪」

黄緑「と、言うわけで……」

朱「夕飯のおかずはあんかけ豆腐に豆腐の白和えに揚げ出し豆腐という豆腐責めかぁ!?」

無「赤とか灰色だったら、全部冷や奴で出してますよ」

朱「豆腐は高タンパク・低脂肪だから、美容と健康にはいいんだけどねぇ」

無「あそこの豆腐大きくて美味いから、税込1000円で31丁買えたら何も文句言えませんよ」

黄緑「ごめんなさい……」

無「まぁまぁ、とりあえずこれで全部片付いたんですよね?」

黄緑「残りは薄く切って揚げておいたので、明日はいなり寿司にしようかと……」


赤「黄緑〜、今夜はお肉が食べたいよ〜」

黄「そうそう。ビーフにポークにチキンにマトン!」

黒「あんたたちは肉ばっかり食べてるから馬鹿なのよ」

青「そうそう。日本人ならタンパク質のメインはお魚!」

赤「お肉食べないと力が出ないよ〜♪」

青「ア○パンマンみたいなこと言わないの!」

黄「牛・豚・鶏・羊路線が否定されたら、私はどうすればいいの?」

黒「白いご飯にカレー粉ふりかけて食べればいいんじゃないの?」

白「黒ちゃん、さすがにそれはちょっと……」

紫「お肉食べないと大きくなれないよ!」

桃「あら、私はお魚の方が好きなんだけどなぁ」

紫「う、うるさい。このオッパイ星人!」

 ギャース! ギャース!

黄緑「喧嘩するなら、今夜のメインはまた豆腐にしちゃいましょうか?」

他色「それはちょっと……」


『長期戦略』

無「日曜に1人でプラプラ歩いてみたいんで、お弁当作ってもらえます?」

黄緑「ええ喜んで。焼き魚と玉子焼きとカマボコ、あと野菜の煮物ぐらいでいいですか?」

無「うわぁ。そりゃ豪勢だ! そうだ、ご飯はお握りにしてもらえます!?」

黄緑「それじゃ中身は梅干しとオカカにしましょうね〜」

無「ああ、今から日曜が待ち遠しいなぁ〜♪」

黄緑「あらあら、うふふふ」

黄「ちょいと、旦那、旦那!」

無「何?」

黄「お弁当作ってあげるからさぁ。私も一緒に連れていってよ〜♪」

無「どうせカレーだろ? 冷めると美味くないからいらない」

黄「昭和どころか明治の匂いがする黄緑ちゃんのお弁当の方がいいの?」

無「弁当のおかずには焼き魚・玉子焼き・カマボコってのが標準仕様だろ?」

黄「うわぁぁぁぁああん、色無が黄緑ちゃんの糠味噌教に洗脳されてる〜!」

黄緑「既に舌と胃袋を支配した以上、あと(色無さん)はどうにでも操れるわね……うふふふ」


『少年と小さい色鉛筆』

「おはようございます、色無くん。こんな朝早くにごめんなさいね?」

 ……はあーあ、やっぱり休みの朝に慣れない早起きなんてするもんじゃないよな。俺としてはすっかり覚醒してるつもりだったんだけど、どうにもまだ寝ぼけてるみたいだ。

「あの、お願いがあって……朝ごはんの用意を手伝ってほしいんですけど……あのー、色無くん、聞いてます?」

 しっかし寝ぼけてるにしちゃえらく視界はクリアだし、意識レベルもかなり高いような気もするな。おかげでこんな、いるはずのない存在がはっきり認識できて……ああそうかわかった、俺、実は起きてないんだわ。いかにもリアルな夢見てますってオチ? 気の利かない脳みそだよな、どうせ夢ならもっと夢のある夢を見せろってーの。

「あ、色無くんもしかして、これはマボロシだとか、俺は実はまだ寝てるんだとか考えてるところですね? ふふふ、ところが残念、これは間違いなく現実ですよ?」

 あーららそう来るわけ? 悪いけど俺、そんな言葉に動じるほど若くないんだよねぇ。こういう妙に現実感がある夢の登場人物の定型文っつーのそれ? 俺もう正直ウンザリなわけ、そういう物言い。

「もうっ、わからず屋さんですねぇ、色無くんは。じゃあ、ちょっと失礼しますね? えいっ!」

「うごふっ!?」

 ちょ、なんてヤツだ! 『ちょっと失礼』じゃねーだろ! 思いっきり脛に蹴り入れてきやがった! しかも回し蹴りって、いつものおしとやかさはどこに捨ててきたんだよああったく、くっそーいってー……。

 その痛みが逆に俺を冷静にしてくれたのか、俺は自分でも意識しないうちにこの事実を受け入れてしまっていた。

 『いつものおしとやかさ』、か。なかなか痛みの引かない脛をさすりながら、俺はそんな言葉が自分の中から湧き出たことの意味を考え……ようと思ったけど、すぐに中断した。あまりに野暮だ。もう答えはある。今、俺の目の前に。

「あらあら……じゃなくってその、ごめんなさい! 加減がわからなくて……痛みますか?」

「当たり前だろーよ……ひそかにかかとで蹴りやがって。加減がどうこうってレベルじゃないぞ」

 とりあえず脛がヘコんだりしてないことを確認して、ひねりのない悪態をこぼしながら、俺はゆっくりと顔を上げた。

 今、情けなくもすねを抱えるようにしゃがみこんでいる俺。そんな状態の俺が顔を上げたのとほとんど変わらない高さにある、俺を一撃でダウンさせた少女の顔。彼女もまたしゃがみこんでいる……なら別におかしくないけど、そういうわけでもない。何より俺の知ってるこの子は、実年齢よりもずっと大人びて見える顔立ちだった。

 それが今はと言えば。今はと言えば——

「ああいやでも、たいしたことないよ。いや、いい蹴りだった。ツボを押さえた蹴りだったんだきっと。もうだいじょぶ。ああほら、そんな顔すんな黄緑! そら、なんだったっけ、朝飯の用意だったか?」

「あら、あっさり認めてくれるんですね? ふふふ、蹴ってみた甲斐がありました。でも本当にごめんなさい。あ、『いたいのいたいのとんでけ』しましょうか?」

「いや、いいから。ほんとに大丈夫だから。まあなあ、これだけ痛くて夢ってわけないだろうし、こんな痛みを受けてまだ寝ぼけてるってなったら、俺どんだけマゾ体質なんだってことになるしな。何があったか知らないけど、見たまんま受け入れるしかないのかなって」

 どうしてそうなったのか、今は聞かない。きっと、簡単にわかることでもない。今の俺にはっきりと理解できることは、朝早くから謎の幼女が俺に朝飯の手伝いをさせに来たこと、その幼女は、どうも間違いなくわが寮のみんなのお母さん、黄緑だということ。今はそれさえつかんでおけば、ことは勝手に進んでくれるはずだから。

「うんうん。男の子は柔軟じゃなきゃね。じゃあ納得してくれたことだし、朝ごはんの用意お手伝いしてくださいね? さあ、台所へごー、ですよ」

 「はいはい行きましょう行きましょう……って、ゴーとか言っときながらなんで立ち往生してんだ?」

 「えーっとですねぇ、せっかく私、小さくなってしまいましたので」

 ちっさい黄緑はそう言いながら、そのすっかり縮んでしまった体、短くなってしまった腕を目一杯、俺に向けて伸ばしてくる。昨日よりもずいぶん肉感の増したほっぺを少し赤くして、あどけないのに、すでに上品さを感じる微笑を浮かべて。俺が知っていた黄緑とは何もかも違う、幼子みんなが持つ愛くるしさ。いやいやそんなことより、これはなんかの意思表示だろうけど、一体なんだろ? そんな俺の『?』を察したらしい黄緑は、がっかりもうんざりもせず、朗らかな微笑のままで、その仕草の持つ意味を伝えてきた。

「だっこ、してください」

「ん?」

「だっこです」 

「あ、あーあーだっこね。えーできるかなそんな……って、何? だ、だだだだだだだだだだっこぉ!? 」

「『だ』は一個でいいんですよ? だっこ。いいですか?」

「だ、だっこ」

「それじゃ『駄々っ子』です。だ・っ・こ。いいですか?」

「……だ・っ・こ」

「うん、よくできました。じゃ、それしてください。はい、だっこ」

「すみません、やり方がわかりません」

「んもー。色無くんはいつお父さんになってもおかしくないんだから、ちゃんと勉強しておかないとダメですよ? そうですねぇ、とりあえず、ガッといってバババーッでいいんじゃないですか」

「……ガッでバババーッ、とね。ほんっとにいいんだな? そのニュアンスでやっちゃうからな?」

「はい、お願いします。だっこだっこ」

 いいのかよそんなんで。語彙を失いつつあるおばちゃんかお前は。心の中ではそうツッコみつつも、とりあえずそういうノリで突っ走れば、恥ずかしさは抑えられそうな気もした。黄緑は意外に頑固だし、ここで俺がだっこを拒否し続ける以上、きっとテコでも動かない気がする。そうなると大変だ。朝飯はいつまでたってもできず、そのことで寮の全員から肉体的精神的な暴力をふるわれ、そして俺は鬱になる。鉄板の方程式だ。

「し、しゃーねーな。じゃあ、バッでガガガーッとだっこするぞ」

「違います。ガッでバババーッですからね。なんかそれだと、すごく危うい感じがします」

 あえて危うさで語るならどっちもどっちだぞ。でも、こんなくだらない会話によって、俺はだっこへの緊張感とか、羞恥心を少しずつ解消できていた。余計なことに気づかなければ、きっとこのまますんなりだっこできたはずだった。

「あ、あれ? 黄緑お前、パジャマのズボンは?」

「ああ、そうそう。さすがにウエストのサイズが違いすぎるみたいで、朝起きたら脱げてました。でも大丈夫でしょう? シャツでしっかり隠れてますし」

 どの角度から見た場合、この状況が大丈夫なのかがさっぱりわからない。むしろあらゆる意味でアウトだ。それでも、もう後には引けない。「だっこするぞ」って言ってしまったし、一度言質を取った黄緑は、通常の3倍は頑固になる。ああ、もう考えすぎるな俺。ガッといってガガガーッとやればいいんだ。それだけだ。

 覚悟は決まった。そうなればもう、グズってる俺じゃない。『ガッ』と大地を蹴り、俺は黄緑に一気に接近。ゼロ距離になったところで、右腕を黄緑の背中に『ガ』と回し、続いて左腕をその少し下、腰のあたりにこれまた『ガ』、そして最後の仕上げとばかりに、一気呵成に『ガーッ』と立ち上がる! ふう、なんと他愛のない。俺はこんなことにビビッてたってのか。つーか、意外に重いのな。しっかり支えてやんないと。

「あらあら色無くんたら。いくら相手がちっちゃい子だからって、断りもなく女の子のお尻を触るなんて。最低ですねぇ」

 でぇぇぇぇっ!? しかたないじゃん! しかたないじゃんよお! 落ちちゃうじゃんかよおお! やっぱだっこなんてできるかよおお!


黄緑(とうとう来てしまったわ、この日が……)

 きみどりさんじゅうななさい! 

黄緑(だ、大丈夫! 大丈夫よ! 普段通り、普段通りにしていれば!)

赤「黄緑さんじゅうななさいおめでとー!」

黄緑「ブレストファイヤー!!!!!!」

 ちゅどーん

黄緑「はぁ、はあ、……ってやってしまったわ! ごめんなさい!」



黄緑(赤ちゃんは比較的人畜無害な方なのに、私ったら)

黄「おーっす! 黄緑! 誕生日おめでとう!」

黄緑「あ、ありがとう」

桃「おめでとう」

橙「黄緑さんもじゅうななさいか」

黄「やめろよ橙wwwwwそれじゃさんじゅうななさいって間違え——」

黄緑「ゲッタービィィィーーーム!!!!!」

 ちゅどーん



黄緑(今のは流石に黄色ちゃんに責任があるわ! うん! そうよ!)

水「黄緑さぁーん!」

白「黄緑さん! 誕生日おめでとう」

黄緑「ありがとう」

白「今日は黄緑さんじゅうななさいを祝ってみんなでご飯つくるからね」

水「き、黄緑さんじゅうななさい、おめでとうございます……」

白「黄緑さん……?」

黄緑「ぐすっ……ありがとう」

水「だからって血の涙を流さなくても……」



黄緑(仕方ないわ、あの二人は悪気はない……はずよ! そこまで疑心暗鬼になっちゃ)

無「黄緑さん、誕生日おめでとう」

黄緑「ありがとう」

男「黄緑さん誕生日だったのか。あ! 黄緑さんじゅうななさい! だけど17歳! なぁんつっ——」

黄緑「真・カイザーストナー超電磁無限断空ドリルインパクトぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 ピカッ



黄緑(大体なんなの! なんでみんな私に一目置いてるの? なんで『さん』なの? その時点でおかしいのよ!)

紫「おーい! 黄緑ー!」

黄緑「あら? 紫ちゃん、どうしたの?」

紫「きょ、今日は黄緑の誕生日だろ? おめでとう」

黄緑「ありがとう」

紫「それにかこつけて『37歳』とか馬鹿にされるだろうけど、あまりイライラするなよ」

黄緑「……う、うん」

紫「じゃーなー。今晩は期待しろよー」



黄緑「……ちくしょう、ちっくしょぉぉぉぉーーーーう!!!」







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Last-modified: 2012-10-21 (日) 04:45:56